真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 クリスマスさへ無策に通り過ぎ、2011年の晦日に至つてやつとこさ、2010年ピンク映画の私選ベスト・テンとワースト・スリー、ついでに裏ランキングである。オーピー新作が関門海峡を西に渡るのにほぼ一年を要することに加へ、ヘタレ管理人の経年劣化に伴なふ体力の低下と、日々の糧を食む為の雑業が先月以降忙しくなり専ら苛められてゐたことにも火に油を注がれ、これでもギリギリのタイミングである、鬼が泣くぞ。それはそれとして、例年最後最後といはれ続けながら、吉行由実と加藤義一、去年は二作も製作された薔薇族映画は当方ノンポリののんけにつき、初めから観戦候補には入つてゐないものとしても、加藤義一の「熟女訪問販売 和服みだら濡れ」(四月公開/主演:青山愛)を、先に来た小倉を回避したところが八幡には来なかつた、といふ大失態をやらかし観落としてしまつた、甚だ無念なり。ともあれ、御大小川欽也の監督50周年を二年後に控へた2012年。話はピンクに止まらず全く予断を許さない状況の中、ひとまづは目出度くピンク映画五十周年を迎へようとしてゐる。ひとつ忘れてはならないのは、ピンク五十周年といふことは、即ち元祖御大小林悟の遺作公開十年にも当たるといふ事実。こちらは純然たる余談ではあるが、エントリー本文中にても初めて公言する。質が伴なはぬならばせめて量、実は当サイトは、感想千本を目指してゐる。これは必ずしも広言ではない、既に九百五十本は一応通過した。周年祝ひに詰まらない線香花火にでもコッソリと火を点すべく、パンク寸前の腰に鞭打ちもう少し粘らんと試みるものである。

 そんなこんなでぼちぼち、10年(昭和換算:79-6年)ピンク映画ベスト・テン

 第一位「妖女伝説セイレーンXXX 魔性の悦楽」(新東宝/監督:芦塚慎太郎)
 狭義のピンク映画でないことならば千も承知、それならば広義には含まれるのかといふと、一応ピンクの番線の中に組み込まれ、津々浦々の小屋小屋も巡つてゐるやうなので、辛うじて認められ得るのではなからうか。兎も角、最終的に他作の中に、今作を凌駕する一本が存在しない以上仕方がない。セイレーン・シリーズとしての特色も活かした、壮絶なる純愛映画の大傑作。その内芦塚慎太郎か港岳彦が大成した暁には、世間はこの作品の美しさに手の平を返すに違ひない。
 第二位「いひなり未亡人 後ろ狂ひ」(オーピー/監督:渡邊元嗣)
 ナベが今年も強さを発揮、一見他愛なく見せて実にスマートな、さういふところも娯楽映画らしい娯楽映画。
 第三位「痴漢電車 とろける夢タッチ」(オーピー/監督:竹洞哲也)
 高密度の情報戦にも完勝してみせた痛快活劇、小生に楽器の嗜みと交友力とがあれば、アジアン・チカンフー・ジェネレーションを組むところだ。
 第四位「色恋沙汰貞子の冒険 私の愛した性具たちよ…」(Xces/脚本・監督、音楽も山内大輔)
 三年ぶりの山内大輔新作は、昨今のエクストリーム・エクセス路線唯一の結実。
 第五位「淫行 見てはいけない妻の痴態」(新東宝/脚本・監督:深町章)
 完璧な構成によつて編まれた他愛もない艶笑譚、深町章ここにあり。
 第六位「聖乱シスター もれちやふ淫水」(オーピー/監督:渡邊元嗣)
 師匠の第五位に続き、ナベシネマ・オブ・ナベシネマ。
 第七位「新婚OL いたづらな桃尻」(オーピー/監督:小川欽也)
 小川欽也×関根和美×久保新二、現代ピンクの完成形。と、いふのは冗談だが、人を小馬鹿にしたかのやうな棚牡丹式のラストは、グルッと一周してアナーキーですらある。
 第八位「性交エロ天使 たつぷりご奉仕」(オーピー/監督:竹洞哲也)
 大胆不敵なピンク版『さやうならドラゑもん』、潔いオリジナリティーの放棄が、素直に鉄板のダメ人間成長物語をモノにする。
 第九位「未亡人銭湯 おつぱいの時間ですよ!」(オーピー/監督:池島ゆたか)
 裸要員が箆棒に潤沢な、戦闘的ならぬ銭湯的な良品。
 第十位「美尻エクスタシー 白昼の穴快楽」(オーピー/脚本・監督:山邦紀)
 山邦紀縦横無尽、エモーションの大魚は釣り逃がしつつ、里見瑤子のラスト・シャウトが素晴らしい。

 順不同の次点は封切り順に、アクロバティックな構成が意欲的な「痴漢電車 夢指で尻めぐり」(オーピー/監督:加藤義一)・キュートなポートレート映画「喪失《妹》告白 恥ぢらひの震へ」(オーピー/監督・脚本:吉行由実)・愚直な真つ向勝負が胸を撃つ「肉体婚活 寝てみて味見」(オーピー/監督:森山茂雄)、等々。

 個別部門は手短に、音楽賞が「欲望の酒場 濡れ匂ふ色をんな」(オーピー/監督:池島ゆたか)に於いて、佐々木麻由子の超絶歌唱をプロデュースした桜井明弘。助演男優賞に、ベスト・テン第八位作で実写版ジャイアン像を完成させたサーモン鮭山。新人賞は、第一位「セイレーンXXX」中盤以降の猛加速を点火する、最強のダークホース・櫻井ゆうこ。帰還賞が、山内大輔を押さへて久保チンこと偉大なるポルノの帝王・久保新二。もうひとつ、新設のアクション賞に、吉沢明歩のスタント・ダブルを務めた「最後のラブドール 私、大人のオモチャ止めました。」(Xces/監督・共同脚本:友松直之)にて、正しく電光石火の後ろ回し蹴りを炸裂させる亜紗美。
 各作品云々以前に、誤魔化しやうのない衰へ様が正直痛々しかつた大名優・野上正義さんは、昨年末終に帰らぬ人となつてしまはれた。地方在住市井の一矮小ピンクスながら、依然健在ぶりを誇る新版畑でのかつての豊潤な御功績を、常々偲び続けるものであります。

 意外と候補には事欠かないものの、三本に止めるワーストは

 第一位「義父相姦 半熟乳むさぼる」(オーピー/監督・共同脚本・出演:荒木太郎)
 “映画の力”とやらを信じてゐないのは、他ならぬ荒木太郎ではないのか。
 第二位「超スケベ民宿 極楽ハメ三昧」(オーピー/監督:竹洞哲也)
 竹洞組テイストの自家中毒が頂点に達した―底か―度し難い木端微塵、竹洞哲也の荒木太郎化すら危惧される。
 第三位「新・監禁逃亡 美姉妹・服従の掟」(新東宝/監督・共同脚本:カワノゴウシ)
 何処からツッコめばいいものか途方に暮れかねない、兎にも角にも全てが貧しいネガティブな問題作。



 裏一位は衝撃のサブマリン・ピンクを措いて他になし、「後妻の情交 うづき泣く尻」(オーピー/脚本・監督:関根和美)
 深く静かに潜航せよ。
 裏二位は「人妻教師 レイプ揉みしごく」と、「強制人妻 肉欲の熟れた罠」(オーピー/制作・出演・脚本・監督:清水大敬/後者では音楽も)
 土壇場の瀬戸際といふ認識が、果たしてこの御仁にはあるのか。
 裏三位は謎の主演俳優の頓珍漢フォークが火を噴く、「色情痴女 密室の手ほどき」(オーピー/監督:浜野佐知)
 主役彼女の描き方にも、浜野佐知の直截には疎かぶりが窺へる。


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 「人妻旅行 しつとり乱れ貝」(2011/製作:ナベシネマ/提供:オーピー映画/監督:渡邊元嗣/脚本:山崎浩治/撮影:飯岡聖英/照明:小川満/編集:酒井正次/助監督:永井卓爾/監督助手:田山雅也/撮影助手:橋本彩子/照明助手:八木徹/編集助手:鷹野朋子/協賛:ウィズコレクション/出演:星優乃・山口真里・川瀬陽太・西岡秀記・しじみ)。
 今時の“山ガール”とやらか、小宮、もとい正確にはこの時点でも姫野凛(星)が、飛騨高山の山中を矢張り少々軽くはないかと心配な装備で歩く。尾根の縁に咲く竜胆に目を留めた凛は、顔を近づけ香を吸ひ込むや、意識を失ふ。記憶も失つた凛は、元々二泊三日宿泊予定であつたといふペンションで目覚める。倒れてゐた旅行者を担ぎ込んだ、管理人の西尾哲太(西岡)とその妻・類(しじみ)は、持ち物からその女が予約客の小宮凛であることを知つた。貴女は小宮凛ですよといはれたところで、所持してゐた携帯電話も手帳も運転免許証も見当たらず、凛にはその正否を確認する術はなかった。因みに、とかいふ次第で容易に予想されぬでもない、アイデンティティ系のサスペンスに振れることは、以降一切ない。記憶の障害は一時的なものに過ぎないかも知れないので、ひとまづその場の勢ひで凛は西尾のペンションに留まることに。その夜、自身のシャワー・シーンを噛ませた上で、西尾と類の夫婦風生活の気配を察した凛は、大胆不敵にもそのまま廊下での自慰に溺れる。性的興奮の昂りに連動して、凛の瞳に奥まで竜胆がドーンと叩き込まれる豪快なフラッシュバック。件の竜胆の咲く場所にて、軽い高山病で卒倒した凛は、川瀬陽太に助け起こされるヴィジョンを見る。それが、凛と夫・小宮竜馬との出会ひであつた。翌日、そのことを凛から耳にした、これは西尾も知らぬことではあつたが、大学時代は医学を専攻したと称する類は箆棒な方便を繰り出す。何とかといふそれらしき、ややこしい名前の脳内物質の分泌を利用した、失はれた記憶を性的刺激で活性化させるなどといふ治療法が存在するとのこと。抜けかけた映画の底に関してはここは兎も角、西尾も類も、それぞれ絶妙に微妙な雰囲気を漂はせる中、更なる記憶の回復を求め散策に出た、凛は目出し帽を被つた怪人物に強姦される。ここで飛び込んで来る山口真里は、その際に矢張り凛が幻視する、これ見よがしに色恋方面に怪しげな様子で竜馬に寄り添ふ女医・宇野舞子。
 星優乃の前作にして、量産型娯楽映画肩肘張らない大傑作「いひなり未亡人 後ろ狂ひ」(2010)には、出来の面では大きく及ばないものの、ある意味その分、一撃必殺の覚悟が火を噴く猛烈な感動作。所々での、如何にも含みを持たせた類の表情を入念に積み重ねた末に、しじみ(ex.持田さつき)の決定力も借りた、胸に染み入る空想的な真相が開陳されるクライマックス。流石に些かならず無造作な便法に過ぎる、三番手山口真里の裸の放り込み様を筆頭に、始終を通してバラ撒かれ続ける“計画”自体の徒な回りくどさ等々、釈然としないツッコミ処は山と散見されよう。ただ然し、だが然し。然様な体裁なんぞ、全て全く以て取るに足らない瑣末。これまでは強い推測であつたものが、今回確信に近いものへと変つた。渡邊元嗣は、間違ひなく映画のエモーションを信じてゐる。欠片の疑念もなく信じてゐる、信じられるからこそ、再来年にはデビュー三十周年を控へた今なほ、仮に形振りは捨ててでも渾身のエモーションを撃ち抜き得る。それが渡邊元嗣の、ナベシネマの強さにさうゐない。当然予想されるパラドックスを、“未来を作るのは神様ぢやない”の一言で豪快に捻じ伏せてみせる能動的なオプティミズムも、先の甚だ暗い昨今―今作の封切りは一週間後の三月十八日―にあつて、らしくもないことをいふやうだが結果的には有効である筈だ。見せ方の感動的にスマートな、何気ないラスト・カットが、完璧な強度で女の裸の潤沢なジュブナイルを心安らかに、そして豊かに締め括る。作劇上そこかしこで顕著な粗の数々はこの際清々しくさて措き、深く穏やかな余韻に心を浸すべき一作。もう少しどころではなく、時代はナベに追ひ着くべきではないかといふ意を強くする。
 デビュー当時が、即ち渡邊元嗣の全盛期であるとする声も根強い。個人的には仕方もないこととはいへ、その頃の渡邊元嗣作に触れることは限りなく一切に近い殆ど、少なくとも未だ叶はず、それ故一旦さういふ評価に対する小生の判断は留保するほかない。確かに、前世紀末ないしは今世紀初頭に、渡邊元嗣が概ねマッタリしてゐた時期のあつたことならば、リアルタイムで通過した身として否定せぬではない。とはいへ、ダイレクトに限定すると2006年以降の渡邊元嗣の充実ぶりには、否定し難いものもあるまいか。改めていふが、目下ピンク映画ほぼ最後の牙城たるオーピー映画のエース格は、加藤義一や竹洞哲也では依然まだまだなく、小川欽也はある意味といふか別の意味で別格として、当たり外れの派手な池島ゆたかでも、相変らずな国沢実でもない。三上紗恵子との心中路線からは回復傾向も幾分見られなくはない荒木太郎や、2010年は長打に欠いた友松直之、女闘将・浜野佐知の一般映画への軸足の移動と同時に、作品数から減少させる旦々舎勢も矢張り違ふ。渡邊元嗣をオーピー・エースと目する認識を、そろそろ我々は持つべきではなからうか。
 ・・・・あれ、おい

