真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「キモハラ課長 ムラムラおつぴろげ」(2021/制作:Production Lenny/提供:オーピー映画/監督・脚本:城定秀夫/プロデューサー:久保獅子/撮影・照明:田宮健彦/録音:弥栄裕樹/助監督:小南敏也・貝原クリス亮/ヘアメイク:唐澤知子/スチール:本田あきら/撮影助手:高嶋正人/監督助手:浅木大/制作応援:別府啓太/編集:城定秀夫/音楽:林魏堂/仕上げ:東映ラボ・テック/劇中歌:『マイ・ビューティフル・フラワー』・『ばかばつかDAYONE』/出演:七海なな・麻木貴仁・きみと歩実・しじみ・山本宗介・久保獅子・矢作マサル・ケイチャン・守屋文雄・森羅万象)。出演者中、ケイチャンは本篇クレジットのみ、劇中歌の情報量に屈する。
 劇中では明示されない家電メーカー「レニー電器」の、こゝは二番手の口から度々公言される窓際部署の第三企画課。このオッサン全体何がしたいのか、両手をノートにかざし「ハーッ!」と念か何か兎に角送る、課長の島ならぬ沼田耕作(麻木)の尋常でないキモさに白川初美(きみと)以下一同が眉を顰める傍ら、蓮見一花(七海)はコソーッと―でもなく―スマホを沼田に向け動画を撮影。キモいのはキモいまゝに、寸暇も惜しむ沼田のキモさに欲情する。大輪の蓮が割と毒々しく咲いた、ヌマーッとした沼の画にタイトル・イン。と、ころで。麻木貴仁を捕まへて“このオッサン”と筆をぞんざいに滑らせてみたが、仮に城定秀夫なり久保和明(a.k.a.久保獅子)と同い年であつた場合、加藤義一世代の当サイトの方が三個よりオッサンである、先頭を走つてゐるのが加藤義一なのか。
 一日の業務終了後の女子手洗、涎もダッラダラ垂れ流し、仕事中に撮影した沼田のキモ動画で豪快に一発ヌいた一花を、さうとも知らず初美が社内の合コンに誘ふ。吹き溜りの誉れ低い第三企画課に対し、花形と称される第一企画課のウルットラ男前、苗字から何だか男前の青山(山本)が、何故かといつては失礼だがカジュアル通り越して、一人思ひきりラフな格好の一花に喰ひつく。一花に逃げられた青山が初美に捕まる一方、蛙のヌマヲ(蛙種知らん)が―餌を―待つ部屋に帰宅した一花は、キャップとサングラスで武装した沼田がスワンプ課長に扮して配信する、コメント機能つきの動画を楽しむ。
 配役残り、クレジットの栄にわざわざ浴するケイチャンは合コン会場、一花が注文したポンテギを持つて来る―だけの―給仕人。しじみは沼田が結構足繁く通ふ、風俗店「ピュオ~ネ」のやさぐれたイメクラ嬢・カスミ。普段は温かい、一花にもその日の動画を下コメで酷評され沼田が逆上、即興ラップで盛大に会社をディスり始める。思はぬ展開が俄かな好評を博するのはいゝものの、勢ひ余つてグラサンが飛び、素顔を晒してゐるのに沼田は気づかなかつた。守屋文雄と森羅万象は、その模様を取引先に偶さか見つけられ面の割れた沼田を、深刻な説教で個室に呼び出す労組の組合長と専務。矢作マサルは馘が飛んだのか一応自己都合なのか、何れにしてもレニ電退職後、思ひのほか早く交通誘導員として再始動した沼田を叱責する多分現場社員。出番自体恵まれず、今回不発気味の久保獅子は延々と一花の後をついて来る沼田を、ガード下にて半殺すカスミのアフロなヒモ・タツヤ。第三企画課のその他女子一般職と男子それぞれ二名づつ―男三人ゐるかも―を始め、合コン会場と、後日一花と青山がサシで入るバー要員。一花宅隣家に、夜明け通り過ぎ普通に朝の往来もものともせず、しかも粉塗れのパン一で熱唱する沼田に汚いものを見るやうな目を向けるカップル、実際汚いんだけど。何処から連れて来たのか、画面(ゑづら)的にも全く遜色ない総勢二十人前後が、ノンクレでそこかしこに投入される。
 自身が先鞭をつけた恋の豚方式で、二ヶ月半先行して一般映画版「花と沼」をフェス上映後、正月痴漢電車を運休か一時廃線させ元日に封切られた城定秀夫大蔵第五作。主演を務める、ピンク的には城定組専属の七海ななは大蔵第三作「汗ばむ美乳妻 夫に背いた昼下がり」(2016/長濱亮祐と共同脚本)以来。更にその前となると当時のエクセスが切札中の切札を里帰りさせた、「人妻セカンドバージン 私を襲つて下さい」(2013)が初陣の実質四年ぶり第三戦。
 とかく城定秀夫といふと、“傑作だらけのジャンル”とかへべれけに賞する類の世評も巷に溢れ返る、やうではあれ。無論意固地を拗らせる当サイトが、さういつた意味の判らない固定観念ないし、人の名前で映画を観る数十年一日の性懲りもない悪弊に与する訳がなく。ジョージョージョージョー、こんなら水が流れゝば涎を垂らす犬か。といふのは思ひついたとて控へておくに如くはない、余計な憎まれ口である、だから控へんか。
 さて、措き。男女分け隔てなく、挙句オフ・オンまで含め隈なく疎んじられる中年男と、そんな男に恐らくこの星の上で唯一人明確な性的関心を懐く、人の万年筆に盗聴器を仕込むはPCをハックするはとラジオライフ的なスキルにも長けた、あれこれ筋金入りの女。結ばれるばかりが、恋ぢやない。さうはいへ、恋愛感情の伴はない―といふか、そもそもそのものを持たない模様―セックスにすら時に興じつつ、己が裡の闇を知るがゆゑに個の輪郭、あるいは他との距離はあくまで守り通す。一花の頑なさは理解に分れ、職人監督と評される例(ためし)の多い割に、城定秀夫が実はコッテコテの古典的な大団円は意外と回避する、余白を残した結末はもしかもしくはやゝもすると、幾分尺を持て余した印象と紙一重であるのかも知れない。尤も始終の順に久保獅子の見せ場を奪ふが如く、規定の時間が来た途端―最早客ではないとする方便で―カスミが沼田をメッタメタに罵り始める件。痛快に沼田を切り刻むカスミの痛罵に際し、しじみの張りのある発声が映える。沼田放逐の功を誇る初美の頬を、激昂した一花が脊髄で折り返して張るシークエンスなんて何てエモい。これをエモいといはずして、何といふくらゐ激越にエモい。ほんのひとつ、首を縦に振りさへすれば成就する告白を受けたにも関らず、良くなくも悪くも沼田一流の「さらばぢや」を拝借した一花が、不格好な腕の振りで走り去る今生の―筈だつた―別れは、涙腺を一撃で決壊させる。ついでにオーソドックス・フォークとEJDばりの戯画的なラップ、全く毛色の変つた二曲を共々予想外の手堅さで歌ひ上げる、麻木貴仁のボーカリストとしてのセンスも地味にでなく煌めく。