真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「喪服姉妹 熟女しびれ味」(2009/製作:関根プロダクション/提供:オーピー映画/監督:関根和美/脚本:新居あゆみ・関根和美/原題:『ふたり』/撮影:下元哲/照明:代田橋男/助監督:新居あゆみ/編集:有馬潜/録音:シネキャビン/監督助手:府川絵里奈/撮影助手:浅倉茉里子/照明助手:松山潤之介/スチール:小櫃亘弘/効果:東京スクリーンサービス/現像:東映ラボ・テック/出演:佐々木麻由子・酒井あずさ・睦美杏奈・天川真澄・久保田泰也・なかみつせいじ)。
 関根和美・亜希いずみ夫妻も弔問客で見切れる自宅葬儀の席で、宮内冴子(佐々木)はスナックを営む妹の石塚リエ(酒井)と、十年ぶりに再会する。時折口に上る“ユミ”といふ名前が、喪主なのか仏さんなのかは不明。何気に、2009年三年ぶりで銀幕復帰した亜希いずみは、六月公開の「折檻調教 おもちやな私」(監督:下元哲、もとい松原一郎/主演:吉行由実)に続く連続登板となる。話を戻して当時、社長秘書職のストレスから酒に溺れ気味であつた冴子はリエの店で知り合つた一樹(天川)と結婚するものの、結婚後も毎晩帰りの遅い夫と妹との仲を疑ひ、以来姉妹は事実上の絶縁関係にあつた。豪勢にも二つ並んだ握り寿司の寿司桶―それともこれダミーか?―に手をつけるでなく、二人は次第に歳月を埋める互ひの話を始める。
 佐々木麻由子と酒井あずさを熟女2トップに並べた上での、さしたる威力も感じさせない小娘要員の睦美杏奈は、自覚の足らないリエの店のアルバイト・霧島杏。イケメン気取りが暴力的に腹立たしい久保田泰也が、杏の彼氏でホストの後藤俊二。店を休んだ杏を詫びにスナックを訪れた俊二を、リエは寝取る。一応大トリ的に登場するなかみつせいじは、一樹との埋まらぬ距離に心の隙間を抱へた冴子が、よろめいてしまふ華道教室講師・沢木隆一。
 佐々木麻由子と酒井あずささへ銀幕に載つてゐれば、後はドラマチックな展開も映画的興奮も、何も要らないといふタフガイには大いにお薦めし得る一作。感動的に動きに欠けるロケーション―リエの店以外の屋内は、要は専ら関根和美自宅で賄つてゐないか?―に加へ、短い姉妹の遣り取りを果てしない長さの濡れ場で繋ぐばかりの、物語の中身も激越に薄い。ひとまづ何となく冴子とリエとが和解して別れるラストの据わりだけならば悪くはないが、幾ら佐々木麻由子と酒井あずさとの2ショットとはいへ、「あゝ、薄型液晶テレビ買ふたのね」といふ関根家の居間だけでほぼ事済ませようといふのは、流石に少なくとも一篇の商業映画としては些か以上に無謀だ、以下か。プアな映画のプアさをチャーム・ポイントと言祝ぐ、さういふ愉楽もなくはなからうが、生憎昨今の誇張ではなく殺人的な暑さにもコロッと屈し、結構致命的な疲弊に息も絶え絶えな折につき、直截なところ波状攻撃を仕掛けて来る睡魔に抗ふのに非常な困難を覚えた。


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 「団鬼六 縄責め」(昭和59/製作・配給:株式会社にっかつ/監督:関本郁夫/脚本:志村正浩/プロデューサー:奥村幸土/企画:人尋哲哉/原作:団鬼六/撮影:野田悌男/照明:木村誠作/美術:金田克美/編集:鍋島惇/録音:細井正次/選曲:伊藤晴康/助監督:池田賢一/製作担当:鶴英次/スチール:目黒祐司/出演:高倉美貴・高橋かおり・仙波和之・井上はじめ・益富信孝・西山直樹・森美貴・中山あずさ・尾崎八重/緊縛指導:浦戸宏)。配給に関しては事実上“提供:Xces Film”か。緊縛指導の浦戸宏が最後に来る順序は、本篇クレジットまま。
 豪奢な寝室、初老の男がブランデーを舐めながら、絵に描いたやうな高圧的な態度で若く美しい妻を虐げつつ一方的な事に及ぶ。圭子(高倉)は東都銀行何処やら支店支店長の小林雄三(仙波)と、実家への融資を盾に後妻として結婚する。前妻と別れた理由は語られない小林の求めるものは偏に子宝のみで、豊かではあるものの愛の無い生活に、圭子は疲れてゐた。小林が店を持たせるだのどうだのと、銀座のホステス・ルミ(高橋)とこれまたステレオタイプ感が爆裂する愛人関係に戯れる一方、ある日作成しよう、もといある日一人でフラりと海岸に遊びに出た圭子は、海岸を清掃する城北大学生・野崎(井上)と出会ふ。年も近い野崎と火遊びによろめいてしまつた圭子が潤ひを取り戻したのも束の間、二人の逢瀬は、何者かによつて写真に捉へられてゐた。五百万の金を要求された圭子は、さりとて百万しか掻き集めることが出来ず、受け渡し場所に指定された喫茶店に現れたルミに、場末のバーへと誘(いざな)はれる。そこに待ち構へてゐたサディスト・土田(益富)と、ルミに加へルミの護衛機―スレイブ―格のマリとフミ(中山あずさと尾崎八重)まで交へて、不足分は体で払へと、ダイレクトにお定まりな淫獄に圭子は堕ちる。
 いはずと知れたロマンポルノの一作といふことで、いふまでもなく画面自体の基本的な分厚さが、流石にピンクとは比較にならないほどに違ふ。つらつら眺めてゐるだけで昭和の時代の日本映画を観てゐるといふ快感に浸れはするものの、開巻とオーラスの正対照を成す逆転以外には、特に壊れもしない代りに新味も全く欠いた展開の始終は正しく、文字通りプログラミングされた印象に留まる。かつて和製オリビア・ハッセーと謳はれた高倉美貴の美しさは確かに時代を越えた決定力を有しもするが、映画全体のグレードが高いだけに、それだけではどうしても物足りなさが残つてしまふ感も禁じ得ない。叶はぬ与太言と承知の上でなほいふが、ここは寧ろ、ピンク映画の安普請の中に放り込んでみた方が、より一層高倉美貴が際立ちもしたのではあるまいか、などと思はぬでもない。
 配役中、黒川と由加とある西山直樹と森美貴がよく判らないが、残る候補は小林家の老家政婦と、結婚式当日回想ショットに見切れる、圭子父親辺りか。

 主に圭子の寂寥を表現する為とオーラスを綺麗に締め括る用途で、“赤いほうせん花 お庭に咲いたよ”との歌詞から始まる、加藤登紀子の「鳳仙花」が劇中歌としてガンガン使用されはするのだが、クレジットには一切載らない。大らかな時代の名残、さういふ風にでも、呑気に解釈すればよいのであらうか。


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 「義母と郵便配達人 ‐禁欲‐」(2010/製作:松岡プロダクション/提供:Xces Film/監督:松岡邦彦/脚本:今西守/企画:亀井戸粋人(エクセス・フィルム)/撮影:村石直人/編集:酒井正次/助監督:新居あゆみ/監督助手:荏原マチコ/撮影助手:松宮学、他二名・瀬戸詩織/照明助手:白井良平/スチール:田上和重/選曲:山田案山子/現場応援:関力男/出演:佐々木麻由子・宝部ゆき・若林美保・吉岡睦雄・小林節彦/友情出演:世志男・サーモン鮭山)。
 医者からは止められてゐる筈の酒もチビチビやりながら、妻とは早くに死別した特定郵便局局長・加藤三郎(小林)が出会ひ系、もとい結婚希望者同士のマッチング・サイトにうつつを抜かす姿に、帰宅した郵便配達人の息子・直也(吉岡)は閉口する。万事にアグレッシブな簡単にいふとガッハッハ体質の三郎に対し、直也はネガティブにすら見える、ナイーブな気質だつた。画面(ゑづら)としての凸凹具合は映える、郵便局を畳ませ地上げしようとする市会議員の小泉一郎(世志男)と竹中二郎(サーモン)のコンビと、「どうなんぢや!」を三回連呼する口癖をリズミカルに炸裂させる三郎が、日常的かつ苛烈にいがみ合ひつつ、ある日風呂にでも入らうかとした直也は自宅の廊下で、乳首はしつかり隠さないバスタオル一枚の広瀬陽子(佐々木)と鉢合はせ目を丸くする。聞くと陽子は三郎がサイトを介して出会つた女で、結婚した上ゆくゆくは料理教室の講師だといふ陽子の為に、郵便局を潰し新たな料理教室を開かうかとさへいふ。その夜、畏怖すらしてゐた父親の予想外なマゾ性癖を、覗き見た予行夫婦生活に目の当たりにした実は童貞の直也は重ねて度肝を抜かれると同時に、自らの裡に目覚めるものも感じる。翌日、昨晩の陽子の艶姿に仕事がまるで手につかない直也は、配達も放棄し衝動的にホテルに直行。M性を看破されたホテトル「夢の城」の風俗嬢・アズサ(若林)からは、仕事中に何してるんだと激しく罵られながらも、最終的には目出度く筆卸して貰ふ。自分で筆を滑らせておいて何だが、目出度いのか?それは。兎も角その日の仕事を終へた直也を、止めを刺すべく更なる衝撃が襲ふ。陽子の連れ子だといふことで、フルートを嗜む女子大生・梨沙(宝部ゆき/佐倉萌のアテレコ)が加藤家の新たな家族として家に居たのだ。その夜自室のベッドの上にて、直也が梨沙をオカズとした妄想―イマジン中の、全裸フルートのギミックは完璧―を膨らませようかとしたところ、あらうことかお兄ちやんが出来て嬉しいので何でもするだなどと蕩けた方便で、梨沙から直也の股間に顔を埋めてゐた。このカットに際しての、知らぬ間に梨沙がフルートならぬ尺八を吹いてゐることに気付いた直也が上げる「ドワーッ!」といふ驚嘆は、個人的には数少ない、吉岡睦雄に認め得る持ち芸のひとつ。
 食欲まで含めて、例によつて欲にまみれた亡者どもの繰り広げる悲喜劇。といふと、何時もの松岡邦彦作と同じアプローチではある、のだが。僅かではあれ新作製作を断念してはゐない分、新東宝よりはマシといへるのかも知れないが矢張り半死半生のエクセスと、エース格の松岡邦彦も終に運命を共にしてしまつたのか、松岡邦彦映画にしては大いにスケールもグルーヴ感も不足した一作。そもそもが、宝部ゆきのファースト・カットから、劇中時制で丸々一昼夜を分数もタップリ費やしての、直也の白日夢ループが異常に長い長い。全く形式的に限定して、純粋にそのことのみに関する吃驚感だけならばなくもないが、以降は梨沙の正体についての詳細も語られず仕舞ひの性急あるいは雑な展開の内に、結局三郎を片付けるに止(とど)まり直也の一皮も剥けないままでは流石に頂けない。三郎の制服を勝手に拝借したとはいへ殆ど応援団員テイストの、乳も放り出した陽子が郵便局のカウンターに悠然と腰掛け直也を迎撃する、無頼で淫靡なショットには突破力も漲るものの、お話が形になつてゐないでは始まらない。手数が明らかに不足し六合目か七合目辺りで力尽きた感が強く、松岡邦彦にしては珍しいとも思へるがほんの一時間の尺を、激しく冗漫に持て余す。最終的には何処にも抜けなかつた物語の、澱みが残されるばかりである。


