「団鬼六 蛇の穴」(昭和58/製作:鬼プロダクション/配給:株式会社にっかつ/監督:藤井克彦/脚本:佐伯俊道/原作:団鬼六『蛇の穴』《東京三世社刊》/企画:奥村幸士/撮影:鈴木耕一/照明:島田忠彦/編集:菊池純一/助監督:釜田千秋・高原秀和/選曲:白井多美雄/製作担当:川崎隆/緊縛指導:賀山茂/出演:志麻いづみ・中原潤・大杉漣・松井美世子・水木薫・花真衣・吉川遊土・荻原賢三・江藤漢)。出演者中、荻原賢三と江藤漢は本篇クレジットのみ。撮影部助手その他諸々力尽きる。配給に関しては事実上“提供:Xces Film”か。
浴室にて、体内に放たれた男の精を執拗に洗ひ流す志麻いづみ。一方、吊るところから自らこなすダイナミックな自縛ショウを、花真衣が見事に繰り広げるクラブ。固唾を呑んで見守る、中原潤を押さへてタイトル・イン。
鎌倉の旧家・立花家。家人は何代目かの鋭一(中原)とその妻・紫雨子(志麻)に、先代から立花家に仕へるお手伝ひの文江(吉川)。紫雨子は夫婦生活自体を拒みこそしないとはいへ、快楽を受け容れようとはせず、事後もこれ見よがしに風呂へと走つた。紫雨子の従姉妹・夏季(水木)の顔見せを挿んで、紫雨子の態度に業を煮やした鋭一は、花真衣のショウで見初めた縄師・上田武志(大杉)と情婦・真矢(松井)を立花家に招聘。真矢に対する調教・陵辱を紫雨子に見せつけ性的な開花を図る、冷静に考へてみると出鱈目にしか思へない正しく荒療治に出る。煌く劇中世間の狭さも爆裂し、過去に上田とその仲間に輪姦された夏季までもが立花家に参戦する中、フォーマットに忠実に紫雨子はあれよあれよと被虐に翻弄される。ところで、鋭一は筆卸もして貰つた文江との関係を現在も継続させ、しかも鋭一が紫雨子と結婚したのは、別に紫雨子の心なり体に惚れたからではなく、亡母似の長い髪に惹かれただけとのぞんざいな理由に過ぎなかつた。
前年の「団鬼六 黒髪縄夫人」(昭和57/監督:渡辺護/脚本:団鬼六/主演:志麻いづみ/未見)に続く、鬼六先生率ゐる鬼プロ製作によるロマンポルノ第二弾。昭和40年代中盤には四捨五入して十本のピンク映画を製作した鬼プロではあるが、どうやら今作が最後の映画製作となるやうだ。鮮烈なアクロバットで花真衣が豪快に火蓋を切り、タイプの異なる松井美世子と水木薫に対し真矢はサドマゾ夏季はレイプ。趣向も違(たが)へた嬲りのバラエティで外堀を入念に埋めた上で、満を辞して責め場に志麻いづみ降臨、SM裸映画としての構成は文句ない。反面、そもそも一件の発端たる、立花夫妻の不仲の原因そのものは、蓋を開けてみれば呆気ないほどに変哲ない。ものの、吊り橋の上で志麻いづみの決定力が火を噴く名場面が、覚束なくも思へた展開を頑丈に固定する。主演女優の貫禄と演出の充実と分厚い撮影、なるほど当時の一戦級のロマンポルノに、生半可なピンク映画は太刀打ちし難い歴然は認めざるも得まい。そこから手の平を返してハッピー・エンドで畳み込んでもいいものを、強引に紫雨子に俗世を捨てさせるまでに至るフィナーレは、ある意味清々しい。
配役残り荻原賢三と江藤漢は、全裸緊縛された状態の紫雨子の前に飛び込んで来る、刑事二人組かとも推測したが、ウィキペディアによると江藤漢(現:江藤漢斉)は、父親が首吊り自殺したゆゑ縄の軋む音にトラウマを持つ紫雨子を文字通り立ち往生させる、滑車を用ゐ何か大きな荷物を窓から搬入中の一団の、トラックの運転手らしい。それにしても縄の軋む音にトラウマを持つとは、これまた画期的に穿つた鬼六映画のヒロイン像ではある。
もう一点、今回発見したのが、順序からいふと逆だが吉川遊土はかなり酒井あずさにソックリである。
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