青山に抱かれながら、山宗に抱かれてゐながら、一花が妄想するのは沼田。都合二度火を噴く、映画史上最も倒錯したクロスカッティングを忘れてゐた。隙のないロケーションは横着をしてゐる連中とは明らかに一線も二線も画し、何時でも何処からでも観客を倒せるエモーションを、間断なく撃ち込み続けた末。念願叶つて一花にありつけた沼田の歓喜と、一花が溺れる官能の渦とが伝はつて来る締めの絡みは、銀幕をも発火させんばかりのアツい名濡れ場。意図的に延焼させると、加藤義一、竹洞哲也、黙つて指咥へて眺めてゐていゝのか、よかねえ。濡れ場で映画を燃やすんだよ、それが裸映画だろ。それが裸映画の、ひとつの理想形ではないのか。旦々舎が一旦?戦線を撤退し、荒木太郎は依然梯子を外されたまゝ。池島ゆたかも塩に漬かるか、天日に曝されたまゝ。どうせ国沢実は終ぞ成熟以前に安定せず、どうもナベが元気なく、関根和美は既に泉下。吉行由実は今上御大の跡目をたをやかに窺ひ、清水大敬は清大。あの人は清大、あの御仁こそさういふジャンル。本隊から城定秀夫を迎へ撃つのは、最早加藤義一か竹洞哲也しか残つてゐない。四年目の、KSUに任すか押しつけるのでなければ。
 話を、戻せ。ヒロインの心が、世界を包む。帰還大切望、森山茂雄が起こした奇跡とは別の形で、より直線的に旧劇ラストをハッピー・エンドに昇華する、案外プリミティブな力技には畏れ入つた。絶妙に含みを持たせた結末は、その後も一花と沼田の関係が、体のいゝセフレ的に継続する可能性も解釈如何によつては窺はせ、キモいオッサンがキモいまゝに愛でて貰へる、比類ないファンタジーが麗しく実を結ぶ。これまで城定秀夫のピンク映画最高傑作といふと、同時に少なくとも今世紀最強の痴漢電車であるにさうゐない、妥協を捨てた緻密な論理と技術、そして情熱とが遂に突入した狂気の領域をも覗かせる、驚愕にして超絶の電車痴漢トリプルクロスを構築した衝撃作「痴漢電車 マン淫夢ごこち」(2016/脚本協力:城定由有子/主演:希島あいり・竹内真琴・松井理子)と当サイトの相場は決まつてゐた。こゝだけの話、これ観て判つたな、もう俺にピンクでやり残したことはないぞ。「マン淫夢ごこち」で城定秀夫は卒業制作を叩きつけたのだと、当サイトは勝手に思つてゐた。思つてゐたものだが、「セカンドバージン」に勝るとも劣らない、七海ななとのコンビで改めて放つたマスターピース。御子を産んだ七海ななの去就が不透明なのと、結局城定秀夫が雌雄の行方を支配する状況に関しては、複雑な心境を覚えなくもないにせよ、何はともあれ、面白いものは仕方ない、クッソ面白いのだから仕方ない。城定秀夫の対抗馬について、本当はエクセスが松岡邦彦といふ、なほ一枚ジョーカー級の切札・オブ・切札を残してもゐるんだけどね。

 帰宅したところ逃げてゐたヌマヲを探しに出た一花が、人の言葉を話すヌマヲと対話する。一花の複雑なエロスの外堀を埋めがてら、量産型娯楽映画に於いて、現代的な価値観の所謂アップデートにも果敢に挑んだ魅力的かつ意欲的な一幕。ともいへ流石に夢でオトすしかない諸刃の剣を、目覚めた一花に「何だそれ」と受けさせる。悪球もとい難局を思ひきり開き直つたカウンターでスタンドまで放り込む、岩鬼のホームランにも似た剛腕には声が出たのと並行して、震へあがるほど感心した。


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 「狂つた性欲者 主婦を襲ふ!」(昭和54/製作:プロダクション鷹/配給:日活株式会社/脚本・監督:和泉聖治/撮影:西川卓磨/照明:西田光月/音楽:新音楽映像/編集:竹村編集室/助監督:加能遊/効果:秋山実/現像:東映化学㈱/録音:東音スタジオ㈱/協力:山手輸送㈱/出演:桂たまき・くどう麻屋・与那城ライラ・いぬい順子・草薙良一・津崎公平・久須美護・市村譲・仲台ひろし・竹田一郎・松本たかし)。出演者中久須美護と、竹田一郎は本篇クレジットのみ。逆に、ポスターにのみ矢田健とかいふ名前が載る。更に市村譲と仲台ひろしが、ポスターでは市村ジョージと仲台あきら。市村ジョージが市村譲臭いのは、事前に読めた。
 同じものを使つてゐる訳ではないが、三年後の珠瑠美昭和57年第十作「新妻残酷に犯す」(脚本・プロデューサー:木俣堯喬/主演:美野真琴=よしのまこと)で以前目にした、MIYOWA PICTUREなる謎の組織も名前を連ねるプロ鷹作品ロゴで開巻。
 暗転して刑務所スチール、御馴染都健二によるナレーション、略してミヤコレーションが起動する。婦女暴行で四度目の懲役を三年六ヶ月喰らつた森山哲郎(草薙)が、二年三ヶ月で仮出獄。こゝで、“仮出獄”の用語に関して。旧監獄法(平成19年廃止)を改正する形で新たに設けられた、刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律(平成18年施行)により、法令上に於いても仮釈放に改められた。閑話休題、てな塩梅で飛び込んで来る、妙なドーランの塗り方で血色悪く映る市村譲が、森山が月に二度面会を受けなければならない保護司の村井。村井が繙く、森山が過去に起こした事件の調書にタイトル・イン。くどう麻屋が、タイトルバックを担当する当該事件の被害者、煽情的な暴れぷりが素晴らしい。
 新聞頼りに求職する森山は、アパートの二階に住む主婦(ポスターを飾る与那城ライラ)に道を尋ね、北新宿の運送会社「山手輸送」―恐らく社名を山手運送に変更して現存―を訪ねる。社長夫人・マサコ(桂)の二年前に死去した亡兄・マサオに酷似する森山を、社長の多分山手(やまて/津崎公平)は即日採用する。
 jmdbならびnfaj始め、別館検索にもまるで引つかゝらないビリング後ろ三人に全く手も足も出ない配役残り、久須美護(のちの久須美欽一)と、そこはかとない内トラぽさも窺はせる髭と田中要次の若い頃みたいな三人が、リーダー格のアラキ以下山手要員。男優部もう一人は、与那城ライラの配偶者。いぬい順子は入社十日で運転を任された森山の、にも関らずな配達中の餌食となる車をエンコさせてゐた女。
 きのふけふ始まつた話でも別にないけれど、ex.DMMの中に未見の弾もピンクは殆ど残つてゐなく、戯れに和泉聖治を見られるだけ見て行くかとした昭和54年第二作、当年全八作。実父の木俣堯喬と、義母の珠瑠美については一応可能な限り観るなり見てゐる。和泉聖治が今なほ「相棒」―ビートきよしの声色で―を撮つてゐるものかと思ひきや、昔といふほどではないにせよ結構前、第十四季(2014~2015)で自ら足を洗つてゐたとは知らなかつた。
