真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「ヴァージン日記 指の戯れ」(1993/製作:関根プロダクション/提供:オーピー映画/監督:川井健二/脚本:ミスター・チャン、佐々木優/撮影:伊東英男/照明:秋山和夫/音楽:リハビリテーションズ/編集:フィルム・クラフト/監督補:一ノ瀬教一/助監督:佐々木優/照明助手:加藤義一/効果:東京スクリーンサービス/出演:林由美香・杉原みさお・浅野桃里・飯島大介《友情出演》・高田磨友子・木下雅之・関双葉《子役》・小竹林早雲)。出演者中、関双葉は本篇クレジットのみ。地の画に埋もれ、クレジット後半が殆ど読めない。“配給:大蔵映画”ではなくオーピー映画提供としたのは、白黒のOP開巻に従つた。
 新宿のビル群を都庁まで逆パンしたのち、足元の公園、汚し過ぎたルンペンの小竹林早雲を抜いてタイトル・イン。これ今作が小竹林早雲の銀幕初陣かと思ひきや、よくよく調べてみるとテレビに軸足を移した関根和美が一旦ピンクを離れる以前既に付き合ひのある、小竹林義一といふのが前名義のやうだ。
 皆川耕作(小竹林)は―バブル景気が―いきなりポンと気楽な上司(川井健二=関根和美)に、二十年勤め上げた会社を易々とリストラされる。皆川が失職を浪費癖のある妻・雪子(杉原)にどうしても打ち明けられない中、二番手一度目の絡みをひとまづ消化。仕方なく何事もなさげに出勤、自販機で何か飲むかとした皆川は、カッパライ(多分一ノ瀬教一)に財布を奪はれる。カッパライを追つた皆川が迷いひ込んだ廃工場には、ミステリアスな少女が。物騒にも血塗れのナイフを持つた美咲(林)は皆川に、過去を殺して来たと語る。
 配役残り関双葉は、開巻身を落とした皆川に食べ物を差し出す男児、もしかして関根和美御子息?ラストに見切れる男児の父親はカッパライと二役、雪子の間男と三役かも。美咲の故郷は六ヶ所村、母親(全く出て来ない)は再処理施設建設現場の人夫(飯島)と再婚、しておきながら別の人夫と家を出る。その後中学時代、義父に犯された美咲は美咲も家出。五年後再会した飯島大介を殺したといふのが、“過去を殺して来た”所以。皆川は美咲とともに、六ヶ所村を目指す。前作「SEXライフ 熱い夜に抱かれて」に於ける、仮称摩天楼に来店した関根和美の連れと背格好が似てゐることから、美咲―と皆川―がヒッチハイクする田舎の外車乗りは、恐らく佐々木優。浅野桃里と木下雅之は、空巣狙ひで美咲と皆川が南酒々井の一軒家に忍び込んでみたところ、情事の真最中の津田夫人―津田一郎の表札がそのまゝかゝつてゐる―と不倫相手。力技であると同時に、なかなかスマートな三番手の捻じ込みやうではある。問題が、関根和美の愛妻・亜希いずみ別名義の高田磨友子。事後に美咲と皆川が飛び込んだ修羅場の最中(さなか)、津田家を来訪する新興宗教「幸福を祈る光」の壺売りババア、純然たる木に竹を接ぎ要員でしかない。それとオーラスには、ポン上司が再び登場。ところで京都は本町館の公式ブログが出演者に一ノ瀬教一、ミスター・チャン、佐々木優の名前も挙げてゐる点と、共同脚本の先の名前に来てゐるのを窺ふに、どうもミスター・チャンは川井健二の変名ではなからうかと思はれる。
 川井健二1993年第二作は、リストラ男が“過去を殺して来た”少女と出会ふ、粒の小さなロード・ムービー。要は手慣れたズベ公に情けないオッサンが手玉に取られる、実も蓋もない物語は男優部主役と、全般的な演出のレス・ザン・キレにも遮られ最終的にはモッサリした仕上がりともいへ、突発的に時空を超えた輝きを刻み込むのは二人が津田家に突入する前段、神社の件。カッパライにやられた皆川はオケラ、美咲が自販機荒らしやスリで現金を調達しつつの道程。降つて湧いた状況に浮き足立つ皆川に対し、いはく六ヶ所村を飛び出して以来長くさういふ出たとこ勝負を潜り抜けて来た美咲は、皆川が心ときめかす一種の非日常が、自分にとつては現実であると諭す。その際の、二十近いと思しき歳の差の割に、まるで小竹林早雲が子供で林由美香が大人にさへ見える、三十路前のリファイン後を思はせる、林由美香の冴えた美しさが強く胸に残つた。
 備忘録< オーラスは案の定この人もポンされた関根和美が、廃工場にて美咲と出会ふ   >皆川は保険解約金を持ち逃げされ晴れてルンペンに


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 「喪服未亡人 いやらしいわき毛」(1999/制作:ワイ・ワン企画/提供:Xces Film/脚本・監督:木村純/企画:稲山悌二/プロデューサー:戸川八郎/撮影:鷹野聖一郎/照明:保坂芳美/音楽:中村半次郎/メイク:田代友美/助監督:関良平/撮影助手:町田慎一/照明助手:林方谷/製作:渡部健/ネガ編集:フィルム・クラフト/録音:シネ・キャビン/スチール:菊田康/スタジオ:カトレヤ/出演:広瀬和菜・瀬戸恵子・青山縁《ゆかり》・からみ一平・千葉誠樹)。青山縁に送り仮名がつくのは、本篇クレジットママ。
 電話の着信音開巻、鏡台、干された女物の下着、軽く微笑んだ男のスナップ写真、斜めに切り取つた階段、階段を裏からと電話機。カットを小刻みに繋いだ上で、往来を歩く喪服未亡人の後ろ姿にクレジット起動、絡みも軽く挿み俳優部だけ片付けて―その分エンドロールではオミット―タイトル・イン。一周忌を終へた亡夫・真一(スナップの主/からみ一平)を墓参する滝川亜矢子(広瀬)と、公衆電話で出ない相手に背中で焦れる千葉誠樹。少し話を戻すと千葉誠樹はただ一人、当人をズバッと抜いたショットにクレジットを打たれる。帰宅した亜矢子は、シャワーを浴びながら自慰。風呂上りにワインを飲んでゐると、どうやら家内も盗聴してゐるらしきエロ電話がかゝつて来る。エロ電話が着弾したところで、唐突に真一生前の親友・松木和夫(千葉)と、新愛人・美佳(青山)の情事。事後、気晴らしに―しかもわざわざ喪装で―真一の墓を参つた帰りの亜矢子と、重病の女房(一切登場せず)の転院で当地に越して来てゐた松木が遭遇。公園での缶ジュース飲み話がてら、不自然なり非常識スレスレの気軽さで亜矢子は松木を自宅に招く。その時は妄想止まりの何だかんだの別れ際、松木の何があるのか知らんが「何かあつたら必ず電話下さいね」といふ一言まで来て、何とワインを手に盗聴エロ電話に慄く亜矢子に戻る。えええええ!確かに盗聴込みのエロ電話は何かあつたらの十分“何か”たり得るにせよ、見返してみると一応暗転を挿んでゐるとはいへ関根和美ばりのノー・モーション、加へて千葉誠樹が対青山縁と対広瀬和菜二戦を連戦する―後者はキッチンの亜矢子を手籠めにする松木の赤いイマジン―のもあり、十五分の長尺を費やす怒涛の大回想には素面で驚いた。