 関根和美の名前は?


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 「したくて、したくて、たまらない、女。」(1995/制作:RELAX/配給:新東宝映画/監督・脚本:沖島勲/企画:後藤功一・春名謙一/プロデューサー:渡辺護・生駒隆始/撮影:芦澤明子/助手:高橋義仁・伊東伸久/照明:牛場賢二/助手:平良昌歳・北村忠行/編集:神谷信武/助手:中川毅彦・近藤アヤ/ネガ編集:大橋まさみ/助手:浜田朝恵/音楽:石山理/録音:中村幸雄/効果:岩橋哲夫/監督補:桜田繁/演出助手:高橋巖・藤川佳三/メイク:熊勝子/ロケコーディネイト:柴田哲孝/車輌:佐藤元一 ロケサービスさとう・木下信/タイミング:平井正雄 東映化学/リーレコ:木下恵次 港リレコ・センター/製作管理:田中岩夫/スチール:伊崎孝夫/愛光、東映化学、シネ・キャビン/協力:インターフレンド、夢工房、今井事務所、松川信事務所・コモアート・コーポレーション、富士企画 新社、オフィス・ダイニチ/協力:藤本四郎・斎藤春雄・中堀正夫・横銭政幸・太田映徹・花寿司・シネオカメラ・フリーポート企画・京映アーツ/ロケ協力:加仁湯・きぬ姫/出演:城野みさ・倉田昇一・葉月螢・小川美那子・皆川衆・江川加絵・松川信・志水季里子・黒沢清・中原丈雄《友情出演》・室田日出男)。
 奥鬼怒の温泉旅館「加仁湯」、一日の仕事を終へた仲居のミキ(小川)とふみ(江川)が、脱衣所をゴシゴシ掃除する番頭の喜六(室田)を尻目に露天風呂に浸かる。深い時間に自分達だけかと油断してゐた二人は、一人で湯を愉しむ城野みさの謎めいた美しさに目を奪はれる。と、いふのは物語上の方便で、正直なところ城野みさの戦闘力は小川美那子を完全に圧倒するほどのものでは決してない反面、スローモーションも臆面なく駆使し精一杯勿体つける撮影は、たほやかに微笑ましい。一方、亡夫(遺影すら登場せず)から加仁湯を継いだ女将(志水)の一人息子で、東京の大学でバイオ―といふ用語には、そこはかとない時代性も感じられる―を学ぶ一人息子・洋一(倉田)が帰省する。洋一は郷里に残して来た小学校教諭―となると、余程浪人を拗らせたか年上女と付き合つてゐるのでなければ、洋一は院生か?―の恋人・房子(葉月)と再会、絡みの回数を重ねがてら、田舎を出て行くことを素直に望みはする房子に対し、洋一は奥鬼怒に帰つて来ることを考へぬでもなかつた。繰り返し出没する城野みさに、加仁湯の一同―江川加絵に続き志水季里子も湯には入るが、乳尻はお披露目しない―が徐々に翻弄される中、互ひに相手に関して口は割らずじまひのまゝ、突如家に現れた城野みさに、喜六とミキの亭主・昌三(皆川)が次々と喰はれる事件が発生する。男が目覚めた時城野みさの姿は既になく、一戦交へた事後の布団は、何故か何れもビショビショに濡れてゐた。
 松川信は、濡れた布団を抱へ歩く喜六が道すがら出会ふ加仁湯の料理人、藪から棒であると同時に映画的ではある大笑要員。最終盤出し抜けに加仁湯を訪れる、今と然程変らない黒沢清は、往年の映画女優・杉田ひかるの取材を進めるルポライター・太田、名刺に見られる下の名前までは捕捉し損ねた。クレジットには名前の載らない出演者残り、一日中篭つた藤の間(富士あるいは平仮名で“ふじ”かも)で人並外れた回数の性交に励み、ミキらを呆れさせる談志風の男は不明。裸の背を見せ床の中に横たはりぱなしの女は、多分葉月螢のダブル・キャスト。
 何と約千四百本書いたといふ、「まんが日本昔ばなし」メインライターとしても名高い寡作の映画作家・沖島勲の監督第四作にして、「モダン夫婦生活讀本」(昭和45/若松プロ/当然のやうに未見)以来実に二十五年ぶりとなるピンク三作目は、当時新東宝が一般劇場で初めてレイト公開した話題作。さうはいへ、人の名前で映画を観る、シネフィル臭い悪弊を幸か不幸か覚えておかなければならない諸々と一緒くたに忘れた、現代ピンクスの目の名に値しない節穴からは、筆の根も乾かぬことをいふやうだが、明らかに残りのキャストとは佇まひの分厚さで格の違ひを見せつける室田日出男がそこにゐる場違ひ以外には、殊更にギャースカギャースカ騒いでみせる点も別段見当たらない。端的には、神秘的な湯煙美人にほどよく揺れた温泉宿に、予め殆ど全てを知る黒沢清が飛び込んで来ては、先に帰省してゐた女将の一人息子とアッサリ事の真相に辿り着く、いふならば唐突な一作である。濡れ場のボリューム込みで中盤のほぼ半分を支配する、将来に戸惑ふ洋一のサブ・プロットにも、オーラスに於いて無理矢理噛ませられる天からの声のほかには、加仁湯の面々を虜にする城野みさの幻想性は殆ど影響を及ぼさない。作劇的には直截にいへば何ちやない、拡げた風呂敷の畳み処が性急な印象が最も強い。加へて、夜間の露天風呂を舞台とした撮影に際しては、平素通常のピンク映画とは歴然と扱ひの異ならう普請の潤沢さが窺へる反面、そこかしこで濫用される闇雲なフラッシュバックは、1995年時点で既に古臭かつたのではないかとチャーミングで、何よりも現在時制の杉田ひかる正面の姿を、漫☆画太郎先生ばりのイラストで片づけてみせたブレイブには、野郎仕出かしやがつたと度肝を抜かれた。そもそも、新東宝が世間一般に討つて出ようといふ段に、もつと看板を守つて来たタレントは幾らもゐたであらうにも関らず、何でまたわざわざ沖島勲を連れて来たのかといつた点まで含め、世間的によくある釈然としなさが濃厚に漂ふところではある。