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 「妖女伝説セイレーンXX ~魔性の欲望~」(2009/製作:株式会社竹書房/監修:亀井亨/監督:岡元太/脚本:小松公典・岡元太/企画:牧村康正《竹書房》/プロデューサー:加藤威史《竹書房》/原作:高島健一《フォーサム》/プロデューサー:森角威之/ラインプロデューサー:泉知良/撮影:飯岡聖英/録音:廣木邦人/ヘアメイク:大脇尚也/助監督:江田剛士/音楽:近藤将人/制作担当:斎藤光司/制作応援:芦塚慎太郎・澤口豊/出演:七海なな・持田茜・久保田泰也・津田篤・佐藤良洋・サーモン鮭山・岸健太朗・栗島瑞丸)。
 鏡池の広がる山間の田舎町。ある雨の日、何をすればそこまで壊れるのか理解に苦しむ―車にでも轢かれたのか?―傘を放置し、芙美(七海)が鏡池のほとりをフラフラと歩く。そこに通りがゝつた芙美の担任(サーモン)は、雨と汗に濡れた女子高生の制服のブラウスに欲情、ついついその場の弾みで芙美に襲ひかゝる。一旦抵抗に遭ひ思ひ留まると同時に、激しく自責の念に駆られる鮭山先生の前に、何時の間にかギリシァ風のドレスに衣替へした芙美が妖艶な―つもりの―笑みを浮かべながら現れる。自ら男の腰に跨つた芙美は、悶絶する鮭山先生の精を僅かなエフェクトを使用するでなく吸ひ取る。憐れ鮭山先生は絶命する一方、別所では同級生で芙美に告白するつもりの圭介(久保田)と、その成否を面白がる孝平(津田)に巽(佐藤)、孝平の彼女でありながら、圭介に対し満更でもない以上の気持ちを寄せる敦子(持田)が、芙美が現れるのをそれぞれのテンションで待つてゐた。その場の空気に居た堪れなくなり、芙美を探しに行くと称して孝平らの前から立ち去つた圭介は、池辺で芙美のiPhoneを拾ひ愕然とする。その日を境に、芙美と鮭山先生は行方不明になつたものと処理される。五年後、東京に出たものの芙美の喪失感を克服することも出来ず行き詰まつた圭介は、挙句にヤクザから金を借り追ひ込まれる。借りた金の返済の代りに敵対組織の組長狙撃を指示された圭介は、逃げ隠れるやうに故郷に戻る。鏡池に辿り着き、渡された拳銃で自殺を試みた圭介に、孝平と巽が声をかける。鏡池の水を「永遠の水」と称してネット通販し、馬鹿を騙すロマンを売る商売を始めようとしてゐた二人は、圭介も気軽に誘ふ。敦子は圭介との再会を殊更に喜びつつ、栗島瑞丸が弟の荒木兄弟(兄は岸健太朗)が、鉄砲玉を放棄した圭介を追ひ町に現れる。巽と圭介が池の水を汲みに向かつた行き違ひで孝平の家を襲撃した荒木兄弟は、敦子の身柄も押さへた上四人で鏡池へと向かふ。圭介・巽・孝平と敦子に荒木兄弟まで、全篇を通してロケーションが貧相な中彼岸に退場した鮭山先生以外の登場人物が鏡池に集まるタイミングを見計らつたかのやうに、再びギリシァ風ドレス姿の芙美が、巽の前に現れる。
 2008年の「妖女伝説セイレーンX」(監督:城定秀夫/主演:麻美ゆま)、そして2010年の「妖女伝説セイレーンXXX」(監督:芦塚慎太郎/主演:まりか)と来たところで、「あれ、XXは?」と思ひ至り、調べてみると2009年にDVDがリリースされてある。しかも、ちやうどその時スルー予定の地元駅前ロマンに確か来てゐるのを思ひ出し、急遽拾ひに向かつたものである。実のところは何気に、「X」、「XX」、「XXX」と順番に観てゐたりもするのだが、そのことに、実質的な意味は特にどころか全くない。誘惑した男の生命を吸ひ尽くし永遠の命を得る、セイレーンがその時々のシチュエーションと主演女優とで登場する以外には各作に連関は別に見当たらない、最大限に緩やかなシリーズ構成が、妖女伝説の特色といへようところでもあるからである。その上で「XX」に話を絞ると、浅い、薄い、安い。揃はずともよい三拍子が綺麗に揃つてしまつた、絵に描いたやうな凡Vシネであると首を横に振らざるを得ない。「バキュ~ン!」とコントのやうな発砲音を轟かせるショボいプロップもとい拳銃と、ギザギザハートの荒木兄弟弟が無闇に振り回すナイフとで、ドミノ倒しのやうにたて続けに人が死んで行く終盤は、一周した馬鹿馬鹿しさが一歩間違ふと疲弊しきつた心の琴線に触れかねない。瀕死の素人が撃つた弾が、ああも綺麗に当たるといふのは一体如何なる名銃か。大体が、五年後再会した圭介に、覚悟を決めた男の凄みを感じるだとかいふ頓珍漢な敦子のエモーションが、悪い冗談にしてもまるで通らない。一重瞼の無表情をプラ提げてだらしなくブラつくばかりのチャラ大根を捕まへて、何を薄ら惚(とぼ)けた与太を。浅く、薄く、安く、チカリとすら輝かない。残り全員を雑な仕事で片付けたところで、勿論締まりなどしないのだが締めの芙美と圭介の濡れ場も特段の盛り上がりを見せる訳でもないまゝに、壮絶な駄CGで空疎な物語を粗末に畳んでのける逆向きに加速されたエンディングには、グウの音も出ないとは正しくかういふ心境を指すのかと、最早この期には力なく打ちひしがれるばかりである。

 フと気付いたが、この面子でまともなドラマを構築しようとするならば、主演は持田茜と津田篤で攻めるべきではないのか、といつた気もしないではないのは、何処かで聞いた話か。