 配役残り瀬戸恵子は、何故亜矢子がタメ口で接するのか間柄が映画を見てゐるだけでは全く判らない玲子、松木の元愛人でもある。もしかすると、亜矢子の劇中設定年齢が、演者の実年齢なり見た目より随分と上なのかな。2005年新版の改題も、「三十路喪服妻 わき毛の匂ひ」となつてゐる。
 二年後に第二作「三十路女の濡れ床屋」(主演:黒沢良美/橘瑠璃のデビュー作)を撮つた後、それきり名前を聞かない木村純のデビュー作。因みに、今作の前にも名前を聞かない、とかく雲を掴むやうな御仁ではある。それは兎も角、木村純と同時に、広瀬和菜名義での若林美保デビュー作でもある点は、当時よりも現在の方がなほ重きを増すトピック。いい機会と最終的に整理すると、二年後今度は小室優奈名義で「淫乱女房 下半身の甘い香り」(2001/監督・脚本:小林悟/主演:藤崎玲央奈)と「性犯罪ファイル 闇で泣く女たち」(2001/監督・脚本:小林悟/主演)、大御大作二本が二度目のデビュー。少し間を空けてMIHO名義の「人妻アナ露出 秘められた欲求」(2006/監督:荒木太郎/脚本:三上紗恵子/主演)を経て、翌年の「変態の恋・蝶 -整形美容師-」(2007/監督:松岡邦彦/脚本:今西守/主演)に於いて3.5度目にして漸く若林美保としてのデビューを果たす。といふのが、改めて纏めてみると思ひのほかやゝこしい沿革。エクセスが完全に忘れてゐたのか、主演はエクセス初出演の女優に限る、いはゆるエクセス・ルールを何気に掻い潜つてゐるのが一興である。ついでといつては何だがエクセス・大蔵と来て残る新東宝初参戦は、友松直之の「尼寺 姦淫姉妹」(2013/百地優子・友松直之/主演:緒川凛)。
 といふ次第で、広瀬和菜こと若き若林美保の直截な印象は、喪服に合はせて下手にアップにした髪型に足を引かれた側面も否めないにしても、二十代の林由美香に劣るとも勝らないベータ版、あちこち端的に出来上がつてゐない。何なら小室優奈がベータ版で、アルファ版かも。二十近く若い筈なのに、不思議なほど有り難くない。寧ろ濡れ床屋同様、二作続けてエクセスライクのババを引いた木村純のバッドラックの方が際立つ。といつて、木村純も木村純で、不運なばかりで無罪といふ訳でもない。繋ぎのカットを細かく連ねてみせるのは、それだけで一見映画的に見えなくもないともいへ、濡れ場に際して別の意味で淫らにカット数を稼ぐのは考へもの。ブッツブツ、あるいはズッタズッタ音が聞こえて来さうな、まるで古の洋ピンのやうな有様で、時折体位にすら混乱を来しかねない惨状は明らかに悪手ではなからうか。全般的な尺の配分も、亜矢子と松木が何時の間にか何が何だか結ばれる締めの濡れ場も締めの濡れ場で、改めて驚くなかれ四十五分前から堂々と十五分を遂に撃ち抜く。となると、先に触れた序盤の超回想と、終盤の大(おほ)濡れ場。それだけで尺の半分がいはば潰れてしまふことのみならず、当然残り半分も、二番手・三番手の裸に削られるのはプログラム・ピクチャーの如何なる無理も通さぬ道理。となると元々好色で亜矢子をロック・オンしてゐた松木はさて措いたとて、亜矢子が松木との距離をゼロにまで縮める過程が、全く以て判然としない。少なくともPCの液晶画面で見る分には如何せん画が遠過ぎやしまいかと思へる、亜矢子が松木と何処かへ旅立つと思しきラスト・ショットに、狐に抓まれるほかない始末。無駄な手数と豪快な構成に、サッパリ埋まらない行間。気負つた風情も垣間見えなくはないものの、仕出かした系とでもしかいひやうのない初陣である。


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 「妹の匂ひ よろめきの爆乳」(2014/制作:オフィス吉行/提供:オーピー映画/脚本・監督:吉行由実/撮影:下元哲/編集:酒井正次/録音:シネ・キャビン/助監督:江尻大/監督助手:菊島稔章・増田秀郎/撮影助手:高田宝重/編集助手:鷹野朋子/スチール:本田あきら/現像:東映ラボ・テック/協力:目黒シネマ/出演:奥田咲・加納綾子・星野ゆず・石川ゆうや・さらだたまこ・岡田智宏・坂城君・白石雅彦・愛河シゲル)。
 何故かオフィス吉行ロゴはオミット、薄曇りの中、橋の欄干にもたれかゝり黄昏る主演女優を抜いてタイトル・イン。夏川真理子(奥田)が姉の原田典子(加納)に、どうして結婚したのかとザックリした問ひを無造作に投げてゐると、典子の夫・健二(岡田)が三人分のスタバ飲料を買つて来る。まるで真理子がそこにゐないかの如く、デレデレな姉と健二の様子に、真理子はもじもじアヒル口を尖らせる。ポップともいへ、惰弱なヒロインの造形に危惧が脳裏を掠めたのは、改めて後述するが後々的中する。真理子は女学生の頃、典子と当時は付き合つてゐた健二に大概苛烈な恋情を燃やし、目下は姉夫婦を、といふか健二を追ひ上京する。明らかに異常に原田家に入り浸る真理子に対し、妹は兎も角夫を信頼しきつてゐる典子はさして意に介さない反面、当の健二は地味に手を焼く。
 配役の重さを勘案するに、岡田智宏と坂城君の中途半端なビリングが明らかに奇異に映る出演者残り、愛河シゲルは真理子がモギリとして働く、ファースト・カットでは吉行由実前作のBL薔薇族「真夜中きみはキバをむく」上映中の目黒シネマ同僚・里香。実際に、真夜キバは薔薇族の小屋よりも先に目黒シネマで封切つてゐる。これもしかすると、ピンクの劇中で自作の薔薇族を絡めたのは史上初?ナベシネマを離れピンク三戦目となる坂城君は、目黒シネマの映写技師・今野春樹。里香いはく真理子としか会話をしない変り者との評だが、特にそんな風にも見えない。さらだたまこは、真理子が臆面もなく健二の妻を気取る、原田家の隣に越して来た下田。石川ゆうやは映画を観終つた出がけに、真理子に名刺を渡して行くデートクラブ「いつもニコニコ出会ひ隊」のスカウト・木村タカシでは流石になく卓巳。一向に気配の窺へぬ、三番手投入のタイミングに地味にハラハラさせられた星野ゆずが、出会ひ隊のデート嬢・はるか、白石雅彦ははるか・真理子と巴戦を戦ふ客・塚田。吉行由実もササッと紛れ込んでゐたやうな気がする、目黒シネマその他観客要員は計六名投入。たゞ一人、カメラに視線を送りかねない勢ひで堂々と見切れる菊島稔章の存在感。