 止め画でのみ登場する友情出演の中原丈雄は、若かりし頃、杉田ひかるが加仁湯で逢瀬を重ねた同業者・安田健治。


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 「好きもの女房 ハメ狂ひ」(1997/製作:旦々舎/配給:新東宝映画/監督:浜野佐知/脚本:山邦紀/企画:福俵満/撮影:小山田勝治・新井毅/照明:秋山和夫・稲垣従道/音楽:中空龍/助監督:松岡誠/制作:鈴木静夫/出演:細川しのぶ・青木こずえ・吉行由実・平賀勘一・杉本まこと・真央はじめ・竹本泰史)。
 朝の山田家、無作法にも新聞を読み読み朝食を摂るサラリーマンの夫・隆(竹本)に、専業主婦の比菜子は出し抜け極まりなく離婚を切り出す。仕事仕事にかまけ比菜子のことを疎かにしてゐたのが不味かつたのかなと、余程時間に余裕を持たしてあるのか、隆は朝つぱらからコッテリとした夫婦の夜の営みで応へるが、比菜子の文字通り藪から棒な真意は性的な側面にあるものではなく、一日中家に居る生活が物足りないだの云々と、身勝手で贅沢なものであつた。出ないで済むなら、俺は小屋に出撃する以外は世間になんて出ねえよ。隆の帰りはどうせ遅いと見越した比菜子は、今回は杉本まことが客ではなくカウンターの中に入るバー「扇」へと遊びに行く。本人にも掴み処のない不満を杉本バーテンダーに零す比菜子に、画面向かつて逆L字型のカウンター奥に座る青木こずえ―後に一度だけ“リエ”と呼称されたやうな気もするが、自信は殆どない―は興味を持つ。安定感が素晴らしい杉本まこととの絡みを経て、青木こずえは“冒険に飛び出したさうだつたから”と、比菜子の紹介を求める。
 真央はじめは、隆に家庭内別居を一方的に宣告した比菜子が連絡を取り再会する、高校時代写真部の先輩で現在はフリーのカメラマン・島元気。軽くスナップでも撮られがてら、気軽に一戦交へる。島が以降に再登場することはなく、勿体つけた写真家属性まで含めて、清々しく唐突な濡れ場要員ではある。劇中二度目に「扇」に赴いた比菜子に、青木こずえが接触する。どうも本物に見える聖水で百合の花を咲かせる一幕を挿んで、青木こずえは比菜子に、SEXの達人にして別名“スワップ界の御意見番”だとかいふ、箆棒な肩書でその筋では称へられる元川夫妻を引き合はせる。さういふ話におとなしく乗る隆も隆だと思へなくもないが、兎も角元川家に出向いた山田夫妻を迎へたのは、平賀勘一と吉行由実。位置的には中盤ながら、出て来たのは完全にボスキャラだ。
 旦々舎不発、薔薇族込みで三月中旬封切りにして浜野佐知1997年早くも第四作は、消極的な、より直截には悪い意味での女優映画。画期的に胡散臭い看板を抜群の説得力を誇る面子の魅力で定着させる、平賀勘一と吉行由実が熟練した変態夫婦として、あたかも覚束ない若夫婦を喰らはんばかりに―実際喰ふのだが―華麗な参戦を果たすまでは、それでも細川しのぶのまるで内実を感じさせない空疎を、辛うじて御し得てゐたやうにも映つたものの。同時相互動画配信を例によつて駆使する夫婦交換を経て、正体不明な空白感に振り回され続けた挙句に、逆に隆の方から比菜子に愛想を尽かし家を出て行く。正しく自業自得といふ言葉以外には半言たりとも見当たらない状況の中、一旦はションボリしてみせたかに見えた比菜子は、さりとて腹は減るといふので、ビフテキを主菜とする豪勢な食事を一人きりではあれどペロリと平らげる。入念に捉へられる、結構な細川しのぶの食ひつぷりには、小賢しい精神性を凌駕する即物的であるが故になほさら力強い生命力をも、確かに感じられぬではなかつた。とはいへ、截然と筆を滑らせるが結局フィニッシュが、開き直りすらするでもない比菜子が雪崩れ込む、青木こずえ(a.k.a.村上ゆう)と杉本まこと(a.k.a.なかみつせいじ)との3Pでテローンと振り逃げるだなどといふ始末では、底も抜けつぱなしの始終がてんで畳まれない。中盤、苛立ち紛れに隆が封建的な家父長観を振り回し始めた際にはテーマの深化も期待させた反面、最終的には醸成することを途中で放棄したかのやうな物語に加へ、兎にも角にも肉付きとは対照的な、細川しのぶの薄さと軽さが致命的。本当にこれでは、俄に遊び狂ひ始めたダメ妻が、終に匙を投げた夫―しかも仕事に追はれる様子の他には、隆にこれといつた問題は窺へない―から捨てられる、単に水が高いところから低いところに向かつて流れるが如き全く当たり前でしかないお話に過ぎまい。いはゆる“よくある話”でさへなければ、流石に満足な劇映画にはなり難い。挙句に腹立たしさを頓珍漢に加速するのが、比菜子の孤独な晩餐からオーラスの巴戦までの間に、何故か何時の間にか細川しのぶがこんがりといい感じに小麦色の肌になつてゐやがるイリュージョン、何撮影の途中で日サロに行つてんだよ!展開上の要請も存在しないところで、とんでもないフリーダムさだ、これは決して肯定的な意味合ひでいつてゐる訳ではない。そもそもピンク映画といふと、三日間をかつかつに使ひきり撮り上げるのが相場かとも認識するものではあるが、今作は一体どういふスケジュールで事に当たつてゐたものなのであらうか?おまけに、ヒロイン突然の日焼けなる映画的にもそこそこの大事件に関する、エクスキューズも一切行はれない辺りが実に象徴的な、端的には自堕落な一作である。


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 「ザ・不倫ホテル ‐中出し熟妻‐」(2003『熟女たちのラブホテル 玉いぢり』の2011年旧作改題版/製作:サカエ企画/提供:Xces Film/監督:新田栄/脚本:岡輝男/企画:稲山悌二《Xces Film》/撮影:千葉幸男/照明:小川満/編集:酒井正次/助監督:小川隆史/音楽:レインボーサウンド/監督助手:北村隆/撮影助手:池宮直弘/効果:梅沢身知子/製作進行:阿佐ヶ谷兄弟舎/出演:夏木志保・しのざきさとみ・佐々木基子・なかみつせいじ・岡田智宏・高橋剛・丘尚輝)。
 山の手―描写は特にはないのだが―暮らしの主婦・木村晴子(夏木)は、夫の昭男(なかみつ)がリストラされた為、緊急出撃で初めてのパート勤めに。知つた人と会はないやうにと晴子が選んだのは、大胆にもラブホテル「LUNA PARK」。舞台設定込み込みで一足はおろか三足ばかりカッ飛ばした方便が、ピンク映画的で実に清々しい。「LUNA PARK」支配人・野沢英介(丘)も、勤務内容はといへば清掃が主だといふことで、当然未経験の晴子を気軽に採用する。「406、406・・・・」と後始末すべき部屋のナンバーをたどたどしく暗誦しておいて、大絶賛事の最中の405号室に文字通り闖入してみせる一応ポップな小ネタを挿みつつ、慣れない仕事にも晴子はひとまづ奮闘する。そんなある日、下手な親子ほどにも歳の離れた、関口凪子(しのざき)と山田公一(高橋)のカップルに、晴子は目を丸くする。事務所にて、凪子らにルームサービスで届けた極太その他のバイブを拭き清める晴子の手先から、欲求不満の気配を察知した野沢が蛮勇の斜め上を迸らせその場で手をつける一幕も、ここはデフォルトの勢ひで設けられる。野沢が晴子ににじり寄りながら、カーテンを後ろ手でシャッと閉める動作の高床式ばりな底の浅さは絶品。底の抜けたシークエンスに突入するに際して、それでもそれなりの不自然な自然さは、ある意味新田栄ならではといへばならではではある。
 佐々木基子は、晴子が片付け中の部屋に入室する形で、終に鉢合はせてしまつた御近所の神保千加子、商社社長夫人である。岡田智宏は神保商事(仮称)社員、同時に千加子間男の川井秀樹。慌てて退室しようとする晴子を、千加子は引き止める。二人は、見られてゐないと燃えないマニアさんであつた。
 開巻即座に詰んだ映画を、最後に改めて詰み直してみせる、悪い意味で律儀な一作。瞬殺のチェック・メイトを別の意味で華麗に叩き込むのは、いふまでもなくこの場合エクセスライクな主演女優。夏木志保の、シベリア鉄道よりも真直ぐな棒読みには、グルッと一周した上で明後日に振れた感興を覚えぬでも、この際病膏肓に入るに至つてはなくもないが、その時点では未だ妻に打ち明けられずにゐた―翌朝白状する―失業による失意から、未遂に終る冒頭最初の濡れ場の夫婦生活。直截に筆を憚らぬが、逆の意味で見事に萎んだ夏木志保の乳には愚息も力なく萎えるどころでは済まなかつた。なかみつせいじが引張ると、乳輪から先が妙によく伸びる伸びる。そんなギミックを見せられたとて欠片も嬉しくない、ゴムゴムの実でも食つたのか。一言で片付けるならば、何処から連れて来たんだよこんなババア(#゜Д゜)、といふ寸法である。木戸銭を落として観に来た商業映画にも関らず、エクセスのこの非道な仕打ち。いつそ枯れ果てよ、我が涙。ところでよく判らないのが、夏木志保に関してグーグル先生に尋ねてみたところ、夏木志保がイコール愛川京香とする記述がチラホラ出て来た。ところが、愛川京香とはいへども今作の愛川京香と、荒木太郎の「妻のいとこ 情炎に流されて」(2006/主演:平沢里菜子)に於いて三番手を担ふ、a.k.a.紅蘭の愛川京香とはレッドな別人。これは何か?愛川京香名義で活動する人物が、二人以上存在するといふことなのであらうか。閑話休題、果敢に気を取り直しその後の展開に喰らひつくと、佐々木基子初登場時に読める落とし処の、娯楽映画らしい論理性は本来ならば磐石、であつたものなのに。返す刀で凪子と山田の平素の姿をスマートに織り込む手際にも、実は実直な新田栄の地力がさりげなくも鮮やかに看て取れる。で、あるにも関らず、そのまま素直に畳めばいいものを、確かに尺を大きく余らせた気配も窺へるとはいへ、更に以降の夏木志保が男優三冠を余計に達成する、対岡田智宏戦は万里の長城並みに長大な蛇足感を不完全無欠に爆裂させる。序盤に伏線も敷設済みであることが逆に火に油を注ぐ、晴子未経験の潮噴きを回収する一手間も設けられるものの、斯様な惨劇紛ひに端から意味なんぞないことなどこの期に論を俟つまい。直前に置かれた完遂される木村夫婦の営みで、始終は全く問題なく綺麗に纏まつてゐた筈だ。


