真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「和服貞淑妻  ‐襦袢を濡らす‐」(2001『和服熟女 三十路のさかり』の2008年旧作改題版/製作:フィルム・ハウス/提供:Xces Film/監督:工藤雅典/脚本:橘満八・工藤雅典/企画:稲山悌二/プロデューサー:伍代俊介/撮影:井上明夫/照明:黒田紀彦/録音:シネキャビン/編集:金子尚樹/音楽:たつのすけ/助監督:竹洞哲也/監督助手:伊藤一平/撮影助手:林雅彦/照明助手:佐渡よしみ/メイク:パルティール/スチール:本田あきら・伊藤久裕/タイトル:道川昭/現像:東映化学/出演:沢木まゆみ・葉月蛍・佐々木基子・なかみつせいじ・竹本泰志・野上正義)。竹本泰志は、この当時は未だ竹本泰史ではないのかとも事前には思つたものが、よくよく調べてみると、泰史と泰志を併用する、ちやうど過渡期に当たるやうだ。
 文学界の重鎮・軍司三郎(野上)の屋敷を訪れた新任編集者の坂崎陽介(なかみつ)は驚く、軍司の妻が、学生時代の恋人・奈津子(沢木)であつたのだ。坂崎は妻・加奈(葉月)とは倦怠期すら通り過ぎ、一方奈津子は奈津子で、軍司自身は頑として認めぬ、歳の遠く離れた夫の隠せぬ老いから来る衰へに、不満を感じ始めてもゐた。初めは近付かうとする坂崎を奈津子がたしなめつつ、二人は微妙な距離感を保つ。ある日風呂場で軍司が倒れ、そのことを契機に、奈津子と坂崎は終に一線を越えてしまふ。束の間の、愛欲に任せる満ち足りた日々。軍司が回復した時、奈津子の哀願に気圧され、坂崎は駆け落ちする。
 佐々木基子は、奈津子の和装に欲情した坂崎が着物の女をといふリクエストで呼ぶ、生まれは関西のホテトル嬢・晴香。竹本泰志は、加奈の間男・浅野拓也。酒はビールしか飲まない坂崎を嘲笑するが、自らはまるで発泡酒か酎ハイがお似合ひの、更なるどうしやうもない安さを炸裂させる。
 お話としては定番中の定番ともいへるものながら、その割にと評すべきかだからこそといふべきなのかは微妙だが、あれやこれやの欠如が目立ち続ける。“綺麗な大根”沢木まゆみには、工藤雅典が志向だけならばした節は窺へなくもない、メロドラマのヒロインとしての重厚感は些か望むべくもなく、主演女優の資質をカバーする手数のあれやこれやも乏しい。一旦は軍司邸から手と手を取り飛び出したはいいものの、結局奈津子に幻滅したのか坂崎が、奈津子を独り置き姿を消す件などは、なかみつせいじの沈痛な面持を除けばあまりにも描写に欠き、何が何だか殆ど判らない。堂々と触れてみせるが開巻のショットからも繋がるラスト・シーンに於いては、奈津子は依然傲慢な軍司にも、決定力をひたすら欠く坂崎にも共に見切りをつけ、一人荷物を纏めると何処かへと旅立つ。男二人を袖に自由を目指し羽ばたくヒロイン、といふとまるで浜野佐知の映画のやうなラストでもあるが、今作の場合は比較として頑丈な思想に裏支へられた訳でもなければ、個別には基本的に終始積み重ねに欠くゆゑ、場当たり的な展開が力を持たない印象は兎にも角にも禁じ難い。濡れ場に突入すると俄かに手持ちを多用する井上明夫のカメラも、人を小馬鹿にしてゐるのかといふほどにピントを頻繁に失し、これでも商業映画かと腹立たしさすら覚えて来る。唯一シークエンスが十全に力を持ち得たのは、二重に情けなくもといふか哀しくも、不意に帰宅した自宅にて出くはした、妻の不貞の現場を押さへるどころか浅野にノサれてしまつた坂崎が、腹立ち紛れに春香を二度目に呼ぶ件。勝手な予想に反して洋服で現れた春香に対する、坂崎の憤慨は銀幕のこちら側でもシンクロして綺麗に共有し得る。春香の洋装に、坂崎が顔色を変へる瞬間は絶品だ。

 ところで、一箇所台詞がちぐはぐな場面がある。坂崎は餡子が大嫌ひだから羊羹など食さないといふ奈津子に対し、血色ばんだ軍司が「どうしてお前がそれを知つてゐるんだ?」。これで必ずしも間違ひであるとはいひ切れないが、ここはより望ましくといふか普通には、「どうしてお前がそんなことを知つてゐるんだ?」となるまいか。“それを”では、軍司も坂崎の餡子嫌ひを知つてゐるといふ文脈により近く、それでは、直前の三人で羊羹を食さうといふ提案に繋がらない。文壇にその名を轟かせる大先生にしては、日常会話に留まる局面ながら、少々ルーズな用語法が頂けない。軍司が奈津子と坂崎のただならぬ関係に思ひ至る重要なカットでもあるだけに、より一層不自然さが際立つ。表層的に、脚本の練りを欠いた部分といへるのではなからうか。


コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )




 「八神康子 熱い湿地帯」(昭和60『八神康子ONANIE』の2008年旧作改題版/製作:新東宝映画・フィルムワーカーズ/配給:新東宝映画/監督:渡辺護/脚本:吉本昌弘/製作:渡辺護/撮影:志村敏雄/照明:森久保雪一/編集:鵜飼邦彦/助監督:藤本邦郎・芦川孝/照明助手:坂本太/音楽:飛べないアヒル/挿入歌:八神康子『ひとり寝のララバイ』/出演:八神康子・山本あゆみ・村松勉・斉藤雅史)。出演者中村松勉が、ポスターには村松透、シンプルな誤植か。新版にせよ何にせよ、商業映画がパブリシティで仕出かすなよといふ話ではあるのだが。
 別れた妻・美緒(八神)が今は独り暮らす別荘に押しかけた村岡(村松)は、けんもほろゝな前妻に往生際悪く復縁を迫る。村岡は三十四の若輩にして、上がゐなくなつた棚牡丹につき営業部長の座が回つて来たといふので、世間体を慮つたのだ。それにしては、変に優雅な美緒の生活と、新しい相手との再婚でも別に問題がなくはないか、といつた二つの疑問は残る。寝室から洩れる喘ぎ声に血相を変へた村岡が、情けなくも窓にへばりつき覗き込むと別に相手がゐるでもなく、美緒は自慰に溺れてゐた。誠看板を偽らぬ旧題であるといふよりは、寧ろあまりにも作為に欠いたといふ方が適切か。翌日、復縁はむべもなく断りつつ、美緒がレオタード姿でのエクササイズを気前よく元夫に見せつけてゐると、一台の車が別荘に到着する。美緒のレズビアン・パートナーで女子大生の真子(山本)が、同じく大学生の透(斉藤)を伴ひ現れる。透は、透の大学の学祭を訪れた真子が血液型と人柄とを品定めし、いいアルバイトがあると称して連れて来たものだつた。因みに、透の血液型はA型、ついでに村岡も。仕事はどうしたのか村岡も依然逗留したまゝ、正体不明の共同生活がスタートする。
 よしんば片足とはいへメインストリームに突つ込んだ、八神康子にはそれなりの貫禄が感じられる。詰まるところは薄いにもほどがある物語ながら、渡辺護の腕もあつてか映画全体の感触としては貧しさを感じさせない。とはいへ、ネタを完全に割つてしまふが当然美緒の意も酌んだ真子が透を調達して来たのは、同性愛者である二人が、にも関らず子供は欲しい、しかも、その子供の血液型はA型でなければならない。といふのが真相とあつては、一体、何処からツッコめばいいものやら判らない。摂理に反した欲望に関しては百歩譲らなくともひとまづ呑み込めるにせよ、美緒と真子の血液型が明示されはしないもののどうせA型であらうが、A型の二人の女が、どちらが宿した子供でもいいから兎に角A型の子供が欲しいからと、A型の男を連れて来るといふのは幾ら何でもざつくばらんに過ぎるのではないか。美緒も真子も透も、村岡も加へて全員O型で、どちらがどちらの種で妊娠しても構はないから確実にO型の子供が欲しい、といふのでなければ、最終的にはこのプロットは成立しない。改めて高校生物を確認するがABO式血液型によれば、A遺伝子とB遺伝子はイーブンで、両者は共にO遺伝子に対して優位を持つ。即ちA型の人間にはAA型の人間とAO型の人間の二種類あり、両親ともAO型である場合、最も単純には25パーセントの確立でO型の子供が生まれて来る可能性もあるのである。ところでABO式血液型に関して補足の意も含めて、殆どどうでもいいが母と私はA型、父はB型であるので、多分私が順当に父母の息子である場合、父は間違ひなくBO型、私も間違ひなくAO型。母には、AA型の場合とAO型の場合と、両方の可能性が残されてゐる。再び今作に話を戻すと、さういふ踏み込んだ血液検査に関する描写も見当たらないが、美緒と真子が共にAA型であるとすると、AA 型であれAO型であれA型の男を連れて来れば極々、本当に極々稀な例外を除きほぼ自動的に生まれて来た子供は確かにA型にはならうが、既にお気づきのやうに、その際には男の血液型はO型でも別に構はない訳である。正直、所々でまんじりともしたので些か自信もないが、そもそも、何故に子供の血液型がA型といふ点に徒に固執するのかが、確か語られはしなかつた筈だ。だとするならば、更に一層何をかいはんや。世代的に、八神康子の名前と姿に青春のメモリーを是が非にでも呼び起こされるでもない青二才にとつては、渡辺護と更には吉本昌弘の看板まで有してはゐるが、肌合ひの古い映画を観たといふ以外には、殊更に得るものも少ない一作ではある。


コメント ( 2 ) | Trackback ( 0 )