 セルフリメイク元の監督第二作「姉妹どんぶり 抜かずに中で」(1997/脚本:五代暁子/主演:貴奈子)と、上野オークラは並べて封切つた吉行由実薔薇族込みで2014年第二作。そもそも、どれだけセンシティブに描いたところで所詮は自堕落女のモラトリアムな二股に過ぎず、「何がイノセント・キス―『姉妹どんぶり』原題―なら、ケッ」といふのが当サイトの冷笑であつた訳だが、今作はとてもでくそれどころで済まない、といふか遥か遠く水平線の彼方それ以前の大問題作。同じ話を暗いところで二度見せて、観客は眠たくならないのか?と思ひかけたのは全くの杞憂、全ッ然別の物語。再度そもそも、二作が共有するのは目黒シネマのモギリ嬢といふ主人公の職業のみで、真理子が別に二股かけてゐる訳ではないのに加へ、姉の配偶者に彼氏時代から変質的な横恋慕を拗らせる。要はメンヘラ女が棚牡丹感を爆裂させるストーカー男と結ばれる無茶苦茶な着地点には、幾ら無理からオサレなラストに押し込んでみせたにせよ―この点も「姉妹どんぶり」と共通とはいへる―度肝を抜かれた。何気に真理子が加速装置ばりの高速移動も発揮する、健二にはるかを強引に直撃させる出鱈目なハニー・トラップが、通常の映画ならば壊れかねないほどの無茶を仕出かしておきながら、殆ど功を奏さない―あるいは意味を成さない―豪快展開にも吃驚した。序盤に話を戻すと、真理子が姉夫婦のアツアツぶりにアテられる件。典子が自分のスタバに一口も口をつける前から、健二のを飲みたがる雑な演出に疑問を覚えたのは、結果的には逆の意味で順調に終始安定してゐたものと見える。重ね重ね挿み込まれる、真理子と健二の一度きりの過ちから、事実であつたのか真理子の性質の悪い妄想に過ぎなかつたのかすら最後にそもそも明らかでさへないものの、この件に関しては、奥田咲のエクストリームに魅惑的な肢体を、タプンタプンお腹一杯に堪能させる、裸映画上の絶対正義に免じて一旦等閑視、寧ろ大黒字。さうはいへ劇映画的には壊滅的なへべれけ具合に頭を抱へさせられるにつけ、順番を前後して観た何でもかんでも詰め込み過ぎた末に、鍋の底まで抜いた闇鍋映画たる2015年第一作「お天気キャスター 晴れのち濡れて」(主演:椿かなり)も想起すると、吉行由実の乱心をも疑ひたくなる由々しき事態。よもやこゝに来て、吉行由実が珠瑠美を上回るだか下回る破壊力を有するクライシスに、慄く羽目にならうとは思はなんだ。
 備忘録< ラストは今野と連れだつて歩くお腹の大きな真理子が、目黒に来てた思ひ出の映画を観る


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 「四十路熟女 性処理はヒミツ」(2015/制作:Blue Forest Film/提供:オーピー映画/監督:竹洞哲也/脚本:小松公典/撮影監督:創優和/録音:川本七平/編集:有馬潜/整音:高島良太/音楽:與語一平/助監督:小関裕次郎/監督助手:木村緩菜/撮影助手:佐藤雅人/スチール:阿部真也/仕上げ:東映ラボ・テック/出演:白木優子・和田光沙・羽月希・倖田李梨・山村尚史・松崎真衣・村田海斗・広瀬寛巳・岡田智宏・岩谷健司・山本宗介)。出演者中、山村尚史から広瀬寛巳までは本篇クレジットのみ。
 タイトル開巻、ど頭のオーピー映画新ロゴに続くBlue Forest Filmロゴがオフィス北野みたいに青く発光してみせるのは、デジタル化の成果か。
 栗栖さくら(白木)と、結婚十年の夫・後藤辰夫(岩谷)の普通に仲睦まじい日常。そのまゝ絡み初戦は夫婦生活で順当に攻める、ものかと思ひきや。吉行組を離れての初の外征となる羽月希が、辰夫の浮気相手・虎谷つむぎ役で飛び込んで来る三番手奇襲が画期的に鮮やかに決まる。てつきり白木優子の裸と思ひ込まされてゐたので、本当に目を見張つた。さくらは離婚し、羽月希と岩谷健司は潔く退場。折角尺も延びたのだから、もう少し羽月希のオッパイをお腹一杯拝ませて貰ひたかつた心は残す。目下のさくらは、何気にでもなくソノ気を寄せる若い高知明久(山本)と、コンビを組んでの保険外交員。一方、さくらの従姉!?の小沢もみじ(和田)は、夫の仁紀(岡田)と適度な距離感で暮らす。ある日、新しい人生の定まらぬさくらを見かねたもみじは仕事を強引に休ませ、さくらのアパートにて茶飲み話ならぬプリントーク。二人の高校時代の恩師・斉藤昌美(倖田)から届いた野菜にワッシワッシ舌鼓を打つてゐると、会社には途轍もない生理痛と偽つたさくらを、高知が見舞に訪ねる。高知の存在を知つたもみじは、レッツらゴーといはんばかりに囃したてる。
 配役残りビリング推定で山村尚史は、もみじのセーラー服夫婦生活の水を呼ぶ、コスプレ風俗のティッシュ配り。同じく松崎真衣と村田海斗が、早朝ジョギング―但し周囲の雰囲気的には夕方にしか見えない―中のさくらをアテさせるイチャラブなジョガーかウォーカー。この三人は、竹洞哲也の後輩筋動員。広瀬寛巳は食ふつもりなのか土手の雑草を摘む、凄まじいクラッシュデニムのルンペン。そんなひろぽんを見てさくらがぼんやりと口に出す、生きる意味云々は巨大なお世話の蛇足にしか聞こえない。
 佐藤総業のベンダーが見切れる点から類推するに、東京―かどうかは兎も角―パートも全篇仙台ロケしたと思しき、竹洞哲也2015年第二作。それとも、羽月希とかは連れて行つてゐないかも?因みに仙台といふ土地が劇中持つ意味は、農家に寿退職した昌美が嫁いだ先。後述する前作の平成日本で電車もダイヤ通りに運行しないほどの鬼田舎から、農家に嫁いだ先が東北の地方中枢都市・仙台―昌美宅前から徒歩でブラブラして駅前まで行ける―といふのも、なかなか乙に逆転した話ではある。
 それはさて措き、小屋の敷居を跨ぐ前の予習段階でさくらだもみじだといふ名前に既視感を覚え軽くググッてみたところ、何と今作は2009年第二作「いとこ白書 うづく淫乱熱」(主演:赤西涼)の、二十年後の続篇とのこと。湯船には浸かる倖田李梨は美魔女の華麗な一点突破でスライド、さくらともみじの従姉妹に関しては、さくらが赤西涼から白木優子までは別にすんなり呑み込めるものの、従姉のもみじがかすみ果穂から和田光沙といふのは流石に冒険的なキャスティングにも度が過ぎよう、和田光沙は座敷童子か何かか。酒井あずさを連れて来れば、別に容易にピシャッと出来上がる話のやうな気がする。男優部は被る岡田智宏も別人設定の総取つ替へ、昌美の夫(いとこ白書ではサーモン鮭山)は遺影もスルーして鬼籍に放り込まれる。井尻鯛(=江尻大)が、十年経つと岩谷健司になんのかよといふツッコミ処は、忘却の彼方に追ひ遣つてしまへ。
