真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「未亡人の性 しつぽり濡れて」(1998/製作:多呂プロ/配給:大蔵映画/監督・出演:荒木太郎/脚本:内藤忠司/撮影:清水正二・岡宮裕/編集:酒井正次/制作:小林徹哉/演出助手:小林康宏/スチール:佐藤初太郎/録音:シネキャビン/現像:東映化学/協力:東京UT・ゆきなり/出演:西藤尚・坂本Q子⦅新人⦆・しのざきさとみ・白都翔一・内藤忠司・広瀬寛巳・今泉浩一)。
 大浴場、半身浴で律儀にオッパイを出した西藤尚が百まで数へると、湯の中から白都翔一が浮上する。白都翔一の活動は恐らく当年で終了、今作までに荒木太郎が二本撮つてゐる薔薇族にも出演してをらず、最初で最後の多呂プロ作となる筈。この辺り、最終的には全部通らないと正確なことがいへない、量産型娯楽映画ならではの盛大な藪の中。雅子(西藤)と東坊城貴麿か孝麿、それとも資麿(白都)の新婚旅行。割と庶民的な、そこら辺の温泉旅館で済ますのね。貸切つてゐるのか、単なる羽目を外した非常識か。今度は雅子が潜つての口唇性交に続き、湯船で対面座位を大敢行。二人で“天国”フラグを林立させた末、完遂後沈没。そのまゝ、貴麿は浮かんで来なかつた。正しく今際の間際を示す泡(あぶく)からカット跨いだ先が、白都翔一の遺影とかいふ未亡人ものならではの清々しいスピード感、やつゝけ仕事とかいふたら駄目だよ。喪服で悲嘆に暮れる雅子がワンマンショーをオッ始めつつ、貴麿が生前遺してゐた遺言を、白都翔一の声で語るモノローグ起動。曰く母屋を学生下宿にしてゐる、道志町―実際には村―の屋敷といふのが雅子の相続財産。雅子が離れで管理人を務めがてら、一年間は服喪期間として貞操を守れといふのが、西坊城家の従妹・ナヅナを後見人に立てた上での条件。如何にも、裸映画的な方便で真に麗しい。とまれバスに揺られ富士五湖にやつて来た雅子が、件の大原荘(山梨県道志村)に辿り着いてタイトル・イン。少なくとも、大原荘が2019年までは普通に営業してゐた形跡が見当たる反面、グーグル先生によれば現在は閉業してゐるとの諸行無常。試しにかけてみたが、電話番号も使はれてゐない。コロナ禍で力尽きたか、全く別個の理由かも知らんけど。
 配役残りしのざきさとみが、幼少期に大原荘で貴麿とお医者さんごつこもした仲のナヅナ。何故か東坊城家の財産を総取りせんと目論む、闇雲なヴィラネス。ナヅナの情夫ないしバター犬で、浅井嘉浩みたいなマスクを被つた探偵は、この時点では勿論不明。反時計回りの自己紹介、金髪の広瀬寛巳と普段通りの荒木太郎、途轍もなく名義で検索し辛い、謎の二番手が大原荘の店子。都の西北大学二年の縄早大と多摩多摩芸術大学三年の岡持太郎に、お茶汲み女子大学一年の御茶ノ水慶子。パッと見松木義方かと勘違ひした、内藤忠司はナヅナの紹介で大原荘に加はる、東京帝都大学の権俵助六、戯画的なバンカラ造形。この人が、ウルティモ探偵の中の人。どうでもいゝのがこの人等、そこから都内の大学に通ふのか、授業に出る気限りなくないだろ。ち、なみに。架空とはいへ富士村営バスの停留所が劇中美術で登場するゆゑ、富士の麓を隠す気も誤魔化しもしない模様。そして今泉浩一が、富士七里バス停に二本橋ロイドのグラサンで降り立つ謎の男。終盤―開き直つた説明台詞で―名乗る、その正体は貴麿にとつて無二の親友で、かつて雅子を巡り恋の鞘当てもした城之内か城ノ内旗三郎。ナヅナの蠢動を知り、ボスニアから緊急帰国。木に竹も接ぎ損なふ、徒なアクチュアリティではある。往時リアルタイムでキナ臭かつた、ボスニアなんて別に持ち出さなければいゝのに。最後に色情もとい式場バスに、ビリング順で坂本Q子・内藤忠司・広瀬寛巳・荒木太郎以下、総勢十名投入。二列目に小林徹哉、三列目に堀内満里子がゐる以外判らない。
 気づくとex.DMMのサブスクに、別館手つかずの荒木太郎を五本も眠らせてゐた、結構な粗忽に直面しての緊急出撃。薔薇族が一本先行しての、1998年ピンク映画第三作。なので中村幻児と、マリア茉莉は一旦お休み、荒木太郎が先。
 意図的に退行するか如き、大人の娯楽映画で児戯じみた小ふざけ悪ふざけに終始する。あの頃持て囃されてゐた荒木調ならぬ、当サイトが一貫して唾棄するところの荒木臭さへさて措けば、しのざきさとみを暫し温存してなほ、西藤尚と坂本Q子は寸暇を惜んで貪欲に脱ぎ倒し、女の裸的にはひとまづ安定する。ディルドを用ゐ尺八を無修正で見せる張尺の、弾幕ばりの乱打も大いに煽情的効果的。これ荒木太郎の自宅だつけ?離れにしては正直母屋から離れすぎてゐる掘立小屋。トタン屋根の上で西藤尚がガンッガン脱ぎ散らかしてみせるのは、後方に民家が普通に見切れ、通報されはしまいか無駄に肝を冷やす何気にスリリングなロケーション。最も素晴らしいのは、雅子の危機に旗三郎が駆けつけての、権俵の放逐後。恋と財産の何れが大事かと、一見雅子の背中をエモく押すかに思はせた慶子も、実はナヅナに買収されてゐた。ヒロインを狙ふ、姦計が二段構へで展開する巧みな構成は、荒木太郎は兎も角内藤忠司の名前は伊達ではないやうで実にお見事。同時進行する、全てを捨てる覚悟でオッ始めた雅子と旗三郎に、ナヅナと麗子が二人がかりで岡持の篭絡を試みる巴戦。女優部全軍投入で華麗に火花を散らすカットバックが、お話が最も膨らむ劇映画と、股間も膨らむ濡れ場双方のピークが連動する最大のハイライト。息するのやめてしまへ、俺。閑話休題、下手な抒情を狙ひ損ねる、その後のハチ公パートで幾分以上だか以下にモタつきながらも、ピンクで映画のピンク映画を、確かに一度はモノにした手応へのある一作。トンチキトンチキ空騒いでゐるうちに、気づくと大定番たる未亡人下宿的なテイストが極めて希薄なのは、大蔵からの御題の有無云々も兎も角、そもそも、荒木太郎にその手の志向なり嗜好が特になかつたのではなからうか。