 塀の中では余程大人しくしてゐたのか、四度目の累犯にしてシャバに解き放たれた狂つた性欲者が、案の定主婦を襲ふ。実も蓋もないレス・ザン・ヒューマニティーな物語ながら、完全にトンだ目で、頬を痙攣させる草薙良一のメソッドが異常に秀逸。現に狂つてゐるやうにしか見えず、女の乳尻もそれなり以上にあるとはいへ、滅多矢鱈に大仰な劇伴にも火に油を注がれさながらポルノといふよりも、寧ろサイコスリラーかホラー映画に軸足を置いた趣。逡巡してゐた森山がカーブミラーの中で点火する、ソリッドなカットなど普通にカッコいゝ。反面、当時的にはこれで平然と通用してゐたのか、少なくとも2022年視点では正直薹の立つた女優部が居並ぶ、訴求力の直截な低さも否定はしない。いぬい順子の車の脇を一旦通り過ぎた森山が一人で配送するトラックが、再度元来た道に回り込んでゐたりするよく判らない動線。結局さしても何も碌に機能しない、マサコが肌身離ぬ十字架の全く以て木に竹も接ぎ損なふ意匠。といつた目につく些末もなくはないものの、終に犯されたマサコが、限りなく一目散な勢ひで電車に飛び込んで死ぬ。心なさがグルグル二三周してこの際清々しい無体な結末は大御大・小林悟の乾いたビートにも似た、腰の据わつたやつゝけにしか辿り着き得まい、良くも悪くも突き抜けたか底を抜いた最果ての地平。一時間に二三分毛を生やした尺をズバッと締め括る、線路脇に赤い靴が残される感動的に呆気ないラスト・カットが、見る者観る者には一欠片の感興たりとて許さない。
 最後にもう一点クレジット絡みで、撮影の西川卓磨は、a.k.a.西川卓。五十音順に市村譲と西川卓に矢竹正知が、俳優部と撮影部に照明部で三枚揃ふ一作なんてないのかな、あつて全然おかしくない気はする。
 と、いふか。矢竹正知監督作に於ける俳優部仕事が妙に目立つ、西田光月はもしかすると変名?

 付記< 矢竹正知クラスタ―房?―が矢竹正知を賛美するツイートに、西田光月の画像を貼つてをられる。となるとどうも、あるいは矢張り。西田光月は矢竹正知の変名であるみたい


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 「未亡人下宿?その4 今昔タマタマ数へ歌」(2020/制作:《有》大敬オフィス/提供:オーピー映画/音楽・脚本・監督:清水大敬/撮影・照明・整音:大久保礼司/照明:海老澤大介・後藤昂生/録音:吉田信治/主題歌《作曲》:花椿桜子/ポスター:中江大助/助監督:郡司博史/仕上げ:東映ラボ・テック㈱/出演:愛原れの・長谷川千紗・吉良薫・松緯理湖・中村京子・大山魔子・森羅万象・銀次郎・佐々木狂介・野間清史・萬歳翁・郡司博史・安藤ヒロキオ・フランキー岡村・折笠慎也・川上貴史・山科薫・松本モトマツ・末田スエ子)。出演者中萬歳翁と郡司博史に、川上貴史・山科薫・松本モトマツは本篇クレジットのみ。逆に軽く高い萬歳翁・郡司博史に対し、出番も台詞もガンッガンある、何なら絡みもなくはない川上貴史のビリングの低さが何気に解せない。
 昭和と平成に令和、三篇を彩る未亡人下宿大家の階段掃除、と称した要はミニスカ×パンチラ通り越した尻見せスチールを順々に三枚連ね、続けて縦方向の分割画面にいはゆる川の字に並べた上で、暗転タイトル・イン。束の間のアバンにさへ、乳尻何れかを忘れない。何はともあれ何はなくとも、観客の見たいものを見せるジャスティス。
 “昭和・編”、中点の意味が判らない。日本最難関の帝都大学法学部を十浪中、となると普通に考へれば精々三十路前の割には髪に白いものもちらほら交じり、初老に片足突つ込みかけて映る尾崎(フランキー)が、斡旋所から紹介された山口裕子(吉良)が大家の未亡人下宿を訪ねる。裕子が未亡人の所以は、集団就職先の山口部長(郡司博史/遺影と静止画のみ)と結婚したものの、プロレス好きの山口は観に行つた試合会場にて、悪役レスラーのグレート・ウタマロ(野間清史のゼロ役目)がブン回す場外パイプ椅子の誤爆で命を落としてゐた。昭和の配役残り、脱ぐと体の弛みが非常に宜しくない佐々木狂介(ex.佐々木共輔/a.k.a.佐々木恭輔)は、何某か借金を抱へてゐる裕子の未亡人下宿に押しかける金貸し・頃安。松緯理湖(ex.松井理子)は頃安の女房、四枚目にして夫婦生活を十全にこなす布陣の分厚さには、油断してゐて意表を突かれた。頃安に代つての取り立てに現れたマツリコが、連れて来る用心棒のプロフェッサー・タロー・タナカ―正確な表記不明―と、実は裕子の幼少期近所に住んでゐたをぢさん・タケシが改めて野間清史。
 “平成・編”、尾崎健二(安藤)は帝大法学部の入試に向かふ道すがら、美由紀(愛原)の運転する車に撥ねられまた一年棒に振る。入院してゐる間に父親の死去後、五年厄介になつてゐた叔父宅も追ひ出された尾崎―以後オザケン―は当てもなく、美由紀が賄ふ未亡人下宿に転がり込む。美由紀の亡夫は遺影のみ登場の山科薫、死因は単なる交通事故。平成の配役残り、萬歳翁はオザケンがお世話になつた脳神経外科の河本。昭和の、あるいはロマポの大物脇役・コミタマこと小見山玉樹の給仕人にも近い、タイプキャストの趣をも地味に煌めかせる、末田スエ子が医院の看護師。松本モトマツは、オザケンが口元に精液をつけたまゝの美由紀に来訪者を応対させる、回覧板を持つて来た緑町町内会会長・山根譲二。そして愛原れのが隣にゐるとデカさが際立つ大山魔子が、オザケンの叔母。大山魔子の、名は体を表す感が凄まじい。