 デジタル・オーピー的には公開順に第九弾、相変らず暗めの室内では演者の表情が陰に沈んでしまふ反面、土手周りにさくら・もみじと昌美が女三人で散策する秋の仙台と野外撮影に際しては、豊かな色彩をクリアに捉へたひとつの成果ともいふべき美しい画面を披露する。印象的な黄色い朝焼けだか夕焼けは、もしかすると弄つてゐるのか。何れにせよ、フィルムで撮つてゐれば普通にもつと綺麗だといふのは、この際それはいはない相談だ。ところでお話の方はといふと、相変らず舌先三寸でひとまづ展開をつゝがなく進行させながら、最終的にはさくらが高知を掌の上で転がすばかりのドラマは、大きな盛り上がりにも深い感動にも遠い。まさか仙台撮影ゆゑ七夕映画とでもいふ超絶のコンセプトなのか、良くも悪くもさらさら笹の葉が揺れるか小川が流れ―過ぎ―るかの如き一作ではある。

 ひとつ首を捻つたのが、締めの濡れ場。さくらが一旦は膳を据ゑつつ、下着が地味だからと正しく土壇場で翻意。とはいへ結局何だかんだで事に突入するのはいいとしてといふか突入して貰はないと始まらないか終らないとして、問題が当の下着がガッツリシースルーの入つたガッチガチのセクシーランジェリーである点。絡みの導入といふ局面でちぐはぐさを露呈するのは裸映画的に地味な致命傷であることに加へ、仮に当該シークエンスが事前にホン読み―してるよね(´・ω・`)―した通りのものであつた場合、主演女優が脚本を全く理解してゐなかつた格好となる。


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 「女医の盗撮日記」(1992/製作:プロダクション鷹/配給:新東宝映画/脚本・監督:木俣瑠美/企画:田中岩夫/撮影:伊東英男/照明:隅田裕行/編集:井上編集室/音楽:新映像音楽/美術:衣恭介/助監督:国沢実/現像:東映化学株式会社/録音:ニューメグロスタジオ/出演:一の樹・愛、服部由香、秋川典子、野澤明弘、佐藤英司)。数見てゐると何でもないやうで色々あるもんで、一の樹・愛表記は初めて見た、しのざき・さとみみたいなものか。
 適当なピアノが鳴り開巻、診察器具の数々にタイトル・イン。豪華なディナー、かと思ひきや実は日はまだ高い。別姓なのか、妻・渚千里(一の樹)の医師国家試験合格を、夫でこの若さで産婦人科の開業医・山田勇作(野澤)と祝ふ祝宴。さういふ造形ならば最早仕方がないが、ノジーの口跡が始終らしからずマッタリしてゐるのが居心地悪い。料理もそこそこに、マニアの山田は千里のヌード撮影開始。とうに受け容れた、千里も気軽に応じる。診察室での湘南女子大生の患者・泉千恵子(服部)、別作から持ち出したと思はれる、医師会旅行の際の伊豆の旅館の女将の盗撮ビデオ(ビデオ画越しの女将役には手も足も出ない)を経て、千里もザクザク感化、あるいは点火。何処も悪くないのに山田医院に通ひ詰める山田いはく露出狂の、戸川理佳(秋川)の盗撮に千里もガンッガン加担する。
 大正義巨乳・一の樹愛の出演作を見られるだけ見ておくかと辿り着いた、木俣瑠美(=珠瑠美)1992年第三作。満足な物語の体を成さぬ漠然としたどころでは済まない五里霧中の展開を、アウトとインで五秒普通に費やす初見時には映写事故かと目を疑つた長尺フェードで繋ぐといふか、直截には全篇木に竹を接ぎ続けるのは良くなくも悪くも珠瑠美的には至極通常運行。ところがさういふ普通の映画監督の仕事ならば十分致命傷が、今作に於いては全然序の口。大概キナ臭い荒業を仕出かして来るから、何はともあれ見るなり観ずには話が始まらない。始まらなくて別に困らないやうな気もしないでもないが、兎も角進め、明後日だか一昨日に。首から上も下もファッションモデルかと見紛ふ服部由香がおまけに色も白く、下手に筆を滑らせると何でこんな超絶美形がビリングに紛れ込んでゐるのか判らないレベルなのだが、もしかすると演技の方は全く出来なかつたのか、濡れ場はといふと―序盤の顔見せ程度のビデオ映像と―薬で眠らされての短い一幕のみ。調べてみても他に仕事をしてゐる形跡が見当たらない、ミステリアスな絶対美人・服部由香の実質三番手ぶりには猛烈に後ろ髪を引かれつつ、問題はその退場後。大好きな山田先生に裸を撮られてゐることを実は了解済みな、里佳が山田が千里と結婚してゐたのを知るや態度を180°の斜め上に急硬化。二人を自身がママを務める店に呼び出し、逆凌辱するのがクライマックス、の筈なのに。山田と千里が里佳の店に到着するまででのんびりと尺を喰ひ、その後もああだかうだ稀薄な遣り取りに延々と終始。挙句本日休店だといふのに昨日ボトルを入れた客(後述)まで現れた末に、変にキレ上がつた里佳にギャンギャン責めたてられながらも、千里は脱ぐのを渋々渋り倒す。即ち、一応ラスト一分はそれなりにエクストリームな巴戦で駆け抜けるともいへ、終盤を丸々裸映画的に放棄する謎構成。どんッなに素面の劇映画としては詰まらなくとも、基本三本柱の粒は揃へ―現に今回も抜群に揃つてゐる―女の裸だけは満足に見せるのが、タマルミ映画の生命線ではないのか。失はれた十五分強が引つ繰り返した卓袱台を粉々に原子に還す、巨大な疑問符が来襲した使徒感覚で虚空に浮かぶ一作である。

 そもそも、もしくはところで。良夫役とされる佐藤英司が、里佳の初登場時に商店街の往来にて何事か取引を交す男なのか、ボトルを入れたばかりにも関らず席も温まらぬ内に追ひ返される男なのかも特定不能。この二人は完全に別人で、どちらも国沢実ではない。一体全体、商店街で正体不明の男から、理佳は何を受け取つたのか。


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 「犯す!」(昭和51/製作・配給:日活株式会社/監督:長谷部安春/脚本:松岡清治・長谷部安春/プロデューサー:伊藤亮爾/撮影:山崎善弘/照明:高島正博/録音:古山恒夫/美術:徳田博/編集:井上治/音楽:穂口雄右/助監督:坂下正尚/色彩計測:鈴木耕一/現像:東洋現像所/製作担当者:高橋信宏/協力:目黒エンペラー/出演:八城夏子《新人》・二條朱実・谷ナオミ・蟹江敬三・岡本麗・山科ゆり・三川裕之・森みどり・中平哲仟・高橋明・北上忠行・影山英俊・原田千枝子・田畑善彦・清水国雄)。出演者中、中平哲仟と北上忠行以降は本篇クレジットのみ。配給に関しては事実上“提供:Xces Film”か。
 ザラッとした男の横顔のネガに叩き込まれるタイトル・イン、ナイフを研ぐ手元にクレジットが走る。城南図書館の司書・八代夏子(八城)は、蔵書の整理に向かつた書庫にて、今でいふヤリマンの同僚・岡田ユキ(岡本)と、上司の高井(三川)の情事を目撃する。バスの中で互ひの性器を弄るカップルにも目を背ける帰り道、夏子はスーパーの店内で目が合つた蟹江敬三に、自宅マンションのエレベーターの中で犯される。