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 「愛人OLゑぐり折檻」(2011/制作:《有》大敬オフィス/提供:オーピー映画/制作・出演・音楽・脚本・監督:清水大敬/撮影:井上明夫/照明:小川満/美術:花椿桜子/音楽:サウンド・チィーバー/編集:酒井正次/助監督:作石敏幸/撮影助手:河戸浩一郎/照明助手:八木徹/演出助手:高橋緒出樹/スチール:山岡達也/協力:劇団ザ・スラップスティック、他/出演:藤崎クロエ・艶堂しほり《特別出演》・倖田李梨・大黒恵・羽田勝博・なかみつせいじ・山科薫・柳東史、他)。出演者中、大黒恵その他は本篇クレジットのみ。
 朝の(株)山口商事、後のカットを見るに受付も兼務すると思しき警備員の石山(羽田)が、無造作にゾロゾロする頭数もぼちぼちな社員要員を一礼で迎へる。一群に続き出社した、部長の鮫島(なかみつ)は邪険も通り越し露骨な敵意を石山に剥き出しにし、更に続けて現れた金山弘美(藤崎)は、食生活をコンビニに支配された石山の為に、わざわざ作つて来て呉れた野菜サラダを手渡す。昼間のあれこれを経ての仕事終り、鮫島は元々愛人を囲ふ為に用意した借家である弘美宅に、退院した病母(大黒)が居るといふにも関らず構はず上がり込むや、聞こえよがしに弘美を犯す。無体極まりない所業ではあるが、しかもどちらかといふと憂へた表情がより魅力的であるやうにも思へる、藤崎クロエの超絶ボディが恣に蹂躙される一幕には、品性下劣な下衆ピンクスとしては魂の底の方をそれでも揺さぶられずにはをれない。忘れずにデス後は地獄に堕ちるんだぞ、俺。出し抜けに得意のダンスをメキメキ披露する倖田李梨が、先刻までとは様相を一変させ恐々帰宅した鮫島を待ち構へる。既に故人である、山口商事創業者の前社長(不明)の娘・恵子(倖田)は又しても初登場時が排卵日で、婿が弘美と一戦交へた直後だとは当然露知らず、子作り機運全開の夫婦生活を食事も風呂もさて措き敢行する。ところで、一篇丸々観終へた後に気付いたことだが、如何にも悪役らしい名前をつけたかつた気持ちは判らぬでもないが、入り婿である以上、普通に考へれば劇中なかみつせいじは山口姓ではないのか。清水大敬に対して、そもそも普通を求めるのがお門違ひ、といふ気もしないではないが。話を戻して、関係の終局と退職を再々切望する弘美に、激昂した鮫島が社内で暴力を働いた現場に、石山が割つて入る。弾みで派手に突き飛ばされた鮫島が、それ見たことかと我が意を得かけたところに、黄門様よろしく恵子登場。これは弘美は知らない因縁であつたが、資金繰りに窮した恵子父の前社長は手形詐欺に引つかかり、舎弟(こちらも不明)を連れたヤクザの沢木(柳)が山口商事に乗り込んで来る。その場に居合はせた当時沢木からは兄貴分の石山は、任侠道に反した沢木の遣り口を頑として肯ぜず、揉み合ひとなり突き飛ばした舎弟を死なせてしまふ。結果騒動は収まつたものの、石山は十年の臭い飯を喰ふ。服役後、いはば恩人の石山は警備員といふ形で山口商事に迎へ入れられたものであつた。浮気が発覚した鮫島は恵子に放逐され、目出度し目出度しと一旦相成つたのも束の間。正しく逆恨みの治まらぬ鮫島は、今や一家を構へる沢木に接触する。沢木は山口商事前社長の秘書で、かつて石山とも淡い恋愛関係にあつた美樹(艶堂)を、薬漬けにした上で性奴隷として虐げてゐた。かうして改めて振り返つてみると、起承転結の転部までの構成は、実は案外順当であるのかも知れない。
 主要出演者中残り、清々しく木に竹を接ぐ配役の山科薫は、一応次期社長最右翼であつた鮫島不在の山口商事に、名目上は専務の恵子から招かれる、に止まらない経営コンサルタント・吉川正博。
 珠瑠美の新版公開以外では初めて観た、jmdbのデータによれば「制服凌辱 狙はれた巨乳」(1998/脚本・監督:清水大敬/未見)以来となるらしい、羽田勝博十三年ぶりの銀幕復帰作。だからといふ訳があるのか別にないのか、寡黙な硬骨漢といふ役柄ともいへ、流石に少々硬い。序に、男主役でありながら、山科薫ですら与る絡みの恩恵にも、何故だか終に無縁。物語的にはひとまづ、鶴田浩二かはたまた高倉健か、不器用な―のと同時に戦闘スペックは高い―義侠の徒が、仁義を欠いた腐れ外道相手に積もり積もらせた怒りを爆発させる、仁侠映画最定番のフォーマット通りのものではある。下手に自分で一から十まで考へようとはしてゐないだけに、新味なり工夫の半欠片も見当たらない罪は否定し難いともいへ、その分致命的に仕出かすことを回避し得た逆説的もしくは消極的な功の方が、清水大敬の場合には上回るといふ甘目の評価が妥当なのではなからうか。加へて、隈なく頓着無い一部始終の中、純然たる繋ぎのカットを除けば、全篇無茶振り倒す演出匙加減のてんでへべれけ具合が、グルッと一周して逆に面白い。宇宙規模でよくいへば、ギターウルフのスーパーライト的な味はひがある、かな?清水大敬の、直截には出鱈目にも柔軟にあるいは従順に対処可能ななかみつせいじと柳東史の過剰演技は、元々明後日の映画を、明後日のままでもなほかつ加速する。殊に、感動的にカッコよく且つ間の抜けた沢木の死に際は絶品。「性交エロ天使 たつぷりご奉仕」、「スケベな住人 昼も夜も発情中」(共に2010/監督:竹洞哲也/脚本:小松公典・山口大輔)に続き三作目のピンク映画出演、兼主演作となる藤崎クロエとしても、桃色方面に於いては三度目の正直。観客の腰から下を撃ち抜く、即物的な煽情性には決して長けぬ竹洞哲也と比して、今回はより直截なAV畑でも名を馳せた清水大敬。男達の獣欲に藤崎クロエの豊満な肉体が乱暴に汚される邪なエクストリームは、ひとまづフルスイングで堪能させて呉れる。そんな中でも、見苦しく肥えた沢木組構成員(だから不明)も伴なひ、回想込みで劇中三度目の鮫島による弘美陵辱に際しては、しやぶれと吠えた直後に二穴責めしてゐたりなんかする。顔射宣告から二、三度腰を振ると中に出すやうなシークエンスを平然と撮つてみせる、清水大敬ならではのフリーダムが苛烈な濡れ場の最中相変らず垣間見えるのは、この期には一雫のチャーミングだ。最終的に弘美が結ばれ幸せを掴むお相手に、文字通り親子ほど歳の離れた清水大敬がのうのうと大将自ら出陣する―但し、夜の山口商事で石山を昏倒させる沢木手下も、多分清水大敬の二役―自堕落さは土台呑み込める筋合のものにはなく、余程清水大敬的には大切にしてゐるテーマなのか、わざわざ字幕にしてまで提出される、「生きてさへゐればいつかは、きつといい事がある・・・」(原文は珍かな)だなどといふ凡そ喰へない以前に、根本的に過てる―要点だけを述べると、何にもいい事なんてありはしない者の為にこそ、映画は作られるべきではないのか―メッセージに関しては、断じて固く絶対にこの甚だ安き命ある限り、到底首を縦には振れぬ。とか何とか野暮を強張つて言ひ募る割には、間違つても出来自体大したことはないどころでは済まぬ筈なのに、何となく妙に楽しめてみたりもする。不思議な一作である、といふよりは、矢張り単に小生が何処までも疲れ果ててゐるだけなのかも知れない。


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 「ダブルEカップ 完熟」(昭和63/企画・製作:《株》旦々舎/配給:新東宝映画/監督:浜野佐知/原案:小多魔若史/脚本:山崎邦紀/撮影:稲吉雅志/照明:出雲静二/音楽:東上千/編集:金子編集室/助監督:鬼頭理三・小笠原直樹/録音:銀座サウンド/現像:東映化工/出演:速水舞・河合奈保・相原久美・秋本ちえみ・平賀勘一・小多魔若史・山崎邦紀・池島ゆたか)。ポスターには、更に出演者として鈴木静夫の名前が並ぶ。
 公園池の揺れる水面を噛ませて、「華道家元亀甲流」の稽古風景。弟子は左から、家元の妻でもある由紀(速水)、OLの悠木(結城かも)真知(河合)に、女子大生の美亜子(相原)。三人と正対した亀甲玄介(池島)がああだかうだと講釈を垂れる向かつて右手袖では、剃り上げた頭に大きなサングラスを不遜にかました高弟の山崎邦紀が、神妙に控へつつ右手で作つた指の輪に左人差し指をズボズボ挿入する。一方、和服の秋本ちえみがさりげなく脇を通り過ぎる、稽古場からは少し距離を置いたベンチにて。玄介を上得意とし亀甲流に出入りする自動車ディーラーの平賀勘一が、自身の痴漢体験をエロマンガにする小多魔若史(ヒムセルフ)に、痴漢希望の女を紹介するといふ話を持ちかける。半信半疑の小多魔若史の、マンガに出て来るコソ泥風のイイ風貌と、分を弁へた日陰の曲者ぶりが堪らない。次回からは上級者コースに入ることを告げられた真知が美亜子と先に捌けると、玄介は由紀が自ら開いた着物の裾より股間に手を差し入れる。貞操帯にも似た革製の下着の下では、由紀の観音様に、菊が挿してあつた。香と触感には変化が看て取れるも、色合までには至らない菊を、玄介はムシャムシャと食する。平賀勘一との密談を経た小多魔若史が美亜子と接触、痴漢といふよりは端的な青姦に戯れるものの、最終的には綺麗に生殺される。小多魔若史が生殺されたところで、場面変ると前半最大の豪腕パンチが炸裂。一転照明も劇伴も箍を外した中ボンデージ・ルックの由紀が、ガンガン踊り倒すディスコ・ショット!瑣末な体裁なんぞケロリと等閑視、迷ひなく振り抜けるサービス精神は、娯楽映画の生命力溢れる強さに違ひない。シークエンス自体の底の抜け具合に比して、速水舞の表情の乏しさが、何ともいへないストレンジさを加速し、同時に未だ弾力を失はぬことが窺へる、Eカップのオッパイは二十余年の時も越え全く眼福眼福。美亜子と二股かけられてゐることはひとまづ了解済みの、真知と平賀勘一の絡みを挿んで、改めて素性も名前も不明の秋本ちえみイン。由紀とのまるで禅問答のやうな遣り取りを絡めて、和服女二人で麗しい百合の花を咲かせる。一人で“上級者コース”とやらに訪れた真知は度肝を抜かれる、暗い和室では緊縛された由紀の、体のそこかしこに花が活けられてあつた。当然の如く当惑する真知に、玄介は平素稽古する平常の活花は世を忍ぶ仮の姿、女体に花を活けるのが室町時代より連綿と伝はる、裏亀甲流真の姿であることを宣言する。
 対平賀勘一戦後の翌日、美亜子も捕縛されるにあたり、その他三名の亀甲流衆が登場。その中でも、残り二人と比べて幾分年長に見える髭面が恐らく鈴木静夫で、太つたのと対照的に痩せ気味の体格の若い男が、それぞれ鬼頭理三と小笠原直樹か。山崎邦紀も交へ四人して、玄介に促され「年の功より亀の甲」なる間抜けなスローガンを連呼させられるのは、他愛もない下らなさがグルッと一周して実に清々しい。
 小多魔若史エンジンを搭載した山崎邦紀一流の奇想変態狂想曲の仕上げに、浜野佐知の男供を軽やかに蹴散らす女性主義が火を噴く、ベスト・オブ・旦々舎に数へ得よう痛快作。女体盛りならぬ、女体活花などといふ奇天烈をあたかも無茶振りして来るかのやうに見せて、冷静に吟味してみると全体の構成は何気に秀逸。始終の推移を物語ることはミニマムに止め、濃厚な濡れ場濡れ場をひたすらに連ね女の裸をマッタリと楽しませる序盤。真知の前で裏亀甲流の真相を開陳し、アクセントを刻む中盤は高速通過、美亜子のアーパーな現代性が、伝統性とやらといふ頓珍漢に囚はれた男達を木端微塵に粉砕する様が鮮やかな、一気呵成に畳み込む終盤は圧巻。相原久美の小気味よい啖呵が壁に描かれた竜に睛を入れる、完成された序破急の強度に心地良く打ち震へると共に、横道的な小ネタとしては、美亜子が裏亀甲流を躊躇なく全否定する返す刀で、山崎邦紀のスキンヘッドを眩しいだの禿だのとやつゝけるのもポップで楽しい。亀甲縛りの状態から上半身を伏した体勢で、菊門に菊を挿し絶命する、感動的に無様な玄介の死に様(?)に続いて、フィニッシュは美亜子からああでもないかうでもないと尻を叩かれる、小多魔先生の原稿作成カットが映画を意外と爽やかに締め括る。考へてみれば、亀甲流が奇抜な観念を好き勝手に振り回す珍騒動の中で、一貫して痴漢マンガ家ながら地に足を着けた小多魔若史の視座―と、平賀勘一の仕方がなさ ―は、展開が霧散してしまふことを防ぐ上で極めて重要であるに違ひない。今回実は旧題ママによる十四年ぶり三度目の新版公開で、1994年最初の旧作改題時新題が「巨乳妻 性感帯調教」、1997年二度目の際には「巨乳妻 いやらしい体位」。元題含め何れも味もそつけもないタイトルのことは一旦兎も角、何と都合四度の封切りにも十二分に耐え得よう、強靭かつ豊潤な一作である。