 “令和・編”、帝大法学部志望すら今や明示されない、兎に角尾崎は尾崎(折笠)が既に廃止されてゐる路線の「未亡人下宿・前」バス停―上から紙を貼つただけ―で待つてゐると、親切な通行人(俳優部ノンクレの清水大敬)がその旨教へて呉れる。尾崎は矢鱈ジェントルな清水氏(超仮名)に案内して貰つた、鳳アリサ(長谷川)が責任者を務めるセイガク専門のシェアハウスを訪れる。森羅万象がアリサの亡夫・善三、職業はヤクザで、のちのち語られる死因は騎乗位に乗られた、腹上ならぬ腹下死。令和の配役残り、「ねえ十万円くらゐ貸してよー」、第一声のクソさがグルッと一周して清々しい、中村京子は善三の兄弟分・三島タツジ―後述する―の妻・レイコ。具合でも悪いのかといふくらゐ終始グターッとしてゐるのが、作られた造形なのか、素で草臥れてゐやがるのだか最早判らない以前に寧ろどうでもいゝ、醜悪極まりない活性酸素の塊。人に金を無心するのに乳も放り出さんでいゝ!といふか出すな、仕舞ふとけ。後生だからオーピーは清水大敬に、無駄に汚い映画を撮らせないで欲しい。ナカキョンの、阿鼻叫喚レベルの惨状、流石に往年のファンでも喜ぶどころか、年波の非情に落涙されてしまふのではあるまいか。閑話、休題。ex.三柴江戸蔵似の川上貴史は善三の子分・カツジで、ex.銀治ではない銀次郎が件の三島タツジ、昭和の時代には―グレート・ウタマロ所属の―プロレス団体も経営してゐた御仁。と、ころで。元職看護師のアリサが、胸に山口裕子の名札をつけてゐるのはシンプルな粗忽。山口は山口にせよ、裕子はお母さんの名前ね。
 直前の五年間を叔父家で過ごしたオザケンが、美由紀の妊娠に伴ひ無間の受験から足を洗ふ。清水大敬2020年第二作は即ち前後の連関を確実に断たれた、偶々同じ大学の図らずも同じ学部を志望する期せずして同姓の、全く独立した三人の尾崎をイントロ要員に一応擁し、昭和から平成を経て令和、三つの時代を巡る堂々とした未亡人下宿クロニクル。今回のナンバリングに“その4”とある通り、これまで未亡人下宿が地上げに揺れる、王道かフォーマット通りの展開で火蓋を切つた無印第一作「未亡人下宿? 谷間も貸します」(2017/主演:円城ひとみ)。ラストに登場する橘秀樹が、そこに在り続ける未亡人下宿を担保する爽やかなラストの第二作「続・未亡人下宿? エロすぎちやつてごめんなさい♡」(2018/大家:成宮いろは)。へべれけな幽霊譚と、底の抜けた改元祝賀の号砲がブッ放たれる「未亡人下宿?エピソード3 裏口も開いてます」(2019/主演:三島奈津子)と順調に一年一本づつ続いて来た、未だにはてなの真意は不明な大蔵未亡人下宿が第四作で、画期的かつ意欲的な大風呂敷を広げてのけた。訳が、ないんだなー
 美由紀とアリサが何故かお揃ひの赤いコートを持つてゐて、オザケンと令和尾崎が共々ギックリ腰を患ふ以外には、蚊帳の彼方に弾き飛ばされた平成を余所に、アリサの入居祝ひを頂戴して以降、徐々に鳴りを潜める折慎はそのうち暫し退場。店子と大家の惚れた腫れたを軸に据ゑた、ないし軸に据ゑる筈の未亡人下宿は何時しか何処吹く風。美由紀とアリサが銘々独り言つ「それもまた人生」を力づくのキーワードに、生まれる五月十日前から生き別れた父親と、娘が再会を果たす人情噺に着地する、未亡人下宿的には大概な不時着には度肝を抜かれた。この物語に、尾崎別に必要ねえ。清水大敬、畏るべし。合格祝ひに未亡人の大家が店子を筆卸して下さる、確かに然程順守されてもゐない、シリーズ総体のお約束をほぼほぼ反故にしてみせる点や、量産型娯楽映画ならではの懇切設計をプリミティブに履き違へた、二度三度の重複も厭はず、随所で火を噴く滔々とした説明台詞の類はこの際とるに足らない些末。わざわざ元号を二つ跨いでの、如何にも集大成的な大河未亡人下宿かに見せかけて、要は単なる舞台なり器としてしか未亡人下宿が機能しない、盛大な羊頭狗肉を撮つてのける明々後日か先一昨日なドラマツルギーが実に清水大敬。正方向に清水大敬なのは、地を這ふ、どころか穿たんばかりの勢ひで女優部の股間を執拗に追ひ狙ふカメラは健在。少々、で済まない無理の大きなカットの数々もものともせず、末田スエ子を除き、箍の外れたローアングルを漏れなく被弾する。さうはいへもう少し綺麗に撮れなかつたのか、といふ脊髄で折り返した直截な疑問も否めない三番手を逆の意味での筆頭に、正直三本柱が然程強靭とはいひ難い中、“償ひ”の一点張りでオザケンが美由紀を悪し様にいふところの肉便器と成す。平成パートが娘と父が邂逅する本筋―本筋?―からはまるきり乖離する反面、よしんば即物的か低劣であらうとも裸映画的に最も充実してゐる辺りは、転んだとて手ぶらでは起きないしたゝかさ。

 作詞は不明の主題歌が、エンド・クレジット時に流れる「金ちやんのバラード」、歌ふは清水大敬。“私は決して、二個の肉団子ではありません”と語りから入り、“年若くして皺だらけ”とか、“縫ひ目はあれど綻びず”的なチンコを歌つた他愛ない歌詞を、清大が御馴染のバカ声でがなつてゐるやうに一見もとい一聞聴かせ、案外安定した音程でエンディングを賑々しく締め括る。


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 「通り魔 レイプハンター」(昭和61/製作:にっかつ撮影所?/提供:にっかつ/監督:加藤文彦/脚本:斉藤猛/プロデューサー:鶴英次/撮影:水野尾信正/照明:田島武志/録音:酒匂芳郎/美術:中沢克巳/編集:奥原茂/選曲:伊藤晴康/色彩計測:高橋聡/助監督:金沢克次/製作担当:高橋伸行/現像:東映化学/音楽:LIBIDO『NEVATSUKU MASK』《LLE》より/衣裳:《株》ICHIHIRO/撮影協力:ASS・クリニック/出演:麻生かおり・榊真美・山路和弘・岸弘之・有働智章・川上雅代・中丸新将)。提供に関しては、事実上エクセス。
 目覚まし時計に大人しく起こされた主演女優が、着替へがてら軽く脱ぐ。向かつて左手に高層マンションを背負ふ、荒野じみた空き地にぽつねんとオッ建てられた掘立小屋のコインランドリー。言葉を選ぶと牧歌的なハードロックが鳴り始めつつ、颯爽と出勤する朝倉佐知子(麻生)に何者かが望遠を向ける。接客する仕事中の佇まひなり、後に軽く着く自席を窺ふに単なる勤務先といふよりも、佐知子が最低店長と思しき外車専門の中古車屋にクレジット起動。都合四人見切れる客ほかエキストラのうち、アバンでは何処から連れて来たのか外人部も投入される。佐知子は仕事終りに、四年前強姦されて以来通ふ、産婦人科医・神山(中丸)の定期健診。診察後、佐知子を密かに撮り溜めた膨大なVHSを凝視する、中丸新将の形相が結構左右対称で何気に怖い。診察台で患者と医師を隔てる仕切りカーテンの手前側、佐知子が自ら乳繰る状況がよく判らないビデオ画に、寄つてタイトル・イン。ポスター始め広く流通する公開題と、上の句下の句の順番を逆にしたのは、あくまで本篇に従つたものである。