 この年に改名した、西藤尚(ex.田中真琴)は第九回ピンク大賞に於ける新人女優賞に続き、1998年作を対象とする第十一回で遂に女優賞を受賞。しは、したものの。だらしのない口元とメソッドに、かつて大いに博してゐたアイドル的人気は、この期の未だに激しく理解に難い。一方、しのざきさとみもしのざきさとみで、終ぞ棒口跡の抜けなかつた愛染“塾長”恭子と同類の御仁につき。初顔の坂本Q子が、案外一番女優の風貌をしてゐる、変則的な力関係がそこはかとなく琴線に触れる。


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 「変態ざうさん 私の桃色指導」(2022/制作:ソフトボイルド/提供:オーピー映画/監督・脚本・編集:東盛直道/プロデューサー:澄田尚幸/音楽:荒川仁⦅東京 ClockWise⦆/撮影・照明:田中一光/録音:五十嵐猛/整音:阪口和/衣装:小栗はるひ/ヘアメイク:松森実衣/ヘアメイク応援:竹山樹蘭/衣装応援:梅川葉月/制作担当:鶴丸彩/助監督:古田七海・東海林怜水/撮影助手:大賀健護・松尾凌我・鈴木源也・梶谷裕治/音楽協力:神蔵守⦅東京 ClockWise⦆・三浦世名⦅東京 ClockWise⦆/小道具協力:小川春佳/製本協力:赤熊謙一/ロケ協力:株式会社プラネアール・HOTEL ATLAS・cafe COMADO/協力:Mine’S・アローズ・グンジ印刷株式会社/仕上げ:東映ラボ・テック⦅株⦆/出演:白桃はな・みやむ・辻芽愛里・鹿野裕介・伊神忠聡・竹本泰志・細井学・仙波恵理・成瀬義人・長沼真彦・髙橋一輝・淺田玲美)。出演者中、仙波恵理以降は本篇クレジットのみ。
 ざうさんのパンフレットで開巻、「エレファント保険」の営業職・伊藤ミナミ(白桃)の外回り。腐れ顧客・伊東(細井)の、手に触つて来るは夕食に誘ふは憚らうともしないセクハラぶりに、ミナミが溜息ひとつついてタイトル・イン。こゝとりあへず、ミナミが伊藤でクライアントも伊東、同じ音なのが不用意に紛らはしい、別にさうである理由もなからうに。
 エレファント保険営業部、今日も今日とて契約の取つて来れなかつた小森(鹿野)が、パター得物にパワハラ全開の鬼部長・権田に懲罰スクワットをさせられ、傍らではそこそこの成績らしい市原(伊神)が、その場を仕方なささうに見守つてゐる、といふか居合はせられてゐる。手ぶらで戻つたミナミがドン引きしてゐると、役職は不明ながら、市原目線でも上司らしい丸岡リョウコ(みやむ)も帰社する。権田との不倫の逢瀬後、ミナミと小森が偶さか鉢合はせたところに、飲み会帰りの丸岡と市原も上手いこと合流。四人はそのまゝ、高級ホテルばりに矢鱈ダダッ広くていゝ部屋の、丸岡宅で二次会に流れ込む。市原の粗いアルハラに潰された、ミナミが回復。怪しい気配に誘はれると四つん這ひにさせられた市原が、丸岡から菊穴を嬲られてゐた。
 配役残り辻芽愛里は、二人がかりの仕事を小森に押しつけ、「用事がある」と退社した市原が手配書を手に―刑事的にではなく―捕まへる、自転車窃盗犯・道明寺アヤコ。指名手配て、一人で何百台盗んだの。その他、本クレのみ隊は小森がミナミの桃色指導を受ける、過程に於いて随時投入される顧客要員。この中で、名義で検索して辿り着けるのは一人目ハット男の長沼真彦と、四組目夫婦の仙波恵理。消去法で、淺田玲美が二人目の仏頂面女子。問題が、三人目の劇中初めて小森が契約を取れた、若い男が実は赤熊謙一。成瀬義人と髙橋一輝の何れかは、徒な変名でも用ゐてたりするのかな、最後に残つた方が仙波恵理の配偶者役。余計な真似をと脊髄で折り返す雑なレイジを、あへて控へようとは思はない。
 予告は“『OP PICTURES』新人監督発掘プロジェクト2020審査員特別賞受賞”作である旨謳ふ、東盛直道デビュー作。みやむ以下鹿野裕介・伊神忠聡・竹本泰志続投の、第二作がフェス先行で既に封切られてゐる。ところでOPP+の2023フェスが、何気にスリリング。より正確にいふと、フェス作の本数が。全十六本中、ピンクで先に公開されてゐるのは三本、フェス先後、追ひ公開されたのが現時点で同じく三本。まだ、十本ある、十本も。乳とした、もとい遅々とした昨今の新作封切りペースで、全部消化するのに全体どれだけかゝるの、今年のフェスが始まつてまふぞ。
 閑話、休題。性感の開発によつて、女が男をコントロール。トッ散らかつた万事を、手練手管で平定する。実際出来上がつた映画を観た感じ、浜野佐知の如く頑強な思想に基づく一種の必然では必ずしもなく、事態を牽引する主体の性別に関しては所詮、最も大雑把に片づけると単なる二択、殊更喧伝する要は特にあるまい。小森の第二次資料作成残業、気づくと丸岡が其処にゐた。一番大事なカットでキレを欠くのが象徴的もしくは致命的な、劇映画としての面白味がいふほど見当たらない点―とベタな自己啓発臭―さへさて措くと、起承転結の推移を濡れ場で敷き詰めた、外様の初陣にしては下手な本隊作より余程、誠実な裸映画であるといふ印象が最も強い。とりわけ突出してゐるのが、チャリンコ専門の窃盗犯とか、木に竹を接ぐ突飛な造形としか思はせなかつた、アヤコで小森に科された咎を無効化。ミーツに際する繋ぎのぞんざいさは如何せん否めないにせよ、ピンクが構造的に強ひられる、三番手―の存在―を物語の進行に卒なく回収してみせる一見地味ながらなかなかの妙手には、さう来たか!