「朝まで生いぢり」(1991/企画・製作:NTP/配給:大蔵映画/監督:西川卓/脚本:北町一平/撮影:小林啓次/照明:N・K・Fグループ/編集:酒井正次/助監督:夏季忍/音楽:ド・ビンボ/撮影助手:福島香/監督助手:調布太郎/録音:銀座サウンド/効果:東京スクリーンサービス/現像:東映化学/出演:伊藤舞・工藤正人・小川英実・牧村耕治・大川忍・木下雅之・朝田淳次・小港雄三・堀田徹)。助監督の夏季忍は、久須美欽一の変名。
画と劇伴はアーバンな雰囲気なのに、フォントが思ひきりへべれけなタイトル・イン開巻。何処ぞの駅のガード下通路、背広姿でくたびれた風情の工藤正人が立ち止まりタバコを銜へ、ライターを探してゐると素晴らしい自然さで鞄を落す。「ついてねえな」とこぼしたところで、牧村耕治による実も蓋もないナレーション「“ついてない”、が口癖のこの男、会社員・黒川公平」、「退屈な一日の仕事を終へ公平は老人のやうな足取りで盛り場に向かふ、ツキを探して」。再びタバコを銜へた公平に、火を借りる体を装ひ立ちんぼ(伊藤)が接触、忽ち交渉は成立する。体毛をフィーチャーする返す刀か、伊藤舞の腋毛を執拗に押さへ続ける一戦経て、自らをついてない男のサンプルと自嘲する公平に対し、伊藤舞は「ね、ツキあげよつか?」と数本の陰毛をプレゼントする。翌日は、平日ぽいが何故か公平は休み。神札風に包んだ伊藤舞の陰毛を下の毛大明神と称して有難く拝む公平は、まづ近所のタバコの自販機で足下の千円札を拾ひ、当てもなく出てみた新宿。ピンクチラシを漁りつつ二つ目に入つた電話ボックスにて、札束の詰まつたアタッシュケースを発見する。帰宅して調べてみると、中身は一千万の現金と、袋詰めのよく判らない粉。すつかり気分が大きくなり、会社を退職することにした公平は、自宅にホテトル嬢(小川)を招く。ここで小川英実とは、突発的な小川真実の別名義。まさか、単なる―クレジット上の―派手な誤字だとかいふまいな。気前のよさ込みで公平に好感を持つた真実ならぬ小川英実は、次回は職場友達のレイコ(大川)も呼ぶやう提案する。
配役残り、木下雅之は、レイコも加はつた一夜明けに飛び込んで来る、時代を偲ばせるデカさがダサいサングラスの強面。牧村耕治は、小川英実が公平の部屋で手に入れたヤクを捌かうとする、別の強面。女を責める際にバイブを取り出すや、オネエに豹変する奇妙で魅力的なキャラクターが素敵に映画的。朝田淳次はある意味一件の発端、アタッシュケースを電話ボックスに置き忘れた役立たずの運び屋。小港雄三と堀田徹が、全く判らない。片方は瞬間的にしか見切れないにせよ牧村耕治の運転手にしても、これといつた面子がもう他には見当たらない、新宿で清々しく意味不明に―しか見えない―抜かれるヨッパライ?
何となく開催した西川卓映画祭、最後に辿り着いたのは1991年第一作。DMMのピンク映画chで視聴可能な五本の内では最も新しく、因みにjmdb的には監督作が三十七記載される中での、第三十六作に当たる。としたところが、為にする方便では決してなく、掛け値なしの衝撃の問題作。売春婦から陰毛―ところで、処女でなくとも御利益はあるものなのか?―を譲り受けたツキのない平凡な男が、忽ち小金に毛を生やした程度の大金を手に入れる。公平の、高々一千万を拾つたくらゐで仕事を辞める軽率と、今でいふとフラグも通り越し地表に露出した起爆装置、如何にも怪しげな粉袋を事もなげに無視してします不自然な粗忽は、とりあへず一旦さて措く。小川英実との朝まで生いぢり―いよいよ事に及ぶ直前、何故か工藤正人にカメラ目線で「朝まで、生いぢり」と見得を切らせる、木に竹も接がないカットが設けられる―と、レイコも交へた、赤い照明でトリップ感を表現する巴戦まで、どうにもかうにもモッサリモッサリする展開も、四本西川卓を経た上では経験則の範疇に納まりもする。ところが、二人の強面登場後漸く物語が本格的に動き出した途端、暫し主人公が退場したままになつてしまふ間抜けさは、それでもまだ驚くには当たらない。そもそも、申し訳程度のイメージも差し挿まれるとはいへ、主演女優が公平と別れて以来オーラスまで出て来ない。銃声とシークエンス自体もプリミティブな、皆殺しの銃撃戦も大概ではあるがギリギリ通常の詰まらなさの枠内として、ラストを飾るか整へるべく伊藤舞が再登場を果たしたかと思へば、無造作に放り込まれるピンク映画史上最悪のバッド・エンドには本当に度肝を抜かれた。大蔵も大蔵だ、こんなの通してええんかいな。悪びれる風もないケロッとした無神経さが却つて罪深い、暴力的な一作。良くも悪くもといふか当然凶悪なのだが、絶対値のデカさだけならば途轍もない。最終的に西川卓に関しては、あまり器用ではない以外には特に捉へ処がない、我ながら甚だ覚束ない印象に固まりかけてもゐたものの、とてもではないがそれどころではなくなつた。
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