真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「痴漢温泉 みだら湯覗き旅」(2009/制作:セメントマッチ/提供:オーピー映画/監督:池島ゆたか/脚本:五代暁子/撮影:清水正二/編集:酒井正次/音楽:大場一魅/助監督:中川大資/監督助手:新居あゆみ/撮影助手:海津真也・前田恵利子/編集助手:鷹野朋子/タイミング:安斎公一/現場応援:田中康文/協力:老神温泉『東明館』・スナック『炎炎』・鎌田一利/挿入歌:『世界の果てでダンス』詞:後藤大輔、曲・歌:大場一魅 『ちんたらまんたら行進曲』詞:五代暁子、編曲:大場一魅/出演:真咲南朋・山口真里・若葉薫子・なかみつせいじ・野村貴浩・竹本泰志・久保田泰也・池島ゆたか・大場一魅/Special Thanks:日高ゆりあ・倖田李梨)。「ちんたらまんたら行進曲」の、詞・曲・歌を拾ひ損ねる。出演者中大場一魅は、本篇クレジットのみ。
 二枚目にバージョンアップしたことに加へ、課長からも昇格した天国株式会社人事部長のザビエル(竹本)が、自殺者の多いことをタイムリーに嘆く。
 どちらか片方の部屋としても、何れにせよ住人との濃厚なミス・マッチ感は否めない文系オタク部屋にて、OLのユイ(真咲)はリリー(倖田)との浮気も通り越した本気―開き直つた当人談―の発覚した彼氏・達也(久保田)と、人生通算十二度目の破局を迎へる。真咲南朋をブスと口汚く罵る久保田泰也を観てゐると、結構本気でキル意を覚える。大場一魅に代りポスターにのみ出演者として名前の載る、田中康文演ずる人相の悪い痴漢男に無体な追ひ討ちをかけられたユイは、最終的には自死を期した温泉への傷心旅行を決意する。今作殆ど唯一にして最大の限界は、ユイが何をやつてもダメダメなネガティブ女といふ設定の割には、私選世界最高の名画「バットマン・リターンズ」(1992/米/監督:リア充になる前のティム・バートン)のセリーナ・カイル(ミシェル・ファイファー)のやうには効果的にも何も、真咲南朋の器量を悪くする努力を全く通り過ぎてしまつてゐる点。一方、大場一魅が「世界の果てでダンス」を歌ふ酒場。明和大学文学部教授の谷原(なかみつ)と、樋口ではなく山田(野村)が、絶望的に打ちひしがれた風情でグラスを重ねる。谷原は学内の派閥抗争の中で財前和義(池島)の謀略により職を失ひかけ、山田はといふと既に派遣切りされてしまつた挙句に、こずえ(日高)に対する一方的な好意も木端微塵に打ち砕かれてゐた。気分を変へるべく大場一魅が歌ひ出した「ちんたらまんたら行進曲」に背中を押され、二人も温泉地を目指す。バリバリ実名登場する老神温泉「東明館」、共に未亡人(設定)の女将・月子(山口)と仲居・星美(若葉)が、一人と二人の計三人を出迎へる。
 死にかけたルーザー達がミラクルでヘブンな旅館に集ひ、再起への活力を取り戻すポジティブな極楽温泉映画。特徴的ではあるもののミュージカル演出は全く局所的なものに留まる為、為にする以上のものでは特にあるまい。主要キャストが東明館に揃つてから以降は、打率十割で抜群の威力を誇る濡れ場が連打されることに概ね終始し、殊にドラマとしての有効打が放たれることも別にない。それ故、娯楽映画の傑作とまで賞するには些か当たらず、要はヤルことをヤッたらスッキリして元気が出て来まんた☆といふ、単にそれだけの物語に過ぎない。全く即物的であるが故に、逆に真実を突いてゐるといへなくもないが。尤も、現状を見据ゑた上での意識は明確で、最近のピンクでいへば「熟女淫らに乱れて」(2009/監督:鎮西尚一)のやうな、どうしやうもない暗さに逆に時代認識の甘さを認める立場からすれば、落とし処としてはこの辺りの音頭もとい温度が実は百点満点であるやうにも映る。煽情性に関してはいふまでもなく、コメディとしても完璧な濡れ場濡れ場をウキウキと、あるいはホケーッと楽しみ、細かいことは考へるなとでもいはんばかりに、ユイ・谷原・山田のエモーションを追体験する如く小屋を軽い足取りで後にする。個人的には今の時代に求められてゐるものは、悪くいへば“この程度”であつたとしても、かういふ映画だと思ふ。大傑作、「超いんらん やればやるほどいい気持ち」(2008)以降の失速感はある意味仕方もない池島ゆたか近作の中では、よしんば結果論的なものであるとしても時代との距離まで含めて、最も重要な一作といつてのけても過言ではないのではなからうか。北風なんて現し世の中で事足りすぎてとうに吹かれ飽きた。せめて小屋の暗がりの中でくらゐは、穏やかな南風に包まれてゐたい。たとへそれが、欠片の建設性も具へない怠惰な慰撫に過ぎないとしても。

 今回は自信を持つて、ロストしてしまつたものでは決してなく、神戸顕一は如何なる形であつても登場しない。汚職による財前失脚を伝へるTVリポーター役で見切れるのは、新居あゆみ。それと、超絶なテクニックを駆使し見えてるやうに見せてゐるのかも知れないが、自ら剃り無毛状態の星美を指で山田が責めるシークエンスに於いては、具がチョコチョコ覗いてはゐないか?


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 「夜のタイ語教室 いくまで、我慢して」(2009/制作:ネクストワン/提供:Xces Film/監督:黒川幸則/脚本:本田千暁・黒川幸則/企画:亀井戸粋人《エクセス・フィルム》/プロデューサー:秋山兼定《ネクストワン》/撮影:村石直人/照明:大橋陽一郎/編集:酒井正次/助監督:新居あゆみ/監督助手:関谷和樹/撮影助手:松宮学・重田純輝/照明助手:深川寿幸/スチール:MAYA/効果:山田案山子/協力:田口昇、他/照明協力:鳥越正夫/出演:かすみ果穂・倖田李梨・友田真希・久保田泰也・丹原新浩・石川雄也・井尻鯛・鎌田一利・ホルモン金沢、他・飯島大介)。
 結婚を間近に控へた後航平(久保田)と前倒して同居する小金井ハルコ(かすみ)は、魚を釣り上げた風情も否めない婚約者と結婚後の将来とに対し、漠然とした不満と不安を抱かぬでもなかつた。そんな折、二人の隣室に子供も既に独立した、古賀篤(飯島)とその妻・朱美(友田)が越して来る。スキン切れで中止した婚前夫婦生活、生殺しにされた形で手洗ひに入つたハルコは、洩れ聞こえて来る古賀夫妻の重量級の営みの気配に悩ましく豊かな胸を騒がされる。ここのシークエンスに於ける、飯島大介と友田真希が醸し出す、説得力が爆裂する安定感は尋常ではない。この二人ならば、未だ性の悦びをさほど知らぬ小娘を易々と圧倒する、官能の大海原を確かに現出し得るに違ひないと思はせる。ハルコがタイ旅行後かぶれた山本優子(倖田)に誘はれた、佐藤義則(石川)が講師を務めるタイ語教室に通ふ一方、優子自身は既に熱意を失ひ、教室に姿は見せなかつた。ハルコは知らなかつたが、バツイチの優子は既婚の佐藤と不倫の仲にあるものの、優子の側から関係を終らせる腹だつた。ハルコは優子から強引に誘はれた合コンにのこのこ参加した挙句、酔つた勢ひで、深海魚オタクの中野圭介(丹原)と一夜の過ちを犯してしまふ。そこはかとない心の隙間、隣家の熟年夫婦にもたらされた衝撃、中野との一件に関する激しい後悔。諸々に煩はされるハルカは、ベッドの上での男女の会話に特化したタイ語の俗流教則本を、教室から無断で持ち出す。出演者中、本篇クレジットのみの井尻鯛(=江尻大)から他までは、男女各一名づつのタイ語教室その他生徒と、四対四の合コンに際しての、女二男三名のその他参加者。確か脚本の本田千暁(=星崎久美子)の姿が、合コン会場に見切れてゐた筈だ。
 詰まるところは、他愛もないマリッジ・ブルーに囚はれかけたヒロインが、タイ語の力も借りこれまで表に出すことの出来なかつた、自身の感情なり願望を相手に伝へる一歩を踏み出せるやうになる、ざつとさういふ物語である。肝心のハルコの表出がセックスに関るものである点に関しては、ここはピンク映画である以上当然のこととしてもさて措くべきだ。隣室の古賀夫婦を筆頭に、ハルコを取り巻く周囲の人物配置も概ね定石通りに鉄板。とはいふものの、黒川幸則の演出はどうにも力あるいは緊張感に欠け、ワン・カットワン・カットが、一々微妙に終始心許ない。その為“さういふ物語”といふのが、単に “それだけの物語”にしか見えない。ハルコがそれまで、その前で手を拱(こまね)き立ち尽くしてゐた慎みの美名にも隠された扉を、自らの決意で果敢に抉じ開ける力強いハイライトも、黒川幸則の手腕といふよりは、寧ろソリッドなかすみ果穂の魅力と突破力とに頼りきりであるやうに映る。裸だけでもドラマの動因たり得る友田真希に対し、単なる濡れ場要員には止まらぬやうな色気も窺はせながら、最終的には倖田李梨の扱ひは宙ぶらりんに済まされてしまふ。鉢植ゑに水をやる霧吹きを、自らの顔に向け激しく自戒するかすみ果穂のショットはキュート過ぎて堪らない反面、だから結婚するといつてゐるハルコに対し、退場後痛メールを一通だけ送つて来る中野の処遇も尻切れトンボでなければ蛇足でしかなからう。一直線の筈のシンプルな主人公の成長物語は、大まかな破綻も無い反面カット単位で求心力に欠き、最終的にはそこかしこに物足りなさを色濃く残す。かういふ考へ方はフェアではないのかも知れないが、無視出来ない厳しいも通り越して正直絶望的な現況も鑑みるに、決定力の欠如を大いに難じざるを得ない一作である。

 そもそも。この際決然と筆を滑らせてしまへば、中村和愛や伊藤正治、北沢幸雄といつた名前には現在的な現実味に些か乏しいのかも知れないが、山内大輔や神野太、あるいは坂本太や下元哲、更には大門通に勝利一といつた目下沈黙勢。もしくは稼働中の実働部隊から友松直之や松岡邦彦を再加速。一体何がいひたいのかといふと、事いよいよのこの期に及んで、何を考へてか望んでか、エクセスがさして多くを期待出来るやうにも決して思へない黒川幸則に、ただでさへ僅かな新作製作本数を割き重ねて撮らせてゐるのかがよく判らない。最短距離でいつてしまふと、もつと他に幾らでも然るべき人間が居るのではなからうか。全般的に、悪い意味で纏まつてゐるだけの小粒感を漂はせる黒川幸則よりは、ツッコミ処が過積載の新田栄の方が、別の意味であつたとてまだしも、映画を観る楽しみに溢れてゐるやうな気の迷ひすらするのだが。