と大いに唸らされた。表面的には力技のアクロバット且つ、案外頑丈な論理性が今作の白眉。小難しい芸術映画は知らんけど、娯楽映画といふ奴は基本理詰めで構築されるものと、当サイトは体感的に理解してゐる。反面、黙つて立つてゐるだけでどエロい妖艶な二番手に、傑出したサムシングに乏しい主演女優が喰はれ気味のビリング・キリングと、如何せん女優部三本柱と竹本泰志以外が―スタッフ含め―場数不足につき、概ね絡みが素材頼みのきらひは決して否めなくもない。逆の意味でのとりわけ、一欠片の魅力もない男主役がみやむの色香ですら隠し難い最大の難点。丸岡の下を飛び出した小森が、サクッと往来でミナミと邂逅を果たすへべれけな作劇―そこからの、インスタントな締めへの跨ぎ具合は、寧ろグルッと一周した清々しさ乃至らしさと言祝ぎたい―にも引つ繰り返つたが、それ以前に、小森が着てゐる部屋着以下のゴミみたいなボーダーは甚だ考へもの。苟も一本の商業映画の、ハイライトだぞ。衣装の小栗はるひは、誰に何を着せたといふのか。最終的に、フレームの中に入れず、何故か音効だけで事済ます自ら解除する丸岡が小森に施した限定と、タイトルバックでミナミと丸岡の手を往き来する小物、鍵?女の裸に忠実な分は大いに心強くもあれ、当然観客に対し顕示的に示しておいて然るべきものを、どういふ訳だか頑なに映さない謎の悪癖に足を引かれ、パッと見晴れやかなラストには反し、不用意な曇りも残す一作。最後に、市原とアヤコのミーツに関し再度細部をツッコんでおくと、SMT印サイモトの折り畳みミニベロなんて、いふたら何だけどプロが狙ふチャリンコでは全ッ然ない―個人的にはタダでも要らん―上、そもそもあんな公園の真中みたいな、馬鹿みたいに開けた場所でも作業しない気がする。


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 「宇能鴻一郎の濡れて悶える」(昭和55/製作・配給:株式会社にっかつ/監督:西村昭五郎/脚本:大工原正泰/原作:宇能鴻一郎⦅週刊ポスト連載⦆/プロデューサー:中川好久/撮影:山崎善弘/照明:田島武志/録音:伊藤晴康/美術:柳生一夫/編集:西村豊治/音楽:高田信/助監督:菅野隆/色彩計測:田村輝行/現像:東洋現像所/製作担当者:岩見良二/出演:原悦子・志麻いづみ・小川亜佐美・マリア茉莉・飛鳥裕子・高木均・坂本長利・小松方正・朝霧友香・佐藤弥生・沢木美伊子・田山涼成・浅見小四郎・高橋淳・影山英俊)。
 行進曲的な劇伴をズンチャカ鳴らし、聖フランチェスカ女子大学病院の正門表にタイトル・イン。タイトルバックは泌尿科―器が抜けてゐるのは本篇名札ママ―の女医・小佐根高子(志麻)以下、インターンのビリング順に土手野ジュンコ(原)・マリ子(マリア)・景子(佐藤)・ユカリ(沢木)が飾る。景子とユカリは、最初のカットで画面一番右、パーマの方がユカリ。
 「あたし女医の卵、今はインターンなんです」。本隊ロマポの初陣も宇能鴻一郎案件であつた、原悦子のウノコー調モノローグ、縮めてウノローグで麗しく火蓋を切る。“あたし”が男性器を見たことがないのと、処女である旨告白したのち、四人で繰り出すのはディスコ。神聖な医学の研究を方便に、要はチンコを捜す四人は中年男(小松)をマンハントする。選りにも選つて、何でまた小松方正に白羽の矢を立てた、ブレイブの度が過ぎる。
 配役残り、高木均と田山涼成は戯画的な好色社長の黒木雁高と、ベンツの運転手・吉田。飛鳥裕子は、黒木が高子に居抜き物件をプレゼントしようとした、閉鎖されてゐる「安芸診療所」にさうとは知らず、喉の不調を訴へ来院する和服妻。“あたし”は、立田診療所で内診のアルバイトを始める。2004年以降の現在は医師法第十六条の五を根拠に、一応禁止されてはゐる、往時は知らん。浅見小四郎と朝霧友香は裏口からも医大に入れないアホ息子の達彦と、“あたし”の診療所に到着時、嬌声で度肝を抜きはする、診察台でセックスしてゐる女子高生、シークエンスの詳細が本当に全く判らない。小川亜佐美は白痴造形の看護婦・伊井玉子で、坂本長利が達彦の父親にして院長の金造、母親に関しては綺麗に等閑視される。馬鹿にバッキバキに鍛へあげてゐる影山英俊は、トルコ風呂でバイトするマリ子の客。見学に行つた“あたし”も交へ、超絶の三輪車に突入してみせるのが裸映画的なハイライト。あたかも、劇映画上の佳境があるかのやうな言草ではないか。高橋淳は、神経性の胃炎に何を打たうとしたのか、玉子が間違へて充血促進注射液の「エチルペーストステロン」を、しかも棹に注射してしまふセイガクの患者。何だその薬、ナニを勃たせる以外何か使ひ途あるのか。
 一月五日封切りといふと、流石に第二弾には些か早く。軽く出遅れた正月映画と目して差し支へあるまい、西村昭五郎昭和55年第一作。小川亜佐美ですら三番手で五番手に控へるのが飛鳥裕子、まるで御節料理の如き豪勢な布陣で、謹賀新年に及んだ風情が窺へはする、とりあへず。