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 「妖女伝説セイレーンXXX 魔性の悦楽」(2010/製作:株式会社竹書房・株式会社クレイ・新東宝映画株式会社/配給:新東宝映画株式会社/監督:芦塚慎太郎/脚本:港岳彦/原作:高島健一/監修:亀井亨/企画:加藤威史・斎藤正明・衣川仲人/プロデューサー:森角威之/ラインプロデューサー:泉知良/音楽プロデューサー:松本アキラ《フーテンキ》/撮影監督:田宮健彦/録音:島津未来介/編集:芦塚慎太郎/ヘアメイク:榎本有里/助監督:内田直之/音楽:近藤将人/音響効果:安原裕人/スチール:眞田謙/アートディレクター:前田朗/劇画制作:能登秀美・村岡洋一/監督助手:躰中洋蔵/撮影助手:河戸浩一郎/制作応援:貝原クリス亮・冨田大策/ロケ協力:石川理容店/協力:佐藤良洋、他 /制作協力:Sunset Village/出演:まりか・櫻井ゆうこ・西本竜樹・岡部尚・戸辺俊介・工藤和馬・ホリケン。)。因みに総尺は六十七分、諸々もう少し力尽きる。
 寂れた港町、「理容店いしかわ」にて店主の石川健次(西本)は新聞を読むでも読まぬでもなくぼんやりする傍ら、健次の幼馴染で魚屋の西島琢也(岡部)が、健次の美人妻(まりか)に髪を当たつて貰つてゐる。店の壁には、元々絵の好きな健次が中学以来執着するモチーフとして描き続けてゐるとかいふ、ギリシア神話に於ける美しい歌声で男を惑はし生命を奪ふ、海の魔物・セイレーンのスケッチが飾られてあつた。和美(櫻井)といふ妻が居ながら美しいまりかに気のなくはない琢也は、ホープと単三電池をコンビニに買つて来いだなどと、気弱な健次を無理を通して店から一旦は追ひ出すが、いざ妖しげな雰囲気になりかけると、二の足を踏んでしまふ。その夜、「理容店いしかわ」の前を通りかかつた宮部啓太(工藤)は、店の中からまりかに微笑みかけられると吸ひ寄せられるかのやうに入店する。髪を切られながらまりかに誘惑された啓太は、俄然発奮して据膳を頂いたのも束の間、騎乗位で跨つたまりかが激しく腰を使ふやみるみる苦悶の表情に転じ、一枚の鳥の羽が店内に舞ふと、全ての精を吸ひ尽くされ絶命する。無邪気な、などと呑気なこともいつてゐられない幼女のやうに、食器の使ひ方どころか、食器を使ふといふことすら知らない風情のまりかに苦労して夕食を摂らせた健次は押入れの中に、まりかが隠した啓太の亡骸を見つける。さして衝撃を受けるでもなく、まるで普段のことのやうに風呂場で死体を処理しようかとした健次は、“淫売”と罵倒する妻には逃げられた、アル中のDV父親・秀雄(ホリケン。)から風呂桶の中に隠れて絵を描きながら怯えてゐた、悲しい少年時代を回想する。カーセックスで櫻井ゆうこ唯一の濡れ場をこなしつつ、琢也は傾(かぶ)いたヘアカタログの写真を握り締め、健次は不在の「理容店いしかわ」を再度訪れる。ひとまづカットを終へ、まりかは台所に琢也を誘ふとビールと乱雑に切つただけの野菜を振る舞ひ、再度アプローチする。終に誘ひに乗つてしまつた琢也は、矢張り一枚の鳥の羽とともに啓太同様悶死する。健次も伴ひ姿を消した亭主を探して、「理容店いしかわ」に鼻息も荒く乗り込んだ和美を一旦は遣り過ごすが、鳥の羽に気付いた健次は、琢也の遺体も発見する。依然まりかを疑ひ奔走する和美は、行方不明になつた弟・啓太を探す宮部啓一(戸部)と出会ふ。ところで、ここで瑣末にツッコミを。啓一が啓太について、髪を切りに行くといつて出て行つたきり帰らない、と和美に語る点に関しては、啓太・ミーツ・セイレーンの件を顧みるに、少々齟齬を覚えぬでもない。偶々その時そこに居た男が、まりかに捕獲されたやうにしか見えないからである。
 据膳を喰らはせた男の生命を喰らひ、常しへに若く美しい姿を保つたまま生き続ける妖女・セイレーン。城定秀夫の「妖女伝説セイレーンX 魔性の誘惑」(主演:麻美ゆま)に続く二年ぶりの新東宝セイレーンは、予想通りといふか期待してゐなかつたやうにといふか、二ヶ月前に封切りられた「新・監禁逃亡 美姉妹・服従の掟」(監督:カワノゴウシ/主演:伊東遥・水元ゆうな)と同様、頭を抱へてしまひたくなるほど情けない画質のキネコ作である。演出の力によるものか主演女優自身の資質によるものなのかは兎も角、台詞の極少といふ逆説的な利点も手にした、妖艶さと無邪気さとを併せ持つ健次の妻もしくはセイレーンの造形にはおとなしく眩惑され、啓太のスカジャン―に、ハイロウズのTシャツを合はせる―や和美のピンクのスウェット等、閉塞気味の田舎町の寂寥を効果的に綴る細部の作り込みには感心しないでもないが、別の意味で無惨な画面を前に、大まかな破綻もない反面平板な物語を、基本的に中盤までは半ば我慢しながら追つてゐたものであつた。ところが、甚だ失礼な話だが、単なるAV嬢に過ぎないものかと勝手に高を括つてゐた櫻井ゆうこが、意外な熱量と強い芝居とで焦燥する田舎女を好演する辺りから、それ未満とすら思へた映画が、猛然と強度を取り戻し走り始める。生命ごと寝取ればいい男は別として、セイレーンが女を殺害しようとした場合、一体如何なる方策を採るのか。といつた変則的なテーマに、感動的に最短距離の解答を提出してから以降が圧巻。元来男といふ生き物は純然たる捕食の対象でしかない筈のセイレーンと、健次との同居生活は何故に成立してゐたのかといふ秘密を鍵に、あくまでゴミ画質さへ差し引けば、正しくセイレーン・シリーズのみが辿り着き得た純愛映画の大傑作へと一息に駆け上がる。父親を始末して呉れたセイレーンと、成長した健次が再会した海辺のあばら家での、二度目にして最初の、そして最期の情交。一旦は勢ひに任せ呆気なく即物的に絡みをこなし、お話を何となくそれなりに畳んでしまふやうに思はせておいて、即座に更なる一歩前へと果敢に踏み込んだ作劇は、一欠片も臆することなく、渾身の鮮烈を文字通り銀幕一杯に撃ち抜いてみせる。それは佐藤吏の慎ましやかな傑作「絶倫・名器三段締め」(2009/主演:佐々木麻由子・愛葉るび)に於ける昇天ショットの必殺を超え、「ギミー・ヘブン」(2004/監督:松浦徹/主演:江口洋介・宮あおい)のラスト五分にも匹敵する、壮絶に美しいエモーション。ある意味力無い映画観からはダサく、もしくは安つぽいギミックといへるのかも知れないが、仮に最もエモーショナルなシークエンスが同時に最もダサくあるならば、私は映画なんて洗練などされてゐなくとも構はないと思ふ。締めの濡れ場が映画的な頂点に直結する構成は、裸映画として百点満点で百兆点。しかも繰り返すがこのクライマックスは、「妖女伝説セイレーン」であればこそ成立し得た展開で、なほかつそこに至るまでに、小道具の伏線を入念に十全に積み重ねた丹念を活かし、文字通り満を持して繰り出されたものであることが、身震ひさせられるまでに素晴らしい。ラスト・ショット自体はいいとして、その直前の逆回転は要らぬ手間にも思へ、編集を違(ちが)へる際には切つてしまふべきではなからうか、と希望しないでもないが、さて措きろくでもないキネコの陰に、とんでもない映画的興奮を包み隠した意地の悪い奇跡のやうな一作。冒頭だけ観て、とりあへず絶望的な画面に匙を投げ途中退席してしまふのは、今作に関しては絶対に禁止だ。


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 「魔性しざかり痴女 ~熟肉のいざなひ~」(2009/製作:旦々舎/提供:オーピー映画/監督:浜野佐知/脚本:山﨑邦紀/撮影・照明:小山田勝治/撮影助手:大江泰介・藤田朋則・関将史/助監督:横江宏樹・府川絵里奈/応援:田中康文/編集:有馬潜/音楽:中空龍/録音:シネキャビン/現像:東映ラボ・テック/出演:針生未知・ささきふう香・倖田李梨・なかみつせいじ・平川直大・牧村耕次)。
 来春の挙式予定を控へた取引先の社長令嬢・倉坂つみれ(ささき)と、大絶賛婚前交渉真最中の会社員・倉坂義彦(平川)の携帯電話に、針生美輪(ある意味彼女自身)から連絡が入る。十年前、当時役者志望で俳優養成所に入つてゐた倉坂は先輩で、美輪いはく双子の妹といふ未知(当然二役)と交際関係にあつた。やがて倉坂は俳優への夢と、その時同時に未知も捨てる。そんな未知が、行方不明になつたとのこと。とこ、ろで。更に開き直つて肉の厚みを増したささきふう香は、完全に狙ひ撃つよりほかないエロスである。閑話休題、後日倉坂はメガネが堪らないスーツ姿の美輪と、実際に会つてみる。美輪いはく依然倉坂に想ひを残してゐたらしい妹の捜索を、倉坂にも手伝つて欲しいと乞ふ。警察に行つて呉れ、とでもいふ話でしかないやうな気も否めない釈然としなさは忘れてしまへ、先に進まん。一方、妻・はるか(倖田)と勃起不全に悪戦苦闘する投資家・坂上俊男(なかみつ)の―浜野佐知―自宅に、美輪から便りが届く。三年前まで未知を愛人として囲つてゐたものの、EDを理由に矢張り捨てた坂上に対しては、未知が交通事故死した旨伝へる。とことこ、ろでろで。坂上に届いた手紙の宛名書きが、実際に針生未知に書かせたものなのか否かまでは勿論与り知らぬが、まあ男児のやうに乱雑な文字である。誰でも構はないから、もう少し字の綺麗な人間に書かせればいゝのに。といふのはさりげなく、ディテールが風情を損なつてゐる印象を禁じ得ない些末。再度話を戻してとりあへず坂上が美輪宅を訪ねてみると、今度は妖艶さも軽やかに通り越し直截に露出過多なチャイナドレスで出迎へた美輪は、妙にやさぐれた風情で妹の供養にと坂上に酒を勧める。そんなこんなで突入した濡れ場、だから勃たないといふ坂上を美輪は本当のセックスとやらで攻略しつつ、秘かにその情交は、仕掛けてあつたカメラに捉へられてゐた。
 対倉坂と坂上、二つのドラマがそれなりに進行した頃合を見計らひトリで登場する牧村耕次は、開店休業状態の零細芸能事務所社長・北見剛介。五年前、北見の事務所に所属してはゐたがなかなか芽の出ない未知は、いはゆる枕営業の強要と、説得から果敢に移行した北見によるセクハラに傷つき女優を引退する。北見の下を今度は今度は和装で訪れた美輪は、遺書を楯に慰謝料を要求する。
 引退した元女優が、過去に関係を持つた男達に理由は何れにせよゐなくなつた妹の一卵性双生児の姉と称して接触し、形と額はどうあれ金銭を毟り取る。Gメン'75香港カラテシリーズに於けるヤン・スェかよ!といふ地表に露出したツッコミ処に関しては爽やかに無視すれば、一人北見のみが真実に辿り着き得る展開の持つ力も借り、ひとまづ求心力を保つたまゝ都合のいゝ始終を最後まで見させる。倉坂、といふか正確な出所としてはつみれから捜索費用といふ名目で二百万、坂上からは口止め料三百万に北見からは慰謝料兼五年ぶりの一夜の対価として五百万。計一千万を手にした針生美輪改め針生未知が、これからは現実社会といふ新しい舞台の主演女優を輝かしく演じるだのどうだのと、颯爽とした勝利宣言で呑気に畳んでみせるラストの底は抜け気味で、男三人に対する奈落の底への叩き落しぶりに関しても、浜野佐知にしては随分とマイルド。そもそも、美輪の対北見戦。三年間あれこれ手を尽くしても快方に向かはなかつた北見が、コロッと男性機能を回復してのけるといふのも話の流れ的には随分インスタントで、自堕落に過ぎるとはいへまいか。こゝは必ずしも剛直を伴はない男女の性行による愉悦といふ、浜野佐知第二テーマ―物凄く勝手に命名―を盛り込む余地もあつたのではなからうか。さうかう眺めてみると一見おとなしめな一作でもありながら、かういふ、映画を側面から攻めるアプローチの仕方が鑑賞法として潔いとは必ずしも思ふものではないのだが、さういふ極私的な能書きは一旦さて措き、最も特筆されるべきは変則的にアグレッシブな配役。劇中主人公と同名の針生未知とかいふ正体不明な名義の女優部、の正体が実のところはex.川瀬有希子である。ピンク出演は、恐らく撮影自体は2003年中と思しき国沢実2004年第一作が最終作で、全ての裸仕事から既に引退し近年は女優業以外に音楽活動にも比重を置く川瀬有希子を、クロスカウンターの香りが濃厚に漂ふ物語の中にこの期に再召喚してみせた実は超攻撃的なキャスティングこそが、素面で映画を眺めてゐるだけでは伝はり難いやも知れぬ、一見粒も小さめな今作最大のヒット・ポイント。更に注目すべきは、久方ぶりで桃色の銀幕の中に新たな姿を見せた川瀬有希子が、キュート系熟女として超絶の威力を誇つてゐる点。御本人は決してお望みにならないやうな下衆の勘繰りもしなくはないが、一度きりなどと勿体ないことをいはず、もつともつと新作でその御姿を拝見したいところではある。


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 「凌辱レズビアン」(1989『沙也加VS千代君 アブノーマルレズ』の2010年旧作改題版/企画:《株》旦々舎/配給:新東宝映画/監督:浜野佐知/脚本:山崎邦紀/撮影:稲吉雅志/照明:出雲静二/音楽:藪中博章/編集:金子編集室/助監督:渡辺武・毛利安孝/録音:ニューメグロスタジオ/現像:東映化工/出演:沙也加・風見怜香・芳村さおり・直平誠・平口広美・ラッシャー三好・山崎邦紀・千代君)。
 東京の街を、毛皮のコートに赤いストッキング、黒のハイヒールの沙也加(彼女自身)が闊歩する。頃合を見計らつて、コートの前を開いた沙也加が陰毛も半分露な赤いボディ・スーツ姿を開陳するタイミングでタイトル・イン。恥づかしいのか色んな意味での危険も覚えるのなら、そんなお痛仕出かさなければいいのに小走りで逃げる沙也加を、直平誠が回す馬鹿デカい高級車が拾ふ。走り始めた車の自動車電話を直平誠が取ると、東京に出て来た何処ぞの県会議員夫人・若泉(風見)が、シティプラザホテルの2859室で沙也加を待つとのこと。沙也加はレズビアン専門の、高級娼婦であつた。沙也加と風見怜香の濃厚な濡れ場が展開される中、表に停めた車で女主人の帰りを待つ直平誠は零す、「プロのレズなんて、もうやめようよ」。真性のビアンであると思しき沙也加相手に、かつて玉砕した過去も持つ直平誠は、身悶えんばかりの届かぬ想ひを抱へてゐた。再び客の下へと呼び出されたホテルの一室に沙也加が顔を出してみると、そこには好色家で金は持つてゐるやうだが目下不能のゴンダマンゾウ(平口)と、先にマンゾウに買はれた千代君(彼女自身)が既に事の眞最中。平口広美は台詞回しは山下ならぬ水野将軍だが、ガッシリとした筋肉質の体躯は銀幕に素晴らしく映える。沙也加と千代君の百合の花香る絡みに、興奮して剛直を取り戻さうかといふコンセプトのマンゾウに対し、沙也加は脊髄反射で臍を曲げる一方、両刀遣ひの千代君は以前から苛烈で一方的な敵対心を、“三年絶頂”とかいふロシアのサンボの裏技のやうな異名も取る沙也加に向けてゐた。何やら一度沙也加と寝た女は、三年はその時の強烈なエクスタシーを忘れられないらしい。マンゾウが気軽に差し出した、百万円の札束を見るや沙也加はコロッと方針を曲げプレイに参戦、目出度く射精にまでこぎつけたマンゾウは、沙也加V.S.千代君、どちらの淫技がより優れてゐるのかを競ふ対決を、勝者に八百万、敗者にも二百万の賞金を提供する条件で申し出る。一旦は一笑に付した沙也加ではあつたが、根岸(芳村)との仕事に向かつた隙に、直平誠は千代君に陵辱されボロボロにされてしまふ。憐れな直平誠に身を任せた沙也加は、終に売られた喧嘩を買ふ決意を固める。ベビーフェイスには不釣合ひにも思へる伸びやかな肢体を誇る芳村さおりは、淫具装着の上の羞恥連れ回しに屋内では熱ロウと、更に意外なハードプレイを堪能させて呉れる。
 直平誠の沙也加に向けられた不純で不順な純愛も絡めた、沙也加と千代君、コールガール界の二大巨頭が互ひのプライドを賭け激突するといふ構図は、その限りに於いては本来娯楽映画として定番らしい磐石さを誇る。さうはいふものの、開巻に続き後にも繰り返される、浮き足立つた沙也加の闇雲な露出遊戯にそこはかとなく漂ふ明後日感が、最終的には全篇を支配する。珍奇な微笑ましさが最も爆裂するのはある意味順当に、正しくクライマックスの最終決戦。海岸沿ひの幹線道路に相対した沙也加と千代君は、コートを脱ぎほぼ全裸となると双頭ディルドーにて結合。どちらが先にイカされるのかに鎬を削る二人の女に、橋の下も更に結構離れた地点から、画面向かつて一番右のマンゾウに、中央のラッシャー三好と、左には和服姿の山崎邦紀まで加へた三人の判定員が固唾を呑む。傍らには激しく車も行き交ふ、白昼の歩道上にて繰り広げられる過激バトルの微妙な及び腰に加へ、審判三人組も、もう少し近くに寄つて見ろよ!とでもしかいひやうがない、ロケーションの間抜けさが可笑しくて可笑しくて仕方がない。挙句に先に達した千代君が潔く負けを認めるに至つては、マンゾウはまだしも、何しに出て来たのか画期的に判らないラッシャー三好(現在ラッシャーみよし)と山崎邦紀(現在山﨑邦紀)の木偶の坊ぶりは最早感動的。ここは登場人物のエモーションの流れとしては正方向に鮮やかでもあるにせよ、ピンクにしてはらしからぬ都合二度の血飛沫を二度目は自ら迸らせる直平誠改め直平マコ(勝手命名)まで交へて、三か月後、あくまでコンビではなくトリオの“最強のレズ軍団”が結成される大笑必至のラストには拍手喝采。浜野佐知一流の女性上位主義はこの際エッセンスのひとつと脇に措いておくとして、素直に頭か腹を愉快に抱へるのが吉といへよう頓珍漢映画のケッ作である。

 「“・わ・”→“お・わ・”→ “お・わ・り”」と幕を閉ぢる前作「痴漢電車 やめないで指先」と、「“・わ・”→“・わ・り”→“お・わ・り”→“・わ・”→ “お・わ・”→“お・わ・り”」とやゝこしく締める二作後の「痴漢電車 朝から一発」の間のミッシング・リンクを繋ぎ、エンド・マークは現在デフォルトの「FIN」ではなく、「“・わ・”→ “・わ・り”→“お・わ・り”」と打たれる。さうなると、更に間に挟まれる1989年第四作「い・ん・ら・ん 乱れ咲き」(主演:中村梨沙)は、一体如何なる終り方をしてみせるのかといふ興味も俄然湧いて来るところではありつつ、「い・ん・ら・ん 乱れ咲き」はエクセスか・・・・何とかならんもんかいな。


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 「異常交尾 よろめく色情臭」(2009/製作:ナベシネマ/提供:オーピー映画/監督:渡邊元嗣/脚本:山崎浩治/撮影:飯岡聖英/照明:小川満/編集:酒井正次/助監督:永井卓爾/監督助手:田山雅也/撮影助手:邊母木伸治/照明助手:八木徹・斎藤順/編集助手:鷹野朋子/応援:関谷和樹/スチール:津田一郎/効果:梅沢身知子/タイミング:安斎公一/録音:シネ・キャビン/現像:東映ラボ・テック/協賛:ウィズコレクション/出演:鮎川なお・山口真里・柳之内たくま・なかみつせいじ・真田ゆかり)。
 ゴシップ誌『GON』ならぬ『MON』を歩き読みしながら、頻発する美女による噛みつき事件とやらの与太記事に半信半疑の薄ら笑ひを浮かべる会社員・平田進(なかみつ)の前に、妖艶な黒いドレス姿のユリ(真田)が現れる。ユリから平田にモーションをかけるや、チャッチャと別所にて濡れ場に突入。平田が絶頂に達したところで、ユリが美しい歯並びも露に男の首筋に牙を剥く。ユリは、吸血鬼であつたのだ。倉庫のやうにマネキン人形が林立する、ウィズ香が濃厚に漂ふ一室にユリが帰宅すると、赤いドレスの妹・セン(鮎川)は何物か人血の代替物で飢ゑを凌いでゐた。奔放に狩りを楽しみ永遠の命を謳歌するユリに対し、姉との間に何事か深い因縁の存在も匂はせるセンは、人の血を吸ふ宿命と、そして“終りのない”生命にも、強い疑問を抱いてゐた。真田ゆかりが、過去最高とも思へる空前のクール・ビューティーぶりを咲き誇る他方で、主演にして初見の鮎川なおは案外といふか何といふか、止め画(ゑ)に比して実際に動くところは若干落ちる。この人あるいはこの鬼達は結構タフな吸血鬼で、日傘なりサングラスで軽く武装した程度で、フレキシブルに日中も活動してみせる。そんな訳で日向の駅前、路上の似顔絵描き・佐伯優介(柳之内)と出会つたセンは動揺する。その昔センは耕作(柳之内たくまの二役)と許婚の仲にあつたが、自らを抱く耕作を捕食しかけたセンは、自身の運命に戦慄し耕作の前から姿を消す。一旦その場はセンから立ち去つた後、判り易過ぎる大病フラグを立てる優介は、その後別の女と結婚したものの、終にセンを忘れることは出来なかつた耕作の孫であつた。一方、ユリから吸血鬼に感染し、その割には土気色の顔色に仕種は知能も低さうに唸り声を上げる、と演出上はゾンビのやうな平田の前に、今度は肉感的な芹沢泰子(山口)が登場する。ピンクにしては意外と珍しいのではないかとも思はれるが、地下駐車場に舞台を移し再び泰子主導で平田は事に及ぶ。平田に細首に喰らひつかれさうになつた泰子は、迎撃に転じ短剣のやうな大きさの十字架を突きつける。抵抗に遭ひクロスを失ひつつ、泰子は取り出した銃で平田に銀製の杭を撃ち込み始末する。人類の脅威に対抗する吸血鬼ハンターである泰子は、後始末は別働隊に指示しその場を立ち去る。
 ざつと近作を振り返つてみても、異星人臓器提供者の残存記憶だ、肉体間の人格入れ替りに更には人造人間だと、ファンタ系ピンクの地平を軽やかに爆走する渡邊元嗣が今回選んだモチーフは、ハンターまで動員する姉妹ヴァンパイアもの。そこから大アクションを展開してみせて呉れとは、望みはするもバジェットを酌んでいひはしないが、ユリと泰子が、薄暗い地下道に於いて逢着し対峙するソリッドなショットに漲る緊張感などは比類なく、今作のハイライトと推したい。特に新味のある展開でもないものの、悲劇的なラストも逆説的に温かく締め括る、終りなき生命の継続に疲れたセンの視座も、決して有効に機能してゐないではない。さうはいへ、流石に六十分に欲張り過ぎた感は否めない。最終的にはほぼ中途で投げ出されたまゝの点と、昨今の風潮から照らし合はせるとどうしても通俗的に思へなくもない、優介の難病ギミックなどはいつそ不要でもなからうか。加へて工夫を欠いたメソッドを見せられるに至つては、殆ど笑へないコントだ。人からの吸血を忌避するセンが、代りに口にする赤い液体の正体は兎も角、数度触れかけられながら、過去に姉が妹に犯した罪の内容が結局語られず仕舞ひに済まされてしまふのは、流石に積極的に頂けない。ネーム・バリューは兎も角、どうやら目つきに難があるらしき主演女優の陰に身を引いて、折角の真田ゆかりの超絶が些か喰ひ足りない心残りがある意味最も大きいか。詰まらないといふほど悪くはないのだが、痒いところに手も届かない一作ではある。

 尤も、改めてこの期に及んで気付いたが、風間今日子の穴をさりげなく埋めた感のある、山口真里のポジショニングが実は非常に頼もしい。


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 「人妻おねだり 前と後ろも・・・」(1996『何度もせがむ隣の女房』の2010年旧作改題版/製作:サカエ企画/提供:Xces Film/監督:新田栄/脚本:岡輝男/企画:稲山悌二《エクセスフィルム》/撮影:千葉幸男/照明:高原賢一/編集:酒井正次/音楽:レインボー・サウンド/助監督:佐藤吏/監督助手:北岡淳/撮影助手:池宮直弘/照明助手:藤森伸二/録音:シネ・キャビン/効果:中村半次郎/現像:東映化学/出演:小山美里・杉原みさお・田中真琴・竹本泰史・丘尚輝・杉本まこと)。出演者中丘尚輝は、本篇クレジットのみ。それにしても、藤森姓の照明助手は一体何バージョン存在するのか、メインは玄一郎だと思ふのだが。
 朝の石川家、セールスマンの八三(杉本)が一人で朝食を摂る。当然といへば当然のことでしかないにせよ、まあ杉本まことが輝かしく若い。朝刊に目を通す八三が、サラリーマンが最も苦に思ふのは接待であるとかいふ調査結果に対し、女房を抱くことに決まつてゐるではないかと冷笑したところに、職場はどれだけ近いのか、妻で夜勤明けの看護婦・朋美(杉原)が白衣姿のまゝ帰宅。勿論流れるやうに移行する朝つぱらからの夫婦生活で、オープニングをとりあへず飾る。かういつた辺りの、開巻付近の新田栄映画の流麗さは、もう少し注目されても別に罰は当たらないやうな気がする。閉口しながら出勤した八三は、売家の札を外す不動産屋(新田栄)から、空き家だつた隣家に人が入ることを知る。仕事もそこそこに隣の女房がどんな人物なのか気が気でない八三は、晩酌がてらお隣を覘いてみる。また抜群のタイミングで着替へ中の山岡亜希子(小山)の可憐さに八三が小躍りしてゐると、玄関のチャイムが鳴り当の亜希子が引越しの挨拶に訪れる。ところで小山美里のアフレコは、本人ではなく多分吉行由実がアテてゐるやうに聞こえる。八三の名前を知るやいきなり頬を張り退散した亜希子は、親友の里香(田中)に電話で報告する。亜希子は里香と二人で女学生時代にそれぞれ占つて貰つた占ひ師(丘)から、亜希子の運命の人に関して数字の3と8が見えると占はれてゐた。再びところで、田中真琴といふ見知らぬ名前の女優さんは、それでも何処かで見た顔だと思へば、西藤尚と同一人物である、旧名義といふことなのであらう。傍らに男の居るらしき里香の制止も聞かず、再度石川家に突入した亜希子は、「ずつと探してたんです」、「好きです、抱いて!」とショート・レンジの更に内側を果敢に抉る鴨葱ぶりを披露し、目を白黒させる八三に据膳を喰らはせる。こんなにもインスタントにアンドロギュヌスの片割れと結ばれてしまつては、逆にドラマが成立しないのではなからうか。ともあれ、薮蛇な勢ひで突つ込んで来る亜希子は八三に駆け落ちを持ちかけ、八三も八三で、深く考へるでもなく子供の遠足感覚の気軽さでホイホイ乗つてしまふ。配役残り竹本泰史は、出張中、と称した亜希子の夫・正也。
 杉本まこと演ずる、呑気で好色な八三が、看護婦の妻・朋美からは基本尻に敷かれつつ、越して来た隣家の細君に鼻の下をポップに伸ばす。二作前の前作「一度はしたい隣の女房」(隣の女房:芦田ミキ/朋美役は河名麻衣)に恐らく続く、正統の続篇である。杉本まこと主演と八三・朋美の名前が踏襲されてゐるところからまづ間違ひなからうが、“恐らく”といふのは兄貴の嫁さんならば兎も角、隣の女房の方の「一度はしたい」は未見で、2004年に「お漏らし奥さん ノーパン割ぱう着」と改題されてある新版も、猛烈に観たいところではある。それはそれとして、朋美役が河名麻衣から杉原みさおに変更といふのは、正直ダウングレードにも思へて仕方がないのはいはぬ約束だ。さて措き今作に話を戻すと、3と8の数字の男が運命の相手だといはれた亜希子に対し、里香は里香で、亜希子の男を寝取るのが運命だなどと、丘占ひ師からメチャクチャな運勢診断を実は受けてゐた。そんな里香が素直に正也と不倫関係にあつたりする力技も繰り出す一方、結構以上な形で効果的な再登場を果たす緑色でコーディネートした丘尚輝を導者に、占ひや運命といつた外在的な要因に徒に縛られるのではなく、人生に於いて最も大切なものは自分自身の主体的な意思だといふ、面喰らはされるほどにポジティブなメッセージで綺麗な正攻法を展開してみせる。丘尚輝のポジションとしては半ば潔い自己完全否定でしかない点と、そこまで手が回らなかつたか里香の宙ぶらりんについては一旦等閑視するとして、提出したテーマを下に、拗れかけた二組の夫婦も元鞘に戻して、全く磐石に畳んでみせるストレートな娯楽映画は、出来不出来、といふか正確には出来不出来不出来不出来不d・・・(以下略)の甚だしい新田栄&岡輝男コンビにしては、何気なく出色の完成度を誇る。“前作は日本全国津々浦々で大ヒット”、などといふエクセス公式に於ける謳ひ文句を、何処まで真に受けてよいものやらは観てゐない以上判断のしやうがないが、続作といふ映画全般に際して基本的に通用する、失敗フラグを華麗に覆してみせた良作である。

 再々度ところで、女房に続いて正也のアフレコも、竹本泰史当人によるものではない。強ひて誰に近いかといへば津田寛治似の、正也アテレコの主は不明。夫婦役を揃つて別人が声をアテるといふのも、結構珍しいケースのやうに思へる。


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 「尼寺の情事 逆さ卍吊り」(2004/製作:サカエ企画/提供:Xces Film/監督:新田栄/脚本:岡輝男/企画:稲山悌二/撮影:千葉幸男/照明:高原賢一/編集:酒井正次/スチール:佐藤初太郎/助監督:小川隆史/音楽:レインボーサウンド/監督助手:北村隆/撮影助手:池宮直弘/選曲効果:梅沢身知子/録音:シネキャビン/製作進行:阿佐ヶ谷兄弟舎/現像:東映ラボ・テック/出演:香取じゅん・華沢レモン・なかみつせいじ・熊谷孝文・丘尚輝・山口玲子)。阿佐ヶ谷兄弟舎の“製作”進行は、本篇クレジットまゝ。
 新田栄の尼寺映画といへば、御馴染み大成山愛徳院。何故か逆さで手を合はせる庵主の浄鏡(香取)からカメラが引くと、何と浄鏡はなかみつせいじに半裸緊縛された状態で逆さに吊られ、激しく責められながら憚る憚らぬどころではない肉悦によがり泣いてゐた。「私はきつと、地獄に落ちる」、まあそれも仕方がないかもねとでもしかいひやうがない浄鏡のモノローグに乗せて、事ここに至つた経緯の回想が幕を開く。ところで主演の香取じゅんの印象を簡単に掻い摘んでおくと、原形を留めないほどに引き伸ばし面長にしてみた時任歩。
 一ヶ月前の大雨の夜、停電と同時に物音に驚いた浄鏡が雨戸を開けたところ、土砂崩れに巻き込まれ半死半生の営林局局員・比留間泰彦(なかみつ)が倒れてゐた。男子禁制などといつてゐる場合でもなく、道路は寸断され電話も不通、要は孤立してしまつた風情の愛徳院に、浄鏡はひとまづ比留間を匿ひ折れてはゐない左足首を手当てする。とはいへ恩を仇で返すを最もエクストリームな形でバーストさせ、一眠りして回復した比留間は、実は処女であつた浄鏡を犯す。忍び寄る左足首の包帯で、賊が比留間である旨を観客に示す文法は一見十全にも思へるが、その時陸の孤島の愛徳院には浄鏡と比留間しかゐない点を鑑みると、実も蓋もないが無駄な手間と片付けて片付けられぬでもない。
 ここから長めのブレイク、一旦平静を取り戻した愛徳院を、東京に出てゐた村出身のかごめ(華沢)が夫の木下孝弘(熊谷)を連れ、亡母の墓前に結婚を報告するために訪れる。昔話に花が咲き、かごめと木下はその晩愛徳院に泊めて貰ふことに。ここは当然の如く、尼寺といふシチュエーションに興奮した木下主導で夫婦生活がオッ始められると、比留間に女にさせられたばかりの浄鏡は、ついついその痴態に釘付けとなる。後日、その夜を思ひ出し浄鏡が自慰に溺れた超絶のタイミングで、比留間再登場。再び荒々しく抱かれた浄鏡は、コロッと完全に比留間に屈服する。丘尚輝は、再々度愛徳院に比留間がやつて来たかと浄鏡をぬか喜びさせておいて、代りに営林局の公用車から降りて来た比留間の同僚・勝俣鉄二。浄鏡を勝俣が手篭めにする様子に、比留間は熱く歪んだ視線を注ぐ。一旦この件を契機に浄鏡は比留間に訣別を申し出るものの、いざ放置されてみると、居ても立つても居られない。山口玲子は、そんな訳で比留間宅を訪ねた浄鏡の眼前で、矢張り暴力的に嬲られる居酒屋女将の比留間情婦・加山咲子。正直別に不明にも思へる、咲子居酒屋ショット客要員の若い男は不明、定石からいへば小川隆史か。
 尼寺の尼僧が魔王然としたサディストの毒牙にかゝり陥落する、一見すると刺激的な物語に思へなくもないが、浄鏡が見せる抵抗も逡巡も形だけ以下のものでしかなく、まともな内実を伴なつたシークエンスといふのは繋ぎでしかないかごめの一幕のほかは、感動的に見当たらない一作。スッカスカの始終をひたすらに絡みで埋め尽くす格好となり、共に濡れ場要員といへよう華沢レモンと山口玲子の内、殊に山口玲子の濡れ場に感じる果てしのない長さは尋常ではない。といふか、寧ろ香取じゅんまで含め全員濡れ場要員とすらいへよう、何となれば、今作にはほぼ濡れ場しか存在しないからである。とりあへずのすつたもんだの末に、都合四度目の比留間愛徳院襲撃。逆さ吊りが冒頭にループする全体的な構成は一応手堅いのかも知れないが、「私はきつと、地獄に落ちる」から続けて、「でも今が極楽ならそれでいい」と画期的に開き直つてみせる自堕落な浄鏡の姿―と、それを描いた新田栄―にはこの際、別か逆の意味で感服するばかり。尺に占める女の裸比率は物理的限界に挑戦する勢ひで高く、逆説的にストイックなエロ映画ともいへる反面、率直にいつて今回個人的には体力的に著しく消耗してゐる折につき、睡魔に抗ふのに相当な困難も覚えた。

 開巻浄鏡の全身が抜かれたところで、チャラリー♪とバッハの「トッカータとフーガ」が爆裂する、ポップ過ぎる選曲がケッサク。


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 「告白羞恥心 私が、痴女になつた理由」(1993『美乳揉みくちや』の2010年旧作改題版/製作:旦々舎/提供:Xces Film/監督:浜野佐知/脚本:山崎邦紀/撮影:河中金美・田中譲二・難波俊三/照明:秋山和夫・斗桝仁之/音楽:藪中博章/編集:[有]フィルム・クラフト/助監督:女池充/ヘアメイク:斉藤秀子/制作:鈴木静夫/スチール:佐藤初太郎/録音:銀座サウンド/現像:東映化学/出演:本田聖奈・清少葵・佐々木優・山本竜二・栗原良・森純)。
 人気フラワー・アーティストである柴藤盟子(本田)が、外連味もなく花言葉を淡々と紹介する、などといふよくいへば斬新なコンセプトのテレビ番組に、番組プロデューサーの篠原工作(栗原良=リョウ=ジョージ川崎=相原涼二)が、持ち芸の例によつて無闇に苦み走つた表情で、軸足を失ひ入れ込んだ視線を注ぐ。一方カメラマンの青井貴之(山本)も、肉感的な妻・梢(清少)との夫婦生活をこなしつつ、ビデオ編集機材まで駆使し盟子に正体不明の熱情を滾らせる。小冊子に掲載される盟子の写真を撮影する仕事を得ることに成功した青井は、写真を届けると称して盟子の自宅を訪ねる。青井は室内に盗聴器を仕掛け、盟子が篠原と関係を持つてゐる事実を掴むと同時に、二人の遣り取りを手懸りに柴藤家の鍵を一時入手する。合鍵を作製し盟子の不在時に部屋に侵入した上、寝室のベッドの上で盟子の持ち物に囲まれた青井は、「かうしてゐると、何故か自分が彼女になつたやうな気がする」とか、彼我の境界を失した頓珍漢な幸福感に包まれる、本当に“何故か”だよ。ボリューム感の溢れる肢体と、反面薄いキャラクターといふ印象が全般的に清少葵に似通つた佐々木優は、篠原の妻・康子。篠原から番組の打ち切りを告げられた盟子は、何の弾みか俄にサングラスと平素とは180度対照的な黒い服装とで武装すると、街で自ら男を漁る奔放な痴女に変貌する。森純は、一旦ハントされ据膳を美味しく頂いた後(のち)に、テレビを見てゐて盟子の正体を知るや、余計な欲を出し盟子を恐喝しかけたまではいゝものの、察知した青井にシメられる軟派男・大西和彦。
 著名人の女に明後日か一昨日な勢ひで入れ揚げた男が、クリミナルな接近を図る。といふと、五年前の「冴島奈緒 監禁」(主演:冴島奈緒・日比野達郎)と、清々しく似たやうな話ではある。尤も、監禁シークエンスといふ軸が明確に通つた「冴島奈緒 監禁」と比較すると、勿論青井は不意に帰宅した盟子と衝撃的に鉢合はせはしつつ、その後おとなしく自宅に帰つてみせたりもする。コンファインメント方面から焦点は絞られないのに加へ、新題にもある盟子が“痴女になつた理由”とやらが別に語られるでもなく。そもそも青井が観客を置いてけぼりにしたまゝ恍惚とする、盟子と自身との同一視も一体何処からそのやうな奇想が湧いて出て来たものやら、断片的な台詞だけではなく展開の流れとして、半欠片たりとて説明されることはない。挙句に二度目の情交に至るや瓢箪から駒といふべきか薮蛇とでもいふべきか、盟子まで青井のへべれけなシンクロニズムに同調。理解に苦しむとでもしかいひやうがない喜悦に盟子と青井のみが勝手に打ち震へる濡れ場で、無理矢理映画を振り逃げるエンディングには、直截にいつて唖然とさせられた。最低限女の裸を楽しむ分には一応不足はない一方で、物語的にはまるで腰どころか首さへ据わらぬ一作。篠原の最終的な扱ひがまるでお留守に済まされてしまつてゐる辺りも、旦々舎の仕事にしてはらしくない。

 一旦盟子の前から尻尾を巻き、抜け殻のやうに不貞腐れる青井に連絡を取る編集者役で、実際に編集者であつた山崎邦紀がワン・シーン水を得た魚のやうに活き活きと登場する。


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 「エロ三姉妹 濡れ続け」(1996『濡れる美人三姉妹 乱れ乱れる乱れろ』の2010年旧作改題版/製作・配給:新東宝映画/監督:安田健弘/脚本:沢木毅彦・安田健弘/企画:衣川仲人/プロデューサー:山本竜二/撮影:永井敬人/照明:三枝隆之/編集:酒井正次/助監督:森山茂雄/記録:小川かめ子/美粧:坂井雅之/制作主任:菊池宏明/撮影助手:宮本章裕/照明助手:野本明宏/スチール:北浦靖一/題字:袴田晃代/監督助手:松岡誠・吉田國文/現像:東映化学/録音:シネキャビン/音楽:山田稔/制作協力:日本映機・アップルボックス・ライトブレーン・ハートランド・オフィスバロウズ・田中欣一写真事務所・ペンジュラム・映像サービス・オフィスMEN・ホテルみさと・杉山企画・秋葉恭司/出演:麻生早苗・貴奈子・水奈リカ・え~りじゅん・森山龍二・佐々木和也・石川雄也・山本竜二・サンダー杉山・森羅万象)。出演者中、え~りじゅん・サンダー杉山・森羅万象は本篇クレジットのみ。
 制服姿の滑川家三姉妹三女で女子高生のミナ(水奈)と、通俗パンキッシュな出で立ちの彼氏・井口マサル(石川)が、大場薬局にて店主(山本)相手に未成年がコンドームを買ふ買はないの微笑ましい攻防戦を展開する。スルーしても別に構はないが、1996年当時で既に、そのやうな光景はあまりにも牧歌的に過ぎるのではなからうか。ともあれ、何事かロスト・バージンを焦つてゐるらしきミナはラブホテルの表で、OLで既婚者の三姉妹長女・弥生(麻生)が、昼下がりの情事を済ませ不倫相手と出て来るのを目撃し動揺する。上野太似の、弥生不倫相手のグラサン中年男が誰なのかは不明。ミナがホテルで大いに若気を至らせるマサルと悪戦苦闘する一方、滑川家の屋敷では、家長で中小ゼネコン「滑川建設」社長の貫太郎(森山)と三姉妹次女でキャバクラ嬢の五月(貴奈子)、それに婿養子の弥生夫・春樹(佐々木)が、弥生とミナの帰りを待ちながら、人数分の縄を吊り下げ一家心中の準備を進めてゐた。滑川建設は景気低迷に屈し傾き、滑川家は借金でどうにもならない状況に追ひ込まれてゐたのだ。先代の徳造(え~り)は、既に惚けた上長く床に臥せつてゐた。そんな瀬戸際な最中に呑気に登場するサンダー杉山は、五月が注文した握り寿司特上を配達に滑川家を訪れる、寿司屋の出前持ち。五月は姉に蔑ろにされる春樹に何時の間にか好意を寄せ、帰宅した弥生も、よく判らない勢ひで貫太郎と関係を持つ。ミナに伴なはれ滑川家に潜入したマサルは、乱れた一家の正しく乱交に目を丸くする。
 妙に豪華なプロダクションにも恵まれた、結局以前も以降も一貫してAVの世界を主戦場に選んでゐるらしい、安田健弘のピンク映画唯一作。一家の生き死にに大らかな性も絡めた力強いコメディ、を志向した節は確かに窺へなくはないものの、滑川家男性陣の貧弱さと締まりに欠く作劇とにまるで形にならない。三姉妹の最終的な身の振り方をも左右する、物語の鍵を握る滑川家家族関係に秘められた事実の説明に際しても、満足に見せるでもない図解をわざわざ作つてしまつたために却つて、一回映画を観ただけでは猛烈に判りにくい。といふか実際に個人的には、ミナが上二人の姉とは血が繋がつてゐないことだけ掴むのが関の山で、貫太郎や徳造も絡めた、一族の全体像は把握出来なかつた。生温い演出の下に魅力を欠いたえ~りじゅん・森山龍二・佐々木和也がセクシャルといふ意味ではなく淫らにカラ騒ぐ中、ただでさへコメディが上滑るとなるとせめて女の裸くらゐは満足に拝ませて欲しいところである。といふか、それがカテゴリー上当然要請されて然るべき要諦であらう。ところが、さうなると挙句に根本的に理解に苦しむのが、滑川邸パートに於いて風呂場を除き概ね一貫する、妙な照明の暗さ。この期に女の裸すら、満足に見せないでどうする。麻生早苗・貴奈子・水奈リカと、当時の人気AV女優を三枚並べた布陣は本来強力な筈なのだが、如何せん機能不全に終る。最終盤物語を収束させる段取りとして半ば発狂気味に弾けるマサルの扱ひに関しても、間延びしたシークエンスを連れ回された末に無様に暴発させ
られただけでは、石川雄也の無駄死にぶりに止め処なく流れる涙を禁じ得ない。本筋自体と女優三本柱には何ら問題はない以上、普通の監督が当たり前に撮つてゐさへすれば、もつと幾らでも勝負出来てゐたのではないかとも思はれる残念な一作である。

 どのやうな状況下にあつても、ひとまづ自分の仕事は果たしてみせるタフネスさを発揮する森羅万象は、サンダー杉山の通報を受け滑川家に突入、マサルを取り押さへる警察官。


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 「背徳同窓会 熟女数珠つなぎ」(2001『三十路同窓会 ハメをはずせ!』の2010年旧作改題版/製作:シネマアーク/提供:Xces Film/監督:中村和愛/企画:稲山悌二/制作:奥田幸一/撮影:小山田勝治/編集:酒井正次/写真:佐藤初太郎/録音:シネキャビン/現像:東映化学/監督助手:根本強史・ピューロ飯田/撮影助手:長谷川卓也・新家子美穂・赤池登志貴/協力:《有》ファントムラインジャパン・深井洋志・マザーグース・《資》ブリッジビルダー/出演:逢崎みゆ・星野瑠海・樹かず・平賀勘一・真央はじめ・千葉尚之・深井順子・佐々木基子)。脚本も中村和愛自身による筈なのだが、何故か本篇クレジットは監督のみ。即ち、今作からは脚本家のクレジットが抜け落ちてゐる。
 三十にして二度の離婚暦を誇れないエッセイストの西原理恵(逢崎)は、現在の年下の彼氏・川口憲史(真央)との情事を恐縮しながらも愉しみつつ、親友の純子(星野)が夫婦で営む店で開かれた同窓会に、純子が何時の間にか理恵の最初の元夫・本宮伸行(樹)と結婚してゐた青天の霹靂や、同じく親友の入江紀香(佐々木)は若いツバメに入れ揚げてゐるらしきことはとりあへずさて措き、理恵・純子・紀香の、何時もの三人の面子しか集まらなかつた点に関して、「これぢや単なる飲み会ぢやない!」と呆れ果てる。流れるやうにここまで、エクセス主演女優にしては奇跡的ともいへるレベルで素晴らしい逢崎みゆのコメディエンヌとして絶品な台詞の間と、三女優を向かうに回し、元妻との再会に接客も放棄し不機嫌さを露にする二枚目バーテンダーを綺麗に快演する樹かず。そしてそれら全てが中村和愛の柔軟にして入念な演出に束ねられ、開巻からワクワクさせられるほどに面白い。千葉尚之は、事実上殆どヒモに近い紀香のツバメ・福本浩史。平賀勘一は、二年前に別れた理恵の前夫・水島鋭二。名前が載るのは本篇クレジットのみの深井順子は、手書きに固執しなほかつ筆の遅い理恵に、苛立ちを隠さうともしない担当編集・牧村。牧村は“時代の要請”と称するPCの導入を頑なに拒む理恵が、川口からの携帯電話の着信には「あ、“時代の要請”が呼んでる」と仕事の手を止め出てみたりするカットも、実にスマート。
 理恵は川口の子供を宿し、後に明かされる無体な理由により、純子がよろめいた出張ホストが選りにも選つて浩史であつた劇中世間の狭さから、三人の三十路女の日々は大きく動き始める。純子は浩史と家を出、妻の不在に頭を抱へる本宮の店に、真相は露知らぬまゝ矢張り浩史を失つた喪失感に打ちひしがれる紀香と、騒動を耳にした理恵も駆けつける。そこにぼんやりと純子が戻つて来たところから発生する、リアルタイム当時m@stervision大哥が絶賛された、女三人による夜の路上にて繰り広げられる大修羅場の長回しも確かに凄いが、敢てさういふ大掛かりなガジェットではなく、より今作のハイライトとして推したいのは、中村和愛らしい細やかな心情描写。妊娠を報告した上、「ここは流れでしとかないと」、「暫く出来なくなるんだし」と超絶に軽やかな導入で突入した濡れ場明け。ポップに喜んで呉れる川口の姿に幸福な満足感に包まれかけはするものの、どうやら専業主婦として仕事を止め一切家庭に入るのを当然の前提と望んでゐるらしき男の姿に、空気を看て取つた理恵が静かに、然し確実に顔色を変へるショットには映画的な緊張感が、さりげなくも狙ひ澄まされて漲る。ヒロイン達相手に限らず、中村和愛の慎ましやかな必殺は随所で火を噴く。元妻からの―間違ひなく自分の種ではない―妊娠の報せに、あはよくば復縁を考へぬでもなかつた水島は、おとなしく引き下がらざるを得なく落胆する。台詞によつて提示される情報量は最小限に止めた上で、演出の力を頼りになほ一層の強度を以て登場人物の心象を表現する。素晴らしく映画で、且つ中村和愛だ。劇中殆ど唯一の頓珍漢は、純子と浩史の逢瀬。自身が蒔いた種に困惑も禁じ得ない純子に対し、浩史は人の行動には全て理由があるだとか何だとか聞いた風な口を叩きながら、いざ純子が当の理由を口にしようとした途端、自分は金で買はれた男なので、理由なんて必要ないとほざいてのける。何だそりや、ほんなら初めから理由だの何だの小理屈振り回すなよ小僧。もうひとつの転じられなくもない禍(わざはひ)は、三人の中では、といつた限定を設けずとも普通に演技力に大穴の開く星野瑠海が、体は一番綺麗―首から上は、篠原さゆりに憧れるニューハーフといつた風情だが―といふ逆説的なジャスティス。とまれ、高々一時間の裸映画を決して忽せに済ますことなく、丹念に丹念に積み上げた一つ一つのシークエンスを成就させた果ての着地点は、実は登場人物が一人も幸せになつてはゐないまゝに、それでも精一杯爽やかに、前だけは向いた気持ちで物語を畳んでみせる。実のところは、とかくまゝならぬ人生といふ奴からさういふ形であるべきものであるやも知れず、さう思へば、束の間の尺を越えてより染み入る一作である。

 今作は現時点に於いての、中村和愛暫定最終作となる。何時もの“Welcome to the Waai Nakamura world.”ではなく全て大文字で“WELCOME TO THE NAKAMURA WAAI WORLD.”と幕を開け、最後も“Thank you for your having seen this Film.”ではなく、“THANK YOU FOR YOUR HAVING SEEN THIS FILM.”と幕を閉ぢる。理恵・純子・紀香は純子を要に棹兄弟ならぬ蛤姉妹といつた状態に陥るとはいへ、新題からあるいは連想されるやうな、乱交で物理的に連結されるといつたエクストリームは別に用意されない。


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 「欲望の酒場 濡れ匂ふ色をんな」(2010/制作:セメントマッチ/提供:オーピー映画/監督:池島ゆたか/脚本:五代暁子/原題:『STAGE』/撮影:長谷川卓也/照明:ガッツ/編集:酒井正次/音楽:大場一魅/助監督:中川大資/監督助手:新居あゆみ/撮影助手:福島圭悟/編集助手:鷹野朋子/スチール:津田一郎/タイミング:安斎公一/録音:シネキャビン/現像:東映ラボ・テック/ビデオ編集:大場一魅/現場応援:田中康文・内藤和之/協力:阿佐ヶ谷『ロフト』・鎌田一利・原田なつみ・森山茂雄/挿入歌『暗い海の底に』『海』作詞・作曲:桜井明弘 『風のいろ』作詞:五代暁子・作曲:大場一魅 『STAGE』作詞:桃城姫香・作曲:大場一魅 singing girl:佐々木麻由子/出演:佐々木麻由子・日高ゆりあ・鈴木メイ・野村貴浩・久保田泰也・竹本泰志・甲斐太郎・牧村耕次/Special guest star:なかみつせいじ・倖田李梨・原田浩史・松本格子戸/Special thanks:はっしん・JP・katsu・hide・ZAN・電撃チャック・こうげつ・美麗・だいさく・白木努・浅倉茉里子・若林美保・鷹野朋子・松岡由記臣・ひろぽん・岡輝男・志賀葉一・阿佐ヶ谷ロフトAスタッフの皆様)。ポスターに名前が載るのは、ビリング頭から倖田李梨まで。
 桜井明弘がギター伴奏する―原田浩史が、桜井明弘の俳優部名義―阿佐ヶ谷ロフトAのステージ、往年の人気歌手・斑鳩洋子(佐々木)が、かつてのヒット曲「暗い海の底に」で観客を魅了する。斑鳩洋子の音楽性といふのはザックリいへばシャンソン・ベースの歌謡曲なのだが、何はさて措き第一に特筆すべきは、佐々木麻由子の歌が普通に歌手としても通るほどに、といふのも通り越して半端でなく上手い。兎にも角にもこの時点で、ピンク映画初の本格歌謡映画を志向したといふ試みはひとまづ成功を果たしてゐよう。Special thanks勢は概ね出演エキストラとして、ロフトAの客席要員。因みに志賀葉一といふのは、清水正二の別、あるいは本名義である。事件化した所属事務所の倒産によりアメリカに逃亡してゐた時期すらあつた洋子は、現在は当然の如く大絶賛肉体関係にもあるパトロン・大沢(甲斐)の支援の下、歌手の志望も捨て―といふ設定の割には少々若くもある―洋子のマネージャーを献身的に務める高岡尚也(野村)とともに、要はドサ回り的な風情で津々浦々の小さなハコで細々とライブ活動を続けてゐた。終演後、洋子の大ファンだといふOLの山岸アスミ(日高)は、洋子に花束を直に手渡す夢が叶ひ感激に顔を輝かせる。
 クレジット順に配役残り、感動的に曲と合はないリズム感―これは撮影の問題かも―と、濡れ場に際しては喘ぎ顔の下品さとが酷い鈴木メイは、ロフトAの店員・レンカ。三番手?の介錯役は、何となく高岡が務める。そこかしこに違和感を感じつつ観てゐたところ、どうやらこの人は支那人らしい。確か、洋子のライブの客席には見当たらなかつたやうな気がする美麗が、もしかすると大陸ルートで鈴木メイ―といふ名義自体から、実は正体不明でもあれ―を連れて来たものなのかも知れない。久保田泰也は、アスミの彼氏・壮介。一旦竹本泰志を飛ばして牧村耕次は、洋子の前に現れる芸能ゴロ・橋本。洋子にストリップ舞台の仕事をオファーし、激昂させる。熊本出身となるとネィティブの筈にしては、九州弁での台詞が逆にあまり達者ではないなかみつせいじは、渡米する洋子から生まれたばかりの赤ん坊を引き取る代りに、絶縁を言ひ渡した兄・山岸健一。姿を見せない健一の妻・ミチコの声は、山ノ手ぐり子あるいは五代暁子、ではなく新居あゆみがアテてゐる、コメント欄を参照されたし。倖田李梨はアスミの友人、松本格子戸だけが、何度観ても何処に登場してゐるのか判らない。
 生き別れた母と娘、決して男と女の仲には至らぬ男女のドラマも絡め、歌を頼りに舞台の上で戦ひ続ける一人の既に若くはない女シンガーの姿を描いた物語は、一歩間違へれば演技よりも上手い勢ひの佐々木麻由子超絶の歌唱力にも支へられ、基本線として頑丈に見応へがある。芝居パート―などといふのも屈折した物言ひだが―にあつては自殺行為に近い大胆にも、結構衝撃的なスッピン顔を晒してのけた女優根性も光る。対して、その癖ポスターは何故か一人で全面を飾りはするものの、一年後は何処で何をしてゐるのだかグラグラまるでハッキリしないレンカの存在はいつそ丸々不要で、アスミ篇も相方が久保田泰也では、基調シリアスな映画の中で心許ない軽さも否み難い。尤も、そのやうなあれやこれやは取るに足らない瑣末と捻じ伏せるだけの比類ない決定力が、歌だけでなく佇まひまで含め斑鳩洋子のステージングからは迸る。劇映画的には必ずしも兎も角、音楽映画として文句なく買へる一作。少なくとも個人的には、突破に成功したのはよしんば一点だけともいへ、かういふコンセプトの明確な映画は清々しいと好むところである。

 オーラスの回想シーンに登場する竹本泰志は、事故で夭折した天才トランペッター・阿川薫。洋子の夫であつたかどうかは厳密には不明ながら、<アスミの父親>である。敢て前時代性も要求される大仰な色男を、何気なく好演してみせる貫禄は流石。髪型を少し弄るだけで二十年の歳月を易々と飛び越えてみせる佐々木麻由子も、依然昭和の香りを漂はせる大女優ぶりを特筆するまでもなく披露する。今作も、といつたいひ方が適当なのかどうかはよく判らないが、とまれ神戸顕一の姿は如何なる形に於いても見当たらない。


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