 正直ロマポは手に負へぬ配役残り、高橋明は図書館の守衛・島、この人もユキと関係を持つ。森みどりも図書館要員、夏子対面の同僚。谷ナオミは白昼見初めた蟹江敬三の毒牙にかゝりかける、温室の令夫人。山科ゆりは自身もリスを飼ひ、これで動物好きの蟹江敬三に―普通に―声をかけられる、大型犬の散歩をするGパンの女。二條朱実は劇中三人目の蟹江敬三被害者となる和服の女で、田畑善彦がその現場に駆けつける公園管理人。二條朱実をジャングルジムに連れ込み犯した蟹江敬三が、田畑善彦の気配に気付き闇の中にスッと身を潜めるカットが震へるほどカッコいい。原田千枝子は、初体験の相手が高井に似てゐたと、別にどうでもいい情報を夏子に伝へる同僚。何故かビリングに差がある影山英俊と清水国雄は、高井との二度目の約束をスッぽかし夏子が部屋までついて行くナンパ師の若者、田原政人(ex.大場政則)似の清水国雄が部屋の主・山田。中平哲仟は、山田宅からの帰りに声をかけられた夏子が再度葱を背負つてついて行く労務者。問題が、北上忠行がどうしても判らない。普通に考へると長距離トラック運転手たる蟹江敬三の相方といつたところが、各種資料には“クリーニングの男”とある。さうはいへ、クリーニングのクの字も見当たらないんだけど。
 長谷部安春昭和51年第一作、「暴行切り裂きジャック」(脚本:桂千穂/主演:桂たまき・林ゆたか)前作に当たる。昨年の九月から今作を津々浦々に回してゐたエクセスの胸の裡は判らないが、前田有楽は同じく三月末に死去した、蟹江敬三追悼を今回の上映に際し公式に銘打つてゐる。近いところでは坂本太の時も伊藤猛の時も別にそんなことしてないのにな、といふのは埒の明かない怨み言である。
 強姦魔に破瓜を散らされたお堅い女が、男を漁り始めるに至るも強烈な体験を忘れられない。蟹江敬三の色気と、女が抵抗を失するまで容赦なく腹パンを叩き込み以降もザクザク事に及ぶ、手慣れた戦闘力―反面防御は弱い―の描写にはギラつきを感じさせるものの、如何にも類型的か体のいい物語で、開巻との対照が鮮やかな切り抜け方は洒落てゐる呆気ないラストも、この頃には石を投げれば当たる一種の流行りに過ぎまい。昨今のピンク映画と比較して一見何もかもが豊かに見えかねないのは、それは演者の面構へ始め、要は失はれた二十年に完膚なきまでに打ちのめされた現在と、当時との時代自体の差でしかなからう。それをいふならば、一般映画も全部負ける。正直慣れないのに加へ、最終的には所詮過去の遺物でしかないロマポ戦は筆が重く、シネフィルに任せておくに如くはないのだが、小屋に来てしまふものは観ない訳にも行かぬ。といふのが偽らざる、あるいはその程度の心境である。ロマポよりも新版公開してゐない新田栄の「痴漢と覗き」の方が余程個人的には観たいところではありながら、これでこの期にロマポの集客力が馬鹿にならないやうなので、まあ仕方がないか。


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 「百合祭」(2001/製作:株式会社旦々舎・『百合祭』製作委員会/監督:浜野佐知/脚本:山邦紀/企画:鈴木佐知子/原作:桃谷方子『百合祭』《講談社刊》/撮影:小山田勝治/照明:上妻敏厚/音楽:吉岡しげ美/美術制作:塩田仁/美術:奥津徹夫/編集:金子尚樹/助監督:鬼頭理三/制作:松岡誠/撮影助手:岩崎智之・的場光生・赤池登志貴/照明助手:荻野真也・渡邉安子・河内大輔/照明応援:永井日出雄/美術助手:武川真由美/装飾:佐々木敬・池田大威/監督助手:松田康洋・田中康文/ヘアーメイク:内藤文子・馬場明子・木村麻美・伊原明美/衣裳:久保田かおる/ネガ編集:門司康子・神田純子・三上えつ子/編集助手:加藤かえ・堀善介/制作助手:加藤義一・井上久美子/音楽制作スタッフ:吉川清之・永井真一/ピアノ:吉岡しげ美/音楽録音:安良岡茂/クラシック選曲:竹田静也/整音:福田伸・瀬谷満/リーレコ:福田誠/特機:酒井幹夫・高久誠司/タイミング:永沢幸治・永瀬義道/オプチカル:尾又博/タイトル:道川昭/白雪姫挿画:堀内満里子/ポスターデザイン:首藤歩/スチール:岡崎一隆/ダンス指導:三浦幸三/製作協力:株式会社シバテック・有限会社フィルムクラフト・株式会社ライトワーク・株式会社東宝コスチューム・有限会社福島音響・株式会社シネオカメラ・愛光株式会社・明光セレクト株式会社・株式会社ホットエンターテイメント・東映化学/美術協力:株式会社舞クリエーション・高津装飾美術株式会社《南孝二》・株式会社マエヤマ《岸久雄》・株式会社和泉園《白井昇》・Karahana Atsugi《山岸ユカリ》・真多呂人形/音楽協力:響屋スタジオ・ガレージスタジオ・有限会社エレファンカンパニー/衣裳協力:小野今朝義・釜座 KAMANZA・絵麻亥由/ロケ協力:有限会社田中欽一写真事務所・株式会社サカイ引越センター・株式会社ポートサービス《横浜港観光船》・有限会社府中多摩スタジオ・浜松町更科・東京手描友禅 東京都工芸染色協同組合・箱根塔之沢温泉 元湯 環翠楼・Yokohama Bay Sheraton HOTER&TOWERS/協力:株式会社 美・ファイン研究所・財団法人 横浜観光コンベンション・ビューロー・Zippo Goods Collector&Historian きとうひろし/Special Thanks:松本侑壬子・小林三三男・山田あかね・中島佐和子・鈴木恭子・小林美和子・佐竹大俊・前山公彦・浅野光沙・三輪隆・佐久間公太郎・根岸利光・福間智子・中満誠治・梅林紀子・波多野ゆかり・磯山久美子・佐土あさみ・小林五十鈴・柳沢美々子・堀ひかり・村上紅太・前田真理子・関谷崇・入江孝之・伊東智恵美・村井佐知・横井有紀・伊藤美咲・鈴木静夫/出演:吉行和子・ミッキーカーチス・白川和子・中原早苗・原知佐子・大方斐紗子・目黒幸子・野上正義・大島圭子《友情出演》・井川修司・中村英児・小川真実・佐々木麻由子・斎木亨子・風間今日子・正司歌江)。一般映画のクレジットを拾ふのはくたびれる。
 ど頭には“日本芸術文化振興会芸術団体等活動基盤整備事業”と、後援の株式会社北海道新聞社と財団法人北海道文学館のクレジット。フェード明け一面に美しく咲き誇る白百合、ゆつくりとズームしてタイトル・イン。ポタンポタン滴る蛇口と、廊下にまで漏れる水溜り。火の点いたまゝのストーブに、引つ繰り返つた薬缶。何気な緊迫感を一旦さて措き、上品に割烹着を着込んだ吉行和子が料理に精を出す。夫とは七年前に死別した宮野理恵(吉行)が、仲良しの戸塚ネネ(目黒)の部屋にタッパに入れたお裾分けを届けに向かつたところ、ネネは急死してゐた。大家の毬子(野上)と妻の梅香(正司)に報せ梅香がガチャガチャ騒ぐ―ガミさんはオロオロ―中、理恵はネネと行つた、着物の展示会と帰りの蕎麦屋を静かに想起する。老女ばかりが暮らす、雰囲気を簡単に譬へると一刻館みたいな「毬子アパート」。毬子アパートに後述する横田か横手以来二年ぶりの新しい住人が、しかも男が入るといふので店子は騒ぎになる。ネネが暮らしてゐた六号室に越して来たのは、死別した妻の形見を後生大事に小脇に抱へる三好輝治郎(ミッキーカーチス)。女の扱ひに長けダンディな三好に、梅香まで含め一同は忽ち色めきたつ。
