真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「セーラー服鑑別所」(昭和60/製作配給:株式会社にっかつ/監督:川崎善広/脚本:西岡琢也/企画:成田尚哉/プロデューサー:林功《日本トップアート》/撮影:前田米造/照明:木村誠作/録音:小野寺修/美術:中澤克巳/編集:奥原茂/音楽:甲斐八郎 使用レコード『スヌーズ』カリオカ キティレコード/助監督: 村上修/色彩計測:森島章雄/製作進行:香西靖仁/出演:美保純・中川みづ穂・山口千枝・蘭童セル・萩尾なおみ・花上晃・堀広道・田浦智之・錆堂連・佐藤了一・小見山玉樹・石塚忠吉・那須政志・杉浦亘・梓ようこ・平瀬りえ)。配給に関しては事実上“提供:Xces Film”か。
 産婦人科前、ラジカセで音楽を鳴らし美保純が白痴のやうに踊る。父親は判らぬまま妊娠が発覚したユーコ(中川)と、友人のミヨコ(美保)は何だかんだ無駄足を踏んだ末に、春休み中に呼び出されたことを思ひ出し聖愛学園に滑り込む、体育館で二人がゴロゴロ煙草を吹かす画の下半分にタイトル・イン。絹裂く悲鳴に度肝を抜かれたミヨコとユーコは、柔道部の男子部員に鉄格子を噛ませた運動部部室に引つ立てられる。そこは後に糸東流空手二段の腕前で華麗な板割りも披露する体育教師・水谷綾子(平瀬)指揮の下、囚人服と称したセーラー服を着させた―聖愛学園は私服校―女生徒を収監する、その名もセーラー服鑑別所であつた。写真部の気弱な犬・山田(堀)に撮らせた陰部の写真を要は脅迫材料に、謝罪と宣誓文を提出した者は手軽に解放される中、理由も告げられずにミヨコとユーコ、それにガリ勉トリオの清水郁子(山口)・中村一美(蘭童)・田口静江(萩尾)の五人は残される。綾子は四人の不良に強姦され、その模様を写真に撮られる。その現場に、郁子・一美・静江の三人がお揃ひのものと同じパンティが落とされてゐたといふのだ。
 配役残り、丁寧にフラグを立てる錆堂連は、なよなよした英語教師・岡田。佐藤了一と小見山玉樹は非力な教師とされるが、もう少し大勢見切れる上に殊更にフィーチャーされる二人が居るでなく、よく判らない。諸星和己のモンキー成分を増量した感じの田浦智之は、ミヨコのボーイフレンド・タカシ。石塚忠吉・那須政志・杉浦亘は、多分聖愛学園外部の不良と思しきタカシの子分。花上晃は郁子の父親でスポーツ用品店を経営する清水で、梓ようこは、小金持ちである清水の財産目当てで正妻の座を狙ふ水商売風の女。
 何があつたのか日本映画監督協会公式サイトにキャッシュしか残つてゐない、川崎善広昭和60年第一作、通算だと第二作。特に事後は深刻にでもなく犯された少女達が、妊娠するや気軽にホイホイ産む腹を固める。底の抜けた世界観の中そこそこ伏線も張るとはいへ、最終的には人を喰つた物語は他愛ないもの―ミヨコはピッキングでセーラー服鑑別所を易々と出入りするゆゑ、女囚映画方面にも腰は据わらない―でしかないながら、潤沢な普請に支へられ堂々とした仕上がりには抗ひ難い。厳密には然程面白くなくともそれなり以上の代物に見えてしまふ、ロマンポルノとピンク映画との格差を実感せずにはをれない一作。ただこのことは、操作性以外何もかもが豊かな35mm主砲による画とテローンとしたビデオ撮り、ピンクとVシネとの間でも、同じハンデを指摘し得るのかも知れない。再度ただこのことは、同程度の二本を並べて比較した場合の話に過ぎない。ロマンポルノはどれでも全ピンク映画よりも上、そのやうなへべれけな偏見を振り回す御仁は流石にをるまいが、改めて当方の立場を表明すると、ロマンポルノにせよピンク映画にせよVシネにせよAVにせよ何にせよ。全てのジャンルなりカテゴリーは、スタージョン・ローの前には等価である。逆からいへば凡そ人の作り出すものは、スタージョン・ローの支配の下から逃れられない。そのココロ?無粋な野暮はいふまでもなからう。