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 「三十路の性欲 手抜きはイヤ!」(1996『離婚妻のぬれ襦袢』の2004年旧作改題版/製作:プロダクション鷹/提供:Xces Film/脚本・監督:珠瑠美/撮影:伊東英男/照明:矢竹正知/音楽:プロ鷹選曲/美術:衣恭介/効果:協立音響/編集:田中編集室/助監督:加藤健二/出演:江本友紀・岩下あきら・谷口みずほ・鈴木英和・竹田雅則・樹かず)。無頓着にもポスターには加藤健二の名前が、出演者のところに並ぶ。
 裕子(江本)は恣なフリーセックス時代を通り抜けて、ひとまづ相坂勇作(鈴木)と期限付きの契約結婚する。その間裕子は更に思ふ存分セックスを貪るつもりであつたが、勇作の精力の限界に満ち足らず、仕方なく自慰に耽る日々を送る。とはいへそんな中、勇作は酔ひ潰れた上司の堀川(樹)を送り届けた先で、亭主とは冷戦状態にあるといふ細君・妙子(岩下)から誘惑されるや、ポップに据膳を頂戴する。一方、裕子は裕子でストレートに男根目当てで、四年前陵辱で裕子の処女を散らした、現在は司法試験に合格し検事補の結城(竹田)に連絡を取る。就職活動中の結城の義妹・松田洋子(谷口)が、勝手に持ち出した義兄の名刺を勇作が勤める会社に持ち込んだ弾みで、結城の名前が裕子の目にも触れたものだつた。
 登場人物の各々が、性的な側面に限らずともそれなりに繋がつてみせるのが関の山で、十全な起承転結も、そしてそれを統べる物語も、共にてんで存在する訳ではない。十八番の闇雲な、しかも意味がまるで判らないことの方が多い、イメージ・ショットの連打も影を潜めると明後日なヒット・ポイントにすら欠け、一言で片付けるならばルーチンな裸映画といふほかはない。とはいへ、新田栄のことが頭にあるからさうも思ひ込みがちになるだけで、案外この辺りが水準といへるのかも知れないが、女優三本柱の粒は全く綺麗に揃つてゐることと、谷口みずほの占める比重の軽さにさへ目を瞑れば、延々と連ねられる濡れ場濡れ場の、それぞれのテンポはそれでも決して悪くはないだけに、細かな詮索は放棄し腰から下で味はふものと割り切つてしまへば、これで結構楽しめぬでもない。主演の江本友紀が、確かにひとまづの美人としては要件を満たす反面、フワフワとした覚束なさも漂はせる一方、素の芝居に関しても芯の通つた強さを感じさせる、アクティブなショート・カットが堪らない岩下あきらの印象が一際強い。ピンク映画に何を求めるのかと問はれた際には、俺はまづ女の裸と答へることにしてゐる。それは決して、為にするポージングではないつもりだ。映画であれ何であれ、例へば盆栽でも鉄道でも何でも構はないが、男が何か好きなものがあるとして、通常女の裸はそれ以前に好きだらう。ならばピンク映画といふジャンルは、そのそれ以前に大好きなものと、後天的に好きなものとが融合してゐるといふ次第である、それを麗しき幸福と言祝がずして何といはう。

 一箇所爆発的にチャーミングなのが、勇作が身支度を整へながら裕子と会話も交しつつ、出勤する場面。結び途中のネクタイが、ワイシャツ右襟の上に出てしまつてゐる。しかも、当人としては当然ともいへるが面白いのが、顔色を窺ふに江本友紀は兎も角、鈴木英和はネクタイが襟の下を通つてゐないことに気付いてゐる。にも関らず、そのことを知つてか知らずか、珠瑠美は当該カットにオッケーを出してみせる。結果的な実際の映像としては、勇作は「しまつた、ネクタイがちやんと結べてねえぞ」といふ表情を見せながらも、段取りに従ひ仕方なく退場するのである。何だそりや、そんな天衣無縫な映画初めて観たよ。何だか逆に、実は芳醇な世界であるのかも知れないやうな錯覚すらして来た。観る者の脳髄を別の意味で蕩けさせる、ある意味危険な一作である。
 中身の全くないストーリーから、如何なる表題を捻り出したものか苦戦の跡も窺へる新旧タイトルではあるが、ところで“三十路の性欲”といふのは、一体誰の性欲のことなのか。劇中―公称スペックを真に受けた場合にも―裕子は二十一歳で、洋子も就活中の女子大生か短大生である。間違ひなく院生ではあるまい。妙子にしても、別に三十には見えないのだが。何故ここに来て、藪から棒にといふか薮蛇といふか、ともあれ逆サバを読まなくてはならないのか、何処から何処までファンタスティックなのだ。


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 「白衣快感 おつぴろげご奉仕」(2009/製作:関根プロダクション/提供:オーピー映画/監督・脚本:関根和美/撮影:下元哲/照明:代田橋男/助監督:中川大資/編集:有馬潜/監督助手:新居あゆみ/撮影助手:浅倉茉里子/照明助手:塚本宣威/選曲:山田案山子/効果:東京スクリーンサービス/出演:かなと沙奈・山口真里・里見瑤子・なかみつせいじ・久保田泰也・天川真澄・牧村耕次)。
 看護学校を卒業後上京したてで瀬抜きの相川ナナ(かなと)は、兄・良平(天川)とその妻・ゆり(山口)宅に居候しながら、徒名は和坊こと辻和人(なかみつ)が院長を務める病院に勤めてゐる。開巻唯一の診察カットには、中川大資が患者役として登場。妄想癖のある和人は未だ独身で、さうなると当然の如くかなと沙奈の裸をイマジン処理しつつ、ナナもナナで、和人の玉の輿を狙はぬでもなかつた。オールドミスの看護師長・矢部彩乃(里見)にいびられながらも健気に働くナナではあつたが、家に帰れば夜の営みもままならぬと、ゆりは義妹を早く追ひ出せと良平の尻を叩く。入院患者・花村宗輔(牧村)の看護にはナナが安らぎも感じる一方、大蔵省―劇中台詞ママ―勤務のエリート官僚・国重一太(久保田)が、左手首を骨折しただけで入院して来る。ナナは最初は気付かなかつたが、一太はナナの秘められた過去を知る人物であつた。だから関根和美に一つ問ひたいのは、大蔵省は翌年の中央省庁再編に伴ひ、2000年末を以て解体されてゐるのだが、ところで劇中時制は何時の出来事なのか。
 感動的に中身の薄い有体にいへばグダグダの物語の割には、不思議と寝落とされることもなく何故だか何気なく観了してしまつた一作。ナナがひた隠す秘密といふのが、単に元ヤンであつたといふことでしかない清々しい他愛なさの以前に、幾ら場数も限られるとはいへ、山口真里と里見瑤子の濡れ場の果てしない果てしない長さも、全体的に色濃い漫然さに強く作用する。秘密の核心といふ主力兵器が甚だ脆弱なだけに、ナナがスケ番であつた高校時代を和人に隠さうとする本筋よりは、早く出て行かせろと角を出すゆりと妹との板挟みになり狼狽するばかりの良平の兄夫婦と、ナナとが日常的にやり合ふ枝葉の方が、余程活き活きとし惹きつけて観させる。結局さしたる攻防も設けられぬままに、一太はコロッと何時の間にか彩乃に陥落。若気の至りが発覚したナナは腹を括り、退職願を提出するとメリケンサック・金髪ウィッグも実装した女番長ルックに武装した上で、「てめえら、みんなまとめてシメてやる!」とエモーションを藪から棒に暴発させ出撃するシークエンスには、関根和美は一体どうしたのかと腹と同時に頭も抱へさせられたが、最終的な一件落着への着地具合には、地味な手堅さが垣間見えもする。本筋がシャンとせず仕舞ひの内に始終ブレ倒した今作ではあるが、強ひてよくいへば、良くも悪くも掴み処のない一篇である。掴み処がないことが、どう転べば良くなるのかはよく判らないが。ともあれ、何となく楽しむ何といふこともない映画、といふカテゴリーの成立をもしも認めるならば、これはこれで、それでも意外と何ともなくもない完成度を誇るといへるのかも知れない。

 関根和美ファンとして特に注目したのは、和人のイイ歳もして『BOYS BE』な妄想癖設定を、微睡んでばかりの花村の白日夢が加速する、虚実の別が判然としなくなる瞬間。殊に和人がナナに求婚するしないの件には、ネイティブなメリハリの欠如を逆手に取つた、妄想と現実との境界の融解がもしやかなり踏み込んだレベルで追求されてゐるのではなからうかと刮目しかけたが、勿論それは私の考へ過ぎで、別に意識的なものでもなかつたやうだ。


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新田栄の感想のインデックスです。
当該タイトルを踏んで頂ければ、別ウインドウで表示されます。