 配役残り井川修司と中村英児は、徹頭徹尾救ひなく酷い造形に、折角手を貸したのに心証を害しはしなかつたかと心配な引越しのサカイ作業員。白川和子は五年前に四十年の水商売を引退、長く夜の街を渡り歩いて来た矜持を今も持つ、毬子アパートの住人・横田レナ子、但し劇中ではどうしても横手に聞こえる。在りし日のレナ子のバーの回想には、ハットを渋くキメた山邦紀もシレッと見切れる。吉行和子と並ぶ一般映画浜野組の常連、大方斐紗子がアパートの最長老にして、猫婆さんの北川よし。芸達者揃ひのピンク映画勢からの第二の矢・小川真実―先頭打者はガミさん―は姑と猫に邪険にし、よしに家を出させる北川家の嫁。因みに、よしが飼つてゐる猫に関しては、梅香も快くは思つてゐない。中原早苗はアパート最年少といはれても別にピンと来ない里山照子、皆が三好にワーキャーする喧噪にファースト・カットでは一人蚊帳の外気味にクールな素振りを見せる原知佐子が、還暦も跨いで新興宗教デビューした並木敦子。ピンク第三の矢・佐々木麻由子は起承転結の転部の起点を成す、照子の下の娘で看護婦、大島圭子は死んでゐなかつた三好妻。四の矢五の矢・風間今日子は入院中の三好に尻を撫でられる看護婦と、a.k.a.佐々木基子の斎木亨子がナース・ステーション前といふ不自然なロケーションにて、深夜に三好と乳繰り合ふ入院患者。風間今日子に咎められた三好が、“僕の子宮回帰願望を満たして呉れるお尻”云々と言ひ逃れるのは実に山邦紀らしい。忘れてた、中村英児もピンク畑からの援軍だ。
 公開当時の上映会で一回きり観た後、買ふと申したのに頂戴したDVDで漸く再見した、浜野佐知一般映画第二作。今なほ上映する毎に―本当に―世界中で好評を博す、旦々舎の泣く子も黙るキラー・コンテンツである。実は二門中一門は破棄してゐなかつた、35mm主砲で映写した前田有楽で観られなかつたのは重ね重ね痛恨の極みながら、それはもういふても仕方がないから忘れろ。あんまり悔しくて買ふだけ買つた前売りが、まだ財布の中に入つてるけどな。
 マキシマム大雑把に掻い摘むと、イケメン爺さんの登場に、ババアが俄かに色気づく物語。時を経るにつれアクチュアリティを増す、稀有な題材を手にした浜野佐知が―この原作を―アタシが撮らずして誰が撮ると豪語するだけのことはあり、改めて見てみても抜群に面白い。百合祭よりも面白い浜野佐知のピンクを、十本挙げられるか挙げられないかといふくらゐに面白い。老いてなほ、否老いてこそ女達、決して元女達ではなく生涯現役の女達が希求する性と愛。女の側から、女が気持ちよくなるセックスを描く。そのやうな旗を振り我々概ね品性下劣な男客を相手に、基本女の裸を商品とする量産型娯楽映画で数十年数百本と戦つて来た、もとい現在進行形で戦ひ続ける。いはば旗を吹き千切らんとするアゲンストを、振る旗自体で風向きを変へて来た浜野佐知の膨大にして強靭なキャリアは2001年時点でとつくの既に伊達ではなく、三好を巡る毬子アパートの面々の好悪諸々のエモーションが火花を散らす展開は、以降折に触れ提出される、必ずしも屹立した剛直を必要とはしない性向の愉悦といふ勝手に命名した浜野佐知の第二テーマ。いはゆるひとつのハーレクインロマンスの如く、三好を王子様としてではなく、三好を囲む老女を六人の小人に、逆に三好を白雪姫として捉へるユニークなイメージにも加速され、あれやこれやのメッセージ性に同意するしない以前に、素面の娯楽映画としてストレートに見応へがある、それが何より素晴らしい。実際観客または視聴者には何も聞こえぬゆゑその時は藪蛇なシークエンスにも思へた、聞こえない筈の音が理恵には聞こえるロマンティック。理恵がネネと果たせなかつた、かしはそばの約束をレナ子と果たす件は地味に泣かせる勘所。そして白雪姫の底が割れた、つはものどもの夢のあとに撃ち抜かれる、衝撃の百合祭。面白い面白いと褒めてばかりなのも我ながら実に底が浅く芸がないとは思ひつつ、現に面白いのだから仕方がない。唯一開いてゐなくもない穴は、天下御免のネームバリューならば認めるものの、吉行和子と並ぶと殊更に際立つ、バーサンどころか正直今や完全にオッサンの白川和子のルックス程度。最後の最後で豪快に滑らせた与太は兎も角といふかこの際加速、夢想するのは二十一年後、浜野佐知の米寿記念。現在現役組で佐々木麻由子や佐々木基子や里見瑤子、カンバック組では小川真実にしのざきさとみ。呼べれば風間今日子や村上ゆうも連れて来て、ミッキーカーチスのポジションには竹本泰志かダーリン石川かなかみつせいじ、いや荒木太郎はねえよ。今度は本格的にガンッガン絡んで絡んで絡み倒す本濡れ場も敢行する、成人指定上等の「百合祭2」―あるいは百合祭エクストリームなりハードコアとか―といふのは如何か。


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 「新人OL 部長のいたづら」(1999/製作・配給:大蔵映画/監督:小林悟・国沢実/原案:堀禎一/脚本:三河琇介/撮影:柳田友貴/照明:ICE&T/編集:フィルムクラフト/スチール:佐藤初太郎/録音:シネキャビン/現像:東映科学[株]/監督助手:竹洞哲也・城定秀夫/タイトル:ハセガワタイトル/出演:港雄一・木下英理[新人]・風間今日子・里見瑤子・清水史鯉・井島かおり・桜たまき・坂入正三・牧村耕次/友情出演:薩摩剣八郎)。
 後述する、うららブラの大量に詰まれた段ボール箱が見切れる点を見るに、よもや実在する―してゐた―会社なのか下着メーカー「エクセラン」。人事もスッ飛ばし営業部長の恩田(港)が、入社志望の中島明子(木下英理/相沢知美のアテレコ?)をガンッガン手放しにセクハラ面接。途中で水を差したアベ(牧村)を恩田が叱責しつつ、採用される皮算用の明子が、試着させられたエクセランの新商品試作を持ち帰つたところでタイトル・イン。試作品をエクセランの大判封筒に入れ歩く明子に、エクセランのライバル社「セーラー」の凄腕営業・沖田(坂入)が接触。そんなクライシスも露知らず、恩田は殆ど情婦の部下・河野圭子(ドラッグクイーンばりに濃いメイクの風間今日子)との情事にうつゝを抜かす営業部に、新人の島田しのぶ(主に全く辿り着けないアテレコの里見瑤子)が配属され、恩田は改めて鼻の下を伸ばす。そんな最中、エクセランが発売予定の「うららブラ」に酷似した新商品をセーラーが―しかも五百円安く―先に市場に投入。ショップからはキャンセルが殺到し、エクセランは窮地に立たされる。
