真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「小林ひとみ 抱きたい女、抱かれたい女」(2002/提供:Xces Film/製作:シネマアーク/監督:下元哲/脚本:王孫子/企画:稲山悌二・奥田幸一/撮影:下元哲・小山田勝治/照明:代田橋男/編集:酒井正次/助監督:高田宝重/制作:横井有紀/撮影助手:塩野谷祐介/出演:小林ひとみ・今井恭子・池谷紗恵・なかみつせいじ・柳之内たくま・神戸顕一・久須美欽一)。
 上総一ノ宮駅に、朝原聡子(小林)が見るからアンニュイに降り立つファースト・ショット。聡子の夫でキジマ不動産に勤務する貞之(なかみつ)は、三ヶ月前に失踪する。挙句に夫にかけられた横領の嫌疑も受け容れられず真相究明に動く聡子に、聡子からは十歳年下で、朝原の部下であつた井川渉(柳之内)が接近。一件の影に、近田物産専務令嬢で欧州留学より帰国した勅使河原杏子(池谷)の影を感じ取つた二人は、杏子に会ふべく上総を目指す。
 久須美欽一は、腹に一物含んだ風情が堪らない、朝原の上司・上野勝治。訪問を受けた聡子の尻に、天下の往来どころか会社の表で手を伸ばす羽目を外すも、そこからワン・カットで舞台が移る類の一戦が自堕落に交へられることは賢明にもない為、濡れ場の恩恵には一切与れず。といふかそれ以前に、そもそも出番自体から少ない。神戸顕一は聡子と井川を二度目に、そして本格的に結びつける契機を成す、朝原を追ひ奔走する聡子を遠巻きに見守る井川を、肩が触れただけで殴打する無精髭の黒服。各種記載に見られる、茶髪の青年ではない。今井恭子は、女王様の領域に突入して井川を尻に敷く姉さん女房・亜紀。井川から寝耳に水な三行半を叩きつけられた際には、手の平を返したやうに狼狽する落差を綺麗に好演する。背中の右から体半分だけ僅かに見切らせる勅使河原役が、何者なのかは流石に不明。
 愛染“塾長”恭子やイヴちやんこと神代弓子と共に、最後の世代のスター女優と称して差し支へなからう小林ひとみの、世間一般の観客をも小屋に呼べる金看板たる自身の名前を、賑々しく表題に冠したピンク映画最終作。塾長・イヴちやん・小林ひとみ、経歴は微妙に異にするこの三人には、長いキャリアを通じて、より直截にはキャリアの長さにも関らず、お芝居の方は何時まで経つても心許ないままに妙に安定する、不思議な共通点が認められよう。尤もその点に関しては、終に抜けきりはしなかつた―塾長・イヴちやんと共有する―小林ひとみの覚束なさを、謎の失踪を遂げた夫の姿を探し求める妻の終始沈痛な面持ちの中に、強靭な演出と撮影の力によりガッチリと固定。その結果大時代的なメロドラマを堂々と展開することに、小林ひとみ主演作の中でも稀有な成功を遂げた、正しく掉尾を飾るに相応しい一作である。専務の娘が関係の再開を欲すると、一人の大の大人の男の社会生命を清々しく抹殺し得る、近田物産は一体どれほどの巨大企業なのか。あるいは、聡子と同世代であるとすると―さういふ風にしか見えないし、実際なかみつせいじが一つ上―十年前朝原は二十代中盤。その時点で、画業を志し日がな一日スケッチブックに筆を走らせる、いはば俗にいふプーであつた朝原が、十年後一端の不動産マンになつてゐるといふ奇跡的な軌跡にも、力技故の疑問は残らぬでもない。ともあれ、小林ひとみの驚異的に衰へぬ―撮影当時御歳何と三十八―美身に免じて、細かいことはさて措くべきだ。ミス・リーディングの一手を蒔くでもなく、最終的には一本調子で内容的にも決して分厚い訳ではないともいへ、戦略的なドラマの大仰さは味はひ深い。
 ここから先は全くの余談でしかないのだが、酷いキネコ―今作も、顕示性を狙つたものであらうが、ビデオ撮り回想パートの汚さは薄くすらない―であつたことと、まるで面白くなかつた思ひ出もウッスラと残しつつ。ここはかうなると、何とか前年のピンク版極妻「愛染恭子VS小林ひとみ 発情くらべ」(監督:愛染恭子/脚本:藤原健一/ナレーター:佐藤慶)も、今一度キチンと通つておきたいところではある。

 因みに、必ずしもそれほどのバリューでなくとも、2004年頃までは散発的に見られなくもなかつたが昨今とんと御無沙汰の、主演女優の名前がタイトルに入つたピンク映画の現時点に於ける最終と同義の最新作としては、「吉沢明歩 誘惑 あたしを食べて」(2007/監督・脚本:佐藤吏)が、本篇タイトルに従つた場合に挙げられる。


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 「股を拡げたエロ夫人」(1995『淫臭!!年増女の痴態』の2012年旧作改題版/製作:サカエ企画/配給:新東宝映画/監督:新田栄/脚本:岡輝男/企画:中田新太郎/撮影:千葉幸男/照明:高原賢一/編集:酒井正次/助監督:国沢実/音楽:レインボーサウンド/監督助手:北村隆/撮影助手:島内誠/照明助手:原康二/録音:シネ・キャビン/効果:中村半次郎/現像:東映化学/出演:如月じゅん・風見怜香・桃井良子・樹かず・竹二郎・中田新太郎・丘尚輝・高橋正浩・神谷友映)。
 風鈴と夏の花々、蚊帳越しに覗く室内には、胸の深い谷間も露に浴衣を肌蹴させる中年女(風見)。新田栄らしからぬといへばらしからぬ、季節感を丁寧にトレースした開巻ではある。室内には風見怜香のほかに、広げられた英語の教科書と、半ズボンの河相サトル(樹)がモジモジ所在なさげに体操座りする。状況がよく見えないが、風見怜香を河相が“先生”と呼ぶのに注目すると、夏休みに女教師自宅でのプラーベート・レッスンとでもいふ寸法なのか。兎も角、といふか兎に角風見怜香は爆乳を放り出すと河相を誘惑、筆を卸すのは要は可哀相な美少年が淫行女に喰はれてゐるやうにしか見えない点は、改めていふまでもあるまい。対面座位から、騎乗位に移行したタイミングでタイトル・イン。
 タイトル明けるや、そこまでの一幕を丸々清々しく夢オチで落としてみせる。要は、放り込むのに窮した三番手を、無理からアバンに捻じ込んだ苦肉の策である。森の中での、現在二十四歳の河相と、交際を周囲には秘した彼女・尚美(桃井)の逢瀬。青姦に突入しかねない雰囲気を漂はせるも、終始煮え切らない河相に尚美が業を煮やし、捨て台詞紛れに河相の親友である隆史から、求婚されてゐる旨を告げる。その夜、実車輌での撮影による河相がくたびれながら揺られる通勤電車。ポップに泥酔した岸田チカコ(如月)に絡まれた河相は、その場の強引な成り行きで完全に潰れたチカコを荻窪の家にまで送り届ける羽目に。事後明らかとなるのが十五歳上のチカコはバツイチゆゑ、一人住まひの岸田家。チカコを寝かしつけた河相は、終電がなくなつてしまつただけの理由で、無造作にもそのまゝ一泊することを選択。今度は起き出したチカコが眠る河相の尺八を吹き、二人は一戦交へる。迸る展開の上から下に流れ加減、新田栄はかうでないと。翌朝、荻窪から出社する河相は、一旦はチカコとのことは一夜の過ちに済ます心積もりであつたが、隆史(丘尚輝=岡輝男)から尚美との結婚を報告する電話を受けるやヘアピン翻意。前夜、事の最中に弾みで割つたサンリオ社製カエルのキャラクターのグラスを買ひ直し、手土産に岸田家を再び訪ねる。濡れ場の途中に割れたグラスの画をわざわざ挿み込むのは、何の気の迷ひかとその時は面喰つたが、まさか新田栄がそれを回収するとは思はなかつた。油断してゐた、当サイトの迂闊な負けを認める。
 配役残り中田新太郎は、色恋にうつゝを抜かし仕事に身の入らない河相に基本眉を顰める、河相上司。河相の対面列には社員要員として、新田栄がシレッと見切れる。後に、教師から転職したのか、風見怜香がママを務めるスナックに河相がチカコとの関係の助言を求めに行く件に際しても、新田栄は客要員として再登場。当然ここは別人の形となるため、なかなか図々しい内トラぶりではある。何れかを、国沢実に譲つてもよかつたのでは。風見怜香の店は、物件的には摩天楼を隠したバー「マンハッタン」(仮称)にも見えたが、自信は然程ない、なら書くな。竹二郎は、息子のユータを事故で喪つて以来溝を生じ離婚に至つた、チカコ元夫。復縁を望み、チカコの生活の面倒を依然見つつ、時には肉体関係も持つ間柄にある。正直名前からだけでは事前に手も足も出せなかつた高橋正浩と神谷友映は、隆史宅での尚美との結婚を祝した一席に、河相とチカコ以外に招かれたパーティー要員。神谷友映は、女性である。
 後付に思へなくもないのは強ひてさて措き、新東宝が年を跨いで公式に一括りとする、「エロをばさま」シリーズの最終第三弾。何はともあれ、完走を果たせたラックを慶びたい。病も膏肓に入るどころでは最早済まない話だ、底を抜かすにも限度があるぞ、俺。自戒は地獄ででもすると先伸ばして、ビリング・トップが女岡田謙一郎である悲劇を通り越した惨劇を忘れられれば、案外以上にお話自体は全うな仕上がりの第一弾。対して、取りつく島もなく自堕落な第二弾。果たして、第三弾の出来栄えや如何にといふと。三條俊江よりは大幅にマシな鶴見としえから更に加速して、如月じゅん―そもそも、「をば様たちの痴態 淫熟」に於ける設定スペック44才はおかしくないか?―はいふほどをばさまをばさまは全くしてゐない。大雑把に譬へると早瀬瞳のお姉さんとでもいつた風情で、をばさんといふ言葉は悪いが際物路線といふよりは、全然普通に戦へよう。ところがさうなると、逆に難しくなりもする辺りが皮肉な点。今作を簡単に掻い摘むと、順当に手数も重ねる恋の右往左往の果てに、歳の大きく離れた二人が目出度く結ばれる、ひとまづは綺麗なラブ・ストーリー。とはいへ、物語の完成度はあくまで“ひとまづ”に止まりもする。ここでヒロインが―直截にも過ぎるが―お化けである場合、展開の素直さがそれなりにではあれ却つてもしくは相対的に際立つラックもなくはないのだが、如月じゅんが下手に汎用機体であるだけに、そのブースターは機能しない。と同時に、頭と腹を抱へながらツッコミ倒す、不毛な観戦に戯れる途も閉ざされる。そこそこの女優を主演に据ゑた、そこそこの変格恋愛映画。そこそこであれば新田栄にしては上出来だ、などといふ淫らな逆差別では、この期に個人的には満たされ得ない。ザックリ総括すると、一勝一敗一引き分け。さういふ結果に、「エロをばさま」シリーズは落ち着くといへるのではなからうか。

 ところで、設定上荻窪三丁目の岸田家舞台となるハウススタジオが実際に存するのは、都内は都内でも二十三区内ですらなく、日野市であつたりもする。このことは、表のゴミ回収ボックスから看て取れる。


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 「恥ぢる喪服妻 潤ほふ巨尻」(2001『喪服妻の不貞 ‐乱れた黒髪‐』の2007年旧作改題版/製作:ワイ・ワン企画/提供:Xces Film/脚本・編集・監督:遠軽太朗/企画:稲山悌二《エクセスフィルム》/プロデューサー:戸川八郎/撮影:鷹野聖一郎・田宮健彦・織田猛/照明:原信之助/メイク:三岡美恵子/助監督:児玉成彦・筒井茂太/スチール:遠崎智宏/音楽:駿下真実/タイトル:道川昭/協力:彰呼堂/出演:篠宮麗子・今井恭子・林由美香・小林節彦・辻親八・平賀勘一・真央はじめ・山口明文・中村和美・遠軽太朗)。出演者中、中村和美と遠軽太朗は本篇クレジットのみ。
 レンタル妻クラブ「メリー・ウィドウ」喪服デリトル嬢の沢崎多恵美(篠宮)と、妻に逃げられた侘しい中年男・佐々山義則(山口)との一戦で順当極まりなく開巻。一夜の妻を謳ひながら、嬢が喪装であることには冷静に考へれば混乱が生じてゐるやうに思へなくもないのだが、細かいことは気にするな。個人的には欠片も持ち合はせない属性ながら、ひとまづ大定番のギミックである。一方「メリー・ウィドウ」本丸、何処まで本気なのか判らないが、菩薩の心と社会奉仕を説く坊主×髭×作務衣の店長・犬飼義三(辻)が電話を取り、今日もボウズの飯島奈津子(林)を尻目に、その他要員・ユミ(中村)が客の下へと向かふ。それはそれとして平賀勘一は、結果的には臍を曲げ帰つて来るので奈津子の神様になり損ねた男・橋田寿夫。事に及ぶ事前の遣り取りの際、「よく判らんが」を頻りに繰り返すのが、平静を装ふ小心者をポップに表してゐて堪らない。容姿に難は全くない反面、お芝居の方は正直地に足の着かないエクセスライクな主演女優の濡れ場に続く、共に熟練した林由美香と平賀勘一による―両義的な―絡みは、映画を何気なくも安定させる。心情的には、林由美香が三番手に甘んじる不遇を難じたくもなりかねないところではありつつ、逆にかういふ役回りが、これぞ林由美香の仕事ともいへるのではなからうか、あと風間今日子と。話を戻して、奈津子の対橋田戦は中途で終つてしまふ故、帰還した奈津子を、改めて犬飼が抱く。こちらは家ではエコーなのに、外ではマイセンを吸ふ見栄を張る―多分単なるミスに過ぎまいが―文芸誌編集長の駒田忠芳(小林)は、下手に若い女房を貰つてしまつたばかりに、何かにつけて嫉妬心に苛まれ仕方がない。ここで今井恭子が、駒田の若妻・晶子。女癖の悪さで知られる人気作家の矢吹京助(真央)が、晶子の噂を聞きつけ駒田家を来訪することになり、駒田は頭を抱へる。新連載を書いて欲しい矢吹の機嫌を損ねることは許されないが、勿論晶子を他の男に抱かせる訳にも行かないのだ。導入が少々力技ではあれど、駒田の直面する葛藤は実に綺麗なものである。他愛なくも手堅い艶笑譚が、順調に展開する。
 ザックリ譬へると大体イジリー岡田の、二つの重要な繋ぎをさりげなく自分でこなす遠軽太朗は、駒田と、現在は違ふ職に就いてゐるものの、以前は同僚編集者であつた佐々山二人の馴染みの店マスター。駒田と佐々山を繋げるのが、この件で完結する一つ目。駒田の悩みを聞いた、佐々山は一計を案じる。晶子は家を離れさせた上で「メリー・ウィドウ」から多恵美を呼び、多恵美を駒田の妻といふことにして、矢吹を迎撃させようといふのだ。
 過去に他作を観てゐてもおかしくはないが、とりあへず全く覚えてゐない遠軽太朗の、少なくともピンク映画に関しては最終第六作。さうしてみたところ、これが褒め過ぎると完成品の趣さへ漂はせる、素敵にスマートな量産型娯楽映画の佳品。適当な口実で晶子は実家に帰し、多恵美招聘。矢吹を迎へ撃つべく、半分偽物の駒田家の舞台は整つた。勿論ここは当然、晶子が忘れ物を取りに戻つて来るに決まつてゐる。諸々の思惑が複雑に交錯する中、遠軽太朗が卒のない台詞回しで自ら蒔いた伏線が実を結ぶ、終に憤慨に分別を失した駒田がガラッと障子を明け乗り込んでの「貴様!」は抱腹絶倒。実際に、小屋で小生は己(おの)が太股を乱打した。駒田が―又しても―仕出かしかけたところで、強引に火を噴くもう一手が二番手二度目の絡みも込みで、万事を然るべき落とし処に滑り込ませる。一見如何にも御都合的に見せて、この誠麗しい論理性は、ピンク映画として絶対的に秀逸。どうでもいいお話に見させるところが、却つて偉ぶらず素晴らしい。唯一の瑕疵は、晶子V.S.矢吹戦の最中に、一回よろめいてしまふ画面のルック程度か。個人的にはこの辺りの、特にこれといつたテーマ乃至はメッセージを殊更に織り込んでみせることもなく、人の営為にさういふことが最終的には成立し得ぬにせよ、専ら技術と論理によつてのみ作り上げられたやうな一篇にこそ、逆説的なエモーションを激しく覚えるものである。何も技術や論理が、ひとへに機械的で温もりを欠いたものである筈がない。それらを習得する過程で、どれほどの汗と涙とが流されたであらうことか。ところが難しいのは、斯様に技術なり論理を尊ぶ己の視点が、音楽には適用されない身勝手なランダムさ。ズージャーだのフュージョンだのは、「演奏が上手えのは判つたよ、だからどうしたんだよ!」と大嫌ひなのだ。我ながら不徹底あるいは未整理甚だしいが、とかく、さういふものでもあるのではないかと開き直つてみせる。映画の感想から外れて、一体俺は何処の明後日に墜落したのだ?

 気を取り直しついでにところで。エクセスのすることに一々律儀に釣られてみせるのも大人気ないやうな気もせぬではないが、御当人の名誉の為に一言お断り申し上げておく。篠宮麗子の尻は、いふほどデカくは全然ない。


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変態  


 「変態」(昭和62/製作・配給:新東宝映画/監督・脚本:北川徹/撮影:三好和宏/照明:野田明/編集:菊池純一/音楽:坂田白鬼/助監督:井上潔・村上次郎/撮影助手:斉藤幸一/録音:ニューメグロスタジオ/効果:協立音響/現像:東映化学/出演:前原祐子・黒沢ひとみ・下元史朗・中村仁・三上せいし)。出演者中、三上せいしは本篇クレジットのみ。そして照明の野田明が、ポスターには何故か三上誠司。これ要は、三上せいし=三上誠司ではないのか?
 合鍵が差し込まれ、開けられるドア。画面右半分には鈍く光る剃刀を配し、左半分を丸々“変態”の二文字でドガーンと撃ち抜く鮮烈なタイトル・イン。
 病院内薬局勤務の良子(前原)は、後に語られるエピソードから邪推するに男と別れた気晴らしがてらの転居か、不動産屋の山本(下元)が熱心に勧める一室に越して来ることに決める。部屋には、急に出て行つた前の住人がベッドと電話機を残してゐた。新生活を始めた良子は、部屋に侵入した暴漢に、林檎の皮を剥かされた末強姦される夢を見る。やがて無言電話が続き、良子は同じ夢を毎日のやうに見る。山本いはく、渋谷のデパートに勤務してゐた前住人と同じ木曜日の休日、初めて入つた近所の喫茶店「聖葡瑠」では、店員(後述込みの消去法から三上せいしか)が良子をよく似てゐるとの誰かと間違へ、注文する前からカフェオレとクロワッサンサンドを持つて来た。純然たる余談ではあるが、昭和52年に開業した聖葡瑠“せいぶる”が移転を経て、現存してゐるのには失礼ながら少々驚かされた。名古屋や大分にも同じ屋号の店が見当たるのは、これは支店なのか?閑話休題、ドアノブに突き返すやうに提げられてゐた、前住人の日日(ひにち)を経たクリーニング衣類の中に、男に犯される夢の中で着てゐるネグリジェが含まれてゐた点から、良子は確信する。繰り返し繰り返し囚はれる性的なイメージは、過去にこの部屋で起こつた出来事の追体験に違ひない。先にベッドの下から出て来てゐたそれなり以上に高価と思しき指輪と、衣類の返却を口実に、良子は山本から聞き出した前の住人・田中恵理(黒沢)を、電車に揺られ海のある町に訪ねる。
 登場順を前後して、ビリング推定で中村仁は、面識のない筈の良子に挨拶し不審がらせる、ジョギング中の大家・井上。
 末期ロマンポルノ―に端役―で銀幕デビュー後、当代人気AVアイドルの前原祐子を初となる主演に迎へた、北川徹(=磯村一路)のピンク映画最終作。引越し以来、度々同じ内容の淫夢に苛まされる女。原因をかつてその部屋で起きた事件に求めた、ヒロインの真相究明を進行の緩やかなドラマの主軸に、詰まるところは手口の固定された濡れ場が延々延々、執拗に繰り出され続けるのみといつてしまへば正しくそれまでなのだが、兎にも角にも前原祐子の、一世を風靡するに止まらず時代を越え得る破壊力が圧倒的。シャープさも併せ持つあどけないルックスと、対照的にムッチムチとした肉感が堪らない肢体。潔く張形に開き直つた賢慮が功を奏す緻密な尺八描写も強力に、ほぼ単一のシークエンスの繰り返しも、全く飽きさせずに終始高い緊張感を維持させたまゝ惹き込ませる。頃合を見計らつて投入される黒沢ひとみの、首から下はパッと見前原祐子と同タイプながら、容姿は絶妙に劣る配役のバランス感も超絶。恵理に委ねた劇中お定まりの陵辱に、良子も加はり巴戦に膨らむ際の、ピンク的映画的両面の興奮は実に素晴らしい。最終的には、ピンク近作でいふと「人妻旅行 しつとり乱れ貝」(2011/監督:渡邊元嗣/脚本:山崎浩治/主演:星優乃)と同趣向のオチを、若干前に倒しただけの強引な一点突破ともいへ、男優部後ろ二人の弱ささへさて措けば、良子の一方的な恵理への優越感などは地味に秀逸かつ丁寧な語り口にも支へられた、頑丈に見応へのある、極めて充実した裸映画の秀作。下賤な見所だが、大量の擬似精液で前原祐子の全身をドロドロにしてみせるショットは、当時の度肝も抜いたのではなからうか。二回り強の歳月の流れにも一切古びず、前原祐子の当時AV出演作のDVD化掘り起こしが進んでゐないらしき現況も踏まへると、なほ一層必見。いつそ磯村一路の名前は忘れたとて、前原祐子だけで大満足に戦へる。

 コッソリと備忘録的付記< オーラスを締め括る良子のモノローグは、「私は、夢の中で過去を見たのではなく、今を見てゐたのです」。


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 「半熟売春 糸ひく愛汁」(2008/制作:セメントマッチ/提供:オーピー映画/監督:池島ゆたか/脚本:五代暁子/原題:『小鳥の水浴』/撮影:清水正二/編集:酒井正次/音楽:大場一魅/助監督:中川大資/演出補:田中康文/監督助手:内田芳尚・田中圭介/撮影助手:種市祐介/照明応援:広瀬寛巳/協力:スワット・スターダスト・鎌田一利/メイキング演出・撮影・編集:森山茂雄/挿入曲『愛しのピンナップレディ』詞・曲・歌:大場一魅/出演:日高ゆりあ・野村貴浩・田中繭子・篠原さゆり・牧村耕次・なかみつせいじ・銀治・山ノ手ぐり子・田中圭介)。出演者中、山ノ手ぐり子がポスターには山の手ぐり子。
 看板を抜く類の明示は別にされないが、阿佐ヶ谷スターダストの閉店風景。この店で働き始め半年になる鳥本すみえ(日高)と今日からの綿貫健一(野村)とが、すみえが一方的にどぎまぎする遣り取りを交し、一足お先に日高ゆりあは一旦捌ける。初日の綿貫に戸締りを任せるのは、不自然に思へなくもないが。残された店内、「僕も楽しかつたよ」と綿貫が投げた、すみえに面と向かつていへばいい台詞に続いてタイトル・イン。
 すみえの母親で売春婦の真理子(田中)と、常連客である進藤(牧村)との濡れ場。真理子が娘に客を取らせ始めたことを聞きつけた進藤は、すみえを買ふことを強く求める。のは、実は劇中過去時制。本作が、前日深夜から翌朝五時四十八分までの要は概ね四分の一日の推移に、諸々の過去が重層的に挿み込まれる体裁を採つてゐることに漸く気付き驚かされたのは、遅れ馳せるにもほどがある後述する本間との初戦も経ての、二度目の過去時制明け。己の節穴も棚に上げておいて何だが、過去パートへの入(はい)りのノー・モーションぶりには、正直不必要に眼を眩まされた。殊に、1.5回目の現在復帰も含めての、綿貫の書架からすみえが手に取る、スーザン・フォワード著『毒になる親』の単行本・ここは些か非常識にも、招いたすみえを待たせシャワーを浴びる綿貫の尻・壁に吊るされたセーラ服、といふ短い3カットの畳み込みは、よくいへばアヴァンギャルドにも過ぎまいか。なのでといふのも我ながらぞんざいな便法ではあるが、登場順に配役を整理すると、意外といつては失礼だが綺麗な御御足を大胆に披露する山ノ手ぐり子(=五代暁子)は、真理子とは付き合ひも長い同業者・ナンシー。お互ひ寄る年波から商売も厳しくなる一方故、真理子に沖縄への転居を持ちかける。話に乗つた真理子はその軍資金の為に、未だ処女のすみえに売春を強要する。篠原さゆりは、綿貫の元恋人で社長令嬢の和美。作家志望の綿貫を事実上養ふ間柄にあつたが、在り来りなすつたもんだの末に破局する。和美の出番は計三回、徐々に痴話喧嘩がエスカレートして行く強靭な構成は見応へがある。なかみつせいじが、現役女子高生を偽らされた―挙句に中卒の―すみえの破瓜を散らす、ポップな好色漢・本間。演出部からの増員で田中圭介は、木村ミユキが娘で小学生のミナコを悪魔が憑いてゐると殺害した悲惨なニュースと、後にもう一件尊属殺を伝へるTVアナウンサー。藪から棒にMr.オクレのやうな造形の銀治は、剃毛したすみえの秘裂に驚喜する真鍋。真理子のことだ、絶対に事前にオプション料金を取つてゐるに違ひない。
 変則的なクレジットで開巻する「超いんらん やればやるほどいい気持ち」(新東宝/脚本:後藤大輔/主演:日高ゆりあ・牧村耕次)に即して、あるいは逆算していふならば“池島ゆたか監督100本記念作品(パート1)”。即ち正真正銘の、記念すべき池島ゆたか監督百作目である。尤も、ジャスト百作目にも関らず、その点に関しては本篇・ポスター何れも贅沢もしくは奥ゆかしくも一切触れない。そこは別に、晴々しく謳つてみせて当然のやうにも思はれるのだが。兎も角今作は、今作に於けるすみえと綿貫がそれぞれヴェルマとフランキーとなる、米人劇作家レナード・メルフィ作の戯曲『小鳥の水浴』を、池島ゆたかが自ら翻訳したものの更に翻案である。今映画化に先立ち、『小鳥の水浴』はかわさきひろゆき率ゐる超新星オカシネマでも様々な組み合はせのヴェルマとフランキーで舞台公演を重ね、目下、池島ゆたかの演出による里見瑤子×なかみつせいじ版の紐育逆輸入も企画されてゐる。さうはいへ、その辺りの事柄は改めてお断り申し上げるまでもなく当方清々しく門外漢につき、ここは潔く通り過ぎる。その上で、正しく絶望的な環境の中激しく傷つき終には壊れた魂に捧げられた、美しい文字通りのレクイエム。さういふ趣向自体は、小生のやうなレナード・メルフィの“レ”の字も知らぬ間抜けにも、ヒリヒリと届く。届くことは確かに届くのだが、主演女優の分の悪さ、より直截には役の不足も感じざるを得ない。幾ら望んで産んだものではなくとも、実の娘を精神的のみならず性的にも虐待するクズ母を凶悪に演じ抜くのは、現代ピンクきつての大女優・田中繭子こと佐々木麻由子。因みに一時的な田中繭子への改名期間は、出演作でいふと公開順に「物凄い絶頂 淫辱」(2007/監督:深町章/脚本:後藤大輔/主演:華沢レモン)から、「不純な制服 悶えた太もも」(2008/監督:竹洞哲也/脚本:当方ボーカル=小松公典/主演:Aya)までの計六作。こちらは「さびしい人妻 夜鳴く肉体」(2005/監督:竹洞哲也/脚本:小松公典/主演:倖田李梨)以来となる電撃銀幕復帰を果たす、主には前世紀終盤に活躍した伝説の怪女優・篠原さゆりはそれはそれとして判り易い修羅場を、衰へぬ突進力で凄絶に展開する。映画を背負ふ以前にこの二人を向かうに回すのは、日高ゆりあには些かどころではなく荷が重からう。元々さういふ演出であつたならば元も子もないが、台詞が、一々劇が板の上で執り行はれてゐるものかのやうに芝居がかつて聞こえることにも躓く。但し、その心許なさはヴェルマだけのものでは決してないのかも知れない。都合三度目の過去時制明け、すみえがまるで自分に言ひ聞かせるやうに、「お母さんきつともう寝たわね」と綿貫にはどうでもいいことを独り言つ際の、日高ゆりあの瞳の輝きは尋常ではない。話を戻して最終的に残されるすみえの弱さは、そもそも今回の場合ヴェルマを援護する格好となる、フランキーに起因する部分も大きいといへるのではないか。綿貫は綿貫なりに惨めな境遇にあることは酌めるのだが、そこから、わざわざ自作の詩を捧げ、しかも世間一般的には危ない橋を渡りすみえを救済し受け容れようとするエモーションまでには、唐突な距離も感じた。池島ゆたかの気迫といはんとするところは判るものの、ビリング頭二人が開けた穴に、真の傑作への道を遮られた一作といふ印象が強い。

 本筋とは全く関らないところで、メモリアルな側面も踏まへるとなほのこと解せないのは、池島ゆたかにとつて盟友と呼ぶに相応しい神戸顕一の不在。言ひ訳すると物語に引き込まれ、画面の片隅を探ることを忘れてた。監督作百本連続出演を誓ひ合つた仲―コメント欄を御参照頂きたい―としては、三作後の2008年第四作「親友の妻 密会の黒下着」(主演:友田真希/未見)までは何が何でも如何なる形であれ、その姿をスクリーンに載せておかねばならない筈なのだが。例によつて、鳥本家か綿貫宅に御馴染み『AHERA』誌がコソッと見切れてゐる可能性も当然ありつつ、少なくとも、クレジットにその名前は無かつた。


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 「美人課長の我欲 上司も部下までも…」(1994『女課長の生下着 あなたを絞りたい』の2011年旧作改題版/製作:ルーズフィット/提供:Xces Film/監督:鎮西尚一/脚本:井川耕一郎/プロデューサー:真田文雄/撮影:福沢正典/助監督:山岡隆資/編集:田中小鈴/監督助手:西村和明/撮影助手:岩崎登/スチール:西本敦夫/現像:東映化学/録音:ニューメグロSt./効果:協立音響/出演:冴島奈緒・瀬上良一・多比良健・吉行由美・夏みかん・小沢健三・東野悠二・天野憲)。出演者中吉行由美が、ポスターには吉行由実。旧、あるいは元版では由美なのに。
 タンゴ調の劇伴に乗り、池のほとりをチャリンコで走る赤いレディース・スーツ姿の小泉今日子ならぬ京子(冴島)が、カットが目を離した隙に矢張り赤シャツの青年(小沢)を拾ふ。下着会社の商品開発部分室2課に青年を連れ込んだ京子は、就職難から入水しての自死を考へてゐたといふ大学では英文科を専攻する青年に、簡単な食事も摂らせがてら、自らの超絶美身を捧げる。実に有難い話といふのはさて措き、ここまでは早朝の出来事であるのと、京子の声は冴島奈緒ではなく別人のアテレコ。声色の個性が薄い以前に流石にこの時期の映画ともなると、声をアテた主にまでは辿り着けず。定時となり商品開発部分室2課に出社して来た、判り易くマッチョ系の高橋(瀬上)と、何故かカジュアルな鈴木(多比良)は閉口する。高橋の机で、京子が眠りこけてゐたからだ。京子は、分室2課の新任課長であつた。高橋と鈴木は研究職で、より積極的な煽情性をコンセプトとした新商品用に、高橋は匂ひを、鈴木は染みを追及してゐた。ブルセラか、といふ直截なツッコミも鎌首をもたげぬではないが、ジーンズのダメージ加工と似たやうなものだと思へば、案外アリなのかも知れない、ねえよ。ロボットの如く抑揚を欠いた二人を相手に所在をなくした京子は、辞令で紙飛行機を折ると戯れに飛ばす。極端な短小のコンプレックスか、童貞の鈴木を京子が筆卸しつつ、ある日シマウマ・コウモリの膣分泌物とペンギンの経管粘膜の粉末を持ち込んだ高橋は、混合したそれらをイケナイお薬よろしく吸引するや卒倒する。室内に漂ふ異臭に、学生時代病院でアルバイトしてゐた鈴木は、死の匂ひを感じ取る。高橋は恋人の秋子(吉行)を、交通事故で喪つてゐた。
 同一人物であるが“之”抜きの天野憲は、分室2課に“禁煙”の貼紙の隣に、“禁性交”を貼りに来る部長。純然たる余談でしかないが、地元駅前ロマンの二階男子手洗ひ―三階にパレス、一階にロマンがあり、二階には手洗ひしかない―個室内には、以前“覚醒剤禁止”なるオットロシイ貼紙が掲示してあつた時期がある、ワンダーランド過ぎるだろ。話を戻して―戻らねえよ―京子は、鈴木に見せられた秋子の写真と瓜二つの女・夕子(当然吉行由美の二役)を街で目撃する。夏みかんと東野悠二は、尾行した夕子の勤め先を京子が訪ねてみたところちやうど一戦交へてゐた、九十分二万五千円のホテトル「ホットラバーズ」のホテトル嬢・夏美と店長。
 「熟女淫らに乱れて」(2009/脚本:尾上史高/主演:伊藤猛)から実に十五年遡る、鎮西尚一のピンク映画第四作。意図的に非人間的な高橋と鈴木の造形に最も顕著な、鎮西尚一のアーティスティックな手法なり思想に関しては、この期に改まつてお断り申し上げるまでもなく、当サイトの明後日な射程からは清々しいほど埒外にある。よつて牽強付会気味に―といふか、我田引水でしかないのだが―あくまで量産型娯楽映画的なアプローチを試みると、改めてエクセスのそれはそれとしての優位性、ないしは即物的な強みが前面に押し出されて来る一作。一筋縄では行かない作劇に際しては基本羽を伸ばさせておいて、一時代を制した女王・冴島奈緒を金看板に、脇に吉行由美と夏みかんが控へる布陣は頗る強力であるのみに止(とど)まらず、実際の濡れ場も質、量とも全く十全。何はともあれ、冴島奈緒の裸の威力が尋常でない。単なる―例へばスケジュール的な―偶然の成り行きでしかないのかも知れないが、正直自声は些か荒くなくもない冴島奈緒に、素直な別声によるアテレコを施したことは功を奏し、唐突ではあれそれなりに手堅い、三番手の裸の見せ方も地味に光る。当時由美名義の、吉行由実の冴島大先生に勝るとも劣らないタッパにも恵まれたグラマラスの破壊力は、筋肉の塊の瀬上良一を相手に、一歩間違へると―画面のルックをさて措けば―洋ピンかと見紛ふ迫力を轟かせる。なほも恐ろしいのは、それが未だ失はれてゐないといふ事実だ。先の話は兎も角、映画本体は好きに任せた上で、裸映画の枠内にもキッチリと落とし込ませる。端的に筆を滑らせてのけると、遣りたい放題させた挙句に小屋と木戸銭を落とした客を置いてけぼりに済ます手前勝手さへ時に平然と厭はない国映と、作家と商業二つの主義を徒に対立軸に置くでなく案外綺麗に折衷してみせなくもない、エクセスとの対比を如実に実感した次第である。当サイトが何れの側に立つものかはいふまでもあるまい、ピンク映画に何を求めてゐるのか?女の裸に決まつてるぢやないか、愚問にも甚だしい。


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 「ノーパンの蕾 濡れたいの」(2011/製作:ナベシネマ/提供:オーピー映画/監督:渡邊元嗣/脚本:山崎浩治/撮影:飯岡聖英/照明:小川満/編集:酒井正次/助監督:永井卓爾/監督助手:山田勝彦/撮影助手:宇野寛之・秋戸香澄/照明助手:八木徹/効果:梅沢身知子/協賛:ウィズコレクション/出演:西野翔・酒井あずさ・岡田智宏・西岡秀記・サーモン鮭山・山口真里)。
 繁みの緑から逆パンするとカメラの望遠レンズ、対象の山田誠(サーモン)が黒のアコーハットを目深に被つた、足の露出が幾分過多なさそりルックのデリヘル嬢と落ち合ふ。女の顔を確認した、私立探偵の諏訪徹(岡田)は表情を変へる。そそくさとホテルに入つての、山田と、高級デリヘル「愛のあけぼの」のデリ嬢・秋葉未華(西野)の昼下がりの情事。“濡れたら直ぐに入れられるやうに”と称したノーパンで山田を感激させながらも、未華はローションを取り出す。ローションの青い小瓶を押さへて、“蕾”の赤と、“濡”の青が鮮烈に映える01カラーのタイトル・イン。
 所変つて、壁に不必要に貼られたチラシがスタイリッシュを邪魔する、諏訪探偵事務所。山田の女房に浮気調査の結果を電話報告し、一仕事終えへたといふにも関らず沈んだ風情の諏訪に、悩ましい胸の谷間をチラ見せどころかガンッガンに押して来る、電話番の三谷葵(山口)が何かと絡む。後に明らかとなる葵の立ち位置は、諏訪の調査の結果離婚させられた葵が、押しかけ電話番の座に納まつたといふもの。何と羨ましい、もとい使ひ捨てるには惜しい、魅力的な設定でもある。葵を無造作に追ひ払ひ、諏訪はアコーハット嬢を呼ぶ。矢張り人違ひではなく、女は諏訪の死んだ親友の妻・未華であつた。驚きの再会を果たすも、さりとて事に及ぶ訳にも行かず、困惑する諏訪を残し未華はクールに踵(きびす)を返す。一拍置いて後を追ひ往来に飛び出した諏訪に対し、ピントを外された雑踏を背景に振り返つた未華が寂しげに微笑む、映画的かつ情感豊かなスローモーションが超絶。荒木太郎2011年第二作「発情花嫁 おねだりは後ろから」に於ける、兄妹(荒木太郎と淡島小鞠)の今生の別れ際といひ、飯岡聖英は油断してゐるととんでもないショットを叩き込んで来る。如何にも楽しげなハイキング風景に渡邊元嗣の女優愛が穏やかにも頑強に火を噴く、未華の回想。未華は諏訪の親友の秋葉佳樹(西岡)と結婚する。藪から棒なSM風味の夜の営みも織り込み、ともあれ幸福な結婚生活を送る未華ではあつたが、ある日理由も報せず、佳樹は排ガス自殺する。その時以来、未華は潤ひも喪つてゐた。ここで明らかとなる、一見微温を感じさせるタイトルの、悲愴な真の相が胸を撃つ。明けて画面一杯の度迫力どころでは最早納まらない、破天荒な胸の谷間を山口真里が放り込みつつ、未華への複雑な想ひと酒に溺れる諏訪は、未華の風俗の同僚で人妻の、千帆(酒井)に接触する。下衆なことをいふやうだが、西野翔に酒井あずさまで在籍してゐるとなると、確かに最高級だ。
 最速のペースで駆け抜けるナベシネマ2011年第四作は、師匠・深町章譲りの、一撃必殺のフィニッシュ・ホールドで畳み込む間に“技”を挿んだ力作。コミック兼お色気リリーフとして葵が適宜テンポを整へる秀逸な構成の中、淡々と進行する沈痛で屈折したラブ・ストーリーは、やがて秋葉の死の真相は終に明かされぬまま、潤ひを取り戻した未華も実は諏訪に秋葉の幻影を見たまま、正直求心力を失しかけた落とし処に着地するものと一旦は思はせる。正確には、と一旦は巧みに思はせておいて、満を持してビリング・トメの大役を果たす山口真里が蓋を開ける衝撃の結末には、素直に度肝を抜かれた。冷静に考へると、これでは酒井あずさとサーモン鮭山を完全に等閑視した格好となり、オーラスは再び巡り会へた夫婦の情交で美しく締めるものの、要はバッド・エンドでしかないのだが、まんまと騙されたものは潔く仕方がない。オチの大ネタで振り逃げる手法には師弟関係も窺へると同時に、都合三度もの林道を舞台に執拗に積み重ねられる、幸福感に満ち満ちた西野翔の姿を尺もタップリと費やし追求するエモーションこそが、渡邊元嗣の肝であることはこの期に及んで論を俟つまい。男女濡れ場要員にをも酒井あずさとサーモン鮭山を据ゑた隙のない磐石の布陣にも支へられた、如何にも量産型の娯楽映画に見せて、意外と作家的な一作である。
 備忘録< 実は一年前に未華も佳樹を追ひスーサイド


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 「美女妻クラブ ~秘密の癒し~」(2011/製作:フリーク・アウト/提供:オーピー映画/監督:国沢☆実/脚本:新耕堅辰・国沢☆実/撮影:佐久間栄一/音楽:因幡智明/助監督:桑島岳大/監督助手:田口敬太/撮影助手:池田直矢・芳野智久/編集:有馬潜/効果:梅沢身知子/フィルム:報映産業/出演:灘ジュン・佐々木基子・京野ななか・仁野見青司・森羅万象・寺西徹・村田頼俊・マイト・八納隆弘・三貝豪)。出演者中、ポスターからの消去法で森本正行が本篇クレジットでは仁野見青司に。
 ビーフシチューか、多分専業主婦の沢木亜由美(灘)が夕食の支度をしてゐると、呼鈴が鳴る。ちやらんぽらんな宅配兄ちやん(三貝)から荷物を受け取りがてら、指先が触れた亜由美が“見てしまつた”ところでタイトル・イン。タイトル明け、亜由美が突如襲ひかかつた三貝豪に陵辱されるのは、ある意味勝手に見た亜由美のヴィジョン。平穏な現実に戻り、被せられるモノローグ“私には、ある能力がある”。物理接触した相手の思念を、それが“淫らでおぞましい欲望”であるほどハッキリと見えてしまふ。自覚する厄介な異能力が、亜由美にはあつた。そんな腫物感を迸らせる亜由美の夫は、大幅にイケメンにした国沢実―背格好が似てゐるだけだ―といつた風情の俊哉(仁野見)。不思議なことに、亜由美に俊哉の心は見えず、逆にそのことが、亜由美が俊哉を夫に選んだ決め手となつた。尤も、子供を作るまだ早いでも意見の合はない、亜由美と俊哉とは微妙に擦れ違つてゐた。詰まらない昼メロに食傷する亜由美に、電話越しの声も聞かせぬ友人から電話が入る。リラクゼーション・ルーム「告白」と銘打たれた掲示板を薦められるままに触つてみた亜由美は、当初は出会ひ系かと小馬鹿にしながらも、性愛に悩む男の書き込みに対しそれなりに誠実なレスを返す。ここは些か、幾ら虚構とはいへ無造作な弾みではあるが、兎も角一連の対応が認められた亜由美は、「告白」の正式会員に招かれる。半信半疑で出向いた亜由美を迎へたのは、インテリジェンスを漂はせなくもない絶妙な胡散臭さが絶品の、「告白」を主幹する三嶋慶介(森羅)と、攻撃的に愛想の悪い葉山礼子(佐々木)。話を聞くだけだと迷へる男達のカウンセリングを求められ、当然固辞する亜由美を、不思議なことに俊哉と同じく心の見えない、あるいは見せない三嶋は半ば無理矢理にカウンセリング・ルームへと放り込む。そこに現れたのは、相談者初期装備の仮面に加へ、ダメ人間のアイコンとしてパーカーのフードも被つたいはゆるキモ男(マイト)。自身の容姿に関する劣等感と童貞を拗らせた、マイトの手に触れ閉ざされた心の傷を理解した亜由美は、優しく心と体を開き、二人は深い絶頂に達する。のは、恐らくはマイトも共有するイリュージョン。別室から室内をモニタリングする三嶋は、一見亜由美がマイトの手を取り黙つて座つてゐるだけの室内の様子に、何が起こつてゐるのか理解出来ず困惑する。
 前線を後退させると、グッと田口トモロヲとの近似度を増した寺西徹は、亜由美二人目の相談者。二十五年連れ添つた、つもりの妻に逃げられた男。八納隆弘が三人目、彼女は普通に居るにも関らず、臆病な性に踏み込めない贅沢者。京野ななかは、三嶋に対する金蔓視を爆裂させる女子高生の娘・沙織。少し肥えたやうに見える村田頼俊は、沙織と淫行する古文の村田先生。事に及びながら動詞の活用形を学習するのは、他愛なくも見せて、畳み込めば案外形になる。
 間は五ヶ月とぼちぼち順調なペースでの、触れた相手の心が見えるテレパスをヒロインに据ゑた、決して目新しい機軸でもないとはいへまた妙な風呂敷を拡げてみせて、大丈夫か?と一旦は危惧させる国沢実2011年第二作。主人公の心許ない夫を通過し、依然映画の首が据わらぬ中、百戦錬磨の森羅万象参戦。所々で飛躍の大きな物語を力技で固定しての、「告白」亜由美初陣が何はともあれ素晴らしい。森山茂雄の「肉体婚活 寝てみて味見」(2010/脚本:佐野和宏/主演:みづなれい)での愚直な熱演も記憶に新しい、マイト(=マイト利彦=伊藤太郎=伊藤利)の図式的に傷つき疲れた魂を、聖母をも思はせる灘ジュンが暖かく包み込む、都合よくも狂ほしい股間と胸を直撃するエモーションこそが今作の白眉。矢継ぎ早に、国沢実とは気心も知れてゐるであらう寺西徹が手堅く繋ぎ、八納隆弘は半ば仕方ないものとそこそこのところで諦めて、順に三番手と二番手が裸を見せる。そこまでで、起承転結でいふと承部。自身と無関係に充実する気配を窺はせる妻に不信を抱いた俊哉は、ネット履歴から「告白」を探知。カウンセリングを偽り、亜由美にとつては衝撃の対面を果たす。そこからの、結果的にはある程度容易に予想し得たものものでもあるのか、ともあれ個人的には油断しきつてゐたまさかの超展開には驚かされるのと同時に、勢ひにも飲まれ素直に心洗はれた。ところがところが、そのままおとなしく序破急で畳み込めばいいものを、続く御丁寧にも二本立ての蛇足が猛烈に邪魔だ、蛇を直立させてどうする。一時的には見事に輝かせておいて、最終的には何時も通りの釈然としない落とし処に着地する。国沢実的には逆の意味で鮮やかといへるのかも知れないが、寧ろ佐々木基子と京野ななかの絡みをドラマ内に回収する営みは潔く放棄し、二番手三番手の濡れ場は木に竹を接ぐに止(とど)まらせた上でも、主演女優の華麗な一点突破を図つた方が、より一層純化した美しさと強さとをモノに出来たのではなからうか。といふ素人考へが強い、残された派手なちぐはぐさが激しく惜しい一作である。

 本篇クレジットに際しては仁野見青司なる、正体不明の名義に変換される森本正行ではあるが、そもそも森本正行といふ名前の役者から、サラッと探してみたところで俄には見付からない。


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 「ONANIE三昧 秘書もOLも貝いぢり」(1990『ザ・ONANIE倶楽部3 変態OL篇』の2011年旧作改題版/製作:新映企画株式会社/提供:Xces Film/監督:新田栄/脚本:池田正一/企画:伊能竜/撮影:千葉幸男/照明:田端功/編集:酒井正次/音楽:レインボーサウンド/助監督:山内健嗣/監督助手:毛利安孝/照明助手:名取貴一/効果:時田グループ/出演:高樹麗・大島ゆかり・水鳥川彩・神坂広志・石神一・山科薫・小林夏樹)。企画の伊能竜は、向井寛の変名。撮影助手に力尽きる。
 兄宅に同居する和美(高樹)のシャワー・シーンを噛ませて、翌日から長期出張で渡米する兄・秀人(山科)と、兄嫁・圭子(小林)との名残も惜しんだ夫婦生活。を覗き見ての、和美の自慰を矢継ぎ早に畳み込む辺りは、新田栄が秘かに誇る開巻の出足。カット明けると新田栄のスピード感は加速、一欠片の段取りもスッ飛ばし、出し抜けに会社の保養所が取れた旨を和美が圭子に電話で報告したかと思へば、義姉妹は千葉県は御宿町へとチャッチャと移動。物件的には「痴漢と覗き 体育会系女子寮」(1992/脚本:亀井よし子/主演:泰葉)でも見覚えのある、今田商事厚生クラブに入る。正直天候にはあまり恵まれない中、付近を散策する和美と圭子は、野外で事に及ぶ奈保(大島)と則夫(石神)のカップルを目撃、当然目を丸くする。その夜、律儀に持ち歩く秀人のスナップ―宣材と思しき、二枚目を気取る若き山科薫が微笑ましく小憎らしい―を前にした圭子オナニーを経ての翌日。翌朝一人で散歩に出た圭子は、則夫と遭遇。邪欲も剥き出しに石神一が再登場するや、チャーンチャーンチャーンと大仰に鳴り始める、往年のホラー映画風の劇伴が今となつては笑かせる。1990年当時、既に十分やらかしてゐたのではないかといふ気もするが。随分と無造作にも則夫がいきなり圭子に襲ひかかつての修羅場、そこに自称カメラマンの卵―後に大学生であることも判明する―の田坂(神坂)が通りがかり、圭子は危ふく事無きを得る。姉妹に感謝された田坂は、厚生クラブの宿に迎へ入れられる。
 新東宝の公式によると、後述する「女医三姉妹篇」がデビュー作であるとの水鳥川彩は、人妻でありながら田坂を援助する千尋。和美が、田坂が千尋が逗留するみかど旅館に向かつたことを聞き出す厚生クラブ管理人は、案の定新田栄。地味に出たがりなこの人に、ピンク映画界のヒッチコックの称を戯れに冠したい。
 新田栄同年第一作の「ザ・ONANIE倶楽部 女子大生篇」(主演:美穂由紀)が余程好評を博したのか、「ザ・ONANIE倶楽部2 女医三姉妹篇」(主演:小林夏樹/未見)を挿んでの、全て池田正一とのコンビによるザ・ONANIE倶楽部最終第三作。本筋らしい本筋の清々しく存在しない始終を、憚ることなく改めてザックリとトレースしてみると。プロポーションは綺麗な反面、ルックスは正直散らかり気味の主演女優の裸見せで順当に幕を開け、ひとまづ美人ではあるものの些か華には欠き線の細い小林夏樹の絡みと、畳みかける高樹麗のONANIE初弾。ノー・モーションで舞台を御宿に移し、三番手の青姦。今度は小林夏樹のONANIE第二弾を置いての、続く翌朝のレイプ未遂、と神坂広志イン。とりあへずはハンサムを姉妹が取り合ふ図式が成立し、その夜の和美逆夜這ひと、それを覗いての圭子再ONANIE。更に翌朝、ジョギングに出た圭子と、それを追ひ駆けた田坂との青姦第二戦。更に更にその夜、意図的に圭子は酔ひ潰しての、厚生クラブ庭に出ての和美と田坂の青姦第三戦、既に空は青くはないが。そして劇中最終日、姉妹を幻滅させるべく飛び込んだ水鳥川彩と、神坂広志の青姦第四戦。フィニッシュを飾るその夜の義姉妹Wオナニーは、画は和美のみ。首の上下を問はず他を圧倒する水鳥川彩が、ビリング最後塵を拝する釈然としない不遇にさへ目を瞑れば、無駄に物語を追ふ労を殆ど一切廃してみせた分、一息に観させる裸映画の水準作ではある。ザ・ONANIE倶楽部といふよりは、ザ・青姦倶楽部と思へなくもない点に関しては、御愛嬌の範疇とでもいふことにして。ところで、ONANIEにせよ青姦にせよ、そこは定冠詞が“ザ”ではなく“ジ”にならないのか?といふツッコミに対しては、それでは字面が悪い。

 再びところで、和美が今田商事のOLであることは判るのだが、秘書といふのが誰を指すものやらサッパリ判らない。最大限に好意的に推測すると、別に子供も居ないのに秀人と一緒にアメリカに行かないのが不自然といへば不自然な、圭子が何処かしらで秘書の職に就いてゐるのであらうか。エクセスのつける新題だから、といつてしまへばそれまでの話にも過ぎないが。


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 「極楽銭湯 巨乳湯もみ」(2011/製作:加藤映像工房/提供:オーピー映画/監督:加藤義一/脚本:近藤力/撮影監督:創優和/編集:有馬潜/録音:シネキャビン/音楽:與語一平/助監督:江尻大/撮影助手:平林真実・酒村多緒・黒澤ちひろ/監督助手:北川帯寛/スチール:本田あきら/音響効果:山田案山子/現像:東映ラボ・テック/協力:広瀬寛巳・東京JOE・ジョージ★シライ・岡本幸代・平田浩二・中田大助・館山智子・本橋智子・本橋ミキ・サーモン鮭山・高木高一郎・鎌田一利・松島政一・Blue Forest Film/出演:Hitomi・山口真里・倖田李梨・柳東史・津田篤・太田始・なかみつせいじ)。脚本の近藤力は、小松公典の変名。出演者中、岡田智弘が何故か本篇クレジットから抜けてゐる。
 銭湯の湯船―ロケ地は東京都多摩市の「サウナ立花浴泉」―に浸かる性に悶々とする津田篤の前に、公称97cmといふのがとてもその程度で済むやうには見えない、人外な巨乳の両乳首を金銀の星で隠したHitomiが女神に扮して登場。斧ならぬ、貴方が探してゐるのは金の乳ですか、銀の乳ですか、と抱腹絶倒の遣り取りを経て、女神は正直な津田青年にオッパイビンタを敢行、乾はるかのマンガを実写化したかのやうなスペクタクルを展開する。そのまゝ馬並の津田ジュニアをお股神サマに咥へ込んだHitomiがよがり泣くのは、開店待ちの客が列を作るといふのに、番台にて眠りこける若女将・梅野香寿子(Hitomi)のポップな夢オチで落としてタイトル・イン。
 脱衣所の靴箱に、ビートに合はせて多人数が頻繁に靴を出し入れする普通にイカしたイントロから、與語一平のミュージシャンとしての懐の深さも何気なく火を噴く、驚くことに怒涛の銭湯ラップを再び敢行、舞台と常連客の紹介を賄つてみせる。元来、主にはアクション映画に於いての、ライブだのディスコだのと音楽的なシークエンスといふと、全身活動屋の監督が門外漢である場合定番的に仕出かしてしまひかねない地雷でもあるのだが、そこはハードコアのヘビー・リスナーであると伝へられる加藤義一のこと、予想外に形になつてゐる。ピンクのスケジュール的な大制約まで踏まへると、細かなカット割りだけで結構馬鹿にならない仕事ともいへるのではなからうか。徐々に与へられる情報も込み込みで整理すると、立花浴泉の先代にして香寿子の乳、もとい父・達吉(遺影スナップの主不明)は、常連客の子供をトラックから救ひ交通事故死。香寿子はOLを辞め継いだ立花浴泉を、やんす言葉でオナニー狂―ヴィジュアル的には法被姿にサモニックな瓶底メガネ―の、達吉の代からの住み込み従業員・鳥野丈二(岡田)とともに切り盛りする。常連客は、源氏名はひばりのソープ嬢・沢井多津子(倖田)。立花浴泉とは二十五年来の長い付き合ひともなる、不動産屋の翔(なかみつ)と、歳の離れた妻・百合(山口)の大友夫婦。香寿子が秘かに焦がれる通称馬並クン(津田)は、よもや湯助ではあるまいが本名はユースケで、実は多津子の彼氏であつた。協力部の大半は、脱ぐ女客は不在の銭湯要員。
 昨今のランニング・ブームにも乗り盛況の立花浴泉に、暗雲が立ちこめる。近所に安価で入浴出来るスポーツ・ジムがオープンし、案の定客は流れて行く。下ネタしか繰り出さない役立たずの多津子や大友と対策を会議する香寿子ではあつたが、大友から達吉時代との湯の違ひを指摘され、途方に暮れる。そんな立花浴泉に、風呂を入れるプロであつた達吉に対し自称“風呂に入るプロ”こと馬場まこと(柳)が、カッコよく単車に跨り流れて来る。馬場を招く形で香寿子が再建に乗り出した立花浴泉に、入浴しながら難事件に推理を巡らせる、“銭湯刑事”なる異名を誇る渡真吾(太田)も現れる。温度は改善されたものの、依然達吉の入れたものには及ばぬ湯に落胆した渡は、ブロガーならぬ“風呂ガー”でもあり、インターネットでその旨を発信。高度情報化社会の恐ろしさよ、戻りかけた客足は再び離れて行く。それにしても“風呂ガー”とは、金の乳銀の乳といひ、小松公典天才過ぎるだろ。
 二作ぶりにマトモな脚本家を迎へた加藤義一2011年第二作は、季節感さへさて措けば直撃する形で封切られた―公開は八月十二日―お盆映画に相応しい、賑々しい娯楽映画の良篇。何時か何処かで見聞きしたやうな物語は、フィニッシュに雑さを残すのと手数の多い各エピソード相互の連関は然程強固ではないにせよ、磐石の大団円へと順調に辿り着く。木に竹を接ぎ気味の一幕ながら、男湯と女湯を隔てる壁越しの、父無し子であつた百合と若き大友との逸話は客席の涙腺を直撃しつつ、矢張り特筆すべきは、十全な右往左往も経て馬場が遂に再現に漕ぎつけた達吉の湯を、香寿子が更にプログレスさせるクライマックス。完璧な完成度で看板を具現化してみせた、“巨乳湯もみ”がピンク映画的に決定的に素晴らしい。ホンと配役と、現実的にどちらが先に立つものやら地方在住のしがない一観客につき与り知らぬが、現に湯を揉むに足る大巨乳を有する主演女優に恵まれた、エポック・メイキングな銭湯映画。記録的なオッパイに止まらず、案外素のお芝居も無難にこなす、とはいへ本篇初参戦にして初主演のHitomiを巧みに護衛する、柳東史と岡田智宏のギミックを効かせた造形も、上滑るでなく有効に機能。戯画的な名だか迷刑事を好演する、太田始のチョビ髭も地味に堪らない。加藤義一らしい、いい湯加減の幸福感に満ち満ちた一作。立花浴泉復興計画に上手く盛り込むまでは流石に果たせずに、総じて濡れ場の威力は些か弱い点に関しては、この際湯に流してしまへ。

 唯一、正しく画竜点睛を欠くのは、これまで今世紀三作何れもオーピーの銭湯ピンクの全てに、女湯裸要員としてカメオ出演を果たすといふ偉業を達成してみせた、里見瑤子の不在。


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 「淫虐令嬢 吸ひつく舌」(2011/制作:セメントマッチ/提供:オーピー映画/監督:池島ゆたか/脚本:五代暁子/撮影:清水正二/編集:酒井正次/音楽:大場一魅/助監督:中川大資/監督助手:金沢勇大/撮影助手:海津真也/照明応援:広瀬寛巳/編集助手:鷹野朋子/スチール:津田一郎/録音:シネキャビン/現像:東映ラボ・テック/タイミング:安斎公一/協力:小川隆史・松井理子/出演:夏海碧・富田じゅん・三橋ひより・沼田大輔・野村貴浩/Special Thanks:松井理子・中根大)。ポスターは間違つてゐないのに、出演者中富田じゅんが、正しくは冨田じゅん。ポップな地雷を、踏んだともいへる。
 グニャングニャンCG加工を施した、蛇のイメージ噛ませてタイトル・イン。ショットひとつで遠くから来(きた)る旨を語る手際が地味に堅実な、アーミー・ルックに蛇革ブーツを合はせた主演女優を押さへて、尾崎家での、大学病院に勤務する内科医の尾崎裕子(富田)と、同僚の外科医兼年下の恋人・今井タカシ(野村)の情事。旦那の去就は語られないが目下シングルの裕子には、一人息子の省吾(沼田)がゐた。出来の芳しくない息子が医者になるのはとうに諦めた裕子ではあつたが、大学生の省吾は就職はおろか、卒業も危ふかつた。日を改めて、結婚しての独立を互ひに考へなくもない、人間関係の煩はしい象牙の塔ならぬ院。裕子は今井に、急に姪の面倒を見ることになつた顛末を語る。既に故人の裕子の妹・志摩子は、沖縄でアーミッシュ風の集団生活を送つてゐた。やがて志摩子は妊娠するが、出産と同時に死亡。産まれた女児は、父親の橘敬(CV:池島ゆたか)が連れ去り姿を消す。不思議なことに、赤子が寝かされてゐたベッドの上には、一枚の蛇のやうな鱗が残されてゐた。裕子は死んだものと思つてゐたが、橘の死去に伴ひ、志摩子の娘・美巳子の生存が確認される。沖縄の役所から、唯一の親族である裕子に、美巳子の身許を引き受けるやう依頼が来たといふのだ。省吾と、口唇性交は忌避するお嬢様育ちの彼女・真央(三橋)の一戦挿んで、尾崎家に美巳子(夏海)が入る。美巳子は、極端な寒がり―服装の軽さは不問だ―でゐて湯を浴びるのは激しく拒み、食事も、生卵のほかには摂らうとしなかつた。裕子は不自然に無防備な中、蠱惑的な美巳子に、省吾も今井もインスタントに心を囚はれる。
 池島ゆたか2011年第二作は、派手に仕出かしたといふか逆に消極的に力尽きたといふべきか、兎も角この御仁の映画にしては珍しく、お話の中途、あるいは未了感が甚だしい失速作。蛇の化身を疑はせる野生的で淫蕩な娘が、南の島より東京にやつて来る。忽ち篭絡された男衆は、ある者は精を吸ひ取られたかの如く急速に老化し、またある者は前後を失し娘の意のまゝ操られるに至る。さういふナチュラルなホラー仕立てはそれはそれとして、問題なのは、“~操られるに至る”といふのが中盤までの粗筋に正しく止まらず、これが結末、“操られるに至”つたところで映画が終つてしまふ点。ある意味衝撃的な唐突さに、全篇を通して滞ることなく観させるテンポならば維持されるゆゑ、尺が未だ四十分そこらではないかと面喰つた。そもそも、最終的に果たす果たせないはさて措き、裕子が奪はれた恋人と息子の奪還に乗り出すどころか、奪はれた認識にさへ達さずじまひでは、三番手の三橋ひよりだけでなく、二番手の冨田じゅんから濡れ場要員にしか殆ど見えない。この期に尺の目安なり配分を誤るミスター・ピンクでもあるまいに、面白い詰まらない以前に激しく解せない。それでゐて、ちぐはぐな部分や端的に仕出かした箇所も散見される。挿入されるのはアンアン大好きだが、尺八は嫌ふ真央いはく―男性自身が―蛇のやうだといふのは、神を宿したディテールのひとつも投げたつもりなのかも知れないが、些か無理が過ぎるのではなからうか。省吾のモノはどれだけグニャグニャ長いのか、などと無粋なツッコミを入れるまでもなく、通常、我々の愚息は蛇ではない、文字通り亀である。省吾の造形は基本ダルにも関らず、冨田じゅんの持ちキャラに沼田大輔が無理して合はせたかのやうな、下町系ホームドラマ風の遣り取りなども、結果的に不足の多い展開の中では、不要といふ印象をいや増すばかり。今井に買はせたネックレスを、美巳子が省吾につけさせるカットから、人が変つたやうに暴力的な省吾と、振り回される真央の二回戦への流れは、直後の美巳子V.S.今井の二連戦込みで繋ぎが些か粗雑。そして、別の意味で鮮やかですらあるのは、裕子から今井を紹介された美巳子が、外科医属性に目を輝かせる件。「生きてる内臓を見たり、切つたりするんですね」、だから外科医だといつてをる、人の話を聞いてゐないのか。そもそも、臓物が琴線に触れるのなら初めから叔母に喰ひつけばいい。あちらこちらのルーズさがらしからぬ、集中力の欠如をも疑ひたくなる一作。いはゆる爬虫類系といふルックスでは全くない夏海碧を、男達を蛇のやうに絡め取る妖艶といふほどではないセクシーに描く手数は、十二分に尽くされる。とはいへ、蛇娘の雰囲気といふ外堀を埋めるのに手一杯で、お話の中身といふ本丸がお留守では仕方がない。

 もうひとつ形式的に腑に落ちないのが、キャストと連動してクレジットされるところをみると何処かしらに何かしらで登場してゐる筈なのだが、Special Thanksの二人がどういふ形で見切れてゐるものやら全く見当がつかなかつた。まさか、裕子が今井に美巳子のイントロダクションを語る、院内と称したそこら辺の公園シーンに際しての、背景に小さく置かれたその他看護婦と患者なのか?仮にさうだとすると、あれは小屋で観る分にも流石に遠過ぎて、誰が出てゐやうがまづ判らないぞ。それとも、こちらも半ばシルエットに近い撮り方でその人ともどの人とも特定し難い、回想イメージ中の、志摩子と竜神様といふ線が残されてゐなくもないのだが。


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 「ノーパン女子会 異常擦り合ひ」(1990『ザ・放課後ONANIE』の2011年旧作改題版/製作:獅子プロダクション/提供:Xces Film/監督:わたなべもとつぐ/脚本:双美零/撮影:清水正二/照明:田端一/編集:酒井正次/助監督:山崎光典・小野寺昭洋/監督助手:江尻健司/照明助手:小田求/出演:姫野亜利砂・伊藤清美・石川恵美・南城千秋・芳田正浩・山本竜二)。撮影助手、色彩計測その他に力尽きる。監督のわたなべもとつぐは、勿論現在の渡邊元嗣。
 「フレー、フレー、あ・け・み!」。煽りで捉へた小高い丘にて、セーラ服姿の吉川朱美(姫野)が自身にエールを送る。そこにフレーム外から飛び込んだ多分担任の水田一雄(山本)が合流、二人で「オー!」と拳を突き上げたストップ・モーションに被せられるタイトル、完璧な青春ドラマだ。
 そんな朱美が、一体何に奮闘するのかといふと。よくいへば虚構的な、無造作極まりない飛躍が堪らない朱美は、自宅でタクシーならぬ白覗き部屋「オナニーBOX 青春の香り」を営業してゐた。「事の起こりは、十七歳の誕生日」、実にスムーズなモノローグで幕を開く、回想による顛末。両親は海外赴任中につき戸建に一人暮らしの朱美と、大学生の彼氏・伊藤純一(南城)との二人きりのお誕生日会。リア充な雰囲気から一転、純一は土下座して泣きつく。お前は兎も角高校はどうしやがるのか、といふ話はさて措き、朱美の誕生日に海外旅行をとティッシュ配りのアルバイトに勤しむ純一に、胡散臭げな白井達次(芳田)が接触。何故か純一の海外旅行といふ目的を知つてゐた白井は、法外どころでは済まない三百万の英語教材を売りつける、外国人と同居でもさせて呉れるつもりか。借金を抱へた純一は、簡単なプレゼントすらままならなくなつてしまつたのであつた。そんなこんなで今日も盛況のオナニーBOX、一仕事終へた朱美が客(内トラの皆さん)の喝采を浴びる中、後ろから当てられたスポットも背負つた伊藤清美が剣幕も荒く登場、朱美に詰め寄る。伊藤清美はどよめく男達いはく、“伝説の女王”にして“アクメのゆかり”なる底の抜けた異名も誇る、名うてのストリッパー。ショバを荒らされたことにではなく、オナニーの“オ”の字も知らぬ小娘が客前に立つことに憤慨する職人肌のゆかりに対し、この切り返しには素面で驚かされたが、朱美は仁義を切る。ゆかりは朱美の熱意を酌み、師弟関係が成立。撮影機材か、何某かの機械の上に裸電球を並べた“性感帯開発マシーン”や、女陰習字も繰り出しての鍛錬を経て、次第に朱美が一人前のオナニスト―何だそれ(´・ω・`)―に成長する一方で、ソープランド「来夢」の客引きに夜の街で汗を流す純一に、系列店なのか、「夢御殿」の泡姫・由美子(石川)は気軽な好意を寄せる。
 基本平仮名名義で、当時僅かな期間軸足を置きかけてゐなくもなかつた、渡邊元嗣の1990年エクセス作。超絶の開巻と、ポップな特訓シーンを通して、ビリング・トップは細身の持田さつきに過ぎないままに、ナベ十八番のアイドル映画が快調に進行。股間への威力は然程大きくはないが、映画的な期待に胸は膨らむ。仕上げは些か雑ともいへ、中盤伊藤清美が起動した浪花節は、やがて朱美と純一による恋の擦れ違ひ物語へと素直に移行。ここからの終盤が、何気なくも圧巻。二度の顔見せで一見気楽に種を蒔いた石川恵美が華麗に発芽、溜めに溜めた三番手の一戦を仕上げの一手に、終りかけた若き恋路が修復される着地点は、アイドル要素は薄まるものの正調娯楽映画として磐石のハッピー・エンド。改めて整理すると、ヒロインの蛮勇気味の桃色奮戦記を、百戦錬磨の二番手が支援。二番手が自身の見せ場と共に深化させる形で修正を施した展開を、今度はそれまではおとなしく周縁にほんはかと留まつてゐた三番手が、一撃必殺の濡れ場でゴール前までアシスト。触れば入るボールを、エクセスライクな主演女優に繋ぐ。実は実直な論理自体がエモーショナルな、量産型裸映画のスマートな完成形。パッと見の他愛なさまで含めて、狂ほしく素晴らしい、いいものを観させて貰つた。千本を跨ぎ久々に繰り返すと、未知の新作と未見の旧作との間に、形式的には如何なる差異があるといふのか。メキメキ元気に新作が製作されることの方が、それは目出度いことはいふまでもなからうが。


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