新田栄
Dカップスペシャル 揺れる乳頭」(正式題、製作年不明)
緊縛 縄の陶酔」(昭和60)
ザ・ペッティング」(昭和61)
セミドキュメント 離婚妻の性」(昭和61)
AV秘話 生肌狩り」(昭和62/旧題:『ザ・ペッティング2 秘戯』)
恥ぢらひ女子大生 大胆舌戯」(1990/旧題:『ザ・ONANIE倶楽部 女子大生篇』)
痴漢女便所」(1990/旧題:『痴漢と覗き 穴の開くほど』)
ONANIE三昧 秘書もOLも貝いぢり」(1990/旧題:『ザ・ONANIE倶楽部3 変態OL篇』)
小悪魔の欲望 暴行体験」(1991/旧題:『制服暴行魔 放課後狩り』)
美人教員 バイブとセクハラ」(1991/旧題:『狂乱!!ハードバイブONANIE』)
義姉と弟 禁断不倫」(1991/旧題:『痴漢と覗き 義姉さんの寝室』)
大好きなお姉さん 性感帯バイブ」(1991/旧題:『異常性愛 OLバイブ責め』)
スケベ女の太股 濡れて奥まで!」(1991/旧題:『究極onanie 奥まで丸見え』)
人妻の覗き方 汚れた下着を狙へ」(1992/旧題:『痴漢と覗き ‐下着マニア‐』)
見られて燃えた姉夫婦」(1992/旧題:『露出狂姉妹』)
変態盗み撮り ‐生々しいSEX‐」(1992/旧題:『盗撮《生》ラブホテル』)
新妻の味 ONANIEと覗き」(1992/旧題:『ザ・裏わざONANIE』)
痴漢と覗き むちむちパンティ」(1992/旧題:『痴漢と覗き 体育会系女子寮』)
生撮り 一度は見たい、分娩室」(1992/旧題:『生撮り 産婦人科診察室2』)
痴漢温泉 変態露天風呂」(1993/旧題:『痴漢と覗き -盗撮女湯-』)
連続レイプ 突き破れ!」(1993/旧題:『ストッキング暴行魔 一発かませて!』)
就活女子 下劣な色気尻」(1993/旧題:『女子大生 スカートの下をゑぐれ!』)
痴漢と覗き 丸見え診察台」(1993/旧題:『産婦人科診察室3 ‐よく見せて!‐』)
四十路後家 情交おもらし痴態」(1993/旧題:『未亡人ONANIE バイブ篇』)
ザ・アダルト 性告白実話」(1993)
保健教師 ダブル不倫」(1993/旧題:『濃密セックス 校内不倫』)
告白 熟女のやり放題」(1994/旧題:『性告白実話 ハイミスOL篇』)
夜の痴漢病棟 ナースの尻」(1994/旧題:『新・産婦人科診察室』)
いんらん医院 狂つた夜の営み」(1994/旧題:『官能病院 性感帯診察』)
女3人 すけべ好き」(1994/旧題:『いんらん三姉妹』)
すけべをばさま 娘の彼と」(1994/旧題:『すけべをばさん 熟れすぎた乳房』)
痴漢電車 エッチが大好き!」(1994)
人妻を狂はせた 不倫の夜」(1994/旧題:『をば様たちの痴態 淫熟』
絶倫ハーレム男 三人の妻」(1995/旧題:『絶倫!!好きもの夫婦』)
未亡人サロン 先生もいらつしやい」(1995/旧題:『悶絶!!未亡人サロン』)
ホストの極太 中がとろける」(1995/旧題:『女性専用 出張性感ホスト』)
股を拡げたエロ夫人」(1995/旧題:『淫臭!!年増女の痴態』)
若い男に狂つた人妻」(1995/旧題:『激生!!人妻本気ONANIE』)
連続絶頂 イキまくる女達」(1995/旧題:『エロドキュメント 超・変態実話』)
熟れ頃教師 濡れすぎたパンティ」(1996/旧題:『発情教師 すけべまるだし』)
未亡人 男と女がゐる限り…」(1996/旧題:『どすけべ未亡人 私、好きもの!?』)
一度はしたい隣の女房」(1996)
四十路未亡人と猫 ねぶり責め」(1996/旧題:『痴漢と覗き 未亡人と猫』)
人妻おねだり 前と後ろも・・・」(1996/旧題:『何度もせがむ隣の女房』)
恥知らずシリーズ 不倫依存症の妻」(1996/旧題:『人妻パチンカー 玉ころがし』)
熟女後家 肉棒依存症」(1997/旧題:『未亡人旅館 ~肉欲女体盛り~』)
高校教師 喪服淫行」(1997/旧題:『喪服教師 のどの奥まで』)
いぢられ好きな人妻 すけべな性感帯」(1997/旧題:『すけべ妻の異常体位』)
本番淫欲妻 -つぼ責め-」(1997)
したがり家政婦 尽くします」(1997/旧題:『熟牝家政婦 淫乱ぬるぬる』)
すけべ女医 白衣の尻」(1997/旧題:『人妻歯科医 こすれる太股』)
馬小舎の未亡人 異常興奮」(1997/旧題:『馬と未亡人芸者』)
牝熟女 馬乗り愛撫」(1998/旧題:『いやらしい熟女 すけべ汁びしよ濡れ』)
愛人名器 ‐奥までイボイボ‐」(1998)
和服巨乳妻 不倫・淫乱・悶絶」(1998)
白衣のメイド 妊娠しない女」(1998/旧題:『飢ゑた白衣 脱がさずブチ込む』)
完全接待 無防備なパンティーで」(1998/旧題:『ノーパンしやぶしやぶ 下半身接待』)
和風旅館 若女将の赤襦袢」(1998)
暴虐白衣 下半身処方箋」(1998/旧題:『暴行診察室 白衣なぶり』)
和服ONANIE 濡れた腰巻」(1998)
和服義母 通夜に息子と」(1998/旧題:『喪服義母 息子であへぐ』)
人妻不倫痴態 ‐女医・弁護士・教師‐」(1999)
和服のコンパニオン 極上昇天」(1999/旧題:『和風コンパニオン 絶頂露天風呂』)
派遣の人妻秘書 やりつ放し」(1999/旧題:『人妻秘書  熟れ頃下半身』)
三十路の女将 くはへ泣き」(1999)
美人スチュワーデス 下着を脱がさないで」(1999/旧題:『黒い下着のスチュワーデス 感じすぎる乳房』)
腰巻本妻 丸裸の白襦袢」(1999/旧題:『出張和服妻 -ノーパン白襦袢-』)
どすけべ家族 義母も娘も色情狂」(1999/旧題:『義母と娘 羞恥くらべ』)
女開業医 世間知らずな性癖」(1999/旧題:『三十路女医 白衣欲情』)
老舗旅館の仲居たち 不倫混浴風呂」(2000/旧題:『人妻混浴温泉 不倫盛り』)
尼寺の痴漢 便所を覗け!」(2000/旧題:『痴漢と覗き 尼寺の便所』)
ONANIE教師 淫らな保健室」(2000)
白衣の羞恥心 かき混ぜて!」(2000/旧題:『白衣の令嬢 止めて下さい!』)
極楽昇天風呂 ‐カキ回して!‐」(2000)
性恥母 義母に責められて!」(2000/旧題:『義母35才 息子が欲しい』)
義母狂ひ 夫、義父、息子・・・」(2001/旧題:『義母の秘密 息子の匂ひ』)
美人家庭教師 舌使ひで性指導」(2001/旧題:『美人家庭教師 たらし込む快感』)
夜這ひ尼寺 一夜のよがり泣き」(2001/旧題:『尼寺の寝床 夜這ひ昇天』)
襦袢コンパニオン 密着露天風呂」(2001)
尼寺の恥部 見られた御不浄」(2001/旧題:『尼寺の御不浄 太股観音びらき』)
往診女医の疼き 介護恥療」(2001/旧題:『未亡人女医 極秘裏責め』)
女将三十五才 染みだすシーツ」(2001/旧題:『熟女温泉女将 うまのり』)
尼寺夜祭 おしやぶり修行」(2002/旧題:『尼寺の艶ごと 観音開き』)
介護SEX お義父さんやめて!」(2002)
和服熟女レズ 淫心不乱」(2002/旧題:『赤襦袢レズ -熟女こすり合ひ-』)
ザ・他人と情事 奥まで痙攣」(2002/旧題:『人妻不純交際 奥の奥まで』)
秘蔵尼寺 後家の乱れ腰」(2003/旧題:『尼寺の後家 夜這ひ床枕』)
白襦袢レズ 熟女ねぶり」(2003)
隣の不倫主婦 午後三時の淫汁」(2003/旧題:『破廉恥町内会 ‐主婦悶絶‐』)
美人添乗員 暴走下半身」(2003)
成熟尼寺 夜這ひレイプ」(2003/旧題:『尼寺の性 袈裟さぐり』)
黒犬と和服未亡人」(2003)
ザ・不倫ホテル ‐中出し熟妻‐」(2003/旧題:『熟女たちのラブホテル 玉いぢり』)
同性愛熟女 未亡人達の濃い味」(2004/旧題:『三人の未亡人 恥知らずレズ』)
ノーパン添乗員 あなたを握りたい!」(2004)
近親義母 息子でおもらし」(2004/旧題:『欲情義母 息子を喰ふ』)
飼育のレズ部屋 ~熟れすぎた恭子~」(2004)
お仕置き家庭教師 ノーパン個人授業」(2004)
尼寺の情事 逆さ卍吊り」(2004)
スチュワーデス暴行魔 三十路を狙へ!」(2004)
義母同窓会 -息子を食べないで!-」(2004)
恥母の湯巻 こすつて、もつと!」(2005)
和服のノーパン熟女 裾から匂ふ毛」(2005)
ノーパン理髪妻 好願夢恥」(2005)
韓流教師 下半身レッスン」(2005)
変態オヤジ 四十路熟女の色下着」(2005)
和服卍レズ 熟女の絡み合ひ」(2005)
義母の近親相汗 乳繰り合ふ」(2005)
五十路をばさん 助平つたらしい尻」(2005)
痴女女医さん 男の壷飼育」(2006)
若妻と熟年 指と言葉責め」(2006)
叔母と甥 溺れた恥縁」(2006)
熟妻交尾 下心のある老人」(2006)
人妻痴女ONANIE ノーパン便所」(2006)
四十路寮母 男の夜這ひ床」(2006)
白衣と老人 覗きぬれぬれ」(2006)
ダブルレズ 美人教師と尼寺の女」(2007)
痴母の強制愛撫 止めないで!」(2007)
理容店の女房 夜這ひ床間」(2007)
浴衣教師 保健室の愉しみ」(2007)
人妻女医と尼寺の美女 快感狂ひ」(2007)
潮吹きヘルパー 抜きまくる若妻」(2007)
国語美教師 肉厚のご奉仕」(2008)
レズビアン独身寮 密室あり」(2008)
高校教師 とろける夏期講習」(2008)
トリプルレイプ 夜間高校の美教師」(2009)
未亡人家政婦 -中出しの四十路-」(2009)