 ところで、看板に“ダブルEカップ”と謳はれるもう一人は、あまりピンとは来ないが河合奈保の他には見当たらない。それにつけても、少なくとも今にしては単なる色白餅肌にしか別に見えない河合奈保が、河合奈保子のソックリさんとして機能することが許された時代の大らかさよ。亀甲流の面々を罵倒する美亜子は二十一世紀が間近であることを頻りに連呼するが、既に今世紀となつて久しいかつての来世紀からは、矢張り如何ともし難い隔たりに直面してもしまふところではある。


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 「奴隷飼育 変態しやぶり牝」(2011/製作:旦々舎/提供:オーピー映画/脚本・監督:山邦紀/撮影:大江泰介/撮影助手:石田遼/照明:ガッツ/監督補:岡輝男/助監督:田中康文/応援:山川宗則/編集:有馬潜/音楽:中空龍/タイトル:道川昭/協力:上野大蔵劇場・観客エキストラの皆さん・株式会社バンビプロモーション/出演:浅井千尋・佐々木基子・里見瑤子・園部貴一・平川直大・牧村耕次)。
 ネオンサインの消えた廃映画館(上野大蔵劇場/旧館)、劇場内には、結構位置の高いスクリーン下僅かな舞台に、上蓋にマンゴーの果実の置かれた巨大な箱が設置されてある。白衣を着た園部貴一がボックスを開け、判り易いスモークに包まれ中に眠る浅井千尋に、君の名はジャンヌと呼びかける。ムームーを被つた佐々木基子が、雑踏を踊るやうに歩を進めながら「今、人の道に反したことが、ここで行はれやうとしてゐる」と、大仰に警鐘を鳴らし上野大蔵劇場こと上野オークラ旧館を仰ぐ。一方、こちらはまるで「肉体の門」よろしくといはんばかりに立ちんぼの如き風情の里見瑤子、通りがかつたスーツ姿の平川直大に、肌身離さぬ―情事の最中にも!―ちくま文庫版の『アナイス・ニンの日記』を開いたまま、「私のお母さんはジプシーで、カフェーで踊つたり歌を歌つたりしてゐた」。「私のお父さんはギター弾きで、二人で上野でナイトクラブを始めた」だなどと声をかけると、何故か二人はそんな遣り取りから意気投合し、宿に入り一戦交へる。感動的なほどに頓珍漢なシークエンスではあれど、斯くも画期的に唐突な口上を、異常な安定感で撃ち抜き得る里見瑤子の口跡は超絶。山邦紀一流のイントロダクションは、ここまでは全く順風であつたのだが。殆ど半裸に近い、ボディ・スーツを着せられた状態で目覚めたジャンヌ(浅井)は、自身が女であることに混乱する。演技指導によるものか演者自前のメソッドによるものかは兎も角、周囲も随時引き摺る、終始芝居がかつた園部貴一が不具合を嘆きかけたその場に、現れた佐々木基子は嘲笑する。異端の植物学者・松土驚一(園部)は、植物の力によつて死に瀕した女をSEXと出産の戦士として再生する、ソルジャーならぬ「ユニバーサル・マンゴー」計画を進めてゐた。野菜プレイを持ち芸とする自称“世界一不幸なストリッパー”のリリィ(佐々木)は、特大の大根を用ゐたショーの最中に舞台から落下。その際に当時コンビを組んでゐた松土の魔手を、辛くも逃れた因縁にあつた。松土いはく新世代型と称するジャンヌに対し、アンドレア(里見)は旧世代型のユニバーサル・マンゴーを略して、劇中に於いても使用される呼称で“ユニマン”。日々自己に関する認識の異なるアンドレアと、その日その日の出会ひを装ひ逢瀬を重ねる苔谷八朔(平川)は、アンドレアの前身といふか前世とでもいふべきか、不治の病を患つたジュンコ(ジュンコ時代の描写はなし)の夫であつた。本人は無邪気に気にも留めない記憶障害に手を焼いた、苔谷はアンドレアを松土に診せるべく上野オークラ旧館に連れて行く。依然自らの性に疑問を強く抱き、松土に口唇性交されたとてさして悦びはしなかつたジャンヌが、アンドレアから仕掛けられた百合には素直に呼応する。即ち、ユニマンが妊娠・出産に決して帰結しない同性愛に興じたことに、計画の根本的な失敗を見た松土は愕然とする。
 覚醒直後、松土に想起を促されたジャンヌの記憶の断片に登場する牧村耕次は、浜野佐知の自宅に住む砂防中、小説や音楽の創作を嗜む人らしい。妻の没後、近似した者同士の交感による芸術を謳ひ、娘のカヨコ(浅井千尋の二役)を繰り返し犯す。そのことが原因で、カヨコは何某かの薬物のオーバードーズによる自死を図つたものだつた。
 傍流ともいへ、ゼロ年代を代表しようアクション映画の大傑作「ユニバーサル・ソルジャー リジェネレーション」(2009/米/監督・編集:ジョン・ハイアムズ/撮影監督:ピーター・ハイアムズ/出演:ジャン=クロード・ヴァン・ダム、ドルフ・ラングレン、他)の、ピンク映画版に山邦紀が果敢に挑んだ意欲作。本家のユニソル・プロジェクトを、大胆かつピンク映画的に麗しく翻案した松土のユニマン計画。松土の手により新世代型ユニマンとして再生されたジャンヌが、性交し子を宿すどころか俄に陥るいはば性同一性障害。旧世代型ユニマン・アンドレアの、その時々で端々が随意に切り替る覚束ない人格。リリィが藪から棒に振り回す幻想に、弱り目の松土がまんまと絡め取られ、溶け行く現実。何れも非常に魅力的な筈のモチーフが、諸々バラ撒かれる。劇中唯一人地に足を着けた苔谷の、日毎に相を変へる妻を、行きずるやうに見守ることしか出来ない焦燥や、“バンバンSEXして、ドンドン子供を産む女達”を求めユニマン計画に着手したものが、“バンバンSEX”しこそするアンドレアすらが、まるで妊娠する気配のないことに頭を抱へる松土の苦悩には山邦紀らしい冷徹な論理性が窺へ、その後の展開の大いなる充実を、一旦は予感させる。ものの、撮影日数まで含めた時間と、始終をどうにか整へる手数を尽きさせたか、拡げ放題に拡げ倒された大風呂敷は、空前絶後のレベルでものの見事に畳み損ねられる。騒動の種が蒔くだけ蒔かれる中、ジャンヌは上野オークラ旧館を一時離脱、砂防家、もしくはかつての自宅へと向かふ。そこから徒にボリュームのある砂防戦を経て上野に帰還したジャンヌは、自ら眠りに就くことを選び、劇場舞台のユニマン生成装置に再び入る。入つたところで、出演者クレジットが流れ始めた瞬間には、平板に考へれば起承転結の転部にさへ満足には未だ至らぬ段階での無茶に、呆れ果てるのも通り越し方向の正逆は兎も角度肝を抜かれた。流石にそのまま敗走してみせる訳には行かなかつたか、ネオンの灯つた上野オークラ旧館、客席も、潤沢な人数で埋まる。35mm映写機が火を噴くと、耳に懐かしく心地良い大蔵映画時代のファンファーレが鳴るのは、追憶を逆手に取つた反則技だ。上映が終り、詰まらなかつたのか純粋に疲れ果ててゐたのか、観客エキストラの皆さんがやれやれと帰り支度を始めた場内に、最後部のドアからジャンヌが颯爽と再登場。意気揚々と通路を抜け舞台に達したジャンヌは、一同の方を振り向くと衣服を文字通り紐解きボディ・スーツ姿の半裸を誇らしげに晒すや、「ユニバーサル・マンゴー、超世代型リターンズ!」と、それだけいはれてもてんで意味不明の宣言、画面は改めて暗転し、今度はスタッフ・クレジット。一度のみならず、二段構へで映画の底を抜いてみせたのは、ある意味見事だとこの期には勘違ひしかねない。見当違ひも懼れずに一刀両断を試みると、牧村耕次に関して馬謖を斬れなかつた点が、尺を手詰まらせた最大の敗因ではあるまいか。ジャンヌが勝手に元実家に帰省して、上野オークラ旧館に戻つて来るまでの間、ただでさへ清々しく中途で正しく中絶される物語が、挙句にほぼ停止する。リリィが薮蛇に松土に繰り出した妄想近親相姦に際して、本来ならば二人とは無関係の、カヨコが砂防から陵辱される回想ショットを挿み込むのも、下手に繋ぎを散らかす不用意な疑問手としか思へない。与へられた厄介な奇矯の中を、里見瑤子はそれでも頑丈な地力を発揮し力強く羽ばたいてみせる反面、映画出演二作目―しかも両方とも主演なのだが―の浅井千尋には初めから多くを望まぬとしても、佐々木基子―尺八は吹くが厳密には脱がない―までもが、窮屈な狂言回しを強ひられ苦戦した印象は否めない。そもそも、新世代型ユニマンたるジャンヌが、旧世代型のアンドレアと比して微塵のプログレスも感じさせない甚だしいドッチラケぶりも、当然のやうに底がブチ抜ける速度の火に油を注ぐ。今時にいへばツンデレともいへるのか、松土の敵なのか味方なのかよく判らないリリィが、ジャンヌの安定しない自我に苦心する松土に対し、「どう?ミスは挽回出来た?」と揶揄したかと思へば、後に松土が完全に匙を投げかけた際には、「まだ諦めるには早いぢやない」。アンドレアもジャンヌも、それぞれ殖産的な当初目的には綺麗に反する二体のユニマンを前に、松土は最初からの釦の掛け違ひに直面する。山邦紀は、佐々木基子の口を借り己を慰めたのか、あるいは、松土の右往左往に自虐を捉へればよいものか。とまでいふのは、下衆の明後日な薮読みに過ぎるであらうか。同じく荒木太郎による上野オークラ旧館映画「癒しの遊女 濡れ舌の蜜」(2010/主演:早乙女ルイ)と並べてみた場合に、「癒しの遊女」では全く素通りされる劇場内の様子を地方在住ピンクスも覗くことが出来る、即ち古き良き時代とともに失はれ行く小屋のメモリアル的な側面は、歴然と認められ得よう。とはいへ、兎にも角にも素面の劇映画としては、派手に引つ繰り返した卓袱台が、勢ひ余つてギャグアニメのクリシェ風に夜空の星と消えるかの如き一作である。そこは勿論、渡邊元嗣風の演出では“キュイーン”とポップなSEを鳴らすところだ。