 尤も、幾ら肩肘張らないお気楽艶笑譚にせよ、ものには限度といふ奴がある。結局回復不能に、映画が完膚なきまでに爆散されるのが中盤。安芸診療所に誘き寄せ、薬で昏倒させた高子と“あたし”に、葱を背負つた鴨が勝手にやつて来る飛鳥裕子。普通に映画一本撮れる三人を黒木と吉田が、拘束して手籠めにするといふのに乳さへ剥きもせず、てんやわんやあるいはしどろもどろするに延々明け暮れる、どうしやうもないとでもしか匙の投げやうのないグダグダ空騒ぐ茶番に呆れる勿れ怒髪冠を衝く勿れ、総尺の1/4を優に空費する完全にブッ壊れた匙加減には引つ繰り返つた、飛鳥裕子何のために連れて来たの。繰り返す、今作二番手と五番手は、お乳首拝ませてゐない、あと朝霧友香も。その後も倅と結婚して医院を継ぐ、金造からの都合がよくしかない申し出に、何故か“あたし”が揺れる。果たしてこれも昭和ならば通つたのか、凡そ時代を超え難いペイトリアーキな一幕を通り過ぎた上で、特殊浴場の表で再会した吉田と“あたし”が、あらうことか何となくヨリを戻す。屁ほどの臭みもない霞より薄いラストまで、迎春を言祝ぐに足る賑々しさといふより寧ろ、右往左往に終始するへべれけさばかり保つたまゝ一直線、奈落の底ともいふ。所謂おとそ気分とやらで観る分には、これで案外ちやうどいゝ塩梅なのかも、知れないけれど。如何せん、当サイトは下戸につき。かうなると無駄に煌びやかな面子が寧ろ諸刃の剣、胡坐を掻いた感をも否めない一作ではある。


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 「スケバンマフィア ―肉《リンチ》刑―」(昭和55/製作・配給:株式会社にっかつ/監督:池田敏春/脚本:熊谷緑朗/原作:高山銀之助⦅スポニチ出版刊⦆/プロデューサー:細越省吾/撮影:森勝/照明:野口素胖/録音:橋本文雄/美術:徳田博/編集:井上治/音楽:しかたたかし作曲『ドリーム・トラヴェラー=ZAP』スリー・ブラインド・マイス・レコード・『ミミアフリカ=八木のぶお』ビクター・レコード/挿入曲:『スペクトラム』ビクター・レコード/助監督:川崎善広/色彩計測:青柳勝義/現像:東洋現像所/製作担当者:服部紹男/出演:倉吉朝子・大崎裕子⦅新人⦆・鹿沼えり・渡辺とく子・朝霧友香・石井雪江・河西健司・木島一郎・島村謙次・織田俊彦・玉井謙介・浜口竜哉・中平哲仟・大平忠行・伊豆見英輔・庄司三郎・由比ひろ子・高橋かず枝・小川恵⦅友情出演⦆・尾上和・吉田正彦/協力:青年企画・ウカイ企画・マキプロモーション)。出演者中、中平哲仟から高橋かず枝までと、尾上和・吉田正彦は本篇クレジットのみ。配給に関しては、事実上“提供:Xces Film”。
 家出娘のみき(倉吉)が大平忠行に―金で―抱かれ、傍らでは出奔メイトのハル子(大崎)がラブホテルのテレビでアダルトビデオか何か、兎も角ポルノを見て遊ぶ。ハル子と選手交代した、みきが開けた窓から吹き込む海風に男は中折れる。人目を憚り、制服で連れ込みを離脱するみきとハル子に、積木をくづした石井雪江がショバ荒らしのロックオン。ステレオタイプな昭和のスケバン・五月雨の梨沙(石井)が個別的具体性を廃した男の単車に乗り、走り去つてタイトル・イン。未だ援助交際なる調子のいゝ方便など存在せず、当事者が堂々と売春を公言してゐた清々しき時代。
 バンドを馘になつた山岡(河西)に、みきとハル子が合流。三人のミーツに関しては綺麗に等閑視したまゝ、山岡宅に二人が転がり込み、“お兄ちやん”と懐きつつ性交渉も普通に持つ夢のやうな共同生活が成立してゐた。ち、なみに。セックロスの相手が“お兄ちやん”とか聞た日には、我々世代のオタクが脊髄で折り返して勃起、もとい想起する、今や懐かしの「くりいむレモン」シリーズ第一作「媚・妹・Baby」は四年後、無論今作とは掠りもしない。閑話休題、男衆六人を従へ、三人と対峙した梨沙の左頬を、みきは躊躇ふことなく剃刀で切り裂き計七人を圧倒する、といふかドン引きさせる。
 配役残り、期末試験を受け、るつもりではあつたみきにロールスロイスで接触する渡辺とく子は、どうやら官憲をも動かし得ると思しき、謎の強大な権力を誇る今でいふ反社会的勢力「スケバンマフィア」率ゐるグランドマザー・綾子、梨沙もその成員。顔面の長さが際立つアップの髪型と、分不相応な強キャラ造形が似合はない鹿沼えりが、スケバンマフィアの親衛隊長・サチ子、綾子とは百合の花も咲かす。超絶のハマリ役ぶりを輝かせる島村謙次は、みきを買ふ助平男。たゞし二人の部屋に何故か、あるいは出し抜けに二人組の刑事(中平哲仟と伊豆見英輔)がガサ入れ。木に粉を接ぐ、覚醒剤使用容疑で連行しようとする。庄司三郎は、とりあへずスケバンマフィアに加はつたみきとハル子に、ヤスコ(朝霧)・ヨーコ(由比)・カズコ(高橋)ら五人の少女を面倒見させようと、山岡家に連れて行く女衒ポジの男・森田。正直、ヨーコとカズコは特定出来てゐない。みきとハル子が手引する、GONINの売春風景。抵抗する由比ひろ子か高橋かず枝に蹴り飛ばされる、玉井謙介がカットの隙間をすり抜けて行く。木島一郎は、結局スケバンマフィアを抜けようとしたハル子が、足を洗ふつもりで捕まへるトレンチの紳士・佐山久志。ところがこの御仁、化粧品どころか襦袢まで女装道具を持参する、大概な筋金入りであるのみならず、実は大企業の常務様。小川恵が、みきが乗り込んだ大亜何某―名刺が微妙に解読不能―の受付嬢。声でその人と知れこそするものの、人相を抜いて貰へてはゐない織田俊彦がみきに殴り倒される総務部長で、当然騒然とする総務部要員に、佐藤了一や小宮山玉樹がシレッと紛れ込んでゐたりする辺りが、ロマポ乃至にっかつならではの途轍もない層の厚さ。当サイトが気づいてゐないだけで、まだまだ他にもゐるにさうゐない。浜口竜哉は、スケバンマフィアにパイプを持ち、その場を収拾するネームド総務部・秋山。といつて、出番は一幕・アンド・アウェイ、しかし社員の面子の濃い会社だな。尾上和は、スケバンマフィアに採石場的なロケーションに拉致された、みきを犯す一人目の男、二人目は雑なビリング推定で吉田正彦か。カランバ式にみきの四肢をオートバイで轢くのでなく引く、もう何がしたいのかよく判らない、兎に角壮絶なリンチには無駄にハラハラした。