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 「恥知らずシリーズ 不倫依存症の妻」(1996『人妻パチンカー 玉ころがし』の2009年旧作改題版/製作:サカエ企画/提供:Xces Film/監督:新田栄/脚本:岡輝男/企画:稲山悌二/撮影:千葉幸男/照明:高原賢一/編集:酒井正次/音楽:レインボー・サウンド/助監督:佐藤史/監督助手:北村隆/撮影助手:ウオン・オンリン/照明助手:原康二/録音:シネ・キャビン/効果:中村半次郎/現像:東映化学/出演:岡崎ももこ、小川真実、早乙女宏美、平岡きみたけ、野口四郎、丘尚輝、鈴木ミカ、名執亮太、本多之秀、三浦丈典、秋山晃一、渡辺真、佐々木智明、日野元太、ブルックリン・ヤス、辻一子、久須美欽一/友情出演:田口あゆみ)。出演者中、丘尚輝から辻一子までは本篇クレジットのみ。友情出演の特記こそないが、田口あゆみの名前は新版ポスターにも載る。
 夜の中矢家、夫婦生活の事後あれやこれや旅行パンフレットを眺めながら楽しげに思ひを巡らせる夫・恭介(平岡)に対し、妻の紀子(岡崎)は気が気でない。新婚当初は経済的理由によりハネムーンを断念せざるを得なかつたものの、三年の倹約生活の末に漸く、纏まつた額の貯金が貯まりつつあつた。さういふ次第で恭介は何処に行かうかあそこがいゝかなと心を弾ませてゐつつ、ところが、ところがである!実はといふか何とといふか、紀子が選りにも選つて、しかも止めた約束のパチンコで貯金の大半を溶かしてしまつてゐたのだ。これ、仮に己が恭介のポジションで当事者であつた場合、確実にお縄を頂戴する自信がある。以前ノーパンで打つてゐた際―その前提からよく判らん―に、幻の20連チャンを引き当てたといふ伝説を持つパチンコ主婦仲間の田村涼子(小川)に相談してみたところ、涼子は紀子に、あつけらかんと主婦買春のススメを説く。そこで回想パートに登場する久須美欽一は、かつてその日負けた涼子が身を任せたこともある、パチンコ名人の土木作業員・吉川幹夫。折がいゝのか悪いのか、店内に吉川を見付けた紀子は、微塵も呵責を感じさせるでなく教へられた通りの段取りで、吉川に抱かれてはみたけれど。渡された五万の金では到底埋まる穴ではなく、軍資金だと注ぎ込んだパチンコには、案の定負ける。学習能力皆無のバカが馬鹿を重ねてゐる内に、終に紀子の巨大粗相は恭介に発覚。紀子が帰宅するとこれまで我慢して来た酒に既に酔つてゐた恭介は、当然の怒りを爆発させ夜の街に消える。
 jmdbのデータを真に受けると、実は今作が記念にならないピンク最終作となる早乙女宏美は、足下も覚束ないほど泥酔した恭介を、盛り場にてキャプチュードする如月真子。ベッドの上で意識を取り戻した恭介に、全裸になつた真子が迫る。当惑と逡巡とを振り切り、恭介がゴーの腹を固めたところで、怖いお兄さん登場。野口五郎との近似は髪型くらゐしか認められない野口四郎は、真子のスレイブ(護衛機)あるいは美人局・菊池健志。菊池が愕然とする恭介に、東京湾水泳大会―正確には水没大会―と引き換への、百万円を要求もしくは強要する。それにしても、最早輝かしいまでに類型的なシークエンスである。ある意味、プログラム・ピクチャーといふものはそんな塩梅で丁度いゝ時もあるのかも知れない、何せプログラムされてゐるのだから。
 店員役の丘尚輝から思ひのほか大量にクレジットされるその他大勢陣は、主にパチンコ店店内に見切れる皆さん。その中でも、菊池に渡す百万の工面に追はれる恭介が競馬に続き、スクラッチ式のインスタント宝くじにも撃沈する件では傍らに新田栄も姿を見せる、この人何気に出たがりか。そこかしこで画面を締める貫禄は流石と唸らされざるを得ない田口あゆみは、涼子のパチンコ友達。負けた涼子に缶コーヒーを差し入れし労ふ一幕があるのだが、短い繋ぎのカットながら、小川真実と田口あゆみの2ショットがもたらす安定感は比類ない。
 焦燥した恭介は最後の一万円札を握り締めパチンコ店に赴くかとしたところで、パチプロ並の腕前を誇る菊池と鉢合はせる。その場の勢ひで、恭介が勝てば百万は御破算、但し負けると倍額の二百万を菊池に支払ふといふ条件での、パチンコ勝負をする破目になる。ところが消耗した恭介は交通事故でリタイア、代つてそもそもの元凶たる紀子が、夫婦の命運を賭け菊池との最終決戦に挑む。とかいふクライマックスに至る展開は、配置済みの一発逆転必殺技の布石を踏まへても、パチンコ・バトルものとして実は定石通りの磐石さを誇る。仕方なく時代に後れる点は差し引いても、実用的な攻略法の類は一切盛り込まれないが。とはいへ、そんな折角きちんと誂へられた卓袱台を豪快に引つ繰り返してみせるのが、誰あらう例によつてのエクセス・クオリティを爆裂させる主演女優の岡崎ももこ。乳も尻も大きいといへば確かに大きいくはあれ、まあ腰周りも太い、といふか全体的な骨太感が半端ない。加へて、この人誰かに似てるんだよなあ・・・・?などと首を捻る余地もこの期には存在しない。当時としては兎も角現在の目からすれなば、正しく瓜二つとはこのことか、まあお笑ひトリオ「ロバート」の秋山竜次にソックリな女である。無論、一欠片たりとて有難くなどない。そして、そんな自分よりデカい女房役の相手を務める平岡きみたけはといふと、これ又何と綺麗なマッシュルーム・カットよ(笑。夫婦生活の濡れ場に際しては、あつて然るべき煽情性を明後日なファニーさが凌駕する。直截にいふならば珍しく、物語本体は完成してゐるだけに、紀子役だけでももしも仮に例へば林由美香であつたならば、一歩間違へれば娯楽ピンクの傑作として歴史、の片隅にその名を残して、ゐたかも知れない一作。とまでいふのは、流石に筆を滑らせるにも過ぎるであらうか。一件落着後、オーラスの紀子と恭介の絡みの前には、早乙女宏美の緊縛もお約束程度に差し挿まれる。但しこの件、屈折したお仕置きぶりはストレートに洒落てゐる。

 ところで、いはずもがなをいふが、新題にある“恥知らずシリーズ”といふのは清々しく何のことだかサッパリ判らず、下の句も下の句で感動的に適当極まりない。新田栄の過去の作品群の中に該当するタイトルが見当たらなければ、昨今の旧作改題を見渡してみたところで、別の監督まで含めても同シリーズが冠された他作は存在しない。事こゝに至ると聖性さへ漂はせるアバウトさではある。大体がぞんざい感が唸りを挙げる、旧題も旧題なのだが。何でだか何にだか、愛ほしいやうな気持ちにすらなつて来た。


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 「萌え痴女 またがりハメ放題」(2008/制作:セメントマッチ/提供:オーピー映画/監督:池島ゆたか/脚本:五代暁子/撮影:清水正二/編集:酒井正次/音楽:大場一魅/助監督:中川大資/監督助手:新居あゆみ・合津貴雄/撮影助手:海津真也・種市祐介/編集助手:鷹野朋子/スチール:津田一郎/録音:シネ・キャビン/現像:東映ラボ・テック/現場応援:田中康文/協力:鎌田一利・内藤和之/出演:若葉薫子・山口真里・倖田季梨・なかみつせいじ・野村貴浩・牧村耕次・池島ゆたか・神戸顕一・田中康文・中川大資・新居あゆみ)。出演者中、神戸顕一は本篇クレジットのみ。
 もくもくスモークの焚かれる中、若葉薫子が自慰に耽る。その模様を映写される映像として注視してゐた池島ゆたかが、スクリーン越しに雷を落とす。顧客ではなく社長が神様なのか「天国株式会社」の人事課長・ザビエル(池島)は満足な功績を果たせない天使課のウテナ(若葉)に、死神課への異動を命じる。正しく地上に堕とされたウテナは小鳥、のオモチャのティアラ(アテレコ主不明)を案内役に、仕方なく行動を開始する。結果的にティアラは特段の働きを見せる訳でもないゆゑ、さうなるとのうのうとチープな玩具をキャラクターとして劇中に登場させ、ピンク映画のレス・ザン・バジェットぶりを馬鹿正直に曝け出すよりは、寧ろ別にゐなくとも良かつたやうな印象は残らぬでもない。ウテナに与へられた任務は、指定された二人のターゲットのうち、何れかを実行―即ち、その対象者は死ぬ―し、もう他方は今回は見送るといふもの。当惑するウテナの前に、工藤俊作のやうなヴィジュアルの死神課凄腕大先輩・ミッシェル(牧村)が現れる。ミッシェルは鬼のやうにカッコいいのだが、ただもしも実際に工藤ちやんのセンを狙つたのであれば、シャツの襟は上着の上には出さないべきだ。ミッシェルが目下抱へる標的は、坊主頭にサングラス、といふコンセプトで統一したところ、背格好が変わらないため遠目には識別不能のヤクザ者二人組(田中康文と中川大資)。ひとまづウテナはオタク街にて、キャップの上から更にパーカのフードを被つたカメコの夏川誠(なかみつ)に接触してみる。撮影を乞ふフリをして近づくと、天使の特殊能力でホテルにチャッチャと瞬間移動。濡れ場がてらウテナが覗いてみた誠の頭の中身はオタク嗜好に完全に占められ、社会への参画意思はまるで感じられずウテナは閉口する。二人目の候補者は、内縁の妻・洋子(山口)と暮らす振り込め詐欺師の高志(野村)。ほぼ夫婦生活を経て洋子が何事か打ち明けようとするのを、再びかゝつて来たカモからの電話が遮る。今度はダイレクト極まりない逆ナンを装ひ、ウテナは高志にコンタクトする。モノの大きさとテクニックは素晴らしかつたが、高志は高志で頭の中身は、洋子への愛情も感じられなくはないものの、金と色の低劣な欲望に塗(まみ)れてゐた。
 新居あゆみは近未来の2038年、ナースロボット2028の「みらい」(倖田)の修理に、老年に差しかゝつた誠の下を訪れるオーバーオール姿のエンジニア。168チップの不具合を直したみらいを再起動させると、体を壊した誠がナースロボット2028を本来の用途以外に、セックス・アンドロイドとしても使用してゐた恥づかしい事実が露呈してしまふ。
 何がどう転んでこんな羽目になつたのだかよく判らない、根本的に仕出かした木端微塵である。ウテナが、触れた相手の人間性を、脳内メーカーの如きイメージで把握することが出来る能力を持つといふ設定の説明から足らない上、“実行”の判定を下すのは誠と高志の果たしてどちらなのかといふ決断に関しても、それぞれとの絡みを一通りこなすと次の場面では、コマダ(田中)がパクられる原因となつた下手を打つたのを理由に、高志はいきなり兄貴分(中川)に撃ち殺されてしまふ。これでは要は、少なくとも編集の結果としてウテナは殆ど迷つてゐない。その後死神課から金融担当に転籍、更に天国清掃係への降格もちらつかされながらの死神課再異動、2038年の第二次誠篇に際しては、的は一人きりで選択肢は実行のみと来ては、単に現場担当のウテナがモタモタ逡巡するほか物語の膨らみやうがない。意味が判らない、わざわざ主人公の選択可能性をゼロにしておいて、それで果たしてドラマが成立するのか。母親の死後、唯一の親戚である誠に養子として引き取られ育てられたつよし(野村貴浩の二役目)と、同僚の藤本さん(こちらは山口真里の二役目)との恋の芽生えも、メガネを蔑ろにした言語道断も断じてさて措けないがそれはここは兎も角、つよしが高志と洋子の間に生まれた息子である旨を何故だか明示しない、あるいは展開の中で有効に消化してゐないため、時空を超えたロマンティックな巡り逢ひといふよりは、単に頭数を並べられないピンクの安普請が先に立つ。泉由紀子と望月梨央を足して二で割つたやうな若葉薫子の、二次元のやうに伸びやかな手足がてんで活かされない、不足ばかりの顛末をとりあへず通り過ぎたその先で爆発的に木に竹を接ぐ、何故か薮からに誠とみらいのラブ・ロマンスに着地してみせる別の意味で驚天動地の結末には、かなり大きな衝撃を受けた、逆の意味で。何時ウテナは死神から、青の妖精に転職したのか。それ以前に、演出の責なのか演者の限界なのかロボット演技が学芸会な、しかも終盤に突入して漸く登場して来た倖田季梨に、唐突にクライマックスを担はせてのけるのは到底通らぬ相談、エクス・マキナぶりにもほどがある。池島ゆたかが、終始正方向の志向を以てして当たつてゐたであらう節は勿論窺へる反面、それでゐて、どうしてかうまで壊れ果てたのかが感動的に解せない一作。強ひて評するならば、ちぐはぐ大作。基本的に、デフォルトで六十分に限定された尺に比して、脚本が過積載であつたのではあるまいか。