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 「異父姉妹 だらしない下半身」(2013/製作:多呂プロ/提供:オーピー映画/脚本・監督:荒木太郎/撮影・照明:飯岡聖英/編集:酒井正次/音楽:宮川透/助監督:金沢勇大・三上紗恵子/編集助手:鷹野朋子/撮影・照明助手:宇野寛之・浅倉茉里子/照明応援:広瀬寛巳/協力:映像機器システム社・上野オークラ劇場/タイミング:安斎公一/出演:愛田奈々・美泉咲・向笠ゆいこ《新人》・佐々木基子・河内哲二郎・淡島小鞠・那波隆史・久保田泰也・野村貴浩・牧村耕次・稲葉良子)。案外多いクレジットの情報量に屈する、タイトルに添へられる「メリーとハリー」といふのは原題?
 タイトル開巻と、クレジットをオープニングに。ロケーション的には旧上野オークラの無国籍テイストなスナック、常連客(左から荒木太郎・佐藤選人・演出部?・小林徹哉、ではなく河内哲二郎)の求めに応じストリップを披露する珠代(向笠)に店を任せた仲村芽理(愛田)は、奥の間に通した異父妹・樋川羽理(美泉)と二十年ぶりに再会する。芽理と羽理の苗字が異なるのはそれぞれ実の母親と里親の姓である所以で、姉妹の実母が借金を遺して死去したゆゑ、債権者が羽理を探し出したものだつた。ポップに水商売の女然とした姉の様子に心を閉ざした羽理は、芽理がバタバタ来店した常連客・本部裕次郎(那波)に抱かれる隙に姿を消す。言葉を濁した妹分といふ芽理の紹介を真に受け、本部は職を探す羽理を紹介ついでに喰ふ。そのことの自慢話を両義的に―後述する―辟易とさせられる遣り取りを通して聞かされた芽理は、本部と距離を取る。
 配役残り稲葉良子は、劇中ガミガミ悪い顔しか見せないスナック店主。わざわざ舞台女優を35mm主砲の前に引き出しておいて、あんまりな扱ひに見えなくもない。野村貴浩は、珠代が囲ふ作家の卵・久米旭、牧村耕次は芽理とは肉体関係も持つ友人。近年、牧村耕次が脱ぐとすつかり肉が落ちて来た。久保田泰也は、出張がてら羽理を訪ねる地元鹿児島の後輩・研二。佐々木基子と淡島小鞠withベイビーの登場場面に関しては、最早論ずるに値しない。稲葉良子の店の女にもう一人見切れる、痩せた仏頂面の女が判らない。
 一世―の片隅―を風靡したのも今は昔か、昨今ググッたとてまともな感想がまるで見当たらない荒木太郎2013年最終第三作。対照的な種違ひの姉妹の相克と融和といふドラマの骨格はひとまづ酌め、ヴィジュアルといふよりはキャラクターで観させる三番手が足を引くこともなく、ビリング頭二人の強力な濡れ場は潤沢で裸映画的には十分に木戸銭の元は取らせる。とはいふものの、劇映画としては別の意味で見事なまでに支離滅裂。病に倒れた芽理と、姉の看病に―本部に紹介された―ブラック企業を辞めた羽理は、珠代の家に転がり込む。そこで元々珠代に寄生する久米と珠代の濡れ場が発生するのはいいとして、そのままダイレクトに―恐らく別の日に―牧村耕次を連れ込んだ芽理に、羽理が臍を曲げる件に繋がる辺りから完全に木端微塵。初めからその気がなかつたのか、荒木太郎が統一的な物語を構築する能力を失したものかは知らないが、各々単体としては悪くない、ものもある一幕一幕をガッチャガチャの繋ぎで―無理から―連ねた挙句に、一切合切を放り投げる踊り逃げラストは久し振りに観た。無論呆れついでに、荒木太郎が踊り逃げるのは何時以来か検証しようとする殊勝な余力など残されてはゐない。二戦目となる美泉咲がそれなり以上に安定する反面、未だ普通のお芝居ですら棒が抜けないにも関らず、前時代的にやさぐれた口跡―誰かに似てゐる気がしたのは、色華昇子の劣化レプリカだ―を要求された愛田奈々は逆の意味で鮮やかなほどに上滑る。一人でさへ大概なのに、選りにも選つて那波隆史を連れて来ての芽理と本部の上滑り棒バトルは、最早この期に及んでの自殺行為としか思へない。

 井川耕一郎が故渡辺護との会話に際して、今作が「もず」(脚本:水木洋子/先行するテレビドラマ版の演出は岡本愛彦で映画版の監督は渋谷実)の翻案であることを指摘してゐる。全く知らない「もず」のことを調べてみたところ、母娘と異父姉妹といふ最大の相違点を乗り越えて、芽理と羽理の関係や、研二の立ち位置には確かに「もず」の強い影響が窺はれる。と同時に、そんなこと、あるいはこんなもの、よく判つたなといふのが率直な印象である。対して渡辺護は「もず」は女優の演出が難しいやつなんだ云々と受けておいでだが、とてもではないがそれどころの話ではない。尤も、泉下の渡辺護に僭越ながらお答へ申し上げると、少なくとも愛田奈々の演出については明快に仕出かしてゐる。芽理が終始開放する豊か且つ悩ましい胸の谷間も堪らない、現況最強の美人女優なんだけどな、だから名女優とはいつてゐない。


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 「ザ・変態熟女 ‐イカせて下さい!‐」(1992『ザ・変態ONANIE』の1999年旧作改題版/製作:新映企画株式会社/提供:Xces Film/監督:小川欽也/脚本:池袋高介/企画:伊能竜/撮影:伊東英男/照明:小林実/編集:フィルム・クラフト/助監督:石崎雅幸/監督助手:石川太郎/撮影助手:川井勝人/照明助手:小島和夫/音楽:OK企画/録音:ニューメグロスタジオ/効果:協立音響/現像:東映化学/出演:藤崎あやか・水鳥川彩・伊藤舞・野澤明宏・田崎潤一・栗原一良・二村仁)。企画の伊能竜は、向井寛の変名。
 女子大生の―だから新題に於ける“変態熟女”とは何処から湧いて来た機軸なのか―水上昭子(藤崎)が、電話越しの婚約者とのテレフォン・セックスに燃える。受話器片手に秘裂に指を走らせる藤崎あやかの画が、複数に分裂しグルグル回転する万華鏡的な加工を施した上で、大絶賛現役のOKスキャットが起動してタイトル・イン。その頃当の婚約者・安井雄一(田崎)はといふと、出張先のホテルにて浮気相手の南野絵津子(伊藤)と実は実戦の真最中。ここで、田崎潤一が後の田嶋謙一、きれいな石野卓球風の顔も髪型もあまり変らないが、全体的に細い。一方、昭子宅の隣家のベランダでは野澤明宏(役名不詳につき以後ノジー)が洩れ聞こえる嬌声に大興奮。ノジーが息を弾ませネクタイを緩めるファースト・カットの、安定したギラつき感が堪らない。ハンサムとワイルドの絶妙なブレンドと、色気と張りのある発声。正直忘れられた感も強い野澤明宏といふ役者に対する評価は、低きに過ぎるものであつたのかも知れない。薮蛇な契機で盛り上がつたノジーを、妻のミホ(水鳥川)はおとなしく受け容れる。ノジーが買つたばかりのビデオカメラでブランコに乗るミホを撮影してゐるところに、昭子が通りがかる。カセットデッキで録音したテープ・レターも遣り取りしてみたりする安井に、ビデオ・レターを希望された昭子は、ミホに相談する。おお、ここでかう話が繋がるのか。そこで驚くのも如何なものかといふ疑問は一旦さて措き、老獪なのか豪快なのかよく判らない作劇術に吃驚する。
 配役残り栗原一良は、兄貴には内緒の借金を返しに来る安井の弟・マコト、勿論何だかんだと未来の義姉を喰ふ。現:二村ヒトシこと二村仁は、上司であるノジー課長のビデオカメラを借りに来た道中、カラオケ帰りのミホと合流する工藤。
 小川欽也1992年全十三作中第六作は、この時何が起こつたのか多分最初で最後の筈のエクセス作。因みに残りの十二本は全て大蔵で、和久名義。耳馴染みのあるOK劇伴以外に具体的に何がどうといふのは難しいが、確かに小川欽也の映画であるやうに見える。逆からいふと、新映企画と来ると大本命の新田栄にせよ誰にせよ、小川欽也の仕事であることを疑はせる要素は見当たらない。昭子と安井を軸に進行する色恋沙汰かと思ひきや、舞台は昭子宅と隣家―撮影上要は一部屋で事足りる―から殆ど外に出ない。少なくとも今の感覚ではとても家庭用には見えない馬鹿デカいビデオカメラを飛び道具に、捌けたノジー夫妻に素直に翻弄された昭子が、一人前のONANIE狂に開眼する―我ながら何をいつてるのか全く判らない―物語は逆の意味で鮮やか、物語といふほどの物語か?ある意味名人芸といへなくもない最小限スレスレの繋ぎで、濡れ場を連ねることにのみ全てを賭ける誠腰の据わつた裸映画。少々無理といふか直截にはツッコミ処の多いシークエンスも、今の目にも全く古びない、強靭な三本柱の裸が案外有無もいはせずすんなり呑ませる。特に、引き締まつた精悍な体躯も誇る野澤明宏と、絶対美人・水鳥川彩の絡みは異常な完成度。