 ポスターには“第一回監督作品”特記の施される、池田敏春デビュー作。半年後、矢張り倉吉朝子主演で封切られるシリーズ一応第二作、斎藤信幸の「スケバンマフィア 恥辱」(高橋正康と共同脚本)は、倉吉朝子がスケバンマフィアに牙を剥く。といふフォーマットを踏襲してゐるばかりの、限りなく全く別個の物語である模様。ex.DMMで見られるゆゑ、そのうち気が向いたタイミングで触れてみる。
 追ひ詰められるや、みきは菊の御紋たる中平哲仟にさへ得物を抜きかけ、七台の単車を引き連れたサチ子の四つ輪は、公道を車線ガン無視で編隊走行してのける。矢鱈反骨なヒロインと無闇な巨大組織が激突する、ほとんどアナーキーな活劇。正しく無謀にも山岡が綾子をカッ攫つての、全体何処で撮影したのか徒歩コースターは、画だけで凄い文字通り捨て身のシークエンス。「ふざけないでよ」、「本気でこんなバカが出来るかよ」の遣り取りは手放しでカッコいゝ。尤も徒な暴力性と裸映画とが両立ないし親和してゐる訳では必ずしもなく、一見、比較的良心的かに錯覚させかねない濡れ場は、不用意に離れた距離から踏み込んで来ようとは別にしない。倉吉朝子が端々で獣の眼光を煌かせながらも、如何せん前後の繋ぎがキレを欠くのが、ソリッドを撃ち抜き損ねる地味なアキレス腱。そして、椿三十郎ばりの血飛沫を盛大に噴かせる、鮮烈は鮮烈な力技のラスト。絶望的なまでにモサーッとした、最早不可思議の領域にさへ突入する“スパッ”の逆の意味で凄まじいカット割りで、その甘さは弱点から致命傷へとグレードを上げる。それは果たして、上げてゐるのか下げてゐるのか。とまれ、この期に及んでビンシュンビンシュン有難がるには些か難い、粗も決して目立たなくない一作ではある。


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 「暴性族 襲ふ」(昭和54/製作:幻児プロダクション 作品 昭54.6/配給:ミリオンフィルム/監督:中村幻児/脚本:馬津天三/撮影:久我剛/照明:近藤兼太郎/助監督:岡孝通/編集:竹村編集室/記録:平侑子/音楽:山崎憲男/撮影助手:倉本和人/照明助手:佐久間宏/演出助手:張江肇/録音:東音スタジオ/現像:ハイラボセンター/スチール:津田一郎/出演:川口朱里・青野梨魔・杉佳代子・笹木ルミ・武藤樹一郎・国分二郎・松山英二・安田克也)。出演者中、青野梨魔がポスターには青野リマ。脚本の馬津天三は、掛川正幸の変名。
 前年にタイトーが開発、空前の大ブームを巻き起こしたインベーダーゲームのゲーム画面で開巻。悪友のジン(松山)共々、予備校にも一応通ふ浪人生であるにも関らず受験勉強に励むでなく。本来なら客を呼ぶテーブル筐体を独占して遊び惚ける弟のクニオ(安田)に、COFFEE & SNACK「ヒロ」を営む姉のクミコ(川口)が多面的な小言を垂れる。逆ギレ気味にジンと店を出たクニオは、ナンパを試みるもまるで上手く行かず。クニオを叩(はた)かうとした、ジンのシャツが弾みで手から離れ人が寝てゐる車の中に飛び込む、何気に難易度の高いシークエンスで二人は先輩の山岸(武藤)と再会する。こゝで、後述する杉佳代子がクニオやジンとは面識なささうな気配を窺ふに、山岸は中学の上級生?実際十代くらゐに映る安田克也や松山英二と並べばなほさら、生年が判らないけれど既に完全にオッサンの顔をした武藤樹一郎が、一つ二つの年齢差には凡そ見え難い件。は、兎も角。女を捕まへ損ねた後輩に、俺に任せとけ系のパイセン風を山岸が吹かせた流れで、改めてゲーム画面にタイトル・イン。
 配役残り青野梨魔は、何のかんの言ひ包め山岸の車に乗せ、適当なロケーションで輪姦す若妻。大概な凶悪犯罪を犯しておいて、三人で邪気もなく祝杯を挙げる「ヒロ」に現れる、国分二郎はクミコが結婚も考へる男・金子、但し別居中の妻子持ち。クニオに車の運転も教へた、テストドライバーあがりの自動車教習所教官、とかいふ取つてつけたやうな素性が終盤明かされる。その日は一人でホッつき歩いてゐた、クニオに往来で声をかける笹木ルミは高校の同級生で、女子大生のエリ。そして杉佳代子が、万引きで高校を退学させられた山岸がお礼参りに、例によつて後輩二人と車でカッ攫つて輪姦す女教師。幾ら昭和の、所業とはいへ。流石にヒャッハーの度が過ぎる、何で強姦が茶飯事なんだ。その他ヒロの客要員が若干名と、とりあへず更生したらしきクニオが目撃してしまふ、金子が旅館「たまはら」に連れ込む女が主なクレジットレス。
 六月に撮影して七月の頭には封切られた、中村幻児昭和54年第八作。正しく撮つて出しの興行もとい工業的なスピード感に重ね、当年全十三作といふのも凄まじい。この人がレッスンプロの道を選ばずに、そのまゝの勢ひで撮り倒してゐたとしたら。果たして世界はどう変つたらう、多分大して変らないんだろ。埒の明かない戯言はさて措き、この辺り監督云々いふよりも、ピンクの公開題なんて寧ろこの場合は大蔵の問題にほかならない気もしつつ、翌55年に市村譲が「少女暴性族」を抜け抜けと発表してのける、図々しさが清々しい。
