真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「人妻 濃密な交はり」(2005/製作:国映株式会社・新東宝映画株式会社/製作協力:Vシアター/配給:新東宝映画/監督:勝山茂雄/脚本:奥津正人/企画:朝倉大介/プロデューサー:衣川仲人・森田一人・増子恭一/音楽:黒木和男/撮影:石井浩一/照明:椎原教貴/編集:酒井正次/助監督:永井卓爾/スチール:大崎正浩/タイトル:道川昭/録音:シネ・キャビン/現像:東映ラボ・テック/監督助手:清水雅美・小林憲史/撮影助手:灰原隆裕/照明助手:松本勝治/協力:いちごみるく・江口美帆・加藤ともみ・金野学武・小林しゅり・武田和・田中雄也・張敬隆・戸川健二・福島直哉・渡邊さとみ・高田宝重・田尻裕司・榎本敏郎・坂本礼・石川謙・山内洋子・伊藤一平・朝生賀子・佐々木靖之・田山雅哉・坂場裕輔・早稲田太郎・ホテルシルク/出演:真田ゆかり・川瀬陽太・飯沢もも・星野つぐみ・石川裕一・伊藤猛・村松和輝・前田優次・花塚いづみ・大槻修治・高橋大祐・森永健司・安西秀之・松島圭二朗・蔵内彰夫)。闇雲な頭数の俳優部は、全員ポスターにも名前が載る。
 河川敷でサッカーする一団を、土手から川瀬陽太と真田ゆかりが眺める。プツッと音もしさうに、唐突に暗転してタイトル・イン。自称ex.天才サッカー少年の、友田組組員・児山浩志(川瀬)の携帯に、弟分のシン(石川)からキナ臭い電話が入る。友田組が両友会と交した取引で、ブツは両友会の手許に渡つてゐなかつた。にも関わらず、友田組は出世を餌に、両友会からの集金を浩志に指示。あからさまに危ない橋にシンは一旦隠れるやう浩志に促す一方、妻の恵美(真田)やもう一人弟分の鉄男(村松)らの処遇も鑑み、大概怖気づきながらも浩志は腹を括る。括るといふか、逃げる意気地もなかつたといふか。
 配役残り、飯沢ももは浩志が店長を務めるPUB「LUCK」―シンと鉄男も従業員、恐らく恵美がママ―の、チーママ・ミズキ。ビリング前後して大槻修治と伊藤猛は、友田組組長と、浩志の兄貴分・本橋。組長なり社長なり、兎に角トップが室内でパターゴルフに興じてゐる、クリシェの清々しさに尻子玉が抜けさうになる。安西秀之と松島圭二朗は両友会組員、2011年に窃盗でパクられ俳優業を引退した、森永健司が両友会の偉いさん、蔵内彰夫は森健の舎弟。高橋大祐は、元々は浩志よりも上の序列にあつた本橋舎弟。そしてゴリゴリのロリ体型が、軽い罪悪感をも誘起する星野つぐみは両友会に出張る前の浩志が、長財布ごと貰つたお祝ひで本橋の薦めに従ひ、スッキリして来る泡姫のチサト。信仰自体に興味はあるらしく、ダイエットのメソッド感覚で、色んな宗教をお試ししてみるなかなかの逸材。シンは知りつつ浩志には未だ打ち明けてゐないまゝに、恵美は妊娠してゐた。花塚いづみは暫くサボッてゐた検診を恵美が受けに行く、若き美人開業医・後藤。えゝと、これで全部かな。いや、誰か忘れてないか。とかいふ含みはひとまづ通り過ぎるとして、大分フレーム内に投入されてゐる―もしかしてアバンのサッカーも?―と思しき、協力勢はホステス込みのパブラック店内を主に、あと後藤医院の院内エキストラ。その中一際目を引くのが、全体どういふ設定になつてゐるのか、壁際の席で妙にちやほや接待され御満悦な高田宝重の存在感と、地味な晴れ舞台ぶり。
 小屋にてよほど腹に据ゑかねたのか、以前といふか昔に書き散らかした感想が我ながら質はおろか、量からぞんざいな代物につき、潔く全面的にやり直すことにした国映大戦第五十戦。雑に、もといザッと探してみた感じ勝山茂雄が今作以後、Vシネも撮つてゐる形跡が見当たらない、PVその他は知らん。
 幹部バッジと引き換へに、正しく詰め腹切らされるチンピラと、その周囲の物語。風評被害の類と大差ない、純然たる迸りでしかないがビデオマーケットの、“風俗の世界と極道の世界が夜の街で交錯する官能ドラマ”だなどと、途轍もなくどうでもいゝキャプションが生温かく琴線を撫でる。惹句とは果たして何ぞや、何気に根源的な難題も兎も角、野暮を一応ツッコんでおくと、チサトの店に浩志がヌキに行くのは真昼間である。