 今回、事前の下拵へ段階で激しくときめいたのは、出演者中に並ぶ栗原一良といふ名前。もしや、栗原良のリョウ・ジョージ川崎・相原涼二に続く五つ目の新名を遂に発見か!?と喰ひついたものの、純然たる単なる全くの別人でしかなかつた。


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 「女教師と教へ子 ‐罪名、婦女暴行なり‐」(2013/制作:大敬オフィス/提供:Xces Film/脚本・監督:清水大敬/撮影:井上明/照明:小川満/音声:吉永健児/助監督:関谷和樹/音楽:花椿桜子/美術:劇団ザ・スラップスティック/編集:清水大敬/協力:劇団ザ・スラップスティック、大珍カンパニー/出演:香西咲・京野結衣・小滝みい菜・倖田李梨・扇まや・衣緒菜・なかみつせいじ・野村貴浩・久保田泰也・津田篤・山科薫・中村勝則・土門丈・maika・北条麻妃《特別出演》、他本当に多数)。一般映画ばりのクレジットの情報量に粉砕される。
 エクセス開巻、即タイトル・イン。鮫島一家が牛耳る町の、何処そこ高校。彼氏・山下健児(津田)の目の前で、小滝みい菜(ハーセルフ)が鮫島家の多分長男・城冶(久保田)の手下に強姦される。みい菜を助けられなかつた不甲斐なさを城冶に追ひ込まれた健児は、子細は軽やかにスッ飛ばし校舎の屋上から飛び降りスーサイド。教職員・生徒そして父兄、鮫島家に尻尾を振る学校のみならず町中を敵に回し、健児の担任・香西咲(だからハーセルフ)は城冶の責任を追及する腹を固める。そんな咲に健児に想ひを寄せてゐた京野結衣(三本柱がハーセルフ)と―教職の―山口先輩(倖田)は同調、咲の夫・武男(野村)も交へ、四人は凶悪かつ強大な敵に挑む。
 配役部分的に残り、出演者としてのクレジットは確認し損ねた清水大敬が、何処から見ても堅気には見えない―手下は乗り込んだ先で堂々とチャカを抜く―が表向きは鮫島商事(株)社長にして城冶の父親・権三。ヤクザを連れて来ないと物語を紡げない清水大敬のアナクロニズムには苦笑を禁じ得ないのと同時に、自ら出陣してのこの上ないハマリ役であることも認めざるを得ない。流石に、貫禄は俳優部の中で一枚も二枚も抜けてゐる。脱ぎはしないが十二分な色香を濃厚に漂はせる北条麻妃が城冶の母親・明美で、maikaは権三の秘書、兼最新愛人。刑事課長(山科)同席の下、健児の自殺に関する城冶の関与を証明しようとした咲が、逆に居並ぶ二十優余名の父兄から糾弾の集中砲火を浴びる。といふ、出発点で既に理解不能な正体不明の名ならぬ迷一幕。なかみつせいじと中村勝則は常識人ぽく狼狽する井野山校長と股野教頭で、扇まやと衣緒菜(ex.吉瀬リナ)がママゴン―懐かしいな、おい―要員の中に見切れる。因みに扇まやのピンク映画出演は、尻だけは辛うじて見せた矢張り清水大敬の2010年第一作「人妻教師 レイプ揉みしごく」(主演:艶堂しほり)以来。清水組には常時出てゐたやうにも思へて、案外久し振り。衣緒菜は清々しいまでの自分の台詞のタイミングの待ち具合も兎も角、より大きなツッコミ処は周りの面々よりも明らかに一世代若い、いつそ制服を着ればよかつたのに。といふのも、クレジット中実は大槻ひびきの名前もあつたのだ。大槻ひびきに対するロック・オンが甘く、気付けなかつた己の迂闊さは面目ない限りでありつつ、出てゐさうなポジションはといふと、妙にハイ・グレードなその他女生徒要員辺り以外に見当たらない。警察も鮫島の息がかゝつてゐるゆゑ、香西夫婦はマスコミに目を向ける。野村貴浩の同級生には見えないものの、中村京子とミュウを足して二で割つた風情の結構美人な山崎編集長役が不明。更には鮫島父息子の手下こと仮称シャーク戦闘員が大勢、その他男子生徒は若干名。入院した結衣の病室に軽く姿を見せるメガネの看護婦、父兄のオッサン要員と、編集部要員。更には外出した香西夫婦に、わらわらと群がり排斥するかのやうに―現にしてゐるのだが―後ろ指を指すプリミティブな演出が、殆どゾンビ映画のやうな町民の皆さん。二役以上の兼務も恐らく少なくないとはいへ、二、三十人は堅い潤沢な人数が投入される。
 クリスマスに封切られた清水大敬の2013年第三作は、「人妻禁猟区 屈辱的な月曜日」(主演:北条麻妃)に続くエクセス第二作。前回勘違ひしてゐたのは他メディアとの連携が図られたのは今作で、明けた一月に川村真一(現:川村慎一)の主戦場たるアタッカーズより、看板シリーズの一作「愛する貴方の目の前で… 女教師と教へ子」としてAV版がリリースされてゐる。今回観たピンク版の中身に話を絞ると、オーピー後期、かつての強烈な灰汁が抜け王道娯楽作家への開花も愚直ながらに感じさせた、清水大敬の近況からは前作に引き続き明確に後退する。始終はロケーションの貧しさも顧みず、女優部には恵まれ確かに見応へがなくはないレイプ・シークエンスを連ねることにのみ終始。山科薫は顔見せ程度の出演に止(とど)まる中、清水大敬のエキセントリックな演技指導を俳優部中ほぼ一手に引き受けるのが、ルックスとお芝居以前にタッパと体脂肪率すら残念な久保田泰也といふのは事この期に及んで如何なる悪い冗談か。城冶の造形は、一件の黒幕たる狂気の魔少年。劇中世界の雰囲気からすると気持ちも判らぬでないともいへ、実際のキャスティング上は、久保田泰也には到底果てしなく木端微塵に柄ではなからう。御丁寧に看護婦に化け忍び込んだ結衣の病室、挙句に凄い照明を当てられた上で、ナース・コスの久保田泰也が僕は神を超越した人間だなどととんでもない啖呵を切つてみせるのは、グルッと一周した壮絶なギャグにしか見えない。反面、予想外に適応してみせた小滝みい菜が、それなりの存在感を発揮するのは数少ない正方向の見所。そもそも、一族に支配された町にて、暴虐に曝される女教師と女生徒。だなどと、今時フランス書院くらゐでしかお目にかゝれないやうな前時代的な粗筋に加へ、適当か無造作に転がるばかりの展開は逆の意味で堪らない。ところが、諦めてビリング頭二人の女の裸に残された僅かなエモーションを傾注しかけたところで、飛び込んで来る城治とみい菜の禁じられた秘密はそこそこ以上の衝撃度。折角の大ネタを、殺風景な見せ方はもう少し何とかならなかつたのかといふ疑問を呑み込めば。結局、主人公夫妻がおめおめ敗走する無体な着地点。止めを刺すべくマキシマムな無造作さで放り込まれるバッド・エンドが余情の余地も根こそぎ刈り取る、ダイオキシン級のドライな怪作。ある意味、清水大敬らしいといへばいへるのか、早々と二作目にして、エクセス新路線の咲かせた徒花である。

