真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「神つてる快感 絶頂うねりびらき」(2017/制作:ナベシネマ/提供:オーピー映画/監督:渡邊元嗣/脚本:波路遥/撮影・照明:飯岡聖英/編集:酒井正次/助監督:永井卓爾/監督助手:小関裕次郎/撮影助手:宮原かおり・西村翔/照明助手:広瀬寛巳/選曲:徳永由紀子/効果:梅沢身知子/スチール:津田一郎/録音:シネキャビン/仕上げ:東映ラボ・テック/出演:あかね葵・横山みれい・桜ちなみ・小滝正大・ケイチャン・津田篤)。
 作家志望の東光(津田)が、のちに当人曰くオリンピック(東京/2020年)までの完成を目指す長篇小説『破壊』を書き始めて、“それは”と最初の三文字を打つたところで暫し長考。その内夕方五時の目覚ましが鳴り、東はバーテンダーを務める「ステージ・ドアー」に出勤。客が来る前に店の酒を飲み干す勢ひの、どエロいママ・日暮燿子(トメ予想を覆した横山みれい)の顔見せ噛ませ、大学の同期・白鳥かなえ(桜)がゐる縁で潜り込んだ何処ぞの編集部。尤も世間はさうさう甘くなく、没を被弾した東は、祭囃子流れる中帰途の草叢に原稿の束を放り捨てる。ところが放り捨てると祭囃子が止み、風に吹かれ足元に舞つた幟で、東が劇中用語では社―寧ろ祠に近い―の、人に忘れられ汚れた小さな女神(をんながみ)像を拭き清めると、再び祭囃子回復。家に帰ればデータがあんだろといふツッコミはさて措き、気を取り直した東が一旦捨てた原稿を回収、女神像にタイトル・イン。女の裸も見せない割に、アバンが随分と潤沢に時間を使ふ。
 内縁の夫が服役中の燿子に捕食された東の、ステドからの帰路。林中の神社に通りがかつたタイミングで、胸元に花もあしらつたワンピース・ドレスのあかね葵が、一目散に東めがけて走つて来るや抱きつきチュー、しかも一回リフレインして都合二度。但しそこはフィニッシュもう一回の、画竜点睛を欠いてもゐまいか。兎も角、あるいは兎に角。追はれてゐるだ匿つてだと称する星茜(あかね)は、そのまゝ東が暮らすカマスタに転がり込む。ドロップアウト・ミーツ・ガール、その一点突破でときめけたなら、どんなに幸福であつたらう。
 配役残り、編集部内に見切れる広瀬寛巳に続いて小滝正大が、かなえに対する下心を隠さうともしない編集長・加賀美克巳。そしてハット×着流し×グラサンがサマになるケイチャンが、近所八股の結婚詐欺で臭い飯を食つてゐた燿子内縁の夫・夜見野将人。ところで広瀬寛巳はかれこれ三十年、助手なり内トラのポジションで第一線に止(とど)まつてゐる。何だかんだで、この人が死ぬまでピンクは生き続ける。逆からいふと、広瀬寛巳とピンク映画の命運は連動してゐるのではないかとすら思へて来た。
 小滝正大に施された何時も通りのアイコニックな悪魔メイクに、例によつての神と悪魔のかと思ひきや、神々のナベシネマであつた渡邊元嗣2017年第二作。で、当サイトにとつては小屋だけで達成した無冠の帝王・新田栄、DMMの下駄も大分履き新作を狙ひ撃つた浜野佐知に次ぐ、三人目となる感想百本のハンドレッド戦。今回は必ずしも狙ひ撃つた訳ではなく、DMMに眠る未見作の数にハンドレッドに届くと気づき、狙ふといふよりは合はせた格好。同じ条件が池島ゆたかでも成立し、深町章も今からDMMを掘り進んで辿り着くのは十二分に可能だが、目下意識的に目指してゐるのは、今後の新作だけで残り十一本詰めなければならない関根和美。バラ売りを買ふから、DMMに旧作をメキメキ新着させて呉れると非常に有り難いが、さういふ酔狂ないし素頓狂な需要の有無に関しては知らん。
