「内科室」(1992/製作・配給:大蔵映画/監督・脚本:小林悟/撮影:柳田友貴/照明:小野寺透/編集:フィルム・クラフト/助監督:青柳一夫・杜松蓉子/スチール:佐藤初太郎/録音:銀座サウンド/現像:東映化学/フィルム:AGFA/出演:松岡利江子・深田みき・白都翔一・朝田淳史・坂入正三・石神一・冴木直)。
鳥が適当に鳴いてゐたりする湖畔のロング、カメラがグーッと寄るとヒロインが歩いてゐる、ダサいグラサンを外すとそこそこ美人。自死を期し当地を訪れた宇田川静(松岡)が、ああだかうだ自問自答した上で、凡そ“大先生”柳田友貴らしからぬ桜咲く川辺の超絶美麗なショットに、これまた大御大以前にピンクらしからぬ抑制的な公開題が静かに叩き込まれるタイトル・イン。「あの時あんなことしてなければ」、「あんな事故起きなかつたかも知れません」。元々腹痛持ちの静が、一切登場しない父親に紹介されたのが出会ひの内科医の婚約者・太田(朝田)を喪つた一ヶ月前の交通事故の回想。ドライブ中に軽く乳繰り合つてゐたところ、正面からハイエースに突つ込まれ、太田だけが死亡してゐた。「アンタが太田先生を殺したのよ」とどストレートに飛び込んで来る、宇田川が女中に産ませた静の異母妹・レイコ(冴木)の顔見せと、姉の男を寝取る気全開の据膳に対し、やめなさいとかいひつつ尻を撫でる導入がケッサクな冴木直と朝田淳史の絡み―ここまで三段構への大回想―を経て、結局松本城の赤橋で腹が痛くて昏倒した静は、別に救急指定病院にも見えない町医者の宮沢内科に担ぎ込まれる。
配役残り白都翔一が、宮沢内科の宮沢先生。深田みきは、医院兼住居の風呂に宮沢が浸かつてゐると、入つてきたりする関係性のよく判らない看護婦・堀井。完遂後、浴槽に載せる爆乳のアンニュイな破壊力が凄まじい。宮沢に紹介された宿「千代之湯」から、静は性懲りもなく死地を求め未だ雪残る山に入る。坂入正三と石神一は、見るからスーサイドしさうな女を一旦は本当に助けようとしておきながら、頑なに死なうとする静の態度に臍を曲げるや、「ようし、そんなに死にたいんなら俺達が死なせてやるよ」と犯し始める二人組の登山者。冴木直V.S.朝田淳史戦に引き続き―別にこの二戦に限らないやうな根本的な疑問も残れど―入りこそへべれけとはいへ、雪の中で主演女優を裸に剝く濡れ場はそれなりのエクストリーム。
正直DMMに残り弾も少なくなつて来た、小林悟1992年第九作、ピンク限定だと第八作。とか、思つてゐたら。月額動画には準新作と薔薇族ばかり新着させておいて、バラ売りの方には案外新たに―旧作が―入つてるのな。おいおいおいおい、市村譲まであんぢやねえか。クソッタレ、足元見やがつて。
だなどとせんない悪口はさて措き、まるで一般映画みたいなタイトル・インに、もしもまさか万が一、遂に小林悟が四五本は撮つてゐても罰は当たるまい、百本に一本の一作に巡り会へたのかとときめきかけたのは、例によつて当サイト最大級の早とちり。元々は太田との思ひ出の地である筈の信州にて、静がケロッと宮沢と暮らす腹を固めるラストも、続篇が予定されてゐた訳でもなからうに、二人の前に現れたレイコが宮沢の略奪も誓ふ藪蛇な蛇足も、安定こそすれ信頼には値しない貫禄の大御大仕事。そんな中でも見所は、そもそも父親も内科医で、内科室にゐると安心するだとかいふ静の特殊性癖。腹部に自覚症状があるゆゑの大腸ファイバー検査と、後にサカショーと石神一にレイプされたゆゑの膣洗浄を、静が何故か全裸で受診する二幕は、松岡利江子の表情の硬さがものの弾みでソリッド方向に上手いこと転がり、素頓狂なシークエンスにも関らず妙にエロい。
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