 配役残り清水史鯉と井島かおりは、エクセラン営業部のその他女子社員。小林悟前作とで井島と井鳥に名義がブレてゐるのは、本篇クレジット通りなので最早仕方がない。里見瑤子が尻まででオッパイも見せないのに完濡れ場を披露する桜たまきは、呼びつけた恩田をバター犬扱ひする下着店マダム。最近肩が凝つて仕方がないは、と港雄一に肩から始め色んなところを揉ませる、底の抜けきつた絡みの火蓋の切り具合が実に清々しくて素晴らしい。殆ど定位置の友情出演ポジションの薩摩剣八郎は、終盤出し抜けに火を噴く急を通り越した魔展開。マダムが殺された事件の捜査で恩田を訪ねエクセラン営業部を急襲する、南新宿署の足立、ついでに国沢実が連れの馬場。国沢実は背が高いので、馬場の苗字がよく似合ふ。
 各種資料に大御大・小林悟との共同監督とあるのを目にし、何だそりや本当なのかと見てみた国沢実1999年第二作。小林悟基準でも、矢張り1999年第二作。国沢実の号数が気持ち小さいものの、確かに本篇クレジットに於いても監督として小林悟と国沢実の名前が上下に並んでゐる。時期的には、今上御大・小川欽也の新作となると未だに助監督が加藤義一なのとは話が違ひ、1995年に監督デビューを果たした国沢実が翌年までは他の監督の下につくこともあつたとはいへ、1999年時点で助監督を務めてゐたとは考へ難い。そこで、兎も角蓋を開けた中身はといふと、これが、何といつたらいいものやら。二年後に壮絶な戦死を遂げる大御大が体調を崩し戦線離脱、流石にこの時竹洞哲也と城定秀夫に後を託す訳にも行かず急遽国沢実が招聘された。といつたストーリーも想像に難くないともいへ、直截にいふと何処に国沢実のディレクションがあるのかどころか痕跡の欠片すら窺へない、パッと見純然たる完全無欠の大御大仕事・オブ・大御大仕事。あるいは、不完全無欠といふか。
 ビリング頭に港雄一が飛び込んで来る奇襲で幕を開ける物語は、以降もある意味順調に小林悟の何時も通りに迷走。明子を文字通り抱き込んだセーラー社による、うららブラ強奪事件も気がつけば何処吹く風。まさかのマダム殺人事件はその場で恩田の濡れ衣が晴れたにも関らず、何故か圭子は恩田の下を去る。一方、こちらも用が済むやセーラー社を放逐された明子と交錯した消沈気味の恩田が、セクハラが俺の活力源と奮起に至る結末のへべれけぶりは、小林悟のものでなくして果たして何であらう。そもそも、堀禎一の原案とやらも一体如何なる代物であつたのか。左右にスキップしながら画面奥に捌ける恩田が、「イヤッ!」とジャンプするのがラスト・ショット。その瞬間、両手は広げ右足を横に上げた港雄一の体が、漢字の“下”の字を描くチャーミングな映画的奇跡が唯一もの救ひ。


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 「淫乱巨乳妻の白日夢」(2015/製作:多呂プロ/提供:オーピー映画/監督・脚本:荒木太郎/撮影・照明:飯岡聖英/編集:酒井正次/助監督:三上紗恵子・光永淳/撮影助手:矢澤直子・巽亮人・広瀬寛巳/制作:佐選人・小林徹哉/スチール:本田あきら/録音:シネキャビン/仕上げ:東映ラボテック/タイミング:安斎公一・小荷田康利/出演:大塚れん・西川りおん・峰岸ふじこ・なかみつせいじ・ダーリン石川・牧村耕次・稲葉良子《声》)。出演者中、アテレコのみの稲葉良子は本篇クレジットのみ。逆にポスターにある音楽の宮川透と協力の静活が、本篇クレジットには見当たらない。
 人形をあしらつた、多呂プロ立体ロゴにて開巻。これが結構な出来なのだけれど、今後も使用するのかな。
 ど頭と―紙芝居式―クレジット後のオーラスに、何故か荒木太郎と西藤尚がヒムセルフ&ハーセルフで登場、観客に向かつて賑々しい口上を繰り広げる。荒木太郎が腰が痛くて走れないだ、西藤尚が自称“貴方の心のスイーツ”だといつた小ネタに特段の意味は欠片もない割に、何となく腹も立たせず楽しく観させる。西藤尚いはく、次は脱いで絡むとの衝撃予告、本当だろね。因みに、ナベシネマでのレギュラーぶりに思はず通り過ぎかねないけれど、西藤尚の荒木組参戦は2011年第二作「発情花嫁 おねだりは後ろから」(主演:早乙女ルイ)―次作「人妻OL セクハラ裏現場」(主演:安達亜美)では声のみ―以来案外久し振り。この人若い頃よりも、今の方が顔の線がリファインされて美人な気がする。
 家内を掃除する正しく巨乳妻の登紀子(大塚)が、苛立たしげに布巾を辺りにガチャンガチャンガチャンと投げつけタイトル・イン。近所(山中湖周り)に外出した登紀子は、特徴的なンフンフ笑ひが気持ち悪い黒服の占ひ師(ダーリン)に見て貰ふ。ところが黒服は自分には手に負へぬと、登紀子は黒服の師匠がゐるといふグラウンド脇のあばら家「奇譚館」に連れて行かれる。紙芝居を手元に据ゑた老婆の師匠(牧村耕次/稲葉良子のアテレコ)は登紀子の夫の職業とセックスレスを看破した上で、このまゝ夫婦生活のない状態が続いた場合の、登紀子の生命の危機すら宣告する。元々の欲求不満がてら真に受けた登紀子は、疲労困憊して帰宅した弁護士の夫・横山昭二もとい昭次(なかみつ)に迫つてみるも、五年越しの冤罪事件を抱へた昭次は、老婆の占ひを一笑に付す。不貞腐れた登紀子の様子に昭次が文字通り重い腰を上げ頑張りかけたところで、矢張り中折れする。
 配役残り西川りおんは、殆ど芝居も与へられずダーリン石川と絡む黒服の女。大塚れんの爆乳に正しく勝るとも劣らぬいはゆる鉄砲乳を、もう少し拝ませて貰ひたかつた心は残す。ファースト・カットのマイク・アピール中では何気にハーセルフの峰岸ふじこは、風呂場でダーリンに犯された模様を盗撮された登紀子の窮地に、駆けつける友人・彩。素材的には日高ゆりあ似の―元―ギャルながら、モンスターの異名も誇る淫乱系の飛び道具。挨拶代りの謎のマスクマン(体格的には広瀬寛巳か佐選人?)との絡み、騎乗位で跨る瞬間アホになる時の世界のナベアツの顔になるのと、ダーリン以下広瀬寛巳・佐選人・光永淳・小林徹哉が増殖した黒服軍団に、ライトバンの中に拉致られ凌辱される件。口では嫌々、手足もじたばたさせつつ、最終的には全然ウェルカムな風情が爆発的に可笑しい。ここで本篇にも紛れ込む荒木太郎は、面倒臭げなプチアイランド児島第二総合グラウンド管理人。牧村耕次は横山弁護士が担当する冤罪事件の被告人も兼務、広瀬寛巳・小林徹哉・佐選人・光永淳は往来の林檎集団と、牧村被告人(仮称)の支援者を兼務。確か今回珍しく、淡島小鞠が見切れて来ない。