 因みに、山邦紀の下で佐々木基子がストリッパーに扮するのは、「淫女乱舞 バトルどワイセツ」(2001)、「お灸快楽 若草いぶり」(2002/主演:川瀬有希子)、ここでは元職の「べんり屋熟女 ~変態性癖24時~」(2006/主演:美月ゆう子)以来、五年ぶり四度目。と、見せかけて、実は「べんり屋熟女」と今作との間に、こちらも元職で「SEX捜査局 くはへこみFILE」(2006/監督:浜野佐知/主演:北川明花)を更に挿む。更に因みに、「バトルどワイセツ」にあつても、佐々木基子の役名はリリィならぬリリー。要は、日本映画のひとつの定番として、ドサ回りの女芸人といへばリリーとでもいふ寸法か。


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 「痴漢だらけ 電車も、トイレも、公園も」(1998『痴漢エロ恥態 電車・便所・公園』の2011年旧作改題版/製作:フィルム・ハウス/提供:Xces Film/企画:稲山悌二/プロデューサー:伍代俊介/脚本:有馬仟世/第一話『電車の痴漢』監督:勝利一 出演:風間今日子・村上ゆう・山内よしのり・吉田祐健/第二話『女子トイレ・盗撮』監督:坂本太 出演:浅倉麗・佐々木基子・山本清彦/第三話『公園の痴漢』監督:佐々木乃武良 出演:桜井倫子・葉月螢・樹かず・真央元/撮影:創優和/照明:藤塚正行/助監督:加藤義一/製作担当:真弓学/監督助手:竹洞哲也・細貝雅也/照明助手:荒木一也/効果:東京スクリーンサービス/編集:金子尚樹《フィルム・クラフト》)。出演者中、山内よしのりがポスターには山内健嗣、別名義である。葉月螢は、同じく葉月蛍、こちらはエクセスの横着。何れにせよ、フリーダムな世界である。商業映画のキャストの名前が、パブリシティに正しく載つてゐないとは。それはそれとして、今回は珍しく、新題が実にスマートだ。
 第一話「電車の痴漢」、安田秋子(風間)の朝。起床一番、秋子は山ノ内商事九州支社に単身赴任中のダーリンに、惚気倒したモーニング・コールを入れる。正直清々しく、ギャグとしてでなければ風間今日子には似合はないシークエンスではある。とはいへ、新居の三十年ローンも抱へ、別の会社のOLとして共働きの秋子には悩みがあつた。それは、二ヶ月前から毎朝通勤電車の中で遭ふ、同じ男からの痴漢行為。けふも手の中に射精された秋子は、食欲もないとはいひつつ菓子パンをムシャムシャ喰ひ牛乳を1ℓパックから直でグビグビ飲みながら、友人で風俗嬢の森下純(青木)に相談する。素直に純は警察に相談してみてはといふが、さうも簡単には話が進まない。何故ならば痴漢氏の正体が、夫・守雄(山内)が一時帰京した際に自宅に連れて来た、上司の山下光輔(吉田)であつたからだ。金融絡みで粗相を仕出かした現社長の退任に伴なふ、守雄・山下と同じ大学出身である若林専務(後述)の新社長就任が確実視される、といふことは順繰りに守雄の出世とあはよくば本社帰還も期待出来なくもない中で、不用意に秋子が事を荒立てる訳には行かなかつた。山ノ内商事が、自身が働く店をよく接待で使ふことに思ひ至つた純は、画鋲ローターなる凶悪に物騒なギミックも無邪気に持ち出す一計を案じる。造作は全く遜色ないと同時に芝居のスキルは綺麗にゼロな、純が召喚する若林専務役の、とりあへず上品な初老の男が何者なのかは不明。
 第二話「女子トイレ・盗撮」、「HORAビルヂング」OLの秋山弥生(浅倉)は、出入りする「マツミヤデンキ」の電気工で女の排泄の匂いに異常に興奮する、今村正人(山本)に盗撮がてら個室の中で犯される。事後、女の啜り泣きを前に我に帰つた今村を、弥生は言葉巧みに篭絡、アグレッシブに意地悪な上司の上島令子(佐々木)に対する犯罪的な、といふかそのものでしかない復讐を企てる。山ノ内商事若林専務(第二話に登場はせず)との商談を前に、令子を女子トイレに誘き出す段取り。令子に所望された白湯に下剤は兎も角、イチジク浣腸も混ぜるのは、それは経口でも効果を発するものなのか?ともあれ腹を下せば、結果的にはそれで構はないのかも知れないが。令子と今村を首尾よく纏めて葬り去り、意気揚々と社内を闊歩する弥生に、男性社員(竹洞哲也)が弥生宛の郵便物を届けに来る。中身は、弥生の痴態写真も掲載された投稿写真誌―ありものの雑誌に、スナップをベタ貼りしただけの代物―であつた。ところで第二話冒頭の、今村の御眼鏡には適はない、秋子の前に用を足す女が誰であるのか確認し損ねた。普通に考へれば佐々木基子とならうところだが、背格好からは、村上ゆうに思へなくもない。
 第三話「公園の痴漢」、有美(桜井)はセックスのあまり上手ではない彼氏・政紀(樹)と青姦中、今日は妙に感じるかと思へば、何のことはないといふか何ととでもいふべきか、痴漢(真央)に触られてゐた。気付かれた真央元は慌てて逃げ出すが、山ノ内商事社員・浅岡春彦であることを示す社員証を落として行く。またしても山ノ内商事、どれだけの巨大企業なのか。友人・深幸(葉月)の家に遊びに行つた、有美は驚く。何やら事の最中と思しき様子に覗いてみたところ、深幸のお相手が浅岡であつたのだ。覗いてる時点で、人の痴漢行為をとやかくいへた義理にもないやうな疑問は強ひて一旦さて措き、浅岡が痴漢であることを証明する為に、政紀と深幸が―擬似で―野外で致す現場に、有美が浅岡を連れて行く。などといふ、清々しく底の抜けた状況をわざわざ設定したところ、何時の間にか二組のカップルによるスワッピングが正しく藪から棒に成立する。
 互ひに尺の配分も均等な三監督によるオムニバス作といふと、「人妻不倫痴態 義母・未亡人・不倫妻」(2001/監督:しのざきさとみ・小川真実・佐倉萌/脚本:有馬仟世)、「白衣の痴態 -淫乱・巨乳・薄毛-」(2002/監督:坂本太・佐々木乃武良・羽生研司/脚本:佐々木乃武良)がひとまづ想起される。ここでさりげなく特筆すべきは、「人妻不倫痴態」の中で「第三話 不倫妻」(出演:佐倉萌・しらとまさひさ・岡田智宏)を担当した佐倉萌と同様に、今作が、勝利一と佐々木乃武良にとつてそれぞれ監督デビュー作となるといふ事実。尤も、だからといつて勝利一なり佐々木乃武良的に、どうだかうだと指摘し得るほどの特徴は、これといつても何も快晴の空の雲のやうに見当たらない。尤も尤も、電車痴漢といふ現代ピンク映画に於けるマスト・モチーフと、風間今日子のオッパイで魅せる第一話。頓珍漢な物言ひにもなるが、十八番の好青年ならぬ好変態に扮した山本清彦(a.k.a.やまきよ)が、大活躍もとい大暴れする第二話。展開自体の中身はへべれけながら、後述するフィニッシュが絶品の第三話。各篇の特色も鮮やかに、抜群の好テンポでサクッと一息に観させる、お気楽な娯楽に徹した裸映画ポップ・チューンの偉ぶらない多分傑作。別にバラバラのままで済ませておいても問題なからうところを、山ノ内商事を極細の縦糸に、全三話を一応首の皮一枚繋げてみせた小技も、何気なく光る。第三話の、即ちオーラス中のオーラス。有美と深幸の痴漢を難じるシャウトを合図に、周囲に潜んでゐた五、六名の痴漢・覗き師軍団が姿を現し綺麗に蜘蛛の子を散らすラスト・ショットは、オチとしての面白さだけでなく、まるで女神が微笑みかけたかのやうに映画的な完成度も高く、三篇による一篇を完璧な強度で締め括る。