 両親はどうしたのか姉の脛を齧る分際で、モラトリアムな青二才が自堕落な鬱屈を拗らせた挙句、無軌道無法に爆ぜる、割と元も子もない物語。少なくとも今の目からすると、化粧の粉臭い主演―の筈―の川口朱里や同様に時代の波を越え得ない青野梨魔より、ノーブルな女教師像を超絶の完成度でモノにした上で、細身の裸身が理不尽な暴虐に映える、杉佳代子が兎にも角にもポイントゲッター。車の中で突かれるうち、気づくと女教師の御々足が山岸の腰を抱へ込んでゐる。あくまで裸映画的には秀逸でなくもないカットには、吹き荒れよ浜野佐知のレイジ。アバンでは何処の馬の骨かと頭を抱へた安田克也と、初めは華のない小娘然とした―ロングの似合はない―笹木ルミも、映画が進むにつれ案外ハンサムに、一本気の可憐さを猛加速して俄然輝き始めるのは、演出部の勝利か。一方、徒(いたづら)といふかより直截には無駄にドラマチックな、金子の大説教は結局結実しはせず木に竹を接ぐ。僅少の頭数ゆゑ二三番手は二度づつ暴性族に襲はれ、一回戦は和姦の四番手も、二回戦で武藤樹一郎に犯される。反面、川口朱里は結構な序盤に、国分二郎相手にコッテリした絡みを一旦振り抜くにせよ、その後湯の一滴浴びもせず、実は破綻してゐるビリングの均衡―と尺の配分―は響かぬ訳がない。さうなると落とし処を見失ふかにも思はせた展開を、よもやのまさか、奈落の底に叩き込んでみせるんだな、これが。姉に対する金子の不義に逆上、出歯をヒッ掴み飛び出したクニオが、出合頭で<選りにも選つて山岸の車に撥ねられ死ぬ>、どうしやうもないとでもしかいひやうのない出し抜け且つ無体なラストは、心のこもらない選曲まで含めグルッと一周して完璧。ある意味量産型娯楽映画だからこそ許されたのかも知れない、力技中の力技ながら鮮烈は鮮烈な結末を、ゲームオーバー画面で綺麗に締め括る。


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 「挑発デリバリー 誰にも言へない裏メニュー」(2022/制作:ラブパンク/提供:オーピー映画/脚本・編集・監督:石川欣/プロデューサー:髙原秀和/撮影監督:田宮健彦/録音:百瀬賢一/助監督:須上和泰/演出部応援:末永賢・柿原利幸・堂ノ本敬太/制作応援:中村貞祐/メイク:ビューティー☆佐口/撮影協力:森川圭/制作担当:森山茂雄/スチール:本田あきら/撮影助手:宮原かおり/メイク助手:鈴木愛/仕上げ:東映ラボ・テック/使用楽曲:『A Little Love,little kiss』⦅Eddie Lang/public domain⦆・『Improvisation』⦅Django Reinhardt/public domain⦆・『Pavane pour une infante defunte』⦅Maurice Ravel/public domain⦆ ギター、カズー演奏:Arther Simon/出演:きみと歩実・加藤ツバキ・初愛ねんね・加藤絵莉・重松隆志・安藤ヒロキオ・稲田錠・仲野茂・小滝正大・加賀谷圭・柳沼宏孝・BATA・山鼻朝樹・高橋マシュー)。凄まじいこの期に及びぶりに我ながらクラクラ来るが、今となつてはとても同じ人間の監督作とは信じ難い、レガシー感すら漂ふ名作「痴漢バス バックもオーライ」(昭和62/主演:長谷川かおり)脚本の、アーサーシモンといふのは石川欣の変名だつたのね。石川欣が自ら鳴らす、劇伴のクレジットを見てゐて気がついた。といふか、ググッてみるにとうの昔にバカでもレベルの既知やがな、当サイトはバカ以下か。
 気を取り直してど頭は、忘れかけた頃お目にかゝる“この物語はフィクション”云々の断りスーパー。競馬―か場外馬券―場周辺の、ゴミの舞ふ風景にサクッとタイトル・イン、クレジットも先行する。先行しつつ、お馬さんに全財産をツッ込んだその日暮らしの武田武三(重松)が大勝。電話で女を買ふまでを描く限りなく存在しないアバンと、タイトルバックは比較的まとまつてゐなくもなかつた。勝手に悦に入る風情が癪に障る、華がなければ味もない男主役にさへ目を瞑れば。
 デリヘル「宝石レディース」のNo.1嬢・ダイヤ(きみと)と対面した武田が、大喜びでいざ挿さうかと、したところ。俄かに嘔吐の発作に見舞はれるダイヤが、実は妊娠してゐた。看板美術的には町医者どころか闇医者に映る、路地裏の「セント・ゼームス病院」にダイヤを放り込んだ武田は、神父も兼ねる医師・ヤコブ(加賀谷)立会の下、ダイヤとキリスト教式の結婚をする破目になる。
 配役残り、安藤ヒロキオは堕胎手術後療養中のダイヤを、連れ戻しに来る宝レディの若い衆・リュウキ。稲田錠が宝レディの劇中用語でリーダー、レッドスパロウことアカスズメで、柳沼宏孝・BATA・山鼻朝樹の三人が親衛隊的なシャークスの皆さん、誰がどれなんてもうどうでもいゝ。小滝正大は、戦線に復帰したダイヤの常連客。如何にも三番手らしい三番手の、初愛ねんねも宝レディの嬢・ルビー。綺麗な一幕・アンド・アウェイを敢行する、濡れ場の中途をさて措けば。宝レディにはその他登場しない、エメラルドとサファイアが少なくとも在籍してゐる模様。加藤絵莉はダイヤと故郷を出奔、その後生き別れたチヒロ。加藤ツバキは、ダイヤが小滝正大と長丁場を戦つてゐる間、送迎の座に納まつた武田が「籠の鳥」から呼ぶデリヘル嬢・インコ。普段からチキンラーメン風の被り物を常用する、トンチキな大美人。当人が偉ぶらないのと、決定的な主演作には必ずしも恵まれてゐない不運もあつてか、案外軽視されがちなのかも知れないが、この人の存在は、現代ピンクにとつて結構重要であると思ふ。武田を捕まへるポン引きは―パッと見高橋祐太似の―末永賢で、ちひろと武田の邂逅時、尺八を吹かれてゐた前の客は髙原秀和。仲野茂はダイヤと武田がマッチングアプリで捕まへる、豹柄の全身タイツを着た頓珍漢、もとい好色漢・シャチ。而して素頓狂な扮装には反するその正体は、アカスズメとリュウキが再三再四“名前も出すのも憚られる”と勿体ぶる、某組織の顔役、某は暴かも。武田がシャチを刺すファミレスの、客は多分末永賢の二役、店員はlove punk勢か。問題が、確かな自信を以て言ひきるが高橋マシューは、R18のピンク版には出てゐない。