 「女復縁屋 美脚濡ればさみ」(2008/製作:加藤映像工房/提供:オーピー映画/監督:加藤義一/脚本:岡輝男/撮影監督:創優和/助監督:山口大輔/編集:フィルムクラフト/録音:シネキャビン/演出助手:竹洞哲也/撮影助手:宮永昭典/照明助手:小松麻美/スチール:佐藤初太郎/ヘアメイク:吉田かおる・富田貴代/音響効果:山田案山子/音楽:レインボーサウンド/現像:東映ラボテック/出演:村上里沙・平沢里菜子・ほたる・石川雄也・岡田智宏・野村貴浩・丘尚輝・なかみつせいじ)。出演者中、丘尚輝は本篇クレジットのみ。
 中年サラリーマン・高瀬恵司(なかみつ)の寡所帯に招かれた早乙女エリカ(村上)は、それとなく室内の様子を携帯のカメラで撮影し送信する。待機するワン・ボックスの中では、エリカの幼馴染で探偵の一色孝太郎(石川)が、マックのノートで送られて来た画像を受信。目下の高瀬の生活に、女の気配はないやうだ。主演女優の村上里沙、男顔に高身長が、個人的にはストライク・コースのど真ん中中のど真ん中で堪らない   >知らねえよ、タコ
 ブラウスを悩ましく盛り上げるオッパイの膨らみも心の琴線を劇弾きするが、今時のAV嬢といふのは、そこら辺は裸にしてみないと中々信用出来ない。といふ訳で、速やかに村上里沙の濡れ場をヨロシクでお願ひしたいところではあるのだが、何のかんのと焦らされる。それもその筈、エリカと、コンビを組む孝太郎はヨリを戻したい高瀬の前妻・久保田早苗(ほたる=葉月螢)から依頼された、世にいふ“別れさせ屋”の発展形“復縁屋”であつたのだ。早苗から、熊本出身である高瀬の―実際になかみつせいじは熊本出身―好きな料理は団子汁と高菜ライスであるといふ情報を仕入れたエリカは、わざと鬼不味い好物を高瀬に振る舞ひ閉口させる。家事下手も装ひ、元妻から初めて贈られた思ひ出の品である硝子細工を割つてしまふと、高瀬の早苗に対する追慕を醸成する。仕上げは孝太郎仕込のチンピラ(丘)に早苗が絡まれてゐたところへ、高瀬が相討ちでノサれつつも助けに入り、元夫婦は目出度く元鞘に納まる。それはそれでいいのだが、ここは少々編集に疑問が残る。立ち去り際の丘尚輝のポップな無様さがユーモラスな、高瀬が早苗に助け舟を出す件を挿み込むのは、おとなしく再びの夫婦生活の前で構はなかつたのではあるまいか。いきなり絆創膏を貼りながらの早苗と高瀬の絡みが先に始まつてしまふので、又ぞろ関門海峡を渡るまでに、ナチュラルな NSPプリントに仕出かされたかと困惑した。丘尚輝が孝太郎の仕込である説明は、機材車もとい探偵カーの車中でギャラを受け取るシークエンスで事済むであらう。
 とここまで前半部分は、基本設定のイントロダクション主体のいはばパイロット篇。映画に普通に捕らへられすつかり忘れかけてゐたが、驚くべきことに、主演女優が未だ不脱の大温存。妙技に裏打ちされた加藤義一のさりげない豪腕、畏るべし。
 高瀬篇明け、とりあへず田中康文のデビュー作でも見覚えのある一軒家に構へた一色探偵事務所を、清水美弥子(平沢)が訪れる。離婚後にIT会社を立ち上げた元夫・青木友也(岡田)との復縁を依頼に来たのだ。美弥子にコロッと鼻の下を伸ばした孝太郎は、依頼人の素性を調査しもせずに引き受ける。新たなるターゲットの資料に目を通したエリカは、衝撃を受ける。学生時代、学内の二枚目コンテストで優勝してもゐた青木は、実は同じ大学に通ふエリカの憧れの的であつた。然し当時地味だつたエリカに憧れる以上にどうすることも出来ず、その頃から学内クイーンとして名を馳せた美弥子と、終つたとはいへ矢張り青木は結婚してゐたのだ。複雑な心境を孝太郎には秘めつつ、エリカは青木の会社に派遣社員として潜り込む。社内には山口大輔と、もう一人社員要員が見切れる。竹洞哲也であつたものかどうかは、確認し損ねた。
 ミイラ取りがミイラになつたとでもいふ寸法か、ダウンした青木にウィンドウズのノートを届けるのを頼まれた、エリカは一体どういふつもりか青木と寝てしまふ。そんな次第で遅々として復縁は進まぬまゝに、美弥子が一色探偵事務所に怒鳴り込みに来る。ひとまづその場はとりなした孝太郎は、美弥子を尾行してみる。そこで登場する野村貴浩は、美弥子の情夫・夏目光。美弥子と夏目の情交、窓越しに孝太郎が覗いてゐる旨を示すための外縁ボカシが、室内視点のショットに切り替つた後(のち)もかゝつたまゝであるのは頂けない。美弥子は別れた後に成功した元夫の財産を狙ふ、いふならば毒婦であつた。尤も、金に窮して復縁を思ひたつといふ点に関しては、実は早苗も同罪ではある。
 孝太郎はエリカに想ひを寄せてゐたが、日々のアプローチは、かはされ続けてもゐた。今回ターゲットの青木は、学生時代エリカの憧憬の対象であり、孝太郎が安請け合ひした仕事は、実現させるに吝かな復縁であつた。交錯する思惑、ここからこれまでカッコ悪かつた孝太郎に、俄然カッコよく舵を取らせての展開が素晴らしい。詳細は後述しての青木に接近するロング・ショットは、後述すら必要としないほどの豊かな行間に溢れ、そしてエリカに炸裂させる名台詞「俺を誰だと思つてるんだ、復縁屋だぜ」。より王道の爽やかハンサムで背も高い岡田智宏を配しそれまで三枚目に甘んじさせてもゐた、石川雄也の色男がここで満を持して火を噴く。更にそこから矢継ぎ早の、意表を突かれた正しくどんでん返しがあまりにも鮮やか。最終的にとなると、ロケットの中身も兎も角、美弥子の復縁依頼が未だ活きてゐた前提での、エリカと青木の体液交換はどうなるのよ、といふ話ではあるのだが。それは作劇上許される範囲内での、方便とでもいふことにしてしまへ。全篇を通して観客にタップリと感情移入させた主人公を、最後に最上の形で幸せにする。この、この上ない安定感、格別の銀幕を挟んだ彼岸と此岸とで共有される幸福感。オーラスのひとオチも軽やかに決まり、2007年以来然程好調であるとも世評には違(たが)へ私見では見てゐなかつた加藤義一の、本領発揮ともいふべき麗しい王道娯楽映画である。微妙に不審といふか不安であつた村上里沙も、綺麗に天然。となると、最早何もいふことはない。諸手を挙げて喝采するばかりである、万歳。


コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )




 「淫欲怪談 美肉ハメしびれ」(2004/製作:小川企画プロダクション/提供:オーピー映画/監督:小川欽也/脚本:関根和美・清水雅美/撮影:図書紀芳/照明:岩崎豊/編集:《有》フィルムクラフト/助監督:加藤義一/監督助手:竹洞哲也/撮影助手:大島良教/照明助手:酒入康之/スチール:津田一郎/音楽:OK企画/録音:シネキャビン/効果:東京スクリーンサービス/現像:東映ラボ・テック/タイトル:ハセガワタイトル/出演:三上翔子・水来亜矢・神島美緒・加藤由香・兵頭未来洋・石動三六・竹本泰志・なかみつせいじ)。
 ポスターにも特記される小川欽也の“監督40周年記念作品”が、開巻まづいの一番に謳はれる。一応はさういふ、メモリアルな一本といふ格好らしい。
 離婚した弁護士の田村隆平(なかみつ)は、情婦で銀行窓口係の沢田令子(三上)の手引きで銀行強盗を計画する。仔細は綺麗に端折りつつ、仲間を集め、現金の強奪は成功。その確信犯的な姿勢は、四年後に今作の監督助手も務めた弟子の竹洞哲也に継承される、といふのはどうでもいい与太である、なら吹くな。二年後、そのまゝでは足のつく金を洗ひ、ほとぼりも冷ましたのち分け前を分配するべく、男達は田村の貸し切つた山中の別荘に集まる。とかいふ次第で、一味が再び集ふのは勿論御馴染み花宴。クレジットには載らないが、終盤ワン・カット表札が明確に抜かれる。
 最初に現れたのは、元売れつ子ホストの遠藤一茶(兵頭)。騙した女に右目を潰され、負けた裁判の国選弁護で、田村とは知り合ふ。右目を潰された方が負ける裁判といふものも、一体如何なるものなのか。加藤由香は、遠藤が回想する在りし日の栄光に登場するカモ・由紀、超絶怒涛の濡れ場要員ぶりを清々しく披露する。続けて、命運尽きつつある新興宗教団体代表の来栖顕(石動)が到着。尺の都合で割愛したのか、この新興宗教団体代表といふエッセンスに特段の意味はまるでなく、田村との関係も不明。最後に慌ただしく駆けつけた薬剤師の重信拓哉(竹本)は、置かれてあつた洋酒をカッ喰らふと、不審がる三人を驚愕させる。山荘に至る山中、令子の幽霊を見たといふのだ。事件当時、素晴らしくいい感じでフリーダムな乱痴気騒ぎに興じながらも、四人は銀行の警備状況漏洩が発覚してゐた口封じに、令子を殺害してゐたのだ。田村達は半信半疑の中、そこに今度は田村が手配してゐたコールガールの里奈(水来)と麗華(神島)が訪れる。とりあへず宴を進行するものの、里奈が窓の外に見た令子の幽霊に、一同は震撼する。その後錯乱した遠藤が麗華を絞殺、心臓発作なのか毒を盛られたのか、来栖は里奈を抱く最中に吐血し悶死する。
 令子の幽霊に慄く里奈の姿に田村は、「お前にも、お前にも見えるのか!」。ここの、“お前にも”といふ一言が今後の展開の鍵を握るのか、などと思つてしまつたのは単なる早とちり。そこから、それで最終的な道理が通るのか否かはさて措き、田村が手を汚した自分達は兎も角、本来何の因縁もない里奈にも令子の幽霊が見えることで、事の真相に論理的に辿り着き得るのか、といつたアプローチは結局一欠片も見られない。一体この映画は怪談映画なのかそうでもないのかといふ以前に最も問題なのは、今回出没する令子の幽霊とまんま一緒の幻影に、以前から田村が苛まされてゐたといふ点。真犯人が一切与り知らぬ偶然でトリックが成立して、少なくとも補完されてゐては、サスペンスだとしてもあまりにあんまりであらう。ラストを不自然極まりなく彩る、<令子の双子の妹・美穂(当然三上翔子の二役)の幽霊>メイクは、空前絶後に全く不要であるとしか思へない。開巻に堂々と打ち出される“監督40周年記念作品”といふ慶事なんぞ、何時しか遥か遠く忘却の彼方へと流れ朽ちてしまふ一作。周年記念といふ次第で自ら進んだ殊更の気負ひが感じられる訳でなければ、祝儀代りの特別の支援体制も、通例より男女一名づつ多いキャストのほかには特にこれといつて見当たらない。それとも、かういふ肩の力の抜けきつた、逆の方向からは観客の腰を粉と砕く態度あつてこそ、ピンク映画のフィールドで四十年戦つて来れたともあるいはいへるのか。

