「ダブルEカップ 完熟」(昭和63/企画・製作:《株》旦々舎/配給:新東宝映画/監督:浜野佐知/原案:小多魔若史/脚本:山崎邦紀/撮影:稲吉雅志/照明:出雲静二/音楽:東上千/編集:金子編集室/助監督:鬼頭理三・小笠原直樹/録音:銀座サウンド/現像:東映化工/出演:速水舞・河合奈保・相原久美・秋本ちえみ・平賀勘一・小多魔若史・山崎邦紀・池島ゆたか)。ポスターには、更に出演者として鈴木静夫の名前が並ぶ。
公園池の揺れる水面を噛ませて、「華道家元亀甲流」の稽古風景。弟子は左から、家元の妻でもある由紀(速水)、OLの悠木(結城かも)真知(河合)に、女子大生の美亜子(相原)。三人と正対した亀甲玄介(池島)がああだかうだと講釈を垂れる向かつて右手袖では、剃り上げた頭に大きなサングラスを不遜にかました高弟の山崎邦紀が、神妙に控へつつ右手で作つた指の輪に左人差し指をズボズボ挿入する。一方、和服の秋本ちえみがさりげなく脇を通り過ぎる、稽古場からは少し距離を置いたベンチにて。玄介を上得意とし亀甲流に出入りする自動車ディーラーの平賀勘一が、自身の痴漢体験をエロマンガにする小多魔若史(ヒムセルフ)に、痴漢希望の女を紹介するといふ話を持ちかける。半信半疑の小多魔若史の、マンガに出て来るコソ泥風のイイ風貌と、分を弁へた日陰の曲者ぶりが堪らない。次回からは上級者コースに入ることを告げられた真知が美亜子と先に捌けると、玄介は由紀が自ら開いた着物の裾より股間に手を差し入れる。貞操帯にも似た革製の下着の下では、由紀の観音様に、菊が挿してあつた。香と触感には変化が看て取れるも、色合までには至らない菊を、玄介はムシャムシャと食する。平賀勘一との密談を経た小多魔若史が美亜子と接触、痴漢といふよりは端的な青姦に戯れるものの、最終的には綺麗に生殺される。小多魔若史が生殺されたところで、場面変ると前半最大の豪腕パンチが炸裂。一転照明も劇伴も箍を外した中ボンデージ・ルックの由紀が、ガンガン踊り倒すディスコ・ショット!瑣末な体裁なんぞケロリと等閑視、迷ひなく振り抜けるサービス精神は、娯楽映画の生命力溢れる強さに違ひない。シークエンス自体の底の抜け具合に比して、速水舞の表情の乏しさが、何ともいへないストレンジさを加速し、同時に未だ弾力を失はぬことが窺へる、Eカップのオッパイは二十余年の時も越え全く眼福眼福。美亜子と二股かけられてゐることはひとまづ了解済みの、真知と平賀勘一の絡みを挿んで、改めて素性も名前も不明の秋本ちえみイン。由紀とのまるで禅問答のやうな遣り取りを絡めて、和服女二人で麗しい百合の花を咲かせる。一人で“上級者コース”とやらに訪れた真知は度肝を抜かれる、暗い和室では緊縛された由紀の、体のそこかしこに花が活けられてあつた。当然の如く当惑する真知に、玄介は平素稽古する平常の活花は世を忍ぶ仮の姿、女体に花を活けるのが室町時代より連綿と伝はる、裏亀甲流真の姿であることを宣言する。
対平賀勘一戦後の翌日、美亜子も捕縛されるにあたり、その他三名の亀甲流衆が登場。その中でも、残り二人と比べて幾分年長に見える髭面が恐らく鈴木静夫で、太つたのと対照的に痩せ気味の体格の若い男が、それぞれ鬼頭理三と小笠原直樹か。山崎邦紀も交へ四人して、玄介に促され「年の功より亀の甲」なる間抜けなスローガンを連呼させられるのは、他愛もない下らなさがグルッと一周して実に清々しい。
小多魔若史エンジンを搭載した山崎邦紀一流の奇想変態狂想曲の仕上げに、浜野佐知の男供を軽やかに蹴散らす女性主義が火を噴く、ベスト・オブ・旦々舎に数へ得よう痛快作。女体盛りならぬ、女体活花などといふ奇天烈をあたかも無茶振りして来るかのやうに見せて、冷静に吟味してみると全体の構成は何気に秀逸。始終の推移を物語ることはミニマムに止め、濃厚な濡れ場濡れ場をひたすらに連ね女の裸をマッタリと楽しませる序盤。真知の前で裏亀甲流の真相を開陳し、アクセントを刻む中盤は高速通過、美亜子のアーパーな現代性が、伝統性とやらといふ頓珍漢に囚はれた男達を木端微塵に粉砕する様が鮮やかな、一気呵成に畳み込む終盤は圧巻。相原久美の小気味よい啖呵が壁に描かれた竜に睛を入れる、完成された序破急の強度に心地良く打ち震へると共に、横道的な小ネタとしては、美亜子が裏亀甲流を躊躇なく全否定する返す刀で、山崎邦紀のスキンヘッドを眩しいだの禿だのとやつゝけるのもポップで楽しい。亀甲縛りの状態から上半身を伏した体勢で、菊門に菊を挿し絶命する、感動的に無様な玄介の死に様(?)に続いて、フィニッシュは美亜子からああでもないかうでもないと尻を叩かれる、小多魔先生の原稿作成カットが映画を意外と爽やかに締め括る。考へてみれば、亀甲流が奇抜な観念を好き勝手に振り回す珍騒動の中で、一貫して痴漢マンガ家ながら地に足を着けた小多魔若史の視座―と、平賀勘一の仕方がなさ ―は、展開が霧散してしまふことを防ぐ上で極めて重要であるに違ひない。今回実は旧題ママによる十四年ぶり三度目の新版公開で、1994年最初の旧作改題時新題が「巨乳妻 性感帯調教」、1997年二度目の際には「巨乳妻 いやらしい体位」。元題含め何れも味もそつけもないタイトルのことは一旦兎も角、何と都合四度の封切りにも十二分に耐え得よう、強靭かつ豊潤な一作である。
ところで、看板に“ダブルEカップ”と謳はれるもう一人は、あまりピンとは来ないが河合奈保の他には見当たらない。それにつけても、少なくとも今にしては単なる色白餅肌にしか別に見えない河合奈保が、河合奈保子のソックリさんとして機能することが許された時代の大らかさよ。亀甲流の面々を罵倒する美亜子は二十一世紀が間近であることを頻りに連呼するが、既に今世紀となつて久しいかつての来世紀からは、矢張り如何ともし難い隔たりに直面してもしまふところではある。
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