 「優しいおしおき おやすみ、ご主人様」(2020/主演:あけみみう)で疑つた目が、同年半年後の「月と寝る女/またぐらの面影」(主演:奥田咲)で確信ないし諦観へと変つた、石川欣の大蔵第三作。三度目の正直?ねえよ、そんなもん。結論を急いだあまり実も蓋もケシ飛んでしまつたので、戯れに仲野茂(亜無亜危異/Vo.)と稲田錠(G.D.FLICKERS/Vo.)のフィルモグラフィを振り返ると。安藤尋のデビュー作「超アブノーマルSEX 変態まみれ」(1993/脚本:加藤正人/主演:石原ゆり)で初土俵を踏んだ仲野茂は、「制服美少女 先生あたしを抱いて」(2004/脚本・監督:高原秀和/主演:蒼井そら)と、矢張り髙原秀和の大蔵第二作「トーキョー情歌 ふるへる乳首」(2018/うかみ綾乃と共同脚本/主演:榎本美咲)を経ての四本目。一方稲田錠は、柴原光の「若菜瀬菜 恥ぢらひの性」(1999/脚本:沢木毅彦)がボサッとした顔見せ。その後「トーキョー情歌」と、よもやまさかの「制服美少女」続篇、髙原秀和大蔵第三作「濡れた愛情 ふしだらに暖めて」(2019/宍戸英紀と共同脚本/主演:小倉由菜)に、更にその次作「悶撫乱の女 ~ふしだらに濡れて~」(2020/宍戸英紀と共同脚本/主演:奥田咲)で気づくと本数では仲野茂を一本追ひ抜いてゐた。
 住所の有無から怪しい無軌道な男が、偶さか出会つた放埓な女と行動をともにする。小倉で観戦したのち帰福、ウィキペディアのインストに目を通し直して、今作がファム・ファタルものであつたのかと、軽く驚いたのはこゝだけの内緒。男かよ!以外に一切の面白味も欠いた、端々でサルでも呆れる茶番を仕出かす弛緩しきつた物語に、四の五の突(つゝ)くほどのツッコミ処も最早見当たらない。武田がインコに―当然追加料金の発生する―相互飲尿プレイを乞ふ件の、吃驚するくらゐ無頓着な構図の画には、流石に「何だこれ」と引つ繰り返つたけれど。
 雉も鳴かずば、何とやら。大人しくしてゐれば単に詰まらないで片付いた映画の、ギアを腹立たしいに捻じ込むのは重松隆志、あの鐘を鳴らすのはあなた。武田が譫言のやうに繰り返す、ホントに箍の外れた延々捏ね繰り続ける“背中合はせ”。ダイヤと武田が背中合はせで、スナップノーズと馬鹿デカいマグナムを撃ち倒すイメージ・ショット。ついでで終盤、中野茂もそこら辺の往来で無造作にオートマチックを振り回して発砲する。文字通り火柱感覚の盛大なマズルフラッシュを、一目瞭然具合が寧ろ清々しい、チャチい合成で噴かせる随分な臆面のなさにも畏れ入る、遥か遠い彼方の以前に。武田いはく、“背中合はせで撃ちまく”る対象が、クソみたいな世間とのこと。何も石川欣から改めて御教示願ふまでもなく、世間がクソなのは常日頃のエンドレス、重々存じあげてゐこそすれ。他愛ない能書未満の戯言を重松隆志が垂れ流すばかりで、結実させる―に足る―シークエンスひとつ設けられないでは、クソな世間を撃つ、折角のアクチュアルにして普遍的なエモーションも、所詮は木に接いだ竹どころか、枯れ木の枝葉に括りつけた安つぽい造花。挙句はふはふの体で辿り着いた、体のいゝラストが躓いたところに宝が、とか来た日には。受領かよ、これは所謂、釣られたらといふ奴なのであらうか。最低限の方便も用立てられるとはいへ、きみと歩実を踊り散らかさせるパートは疎かに尺を喰ひ、陳腐な造形にも足を引かれる初老ロッカーの薄つぺらい醜態は、所詮空々しい始終ですら飾り損ねる。霞より薄い真空に近い一篇を、演者と脚本がある意味仲良く共倒れる、徹頭徹尾意味なり重みを欠いた大根の独白で綴る暴挙は、空虚の領域に易々と敷居を跨ぐ。平板な撮影と、粗雑か類型的な展開を、すつかりエッジの取れた演出が、凡そ満足に統べられよう筈もなく。撮影当時、御年六十三。耄碌するには些か早い気もしなくはないが、あの「バックもオーライ」を撮つた石川欣も、齢をとつてしまつたものだなあ。さういふ何も生み出さぬ感慨くらゐしか、精々湧いて来ない消極的な問題作。だー、かー、らー。性懲りもなく持論を蒸し返すと、今や量産型娯楽映画をいふほど量産し得ないいよいよの状況下にあつて、斯様な煮ても焼いても食へない―比較的―若ロートル連れて来て、全体大蔵は何がしたいの。石川欣の御名は、そんな客が呼べるの。

 いや、幾ら何でも看過し難い、根源的なツッコミ処が一点あるぞ。初見の馬の骨同士の結婚式を挙げて呉れる時点で、プロテスタントにせよところでヤコブ、神はその中絶を赦すのか。


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 令和6年映画鑑賞本数:40本 一般映画:7 ピンク:32 再見作:1 杉本ナンバー:5 ミサトナンバー:1 花宴ナンバー: 水上荘ナンバー:

 再見作に関しては一年毎にリセットしてゐる。そのため、たとへば三年前に観たピンクを旧作改題で観た場合、再見作にはカウントしない。あくまでその一年間の中で、二度以上観た映画の本数、あるいは回数である。二度観た映画が八本で三度観た映画が一本ある場合、その年の再見作は10本となる。それと一々別立てするのも煩はしいので、ロマポも一緒くたにしてある。

 因みに“杉本ナンバー”とは、杉本まこと(現:なかみつせいじ)出演作の本数である。改めてなかみつせいじの芸名の変遷に関しては、昭和62に中満誠治名義(本名)でデビュー。1990年に杉本まことに改名、2000年更に、現在のなかみつせいじに改名してゐる。改名後も、旧芸名をランダムに使用する例もある。ピンク畑にはかういふことを好む(?)傾向がまゝあるゆゑ、なかなか一筋縄には行かないところでもある。