 多分坂本礼が浩志の土座衛門を発見して以降、遺された者達が最終的には、銘々何となく新しい日々を適当に歩き始める。要は終盤何も起こらない、水のやうなラストには当サイトも加齢に伴ひ、幾分丸くはなつたかそれとも直截に枯れたのか、この期に及ぶと腹も立ちはしない。尤も、面白い以前に詰まらなくないとも論を俟たず一言たりとていふてはゐない。浩志の匂ひが残るヤサを捨て、何処かに越して行く恵美はまだしも。友田組の腹積もりがよく判らないが、相変らず営業を継続するパブラック。無闇に爆ぜればいゝといふものでもないにせよ、ミズキと鉄男が何故か距離を近づける様子に、相好を崩すシンの姿には流石にこんならそがな腑抜けたザマでえゝんかと、レイジ混じりの疑問も禁じ難い。前回怒髪冠を衝き破つた、台詞の聞こえなさ―ヘッドフォンでもあちこち聞こえない―に関してはどうやら録音レベル云々いふより、寧ろ元々俳優部の口跡からそこかしこ覚束なかつた模様。といつて原田眞人でもあるまいし、俳優部が心許ないのなら録音部が補ひ観客の円滑な鑑賞なり視聴を妨げぬやう努めるのが、商業映画の基本的どころか原初的に然るべき形なのではなからうか。
 新たな今回の発見が、唯々純粋に面白くなく詰まらない、訳でも必ずしもなく。グルッと一周する、破壊力に長けたある意味見所がしかも二点。まづ最初は在り来りに薄汚れた渡世に、舞ひ降りたリスカ傷だらけの天使、になり損なふ三番手。浩志でその日の仕事が終る、わざわざ布石まで御丁寧に敷いた上で。チサトが往来をほてほて歩いてゐるまさかの再登場には、完全に一幕・アンド・アウェイの裸要員かと思はせておいて、再び飛び込んで来た三番手が展開上重要な一翼を担ふか、一撃必殺のエモーションを撃ち抜く。ピンクのある意味枷を逆手にとつた、鮮烈な大技がキマるのかと脊髄で折り返してときめいたのは、勿論粗忽な早とちり。そもそも、もしも仮に万が一そんな一発大逆転が決まつてゐたとしたら、過去に斯くも無体な感触に収まつてゐる筈がなく。結局車で拉致られる浩志と交錯しかけ、るに過ぎないチサトが最終的にはラブホに二三本陰毛でも生やした程度の、教会ぽい建物に目を留めて終り、だとか難解なシークエンスには眩暈がした。含みを持たせ過ぎたのか単なる不調法か、何がしたいのか何を描きたいのか雲も掴みかねる。火に油を注いで凄まじいのが、木に締めの濡れ場を接ぐためにのみ登場する前田優次。辞した本橋をシンが追つた、けれど特に何事も発生しない対峙を経て。藪から棒に謎の前田優次とホテルに入つた恵美が、手短に寝る。誰そいつ!?あるいは、何で浩志と死別したばかりの恵美が、ほかの男とヤッてんのよ?といつた火花の如く脳裏に飛び交ふ至極全うな疑問は、一切全く一欠片も顧みられない。実はその一幕で主演女優が三回、二番手が二回に三番手は大人しく一回きり。一種の黄金律的な、数字のバランスを完成させてゐるともいへ、こゝまで派手にブッ壊れてゐるとはよもや思はなかつた。へべれけに温存された三番手が、遅きに失するにもほどがある土壇場に至つて映画を逆の意味で見事に詰んでのける、荒木太郎にすら劣るとも勝らない壮絶か凄惨な大爆砕。それが荒木太郎の罪なのか、三上紗恵子に帰すべき責なのかはさて措き。裸映画に話を絞ると―よしんば片方向にせよ―何れも完遂にまで漕ぎつける、濡れ場自体は案外オーソドックスで、満更でもない。さうは、いふてもだな。女と男がエッサカホイサカ、入れポン出しポン励む画にまるで茶店のBGMみたいな、クラシックのイージーリスニングを鳴らすセンスは如何なものか。劇伴で、煽情性をスポイルしてどうするの。総じては想像を超えた酷さに、それはそれとしてベクトルの正負は問はない、絶対値のデカい感興は覚えた一作。とりあへず、前田優次のアヴァンギャルドな起用法には本当に度肝を抜かれた。前田優次前田優次いふてるが、別に前田優次は全然悪くない。