 とはいへ、更に五年後にもしも仮に万が一“監督50周年記念作品”が叶ふならば、それでも矢張り観てみたくはある、己の酔狂な業が呪はしい。


コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )




 「痴漢電車 うごめく指のメロディ」(2008/製作:Blue Forest Film/提供:オーピー映画/監督:竹洞哲也/脚本:当方ボーカル/原題:『今日は散れども明日は咲く花』/撮影監督:創優和/助監督:山口大輔/編集:有馬潜/録音:シネキャビン/監督助手:江尻大/撮影助手:丸山秀人/照明助手:宮永昭典/スチール:佐藤初太郎/音楽:與語一平/現像:東映ラボテック/協力:加藤映像工房・小山真徳・小左誠一郎・ヒビキック・直井卓俊・島田亘・当方嫁・宮路良平/挿入歌『水面花』作詞・作曲・唄:キョロザワールド/出演:Aya・結城リナ・ミュウ・倖田李梨《友情出演》・青山えりな《友情出演》・岡田智宏《友情出演》・中田二郎・サーモン鮭山・牧村耕次)。脚本の当方ボーカルは、小松公典の飽くなき変名。
 岩手県は水沢(現:奥州市水沢区)から上京したOLの一ノ瀬優子(Aya)は、そんな走りにも全く見えないが学生時代は陸上部出身だとやらで、出勤前日課のジョギングに汗を流す。と、したところ。おいおいおいちよつと待て、のつけからこれは看過出来ないぞ。優子の鈍重で不格好な走り、にではない。鈍重は鈍重でも、走るフォームではなく、全くそれ以前の問題。どうして度々かういふところで立ち止まらなくてはならないのか、呪はしい限りでもあるが Ayaは肥え過ぎだほんの二ヶ月半前の前作も観たばかりだといふのに、まるで痩身グッズ広告の、順序を逆さにした使用後と使用前である。一体何か?今作は主演女優のダイエットを兼ねてゐるとでもいふつもりなのか。それならばそれはそれで画期的といへなくもないが、開巻早々、フラグ大地に立つ。同じくランナーで毎朝見かける大学生の渋川哲平(中田)に片想ひを寄せつつ、奥手で未だ東京には馴染めず、重ねて地方出身の劣等感も抱へる優子には、そこから先どうすることも叶はなかつた。ここで、優子が眩しさうに見やる幼子を乳母車に乗せた夫婦は、遠目ながら小松公典一家か。通勤電車の車中、痴漢氏・竹田(岡田智宏@オタ風味の変質者芝居)に痴漢されるOL(倖田)の姿を目撃した優子は、続けて自身も竹田の被害に遭ふ。勇気を振り絞り大声で抗弁するも、「やめてけれ!」といふ鮮やかな優子の東北訛に、周囲は唖然とするばかりであつた。以降オーラスまで数シーンを通して、最も明確に見切れるその他乗客役は、一張羅のグレーのスーツを着込んだ広瀬寛巳。もう一人の友情出演勢の青山えりなは、後の電車内で矢張り痴漢される女子高生。流石に、最早セーラ服は少々通らないか。
 優子が常連の、清水健(牧村)が営む居酒屋「ま、いどく」。清水のフェイバリットであるとの、いはずと知れてゐるのかゐないのか、「-いかにしてマイケルはドクター・ハウエルと改造人間軍団に頭蓋骨病院で戦ひを挑んだか-」が元ネタである点は、さりげなく明示される。それにしても、“頭蓋骨病院”てのは改めて何々だよ、特化するにもほどがある。話を戻すと、優子が「ま、いどく」に通ふのは清水の妻・久美子(ミュウ)とは同郷のゆゑ、方言も解禁し気が許せるからであつた。そんな折、店に新しいアルバイトとして哲平が現れ、優子は俄かに胸をときめかせる。ときめかせたところで、それ以上相変らずどうにか出来る訳でもないのだが。それにしてもAyaの超質量も兎も角、中田二郎の強張つたハンサムぶりもどうにかならないものか。夫婦生活に於いて清水は諦めきれぬ子作りに固執し、そのことに久美子は夫にはいひ出せぬ不満と、プレッシャーとを感じてゐた。後に明かされる夫婦の過去、二十年前の結婚当初、久美子は一度妊娠するものの、流産してしまつてゐた。清水は優子にいふ、その子が生きてゐれば、ちやうど優子と同じくらゐの歳になると。さういふドラマの組み立て自体に問題は必ずしもないのだが、さうなると再び如何せん、ミュウは未だ若過ぎるのではないか。
 濡れ場要員といふほどでもないものの、最終的にはさして大きな役割を果たす訳ではない結城リナは、優子の姉・弥生。高校の鉄道研究会以来の付き合ひともなる、同じく鉄―道オタ―の太川陽二(サーモン鮭山/何て苗字だ)と結婚し、全国鉄道縦断ハネムーンの道中、妹の下へ立ち寄る。何時までも治らぬ優子の癖の落とし方などには、如何にも竹洞組らしいスマートな論理性が窺へる一方、鉄道ネタてんこ盛りの弥生と太川の一戦には、羽目も外し気味な別の意味でのらしさも感じさせる。マシンガンの如く繰り出され続けるネタの面白さが、煽情性を凌駕してしまつてゐる。鉄道をフィーチャーしたサーモン鮭山の濡れ場といふと、「裸の女王 天使のハメ心地」(2007/監督:田中康文)での対青山えりな戦も想起されるが、ここではあくまで軽妙なスパイスに止(とど)まり、主眼はあくまでセックス、より直截には青山えりなの裸であつた。といふか、改めて振り返ると弥生だけではなく、久美子と清水の絡みではドラマ性を優先し完全に二の次に回され、一方優子と哲平との際には、中田二郎の激しい大根ぶりにまるで形にならない。と、胸の谷間も露な格好で歩き回るミュウと結城リナの振り撒く眼福のほかには、今作実は桃色の威力は、濡れ場本体に関しては総じて高くはない。
 キレの悪い主演女優と強張つたハンサムとの標準的なラブ・ストーリーは、その限りに於いてはぎこちないばかりでどうにもかうにも苦しい。そこに半ば強引に久美子の物語を捻じ込み、どうにかかうにか負け戦を懸命に戦ひ抜いた気配も漂ふが、仮にその場合、苦心は最低限の結果には辿り着けてもゐよう。今作のAyaと中田二郎とのツー・ショットから容易に予想される、木端微塵からは相当の距離も保ち回避し得てもゐるものの、哲平のところに根本的に役柄が変化してしまつたとしても、フと気付くと不在が際立つ松浦祐也の名前があつたならば、といふ感も強い。

 「痴漢電車 うごめく指のメロディ」。抜群にイカしたタイトルではあるが、どちらかといはなくとも電車を降りた娑婆でお話は進行することに加へ、直線的なモチーフといふ意味だけではなく、音楽を感じさせる要素は特にこれといつてない。


コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )




 「痴漢電車 いたづら現行犯」(1994/製作・配給:新東宝映画/監督:深町章/脚本:双美零/企画:中田新太郎/撮影:下元哲/照明:伊和手健/編集:酒井正次/助監督:田尻裕司/監督助手:榎本敏郎/撮影助手:弁田アース・奥野秀雄/照明助手:小田求/スチール:津田一郎/録音:シネ・キャビン/現像:東映化学/出演:青木こずえ・杉原みさお・樹かず・平岡きみたけ・林由美香・神戸顕一・林田ちなみ・山本清彦)。何故かポスターには出演者として、劇中影も形も全く欠片も出て来ない真央元の名前がある。撮影助手の弁田アースは、便田の誤字ではない。今クレジットに於いては、確かに弁田で打たれてゐた。
 アイ(青木)は友人・ミキ(杉原)宅にて、女だけのパジャマ・パーティーと洒落込む。楽しいのは楽しいのだが、矢張り一抹の侘しさは拭ひ難い。さうした気分に追ひ討ちをかける、ミキに彼氏が出来たといふ事実に、アイが臍を曲げたところでタイトル・イン。人間が持つ体熱の総量は、電力に換算すると百ワット相当とのこと。寒くなる季節を前に、その百ワットが恋しくなりつつ通勤電車に揺られるアイを、痴漢が襲ふ。声も上げられないアイに対し、見るからな色男の雅彦(樹)が、助け舟を出し痴漢氏・徹(平岡)を取り押さへる。戯画的に男らしい雅彦にアイはコロッとなびき、三度目のデートで、自ら一線を跨ぐ。そんな、こんなで。再びミキ宅にて、ミキの彼氏も呼んでの今度はWパジャマ・パーティーだ。とかいふ次第で、アイが雅彦を伴ひミキの部屋を訪れると、そこには何故かミキの彼氏として徹の姿が。しかも、アイは徹を、一方ミキは雅彦に対してそれぞれ「痴漢!」。画期的な偶然が働くエクストリーム奇縁はさて措き、要は雅彦と徹は、コンビを組んだいはば偽装痴漢男であつたのだ。アクティブにとつちめるカットを経て、女達は男供を追ひ出す。はふはふの体の雅彦と徹、加へてマッチポンプ以前に、徹は雅彦に連れられた遊び先での浮気が露見し、彼女からはフラれてもゐたのに自業自得も省みず不平を零す。男に幻滅したアイとミキは、何時しか女同士で体を合はせる。こゝで、偶さかオーバー・ウェイト気味でもある、杉原みさおを観てゐて得た気づきがある。前々から誰かに似てゐるやうな気がしてはゐたのだが、この度目出度くもなくも判明した。この人、概ね日比野達郎と同じ顔をしてゐる。隣室の押入れから、三文作家の田辺浩一(神戸)が薄い壁越しにコップを当て、洩れ聞こえる二人の嬌声に小躍りする。かうして、オムニバス仕立ての一作はアイ篇から、田辺篇へとスムーズに移行する。
 折悪しくかゝつて来た電話に邪魔され一旦は憤慨する田辺ではあつたが、電話は雑誌編集部からの、久方振りともなる仕事の依頼であつた。翌日、嬉々として田辺は電車で打ち合はせ先へと向かふ。流石に十五年前ともなると神戸顕一も清々しく若く、縁なしメガネをかけ前髪を下ろすと、今度は太らせたうじきつよしにでも見える。車中で田辺は、サユリ(林)と再会する。遠い親戚の娘であるサユリの高校生時代、田辺は家庭教師を務めると同時に、手をつけてもゐた。後に資産家の老人と結婚した元教へ子の、御無沙汰を見抜いた田辺が体に指を這はせると、サユリは乗つて来る。田辺は仕事と誘ひをかけるサユリとを天秤にかけ、仕事を捨てる。それでこそ男だといふべきか、功名心に欠ける俗物だと難ずるべきか。一戦交へた上、自由になる金も持つサユリから愛人契約を持ちかけられた田辺は、第二ラウンドを見据ゑウハウハでシャワーを浴びる。旨く事が運びすぎで段々と観客も神戸顕一に腹を立てかけたところで、再会するまでの決して短くはない歳月の間に、女王様デビューも果たしてゐたサユリに、田辺が痛快に酷い目に遭ふのが二つ目のオチ。こゝの繋ぎは流石に少々乱暴だが、ラブホテルの一室から表の通りにまで届く田辺の悲鳴にエミ(林田)が眉をひそめ、田辺篇から、エミ篇へと力任せにひつこ抜く。
 身動きもまゝならぬ満員電車の車中、エミは別れた男の合鍵も未だついてゐる自宅の鍵を落としてしまつたものの、拾ふことも出来ずに困つてゐた。そんなエミの背後に、窮地を看て取つた風にも別に見えない、変態的な薄ら笑ひが堪らない山本清彦登場。やまきよは何故かそんなものを持ち歩いてゐるセロテープを取り出すと、立つたまゝ巧みにエミの鍵をサルベージ、礼と称して電車痴漢を展開するも、エミが悦び始めたところで生殺す。連れ込みに舞台を移し改めて仕切り直したところ、いよいよエミが生イチモツを求めるのに対し、今度はやまきよは忘れかけた営業鞄の中から張形の数々を取り出す。ここでの、一時我に帰り衣服を直すエミの芝居が、極私的には心の琴線に触れる。やまきよは、欲求不満の女をロック・オンしては痴漢電車発なにやかにやの末に、張形を売りつける大人のオモチャ屋「懇切堂」のセールスマンであつた。冗談ではないと、エミはやまきよを一蹴。その後酒でも浴びたのか、服も着たまゝ寝てゐたエミが目覚めると、傍らには再び何故か徹が眠つてゐる。激昂したエミは徹をベッドから叩き落すが、お門違ひも甚だしく、そこは本来徹の部屋だつた。捨てずにゐた合鍵で、エミは間違へて元カレの部屋へと帰つてしまつてゐたのだ。臆面もなく全篇を概ねトレースして来たが、かうしてアイ篇→田辺篇→エミ篇と連ねられた一幕一幕は、再びアイ篇へとループし、劇中世界は綺麗な連関を完成させる。エミが徹とヨリを戻すことを決めたところで抜かれる、温かく灯る百ワットのスタンドが麗しく映画を締め括る。あるいは人間一人分百ワットに触発されたラスト・ショットから逆算しての、一作であつたやも知れぬ。慎ましくも強力な脚本と、それを勿体ぶりもせず何気なく纏め上げる熟練の妙技。別に観てゐなくとも困りは全然一切全くしないとはいへ、小品ながらスマートな娯楽映画の逸品である。