 前作同様公開題がストレートに体を表す、荒木太郎2015年第一作。前々作で荒木太郎は吹つ切れたのか、オーソドックスな起承転結なり物語を下手に追ふ営みはこの際潔く放棄。主演女優と二番手のオッパイで濃密に立ち込めさせた煽情性を、三番手の突破力でブチ抜いたかと思ふや、正体不明のオプティミズム薫るハッピーエンドに有無をいはさず捻じ込む。淫らな御鈴音の濫用にかつての荒木調ならぬ荒木臭の残滓が感じられなくもないものの、雰囲気と勢ひ―だけ―でザクザク見させる力技裸映画として、元々の荒木太郎の線の細い抒情性を適度な隠し味に、一作毎に力強く前に進んでゐる印象を受ける。あれだけフィルム文化の終焉を声高に嘆いてみせたにしては、雀百までといふ奴か、デジタルに移行して戦法に決定的な変更を加へられたやうには映らず。外光に屈するほかない屋外は流石に厳しい反面、屋内での濡れ場は、結構従来と遜色ない官能的な肌の質感に軽く目を疑つた。同録が出来るのだからしてもいいのに、依然アフレコに拘る姿勢も清々しい。1996年の荒木太郎と、その前年の国沢実。監督デビューはほぼ同期、終に燻りじまひかとさへ一旦は思へた最早どころでなく若くはない二人が、ここに来て藪から棒に元気なのが頼もしい、消える前の何とやらとかいはんでお呉れよ。


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 「中川みず穂 ブルーコアin香港」(昭和61/製作:プロダクション鷹/配給:新東宝映画/脚本・監督:木俣堯喬/撮影:伊東英男/照明:李伯鐘、鐘文、林偉文《ホンコン》 シブイ・工房《日本》/助監督:鎌田敏明・大内祐・遠藤聖一/撮影助手:佐久間栄一/コーディネーター:Charles Cho《ホンコン》/音楽:AMI企画/美術:衣恭介/効果:協立音響/編集:竹村峻司/スチール:津田一郎/録音:ニューメグロスタジオ/現像:東映化学/出演:中川みず穂・川上雅代・風原美紀・牧村耕治・青木竜也・泉ワ輔・野上正義)。
 適当な割にそこそこ尺を喰ふ香港ショットと概説ナレーション経て、ナレーションと、後に1カット見切れる置手紙とで名前の異なる香港の富豪(野上)登場。以下便宜上ガミさんと、多分川上雅代の絡みの途中で暗転してビデオ題のタイトル・イン。散発的に織り込まれる東京パート―それゆゑ、VHSパケにある“香港オールロケーションによる超大作”といふ惹句は必ずしも正確ではない―を込み込みで整理すると、ギャンブルに明け暮れるブン屋気取りのヒモ(青木)とのクサクサした生活に厭き、香港に遊びに来たホステスのユウコ(中川)が彌敦道の宝石店で模造品を買つたところ、店の表でオーナーのガミさんに声をかけられる。屋敷に招かれたユウコは、前妻とは三年前に死別したガミさんの、正妻の座に何時の間にか納まる。何時の間にかとは何事かといふ話なのだが、あくまでこの時点では明後日帰国する予定のユウコとガミさんの濡れ場後、本当に何時の間にか奥様になつてゐたりする底の抜け具合につき最早どうしやうもない。
 配役残り消去法で風原美紀は、中川みず穂の顔見せ挿んでガミさんが第二戦を戦ふパイパン処女。牧村耕治はガミさん邸のボーイ、ところで香港人の筈のガミさんもボーイも、開き直つたかの如く当たり前に日本語を話す。ヒモの花札と麻雀相手、ユウコが働く店のバーテンに初めてのアフター客、東京パートに十人弱見切れるその他勢は手も足も出せずに不明。問題が、とつくの昔に故人の泉和助(昭和45年没)に酷似した名義の泉ワ輔といふのが、香港にはそもそもそれらしき登場人物が見当たらず、東京だとするとどの人を指すものか矢張り特定不能。
 とまれ―ピンクにしては―大規模な香港ロケを観光もとい敢行した、木俣堯喬監督最終作、元題は「中川みず穂 ハードポルノ絶頂」。因みにjmdbをつらつら眺めるに、細君・珠瑠美の昭和61年最終第六作となる買取系ロマポ「香港絶倫夫人」(脚本:木俣堯喬/主演:川上雅代)と、二本撮りしたものと見てまづ間違ひないのではなからうかと思はれる。わざわざ香港くんだりまで出張つておいて、ヒロインたるユウコがガミさん邸に入つて以降そこから殆ど動かない出不精につき、然程有難味があるでもない。細部を端折つてばかりのザクザクした展開が突発的に、もしくはより直截には明後日に跳ねるのは、あちこち飛び回るガミさんが家を空ける隙に、ユウコが鍛錬するボーイを見初める件。牧村耕治のいはゆる怪鳥音と、頓珍漢なムーブを披露する珍拳法が捧腹絶倒。そこだけで大満足と見做すか、そのぐらゐしか見所がないと捉へるかは個々人のその時々の機嫌にでも委ね、最早俎上に載せる要もあるまい。凄まじいのが、下衆く深読めば引つ繰り返つた新東宝の姿も目に浮かぶ、空前絶後に酷い結末。折角なので堂々とバレてのけると、ボーイがユウコの部屋の前まで招いたと思しき、青いスーツの足元の正体はスッ飛ばしたまゝに、ユウコのボーイとの不義は、やがてガミさんに発覚。ボーイは馘、ユウコは監禁される。ユウコが何とかかけた国際電話でヒモを呼び寄せ、一発形勢逆転今度はガミさん監禁。どうにか拘束を自力で解いたガミさんが、ヒモとセクロスの最中のユウコに剣を振りかざし、悲鳴!・・・・かと思ひきや。スクリーム明けが獄中のガミさんまではいいとして、一方ユウコはヒモと普通に香港をサイトシーイング。啜り泣いてゐるのか笑つてゐるのか判然としないガミさんに、“彼は完全に狂つてゐた”なる字幕を投げ込むやクレジットが起動するラストはある意味確かに要撃的。全然面白くないことには百歩譲つたとて、100パーセント理解出来ない壮絶な投げ放しぶりに関しては腰骨も粉砕必至。本当意味が判らないんだけど、全部老囚人の妄想オチ?拡げた風呂敷の大きさが映画のスケール感にではなく、より際立つ仕出かし臭、あるいは破壊力に直結してしまつた超大作ならぬ超怪作。新東宝を激怒させた懲戒作?とまでは流石に言ひ切れぬにせよ、改めてjmdbを一瞥するに恐らく最初で最後の新東宝戦にて、斯くも豪快にやらかしてみせた木俣堯喬たら何てお茶目さん。

 以下は前作「ザ・夜這ひ」(昭和60/主演:城源寺くるみ)をフィードバックしての付記< 配役最後の残り泉ワ輔は泉和助の弟子で、ユウコホステス時代の初アフター客


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