 所々小屋では聞こえ辛かつた台詞、大槻ひびきの登場場面と、膨大なクレジットの情報量。そして、ピンク映画版とは異なるエンディング。諸々詰めておきたい事柄も多い以上、ここはエクセスとアタッカーズの商売に素直に乗り、「愛する貴方の目の前で… 女教師と教へ子」も近々見る予定。その際最も注目してゐるのは、濡れ場の最中に目立つ妙にジャンプ気味のカット。それは果たして、AV基準の画を回避した結果であるのや否やといふ点を、節穴をヒン剥いて確認するつもりでゐる。
 最後にもうひとつ気になるのは、2014年もぼちぼち半分終るタイミングで、清水大敬の名前がとんと聞こえて来ない御無沙汰。良くも悪くも、パワーはある人だと思ふんだけどな、大電撃で新東宝に飛び込んで来たりなんかした日には激越に興奮する。
 備忘録< 衝撃の真相は、城治とみい菜は異母兄妹の近親相姦


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 「主婦の性 淫らな野外エッチ」(1999/製作:多呂プロ/配給:大蔵映画/監督・出演:荒木太郎/脚本:内藤忠司/撮影:郷田有・横田彰司/編集:酒井正次/制作:小林徹哉・大高純/演出助手:田中康文/スチール:木下篤弘/録音:シネ・キャビン/現像:東映化学/出演:伊藤清美・林由美香・奈賀毬子・田嶋謙一/友情出演:今泉浩一・太田始)。実際のビリングは、奈賀毬子と田嶋謙一の間に友情出演を挿む。
 二十日から一週間休業する旨の貼紙と、アロハな夫婦スナップ。家具屋店主の夫・晴彦(田嶋)に、妻・麻記(伊藤)が夜の営みのおねだり。翌日からの車旅行を控へ渋る晴彦を押し切り、無理矢理事に及ぶ。中途半端にじつとしてゐないカメラと、往来を往き来するヘッドライト―カーテン閉めなよ―を表して無闇に動く照明とが頂けなく落ち着かない。濡れ場は中途までで事後の麻記のトイレ、フローバックからタイトル・イン。いざ出発、麻記が店員の花枝(林)を招いてゐたことに、晴彦は動揺する。麻記は晴彦と花枝の浮気を疑ひ、決した雌雄に対しての対応は未定のままに、真偽を確かめるべく花枝を夫婦の旅行に噛ませたものだつた。ともあれ出発進行、ところが、三國峠の山崩れで国道412号が遮断(交通情報の主は荒木太郎)、目的地に至れない三人が急遽取れたのは、ツインの一部屋。何とも気まずい空気の中、花枝は晴彦が切らした煙草を買ひに物静かな修羅場を離脱、耐へかねるやうに晴彦も散歩に出かける。海岸で合流した花枝と晴彦は、雑木林にて淫らな野外エッチ。遅れて海岸に出た麻記が、その模様を目撃する。律儀に荒木調ならぬ荒木臭を叩いておくと、ここを始め要所要所で都合三度鳴る、拍子木別に要らんよね。テトラポッドにて茫然自失の麻記に、美沙(奈賀)が世界の終りて顔してたよと秀逸に声をかける。奈賀毬子が一流の持ちキャラで振り撒く、美沙のアバウトなポジティブさにアテられた麻記は、美沙と真二(荒木)の白黒ショーを観に行き、そこで今泉浩一と太田始の映画館ならぬテント痴漢に被弾する。
 見られるだけ五本全部見る、キャラバン野郎特集最終戦はシリーズ第六作。フィニッシュの、夫婦岩風な巨岩を後方に置いた砂浜での大胆な―撮影的には果敢な―夫婦生活を何となく覚えてゐるので、もしかしたら故福岡オークラで観てゐたかも知れない。家具屋夫婦の夫婦旅行に嫁が呼んだのは、旦那の浮気相手疑惑の匂ふ若い店員。キナ臭い一行が足止めされた先が、キャラバン野郎の駐屯地。案の定な不貞を目撃した嫁は、何だかんだな勢ひで白黒ショーの舞台に転がり込む。例によつて、話の大枠は面白い。二日目の朝、麻記が何気なく切り出した―大概な大事だが―白黒トークに、花枝が何気なくも激しく喰ひつくカットは緊張感が堪らない。尤もそこから花枝と真二のエンドレスに付かず離れずな巡り合ひに急旋回することなく、今回の主眼である夫婦物語から軸足が動かないのが、最大にして最後のチャンスを逃した瞬間か。結局マッタリかモッサリ腹を探り続けた挙句に、クライマックスのダイナミックな砂浜戦―完遂した対面座位のロングから、クレジットが流れ始めるオーラスは完璧―の勢ひは確かに有効に借りてゐるともいへ、最終的には何となくヨリを戻したに過ぎない麻記と晴彦の姿には、さしたる感動はない。二泊三日目の朝、三人はバラバラに。晴彦が一人車を走らせてゐると、麻記がヒッチハイク。再び助手席の麻記曰く「折角拾つた車が夫の車だつたなんて」だなどといふのは、お前は目を瞑つて車を拾はうとしたのかと麻記、ではなく荒木太郎―か内藤忠司―をそこに座らせたい気分。商業映画のシークエンス、あるいは観客を馬鹿にしてゐる。今作の白眉は、中盤のある意味枝葉。舞台の上の白黒ショーと、客席の今泉浩一と太田始に文字通り挟撃される麻記。後方で勃発したサプライズに、潤沢な人数のその他客(内藤忠司と小林徹哉は識別可能、若き田中康文を確認出来なかつたのが残念)がどちらを観たものかどよめく祭り感が、ピンク映画館の然るべき、ないしは幸運な理想の状態を超絶のクオリティで体現してゐて爆発的に素晴らしい。

 現状見ることも観ることも叶はない第二作「ヒクヒクする女 ‐見られたい‐」(1996/北沢幸雄と共同脚本/主演:工藤翔子)のことは一旦棚上げした上で、改めてキャラバン野郎シリーズ全九作の総括を試みる。当時隆盛の荒木太郎人気と永遠の林由美香愛の後押しも受けた、ピンク映画の中では規格外の純粋単独長期シリーズながら、今となつてみると個々の作品の評価としては第五作「女囚 いたづら性玩具」(1998/脚本:内藤忠司/主演:長曽我部蓉子)が突出してゐただけといふ印象も、個人的には強い。


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 「濡れ尻女将のねばり汁」(1997/製作:多呂プロ/配給:大蔵映画/出演・監督:荒木太郎/脚本:荒木太郎・内藤忠司/撮影:清水正二・飯岡聖英/編集:酒井正次/助監督:横井有紀/制作:小林徹也/ポスター:日高正信/録音:シネキャビン/現像:東映化学/出演:田口あゆみ・槇原めぐみ・林由美香・木立雅隆・今泉浩一・内藤忠司・山口幸一・たかだたかしげ・小林徹也・野上正義)。制作と出演の小林徹哉ではなく徹也は、本篇クレジットまま。
 雨の和室を縁側から捉へて、ラジオのニュースはベルリンの壁崩壊。竜子(田口)が飲めない酒に酔つて帰宅した夫・実(今泉)に結婚の後悔を大胆告白しつつも、兎も角夫婦生活。後述する姦しさは、開巻のリプレイでもある、ここは十全に事後雨上がりの庭を噛ませてタイトル・イン。看板をこの上なく明示的に抜いた上で、ノッポ(山口)とデブ(たかだ)の二人組が御馴染み水上荘にプラッとやつて来る。固有名詞がよく聞き取れない番頭(木立)が旦那が死んだ喪中だといふのに勝手に上がり込んだ二人は、実の遺影の前で泣く竜子の姿を目撃する。一方、杉崎(野上)は度々水上荘に無言電話を入れる。凄いロングで橋を画面右から左に渡るキャラバン、真二は今は、マジックでビシッと引いたやうな眉毛が凄いやさぐれたセーラ服娘・愛(槇原)を白黒ショーの相方に旅を続けてゐた。どうスッ転んでもその距離だと見んぢやろといふ遠目で、愛が投身自殺しようとする杉崎を発見、到底間に合ひさうにも思へないが駆けつけ引き止める。僕達、白黒ショーやつてるんですとプリミティブな自己紹介をした真二に対し―演者二人きり裏方不在では―「それぢやショーにならねえぢやねえか」と、訳知り顔の杉崎はキャラバンに同乗する。
 配役残り内藤忠司は、元々ヤクザであつた杉崎とその情婦である竜子の美人局被弾氏。追はれた二人は水上荘に逃げ込み、怪我を負ひ高熱を発した竜子の身の安全を確保する為に杉崎は追手―追手とショーの客各四人は、背中しか映らない―を引きつけ一人で逃げ、以来離れ離れに。その後竜子と水上荘の若旦那である実の結婚を知つた杉崎は、竜子の幸せを思ひ身を引いたものだつた。白黒ショーのリハーサルと称して、要は愛を杉崎に寝取られた格好の真二が遥々帰京し会ひに行く花枝(林)の今回のポジションは、絵描き(登場せず)の家に住み込むモデル。
 薮から棒な荒木太郎のキャラバン野郎シリーズ特集第四戦、残り一本。今回真二と、前作の同じく二番手と役名は同じであるものの、見た目も造形も清々しく異なる愛との出会ひは端折り、杉崎と、実を間に挟む竜子の物語に主軸は置かれる。惚れた女の手前で逡巡するヤクザ者、といふ役を得た野上正義が抜群の渋味で最早何をいはせても決め台詞に聞こえる名演技を連打する傍ら、受ける田口あゆみの脂の乗りきつた色香にも全く遜色ないにも関らず、全体的な仕上がりはその癖然程強固ではない。入りが終始無造作ゆゑ、判り辛いとまではいはないにせよ量産型娯楽映画的には不親切の誹りも免れ得まい、おまけに堂々巡り気味にさして深化するでもない回想パートで不用意に尺を喰つた挙句に、杉崎が漸く水上荘に辿り着くのが土壇場も土壇場の五十分。といふ勿体ぶつたペース配分は、予め上映時間は一時間とプログラミングされたピンク映画にしては激しく如何なものか。そこからも更に含みばかり持たせた末に、雷雨に呼応して蛍光灯を頻繁に点滅させる演出が過剰で、女の裸の素直な鑑賞を妨げる姦しさも否めない締めの濡れ場が、最終的に達するに至らないとあつては重ねて如何なものか。締めが締まらぬでは締まらない、雨に濡れる庭を噛ませてクレジットが流れ始めた瞬間には、グルッと一周して驚いた。山口幸一とたかだたかしげが小林徹也と横井有紀を伴ひ再び水上荘を訪れる、オーラスで空中分解感の回避をギリギリ試みた節は酌めるともいへ。加へて、無理矢理会ひに行つたぶりが正直色濃い真二と花枝の件も些か疑問。とりあへずな事後何かあつたのと問はれた真二は、花枝と会つたらどうでもよくなつたよ。互ひに変らないことを確認した上で花枝は、今度会ふ時もこんな感じだといいね。下手に作り込んだ居室の舞台装置は平素の荒木調もとい荒木臭として、遣り取りが陳腐かつ、軟弱過ぎてシンプルに食傷する。第二作「ヒクヒクする女 ‐見られたい‐」(1996/北沢幸雄と共同脚本/主演:工藤翔子)を見ることが出来ないので最初か二度目なのかは一旦さて措き、キャラバン野郎が明確に躓いた第四作といへるのではなからうか。


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 「熟女の誘ひ汁 ‐何本でも欲しい‐」(1997/製作:多呂プロ/配給:大蔵映画/出演・監督:荒木太郎/脚本:北沢幸雄/撮影:清水正二/編集:酒井正次/助監督:松岡誠/撮影助手:飯岡聖英/スチール:原田兼一郎/録音:ニューメグロスタジオ/現像:東映化工/協力:ついよし太・東京UT・榎本敏郎・広瀬寛巳/出演:しのざきさとみ・悠木あずみ・林由美香・螢雪次朗/友情出演:吉行由美・杉本まこと/特別出演:内藤忠司、国沢実、博美さんの娘・息子)。
 隅田川沿ひ、キャラバンで目覚めた真二(荒木)が女の笑ひ声に外の様子を窺ふと、アル中女・春子(しのざき)が四人のホームレス(纏めて後述)をギャラリーに踊つてゐた。次第に脱ぎ始めた春子に別のホームレスが絡み、身支度を整へた真二も「また一日が始まるな」と出撃する。その場を離脱する、春子のカメラ目線に合はせてタイトル・イン。主演女優のカメラ目線に合はせてタイトル・イン、その手法の是非は、この際一度本格的に論じられるべきであるのかも知れない。
 川で水を汲み顔を洗ふ真二に、小奇麗なホームレス男・山田(螢)が「ブレックファーストでもしませんか?」と小粋に声をかける。本当に美味しさうな屋台の焼きそばを、勘定は真二に押しつけ山田は食ひ逃げる。憤慨しつつ浅草の町を歩く真二は、浅草に留まるか渋谷に行くかお家に帰るか六本木に行くか逡巡するプチ家出中のフーテン娘・愛(悠木)とミーツ、何故か懐かれる。一方、酒瓶の転がる春子の安アパート、互ひに別れた家族と残した家族の居る春子と山田が体を重ねる。初戦はよくも悪くもドラマの重たさが先行し、二戦目は妙な光量の裸電球が不自然に激しく振り子運動する、過剰な演出が禍ししのざきさとみと螢雪次朗の濡れ場は、あまり即物的に楽しめる筋合の代物ではない。転がり込んだ愛と真二が致してゐるキャラバンを、山田が覗き二人を驚かせる。山田と待ち合はせ続けて現れた春子は、愛を見て子供相手に何をしてをるのかとポップに立腹。実の親の放任主義と称した要はネグレクトに不満を持つ愛は、そんな春子の姿に温かみを覚える。
 前年のデビュー年快調に五本発表した荒木太郎の1997年第一作は、DMMに唯一入つてゐない、第一作「異常露出 見せたがり」から連続した続篇「ヒクヒクする女 ‐見られたい‐」(二作とも1996/北沢幸雄と共同脚本/二作とも主演は工藤翔子)を飛ばしてキャラバン野郎シリーズ第三作。キャラバン野郎と家出娘に、アル中のバツイチ女と出稼ぎがてらのホームレス男。偶さか出会つた四人が擬似家族を形成、キャラバンで白黒ショー(今回正確には白黒百合ショー)を繰り広げながら旅をする。といふと素晴らしく魅力的な物語にも聞こえて、実際には四人がキャラバンに同乗するまでで概ね尺は尽きる。この人の場合は妻と娘が山田の帰りを未だ待つ、北海道を一行が本気で目指す展開の採用が可能であつたならば、面子は揃つてゐるだけに人情映画の傑作も狙へたらうにと思ふと重ね重ね惜しい一作ではある。といふか、こんな時に限つて、普段は山の中に足を伸ばす撮影隊が都内より一歩も外に出ないといふのは逆に考へもの。その点に着目すると、制作体制のちぐはぐさも指摘し得ようか。開巻から無闇に多用される魚眼レンズも、何の意味なり効果があるのだかさつぱり判らない。敵が十七年前の映画であることを一旦忘れるが、ファースト・カットで魚眼の画に飛び込んで来られた際の、この妙な落胆にも似た物寂しさは一体何なのか。

 最後に配役残り、吉行由美はギャラリー要員一番左の女ホームレスと、公衆電話越しの山田妻の声。国沢実は片目グラサンと音の出ない縦笛でデコレートした、左から二番目。右二人(ムシャムシャ何か食つてるデブは高田宝重?)と春子と都合二度絡むもう一人は不明、メガネを外すと印象がガラッと変るのか、内藤忠司をどうしても視認出来ない。杉本まことは春子の別れた旦那で、博美さんの娘が誕生日プレゼントだけは渡す娘。博美さんの息子といふのがこれまた不明で、それ以前にそもそも誰なんだ博美さん。


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 「痴漢電車 ブルセラ隊摘発」(1994/製作・配給:大蔵映画/監督・脚本:小林悟/撮影:柳田友貴/照明:ジミー宮本/編集:㈲フィルム・クラフト/助監督:国沢実/スチール:佐藤初太郎/効果:中村半次郎/録音:シネ・キャビン/現像:東映化学㈱/出演:吉行由美・藤沢美奈子・美咲江梨子・南悠里・冴木直・《特別出演》港雄一・芳田正浩・中島光司・白都翔一)。
 単なる繋ぎのショットが一々不安定に微動するマンション外景、のつけから火を噴く“大先生”柳田友貴ワークに震撼する。クレジットを端折られた、セカンドに撮らせたのかも知れないけど。先に出勤する姉・小泉美保(吉行)が残した買物メモに、三ヶ月前から二人暮らしする女子高生の妹・さゆり(冴木)が難色を示すとカット変り、電車と劇伴の起動とともにタイトル・イン。混み合ふ車中、さゆりは白都翔一の痴漢に被弾、巧みな指戯に喜悦する。といつてもセット撮影の割に、パンティの上から攻めるに終始止(とど)まり、もう少し羽目を外しても罰は当たらないのではといふ気持ちは残す。電車を降りたさゆりを、「お嬢さん、ちよつと」と呼びとめた白都翔一はジェントルに接触。痴漢しておいて、ジェントルもへつたくれもない点は気にするな。三井ソフト物産代表三井幸之助―光之助とかかも―の名刺を差し出し事業への御意見御協力を乞ふ白都翔一に対し、さゆりがユリコと名乗るのは、グルッと一周してビートが爆裂するへべれけさとしか、この時は思へなかつた。そんなこんなで教室、窓際から時計回りにマイ(藤沢)・美鈴・ユウコ(美咲江梨子と南悠里が特定不能、てんで覚束ないビリング推定だと美咲江梨子が美鈴?)に、さゆりは三井が通販するブルセラの提供を持ちかける。サクサク小金を稼ぎ味を占めたさゆり以下ブルセラ隊―劇中呼称される訳ではない―は、マイと美鈴それぞれの彼氏(芳田正浩と中島光司)も巻き込み、アダルトビデオ出演へと二、三足飛びに加速。一方、帰りが遅いことや妙な羽振りのよさに妹の異変を感じ取つた美保は、半年前に会社を辞めた―美保が貸した金もある―婚約者・大曽根ヒロシ(こちらが本名/白都翔一)に相談してみる。とはいへ話もそこそこ久々に嗅いだ体臭に吉行由美が凄い勢ひで発情、忽ち突入するコッテリした一戦を、打ち合はせで三井ソフト物産を訪ねたさゆりが目撃する。
 今年新作を発表すると監督生活50周年となるリビング・レジェンド・小川欽也を―今上―御大と称するならば、大御大・小林悟の1994年第一作。この年ピンク映画が全九作といふのは一見少なめに思はせて、薔薇族がもう三本あることは忘れる勿れ侮る勿れ。さうはいへ端的な印象としては、裸自体も実は然程満足に見せるでもない、実に漫然とした一作。ブルセラ隊を擁した三井ソフトは、劇中二本のAVを製作。「恵美《17》処女 私、バイブが癖になりさう」(主演:マイ)、「女子高生 友情とフェラと本番」(出演:美鈴・ユウコ・芳田正浩・中島光司)の模様で結構な尺を費やし、吉行由美は対ヒロシ戦で十二分に気を吐きつつ、冴木直の濡れ場―対三井―が挨拶程度で結局終つてしまふのには地味に驚いた。三井を寝取られたと勘違ひしたさゆりは実はこの人は一欠片も悪くない美保と決裂、何時もの買物メモを破り捨てると家を出る。さゆりの名前を餌に教室に誘き出した美保を、芳田正浩に続き―正常位で―陵辱する、中島光司に覆ひ被さつた、マイを芳田正浩が後背位で貫く。一方前方、美保に顔面騎乗したユウコが、最後に文字通りの一列に加はつた美鈴にクンニ。と、最早左腕しか映らない吉行由美が何処に居るのか殆ど判らない、改めて整理すると画面左から右に芳田正浩→マイ→中島光司→美保→ユウコ→美鈴といふ何と総勢六人が連なる怒涛のシークエンスは確かに見応へあるものの、正直画的にはゾンビ映画に近いものがある。要はこの男が諸悪の根源である三井だか元々は大曽根が、さゆりを除いたブルセラ隊に自身と小泉姉妹の何れに与するのか迫る頓珍漢なクライマックスは、幾ら小林悟とて正体不明、あるいは没論理にクラクラ来る。詰まるところさゆりと三井のミーツとDM―メールではなくメモ―を男のポケットに捻じ込む捨て身の販促以外には、ブルセラ隊が悪びれもせずに暴走する本筋に痴漢電車が掠りもしないヤル気なり工夫のなさも、大御大相手に不遜な野暮をいふやうだが大いに頂けない。電車痴漢が起承転結に如何に絡むのかは、たとへば怪獣が出現する理由と同等の、ジャンル映画の雌雄を決する論理的な肝といへるのではなからうか。

 配役残り、木根尚登みたいなグラサンをかけると案外イケメンな国沢実は、三井が「恵美《17》処女 私、バイブが癖になりさう」をプレゼンする卸問屋、但し声はアテレコ。本当に出て来るのか不安にさせられた港雄一は、最終的に何故か和解、二人して電車で出かけた美保とさゆりに、ちよつかいを出す『週刊実話』氏。オーラスまで出し惜しんだ割に、多少尻を撫でるだけで―あの港雄一にしては―何するでもない。

 付記< 美鈴とユウコの配役は、ビリング通りの美咲江梨子と南悠里で確定


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 「異常露出 見せたがり」(1996/製作:多呂プロ/配給:大蔵映画/出演・脚本・監督:荒木太郎/撮影:斉藤幸一・佐藤文男/照明:興津海鳴/編集:酒井正次とボーイズ/助監督:国沢実/音楽:若林大記/スチール:山崎邦紀/応援:田島政明・大町孝三/録音:ニューメグロスタジオ/効果:協立音響/現像:東映化学/協力:アウトグロウ 佐野和宏、福島清和・旦々舎 浜野佐知、山崎邦紀・東京UT・児島荘・大高正大・天野綱人・大原荘/出演:工藤翔子・林由美香・五代暁子・佐々木共輔・今泉浩一・桃井良子・国沢実・大町孝三・広瀬寛巳/特別出演:池島ゆたか)。
 女の部屋にて、真二(荒木)と花枝(林)の情事。クンニの途中で真二がカメラの方を向き不穏な気配を察してみせるのは、師匠の北沢幸雄から拝借した手法かと思ひきや、北沢幸雄の方が後だつた。事後、自堕落さに匙を投げた花枝から寝耳に水の別れを切り出された真二は追ひ出され、唯一の私有財産であるおんぼろのライトバン―以下キャラバン―で逃走する。仕方なく走るキャラバンと、運転席の、キャラバンに手をかけイェーイ☆とポーズを取る真二のスナップを抜いてタイトル・イン。車中で寝るかとした真二は、女の悲鳴に飛び起きる。デートに誘つた晩熟客(今泉)に襲はれた風俗嬢・桃子(工藤)を助けた真二は、ひとまづキャラバンに担ぎ込む。後述する国沢実や池島ゆたかの出番を経て、キャラバンは桃子の実家に。そこでは桃子の姉(五代)が、療養生活を送つてゐた。姉と近親同性愛の関係にあつた桃子は手を切らうと、西村(佐々木)を五代暁子に差し向ける。西村に犯された多分真性ビアンの姉は、事の最中から―きれいな―廃人状態に陥り未だ回復の兆しは見られなかつた。そのことを真二に打ち明けた桃子は、出し抜けに真二との白黒ショーを持ちかける。それにしても、まさか五代暁子の本格的な濡れ場―工藤翔子との百合と計二戦―を拝めるとはと、十二分に商品化に堪へ得る美しいプロポーションとともに驚かされた。
 洋泉社刊の『女優 林由美香』によると当初は別にさういふつもりでもなかつたらしい、荒木太郎のデビュー作が、同時にキャラバン野郎シリーズ第一作。花枝と(一旦)別れた真二が主演女優と出会ひ、白黒ショーを開く。シリーズのフォーマットが、要は偶然の産物として既に出来上がつてゐた点は興味深い。それと、このことに正しくこの期に気付くのも我ながら果てしなく間が抜けてゐると呆れぬでもないが、三行半に際して花枝曰く「真二クンにはキャラバンがあるから大丈夫よ」。逆からいへばキャラバンしか持たない真二が、如何にそのキャラバンを所有するに至つたのか。親から勘当の餞別代りにキャラバンを持たされた、2006年第二作「桃色仁義 姐御の白い肌」(脚本:三上紗恵子・荒木太郎/主演:美咲ゆりあ)に於けるヒロインの弟・純太(桂健太郎/荒木太郎のアテレコ)に、真二の過去の原型を求め得るのかも知れない。今作単体に話を戻すと、ちぐはぐな箇所が散見され、物語的には然程面白くはない。国沢実から月給並の大枚を受け取つた桃子が、「要らないつていつたのに」といふのはそれならば一体どういふつもりだつたんだといふ話で、要は姉を壊した桃子に対し、真二が「君、酷い目ばかり遭つてやしないか」といふのもピントがずれるか、平衡を失してゐる。代つて特筆すべきは、寄ると心臓が止まる病気にでも罹つてゐるのか!?といふほどに、闇ッ雲にロングを多用も通り越して濫用する撮影。キャラバンが走る風景的なショットだけでなく、役者が芝居してゐる場面に際しても、小屋で観てゐてさへ表情なんて全く見えまいと軽やかに太鼓判を捺せるくらゐに兎にも角にも画が引いて引いて引き倒す。路地越しに建物と建物の僅かな隙間を、一瞬だけキャラバンがチラッと横切るカットなどには、恐らくルーキーの演出部そつちのけに大ベテランの撮影部がノリノリで独走する風情も窺へ微笑ましいとするのは、素人の勘繰りであらうか。そんな縦横無尽な撮影部が唯一躓くのが、桃子が真二を放置し西村と―真二が今しがた取つた―ホテルの部屋に入ると、そこはすすきヶ原で二人は全裸、といふ果敢な一幕。ここで工藤翔子の顔にライトを当てるのは判るが、オッパイも見せないでどうする、狙ひ過ぎた陰影が裸映画の前髪を掴み損ねてゐる。下手に思はせぶりなばかりの桃子と西村の遣り取りも弱く、それまでそこそこの始終が、選りにも選つて派手な見せ場で失速するのは御愛嬌。初陣の荒木太郎がようしハイライトだと繰り出した大技で、素直に仕出かしてしまつた感は強い。

 配役残り改めて国沢実は、既に真二と男女の仲になつた桃子が、歯を磨く真二の眼前キャラバンに連れ込む浴衣男。ここもカメラは果てしなく引いてゐて、浴衣が国沢実だといふのはキャラバン内の絡みに突入するまで判らない。池島ゆたかは、自由気儘な放浪生活を満喫する桃子を、能書を垂れながら犯す男、大町孝三は池島ゆたかの連れ。「好きだな、発展して行く日本の便利主義に対する、これはアンチテーゼ、だな」と森の中眠る桃子に近付く、池島ゆたかの台詞のまるでアテ書きされたかのやうな底の浅さが絶品。桃井良子は、五代暁子の面倒を見る看護婦。予想外の長髪だと印象がガラッと変る広瀬寛巳は、ショーの最初の客。最初に木戸銭を幾ら取るのか知らないけど、追銭三千円で尺八といふのは安い、と思ふ。


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