 油断してゐたつもりは決してなかつたものの、映画を観るのに普通に熱中し途中まで忘れてゐて、順番は前後して又しても神戸顕一が何処に如何なる形で見切れてゐたのかロストしてしまつた。振り返つてみると可能性としては、高志の部屋の卓袱台近辺が本命候補か、とは思へるのだが。

 地元駅前ロマンでの再見に際しての付記< 開き直る訳でもなく、拙稿を改める要は特にも何も清々しく認めない。ただ問題は、確かに本篇クレジットには名前の載る神戸顕一。相変らず確認出来なかつた以前に、よくよく考へてみると前作「親友の妻 密会の黒下着」(オーピー/主演:友田真希)で既に、悲願の神戸顕一池島ゆたか監督作百本連続出演を何が何でも達成した以上、そもそも無理から捻じ込む必要が発生しない。

 数度の再見を経て、漸く確認した神戸顕一ポイント< 高志のファースト・カット、の頭に、神戸顕一が表紙を飾る『AHERA』誌がコソッと紛れ込ませてある


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 「喪服妻の誘ひ尻」(2002『三十五才喪服妻 通夜の暴行』の2009年旧作改題版/製作:フィルム・ハウス/提供:Xces Film/監督:勝利一/脚本:国見岳志/企画:稲山悌二/プロデューサー:伍代俊介/撮影:創優和/照明:野田友行/編集:フィルムクラフト/録音:シネキャビン/助監督:竹洞哲也/スチール:加藤彰/監督助手:土肥拓郎/撮影助手:宮永昭典/照明助手:深沢修治/メイク:パルティール/タイトル:道川昭/現像:東映化学/出演:亜崎晶・佐々木基子・中渡実果・前川勝典・千葉誠樹・銀治・泰享介)。脚本の国見岳志は、勝利一の変名。出演者中、泰享介は本篇クレジットのみ。
 商店街組合会長の葬儀から、お好み焼き屋「じゅうてん」(現存する)を営む田中昭三(前川)と春子(亜崎)の夫婦が、喧嘩しながら戻つて来る。春子が香典袋に中身を入れ忘れ、昭三は恥をかいたのだ。帰宅しても依然諍ひがてら、春子と昭三は一発パンチの効いた夫婦生活を展開する。正しく「トムとジェリー」の主題歌に歌はれる、「なかよくけんかしな」を地で行く二人ではある。事が済むや、昭三はいそいそと趣味の釣りにと出掛けてしまふ。日々砂糖と塩を間違へてみたりするオッチョコチョイの春子に対し、釣りにうつゝを抜かす昭三も昭三で、互ひに包み隠さない不満を抱いてゐた。所帯を未だ構へてゐない男のいふことでもなからうが、それもまたひとつの、幸せの形であらう。田中家を春子の妹・夏子(中渡)と、その夫・山田一郎(千葉)が訪れる。二ヶ月前に出産したばかりの夏子は普段は実家に帰つてゐるが、けふは一時的に一郎を訪ねて来てゐた。夏子が戻る飛行機の時間まで少し間のある妹夫婦に鍵を預け、春子は店に出る。さうなると今度は山田夫婦も昼間から夜の営みをオッ始めてみせる点に関しては、この際いふまでもあるまい。春子が「じゅうてん」に到着すると、主婦アルバイトの明美(佐々木)が、店主がやつて来るのを待つてゐた。二人で開店準備を始めたところに、出入りする酒屋の御用聞き・佐藤(銀治)も顔を出す。そして春子が今度は買出しに店を空けると、実は不倫関係にある明美と佐藤は大胆にも開店前の店内にて情を交す。要はこゝまで、ナニの根も乾かぬ勢ひで濡れ場濡れ場が連ねられるばかりでしかないのだが、素の商店街人情譚としての作り込みがしつかりしてあるため、自堕落な裸映画といふ印象はまるでなく、頑丈な娯楽映画としての充実が寧ろ強い。
 恐らく誰かの変名ではなからうかとも思はれる泰享介は、昭三と二人川面に釣り糸を垂れながら、「行く川のながれは絶えずして、しかも本の水にあらず・・・・」とか、方丈記の冒頭を吟じてみたりする釣り仲間の橋本教授。早く店に出てくるやう春子からは厳命されつつ、昭三は明日の休みに二人でイワナの渓流釣りに行く約束を確認するが、生憎橋本には外せない用事が出来てゐた。かといつて諦めきれない昭三は、一人でも決行する腹を固める。橋本のほかに、女二男一名の客で「じゅうてん」は賑ひ、そこに夏子を見送つた一郎も顔を出す。閉店後、昭三は後片付けも春子に丸投げし、翌日の道具の準備だと勝手に帰宅する。完全に臍を曲げた春子は、夫愛用のトレッキング・シューズを、台所のゴミ箱に捨てる。翌朝、春子は寝たふりと知らないプリテンドとを兼ねる中、昭三は仕方がないのでアディダスの普通のスニーカーで山へと向かふ。
 スマートなルーチンワーク作家・勝利一の、マジカルな一作。二段構への伏線も敷設された無常な因果応報が爆裂し、春子が二度目の喪服を、今度は当事者として激しい後悔も伴なふ悲嘆に暮れながら着る破目になるまでと、急拵へ感も確かに否めないとはいへ、佐藤の山形帰郷が起動するまでは、下町系のオーソドックス・ピンクとして全く完璧な出来。尤も以降が、失速してしまふ、とまでいふには決して酷くはないのだが、ともあれ少なくとも、出し抜けに映画の舵を九十度真横に切る急旋回を仕出かしてみせる。山登りに譬へると七合目辺りまでは順当に登つたところで、そこから先が、物語を十全な起承転結の枠内に纏め上げる営みを概ね放棄。代つて、超攻撃的な春夏姉妹を主砲の座に据ゑた、ツイン喪服が都合三度火を噴く怒涛のエロ映画へとシフトしてのける。中渡実果(ex.望月ねね)はいふまでもなく、キュートなルックスと全盛期のエクストリームな爆乳とを誇る。一方色の白さにも加速された硬質な、かといつて温かみは決して失はない絶妙さをも兼ね具へた亜崎晶の美人度は、しばしばエクセスが繰り出すあれやこれやの惨劇も思ひ返すに、ある意味信じられないほどに素晴らしい。映画を背負ふ主演女優が美人なのは、通常の世界に於いては別に驚くには当らないともいへるのだが。妹と比べれば多少見劣りもするものの、それは相手が悪い。実は結構充実した春子のオッパイも、それはイモーショナル(【imotional】、名詞形のイモーション【imotion】は“in motion”からの合成造語)な破壊力を誇る。正しく咲き誇る主人公美姉妹の威力に任せ、本来ならば無体な作劇にさして疑問を感じさせるでなく、再び召喚した橋本教授をチル・アウトな切り札に、正直少々無理矢理ではあつてでも意外とすんなり畳んでみせる振り逃げは、実に鮮やか。ピンクと映画との割合を、初めは四対六辺りで攻めて来るものと見せかけておいて、最終的には七対三程度に落とし込む荒業を披露する変則的な快作である。

 ところで、主人は今作と同じく前川勝典で、女房がこちらは佐々木基子といふ矢張りお好み焼き屋が、二年前のフィルムハウス作「未亡人理容室 痺れる指先」(監督:坂本太)に於いてもかつて登場したのが想起されるが、同じ物件か否かまでは、流石に確認に至らなかつた。