 他愛のない閑話休題、映画の中身に話を戻すと。どうやら凡そ二十年続いた―あるいは育て育てられた―座付脚本家・山崎浩治との、旦々舎やセメントマッチをも超える安定を感じさせたコンビは残念ながら解消したのか、脚本は前二作の増田貴彦挿んで、2015年第二作「女忍者 潮吹き忍法帖」(主演:つぼみ)以来の波路遥。尤も、この期に及んで平柳益実の世紀を跨いだ帰還とも考へ難い以前に、出来からして甚だ怪しいゆゑ21st Century 波路遥は渡邊元嗣自身の変名なのではあるまいか?と直截に勘繰りつつ、端的に片付けると、これ、ナベシネマ厳しかねえか?
 満足に機能したのは、眼力が些か怖い横山みれいのアシストも借り、ex.けーすけのケイチャンが正体不明の突破に近い説得力で通す八百万の超風呂敷程度。それを通してのけただけで、流石ではあるのだけれど。アイコだロンリー・ガイだ結界オーライだと枝葉の小ネタをこどごとくスッ外した上、人の心に届く言葉を軸に据ゑた主眼は、ピンク初陣の主演女優のみならず、いい加減齢のとり方も覚えて貰はないと苦しい津田篤も如何せん硬く、終始一貫して心許ないといふかぎこちない。それともしかして、ツダアツは満足に走れない?挙句の果てに、裸映画としても弱いのが詰み処。序盤で横山みれいが飛び込んでは来るものの、脱ぎ込みであかね葵の濡れ場初戦が尺の折返し前後、KAGAMIの覚醒を待たざるを得ない構成もあれ、桜ちなみは大概残りも押し迫つた五十分付近とかいふペース配分は大いに考へもの。さして展開を繋ぐでなく、三番手を放り込んでゐる場合なのか。あかね葵は終盤時間差の二連戦で猛スパートを仕掛けるとはいへ、そこでもパチンコの大当たり画面感覚の、木に竹を接いだ大技が“うねりびらく”疑問手。バカをやりさへすれば、ナベシネマを観てゐる人間は脊髄で折り返して喜ぶとでもいつたつもりならば、山内大輔に於けるスラッシュ同様、それは観客を馬鹿にするにもほどがある。要は、前半の女の裸に頼らない―ほぼ―純正アイドル映画パートでノレるか否かが雌雄を別つにせよ、だとすると、茜がスローモーションで駆けて来るファースト・ショット。まさか実際に裸足で木々の間を走らせたのか足元が気になつて気になつて仕方ないらしく、あかね葵が始終下を向いてしまつてゐるのが地味でない致命傷。折角の、カメラを通して客席を撃ち抜く一撃必殺絶好の好機であつたのに。半公式ながら引退した新田栄、第158回芥川賞候補作『雪子さんの足音』(木村紅美)の映画化を発表したばかりの浜野佐知とは異なり、渡邊元嗣は今後も大蔵本隊のエース格としてキャリアを積み重ねて行く、筈。年末封切りの正月薔薇族を現時点での最後に、第一作の話が未だ聞こえて来ない2018年。我々は遂に、長く続いたナベ・ゴールデン・エイジ第二章(2006~)の終焉を目撃する羽目となるのか、俄かに藪から棒な風雲急を告げて来た。


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渡邊監督と津田さん (xyz)
2018-04-29 09:53:23
 津田さんは、数年前のバイク事故による脚の骨折の影響があるのかもしれないですねー。渡邊監督は4月24日mixi日誌に次回作の話がちらっと登場します。
 
 
 
ネクストナベ (ドロップアウト@管理人)
2018-04-30 23:53:20
 外様もワラワラ湧いて来るし、なかなか厳しいところですね。荒木太郎はどうしてるんだろ?
 
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