 加へて、戯れにカウントする“ミサトナンバー”とはいふまでもなく、ピンク映画で御馴染みプールのある白亜の洋館、撮影をミサトスタジオで行つてゐる新旧問はずピンクの本数である。もしもミサトで撮影してゐる一般映画にお目にかゝれば、当然に加算する。
 同様に“花宴ナンバー”は主に小川(欽也)組や深町(章)組の映画に頻出する、伊豆のペンション「花宴」が、“水上荘ナンバー”は御馴染み「水上荘」が、劇中に登場する映画の本数である。


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 「OL日記 密あさる猟」(昭和48/製作:日活株式会社/監督:藤井克彦/脚本:久保田圭司/プロデューサー:伊地智啓/撮影:前田米造/美術:川崎軍二/録音:古山恒夫/照明:小林秀之/編集:井上親弥/音楽:真田勉/助監督:高橋芳郎/色彩計測:仁村秀信/現像:東洋現像所/製作進行:下川泰光/出演:梢ひとみ・宮下順子・相川圭子・南昌子・西早苗・井上博一・影山英俊・やかた和彦・織田俊彦・長弘・三川裕之・小林亘・丹古母鬼馬二)。出演者中、長弘から小林亘までは本篇クレジットのみ。そして、あともう一人。クレジットがスッ飛ばす配給に関しては、事実上“提供:Xces Film”。
 読経を劇伴代りに、筆で人形の紅を刷くのは軽く予想外、二番手の宮下順子。日本人形の人形師・愛田成子(宮下)が制作に精を出し、招かれた坊主(小林)が目的の不明な経を唱へる。一方、成子の娘・ユキ(梢)はスーツケースに結構ぞんざいに詰め込む荷作り。葡萄を用意した母の呼びかけにもユキは応へず、家業を厭ふて上京する旨、坊主に成子が愚痴をこぼす。こぼしてゐたかと、思ひきや、成子が生臭に抱かれ始めるのが不意を討つアバンの衝撃。出奔したユキが表からも母の痴態を覗いて立ち去り、手前のペン立て感覚で幾多と挿された、人形の生首にピントを送る流れで暗転、交錯する電車のロングにタイトル・イン。蝉が鳴いてゐるのは、ユキはユニバーサルに中途入社するのかな。
 東和ビルに居を構へる「ユニバーサル宣伝企画製作課」にユキが出社すると、同僚の野津アキコ(西)と梶次郎(影山)が朝つぱらから書庫でヤッてゐたりするのは、東京といふより裸映画の恐ろしさ。いわさきちひろライクなユキのイラストに興味を示した課長(三川)が、日東電機の新暖房システムのポスターに推挙、日東担当の柿坂(織田)も賛同する。矢張り企画製作課の水谷(やかた)や草下明(井上)もユキに興味を示し、それが相川美佐(相川)は面白くない。
 配役残り南昌子は、帰宅したユキに預かつてゐた、成子からの小包を届けに来るお隣のますみ。母代りにと成子が寄越した人形に、半ば脊髄で折り返す勢ひでユキは一親等の艶姿を想起。発作的に苦悶するユキをますみが介抱しようかとしたところ、出し抜けの極みで狂ひ咲かせる正真正銘ノーモーションの百合は、恐ろしさ通り越して裸映画の鮮やかさ。挙句潔く一幕・アンド・アウェイを敢行する南昌子の、清々しいまでの濡れ場要員ぶりには軽い感銘をも覚えた。木に竹を接ぐ草下からの求婚を保留したのち、ユキが徘徊する繁華街。丹古母鬼馬二は民芸調のおどおどろしいお面を売る、怪しげな露天商。声は枯らさないお面売りがユキを誘(いざな)ふ、アンダーグラウンドな工房。先に致してゐる男女は三番手とやか和の二役に思へなくもない、ものの、凡そ識別可能な風には捉へられず。長弘は、色情狂を自認するユキに、草下が診察を受けさせる先輩の精神科医。そして明後日か一昨日に、ユキが振り切れる全てを投げ放したラスト。やさぐれた風情で紫煙を燻らせてゐる前を、颯爽と歩を進めるユキに通り過ぎられるだけの男で、ノンクレの小宮山玉樹が飛び込んで来るのが、ロマポならではの描き入れられた竜の睛。その他オフィスビルと、ユキが草下とプライベートで出会ふテニスコート要員。水谷と柿坂が交す穴兄弟会話に、梶が悶々と劣情を滾らせるバーの、バーテンダーと退店客二人が主に見切れる。
 藤井克彦昭和48年第五作は、デビュー作「OL日記 牝猫の匂ひ」(昭和47/脚本:西田一夫/主演:中川梨絵)に続く、全六作からなる「OL日記」シリーズ第二作。内訳的には藤井克彦と加藤彰が二本づつ撮り、中川梨絵と梢ひとみが二本づつ主演してゐる。
 田舎暮らしでなく人形作りでもなく、ヒロインが忌避してゐたのは母の淫蕩さかに、思はせて。誰かしらが何かしらに目を留めるカットに続く、筈の。その時何を見たのかを豪快にスッ飛ばす勇敢な手法―蛮勇ともいふ―で行間を広げるあるいは、直截には煙に巻きつつ。要は成子に勝るとも劣らない貪欲さで、ユキが性別すら問はず喰ひ散らかすに明け暮れる、霞より薄い物語は風呂桶に張られた水の如く、何時の間にか尺を満たすばかり。一応潤沢な、女の乳尻をさて措けば。何はともあれ、もしくは何はなくとも。正しく掉尾を飾る我等がロマポのスーパーアイドル・小宮山玉樹のミラクルショットで木戸銭の元は取れるともいへ、映画本体が最も弾むのは手洗に入るユキを追ひ、梶も女子手洗の個室にまで突入、社内の。尤も攻めあぐねてゐるうちに、美佐とアキコも入つて来た絶体絶命の間隙を突き、ユキは脱出。当然直後に発見される梶こと影英のポップな破滅が、シークエンスを何気に補完する、泣き崩れるアキコの姿込みで一番面白い。


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