 付記< 坂本太の「未亡人理容室」に登場するお好み焼き屋も矢張り「じゅうてん」で、前川勝典がリアル店主


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 「痴漢電車 極秘本番」(昭和59/企画・制作:伊能竜/配給:新東宝映画/監督:滝田洋二郎/脚本:高木功/撮影:倉本和人/照明:石部肇/音楽:恵応泉/編集:酒井正次/助監督:佐藤寿保/監督助手:橋口卓明/撮影助手:乙守隆男・井田和正/照明助手:佐藤才輔/編集助手:岡野弘美/美術協力:周知安/録音:銀座サウンド/現像:東映化学/協力:トルコ三浦屋吉原店/出演:竹村祐佳・真堂ありさ・青木祐子・池島ゆたか・外波山文明・荒木太郎・江口高信・五味慶太・高円寺誠・本橋直美・周知安・弁天太郎・工藤一平・幡寿一・江戸川乱・螢雪次朗)。企画と制作を務める伊能竜は向井寛の変名で、撮影の倉本和人は現在倉本和比人。
 慶長二十年(1615)大阪城、豊臣勢の負けを悟つた真田幸村(不明)は十勇士の配下・猿飛佐助(螢)に、霧隠才蔵(登場せず)の持つもう片方と照合した時にのみ意味を持つ、豊臣埋蔵金の在り処が暗号によつて記された密書を託す。一路江戸へと向かつた佐助を、服部半蔵手下のくノ一・陽炎(竹村)が襲撃。激突する二人を、摂津和泉地方に起こつた巨大地震が襲ふ。“時間の割れ目”―本篇ナレーションまゝ―に放り込まれた二人は370年の時を超え、(公開当時)現在の江戸改め東京を走る電車の車中にタイム・スリップ。佐助は早速痴漢を働いてみた、正直さういふ才媛にも別に見えないがとまれ東大生・服部鳶子(真堂)と出会ふ。実は服部半蔵の子孫である旨は隠したまゝ、戦国時代の日本史を専攻する鳶子はどうやら本物の忍者であるらしい佐助に興味を抱き、自宅に匿ふと同時に巻物の暗号解読に着手する。一方陽炎は城を模した外装の、トルコ三浦屋吉原店に彷徨ひ込む。源氏名・淀君(青木)を本物の淀君と勘違ひした陽炎は、ひとまづトルコ嬢として大奥と思ひ込んだ三浦屋に身を置く。ここで江口高信が、陽炎・ミーツ・淀君のシークエンスに登場する風俗筆卸客。ところが、伊賀仕込の高速茶臼で客(又しても不明)を悶絶させたまでは良かつたものを、淀君にSM行為を働くヤクザ客(矢張り不明)を狼藉者と斬り捨ててしまつたことから、陽炎は三浦屋にもゐられなくなる。再び乗り合はせた電車にて、女性客に痴漢しながらスカウト活動を行ふなどといふ、へべれけなキャラクター造形はこの際さて措き、実はこちらは霧隠才蔵の末裔に当たる零細芸能プロダクション「霧隠芸能事務所」社長・霧隠留蔵(池島)に、例によつて痴漢されつつ陽炎は拾はれる。都合もう一名登場する痴漢要員は、多分本橋直美。
 忍者×トルコ風呂×痴漢電車、オリエンタル風味満載―半ばヤケクソ―の一作。尤も、痴漢電車は登場人物の各々を引き合はせる形式上のギミックに止(とど)まるゆゑ、本筋を如何に電車痴漢に収束させ得るかといふ点に娯楽映画の肝としての論理性が試される、痴漢電車ものの麗しさといふ面に関しては、一段落ちるといはざるを得ない。忍者を現代日本にタイム・スリップさせる、などといふ最大級の大技を繰り出しておきながら、以降は正直こぢんまりとした暗号解析と、ためにならない俗流キャンプ趣味に淫しなければ殊更な見所にも欠き、霧隠芸能事務所に於ける小ふざけは、滝田洋二郎の看板を徒に押戴かないならば、特にどうといふ訳でもない。とはいへ一旦は佐助らを目出度く埋蔵金に辿り着かせておいて、二度目の力技も駆使しSF風にいへば時空の自己修復機能を起動させる、アイロニーの匂ひも漂はせるダイナミズムは素晴らしい。外波山文明と荒木太郎は、その際に登場する徳川家康と茶坊主。心なしか、今でも特徴的な荒木太郎の眉毛が、更に黒々と立派に見える。特撮やアクションのチープさに関しても、バジェットに屈した仕方もない事情以前に、古き良き黎明期の忍者映画への回帰と言ひ包められなくもない、ファンタ系の快作である。これで真堂ありさがもう少しは時代の波を越え得る美人であれば、更に全く評価も変つたらうに。
 淀君に SM狼藉を働いたヤクザ者に加へ、鳶子に連れられ駅を後にする佐助に、少し肩がぶつかつたくらゐで無礼者扱ひされる可哀相な若い男(案の定不明)、更には留蔵。劇中計三名が仮借なく斬り殺されてしまふ無邪気なバイオレンスは、少なくとも現在の目からすれば珍しく映る。留蔵が陽炎を鳶子と組ませて売り出した、「お忍びシスターズ」―最早そこには立ち止まるな―が出演するテレビ番組の司会者は、片岡修二の変名である周知安。一箇所画期的に目を疑つたのが、豊臣隠し財宝を手にした佐助・鳶子・陽炎の三人が、狂気、もとい驚喜ついでに車内乱交に戯れるゲリラ撮影。一旦は画面奥から車輌を隔てるドアの所まで差しかゝつた車掌が、注意もせずに引き返して行くのである。何と穏やかに大らかな時代よといふべきなのか、あるいはカメラには映り込まない手前で、車掌が生命の危機すら思はず感じてしまふほどの、オッソロシイ強面のスタッフが睨みをきかせてゐたのか。

 そんな中、個人的に最も心の琴線を明後日に激弾きされたのは。妙にユニセックスな物腰とパナマ帽とがチャーム・ポイントの留蔵が、電車内をくノ一装束で徘徊する陽炎に声をかける際の爆裂口説き台詞、

  「テクノだねえ」。

 何処がどうテクノなんだよ!何が何だか一欠片も理解出来なければ、一小節のサウンドも胸の中には鳴り響かないが、ともあれ正体不明のパンチ感だけは比類ない。与太を吹くやうだが役者としての特性に、池島ゆたかはもつとかういふ破壊力を思ひ出すべきなのではあるまいか。


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 「折檻調教 おもちやな私」(2009/製作:マジック・アワー/提供:オーピー映画/監督:松原一郎/脚本:関根和美/撮影:下元哲・小山田勝治/照明:代田橋男/編集:酒井正次/助監督:中川大資/編集:酒井正次/録音:シネキャビン/選曲:山田案山子/監督助手:新居あゆみ/撮影助手:浅倉茉里子/照明助手:塚本宣威/編集助手:鷹野朋子/スチール:佐藤初太郎/現像:東映ラボ・テック/緊縛:上坂孝次出演:吉行由実・伊沢涼子・酒井あずさ・佐々木基子・久保田泰也・金城真史・牧村耕次・なかみつせいじ)。
 マスターの三輪潤一(なかみつ)が、バイセクシュアルの従業員・麻里奈(酒井)と切り盛りするハプニングバー「S」。「S」に清掃会社での勤務経験のある山崎留美(吉行)が、店内清掃・各種雑役、時には一部接客も含む求人に応募して来る。特殊な業態にも関らず即決で留美を採用した三輪は、実は留美に、母・咲子(当然吉行由実の二役)の面影を見てゐた。久保田泰也と、同じ芸能プロダクション「アトムズプロダクション」所属の金城真史は、「S」の客要員。一歩間違へれば伊沢涼子が小娘にすら見えかねない超強力な布陣の中、こゝの若造二人の際立つ弱さは如何せん否定出来まい。そのほか関根和美とその愛妻・亜希いずみ、更に下元哲が、クレジットは一切ないまゝ店内に見切れる。当サイトの記憶と記録に間違ひなければ、オレンジ色のスーツ姿の亜希いずみは、「四十路の奥さん ~痴漢に濡れて~」(2006)以来の銀幕登場となる筈。
 初めて「S」を訪れた和服の女・百合子(佐々木)が、麻里奈から性癖に関するアンケートを尋ねられがてらあれよあれよといふ間に、その場の皆さんも交へての緊縛浣腸の餌食となる。その壮絶な痴態に衝撃を受けた留美は、帰宅後激しい自慰に狂ふ。
 配役残り、スパンコール全開の度派手なジャケットで登場する牧村耕次は、三輪とは飲食同業者仲間のオカマ・マキコ。牧村耕次だからマキコて・・・・関根和美のプリミティブが火を噴くぜ。傍若無人な振る舞ひで興味を惹いたマキコを返り討つ伊沢涼子は、資産家令嬢との常連客・愛。度を越した我侭ぶりに手を焼いた三輪は閉店後、睡眠薬で眠らせた愛を麻里奈と共に陵辱する。忘れ物を取りに戻つた留美がその模様を目撃してしまふ一方、口封じにと写真も撮られた愛は、「変態!」と三輪に吐き捨て「S」から姿を消す。留美は愛の発した「変態!」といふ単語にも、更に無闇に背中を押され欲情してみる。
 夜毎にハプバーにて繰り広げられるエクストリームな乱痴気騒ぎに、さうはいつても妙にアクティブに惹起され過ぎる留美の官能と、何事かただならぬ風情も漂はせつつ、三輪が留美に対して秘かに仮託する母親への慕情。二本立ての主モチーフに関してそれぞれ十分な説明が為されることが必ずしもなければ、一本の劇映画としての、標準的な起承転結の中に十全に織り込まれる訳でも別にない。本筋の首は然程どころでなく据わらないまゝ、最終的には重量級の濡れ場濡れ場の畳み込みで押し切る潔い作劇は、それはそれとしてエロ映画的に全く麗しい。ところが、ある意味さういふ風に高を括つてもゐたところ、愛蹂躙の件を予想外の伏線に、刹那に叩き込まれる鮮烈なラストには激しく心を撃ち抜かれた。単なるアグレッシブな裸映画はアグレッシブな裸映画で、ピンクといふカテゴリー上固有の特殊な要請として勿論あつて然るべきであらうが、なほのことかといつてそこにのみ止(とど)まるでなく、下元哲が頑丈な技術によつて狙ひ澄ましたニュー・シネマの時代も髣髴とさせるフィニッシュ・ブローは、侮り難しといふ意も含め強烈な印象を残す。正しく、プログラム・ピクチャーの底力を感じさせる一作。愛の退場は、留美が濡れ場に回収してそこで完結と、まんまと思ひ込まされてしまつた。要は更に遡る百合子の時点に於いて既に、段取りが整へられてゐた寸法になる。全く思惑通りにしてやられた次第で、完敗を認め中折れを脱ぐに如くはない。

 何はともあれ、昨今全盛期を再開させた感もある、吉行由実のオッパイの破壊力が甚大。百歩譲つてよしんばそれだけであつたにせよ、寧ろ全然それで構はないではないか。


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 「覗き痴態 わき毛の熟女」(1998『盗撮熟女 すけべな浴室』の2009年旧作改題版/製作:IIZUMI Production/提供:Xces Film/脚本・監督:北沢幸雄/企画:稲山悌二《エクセスフィルム》・業沖球太/製作:北沢幸雄/撮影:図書紀芳/照明:渡波洋行/編集:北沢幸雄/音楽:TAOKA/録音:中村幸雄/助監督:堀禎一/監督助手:三輪隆/撮影助手:袴田竜太郎・市川修/照明助手:小倉正彦/ヘアメーク:りえ/スチール:佐藤初太郎/ネガ編集:酒井正次/タイトル:道川昭/録音所:シネキャビン/現像:東映化学/出演:秋吉かほり・篠原さゆり・サイコ国沢・佐々木基子・牧村耕二・杉本まこと)。
 夜の松本家、離婚後姉夫婦宅に居候する北原礼子(秋吉)が呑気にシャワーを楽しんでゐると、親戚の葬儀から姉・陽子(佐々木)とその夫・俊之(杉本)が、開巻早々喧嘩しながら帰宅。陽子は俊之が九州転勤を自分より先に叔父に打ち明けてゐたのに臍を曲げ、先に風呂を浴びさつさと寝る。半年前に前夫と別れて以来すつかり御無沙汰の礼子は、姉とは長くセックスレスの状態にあるらしき義弟を清々しく気軽に誘惑すると、浴室にて情を交す。事後恐々寝室に入つた俊之が、陽子が寝てゐるのを確認して床に入つたところで、出し抜けに杉本まことにピン・ライトが当てられたかと思ふとカメラの方を向き、「良かつた、女房にバレたらどうしようかと思つた」。「それにしても、女房以外の女とのセックスつて、どうしてこんなに気持ちいいんでせうねえ」だなどと、俊之は説明的な安堵を観客に対して漏らす、

 何だこの演出。

 少なくともこの時点にまで於いて、幾ら導入部に止(とど)まるとはいへそれにしても正方向には一欠片たりとてどうといふこともない上で、藪から棒に北沢幸雄が繰り出したらしからぬプリミティブな無茶もしくは粗相に、一体これからこの映画はどうなつてしまふのだらうかと、道を明後日に外れた期待感はひとまづ喚起される。期待といふか、要は半分以上困惑に占められてもゐるのだが。
 翌朝、家は別々に出たものの、葛藤も隠せない俊之に対し礼子から纏はりつく形で二人連れ立つて出勤する一方、陽子は洋服箪笥の中からジョイトイを取り出すと、朝つぱらから自慰に耽る。陽子も陽子で、決して肉の悦び自体を全否定してゐる訳ではないのなら、夫を受け容れてあげればいゝのに。
 絡みも堂々こなす、純然たる役者として参加する国沢実の役者名義のサイコ国沢は、礼子の新恋人にしてクローン研究者・川井彰。人混みに出れば秒殺で酔ふ勿論大絶賛童貞の堅物と、礼子がどのやうにして出会ふに至つたのかは全く語られない。デート中の二人を川井の部屋に放り込む方便として、田中(誰なんだ)を捕まへようとして川井を突き飛ばし、足を挫かせる大柄な男は堀禎一。事実上濡れ場を連ねるピンク映画の生理のみに殆ど従ひ、俊之は舌先には反しズルズルと義妹との関係を重ねて行く。牧村耕二は、俊之が礼子との不倫に関して相談を持ちかける友人の谷憲司郎。ところが谷はそんな俊之のナイーブさを一笑に付すと、部下兼不倫相手の佐野英美(篠原)を呼び寄せ、マゾヒストの資質があるとの英美を剃毛するプレイを、俊之に見せつける。まあ然し、物憂げな篠原さゆりに絆されて縦に振れぬ首でもないが、何と自堕落な展開よ。もう少し全体の作りが硬質でなければ、珠瑠美の映画といはれても頷けよう。
 英美を伴なひ谷が抜いた映画の底が、塞がれる修復は結局終ぞない。仕方がないのでトレースしてのけるが、礼子は俊之との関係は継続する腹のまゝ川井と二度目の結婚を決め、他方、俊之はといへば陽子との関係は依然一ミリも改善されない上に、子供もゐないといふのに単身赴任で九州の地に独り寂しく旅立つ。さういふ次第の、本筋らしい本筋も姿を現さず仕舞ひの出来自体から無体な物語に、都合四度炸裂する俊之ピンスポ・モノローグなる頓珍漢な飛び道具のほかには、詰まるところ特にも何もこれといつた見所は全くない。製作から脚本・監督・編集までと、四役を自ら務めながら北沢幸雄は、一体何を考へてかういふ最大限によくいへば他愛もない映画を撮つたのかが晴れやかに度しかねるミステリアスな一作。直截にいふと、ルーチンな珍作である。

 ところで、フと原題を鑑みたところ、あれ?今作の中に盗撮要素なんて何処にあつた!?新題も新題で、腋毛なんて生やしてたつけな、何から何処までグダグダだ。そんな微温湯に浸かるやうなマッタリとした映画体験も、時には一興と思へるやうになつた。えゝんかいな、それで。


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 「団地妻《秘》セックスライフ」(1990『団地妻 恵子のいんらん性生活』の2009年旧作改題版/製作:メディア・トップ/企画:《株》旦々舎/配給:新東宝映画/監督:浜野佐知/脚本:山崎邦紀/撮影:稲吉雅志・片山浩/照明:秋山和夫・金田満/助監督:毛利安孝・安達良春/車両:田島政明/音楽:藪中博章/編集:金子編集室/録音:ニューメグロスタジオ/現像:東映化学/出演:白木麻弥・風間ひとみ・平賀勘一・山本竜二・南城千秋・芳田正浩)。出演者中、主演の白木麻弥がポスターには白木麻耶、豪快だなあ。それとポスターのみ山崎邦紀の名前が載るが、実際に出て来はしない。
 一棟だけでも巨大な高層住宅が、しかも幾重にも連なる正しくマンモス団地。とある棟の707号室に、会社専務の安達啓二朗(平賀)とその妻・恵子(白木)が暮らす。専務さんが何でまた団地住まひなのかといふささやかなミスマッチが、解消されることは別にない。開巻を飾る夫婦生活を経つつ、翌朝啓二朗を送り出した恵子は、そそくさと別棟へ向かふ。その棟の401号室を、訪問ではなくあくまで帰宅した恵子は、その時間に戻つて来るコンビニ店夜勤店長の内藤靖(南城)を、今度は妻・洋子として迎へる。再び二度目二つ目の夫婦の営みを終へた後、綺麗に昼夜の逆転した靖は就寝。夕方、起き出した靖が出勤すると、洋子は再び恵子として安達家に戻り、啓二朗の帰りを待つ。何れが元々の本名なのか、あるいは何れも既にさうではないのかは不明ながら、啓二朗と靖、対照的な二人の夫の生活パターンを利用した、華麗な二重生活を恵子あるいは洋子は送つてゐたのだ。それぞれの夫の、休日には一体洋子もしくは恵子はどういふ身の処し方をしてゐるのだ、といふ疑問を持つことはとりあへず禁止の方向で。内藤家の隣室・402号室に住む橋田球味(風間)は、毎夕出かけては夜が明けてから帰宅する洋子に対し、浮気してゐるに違ひないとある意味余計な世話を焼いた猜疑を募らせる。閉口する夫・辰夫(山本)の制止も聞かず、双眼鏡を手に珠味は洋子の行動の監視を開始。靖は眠る内藤家の受話器を、安達家から転送された電話が鳴らす。啓二郎の部下・カワハラユウイチ(芳田)からのものだつた。この場合は洋子改め恵子は、カワハラの昼休みを利しての慌ただしい不倫の情事も重ねてゐた。夫が二人居る時点で、不倫もへつたくれもないといへばないのだが、まあ忙しい女だ。カワハラと二人、団地の棟々を遠目に見やりながら恵子は胸中を漏らす。各々の窓の中には一つ一つの人生がある筈なのに、かうして眺めてしまへば、所詮全ては均質化する。
 一種のアクティブ過ぎる諦観ともいへるのか、いはば自らの同一性さへ放棄しようとさへいふかのやうな、恵子や洋子の多重生活。女優二枚看板のルックスが清々しく時代を超え得ない点のみが少々苦しいものの、現代社会にカウンターを放つドライな思想的冒険が生み出す騒動をてんこ盛りの色めく情事で彩る今作は、手放しにスリリング且つ見所に溢れる。その上で、頑強な浜野佐知の女性主義が今回は火を噴かないのもあり、イマジネーションがその力強い翼を思ふがまゝに羽ばたかせるか、基本線としては低目から次第に迫り上る日常的な視線を主とするのかといふ、現実との接地度に若干の違ひがあるだけで、最終的には山﨑邦紀の映画といへよう。徹底して世俗的な嫌味もとい球味の攻撃性、当然のことながら、翻弄されるばかりの啓二朗と靖に、純然たる巻き込まれた第三者にして、穏当な常識人である辰夫。諸々との対比で主人公の飛翔を際立たせる堅牢な論理性は、正しく山﨑邦紀のものに違ひない。更にカワハラを放り込んで渦の勢ひを増す一手間や、全く定石通りともいへ、しなやかなラスト・カットも心憎い。殊更に気負ふでもなく頑丈な地力がスマートに決まる、旦々舎ピンクここにありを叩き込む素敵な一作である。

 ここから先は、狭義の映画の感想とは全く関係がなく、直截に滑らせた筆である。新作製作本数が正直絶望的に激減したきのふけふだからといふ訳では決してないが、単に新作ではないからといふ理由だけでかういふ映画を門前でキャンセルして済ますやうな姿勢は、喰はず嫌ひにすら当たらない怠惰極まりない思考停止に過ぎまい。だなどと、巨大な世話も省みず大いに難じるものである。

 以下は再見に際しての付記< オーラスに後ろ寝姿だけ見切れる、恵子の次なる同居人は鈴木静夫


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 「白日夢」(2009/製作:アートポート・ベルヴィー/監督:愛染恭子・いまおかしんじ/脚本:井土紀州/製作:松下順一・窪田一貴/企画:加藤東司/プロデューサー:小貫英樹/ラインプロデューサー:藤原健一/原作:谷崎潤一郎《中央公論新社刊》/音楽:碇英記/撮影:田宮健彦/照明:藤井勇/助監督:伊藤一平/美術:羽賀香織/録音:沼田和夫/編集:目見田健/制作担当:山口通平/絵画:高橋つばさ/衣装・メイク:エレファントチョップ/協力プロデューサー:寺西正己/撮影助手:河戸浩一郎、他二名/照明助手:藤野ミチル、他一名/監督助手:田辺悠樹・加藤学/スチール:中居挙子/制作主任:田山雅也/制作応援:國井克哉/タイミング:安斎公一/編集助手:鷹野朋子/協力:アクトレスワールド・アーバンアクターズ・二家本辰己、他/制作:本田エンターテインメント/制作協力:円谷エンターテインメント/出演:西条美咲・大坂俊介・小島可奈子・坂本真・福永ちな・飯島大介・渡会久美子・姑山武司・工藤奈々子・菅田俊・鳥肌実・江藤大我、他)。録音の沼田和夫が、ポスターには沼田一夫、和夫が正解の筈。
 警察官の制服を着た大坂俊介が、拳銃で撃たれ倒れてゐる。自らが射殺される午睡から覚めた調布ヶ丘五丁目交番勤務の警察官・倉橋誠一(大坂)は、消極的な後輩・宇波弘樹(坂本)が向かひたがらない通報のあつた空巣現場に、仕方がないので自ら赴く。派手に荒らされ、外光の射し込む中未だ綿毛がジャンジャン舞ふ狙ひ過ぎといへなくもない幻想的な安アパートの一室では、住人である葉室千枝子(西条)が倉橋の到着を待つてゐた。通帳や貴金属の類に被害はなかつたが、室内からはアルバムが持ち去られてゐた。倉橋には何故か千枝子の部屋こそが、今しがた悪夢の中で自らが倒れてゐた場所そのものに思へた。江藤大我が三人の同僚警官と談笑する輪のセンターに見切れる食堂で、カレーライスを食べようとした倉橋の歯が抜ける。瑣末に立ち止まると、せめてもう少し硬いもの相手に抜けて呉れよ。治療に入る際に一々切る大仰な見得がオッカナイ日高(鳥肌)の歯科医院にて、倉橋は歯科助手として働く千枝子と再会する。倉橋は千枝子に対する個人的な感情も込みで、といふか千枝子への平衡を失した好意を主に、アルバムの発見に躍起になる。ところが通院する内、千枝子は日高の医院から姿を消す。同僚の久美子(渡会)によると、千枝子は日高と不倫関係にあり、そのことが日高の妻・さゆり(小島)に発覚したため辞めさせられてしまつたとのこと。ふとした、もとい不可解な弾み―後述する―でアルバムを取り戻した倉橋は、アッカンベーな不動産屋・沼田(飯島)、引き払つたアパートの保証人・村井敦子(福永)を辿つて、三浦の心寂しい漁村に千枝子と再会する。アルバムの中にさゆりと映る女は、学生時代に日高を奪い合ひ敗れた沢村千尋(不明)。実は千尋が整形手術で姿を変へたのが、現在の千枝子であつた。暫くして、宇波は警邏で外した中、交番を訪ね倉橋にその身を任せた千枝子は、さゆりの殺害を求める。強面の大男が喫茶店でマロンパフェに舌鼓を打つ風情が堪らなくファニーな菅田俊は、さゆりに雇はれた露木興信所所長・露木。そもそも千枝子と夫の関係に疑念を抱いたさゆりが、露木に千枝子の部屋からアルバムを盗ませたものだつた。
 簡略に沿革を辿つておくと、谷崎潤一郎の戯曲を原作とした三度の武智鉄二版に続く、今回は「白日夢」四度目の映画化に当たる。昭和56年の二度目の際には愛染恭子と佐藤慶によるいはゆる本番撮影が話題を呼び、成人映画ながら興行収入十五億円といふ、規格外れの大ヒットも記録した。いはずもがなを最初に申し上げておくと、西条美咲と大坂俊介との本番を、求めるつもりは初めからない。仕出かしてみせるならば仕出かすで別に構はないが、映画なのだからあくまで演技するべきだといふ立場に、個人的にはどちらかといへば与する。相変らず二作の愛染恭子主演版すら何れも未見につき、その点に関しても潔くさて措く。さういふ次第で、手ぶらで観てみた裸の今作は如何にといふと。一人の平凡な若い警察官が、可憐で神秘的な空巣被害者に入れ揚げた挙句、日々苛まされる白日夢にも背中を押され精神の平定を完全に失ひ、全方位を巻き添へに破滅する。要はたつたそれだけの、いつてしまへばよくある話である。裸映画としての官能あるいは煽情性を除けば、かういふ物語の肝は倉橋の錯乱と消耗とを観客が追体験する、劇中に於ける虚実の別が次第に混濁して行く様にあるのではなからうかとも思はれるのだが、これが不思議なことに、サッパリその点がクリーンなのだ。監督に愛染恭子といまおかしんじの名前が二人並ぶのは、何も船を山に登らせようとしてのことではない。特撮映画に於ける特技監督と本篇監督よろしく、愛染塾長がいはゆる濡れ場を、いまおかしんじがそれ以外のドラマ・パートを担当したものと、少なくとも公式にはされてゐる。さうはいへ、一体二者の間で如何なる調整が図られたものかなどといふことに関しては勿論与り知らぬが、互ひに大きく自らの振り幅に振れてみせることもなければ画調も一定して安定し、一見したところ、各々のカットを何れがディレクションしたものかは素人目には全く判らない。逆に、そのことと同時に扱つてよいものやら否かも微妙なところではありつつ、いまおかしんじが普段一人で普通に撮つてゐる時の方が、もつと非、あるいは半現実的な浮遊感が感じられもしたものが、船頭を二人にしてみたところ、どうにも映画が終始地べたを這ひずり回つてしまふ。それゆゑか度々倉橋が堕ちる白日夢と映画内現実との境目は、妙にクリアである。幻想描写が教科書通りである素直さに起因するものやも知れぬが、倉橋が暴発し壊れて行く過程を、全く醒めた目で傍観してゐられる。一本調子の一直線で、ミスディレクションや意外性の余地のまるで見当たらない展開の平板さも、大きく作用してゐよう。白日夢といふよりは、寧ろ覚醒夢といつた趣の漂ふ一作である。持ち出す譬へが箆棒であるやうな気もしないではないが、時制の移動がへべれけな関根和美や、アヴァンギャルドの領域すら突き抜けた関良平の大頓珍漢映画を観てゐた時の方が、余程別の意味での眩暈がして来る。それとこれとは話が違ふといふツッコミに対しては、耳を貸さないフリをして済ます。数度倉橋に相談を持ちかける割に十全では決してない宇波と千枝子の関係の説明や露木の去就等、尺を八十分に無理矢理押し込める副作用で、切られてしまつたシーンの存在を想像出来ぬでもない。

 改めて冷静に振り返つてみたところ、根本的な、爆弾クラスの重大な問題を本作は抱へてゐる。倉橋が千枝子のアルバムを入手する件が、画期的に不自然なのだ。交番の倉橋と宇波の前にボロボロの格好をした、最早男女の別も判然としない怪人物が現れる。頭を垂れ長い髪で顔は影に沈めたまゝ怪人は手提げ袋を手前に居た宇波に渡し、中身がアルバムであることを二人が確認した瞬間には、その姿はもう何処にもなかつた。一応、事前に露木が危ない橋を渡つて折角盗んで来た千尋の過去を残すアルバムを、さゆりから無下に処分することを申し渡されションボリする一幕も設けられてはゐるが、だからといつてプロである露木が、わざわざ重ねたリスクを冒してまでして交番に持ち込む訳がない。今時のJホラー調の演出で黙つて観てゐればスマートに処理してもあるものの、一体全体アルバムを持つて来たそいつは誰なのかといふ話である。


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 「しつとり熟女 三十路の昼下がり」(2005/製作:関根プロダクション/提供:オーピー映画/脚本・監督:関根和美/撮影:下元哲/照明:梶野考/助監督:吉行良介/編集:《有》フィルムクラフト/選曲:梅沢身知子/録音:シネキャビン/撮影助手:和田琢也・中村拓/監督助手:宮崎剛/スチール:小櫃亘弘/現像:《株》東映ラボ・テック/効果:東京スクリーンサービス/出演:松雪令奈・佐々木基子・小川真実・綺羅一馬・松浦祐也・町田政則)。
 自慰に狂ふ三十路のいゝ感じの女盛り、その模様が現実の地平には非ざる旨を黒バックで明確に伝へておく辺りは、関根和美の開巻にしては頗る上出来といへよう。定年退職し六十四の誕生日も目前に控へた増山輝雄(町田)が、かつての部下・森久美(松雪)の痴態をイマジンし床の中でマスをかく。オッサン中学生か、俺もオッサンだけど。隣に眠る妻・静子(佐々木)はそのことに気づかない素振りで布団を脱け出ると、浴室に入りシャワーを浴びながらこちらもオナニーに悶える。増山夫妻の子供(一切登場せず)は既に独立し、韓国人俳優“ヒョン様”に夢中の静子は、リタイア後家でゴロゴロしてばかりの増山を明確に毛嫌ひしてゐた。夫婦仲の冷えきつてゐる描写と同時に女の裸をたて続けに二人分見せる序盤には、普段は奥ゆかしくも秘められ仕舞ひの例(ためし)も多い、関根和美の熟練した地力が窺へる。例によつて増山と静子がヒョン様が出る番組のビデオを予約して呉れ、そんなものは自分でしろといがみ合ふ中、増山家に電話がかゝつて来る。臍を曲げた静子が出ないゆゑ増山が渋々―それにしても町田政則の、渋々芝居は何時観ても絶品だ―取つてみたところ、何と久美からのものであつた。会ひたいといふのでウキウキとおめかしして出かけた増山を、久美は先輩の良美(小川)と開いてゐるといふ活花教室に誘ふ。俄に忘れかけてゐた春が再びやつて来た風情で、増山は指定されたマンションへと向かふ。ところで、増山が久美との再会を機に連絡用にと携帯電話を新たに買ひ求めるといふのは、些か関根和美の時代認識にズレも指摘せざるを得ないであらう。 2005年の四年前退職時が2001年として、まあ普通のサラリーマンは携帯の一つや二つ持つてゐる筈だ。
 現在は主任に出世した久美が商用で遅れる中、増山がバツイチであるとの良美に喰はれる絡みのだらしなさに関しては、小川真実の磁場に免じてもこの際最早仕方がない。事後、久美も漸く到着するものの、ヤルことを済ませた良美は疲れたと称して帰つてしまふといふ、小川真実が濡れ場要員の名に正しく相応しい麗しき退き際を披露して退場するため、ひとまづ増山は久美と二人で夕食を摂る形に。そのまゝ葱を背負つた鴨の如き久美の積極的なアプローチによつて、増山は元部下とみるみる距離を近づけて行く。綺羅一馬は久美の現在の上司で、不倫相手でもある矢作。ここでよくよく考へてみると、松雪令奈の濡れ場は町田政則を相手に展開するだけで事済むといへば事済む以上、久美と矢作の逢瀬の回想は、実は必要ないのではないか。現在は天川真澄名義の綺羅一馬の裸を別に見せられなくとも全く困らなく、家族のある矢作との関係を煮詰まらせた久美が、増山を相手に繰り返さうとする同じ過ちには、正味な話物語の流れとして釈然としなさも強い。単に父性愛への憧憬が強い久美が、前々から増山のことが好きだつたといふだけで十分ではなからうか。
 藪から棒に静子が連れて来る松浦祐也は、夫に対抗して携帯を入手した静子が、出会ひ系にて知り合つた大学生・杉山健一。久美との関係もカウンターとしてちらつかせながら静子は、当然の如く目を白黒させる増山に対しいきなり離縁を突きつける。起承転結の転にしても、流石に荒業が過ぎるぜ。ところが臆面もなくトレースしてみせるが結末は、更に輪をかけてゴキゲン。吹き抜ける旋風のやうに妻が若い間男と出て行き呆然とする増山を、メールとともに何故か和服姿の久美が堂々と家にまで訪問する。「これが、私からの返信だ」だとか、町田政則がキマッてゐるのだかゐないのだかよく判らない決め台詞をともあれキメつつ、増山は久美を抱きプラマイゼロどころかなほプラスだなどといふハッピー・エンドは、人を小馬鹿にするにもほどがある下らない顛末にも、一見思へる。とはいへ他方から、主要客層の呑気な願望あるいは怠惰なエモーションを鷲掴みにした一篇と捉へるならば、商業映画的にこれはこれで、それでも一つのあまり立派ではない完成を見てゐるのかも知れない。

 尤も、個人的にどうしても通り過ぎることが出来ないのは、選りにも選つて町田政則と佐々木基子となると、関根和美の(恐らく)最高傑作にしてピンク映画珠玉の名作「淫行タクシー ひわいな女たち」(2000/脚本:金泥駒)主演の、土門とリカのコンビなのである。量産されることを以て宗とするプログラム・ピクチャー相手に何を仕方のない野暮を、といふのは頭では判つてはゐるつもりだが、ここは矢張り、清々しく擦れ違つたまゝ呆気なく終つて行く夫婦を、町田政則と佐々木基子が演ずる映画を前にするのは辛い。しかも、佐々木基子は兎も角、現時点に於いてはといふとほぼ事実上、町田政則にとつては今作が関根組最終作であつたりもするのだ。


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