 数少ない正方向のハイライトが、組関係の人間が誰一人顔を出さない、児山家葬儀会場に本橋が現れる件。遠目に長身の本橋が入つて来るカットと、恵美は受け取つて呉れなかつた、分厚い香典をシンに押しつけ立ち去るカット。丈に恵まれた体躯を気持ち持て余す、伊藤猛のロングが箆棒に映える。今なら、稀有なビート弾けるそのショットの一点突破で、木戸銭の元も決して取れなくはない。体調と、機嫌さへよければ。


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 「淫行家族 義母と女房の妹」(1997/制作:セメントマッチ/配給:大蔵映画/監督:池島ゆたか/脚本:五代暁子/プロデューサー:大蔵雅彦/撮影:千葉幸男/照明:高原賢一/編集:酒井正次/助監督:佐藤吏/撮影助手:諸星光太郎/照明助手:原康二/録音:シネキャビン/スチール:津田一郎/タイトル:道川昭/現像:東映化学/出演:木下敦仁・佐々木基子・伊藤清美・飯田孝男・館山あかり・神戸顕一⦅特別出演⦆)。
 堂々たる自己紹介モノローグで、野村さとし三十三歳(木下)大登場。電算機メーカーで開発に携はり、仕事後は真直ぐ郊外の自宅に帰る野村が家庭に恵まれ幸福である旨まで述べた上で、暗転して仰々しいかおどろおどろしいタイトル・イン。アバンは大蔵雅彦と、五代暁子のクレジットのみ一旦先行。何気に表札は白テープか何かで隠された、毎度毎度の津田一郎宅に辿り着いたさとしを、妻の久美(佐々木)以下、義母の静子(伊藤)と義父・晃一(飯田)に、義妹・エリカ(館山)の声が順々に迎へる。凡庸と不自然の境界で揺れる不安定なシークエンスに対し、画は何の色気も変哲もない固定された玄関口ロングといふ、二つの無造作のダイヤモンドクロスが、不条理の領域に突入しかねない不穏は不穏なタイトルバック。
 寝室に入つて来た久美が右足を引いてゐるのが偶さかこの時、佐々木基子がプライベートで怪我でもしてゐたのかと思ひきや、予想外の不具設定。とは、いへ。ベットの上では久美が足の不自由を感じさせない、夫婦生活の熱戦を覗いてゐた静子と晃一が、自身らも励みかけるも、晃一が年波に屈し中折れ気味に終る。間違ひなく翌日、駅前で義息を待ち構へてゐた晃一は、折入つた頼みを野村に耳打ち。その際に野村が洩らす、「さう、たとへばこんなこともあるのだ」とかいふ、まるで周知安が書いてゐて芳田正浩が読みさうなリズムの独白に、実は半ば実相が見えてゐもした。久美は眠るベッドを脱け出した野村は、晃一も交へた巴戦的に静子を抱く。一戦を、今度はエリカが覗いてゐて、エリカはエリカでワンマンショー遂行。二つの濡れ場が、目まぐるしく交錯するピンク映画らしいカットバックが清々しい。
 配役残り、神戸顕一は最後にさとしが出勤した、といふか去つた津田スタに、機材車みたいなワゴンで四人を迎へに行く社長。明後日からの次の現場が、山梨の旅館で期間は三日間、水上荘で次の映画の撮影でもするのかよ
 三ヶ月後の次作「巨乳・美乳・淫乳 ~揉みくらべ~」(脚本:五代暁子/主演:槙原めぐみ/二番手)と、二本しか活動の形跡が見当たらない謎の女優部・館山あかりが三番手に控へる、池島ゆたか1997年第二作。ほかの誰でも別に構はない館山あかりは兎も角、より深く揉みくらべとリンクしてゐる―かも知れない―点が、久美が風呂から上がつて来るのを待つ間、さとしが床の中で読んでゐるのが原田宗典の『何者でもない』(1992)。終に自身の輪郭を捕まへきらなかつた、ヒロイン像の核がこの時点で既に池島ゆたかの中にあつた可能性を窺はせつつ、よくよく考へてみるに、今作自体にも決して掠つてゐなくはない。