今作、1998年には「痴漢電車 おさはり現行犯」と改題新版公開されてゐるが、今回ポスターだけは新しくしこそすれ、旧題のまゝ来てゐる。


コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )




 「痴女OL 秘液の香り」(2004/製作:ナベシネマ/提供:オーピー映画/監督:渡邊元嗣/脚本:山崎浩治/撮影:飯岡聖英/照明:小川満/編集:酒井正次/助監督:小川隆史/監督助手:西村太郎/撮影助手:小宮由紀夫、他一名/衣装協賛:ウィズ・コレクション/出演:桜井あみ・星川みなみ・小久保昌明・シュウ・横須賀正一)。照明助手を拾ひ損ねる。
 通勤途中、下着アパレル会社に勤める大石佳奈(桜井)は、結婚の具体的な予定も見据ゑた同僚営業の彼氏・沖寛治(小久保)に、明々白々な願ひごとを込めたミサンガを贈る。桜井あみの柔らかな幸福感が軽やかに弾ける開巻に、渡邊元嗣の絶好調が期待させられる。給料日に気持ちを大きくし、飲み食ひの計画に胸ときめかせる寛治に対し、早くも賢妻ぶるつもりか、佳奈は金もかけずになほかつ楽しいレジャーの存在を仄めかす。果たしてそれは何ぞや?さういふ次第でまづは、恋人同士でのこつてりとしたセックス。爽やかな恋愛映画のやうな導入から、俄然ピンクピンクした濡れ場への移行としては百点満点だ。そんなある日、二人の職場に新しい派遣社員の須藤礼(星川)が現れる。紹介された新人を見るや、如何にも訳アリな気まずい風情を漂はせる寛治と、礼の含みを持たせた態度とを佳奈は訝しむ。果たして、礼は何と寛治の元カノであつた。プロレス者で気性の荒い礼はキレると見境無く暴れ、寛治は礼の暴力に耐へかねて別れたものだつた。今カノを前にしながら平然と元カレに積極的な復縁アプローチを展開する礼と、佳奈は寛治を巡つて当然の如く激突する。十日市秀悦の別名であるシュウは、セクハラ上司の影山雅人。判で押したやうなキャラクター造形、同時にまるで当て書きしたかの如きタイプ・キャストにも思へるが、考へてみるとここはピンクなので、上司といへばセクハラばかりが出て来るのもひとつの常道、あるいは理の当然とすらいへるとしたならば、早計は禁物であらうか。佳奈との恋愛関係を時に犠牲にしてすら、寛治は男同士の友情関係も大切にする。といふ伏線を十重二十重に丁寧に張つておきながら、ファースト・カットでオチを綺麗に割つてしまふ横須賀正一は、寛治の親友・青山佳樹。配役の判り易さと、起承転結でいふと転部の落差、そのどちらを選択すべきかといふ点に関しては、今作中殆ど唯一議論の分かれる点であるのやも知れぬ。広瀬寛巳、他二名が、社員要員として礼お披露目シーンに見切れる。
 兎にも角にも、蛇足な三番手の濡れ場要員は賢明に排した、桜井あみと星川みなみのツー・トップが抜群に素晴らしい。可愛いと不細工の間のタイトロープを、ギリッギリのところで辛うじて巧みに渡り抜ける桜井あみは、如何にも女の子女の子してゐる。対して、時に冷たささへ漂はせるキリッとした硬質の美貌と、正しくスイカ並みの見事なオッパイに加へ西洋人のやうな筋肉質の肢体をも誇る星川みなみ。何れ菖蒲か杜若、互ひに好対照を見せつつ、同時に甲乙付け難く魅力的。同デザインの制服を、佳奈にはピンク、礼には水色をといふ絶妙な配色も光る。一人の男を間に挟み恋の鞘当てを演じる二人の女が、やがてはそれぞれライバルの自らには無い部分に評価を見出し、何時しか女の争ひは女同士の友情へと転化する。といふメイン・プロットを初めから半ば保証する二枚看板を擁し、渡邊元嗣も開巻で期待させた好調を維持、更に加速する。所詮残りたつた三人とはいへ影山・青山クンまで含め登場人物の全て、劇中起こる出来事の全てが、美しく撃ち抜かれた締めの濡れ場へと従順に奉仕する作劇は完璧、一点の非の打ち所も無い。ポップでキュートで、キラキラと輝く展開はクライマックスで麗しく頂点を誇ると、出発点とは打つて変つて、着地点は女同士の友情物語として綺麗に締め括る構成も秀逸。一見何といふこともない物語ながらスマートに高い完成度を感じさせる、さりげなくも傑作。ナベ持ち前のファンタ要素は皆無なものの、女優映画嗜好もとい志向は堅調で、何気に実は流石に確かな地力も発揮される。渡邊元嗣といふ人は、当たり外れが甚だしいといふことが最近になつて遅ればせながら漸く判つて来た。外れる時も酷いが、当たる時は滅法大きい打球を軽々と場外にまで飛ばすので、なかなかどうして、この人の映画は侮れない。

 礼宅に招かれた佳奈が手料理を振る舞ひ、食後は二人で一升瓶の日本酒を飲み交はす場面。醸成途上の友情が確かなものとなる名場面なのだが、ここで礼の部屋にあるのが、大吟醸「大蔵盛」。改めていはずもがなを押さへておくと、オーピー映画の旧社名は大蔵映画である。m@stervision大哥のレビューによると、この大蔵盛といふ酒は、今作の三ヶ月後に公開される杉浦昭嘉の「こつてり奥さん 夫の弟もくはへて」にも登場するらしい。恐らくいづれ「こつてり奥さん」も駅前に流れて来ようところなので、その際は画面を無闇に注視し確認を試みん。そこから続けて、意気投合すると同時に盛り上がつた二人は、青山クンと二人きりの寛治の部屋に不意打ちで乗り込む。観客からはとうに見え見えの、明かされた秘密に激昂した礼が男二人を鉄拳制裁すると、「バカ!即刻死ね!」と文字通り一喝する件。背景となる寛治の部屋の一部に、何故だかボカシがかけられてある。あれは一体、映り込んでゐてはマズい何がそこにあつたのであらうか。
 最後に瑣末中の瑣末。寛治、の名前はプロレス者であるといふ礼の設定に絡めて、アントニオ猪木の本名から取つて来たところなのかも知れないが、因みに猪木の本名の下の名前は、カンジはカンジでも寛至である。


コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )




 「桃尻パラダイス いんらん夢昇天」(2008/製作:ナベシネマ/提供:オーピー映画/監督:渡邊元嗣/脚本:山崎浩治/撮影:飯岡聖英/照明:小川満/編集:酒井正次/助監督:永井卓爾/監督助手:関谷和樹/撮影助手:橋本彩子/照明助手:八木徹/編集助手:鷹野朋子/効果:梅沢身知子/タイミング:安斎公一/衣装協賛:ウィズコレクション/衣装協力:中野貴雄/出演:早川瀬里奈・青山えりな・なかみつせいじ・江端英久・朝倉まりあ)。
 課長代理の杉本裕二(なかみつ)は旧姓不明秘書課の若菜(青山)と、部長の吉村(江端)の仲人で結婚するが、実は若菜は以前より吉村とは不倫関係にあり、その関係は現在でも継続してゐた。おいおい、これまた随分と年の離れた夫婦だ、「恋味うどん」(2006/監督:竹洞哲也)では親子だぜ、といふ点に関しては通り過ぎる。けふも裕二を出張で地方に飛ばした吉村が、若菜と大胆にも杉本家で逢瀬を楽しんでゐたところへ、漸く感づいた裕二が遂に乗り込んで来る。といふか、要は自分の家に帰つて来ただけでもあるのだが。ところが平然と開き直つた妻と上司からは冷たくあしらはれ、裕二は追ひ出されるかのやうに我が家を飛び出す。歩道橋の上で酔ひ潰れる裕二の下へ、激しい光とともに夜空から、乙女座の黄金聖闘士のやうなカッ飛んだ扮装の女が降りて来る。このコスチュームは、ウィズではなく中野貴雄のところから借りて来たものにまづ間違ひあるまい。不意に現れた女に対し裕二が何処から来たのか問ふと、女(早川)はキョトンと星空を指差す。裕二が星の世界から来たのなら星子だと適当に名付けると、地球のものではない象形文字によつて編まれた不思議な書物―も、中野貴雄の提供によるものであらう―を取り出した星子は、いきなり裕二をラブホテルへと誘(いざな)ふ。朝倉まりあは、裕二に想ひを寄せる一般職の鶴田美幸。若菜は既に吉村の女であることを警告し、一度は関係も持つが、結局裕二は若菜と結婚してしまひ退職した美幸は、その後交通事故死する。
 星子の正体は、『宇宙の歩き方・地球編』新版の編集のために地球を訪れた、ライター宇宙人であつた!渡邊元嗣ここにありを高らかに宣言する咆哮を唸りを上げて轟かせつつ、展開はSF考証的に思ひのほか充実を見せる。遥かに発達した宇宙人の文明では、互ひに指の先を合はせるだけで、遺伝情報の交換により相手の全てを知ることが出来、なほかついはゆる“運命の相手”をも遺伝子上に明らかになつてゐるゆゑ、星子らの社会には、既に失恋といふ現象すら存在しなかつた。星子は、原始的な地球人の性交渉と、非効率な恋愛体系とに興味を持つ。一方、若菜との不倫関係を感付かれたことに対する吉村の厄介払ひか、裕二はタイへの海外赴任を命ぜられる。勿論、子供も居ないのに若菜がついて来る訳がない。失意に沈む裕二に、星子は別の人生を歩んでゐた場合の過去を見せる。仮に裕二が美幸と結婚してゐたとしても、暴力妻に変貌した美幸に、ダメおやじばりに酷い目に遭つてゐたりもするのだが。
 基本星子目線の異星間異文化交流ファンタジーに、巧みに裕二と美幸を主役に据ゑたifものを絡めた物語は、初めは水を得た渡邊元嗣が思ふがまゝに、ポップでハチャメチャな映画の翼を力強く羽ばたかせるものかと思はせておいて、後半は意外にも、切なく健気な美幸の恋心を軸に、二年前の大傑作「妻失格 濡れたW不倫」(W主演:夏井亜美《桜井あみ改め》・朝倉まりあ)を髣髴とさせる、堂々とした正攻法に徹した超絶に美しく、堪らなく切ないラブ・ストーリーに転じる。
 実はといふか流石にといふか、渡邊元嗣の熟練に転調には気付かされることすらなく導かれながら、再び飛び込んで来た傑作に心撃ち抜かれた、と行きたいところではあつたのだが。唯一にして最大の、といふか太過ぎる穴は。朝倉まりあは肥え過ぎだ、美幸ファースト・カットから度肝を抜かれた。爆乳自慢の首から下は百歩譲つて兎も角としても、元々決して小さくはなかつたが、顔がなかみつせいじよりも更に大きくはないか?公園の林の中、美幸が星子に対し成就しはしなかつた過去の恋を、それでも大切なものとして自らの中(うち)に置き留めておく―それは宇宙人である星子にとつては、初めから起こり得ない事象である―ことを静かに、だけれども強い決意を以て語る場面は、本来ならば映画のハイライトとならうところが、朝倉まりあの過積載にはどうしても躓かざるを得ない。何はともあれ、攻め処を捉へると一切を臆することなく、俄然アクセルを目一杯踏み込んで来る、渡邊元嗣の馬力には押し切られなくもないものの。裕二は素通りして美幸限定とはいへ、矢張り禁忌を犯してしまつてゐることに関しても、その後に何某かのペナルティーが描かれない点まで含め疑問が残らぬではないが、星子が裕二を慰めんとする、締めの濡れ場には手放しでクライマックスたり得る必殺に溢れる。全てを失ひつつも再起を摸索する裕二が、新たな、そして取り戻した出会ひを迎へるラスト・シーンも、全く磐石。となると、美幸のところに何で又、久方振りに連れて来た朝倉まりあ?といふ太きな、もとい大きな疑問が重ね重ね残念な、間違ひなく2008年最も惜しい一作である。
 六十分といふ尺の限界も省みず贅沢をいふと、星子は、失恋などといふ悲運は過去のものとして消滅した世界からやつて来た。そんな星子が、地べたの上で惚れた腫れたに一喜一憂する低度の地球人の姿を前に、全てを予め知つてしまふことへの疑義。即ち、最適な答へが初めから明らかであるならば、迷ひも失敗もない一方、果たしてそこに自由といふものの成立し得る余地は残されるのか、といふ視座をも提出してあつたならば、より一層の深みも伴なつた充実を、展開が見せて呉れてゐたやうにも思へる。

 星子が地上に降り立つ件、腕時計型の翻訳機(推定)の不調を調節しようとすると、象形文字の記された透明なプラスチック板が登場し、早川瀬里奈が細い指でそれに触れ操作する動作を見せる。方法としてはプリミティブの最たるものながら、バーチャル・タッチパネルを表現する特撮としては、不足無くよく出来てゐる。あるいは、『宇宙の歩き方・地球編』まで含めて、中野貴雄が既に自作に於いて使用した小道具であるのやも知れぬ。
 忘れるところだつた、図柄自体はそれ程でもないのだが、ポスターの惹句がノリノリである。「未知なるエッチ」、「恥丘にやさしく」、「宇宙からの恥者」と適当極まりなく畳みかける、絶妙な匙加減が心地良く素晴らしい。

 一旦アップしてから読み返し改めて気付いてみたが、よくよく考へてみると、星子が裕二に見せた若菜とではなく、美幸と結婚してゐた場合の過去と、美幸の交通事故死といふ過去の事実とは整合しない。美幸のDVに裕二が虐げられる一幕は、単なるシミュレートであつたのであらうか   >さういふことだね>>再見時の付記


コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )




 「豊乳願望 悩殺パイズリ締め」(2004/制作:セメントマッチ/提供:オーピー映画/監督:池島ゆたか/脚本:五代暁子/撮影:清水正二/編集:酒井正次/音楽:大場一魅/助監督:田中康文/監督助手:茂木孝幸/撮影助手:岡部雄二・秋山都/協力:色華館・萩みゆき・佐籐吏、他一名/出演:桜咲れん・山口玲子・美奈・本多菊次朗・真央はじめ・色華昇子・石動三六・松元義和・兵頭未来洋・平川ナオヒロ・神戸顕一・水無月ゆう)。出演者中、水無月ゆうは本篇クレジットのみ。
 ルームメイト同士で仲良く風呂に浸かる、OLの一ノ瀬こずえ(桜咲)と、ホステスの生島レナ(山口)。こずえはレナの誠文字通りの爆乳に、レナはレナでこずえの小ぢんまりとした貧乳に微乳に羨望の眼差しを注ぐ。こずえは既婚の上司・神田(本多)との、傍目には泥沼にしか見えない不倫関係に溺れ、一方レナは色男の常連客・斉藤(真央)とベッドに入り素敵な彼氏ゲットとぬか喜びするも、斉藤はレナの爆乳に一時的な関心を示してゐたに過ぎなかつた。ある夜、超能力者・石動順学(石動)の自己実現を説くスピリチュアルなビデオを、すつかり真に受けたレナが熱心に見てゐることにこずえは呆れる。胡散臭さ満点の得意満面で、自らの超能力による自己実現の可能を力説する石動順学の背後を飾る、極彩色の花々が咲き乱れるサイケデリックの斜め上を行く空間が、協力の色華館。「牝猫 くびれ腰」(2003)にも登場した、色華昇子の自宅である、あな恐ろしや恐ろしや。こずえのやうな微乳を一心不乱に願ふレナに思はずつられて、こずえもレナのやうな爆乳を熱心に祈り始めると、折よく降り始めた雷雨の電磁波の影響も借り、こずえとレナの意識は、互ひの肉体を入れ替る。
 よくあるプロットの入れ替りものとはいへ、その入れ替る当人達が、互ひのオッパイの大きさに憧れる二人の女といふ辺りは、ピンク映画として最大限度に、全身全霊も込めて麗しい。オッパイは兎も角、顔と残りの体型はそれでいいのかといふ点に関しては、女の心理として厳密には疑問も残すやうな気もしないではないが、まあさて措かう。見事理想のオッパイを手に入れた桜咲れんの体の中に入つたレナと山口玲子の体の中に入つたこずえは、神田に愛想を尽かし関係を終らせてみようとしたり、一方かねてから口説かれてもゐた同じく常連客でAV監督の服部(神戸)の誘ひに応じAV出演してみたりと、それぞれを激昂させる羽目を外す一方、何故だかいづれは元の体に戻る前提で、同居人の為に彼氏を得ようと奮闘する。色華昇子は、レナが勤める店のママ。美奈は、とりあへず見学にと、レナの体に入つたこずえが服部に連れて行かれた現場で撮影中の、AV嬢・アイ。兵頭未来洋はアイのお相手を務める、マグナム級の持ち物を誇るAV男優・本郷。現場の熱気に当てられたレナの体に入つたこずえはその場で自慰を始め、そのまま勢ひで3Pを撮影してしまふことに。監督以外のクレジットは一切ないままに、池島ゆたかが、服部と会話も交すAV制作会社社長としてワン・カット登場する。平川ナオヒロは、レナの体に入つたこずえがレナの為に声をかける、奥手な矢張り常連客・薮内。水無月ゆうは、神田の妻。ひとまづ寝てみたもののレナの体に入つたこずえ―まどろこしいな―は薮内には幻滅し、無下に袖にする。こずえの体に入つたレナから別れを切り出された神田は、妻との離婚を決意する。片や逆ギレ、片や至極当然の憤怒に震へた薮内と神田の妻とは、各々出刃を手に、レナとこずえを追つて二人が暮らす部屋へと突撃する。そのことを知り、こずえとレナはやをら狼狽する。
 互ひになりたい自分になりつつ、自ら蒔いた種の危機に追ひ詰められた二人が、掌を返すかの如く今度は元に戻ることを激しく希求する。さういふ展開自体に、桜咲れんの相手は本多菊次朗限り、といふ点には寂しさを感じないでもないが、濡れ場のバリエーションも盛り沢山に、決して不足がある訳ではない。このままでも十分に面白いことは面白く観てゐられはするのだが、その上でなほ、あへて理想を語るならば。一旦は望んだ形に入れ替りを果たした二人が、再び本来の自分に戻ることを望むに至るのが、今作のやうに場当たりの末にといふ形では、そのままでもひとまづ面白くはあるのだが、些か落ちる点があるともいへるのではないか。よしんばそれがしばしば、といふかほぼ常に不公平なものともいへ、銘々が配られたカードで勝負するほかはない己が人生の肯定と、それまでは勝手に妬み合つてゐた、相手の意外な苦労を知り今度はそれぞれを尊重し合ふ。といふやうな展開こそが、ピンク映画とはいへ、たとへ娯楽映画とはいへ、よりあつて然るべき姿ではなからうか。
 重ねて、既に語られてゐることでもあるが、改めて一箇所ちぐはぐなのは。石動順学の超能力とやらが作用してか、あるいは大胆な催眠効果か、ともあれこずえとレナとの体を通して意識の相互移動が行はれた際、そのことを観客に明示する意を込めたのであらう、互ひの着てゐた衣服とメガネの類の装身具も、同時に交換される。即ち、一回目の入れ替りでは、こずえの声で喋りこずえの洋服を着た山口玲子―こずえのかけてゐたメガネもかけ―と、レナの声で喋りレナの洋服を着た桜咲れんとが出現することになる。声の主が、移動後の肉体の占有者を意味してゐる。意識の移動は兎も角として、どうしてそれに伴ひ洋服までもが、二つの肉体の間を瞬時に着替へるなどといふ、強力に器用な形で移動しなければならないのかといふならば、必ずしも理屈が通るとはいへまい。石段から転げ落ちたところで、小林聡美が学ランを着てゐるやうなものだ。とはいへサイズの合はぬ桜咲れんの服を着た山口玲子の、胸元がパツンパツンどころではない大騒ぎになつてしまつてゐるショットは、それはそれとして以上に判り易く且つ美味しいので、その点はひとまづ通り過ぎる。ところがおかしいのは、こずえとレナとが元に戻る、二度目のいはば入れ戻りが起こる段。その場合、出発点はこずえの声で喋りレナの洋服を着た山口玲子と、レナの声で喋りこずえの洋服を着た桜咲れんとから話が始まるので、着地点はこずえの洋服を着た山口玲子と、レナの洋服を着た桜咲れんとになる筈である。ところが、普通にレナの洋服を着た山口玲子と、こずえの洋服を着た桜咲れんとになつてしまつてゐる。ゴチャゴチャして来たので記号を用ゐ整理することを試みると、桜咲れんの肉体をS、こずえの意識をK、こずえの洋服をkと表すことに、一方山口玲子の肉体をY、レナの意識をR、レナの洋服をrと表すことにする。初期状態のこずえを S(K-k)、同じくレナをY(R-r)と表すことにすると、一度目の入れ替りではS(K-k)とY(R-r)とから、S(R-r)とY(K-k)といふ二人になる訳である。同じ法則性が働くならば、入れ戻りはY(K-r)とS(R-k)といふ状態からのスタートなので、結果はY(R-k)と S(K-r)となるであらうところが、そのまま大元の元通りの、Y(R-r)とS(K-k)とになつてしまふといふ次第である。まるで整理出来てをらぬやも知れぬが、撮影中の現場も混乱してゐたらしい。
 話を横道に逸らすと、桜咲れんが硬質な顔立ちに合はせたシャープなメタル・フレームのメガネが、ここでの入れ替りをより鮮明に説明する為のギミックとしてのみ通り過ぎられてしまふのは、個人的には狂ほしく惜しい、銀河を越えて似合つてゐたのだが。