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 「アブノーマル体験 第六の性感」(2001/製作・配給:新東宝映画/監督:橋口卓明/脚本:五代暁子/企画:福俵満/撮影:中尾正人/照明:小川満/編集:酒井正次/助監督:高田宝重・小泉剛/監督助手:下垣外純/撮影助手:奥野英雄/照明助手:堀直之・柴田守/録音:シネ・キャビン/現像:東映化学/出演:ゆき・葉月螢・桜沢菜々子・川屋せっちん・木立隆雅・千葉誠樹・若宮弥生・水原香菜恵・麻生みゅう・かわさきひろゆき・山ノ手ぐり子・竹本泰志・田嶋謙一)。出演者中、麻生みゅうと山ノ手ぐり子は本篇クレジットのみ。シネキャの前にスチール:元永斉
 オープニング・クレジットの文字情報に忙殺されキチンとは聞いてゐなかつたが、クラブ「卑弥呼」のホテトル嬢・夢見子(ゆき)には、死者の霊を見ることが出来た。開巻、遠藤(川屋)に呼ばれたホテルで一仕事終へた夢見子は、事後シャワーを浴びる浴室にて、胸元に出刃を豪快にブッ刺した血塗れの女の幽霊(若宮)を見る。慄く夢見子を、何も見えない遠藤は不審がる。夢見子が外に出ると、道端のブルーシートを出し抜けに跳ね除け、労務者風の幽霊(かわさき)が人を驚かしたいやうにしか思へない闇雲な勢ひで現れる。お化け屋敷感覚の薮蛇なショック描写が、怖いといふよりは寧ろ微笑ましい。労務者は手先を大きく動かし何某かのメッセージを伝へようとして、姿を消す。但し夢見子には、労務者のアクションが如何なる意味を持つのかまでは判らなかつた。続けて資産家の邸宅に出向いた夢見子は、門の表で防空頭巾を被つた女の幽霊(水原)と出くはす。ここまで若宮弥生と水原香菜恵に関しては、あるいは派手に汚されまたは頭巾にほぼ隠され、正直顔は殆ど満足には抜かれない。夢見子を陰気に出迎へた館の主・津川(木立)は、妻・マリカ(桜沢)を抱くやう求める。女二人の痴態を少し離れたところから冷ややかに見詰める津川は、その内催したのか、対戦は巴戦に発展する。帰り際、再び頭巾女のヴィジョンに取り乱す夢見子が、薬でもやつてゐるのかと邪推した津川は邪険に追ひ払ふ。後日の白昼、清々しく繁盛してはゐない風情の占ひ師・楠目(竹本)が、道行く夢見子に他人とは明らかに異なる特徴の兆しを見つけ、延々と追ひ駆けどうにか呼び止める。初めは全く相手にしなかつた夢見子も、満更を三つくらゐ重ねて満更でもない様子の楠目に、試しに労務者の手の動きをぶつけてみる。とはいへといふか案の定とでもいふか、楠目にもそれが何を意味するのか見当がつかなかつた。通りごと二人を捉へるカメラ位置の遠さも妙に費やす尺の長さも、何れも結構な楠目の夢見子追走カット。生き馬の目を抜く大都会東京で、主不在となつた楠目の路上ブースが荒らされはしまいかと、器量の小ささも憚らず些かヒヤヒヤした。
 場面変つて、夕食を支度するマリカ(葉月)の周りに、夫・田中(田嶋)が沈痛な面持で立つ。ところが、どういふ次第なのかマリカは無視するどころか、田中の存在自体に一切気づかない。加へて、家に招いたどうやら再婚相手と思しき和彦(千葉)に、田中の眼前マリカは抱かれる。
 出演者残り登場順に山ノ手ぐり子(=五代暁子)が、見るから侘しい独身独居男性臭の漂ふ楠目宅、ポップに映りの悪いテレビに登場する、「はじめての手話」の手話講師。これは画期的にそれらしく見える、何気に完璧な超絶の配役。麻生みゅうは、病める時になると無体に手の平を返す田中の愛人・エミ。ところで、総計6+1人の女優部のうち、脱ぐのは順当にビリング頭三人まで。
 「出張3P 性感恥帯」などといふ、やつゝけ感迸る新題による2005年一度目の旧作改題を経て、旧題ママによる2011年二度目の新版公開。今回も今回で、新版ポスターに堂々と踊る惹句が凄まじい。“私はホテトル嬢・・・”ここまではいいとして、“シックス・センスの女・・・”。そこからネタバレを回避する気などさらさらないといふのも、清々しいまでにへべれけな話である。そもそも、元題からして“第六の性感”などと謳つてのけてゐる訳だが。尤も、本丸の本篇が開巻秒殺で夢見子が死者も見えるといふネタ―と、中盤田中のアレも―を早々に割つてみせる以上、好意的に考へてみれば、元よりシックスなセンスが謎解きとして成立しようもないのは、ツッコミ以前に織り込み済みであつたのやも知れない。その上で展開は、薮占ひ師である楠目を、凡人であるがゆゑに逆に説得力を有した導引役に据ゑ、望まぬ霊視資質に成人後も順応することなく苦悩する夢見子が、天恵の特殊な能力で果たすべき使命を軸とした、いはば自分探し物語へと案外華麗に移行する。段取り中身の実際は一旦兎も角、表面的な落とし処としては一応エモーショナルに着地する田中篇に続いて、ラスト・シーンは歌舞伎町中のホテトルから夢見子を探し出した楠目との濡れ場。終始怯え迷ひ抜いた夢見子が漸く辿り着いた、温かく穏やかであると同時に力強さも感じさせるハッピー・エンドは、思ひのほか綺麗に映画を締め括る。M・ナイト・シャマランの「シックス・センス」に拘泥せねば意外とスマートな、翻案の大胆さが光る一作である。

 最後に、今作自体とは全く関係ない与太を吹くが、翌年、ゆきが祖母譲りの異能者といふ設定とヒロインの座を、加藤文彦の「三十路色情飼育 ‐し・た・た・り‐」に際して木築沙絵子に推譲したと無理矢理附会(こじ)つけるならば、量産型娯楽映画ならではの感慨もそれはそれとして深い。


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 「同性愛熟女 未亡人達の濃い味」(2004『三人の未亡人 恥知らずレズ』の2011年旧作改題版/製作:サカエ企画/提供:Xces Film/監督:新田栄/脚本:岡輝男/企画:稲山悌二《Xces Film》/撮影:千葉幸男/照明:小川満/編集:酒井正次/スチール:佐藤初太郎/音楽:レインボーサウンド/助監督:小川隆史/監督助手:北村隆/撮影助手:池宮直弘/音響効果:梅沢身知子/録音:シネキャビン/製作進行:阿佐ヶ谷兄弟舎/現像:東映ラボ・テック/出演:河村みき・風間今日子・綱島渉・丘尚輝・新井隆史・林由美香)。出演者中、新井隆史は本篇クレジットのみ。まあ小川隆史の変名だらう、何で新井なのかは知らんけど。
 “真知子(28歳)社長未亡人”、富永真知子(河村)の下には、亡夫(遺影すら登場せず、死因も不明)が遺した会社の総務部員・三浦(新井)が、見合写真を持参し毎日のやうに訪れる。真知子に下手な男と再婚され、相続した株が渡つてしまつては一大事だといふのだ。とはいへ、出会ひ系を介して捕まへた若いツバメ・久保田大(網島)との、あくまで遊びと割り切つたセックスを楽しむ真知子は、さういふ気儘な現況に満足し、次の結婚など全く考へてはゐなかつた。ところで少し横道に逸れるが、事件、あるいはお縄に関してはこの期にさて措くとして、綱島渉は頂哲夫と、まるで血縁関係にでもあるかのやうによく似てゐる。閑話休題、けふも三浦から渡された、本当にパッとしない男の写真―ホントに誰だこれ―に閉口も通り越し半ば腹を立てた真知子は、通ふ着付教室の教師である辻本里枝(風間)に相談する。里枝は一計を案じる、興信所に真知子の素行調査(殆ど映らないが、調査員は多分新田栄)を依頼した上で、これ見よがしに真知子が里枝とラブホテルに入る。即ち真知子の同性愛を偽装し、こゝの段取りは正直飛躍も大きいが、その調査結果が三浦らの知るところとなれば、始末に終へぬ縁談狂想曲も治まるに違ひないといふのである。とまれ当日、嘘から出た誠といふか瓢箪から駒とでもいふべきか、その場の雰囲気と勢ひとから、真知子と里枝は実際に交はる。
 “里枝(35歳)未亡人着付教師”、里枝は自身の不幸な半生を顧みる。思春期に自覚したホモ・セクシュアルは押し殺したまゝ、義父からの性的虐待、高校時代のレイプ被害―まではモノローグで語られるのみ―に続き、こちらも死んだ理由は通り過ぎる暴力夫・京二(丘)にも苦しめられた。おまけに現在、婦人科検診を受けたところ担当医の鈴木冴子(林)からは、如何にも深刻な風情で再検査を通知される。今篇特筆すべき見所は、回想カットに使用される、風間今日子の中高生時代本物のスナップ写真、何気に貴重な映像ではある。
 “冴子(33歳)未亡人女医”、冴子は五年前に雪山で命を落とした夫の医院を継いだものの、そのために大学病院での研究職を辞したことに対する、後悔の念も未だ拭ひきれずにゐた。残る心を出会ひ系で捕まへたイケメン―と、いふ体にしておいて呉れ―の彼氏・久保田大(あれ?)との情事で紛らはせる冴子ではあつたが、ある日久保田が他の女―さう、真知子である―と間違ひなく二股の風情で連れ立つて歩く姿を目撃し、衝撃を受ける。
 よせばいゝのにわざわざ各章タイトルまで設け章立てされる明確な三部構成は、不用意に時制が前後する回りくどさが顕著なばかりで、実質的な意味は凡そどころか積極的に感じられない。万事にパッとしない清々しくエクセスライクな主演女優を、一人づつではなく林由美香と風間今日子が揃つて補佐する構図はある意味実に判り易く且つ頑丈で、終始覚束ない一作が初めて力を漲らせるのは結果的には順当に、里枝を要に結びついた三人の未亡人が、一堂に会するクライマックス。迸る劇中世間の狭さに関しては、云々するだけ野暮といふものだ。公園にて三浦が目を落とす、真知子と里枝が逢引する証拠写真を久保田まで盗み見るのは、流石にやり過ぎかとも思へたが。その際の、スポーツ新聞を立ち読みする久保田の造形も考へもの、張り込み中の刑事のクリシェか。兎に角、里枝に綺麗に篭絡された真知子が冴子も誘(いざな)ひ、皆で咲かせる大輪の百合の花。翌年のコンセプチュアルな大技卍レズをも凌駕する超絶のトリプル貝合はせは、複雑な関節技感覚で最早何がどうなつてゐるのかよく判らない、煽情性の領域を超越した怒涛のスペクタクルを展開する。