 結婚した男が妻のみならず、妻の母なり妹―の女体―をも頂戴する、俄かなハーレム生活をマン喫する、何処のオッサン週刊誌なら。下手な鉄砲を流石にそろそろかいよいよ本当に撃ち尽くす?量産型裸映画のそこそこ長い歴史にあつて、累計三億本は撮られてゐたにさうゐない類型的な物語に、劇映画的な旨味はひとまづもふたまづも特にない。反面、表情筋以外の動きが乏しい、といふかほとんど動かない飯田孝男の逆マグロぶりさへ等閑視するならば、卒はないけど中身もない濡れ場がひた走る始終が、裸映画的にはとりあへず安定する。全員喫煙者の賭けポーカーと、当初は藪蛇にも思へた跛行造形を地味な火種に、ホームドラマの卓袱台を豪快に引つ繰り返してのける結末は、池島ゆたかの演出部としてもな鈍さに幾分以上だか以下に足を引かれ、必ずしも鮮烈な印象を残すほどのものではない。尤も、当人同士男の約束とやらに悪し様にいへば縛られた、デフォルト俳優部・神戸顕一の起用法としては案外完璧で、深夜薬を飲む夫に久美が目を留めるカットを、エリカ改めマユコのぞんざいな詮索で回収する一手には軽く驚いた。兎にも角にも、あるいは要は。大した深みもない薄いネタでの一発勝負と来た日には、幕引きの手際に長けた深町章の如く、チャッチャとオチを割ると、観客の感興が醒めないうちにとつとと映画ごと畳んでしまふ。それを大蔵が許す許さないはさて措き、何なら六十分も丸々は使はない、高速戦に持ち込むに如くはないのではなからうか。社長自らハンドルを握るワゴンの出発を、俯瞰で暫し回した末、海岸を長々とパンした先で漸く木下敦仁がフレームに入つて来るまどろこしさに、世評と違へ当サイトは俳優部としても演出部としても大根と難じる、池島ゆたかが池島ゆたかであるところの所以が透けて見えるともいへる。
 備忘録< さとしは一週間の外出許可を貰つてゐた、神顕率ゐる(有)イメクラファミリーの利用者。南酒々井から病院に戻つたさとしを迎へる、担当医の声は池島ゆたか


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 「密室暴行魔 剥き出せ」(1994『エレベーター暴行魔』の2000年旧作改題版/企画・製作:オフィス・コウワ/提供:Xces Film/監督:坂本太/脚本:小渕アキラ/プロデューサー:高橋講和/撮影:紀野正人/照明:斉藤久晃/編集:金子尚樹/製作担当:堀田学/助監督:佐々木乃武良/音楽:伊東善行/録音:ニューメグロスタジオ/効果:協立音響/撮影助手:塚園直樹/照明助手:新井豊/メイク:大塚春江/スチール:小島浩/現像:東映化学/出演:森田美保・摩子・本城未織・樹かず・真央元・平賀勘一)。
 夫婦の寝室に俳優部先行でクレジット起動、夫の平賀勘一が床を離れる。タオカ?マサキ(平賀)が手鞄から、恐らく勤務先にでも届いた匿名の手紙を取り出す。粗いコラージュの、形式以上にぞんざいな文面は“妻道子犯した”、“女二人ウラ切り”、“お前笑ひ者”―原文は珍かな―とかいふもの。実に怪文書な怪文書を握り潰したマサキが眠る妻を見やり、道子も暗がりの中目は覚ます。職業婦人のサトミ(摩子)が颯爽と歩く、オフィス街の往来にスタッフ、自宅マンションのエレベーター扉に坂本太のクレジット。降りかけたサトミが、お面で顔を隠した暴漢に襲撃されるタイミングで暗転タイトル・イン。坂本太の急逝からかれこれ十一年、気づくと当サイトは享年に追ひ着いてゐた。
 改めて、剥かれた勢ひで悩ましく躍る、摩子の乳房がエクストリームなエレベーター暴行。顔面面積の広さを際立たせる、アップの髪型は必ずしも似合つてゐないけれど。実は張形でしたのトリックで茶を濁すでなく、最後は顔に精を放ちお面レイパーは立ち去る。乗降口に倒れ込んだ、サトミのお胸で折り返す自動ドアがエモい。サトミはその体験を、飲食店を経営する友人・カオリ(本城)に相談。サトミとカオリは二年前、当時二人が好きだつたマサキが、矢張り共通の友人である道子(森田)を選んだ一般的な失恋に岡惚れを暴発。各々の男を駆り出し、マサキの眼前道子を凌辱させてゐた。こゝで、厳密には輪姦でなく後述するヒロシは、道子に挿れてゐない。サトミが疑ふマサキによる復讐を、カオリは否定。一件といふか立派な事件を経てなほ、マサキは道子と結婚した、ものの。以来マサキが不能であるのを、道子からカオリは聞き知つてゐた。どれだけ仲がいゝのか、それ他人にいふかね。といふ疑問はさて措き、更にもう一箇所、より本質的であるのやも知れない、神を宿しかねない些末。あとの二人は何れも昇降機に乗らうかとしたところ、中から出て来た暴行魔に犯されてゐるゆゑ、実際狭い箱の中で事が行はれるのは、二番手のみである。
 配役残り、真央元は店も二人でやつてゐる、カオリの恋人・タカユキ。厨房の奥で佳境の二人を、客席側から抜く本城未織第一戦。複雑な動線の予想される、撮影部が如何に寄つて行くものかある意味固唾を呑んでゐると、いはゆる駅弁の体位で俳優部の方から近づいて来る、逆カメラワークには意表を突かれた、単なるフィックスともいふ。樹かずはサトミの彼氏・ヒロシ、数が途方もなさすぎて数へる気にもならない、神戸軍団ワンペアをマオックスと形成す。
 エク動に未配信作が飛び込んで来た、坂本太1994年第二作、通算第三作。次作の「若奥様《秘》宅配便」(主演:赤木佐知)にも脚本を提供してゐる、小渕アキラのピンク参加は多分その二本きり、二つ以上名義を持つなら知らん。
 密室暴行の連鎖は、果たして怨嗟が生んだのか。確かにマサキが勃たないタオカ家の夫婦生活―未遂―と、離婚すら検討しなくもない苦悩を、道子がサトミとカオリに告白する件まで盛り込み、兎に角マサキではない筈の、サトミに続きカオリもレイプした暴行魔の正体や如何に。要は<マサキがエレベーターの中で回春を遂げた>、腰も砕ける馬鹿馬鹿しさと紙一重の、力業で捻じ込む底の抜けた大団円。を大人しくか臆面もなく振り抜いてみせれば、まだしもそれはそれでそれなりに、始終が落ち着きもしたものを。何れにせよ最初、もしくは二年前の凶行に関して、マサキにサトミとカオリを告発したコラテラル、もといコラ手紙の主は誰なのよといふ、豪快な謎が依然放置されるにせよ。
 にも、関らず。よもやのまさか、締めの濡れ場から一転、道子が居間にてうたゝ寝から覚める。驚天動地なり急転直下―もしくは垂直落下―の夢オチ風カットから、ホラーでありがちな無限イマジンに雪崩れ込む。藪蛇なオーラスで逆の意味で見事に、劇映画としては木端微塵に爆散した印象の強い、といふか感触しか残らない。反面、撮りやうによつて超絶美人にも、壮絶な馬面にも映る。ニュートラルな姓名でその他活動の痕跡を追ひやうのない主演女優が、摩子に正しく勝るとも劣らないヤバいオッパイを誇り、“最も美人の三番手”、本城未織(a.k.a.林田ちなみ)が最も得意とする位置をガッチリ守る女優部は盤石にして完璧。平勘に重たいあるいは暗い芝居が比較的柄でない点にさへ目を瞑ると、介錯する男優部も手練れを揃へ、三番手ですら二回戦。ビリング頭二人は堂々と三戦づつ―正確には二番手はプラス0.5戦―戦ふ、頑丈な絡みが矢継ぎ早に繰り出され続ける、終始高いテンションを保つ裸映画的には全く以て申し分ない。エクセスこゝにありを叩き込む、フラッグシップ的な一作。四の五の小癪な能書なんぞ垂れず、黙つて女の裸に滾れ。さういふ姿勢も時に、あるいはさういふ態度こそピンク映画には必要なのでなからうか。


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 「女秘書の告白 果肉のしたゝり」(昭和51/製作:日活株式会社/監督:近藤幸彦/脚本:桃井章/プロデューサー:三浦朗/撮影:萩原憲治/照明:松下文雄/録音:古山恒夫/美術:林隆/編集:西村豊治/音楽:蓼科二郎/助監督:黒沢直輔/色彩計測:青柳勝義/現像:東洋現像所/製作担当者:栗原啓祐/出演:梢ひとみ・宮井えりな・笹尾桂・島村謙次・織田俊彦・伊藤弘一・八代康二・小林亘・西山直樹・北上忠行・影山英俊・露木護・菅原義夫・星野かずみ・あきじゅん・工藤麻屋)。出演者中小林亘と北上忠行に、露木護以降は本篇クレジットのみ。クレジットがスッ飛ばす、配給に関しては事実上“提供:Xces Film”。
 穏やかなギター鳴る中、豪奢な部屋にて全裸の主演女優が腰を折り、下着に御々足を通すファースト・カット。レースのカーテンに、指を添へた止め画にサクッとタイトル・イン。東都貿易社長秘書の影山綾子(梢)が出勤しようとすると、隣室に住む飲食店最低でも雇はれ店長の、美輪朋子(笹尾)は常連客の麻雀に捕まり朝帰り。部屋の鍵を太腿のガータに隠すのが、綾子が男を除けるお呪ひだつた、除けたいのか。所帯の大きさ的に、庶務課辺りと兼ねてゐるぽい秘書課に綾子が顔を出すと、その日が初出社の新入社員・伊藤和代(宮井)が殊勝に机なんか拭いてゐたりした。社長である村越正弘(伊藤)と一日の日程を確認、綾子が淡々と仕事をしてゐると、経理の峰健治(影山)が村越の決済を求め現れる。峰が綾子に気がある旨、女子社員らからは噂されてゐた。後述するその他仮面乱パ要員含め、社内を主に数十人単位のノンクレ俳優部がジャッブジャブ投入される。それ、なのに。
 配役残り、島村謙次はコピー室で和代を犯さうとする、課長の北村。かつて綾子も犯し、その代償として社長秘書に推挙した御仁。課長風情が色んな意味で箍の外れた権勢を振るふ、大丈夫なのかこの会社、社長だらうと許されるかバカタレ。綾子を初めて夜のプライベートに誘つた、村越が向かつた先は接岸してゐる客船。そこでは男女ともバタフライで顔を隠した上、男は揃ひの何か軍服、女は適当なドレスに着替へ、ゴージャスなカップル喫茶的に銘々のパートナーを取つ換へ引つ換へする、要は普通にパーティーらしい乱交パーティが繰り広げられてゐた。織田俊彦が、綾子を抱く小田敏夫。村越は、美青年・オサム(西山)と薔薇を咲かす。バタフライ越しにもその人と何となく看て取れる、八代康二と露木護がパーティ参加者男優部。ビリング末尾三人も、多分同じく女優部。一方娑婆では綾子のさりげないアシストも受け、和代と峰が距離を近づける。小林亘と北上忠行に菅原義夫は、路肩でカーセックロスに耽る、箆棒に無防備な峰の車を襲撃する労務者。三人に軽くシメられた影英が、和代―と愛車―を捨てすたこら逃げる無様で無体なシークエンスには、「えー!」的な感じで唖然とした。
 量産型娯楽映画界に於けるひとつの鬼門、初見の監督。地元駅前ロマンに着弾した近藤幸彦昭和51年第二作は、全十六作中通算第十四作。日活退社後は、潔くテレビ畑に転作ないしレッスンプロの道を選んだ模様、潔さの意味がよく判らない。
 一言で片づけると、そもそもな暗中摸索の火に油を注ぐ、まあ掴み処を欠いた一作。一時間を漫然と跨いだのち、村越が―オサムとはまた別の若い男と行つた―洋行土産で綾子に贈つた、結果的に忘れ形見と化す夜間飛行を、小田が意表を突く力技で案外スマートに固着。そこそこの落とし処に、漸く辿り着きこそすれ。満足に起動しない、物語らしい物語。抑揚に乏しい展開と、行間だけはガッバガバに広い、思はせぶりなばかりで何某かの結実を果たすでは特にない会話。それでゐて、所々で藪から棒か藪蛇に爆ぜる、正体不明の詩情。裸映画的にも裸映画的で、端的な即物性には背を向けながら、それでゐて何かほかのサムシングがある訳でも特にない濡れ場は、リズムからちぐはぐで煽情云々いふより、勃つ勃たない以前のフィジカルな違和感の方が寧ろ強い。アキレス腱はどうやら端からヒロインが惚れてゐるにしては、華なり魅力どころか、特徴すらない伊藤弘一、でなく、外堀の一切凡そ全く埋められない三番手。この人等もこの人等、綾子と朋子が百合の花薫らせる関係性を、ノーイントロで放り込んで来る随分な無造作さにも驚くにはあたらず呆れたが、そこがまだ、底ではなく。パーティ会場にて、矢鱈と綾子に小田を宛がはうとする謎の女が、朋子であつた大概な超飛躍にも吃驚しつつ、結局その時その場に朋子が乗船してゐた、所以なり経緯を一欠片たりとて説明しない、説明しかけもしない途轍もなく不親切な作劇には卒倒するかと思つた。そし、て。結構深い底をもなほブチ抜いてみせるといふか抜いてしまふのが、三羽烏に輪姦され、身も心も傷ついた和代の背中を朋子が押す、具体的な内容といふのが改めて島謙課長に自ら股を開き、引き換へに秘書の座―と綾子パイセンの如くハイソな生活―を手に入れるとかいふ有体に汚れた立身出世。綾子との遣り取りを窺ふに、どうやら真性ビアンと思しき朋子にとつて、そのへべれけなエンパワメントはシスターフッド的にどうなのよといふのが、果たしてこれも昭和ならば通つたのか、少なくとも2023年の感覚では別の意味での、映画の終りを確信するに至る超問題。あまりに酷いそこかしこの木端微塵ぶりに、桃井かおりの兄貴が書いた脚本を、近藤幸彦が相当弄り回した可能性をも疑ひたくなる消極的な問題作。一縷の望み、あるいは命綱が断たれた瞬間が、劇中第一次難破船ならぬ乱パ船の後日、村越が綾子に御馳走するレストラン。カット頭に、ウェイターで。小宮山玉樹が超絶の十八番タイミングで飛び込んで来てさへ呉れたなら、当サイトは脊髄で折り返す“コミタマキタ━━━(゚∀゚)━━━!!”の一撃で、木戸銭の元も取れたものを。

 第二次乱パ船、の導入。何か浮かんでゐるのは点々と灯る窓の灯で看て取れる、ものの。船の形が俄かには判然としない、単なる無作為にさうゐないほぼ闇夜の黒牛は、遂に撮影部までもが力尽きた断末魔。


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 「密着指導 教へてあげる」(2021/制作:Production Lenny/提供:オーピー映画/監督・脚本:小南敏也/プロデューサー:久保獅子/撮影・照明:今井哲郎/録音:大塚学/助監督:浅木大・貝原クリス亮/スチール:本田あきら/編集:小南敏也/撮影助手:高橋基史/制作応援:別府啓太・阪田翔太郎・渡邊創時/出演:古川いおり・金子雄也・栗林里莉・川瀬陽太・倖田李梨・ケイチャン・剣斗・麻木貴仁)。東ラボのクレジットがないのは、本篇ママ。
 成人映画館の実情を弁へぬ暗さ、ハモニカを吹かれ、女の影が妖しくうねる。一方、ワーワー大わらはで爆走する中年男のカットバック。進学校の数学教師・鈴原のぞみ(古川)が生徒の奏多(剣斗)と情を交す教室に、駆けつけた同僚(麻木)が轟然と怒鳴り込んで来る。口元に黒子のある奏多もろとも、麻木先生(超仮名)から激しく難詰されたのぞみが「何のために今まで頑張つて来たんだつけ?」、人生の目的を―改めて―見失ひ暗転タイトル・イン。それなりの距離を移動してその場に辿り着いた麻木貴仁が、その時そこで事が行はれてゐるのを、察知した経緯については綺麗に等閑視される。あと見える見えないのみならず、聞こえる聞こえないも全篇を通しあちこち弁へてゐない。ピンクの小屋を、普通の映画館と同じ塩梅で考へて貰つちや困る。今際の間際、もとい今更の限りのこの期に及んで、垂れる繰言でもないけどね(๑´ڡ`๑)
 手荷物と花束を携へた主演女優が、真直ぐな田舎道を歩く。抜けるやうな晴天にも恵まれた、美しいロング。盛夏ゆゑ盆なのか、母親の墓参に帰郷したのぞみが背後から迫り来る、軽自動車の道を塞ぐ形で熱中症的に昏倒する。車を運転してゐたのはのぞみにとつて高校時代の恩師で、今は家業の農業を継いでゐる佐々木良彦(川瀬)、同乗者は矢張りのぞみの同級生で、再婚の良彦と結婚した後妻の早苗(栗林)。後述する篤志の実母たる、前妻の去就は生死から一切語られない。墓地まで送つて貰つたのぞみは、佐々木家にも招かれる。淫行事件を機に無論退職、東京の家を引き払ひ、実家も消滅してゐるらしく要は仕事はおろか住所すらない。ある意味珍しい、のぞみが完全根なし草である点に着目した早苗は、良彦の息子で自宅浪人してゐる篤志(金子)の家庭教師を、おまけに住み込みで乞ふ。割と空前絶後の機知奇策が、良彦の大した介入もなく早苗主導でザックザク成立。篤志目線でいふと齢が十も離れてはゐまい、そもそも若き義母と同い歳の魅惑的なホームチューターが、しかも一つ屋根の下に転がり込んで来る。棚から雨霰と菱餅が降り注ぐ盛大なファンタジーを、早苗の強引ではあれ面倒見はいゝ造形の一点突破で固着するには、如何せん二番手が些か役不足。清水大敬とか森羅万象、旧い名前しか出て来ない女優部だと小川真実なり風間今日子辺りの、少々の無理をも力づくで通してのける圧を有した面子を連れて来るのでなければ、映画丸ごと底を抜いて雪崩れ込むくらゐしか流石に厳しいのではなからうか。さういふ、過大な大役を負はされた栗林里莉が、古川いおりが城定秀夫大蔵上陸作「悦楽交差点 オンナの裏に出会ふとき」(2015)と、加藤義一2019年第二作「人妻の吐息 淫らに愛して」(脚本:伊藤つばさ=加藤義一・星野スミレ=鎌田一利)・第三作「濡れ絵筆 家庭教師と息子の嫁」(脚本:深澤浩子)を経てのピンク第四作。といふのは頭にあつたが実は栗林里莉もこれまで、友松直之2014年第一作「強制飼育 OL肉奴隷」(脚本:百地優子/キャスティング協力:久保和明)と、竹洞哲也2015年第四作「色欲絵巻 千年の狂恋」(脚本:当方ボーカル=小松公典/二番手)に、髙原秀和大蔵第二作「トーキョー情歌 ふるへる乳首」(2018/うかみ綾乃と共同脚本/二番手)。なかなかバラエティないし破壊力に富んだ、アシッドなフィルモグラフィの出来上がる四戦目であつた。
 配役残り、倖田李梨とケイチャン(ex.けーすけ)は、何時の間にか死んでゐたのぞみの母・涼子と、壁の向かうで当時高校生ののぞみが耳を塞いでゐるにも関らず、クソ親が平然と連れ込む情夫。最低でも一件から半年は経過したラスト、見事か無事大学に合格した篤志を面接する家庭教師業者で、十八番の罵倒芸は凍結した―が台詞は普通にある―久保和明(a.k.a.久保獅子or久保奮迅or獅子奮迅)がノンクレ出演。その他、麻木先生がダッシュする廊下に一瞬見切れる生徒の人影と、高校時代のぞみを虐めてゐた、早苗を煽る声のみ女生徒なんて判る訳がない。
 要は今時ハイロー系のイケメンアクション版「闇金ウシジマくん」、「クロガラス」シリーズの小南敏也ピンク映画筆下し作、我ながら雑なイントロにもほどがある。小南敏也がR15+戦線向きにも一見思へ、昨今の新作本数自体が壊滅的に激減してゐる暴逆風の中、今後継戦するのか否かは全く以て不明。
 恐らく小遣ひの全額もブッ込み、鬱屈とした性欲を拗らせる浪人生の下に降臨したカテキョの女神が、やがて既視感も覚える高スペックを発揮しつつ、同様に悦楽交差点みも拭へない魔性の本性を現す。ノースリーブの脇から覗く肩紐と、背中を向けると透けるおブラジャー。高いテンションでスパークし続ける、超絶の目元と口元。演出と演技双方、メソッドのダサさ陳腐さ如き些末に一瞥だに呉れず、腹を括つた艶技指導に統べられ家庭教師もの、あるいは古川いおりもの的にはペッキペキに完璧。既に実績のある商業監督ゆゑ至極当然といへば当たり前なのか、量産型裸映画としては初陣にせよ、面白味か可愛気に欠けるほど手堅くまとまつてゐる。早苗が夫婦生活の際、良彦に目隠しを施すプレイを好む。端からある意味顕示的な布石が、のぞみの仕掛ける佐々木家制圧作戦に於いて見事に着弾。尺の僅少ささへさて措くと、崩壊したのぞみの家庭環境に担任の良彦が介入する構図で、三番手を展開に組み込む難事にも成功してゐる。反面、壊れる前と壊れてからしか描けなかつた、実は結構広大に空いた行間。切札を担ふに足る麻木貴仁でなく、最も存在感の薄い、アバンから飛び込んで来る刺客。序盤の超飛躍を充実した中盤で帳消しにしてなほ大いに余りあつた始終が、クライマックスで失速するきらひは否み難い。山場で蹴躓いたまゝ、結局ラストでも挽回出来ず。劇中都合三つ登場するプロミスを整理すると、口約束にしても元々甚だ覚束なく、挙句良彦が再婚した時点で、事実上無効化してゐる第一の約束。逆にのぞみが反故にした、物騒な報ひも受ける二番目の約束。最も新しい約束を、締めの濡れ場で麗しくもしくは堂々と、果たしてみせても罰はあたらなかつたのではなからうか。秤にかけた全体的な物語―の雰囲気―を優先して、裸映画に最後の最後で踏み込みきれなかつた印象を受ける。何れにしても、外の世間に出た途端吃驚するくらゐ画を保てなくなる、芯を感じさせない男優部主役の結構致命的な脆弱性は残されるのだけれど。


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