 松元義和は、ひとまづ一件落着した後の二人の前に現れる、全国を放浪中のカメラマン・菊池。二人の意識が元の肉体に戻つたとはいへ、薮内と神田の妻との脅威が解消された訳では別になからうとも思はれるのだが。菊池に話を戻すと、まるでギャグのやうなキャラクター造形で、とてもこずえとレナとが揃つて目を輝かせるやうな男には見えない。協力の萩みゆきと他一名は、色華昇子の店の客役で見切れることに加へ、オーラスに於いては、ビデオを手売りしながら「なりたい自分になれる!」と再び自己実現の可能を説く石動順学に注意を留める、微乳と爆乳ならぬ、今度はノッポとチビの女二人組。同じく協力の佐籐吏は、恐らく、神田とは別れようとした、こずえのハードウェアにインストールされたレナが、新しい男にと声をかけるも、上司の女になんて手が出せないと断られる男性同僚か。


コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )




 「高校教師 とろける夏期講習」(2008/製作:サカエ企画/提供:Xces Film/監督:新田栄/脚本:岡輝男/原題:『避暑地の出来事』/企画:亀井戸粋人/撮影:千葉幸男/照明:高原賢一/編集:酒井正次/助監督:小川隆史/音楽:レインボーサウンド/監督助手:北村隆/撮影助手:池宮直弘/選曲効果:山田案山子/製作進行:阿佐ヶ谷兄弟舎/出演:竹内梨乃・青山えりな・佐々木基子・久保田泰也・なかみつせいじ・丘尚輝・酒井あずさ《写真出演》・金村英明・加藤学・井尻鯛、他)。出演者中、酒井あずさ以降は本篇クレジットのみ。
 一学期の終業式も終り、生徒達は姿を消した教室。都内私立高「城東高校」教師の沢口あかね(竹内)は、不倫相手の同僚教師・須藤和之(丘)の強引な求めに応じ抱かれる。主演の竹内梨乃は顔立ちもお芝居も古臭いのだが、ムチムチした肢体には桃色の馬力を感じさせる。丈の短すぎるタイトスカートから教師には一欠片も見えないことに関しては、そのやうな無粋はさて措くべきだ。事後、夏季研修旅行に乗じた逢瀬の予定を相談しようとするあかねに対し、不仲の筈の妻が妊娠したといふ須藤は、暫く距離を置くことを一方的に伝へる。教員室に一人、衝撃を受けたあかねが衝動的に手首にカッターの刃を当て、思ひ留まつたところへ、一本の電話がかかつて来る。あかねが取ると、なかみつせいじの声で「祐介の父ですが」、

 どのユースケだよ。

 生徒が一桁しか居ない、何処の山奥の分校の話か。十五年選手にして、岡輝男の脇は舌も曲がりさうなまでに甘い。ともあれ電話の主・二階堂治樹(なかみつ)は、喘息で休学し転地療養中の祐介(久保田)の為に夏休みの間家庭教師をして呉れることを、息子の担任教師であるあかねに求める。私立校はそれで通るのか、校長(一切登場せず)から特別な許可を受けたあかねは、須藤との一件に対しての気分転換がてら二階堂の別荘へと向かふ。別荘地とはいひながら、埼玉県は三郷市でしかないのだが。佐々木基子は、二階堂の秘書、兼祐介の身の回りと、この場合いふまでもなく二階堂の下半身の世話も見る中島洋子。“(写真出演)”と珍しいクレジットのされ方をする酒井あずさは、二階堂からはあかねが似てゐるとも紹介される亡妻、即ち祐介の母の遺影。ところで、いふほど竹内梨乃と酒井あずさとは、別にを通り越し全く似てゐる訳でもない。
 開巻のあかねと須藤の、憚らない二階堂と洋子のと濡れ場を二つ通り過ぎて、通院する祐介の前に、不意に幼馴染の綾瀬奈々(青山)が現れる。一人称が“俺” といふ造形は如何なものかといふ疑問は全篇を通して終に解消されはしないが、奈々はこの近くに親戚の営むペンションがあり、夏休みの間そこでバイトしてゐるといふ。男勝りの奈々が実は祐介に不器用な恋心を寄せる様子と、勿論祐介はそのことに一切気付かないこととが描かれる。清々しく類型的とはいへ、ここまではひとまづ手堅いともいへよう。
 人選としては非常識とさへ思へるほど肉感的な担任改め夏休みの家庭教師に、童貞男子高校生は素直にコロッと劣情を抱く。もののそこはチェリーの悲しさよ、未経験のゆゑに、年上の女に対し二の足も踏んでしまはざるを得ない。そこに飛び込んで来るは実は男子に片想ひのお転婆同級生、不自然な上から目線で、練習台と称して筆を卸して呉れたりなんかする。天にも届かんばかりの底の浅さではあるが、そこは時にプログラム・ピクチャーには、判り易ければ判り易いだけ、判り易過ぎることなんてない、とでもいふことにして一旦押し通せ。予行演習も終へ主人公がいよいよ実践に移すべく欲情を滾らせる将にその時、ヒロインの昔の男が、見境なくも生徒の別荘であることも省みず女を追つて乗り込んで来る。そのまま身を隠す主人公の目前で、繰り広げられるヒロインと昔の男とのセックス。
 さて整理すると、祐介の心理のベクトルは、一途にあかねに向く。一方奈々のそれは片方向で祐介に向き、あかねはといふと、物理的には極めて近い距離に居ながらも、祐介のことは所詮は未だ生徒で、心は半ば捨てられた須藤に依然向いてゐる。ところで洋子は健気に雇ひ主に尽くすことは兎も角、そんな二階堂別邸に、須藤が飛び込んで来る。果たしてここから拡げられた風呂敷は如何なる収束を果たすのか、といつたところで。二度目のあかねと須藤の濡れ場で尺が尽きたのか、二階堂が洋子との再婚を発表したばかりで、休み明け祐介が復学した教室の風景で何ともなく幕を閉ぢてしまふ結末には、いつそ潔さでも感じればよいのかと錯覚さへするべきなのか。主人公のと、主人公に向けられたのとふたつの片想ひ、そして拗れを見せるヒロインの男女といふかより直截には不倫関係、それは拗れるのも仕方がない。全てを放置したまゝ堂々と映画を畳んでみせる恐らく確信犯的な姿勢には、最早鮮やかささへ覚えかねない。初めから要求するハードルが低いからなのか、腹が立たないのが不思議にすら思へる一作である。とりあへず、洋子さんは二階堂氏と幸せになれて良かつたね   >もうヤケクソ

 拾ひ損ねたが、他にも方々で助監督・監督助手として見覚えのある名前も並ぶ、出演者中金村英明以降は、二学期のスタートした教室での生徒要員。見て顔が判るのは、金村英明と井尻鯛(=江尻大)のみ。奈々がバイトするペンション「しらかば」の客役は微妙に過去の新田栄作で顔に見覚えがあり、出演者としてはノン・クレジットの、スタッフの何れかではなからうかと推測される。
 映画本篇とは無関係の極々私的な体験としては、福岡県八幡は前田有楽劇場のモギリのオバサンが御婦人が、今作の「高校教師 とろける夏期講習」といふタイトルに対し、殊更にいい題名だと喰ひついてらしたのが可笑しかつた、“とろける”といふのがいいらしい。蕩けろ、もう全部蕩けてしまへ!   >>重ねてヤケクソ