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 「緊縛十字架責め」(1996/企画・製作:フィルム・ハウス/提供:Xces Film/監督:大門通/脚本:久保寺和人/プロデューサー:伍代俊介/撮影:創優和/照明:斉藤久晃/編集:酒井正次/縄師:明智伝鬼/助監督:加藤義一/製作担当:真弓学/効果:協立音響/監督助手:紀伊正志・羽生研司/撮影助手:大塚雅信/照明助手:岩井一記/ヘアメイク:大塚春江/出演:岡田亜沙美・扇まや・白都翔一・佐々木共輔・林由美香・久須美欽一)。
 ど頭中のど頭、タイトルはおろか企画と製作がフィルム・ハウスである旨を伝へるクレジットの時点から、肉を鞭打つ音と、女の悲鳴が響く。画が入ると十字架に、縄師として明智伝鬼が参加してゐる割には随分テローンとした亀甲縛りで磔られた岡田亜沙美を、扇まやがビッシビシ責める。本来は衝撃的なショットの筈なのだが、岡田亜沙美の単調な左右の首の振りに、どうにも苛烈さは生まれ難い。ともあれ金切り声の扇まやの宣告にいはく、「これが緊縛十字架責めよ!」、箍の外れた判り易さが迸る。暗紅色した今作の開巻ほど、清しいものはない。
 カット変り、経理担当の今井潤一(白都)と、恋人の梶原千代枝(岡田)が二人きりで残業する小林商事。今井は女社長である小林節子(扇)の愛人に甘んじながら、会社の金を横領、将来的にはトンズラしての千代枝との新生活を目論んでゐた。と、いふことは、既にこの二人も十二分に手を汚してゐる訳なのだが。兎も角、その日は帰らうかとした千代枝と今井は、忘れ物を取りに来た節子と鉢合はせる。絶妙に微妙な空気の流れる中、節子からは三人での食事に誘はれるも、千代枝はそそくさと辞退。今井は仕方なく社長宅にて、節子の母親の具合が芳しくない伏線も投げつつ一夜を明かす。翌日、帰郷する節子は帰りは月曜日になると今井に言ひ残し会社を後に。ここで、節子と今井と千代枝の他に、後姿しか見せない男がもう一人社員要員に見切れる。それ行けハッピー・ウイークエンドとばかりに、千代枝と今井がプレ新婚生活を満喫する千代枝の部屋に、あらうことか節子が怒鳴り込んで来る。今井の千代枝との関係も、会社の金の横領も節子には露見してゐた、即ち二人は泳がされたのだ。それはそれとして、何故に節子が千代枝の住居に自由に侵入することが出来るのか、綺麗に抜けかけた底に関しては、その物件が小林商事の社宅であるといふ事情の一点突破。だからといつて、それも通るのか通らないのかよく判らない理屈ではある。横領の罪を特に問ふこともなく、節子は打ちひしがれ紛れに今井と千代枝を放逐する。それで事が済むのなら、ある意味旨い話だ。
 店名不肖の節子行きつけの店、但し、後に林由美香と佐々木共輔の絡みが閉店後の店内にて執り行はれるところをみると、もしかするとここも、節子の支配下にあるのかも知れない。千代枝に奪はれた今井と、恐らく幾許以上の金を失ひ、矢張り釈然としないどころでは治まらない節子に、ネットリとした下衆い造形が堪らない飲み友達・浅岡(佐々木)が接触する。恨み節を打ち明けられた浅岡は、店の女・めぐみ(林)を抱かせて呉れるならば、といふこれも又よく判らない交換条件での尽力を約束する。再びここで、めぐみが接客する客の男二名は、後述する今井逮捕のシーンに際してはサングラスを着用しただけで、二人組の刑事役として別の意味で華麗に再登場。小林商事への就職を餌に節子がめぐみを口説き、一方浅岡は、後々語られるところによるとジュク(新宿)でソープランドや売春クラブを経営するヤクザ・勇治(久須美)に連絡を取る。浅岡が何気にめぐみの前に節子も頂きつつ、手打ちの食事会を偽り、今井と千代枝を呼び出すことに成功する。目の前で見せつけられれば諦めもつく、とかいふ申し出を呑み、今井と千代枝は節子が―と浅岡も―見守る前で一戦交へてみせることに。尤も、では決してないが、ジャンル的には如何にもな方便の、画期的なへべれけ具合はグルッと一周して寧ろ感動的ですらある。その隙に、節子が呼んだポリスに事後今井は呆気なく御用。独り節子と浅岡に囚はれた千代枝は、冒頭に連なる緊縛十字架責めを受ける。
 大門通と、岡田亜沙美にとつても二年二作後となる「三十路同窓会 ハメ頃の人妻たち」(1998/主演:園田菜津実)からの逆算で、是が非でも観たいと熱望してゐたものだが、晴れてか曇つてか実際に観戦してみたところ、程度の大小も様々なツッコミ処に満ち満ちた、直截にはチャーミングな一作であつた。映画全体の鍵を成す重要なアイテムであるにも関らず、ぶら下がり健康器をベースに角材を交錯させた、手作り感の爆裂する随分と安普請な十字架自体も微笑ましいが、件の緊縛十字架責めの火蓋が切られるや、何時の間にかドレス・アップしてゐたりなんかする節子の闇雲なドレス姿は、気付いてみれば結構な破壊力。黙つて十字架に括つておけば済むものを、わざわざ千代枝にセーラ服やナース服を着させた上で責める、頓珍漢なサービス精神も実に下らなくて素晴らしい。挙句に画期的なのが、肝心のその場に何時まで経つても姿を見せない勇治登場のタイミング。一通り千代枝が節子と浅岡に嬲り尽くされた後に、要は身柄を回収する為のみに現れたことには、展開のみならず小生の腰も粉微塵に砕けた。一応浅岡から“買つた”千代枝を改めて陵辱する、といふ形でヒロインを更なる絶望に叩き込むバッド・エンドに一役買ひはするものの、看板に違(たが)はずメイン・テーマの緊縛十字架責めには、その筋の凄腕風の顔をしておいて勇治は一欠片たりとて寄与しない。観客を小馬鹿にしたかのやうな拍子抜けには、この際逆の意味で拍手喝采でも送るほかはない。一見、主演女優の清楚な顔立ちにも騙されると、可憐なヒロインが酷い目に遭ふ悲運物語にも思へかねないが、そもそも今井と千代枝も脛に傷持つ以上、所詮は非力な悪党が、より強大な悪党に喰はれただけに過ぎまい。始終の表面に止まらない、全方位的徹頭徹尾な無体さは、高緯度に於ける日の沈まぬ世界の如き、白々とした静寂をも最早漂はせる。


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 「近所の人妻 熟れた白昼不倫」(2007/製作:多呂プロ/提供:オーピー映画/出演・監督:荒木太郎/脚本:荒木太郎・三上紗恵子/撮影:清水正二/編集:酒井正次/撮影助手:海津真也・関根悠太/助監督:金沢勇大・三上紗恵子/タイトル・漫画協力:堀内満里子/ポスター:本田あきら/録音:シネキャビン/現像:東映ラボテック/タイミング:安斎公一/出演:桜田さくら・華沢レモン・久須美欽一・なかみつせいじ・丘尚輝・国沢実・竹本泰志・里見瑤子)。
 火野妖子、もといトン吉・ピー子のペン・ネームで夫婦マンガ家―ピー子は事実上アシスタント―として活動する、トン吉こと敏吉(竹本)の稼ぎが少なく前の借家を大家に追ひ出されたゆゑ、ピー子担当の妻・比佐子(里見)の、長期留守となる親戚宅に二人は転がり込む。因みに、竹本泰志がエロマンガ家に扮するのは、竹洞哲也デビュー作「人妻の秘密 覗き覗かれ」(2004)以来三年ぶり二度目。隣家から洩れ聞こえる叙情的なピアノの音色に耳を留めたトン吉は、家の中から現れた森田和歌子(桜田)の色つぽい容姿に目を奪はれる。夫が余所の女に鼻の下を伸ばした気配を嗅ぎつけ、ポップに角を生やしたピー子がトン吉に襲ひかゝる形から始まる夫婦生活。濡れ場にも関らず妙に間延びした様子に、何とはなしに暗雲が立ちこめる。ともあれ、ピー子に尻を叩かれつつ、生活のためにトン吉は差迫る締切を見据ゑてマンガの創作に取りかゝる。とは、いふものの。遅々とどころかピクリとも作業は進まない締切二週間前、仕事部屋の窓から和歌子が干したパンストが風に飛ばされるのを見たトン吉は、すはお宝ゲットとばかりに回収に向かふ。そこに和歌子が出て来たので、慌ててトン吉が下着を返さうかとしたところに、すつかり心のヘシ折られた風情の和歌子の夫・直樹(荒木)が、亡霊の如くぼんやりと帰宅する。
 登場順に、久須美欽一は締切十日前、トン吉・ピー子宅に忍び込む泥棒。ロクに金目のものも見当たらないのに文字通り盗人猛々しく腹を立て、ピー子を犯さうとする。トン吉はその模様を、マンガのネタを提供しようとした狂言―それならば一体久須美欽一は何処から連れて来たのか―であると初め誤解するが、ピー子の目配せにより本物の侵入者である旨知ると、恐々撃退する。といふ件には、竹本泰志の体格の良さが、正直逆方向に作用する。派手な服装で微妙に柄の悪いなかみつせいじは、締切まで後七日、例によつてトン吉が窓越しに窺ふ中、森田家に入つて行く謎の男。なかみつせいじに抱かれた体を、事後和歌子は直樹に洗つて貰ふ。丘尚輝と華沢レモンは、締切四日前、台詞がよく聞き取れなかつたので正確なディテールは判然としないが、夫婦交換か、あるいは矢張りネタ提供目的でピー子に招かれた丸尾と淀美夫妻。どうでもよかないが、淀美とは何て名前だ、あんまりだろ。二人は、他人に見られてゐないと燃えないガッチガチのマニアさんで、他人の家で家人の了承も待たずに猛然と開戦。濃厚なプレイ内容で、固唾を呑んで見守るばかりのトン吉・ピー子を、度肝を抜くのも通り越し卒倒させる。“スラッとして繊細な”と語られる特徴から配役が読める、丸尾夫妻来襲の翌日に飛び込んで来る国沢実―沢と実の間にオプションなし― は、和歌子へのあてつけで開巻から度々ピー子の口に名前の上る、久方振りの再会を果たす幼馴染・達也君。確かに、スラッとしてゐるのは見たまゝ一応スラッとしてゐるし、繊細といふのも、多分その通りなのであらうが。直截には出オチといふべきか、荒木太郎にしては気が利いてゐる。困窮を見かね略奪求婚するが、ピー子には里見瑤子一流の穏やかな微笑でやんはりと拒絶させる。それにつけても、国沢実が女に振られるシークエンスの、何とサマになることよ、思はず身につまされる安定感が尋常ではない。
 微動だに進行しない原稿製作を横軸に、隣のミステリアスな美人妻に対する正しく横恋慕を縦軸に描かれる、最終的にはトン吉・ピー子の夫婦物語。和歌子が漂はせる謎めいた空気の底は清々しく浅く、詰まるところは直樹が事業に失敗したツケを、体で払つてゐるとかいふ次第。ピー子と達也の一幕を噛ませた上で、同日進行で外出する和歌子を再度尾行したトン吉は、終に川辺のあばら家にて体を重ねる。如何にも男好きしさうな主演女優の桜田さくらの、対なかみつせいじ戦、役得の荒木太郎に介錯させた風呂場での顔ならぬ裸見せに続き炸裂させる、猛烈な官能性はピンク映画的に全く申し分ない反面、傍から見るよりは逞しい和歌子をトン吉が抱くまではいいとして、そこから思ひ出したかのやうにピー子の下に駆け戻り夫婦の絆を再確認するエモーションは、落とし処としての妥当性は兎も角、展開の流れとしては完全に木に竹を接ぐ。綺麗に説明不足で、本丸はいふに及ばず外堀すら満足に埋められてはゐまい。肝心の行もまゝならぬまゝに、行間だらけの一作といふ印象が強い。だから相変らず清水正二が横好く、CGによる紫色の蝶を数度に亘り結構尺も浪費してプラプラと飛ばせるよりも先に、片付けておかねばならない段取りは幾つもあつたのではなからうか。ただ、ひとつ正方向に特筆すべきは、淡島小鞠として出演はしない三上紗恵子が片足突つ込んでゐる割には、三番手の華沢レモンを放り込むタイミングを間違へてゐない点。マイナスがゼロになつたのを評価するといふのも、貧しいか情けない話ではあれ。

 結局、トン吉・ピー子のマンガは、48時間を一時間水増ししたリミット四十九時間で一息に完成まで漕ぎつける。その過程に際しては、ペンを入れ、定規で線を引き、消しゴムをかけ、ベタを塗り、スクリーン・トーンを貼る。マンガの作成工程が、ネームを何時切つたのか以外は早送りの中にも一通り捉へられる。


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