 配役残り榊真美は佐知子と同居する、佐知子に対する呼称が“先輩”なのは中学か高校の後輩と思はれる染山京子、調度品が安い店には見えないバーのホステス。山路和弘はカウンター挟んで京子と二人きりしか劇中見当たらない、Bar「屋号不詳」(クッソ仮名)の客・西田守、乗り回すジャガーはあれ家はない風来坊。ex.織本かおるの川上雅代は、自らを犯した男との不倫とか、箆棒なレイプ体験をラジオで告白する人妻・小池道子。佐知子や京子なり西田が聴くラジオ―しかも多分生番組―が大概な内容の割に無防備な中継システムを採用してをり、道子が自宅の居間から電話で吹き込む。ところに、出張から一本早い新幹線で帰宅する夫・雪夫が有働智章。岸弘之は二人目の無宿、今作五年後の1991年に解体される、俗にいふお化けマンション―といふか建設途中で放棄された物件ゆゑ正式名称が存在しない―を根城に、佐知子をロングレンジからストーキングする未成年・谷村三雄。最初二人かと思つたら三人ゐた、ラストのコインランドリ要員も中古車屋部隊同様ノンクレジット。
 昭和57年の監督昇進後も助監督を続けながら、ロマンポルノ計八作とオムニバスの構成を一本手懸けた、加藤文彦の第六作。ロマポ晩年から世紀も跨ぐ十四年の時を経て、盛大な頓珍漢を撃ち抜いたのが「三十路色情飼育 ‐し・た・た・り‐」(2002/主演:木築沙絵子)。
 流石に昼間外から抜くと如何にもセット臭い安普請も拭ひ難いものの、内部は相当に作り込まれた、あり得ない立地で二十四時間営業するコインランドリー。画の力で押し込める虚構の陰でどさくさ紛れに通す、散文的なレイプ体験告白を滔々とラジオで流す、もう一つの豪快な映画の嘘。通り得てゐるか否かは微妙、当サイトの中では通つた。住処も持たず、レイプを生業にしてゐる風の収入源の不思議な男。コインランドリで佐知子を襲つたのは果たして西田なのか、そもそも現実であるのか、映画的には明らかな謎。魅惑的な風呂敷を諸々広げ、上半身は乾燥機に突つ込ませた女を、後ろから犯すシークエンスは激越にエロくてエモい。寧ろその、裸映画として一撃必殺のショットの一点突破で、首を縦に振る選択肢も十二分に成立し得たであらう、にせよ。徹頭徹尾漫然とした道子独白の掴み処のなさを筆頭もしくは底に、あれこれ開陳したモチーフを逆の意味で見事に片端から満足に回収しもせず。都合三度レイプされた女が、遂にといふか何時の間にか道子の轍を踏むが如くレイプの味を覚える。だ、などと。時代を超えた、もしくは時代の所為にする方便を断じて許しはしない浜野佐知のレイジが銀河をも裂けよと轟く、それこそ便所の落書よろしく類型的な着地点が幾ら昭和末期の所業とはいへ、2022年においそれと飲み込める代物では到底ない、保守なのに。咥へて、もとい加へて一歩間違へば狙ひすぎかねない、凝つたロケーションの数々が随所で火を噴く反面、諸刃通り越した殆ど逆刃の剣がネヴァツクマスク。この辺り、量産型裸映画と一応先鋭なインディーズとの接点がよく判らないが、劇伴を引き受けるLIBIDO(1979~1990)は界隈では名の知れた所謂“伝説の”バンドである模様。ズンドコ直截にいふとダサい愚直なロックが、ボーカルが入るともにノイジーな方向に変質する。またこのボーカル―が夭逝してバンドは消滅した―が如何にも往時を偲ばせる、一言で片付ければ発声から覚束ない別の意味でスリリングな代物で、富を奪取するといふよりも、音楽に後ろから撃たれた感も正味な話否めなくはない。女の裸と、底を抜いた不条理。たとへば珠瑠美のやうな、元々ある意味ネイティブに攻められる特殊な御仁を除き、土台無茶な二兎を追つた結果、切株で蹴躓いた印象の強い一作ではある。


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 「性鬼人間第三号 ~異次元の快楽~」(2020/制作:フリーク・アウト/提供:オーピー映画/監督:国沢実/脚本:高橋祐太/撮影・照明:渡邊豊/撮影助手:渡邊千絵/録音:小林徹哉/スチール:本田あきら/ガンエフェクト:小暮法大/編集:渡邊豊/音楽:與語一平/整音:Pink-Noise/制作協力:野間清史/美術協力:いちろう/仕上げ:東映ラボ・テック/出演:東凛・花音うらら・栄川乃亜・長谷川千紗・小滝正大・山科薫・野間清史・折笠慎也・森羅万象)。ファーストから助監督の名前が見当たらない、珠瑠美の映画みたいなクレジットは本篇ママ。
 セピア調の、苦み走つた小滝正大の止め画が発色して動きだす。事実上引退状態にある―漫具は捨ててない―マンガ家・小手先正馬(小滝)が、侘しいマンション屋上飲みの末、偶さかいつそ飛び降りかける。死神の前髪に触れた危なかしい小手先に、「星が見えませんね」、一週間前隣に越して来た星野ユイ(花音)が声をかける。制止して呉れた格好のユイを、借金の形に自室で客を取らせる闇金(山科)が拉致。呆然と取り残された小手先が、異音とともに夜空に浮かんだオーロラ状の怪現象に洩らした、「星・・・・!?」といふ呟きで暗転してタイトル・イン。乳尻の欠片もないにせよ、三人分の顔見せを手短に片付けるのと並行して、星で広げ星で畳む何気に小洒落た綺麗なアバンには感心した。今回の国沢実は、一味違ふ、かも。
 敢然と本篇の火蓋を切るのは花音うららの裸、キモい常連客(野間)から激しく突かれるユイの嬌声に起こされた小手先は、のちの線香花火から入るダサい回想に於ける遣り取りを窺ふに、恐らく病死したものと思しき亡妻・アケミ(東凛のゼロ役目)を想起。上に乗つたシックスナインの体勢から、顔面騎乗する形に身を起こす東凛のオッパイが狂ほしい在りし日の夫婦生活を完遂した上で、壁―に貼つた模造紙―に描かれたアケミ(小滝正大画)の目が赤く発光。すると異次元人・マーヤ(東)が小手先の部屋に出現、逆にといふか何といふか、輪郭のみ残してアケミの絵は消失する。
 印税収入も幾分かは予想されなくもない小手先の、目下の稼業はスマイル警備のやる気の感じられないアルバイト。配役残り、佐々木浩久ピンク映画第二作第三作を経て三本目の正直で初の本隊作―前二本は嘘か、四本目は竹洞哲也―となる栄川乃亜は、食パンこそ咥へてゐないものの、所謂「遅れちやふー」的に走つて来てポケーッと突つ立つ小手先と激突する、パラノーマル系の事件を専門に担当する特殊捜査機関「奇怪事件捜査研究所」こと略称「奇捜研」の新人・カオリ。森羅万象は昼行燈の小手先を古典的にどやしつける、スマ警社員・亀頭、もとい多分鬼頭。逆ナンして来たマーヤに御馴染の物置部屋にて喰はれつつ、最終的な生死は不明。唯一人、後述するシリーズ全作皆勤の折笠慎也が、奇捜研のキャップに昇進、は別にしてゐない本郷達哉。会話の中にしか出て来ない、森崎真紀(桜木優希音)は欧州支部に長期出張中、よくある手法もしくは方便が清々しい。下着までは脱ぐ長谷川千紗は、アケミとの日々を描いた善哉ならぬ『夫婦白菜』(KASSY COMICS)をそれなりにヒットさせたらしい、小手先元先生の復帰を願ひ自宅にまで足を運んだ挙句、膳をも据ゑようとする編集者・マリコ。あと、微妙な関西弁が他愛ない、異次元王天啓の主が詰めきれない余白。両方で通算三回メスを入れた、ぽんこつの視覚デバイスに劣るとも勝らず、節穴な当サイトの耳には国沢実の声とは聞こえなかつた。ついでにその際、マーヤの異次元人としての正装が、今作に先行する矢張り国沢実のVシネ「アウトレイジ・凛」(2020)の衣装と同じなのは微笑ましい御愛嬌。
 2021年は沈黙を守つたか強ひられた国沢実の2020年第二作は、「性鬼人間第一号 ~発情回路~」(2016/主演:桜木優希音)、「性鬼人間第二号 ~イキナサイ~」(2018/主演:南梨央奈)に続く奇捜研シリーズ第三作。ペース的に、第四号が今年来る?漠然か漫然とした予想ないし願望は兎も角、復習がてら、第一号と第二号の感想に改めて目を通してみたところ。他とは一線を画す地力に裏打ちされた、エモーションの重さを誇る細川佳央や、ジャスティス級色男の山本宗介らと、量産型娯楽映画らしい数打ち尽す出演本数の多さで男優部エースの座を争ふ、今を時めく折笠慎也のピンク筆卸が「性鬼人間第一号」であつた。と、ころが。気がつくと折慎が、青森に帰郷してゐるのね。ツイ曰く都合が合へば上京仕事も吝かではない模様ながら、果たして今後の推移や如何に。
 森崎真紀不在の奇捜研が弱体化甚だしく、随時脊髄で折り返すか息を吐くやうに得物を抜くのはおろか、身を挺した一般市民にも平気で発砲する出鱈目なへべれけさはそれは抜けてゐるのは底か、それとも間か。本郷が大仰に説明台詞を打つのが関の山で、狂言回しにも心許ない始末。そもそも、第一号第二号は概ね人造人間的な趣であつた、“性鬼人間”が前例に囚はれるならば登場しない盛大な羊頭狗肉。確かにゴリゴリ男を狩るマーヤの性欲は、鬼のやうであるともいへ。元来主たるモチーフである筈の、怪しみも奇しも明確に全般的な演出のトーンから薄く、代つて前面に飛び込んで来るのは、妻と同時に創作意欲も喪つた、小手先の物語。一旦翼の折れた中年男が、再起に至る過程を、勢ひ余つて彼岸にオーバーランする物語。異次元人による侵略、即ち世界の終末すら望みかねない小手先を、マーヤがぞんざいに鼓舞。パワー系の北風を吹かせての、ユイに対する下心も込みで、マリコが目を丸くする成年コミック『夫婦キャベツ』(原題)を小手先が一旦完成させる展開は愚直なエール映画として普通にエモーショナルなのだが、今回の国沢実は、その先に突き抜ける。編集から目をかけて貰へるほどにつき、再起動した小手先のマンガ家人生には勝算が期待出来、なほかつ新しい伴侶も得ての満更でもないハッピーエンド。ハッピーエンドの、その先に。アケミ以下役立たず、もとい奇捜研が取り残される、木にアダマンチウムを接ぐ唐突さこそある意味最大のワンダーといへなくもない、小手先がいはば現し世を捨て、夜の夢に消えるラストは激越にエモーショナル。大星雲を背負ふ宇宙規模に豪快な締めの濡れ場も、堂々と大完遂、赫奕と超完遂。凄え、正直吃驚した。視覚的、あるいは表面的な画のチャチさなど、取るに足らない些末。イメージの強さ―だけ―で勝負する、嘲笑上等、捨て身のプリミティブな正面戦が見事にキマる。どうしたの国沢実、消える前の蝋燭かといふのは使ひ古された憎まれ口に過ぎず、要は、久々に脚本をプロが書いてゐるからにさうゐない。などとサクッと結論に達してしまつては、実も蓋もない、別に構はんけど。裸映画的にも縦横無尽に飛び回る主演女優と、限られた組み合はせの中で、懸命に手数を稼ぐ二番手に対し、栄川乃亜の濡れ場がコッテコテの夢オチによる一発勝負なのは、トラディショナルな三番手観に従ふならば寧ろ正解。無理矢理気味に野間清史から菊を散らされたルイが、小手先を訪ね後背位での塗布を乞ふ、ドリーミンなシークエンスには本気で感動した。長く深く、湿る通り越して凍りついてゐた国沢実が放つた、久方振りのスマッシュヒット。性鬼人間―今んとこ―最高傑作は第三号を、断じて推すものである。

 最後に、よく判らないのが単なるCG以外に、これといつたマズルフラッシュも弾着も、これといふほどでさへなくまるで見当たらないガンエフェクト。よもや、プロップ用意しただけとかいふまいな。


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 「団地妻 隣のあへぎ」(2001/製作:国映株式会社・新東宝映画株式会社/製作協力:Vシアター/配給:新東宝映画/監督:サトウトシキ/脚本:今岡信治/企画:朝倉大介/プロデューサー:衣川仲人・森田一人・増子恭一/協力プロデューサー:岩田治樹/音楽:山田勲生/撮影:広中康人/照明:高田賢/編集:金子尚樹/録音:西岡正已/助監督:堀禎一/監督助手:吉田修・管公平/撮影助手:橋本彩子/照明助手:山根怜・向谷内隼人/編集助手:坪田光恵/ネガ編集:松村由紀/録音助手:岩丸恒・永口靖/タイミング:安斎公一/タイトル:道川昭/ダンス指導:中澤源太/現像:東映化学/録音スタジオ:福島音響/制作応援:大西裕・坂本礼・菅沼隆・榎本敏郎・躰中洋蔵・永井卓爾・横井有紀/協力:竹内宏子、上田耕司、鏡早智、佐藤かおり、三和映材、東洋照明、不二技術研究所、フィルムクラスト、オオタ・ダンススクエア、池田一誠、北村育大、堤智彦、金子拓矢、秋庭修二、岡田大吾、中尾歩、松田洋和、伊藤一平、金晋弘、野本哲也、船木賢悟、青木勝紀、小暮今日子、杉浦昭嘉、斗桝佳之、今井こうすけ、三好保洋、土屋智子、海上操子、請盛博行、大塚みこ、渡辺国寿、熊谷睦子、松島政一、松本智大、鮎原啓一、田口良子、平井聖子、林真由美、山川多恵、田中信行、藤本祥和、武田克弘、淵上路菜、福俵満、小林康宏、中村恵、梶田満穂、邑、梶原誠司、増田庄吾、中谷千絵、西尾百合子、高橋孝之助、田村亥、田村郁子、田村七海、横田佳保里、上野俊哉、鎌田義孝、最上義昌、瀧野みち子、金森正/出演:伊藤猛・中川真緒・田尻裕司・佐々木ユメカ・斎藤つかさ・吉田修・成瀬しのぶ・川瀬陽太)。
 結構古い団地の室内をカメラが徘徊、中川真緒が横になつてゐる、お胸の膨らみがエモい。電車の音に、女は寝返りを打つて起動。煙草に火を点け、立ち上がり携帯灰皿を開けたタイミングで、隣の部屋から嬌声が洩れ聞こえて来る。一般的に、四階ごと忌み数を避けてゐるとも考へ難いゆゑ、二つ上の階?―後述する石井が五階とされる―の空き部屋に忍び込んでゐた三階の黒田幸子(中川)は、情事の気配に催したワンマンショーを手短に完遂。果てた幸子がこてんと再び横になりかけると、スーツの田尻裕司がずかずか上がり込んで来る。それはさうとこの団地、空室に鍵はかゝつてゐないのかよといふのは、それをいつては始まらない原初的なファンタジー。男は、もしくは男が当の空き部屋お隣の石井勝男(田尻)で、となると石井家で致してゐるのは勝男の妻と、その間男。正直軽く不気味な勝男と特異な状況、それ以前の身の危険に居た堪れず、その場を離脱した幸子がダッシュで家に戻ると夫の五郎(伊藤)が部屋着で缶ビールを飲んでゐた。腰に爆弾を抱へる五郎が、夫婦生活の求めを頑強に拒んでタイトル・イン。と、ころで。五郎といふか要は伊藤猛が、腰をいはした人間らしからぬ無造作なムーブを、ところどころで散見させるのは地味に目立つ俳優部の不用意か、演出部の詰めの甘さ。
 配役残り、佐々木ユメカが勝男の配偶者で、“お互ひ結婚しても好きなこと”をするといふのを最初からの方針、もしくは方便としてゐる光子。容姿も肢体もエッジの効いた、時代の流れに埋れた逸材といつて差し支へあるまい斎藤つかさは、酔つてへたり込む五郎に接触する、ホテル代とか無心しておきながら、薄汚いだ何だ説教すら垂れる面倒臭い宿無し。吉田修は車がエンコした五郎がやつとこさ辿り着いたスタンドの、まるで要領を得ない店員。あと膨大な協力部が幸子と勝男が遊びに行く居酒屋なりディスコ、その他往来やバスの車内等々にジャブジャブ投入される。問題が成瀬しのぶも兎も角、川瀬陽太が何処に見切れてゐたのだかマジのガチで皆目サッパリてんで判らない謎。音声情報で、くさめだけでもして呉れれば気づくやうに思へるのだが。阿呆みたいに混んだディスコの渦の中に、放り込むか紛れ込まされたりした日にはそれこそ正しく知らんがな、ウォーリーか。そ、れと。2022年のこの期に改めて耳にする、ブレイクビーツが悪い意味でヤバい。当時からクソだつただろといはれてしまへば、確かにさうかもね。
 直截にいふと何せ詰まらない分、長い道程だつた、直截にもほどがある。素のDMMで―R15の―バラ売り動画を視聴する、正調国映大戦第四十三戦は、漸くの思ひでサトウトシキ団地妻をひとまづ完走した、トータルでは多分五本目に当たる2001年第二作。五郎が―石井と遊んで―遅く帰宅した幸子に詰め寄り、無理から事に及ばうとしたところ、腰が起爆するシークエンスで何時か何処かで観てゐたのを思ひだした。あと矢張り戯れに革でキメた五郎が、てれんてれんラテンで踊り始めたはいゝものの、案の定腰が弾けかける件と。
 連れられたパチンコで勝つた幸子は、居酒屋・ディスコと店を重ねた石井と偶さか距離を近づける。満足に構ひもしない癖に、一日帰りの遅い妻に猜疑を募らせた五郎は、尾行してみた幸子が、石井と茶店にて歓談する光景にサクッと辿り着く。一方、実は一月前会社を馘になつたのを、石井は依然光子には隠してゐた。不実な絡みで見せ場に恵まれず、持ち腐れ的に駆け抜けて行く三番手と、そもそも姿形から発見出来ない川瀬陽太。さうすると要は主たる登場人物は四人きり、二組の心許ない夫婦の物語が、相変らず映画の最後は元鞘にとりあへず落ち着くばかり。一時的に脚本が小林政広から今岡信治に変つたとはいへ、全般的な印象としてはさして変らず、腹も立たないくらゐツッコミ処にさへ欠くのは不可思議な安定感。寧ろそこに、いはゆる作家性とやらを見出すべきなのかしら。スウェットでロングの空缶を林立させる、部屋飲みが凄まじく画になる伊藤猛と、五郎が幸子を石井家に連行しての、光子も交へた夜分の四者会談。居丈高な五郎にしをらしく頭(かうべ)を垂れる幸子と石井に対し、「人妻は男と会つちやいけないの?」。プリミティブなプロテストを敢然と撃ち抜き、収束しかけた状況を再度の混沌に叩き込む光子、即ち佐々木ユメカの如何にもらしい突破力、乃至エモーション。見所も決して見当たらなくはないにせよ、最終的にはミニマムに毛を生やした絞り込んだ布陣の中、精々荒木太郎のレプリカ程度に過ぎない田尻裕司の脆弱さは如何せん否み難い。元々幸子と五郎の馴初めと思しき、ダンスで一篇を畳むのはひとつの技巧ではあれ、実際に中川真緒と伊藤猛といふ組み合はせとなると、身長のつり合ひが取れてゐなかつたりするちぐはぐさがある種象徴的な一作。あるいはそのちぐはぐさも、リアルタイムでm@stervision大哥が仰せの通り、もしも仮に今岡信治が自ら撮つてゐたならば、案外狙つた不定形としてサマになつたのかも知れないけれど。

 とかいふ次第で全作のぞんざいな総括を試みると、三番手の扱ひが粗雑通り越して壮絶な「白昼の不倫」(1997)。長曽我部蓉子を愛でるには申し分ない反面、だから一欠片たりとて面白い訳ではない「尻まで濡らす」(1998)。前二作に劣るとも勝らない「不倫は蜜の味」(1999)に、後半劇的に失速する「不倫でラブラブ」(2000)。カザキョンキックに蹴り飛ばされた女池充が、文字通り宙に舞ふロングは見事な「団地の奥さん、同窓会に行く」(2004)。といつた辺りが、適当に括つてみた概評である。


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 「痴漢サギ師 まさぐる指先」(昭和62/製作:にっかつ撮影所/提供:にっかつ/監督:藤浦敦/脚本:池田正一/企画:作田貴志/撮影:水野尾信正/照明:内田勝成/録音:福島信雅/編集:井上治/装飾美術:山田好男/選曲:佐藤富士男/助監督:石田和彦/色彩計測:高橋聡/現像:IMAGICA/製作担当:渡辺康治/出演:高樹陽子・小川美那子・本田舞・小川真実・草見潤平・坂元貞美・真島尚志・稲葉年治・滝川昌良・小俣賢治・大谷一夫・野上正義・橘雪子・港雄一・河野基比古・桂文字助)。出演者中、小川真実がポスターには小川真美、提供に関しては事実上エクセス。
 女の口元に、男の指が触れる。ギューッと目を瞑つた女は、お乳首をこりこりされ鼻をヒクつかせる。OLの沙弥加(高樹)と会社社長御曹司、とはいへ女で勘当されてゐる佐久間(小俣)が、壁には葵の御紋なんてあしらはれた仰々しい連れ込みにて情を交す。事後、復縁し親の会社を継ぐ皮算用で女と手を切る方便の金を、沙弥加は佐久間に渡す。目的を果たした佐久間が、脊髄で折り返して気もそゞろな二回戦は手短に端折り、ビル群ロングにタイトル・イン。割と豪快にノータッチ、に映る無造作に黒々とした眉と、馬面の男顔。直截なところ面相の微妙な主演女優の、喘ぎ顔が結構酷くてアバンから軽く閉口させられる。この映画、果たして大丈夫かしらん。
 沙弥加のパイセン・シオリ(本田)が更衣室で大胆に下着まで脱ぎ、観音様にも香水を振る。めかし込んだシオリが大概無防備な屋上戦をキメるお相手が、よもやの先輩後輩で二股カマす佐久間、佐久間はシオリに対しても金を無心する。休日に佐久間を訪ねた沙弥加は、同じ所番地を目指して来たシオリと鉢合はせを裏返した背中合はせ。マンションの管理人(河野)から佐久間が十日で出て行つた旨聞いた沙弥加とシオリは、二人してまんまと金を騙し取られてゐた詐欺込みの棒姉妹を悟る。そんな訳でがどんな訳でか、沙弥加は会社に提出する長期休暇の届は手紙に同封してシオリに託し、改めて玉の輿捜しに海の綺麗な美しが丘を目指す、正確な表記は不明。といふのも実在する美しが丘(横浜市青葉区)が完全に内陸で、海なんてないのね。
 配役残り、藤浦敦が顔の効く落語界から連れて来た―映画評論家の河野基比古は友人とのこと―桂文字助は、ほてほて歩いてゐる沙弥加を、大慌ての風情で捕まへる多分運転手辺りの八木沢。野上正義が女の裸に蘇生する、死にかけてゐたらしい東南開発企業グループ社長・剛三、東南の字は当て寸法。砂浜に張られたテントに無断で入り込み、挙句寝てゐた沙弥加が、同様に侵入して来た目出し帽に犯されかける。因果応報に二三本陰毛を生やした、比較的底の抜けた一幕。その場に武力は伴はないが暴力介入する草見潤平が、テントの主・研一。港雄一はパニオン募集のチラシに沙弥加が喰ひつく、割烹旅館「うさぎ屋」か「うなぎ屋」の主人・金平、達筆の看板が絶妙に判読不能。坂元貞美と滝川昌良は判り易い画面(ゑづら)で密談を交す、東関?不動産社長の立花と経理の小沢。真島尚志は観光道路整備を巡り、立花らの片棒を担ぐ金平と反目する息子の洋介。小川美那子は、当人の意識としては立花の情婦・瀬利奈、BAR「プレジール」のママ、要は英語のプレジャー。立ち位置が地味に読めなかつた小川真実は、立花の秘書とされる園田マリ、小沢と男女の仲。沙弥加が適当に散策する、深い森の中。詰襟に犯されさうになつてゐる、和服の巨漢女を沙弥加が助けてみたところ。とりあへずクレジット順に大谷一夫と橘雪子は、極度のマザコン野郎・正彦と、倅の棹の世話までする爆乳通り越した爆体マダム・寿美子。沙弥加共々会社を馘になつた―良くも悪くも昭和のアバウトさ―シオリは、後輩を追ふ形で美しが丘に。稲葉年治はシオリがヒッチハイクする、観光大臣秘書とかいふ徳大寺。車を停め、対佐久間に続きシオリは生粋の野外好きなのか、背景一杯に海と空を背負ふ文字通りの青姦。何処となく湿度の低さを感じさせる、画面を染め抜く青々とした青が、今の時代では撮り得ぬ喪はれた色に映る。その他ノンクレで女子更衣室の画面奥に見切れるもう一人、とシオリが沙弥加の手紙を読む背後の屋上要員、までが東京班。美しが丘隊は沙弥加・ミーツ・金平の後方を通過する浴衣二人、にプレジールのバーテンダーとカウンター客各一名。沙弥加がシオリ宛の便りを認めてゐたところ、当のシオリが徳大寺の車から沙弥加を発見する、素敵なシークエンスに添へられるロードサイドのテラス要員の計十人強。
 近年明かされた、五十億を投じたにっかつ創立八十周年記念作品「落陽」(1992)に関する真実について、知らなかつたフリをした場合藤浦敦最終作。ゴッリゴリの生え抜き監督の割に、そこはかとなく買取味も感じさせる俳優部の面子ではある。今気づいたのが今年も一応百十年にはあたるものの、経営母体が転がり続けてゐる以上、もうこの期に周年もへつたくれもないのかな。
 全力打算の男漁りに明け暮れる、腰かけの尻が椅子に着いてさへゐないOL二人が、用地買収に揺れる海沿ひの町に入る。結局、そもそも沙弥加が仮称美しが丘を何故選んだのかは終に語られないまゝに、藤浦敦にしては海女は出て来ないけれど矢張り海はある。心許なさも否めないビリング頭を、小川美那子以下小川真実と、馴染の薄い名前―それもその筈、今作以外に活動の痕跡が見当たらない―ではあれ本田舞。抱き心地のよささうなオッパイを二枚並べた上での豪華四本柱、プラスワンの結構攻撃的な布陣で強靭にサポート。下手にカメラが引いてしまふと画が漫然とするきらひは所々なくもないにせよ、質的にも量的にも十全な濡れ場を釣瓶撃つ、誠実な裸映画といふ印象がひとまづ強い。反面、女の裸に割きに割いた僅かな残り滓、もとい残り尺で「うさぎ屋」と「うなぎ屋」の間を取つて「うたぎ屋」―さういふ問題か―を担保にした五千万の小切手を、金平が見事に籠絡されたマリに渡す。割と絶体絶命の危機を回避する返す刀で、沙弥加とシオリの財力的にも申し分ない配偶者をも見繕ふ。少々へべれけな展開であつたとて、力づくもしくは自重で無理から固定してのける。女優部御大格の橘雪子が誇る貫禄の地力を頼りに、勧めるほどの善もゐないが懲悪まで含め、全方位的な大団円に遮二無二雪崩れ込む終盤は正直性急どころかガッチャガチャ。どさくさ紛れのカットを滑り込ませ指から抜いたものを、更にどさくさ紛れのしかも背景にて本人が奪還する。藪蛇を極める、寿美子の指輪争奪戦なんてこの際気にするな。兎に角、物語たるもの正方向に完結しなくてはならない。量産型娯楽映画に込めた、鉄の信念が清々しい一作。その手の、肩に力の入つた代物では別になからう。それでゐて、定石の構成上、締めは再び高樹陽子に委ねざるを得ない締めの絡み。沙弥加が自らが絶頂に達するタイミングを見計ひ、現ナマ入りの久寿玉を割る素頓狂なラストは、最後の最後で木に竹を接ぐ御愛嬌。若年層の有象無象ぶりが何気に凄まじい、男優部の脆弱性も顕示的なアキレス腱。


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