 以下は再見時の付記< 劇中二度目の、自販機前にて祐介と奈々が遣り取りする件。史上空前のさりげなさで、新田栄が画面手前を通り過ぎ見切れてゐることに気付いた瞬間には軽く吃驚した。


コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )




 「不純な制服 悶えた太もも」(2008/製作:Blue Forest Film/提供:オーピー映画/監督:竹洞哲也/脚本:当方ボーカル/原題:『いつまでもどこまでも』/撮影監督:創優和/助監督:山口大輔/編集:フィルムクラフト/録音:シネキャビン/監督助手:新居あゆみ/撮影助手:宮永昭典/照明助手:門田博喜/音楽:與語一平/スチール:佐藤初太郎/現像:東映ラボ・テック/協力:加藤映像工房・館山智子/挿入歌『海にとかして』作詞・作曲・唄:キョロ/出演:Aya・青山えりな・田中繭子・松浦祐也・吉岡睦雄・世志男・石川雄也・サーモン鮭山・倖田李梨《友情出演》)。出演者中倖田李梨のカメオ特記は、本篇クレジットのみ。
 走る女子高生のショットに、重ねられるモノローグ「卒業式の日。私が選んだ進路は、犯罪者」。
 卒業式当日、やさぐれたギャルJK・荒木寛子(Aya)は、女子高生らしいことの記念にと野球帽にオーバーオールのサーモン鮭山を相手に朝つぱらから援交をカマすと、幼馴染のチンピラ・金田華丸(松浦)を伴ひ、オートマチック式の拳銃を手に現金目当てで暴力団組事務所を襲撃する。銃は組から指示された殺しをこなし、今は自首した上服役する華丸の兄貴分で寛子が秘かに想ひを寄せる、平松慎一(石川)から渡されてゐたものだつた。平松が撃ち、残つた弾は三発。平松は二人に、いよいよ追ひ詰められた際には一発目は相手に、それが外れた場合、二発目以降は自分達に向けろと拳銃を託す。車で組事務所に向かふ途中、華丸が引つ掛けてしまつたパチンコ狂ひで借金に溺れた人妻・宮下沙記(田中繭子/ex.佐々木麻由子)を、二人は仕方がないので仲間に加へる。始終は大胆に割愛しつつ、襲撃は成功。金を手にした寛子は沙記に分け前を渡し別れると、再び華丸とともに、平松の内縁の妻・高梨洋美(青山)が暮らす新潟県上下浜を電車で目指す。一方、組に雇はれた殺し屋ならぬ「生け捕り屋」の佐野秀志(吉岡)と井手玉生(世志男)が、沙記はあつさり片づけると奪はれた現金と身柄を求め二人を追ふ。
 プロットとしてはアナクロニズムの匂ひすら漂はせる、刹那的な青春犯罪映画である。個人的には、依然俄然ど真ん中のジャンルでもあるのだが。とは、いふものの、共に鉄板の適役といふところからアプローチとしては悪くないが、尺も足らず沙記と洋美に関しては消化不良、そもそも、主人公たる寛子自体に対する積み重ねが全く薄い。バジェットまで含め全方位的に振る袖に欠き、あつて然るべきアクション・シークエンスはほぼ概ね回避。かてて加へて、新潟の地に於いては爽やかに恵まれぬ天候。石を投げれば当たらうかと思はれるほどマイナス要因には事欠かないのだが、脚本・演出・俳優部、三者三様の強力があれやこれやを捻じ伏せ、徳俵一杯一杯で踏み止(とど)まつた映画は結構以上に充実して観させる。
 台詞を喋らせる喋らせないの以前に濃い化粧に表情は殆ど隠され、走る姿も銃を構へる所作もてんでサマにはならないAyaは、本来ならば一本の劇映画のヒロインを担はせるには画期的に心許なくもあれ、相方を務める松浦祐也がそこを頑丈に引張り、場面場面の体を成す。自分が轢いた沙記を病院に連れて行かうとする、間の抜けた華丸を寛子がバカにすると、華丸は「人に“バカ”つていふ時には、相手の顔を見ろ!」。すると寛子は即座に助手席から華丸の方を向き、「バ~カ」。吉岡睦雄と世志男の生け捕り屋コンビのポップな変態性も絶品だが、更に素晴らしいのは、そのファースト・カット。日々の占ひに関する生暖かくスリリングな会話をロングで交す二人の下へ、長く回したまゝ友情出演の倖田李梨が現れる件。倖田李梨は新小学生の子持ちながら殺し屋で、時流の変化を嘆きながら、昔ならば自分のところへ依頼が来たであらう仕事を、不承不承仕方なく佐野と井手に回す。これが何とも映画的なショットで、銀幕がビリビリと震へすらするのが感じられるやうな興奮を覚えた。寛子のラスト・カットに、「これで良かつたと」、「何時か笑つて思へる日が来る」といふ挿入歌のサビが重なるタイミングも完璧。唯一挽回しきれない穴は、石川雄也のミスキャストか。この人は男前とはいへいふならば優男につき、昔気質で頼りになる兄貴分、そして女からはあの人の墓になるとまでいはせる男といふには、少々柄ではあるまい。

 全般的に覚束ないAyaながら、雪が容赦なくジャンジャカ降る冬の日本海沿岸の吹雪の中を、短い制服のスカートの下から生足を覗かせウロつき回る、あるいは妥協を知らない鬼監督からウロつき回らされた決死は買へる。ハイライトメンソールを切らした瀕死の華丸に、ガムを口移すキス・シーンは、小松公典らしいさりげなくも鮮やかな伏線の張り方まで含め美しい。これで空さへもう少し晴れて呉れてゐたならばと思ふと、同じやうな状況ながら「乱姦調教 牝犬たちの肉宴」(2006)の時には微笑んで呉れた映画の神様に、今回はそつぽを向かれてしまつたバッド・ラックを嘆かざるを得ない。別れ際、寛子が手向けた上着が、強風に煽られ両手の使へぬ華丸の顔を隠してしまふ点にも、ギリギリの撮影状況をも鑑みると別の意味でも一層泣ける。
 一発外してしまつた後の残りの二発の銃弾の使ひ方に、何時までもロマンを追ひ続ける男と、継続する生活を追ひ求める女との一般的な差異を見るのは、極私的な偏向であるやも知れぬ。が、その場合にだとすると、華丸の姿との対比といふ形で初めて、Ayaが映えて来る、などといふのは重ねた牽強付会に過ぎるであらうか。


コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )




 「本番オーディション やられつぱなし」(2009/製作・配給:新東宝映画/監督:佐藤吏/脚本:金村英明/企画:福俵満/プロデューサー:深町章/撮影:長谷川卓也/音楽:大場一魅/編集:酒井正次/録音:シネキャビン/助監督:江尻大/監督助手:加藤学/撮影助手:海津真也/撮影助手:桜井伸嘉/編集助手:鷹野朋子/スチール:牛嶋みさを/現像:東映ラボ・テック/協力:鎌田一利・平松将一・レジェンドピクチャーズ・ミヤザキ商店/主題歌:『アイノカタチ』 作詞・作曲・唄:結城リナ/出演:夏井亜美・日高ゆりあ・月野姫・岡部尚・那波隆史・牧村耕次・岡田智宏・吉岡睦雄・田中康文・小川隆史・広瀬寛巳)。出演者中、岡田智宏以降は本篇クレジットのみ。
 同居しながら売れることを目指すお笑ひコンビ・青空の、ボケのハルカ(夏井)とツッコミのカナ(日高)。意外な長回しは感心出来なくもない―“ 唐揚”にツッコまぬ意味は判らないが―ネタ合はせを経て、二人はテレビ番組「爆笑サバイバー」のオーディションへと出撃する。ハルカには、カナに対し秘密があつた。前日、ハルカは所属事務所社長・神崎(牧村)から、「爆笑サバイバー」放送局・東亜テレビの槙原プロデューサー(那波)に引き合はされる。オーディション合格と引き換へに槙原と寝るハルカではあつたが、よくいへば純粋ともいへるのか、子供のやうに融通の利かないカナには、このことは伏せておくやう神崎に求める。商品とはいへ夢見る若者達に、時に冷たく時に温かく接する牧村耕次に、今作濡れ場なし。
 黒覆面で顔を隠しガード下に立ち、首から提げた箱に通行人が金を入れると、一時ロボット・ダンスを披露して呉れるハルカの彼氏・サト(岡部)の下に立ち寄りつつ、二人は東亜テレビ―城南大学みたいなものか―へと向かふ。ここで個人的に引つかゝつたのは、那波隆史と岡部尚は、歳が大きく離れるともいへ微妙に感じが似てはゐないか。同じやうな馬面につき、偶さか微かな混乱を覚えた。ゴミ籠に空缶を投げる伏線には、後の着地点が凶暴にお粗末ゆゑ逆向きに意味はない。出演者中岡田智宏以降、クレジットには名前が載らない者まで含め大勢が、主にオーディション会場に於ける有象無象芸人として見切れる。控へ室、緊張した面持でひとまづ席に着くハルカとカナの画面向かつて左側で、コンビと思しき着流し姿の岡田智宏とVサインのカチューシャ―何処で拾つて来たのだ、そんなもん―を着けた吉岡睦雄がネタを合はせ、後方では、“メタボ”とプリントされたTシャツを着た広瀬寛巳が、遮二無二コンビニ弁当にガッついてゐる。緊張を紛らはせるためか用足しに立つたカナは、ニューハーフ芸人のナターシャ(月野)が、矢張りオーディション合格を餌に槙原に抱かれる現場に遭遇する。槙原の、節操のない博愛主義には辟易、もとい感心するほかない。ハルカの色仕掛けは功を奏し、青空はひとまづオーディションに合格する。早速お礼参りに槙原の下へと向かつたハルカに加へ、コンビ丼とでもいふ趣向か、カナも呼び出される。ハルカと驚きの対面を果たし事態を呑み込んだカナは、衝撃を受けホテルを飛び出す。
 時流に乗らうとでもしたつもりなのか、お笑ひの世界を舞台とした定番青春ピンク。ナターシャの大オチ以外、主人公コンビを始め概ね寒々としたネタに関しては、芸で勝負するのでは必ずしもなく、作られた使ひ捨ての偶像が跋扈する現状を風刺した、ものでは勿論あるまい。基本的には不器用な佐藤吏に柔軟を求めるのも無理な相談かも知れないところなので、ここは脚本の強力に頼りきるか、海千山千の強靭な芸達者でも連れて来なければ、手放しにお笑ひを満足に描くのは少々厳しからう。なのでその点はいつそさて措くと、カナには内緒で槙原と寝たハルカと、その事実を暴露し、サトを一時的にとはいへ寝取つたカナ。追ふ夢のために体を使ひいはば不正を犯す女と、そのことを決して肯んじないと同時に、相方である女を裏切る女。二人の対照と、二つの不実の正面衝突までは、文句なく見応へがある。笑へもしないのだがお笑ひのゾーンを抜け、俄然勝手を得始める佐藤吏に加へ、主演女優二人が素晴らしい。「妻失格 濡れたW不倫」(2006/監督:渡邊元嗣)の際には、大ベテランの掌の上でいいやうに転がされてゐた感もある夏井亜美が、今や与へられた役を理解すると、夢を追ふ女の強さと弱さを綺麗に表現する。寸が足らない辺りがビジュアルとしてはどうにも苦しいものの、日高ゆりあも、少女のやうな頑なな真つ直ぐさを強く撃ち抜く。カナが二人暮らす家を出て行くまでは、全く頑丈であつたのだが。残念ながらそこから先のいい加減極まりない着地のつけ方が、弱いを通り越して、大きな落差をも感じてしまふだけに酷い。工夫にも欠けばルーズな終盤には、唖然とすらさせられた。こんなザマならばハルカは破滅した槙原と呆気なく命を落とし、一旦は足を洗ふことを決意しながらも、相方の死をカナは乗り越えて行く。さういふ時代錯誤も甚だしい展開の方が、まだしも形を成し得てゐたのではないか。そもそも、槙原を破滅させた意味がまるで判らない。描写のアクティブさは買へるにせよ、流れ的には矢張り適当なハルカとサトの別れの濡れ場の誘因としてすら、特に必要でもなからう。再び空缶をゴミ籠に投げるラストには、あまりの自堕落さに世の中をナメてゐるのかと腹が立ちかゝつた。中盤が分厚く充実してゐた分、暴力的なまでの詰めの甘さが重ね重ね残念な一作ではある。


コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )




 Yahoo!がユーザーから募集したとかいふ、「新世紀ヱヴァンゲリヲン」を実写化した場合の、主要キャストの投票結果が発表された。それがこんな感じ。

 碇シンジ:神木隆之介
 綾波レイ:堀北真希
 式波・アスカ・ラングレー:戸田恵梨香
 碇ゲンドウ:阿部寛
 赤木リツコ:松雪泰子
 葛城ミサト:松嶋菜々子

 碇シンジが神木隆之介だなんて、一体あんたの時間は何時で止まつてゐるんだよとでもいふ話なのだが。ここは当方では気紛れに、それぞれの監督に場合分けしての、ヱヴァンゲリヲンピンク版のキャストを夢想してみたい。既にある杉浦昭嘉のアレは、ここでは無視する。

 まづはオーピーから山﨑邦紀版

 碇シンジ:平川直大
 綾波レイ:北川明花
 式波・アスカ・ラングレー:北川絵美
 碇ゲンドウ:浜野佐知
 赤木リツコ:佐々木基子
 葛城ミサト:風間今日子   正直、レイとアスカは全く適当に選んだ。残りは狙つたつもりなのかよ。

 続いて渡邊元嗣版

 碇シンジ:真田幹也
 綾波レイ:早川瀬里奈
 式波・アスカ・ラングレー:華沢レモン
 碇ゲンドウ:なかみつせいじ
 赤木リツコ:真田ゆかり
 葛城ミサト:風間今日子
 加持リョウジ:西岡秀記   リツコと加持のところを決めてから残りを埋めて行つたのだが、これで結構しつくり来るのでは。

 エクセスに飛び、大胆不敵な翻案映画の雄“エクセスの黒い彗星”松岡邦彦版

 碇シンジ:柳東史
 綾波レイ:青山えりな
 式波・アスカ・ラングレー:平沢里菜子
 碇ゲンドウ:吉田祐健
 冬月コウゾウ:小林節彦
 赤木リツコ:小川はるみ
 葛城ミサト:酒井あずさ   アスカ役に平沢里菜子といふのは、答へが出たのでもなからうか。

 新田栄版

 碇シンジ:丘尚輝
 綾波レイ:何処かから連れて来た誰か
 式波・アスカ・ラングレー:華沢レモン
 碇ゲンドウ:なかみつせいじ
 冬月コウゾウ:久須美欽一
 赤木リツコ:風間今日子
 葛城ミサト:鏡麗子   ここは正直、コウゾウ一点突破で。

 新東宝から、池島ゆたか版

 碇シンジ:千葉尚之
 綾波レイ:結城リナ
 式波・アスカ・ラングレー:華沢レモン
 碇ゲンドウ:牧村耕次
 赤木リツコ:山の手ぐり子
 葛城ミサト:日高ゆりあ
 加持リョウジ:神戸顕一   何気に、トータルとしては一番形になつてゐるやうな気もする、神戸顕一を何処に捻じ込むかには矢張り迷つたが。

 最後に、誰かが撮つて呉れ全員監督版

 碇シンジ:荒木太郎
 綾波レイ:佐倉萌
 式波・アスカ・ラングレー:長崎みなみ
 碇ゲンドウ:池島ゆたか
 冬月コウゾウ:野上正義
 赤木リツコ:吉行由実
 葛城ミサト:浜野佐知   アスカのところの無理は認める、ミサトはそれで問題ないのかよ。

 ヱヴァンゲリヲン役は、全作共通で全身タイツを着用しての伊藤猛と国沢実。さういへばヱヴァも兎も角、関根和美がターミネーチャンの新作を撮つて呉れんかいな?時にはかうして全力で漫然と戯れてみせるのも、実に楽しい。


コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )




 「令嬢美姉妹 肉の宴」(2004『令嬢姉妹飼育』の2008年旧作改題版/製作:株式会社マックス・エー、新東宝映画株式会社/配給:新東宝映画/監督:廣田幹夫/脚本:高木裕治/企画:石井渉・福俵満/プロデューサー:黒須功/助監督:白石和彌/撮影:下元哲/照明:高田宝重/録音:福島音響/編集:大永昌弘・佐藤崇/演出助手:井上亮太/撮影助手:海津真也/照明助手:南部智則/ヘア・メイク:清水美穂/ネガ編集:三陽編集室/スチール:池田岳史/タイトル:道川昭/現像:東映ラボ・テック/制作協力:黒須映像工業/出演:阿当真子・河井紀子・羽村英・中村美睦・もてぎ弘二・山村龍)。
 人里離れた山中の屋敷に執事と住む、楠木家の令嬢姉妹。残りの家族の、消息は不明。姉・麻美(河井)と執事の田所弘道(中村)は男女の仲にあり、二人の情事を壁に開いたか開けた穴から覗き見ては、姉の隣室で処女の妹・詩織(阿当)は自慰に耽つた。撮り辛からうといふのは判らぬでもないが、寂しく悶え狂ふ詩織の体と、壁の穴とが爽やかに離れ過ぎてはゐるのだが。鍵となさしめようつもりなのか、以降に於いても蒸し返される詩織のモノローグ「歪んだものも歪んだ眼《まなこ》を通せば、何でもないものに見えるのでせうか」。一方、組の金三千万を奪ひ逃亡した男が。男は兄貴分とその舎弟に追はれ、辛うじて一旦は逃げおほせるものの、深手を負ふ。散歩中の詩織は、白花を握り締め雪中に行き倒れた男・梶原太(羽村)と遭遇する。梶原を連れ帰り介抱しようとする詩織に対し、血まみれであからさまな事件性に麻美と田所は当然の異議を唱へかけるが、ひとまづは詩織の思ふまゝに。仮にどれだけ深窓の御令嬢が世間を知らないとしても、ここの無理は、決して十全に超えられてゐるとはいへない。買ひ物に出た田所が里に下りた隙に乗じて、驚異的な回復を見せる梶原は姉妹を拘束すると、姉の懇願に従ひひとまづは放置した詩織の眼前で、麻美を陵辱する。帰宅した田所にバールで滅多打ちにされ撃退されつつ、化け物なのか梶原は即座に返り討つ。田所の死体を庭に埋めた梶原は屋敷と、姉妹とを支配することを宣言する。
 大雑把に片付けてしまふならば、人情といふ奴はえてしてそんなものでもあるのかよく判らないが、犯人に転んでしまふ人質もの。概ね丁寧な撮り映えと、執事といふよりは安手の飲食業にでもしか見えない中村美睦を除いては、そこそこ役者も揃つてはゐる。尤も、肝心要のヒロインたる詩織の描き込みが如何せん不十分で、最終的には大いなる喰ひ足りなさを残す。処女特権で妹に対する加虐が一旦免除された中、中盤まで濡れ場の主軸を一手に引き受ける麻美には、最期のアクションまで含めそれなりに見せ場にも恵まれてゐるのだが、対して詩織に関してがどうにも弱い。姉に対する嫉妬なり憎悪なりが縦糸として明確に通されてでもゐれば、梶原といふいはば外部からの力に惹かれることも、やがては結ばれるに至る点にも説得力を持ち得てゐたところなのかも知れないが、必ずしも、さういふ訳でもない。ホンや演出の不備を乗り越える頑丈な演技力を、阿当真子―合沢萌の旧名義―に望むべくもなからう。基本的に笑ふか黙るか喘ぐかの三つしか表情のバリエーションを持ち合はせず、加へて今作に於ける詩織の役柄では、概ね笑ふことすらない。言葉だけで繰り返され、オーラスにも持ち出される“歪み”についても、まるで実感させては呉れない。といふか、特に歪んでなどゐない。全般的に小奇麗であるとはいへ、世界を歪めてみせるまでの力を有してなどゐない。河井紀子に阿当真子と、姉妹には見えないがツー・トップは綺麗どころを押さへてはゐるだけに、変にカッコをつけてみせたりなどせずに、カメラだけではなく、メガホンまで下元哲に委ねた潔い実用性への一点突破に徹した形で観たかつたものでもある。その際は、いつそのことエクセスで。
 もてぎ弘二と山村龍は、終に楠木邸にも乗り込んで来る、梶原の兄貴分・安藤正司と、その舎弟・稲葉充。特に稲葉は、よしんば残つたものにせよ、雪も積もる季節の割にはジャージにTシャツと、恐ろしく服装が軽いのが奇異に映る。

 二本撮りされ2004年当時には一月強遅れで公開された続篇の「令嬢姉妹飼育2 性奴隷」も、今新版公開の二ヶ月後に、矢張り「続・令嬢美姉妹 凄まじい淫慾」と旧作改題されてゐる。
 出演者としてポスターの一番最後に記載のある紺野智史は、本篇クレジットには見られず、劇中該当しさうな登場人物も見当たらない。因みに紺野智史は、もてぎ弘二と同じ事務所所属ではある。


コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )