真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「イヴちやんの花びら」(昭和59/製作・配給:株式会社にっかつ/監督:中原俊/脚本:木村智美/プロデューサー:沖野晴久/企画:半沢浩/撮影:米田実/照明:内田勝成/録音:中山義広/美術:沖山真保/編集:奥原好幸/助監督:村上修/選曲:山川繁/色彩計測:小川洋一/現像:東洋現像所/製作担当:高橋伸行/出演:イヴ・太田あや子・木築紗絵子《新人》・金田明男・長江洋平・掛田誠・花上晃)。配給に関しては事実上“提供:Xces Film”。
 蝉の音開巻、“縁は異なもの 近きにあり”とする大吉の御神籤を握り捨てた、見るから暑さうに大荷物を背負つた山男が石段を上らうかとしてゐると、ヒールを脱いだ素足のイヴちやんがヒョイヒョイ下りて来る。流石に若え!と興奮するのは2016年の感覚で、素面でイヴちやんを見初めた男は、踵を返し後を尾けてみる。明らかに不審な長嶋東吉(金田)を一旦は撒いたものの、待ち伏せられたイヴ(大体ハーセルフ)が、通りがかつたユタカ(掛田)のジープに飛び乗つてタイトル・イン。イヴが喉の渇きを訴へると、ユタカは後部座席のビールを示す。官憲を鑑み結局飲まないとはいへ、イヴが普通にユタカにもビールを渡す大らかさが清々しい。
 絶妙に含みを持たせるユタカがイヴを連れ帰つた先は、ケンジ(長江)とジル(太田)が、どうやら三人で一山踏んだ風情でケンジの戻りを待つ山荘。何やら三角関係が拗れてゐさうな雰囲気の中、イヴをケンジにカッ浚はれたユタカと、ケンジをイヴに寝取られた格好のジルとが二人して逃げる踏ん切りに一戦交へてゐる隙に、ここが正直強力に不自然な件なのだが、イヴは二人から見える位置に置いてあつた、重要なブツらしきサーフボードを勝手に拝借、一人海を目指しプラッと捌ける。
 配役残り花上晃と木築紗絵子は、再会した長嶋を再度撒くべく、イヴは海辺の屋敷を自宅と偽る。花上晃が屋敷の主・岡原で、木築紗絵子がお手伝ひの喜美子。
 中原俊昭和59年第二作は、ロマポ四本と一般映画三本といふ本数以上に、ピンク映画デビュー作「人妻不倫 夫にばれなければ!」(1992/脚本・監督:珠瑠美)から遡ること八年といふ歳月により大きな意味があらうかと思はれる、イヴちやんの銀幕デビュー作。因みにイヴちやんは三本目の一般映画から「人妻不倫」までの間、六年映画から離れてゐる。
 もう一本の「後ろから前から」(監督・脚本:増本庄一郎/主演:宮内知美)は結構以上にマシであつたのに、一撃でロマンポルノRETURNSに企画単位で止めを刺した2010年版「団地妻 昼下がりの情事」(脚本:山田耕太/主演:高尾祥子)にあつては完全に映画の撮り方を忘れてしまつたのではあるまいかと目を疑ふか頭を抱へさせられた中原俊も、未だこの頃は俊英と持て囃される程度には鍍金が剥がれてゐなかつたらしく、ユタカらの拗れたトライアングルや、岡原と喜美子の意外な関係にイヴが判断に窮するなり、衝撃を受けるシークエンス。下手に台詞を与へるのではなくイヴちやんの表情を上手く切り取る戦法に徹した結果、それ以外の場面では概ね終始キャッキャしてゐるだけのイヴちやんが、後年芝居を覚えた―つもりの―イヴさんよりも余程女優として普通に輝いて見えたのには、正直複雑な心境を覚えた。恐らく、ただ単に若いからといふ訳ではない筈、俺は小娘よりは適度な年増が好きなんだ。

 知るかタコ

 といふツッコミはさて措き、珠組を主戦場に戦つてゐる内に、変な癖がついたものやも知れないといふ可能性も戯れか偶さかに想起するに、ますますモヤモヤした心持ちにもなつて来る。
 物語的には劇中終にイヴの素性はおろか旅、乃至は放浪の目的さへ明らかにはならないまゝに、イヴちやんがキラッキラしながらプラップラするだけの、ある意味潔い一作。一点歴史的に度肝を抜かれかける勢ひで感銘を受けたのが、エンド・クレジットが起動する直前の一幕。道行くイヴに声をかけた軽トラが、洒落で済む範囲の自損事故。その場から離れ何処へと歩き始めるイヴちやんが今でいふテヘペロを、本当にテヘッと肩をすくめペロッと舌を出す完璧な形で披露したのには、遅くとも昭和59年には既に完成されてゐたメソッドなのかと驚嘆した。


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 「ザ・ペッティング」(昭和61/製作:日本シネマ?/配給:新東宝映画/監督:新田栄/脚本:北里近一/製作:伊能竜/撮影:国立二郎/照明:鈴木伸夫/編集:酒井正次/助監督:半沢高弘/音楽:レイボーサウンド/効果:中村企画/録音:銀座サウンド/現像:ハイラボセンター)。レイボーサウンドの衝撃以前に、驚く勿れ、今作には出演者クレジットが存在しない。
 新東宝ビデオ株式会社開巻、諸々のペッティング映像に速攻タイトル・イン。以降全員本篇字幕ママで杉田風(女子高生)登場、全篇を通して、声は聞かせど姿は絶対に見切れすらさせない新田栄が「可愛いね」と渾身の世辞をいふものの、正直一欠片たりとて可愛くはない。人の話を満足に聞いてゐるのかゐないのか、甚だ微妙な杉田風相手に他愛ないインタビューで結構尺を喰つた末に、漸く助監督の大坪君(ヒムセルフ?)投入。新田栄があれやこれや指示を飛ばす一戦に、ザクザク突入する。首から上は不細工な杉田風も、脱がせてみるとラック感のあるいいオッパイ。仁丹クンニの荒業と指とで、終に本番には至らぬまゝ杉田風が果ててフェード。
 続いては上下併記で風見怜香(女優)と小野寺由美(女子大生)、まづは志村けんとジュリーを足して二で割つたやうな面相の小野寺由美にインタビュー。「ところでレズやつたことある?」とところでぶりが凄まじいザックリした切り口で、女優の風見怜香さん参戦。ここでは助監督の松尾君(ヒムセルフ??)に小野寺由美にバイブを挿入させてみたりしながら、パートを通り越し一作全体のハイライトが、風見怜香と小野寺由美によるオッパイの大きな女同士ド迫力の貝合はせ。
 三番手にして、最強の美人が鈴木美子(O.L)。Officeだけでなく当然Ladyも略してゐるにも関らず、わざわざOにつけたピリオドがLにはつかないのがそこはかとなくも確実に居心地が悪い。鈴木美子は森の中に連れ出して、オナニーから大坪君に移行する青姦といふ寸法。一点さりげなく興味深いのが、彼氏と一度だけポルノ映画を観に行つた鈴木美子がその夜は激しかつたといふ逸話を引き出した新田栄いはく、「それがきつかけでこの映画に出る気になつたのかな?」。映画であることは、あくまで当然の前提として認めてゐる様子。
 四番手五人目が今作どころか裸映画史に残る大ミステリー、小林ひとみ(SMクラブ勤務)。は?小林ひとみ!?といふか現れた女は目と目の間が広いプロポーションも別に十人並の女で、よもやまさか万が一、整形前といふ可能性も脳裏を過りつつ、そもそも声も違ふ。挙句に背には一面の立派な和彫り、一体この小林ひとみは誰なんだ。とまれ、趣向は大坪君と松尾君を二人とも差し向けての巴戦。
 新田栄昭和61年第十二作は十作後、翌昭和62年第二作の「ザ・ペッティング2 秘戯」・第十二作「ザ・ペッティング3 ハードテクニック」・最終第二十二作「ザ・ペッティング4 舌戯」と全四作連なる、「ザ・ペッティング」シリーズ“ファースト・ワン”こと第一作。第十二作の十作後が翌年第二作といふことは、新田栄は昭和61年も全今となつては驚異の二十作を発表してゐた格好となり、量産型娯楽映画が本当にどうかした勢ひで量産されてゐた時代の眩さに、とりあへずクラクラ来る。シリーズの沿革に話を戻すと少なくとも2の「秘戯」にも出演者クレジットはなく、jmdbを参考に、鈴木美子は栄えある皆勤賞を果たしてゐる。「ハードテクニック」と「舌戯」も叶ふならば全然観るなり見たいけれど、この期に今からどうにかなるもんなんかいな。
 「ザ・ペッティング」なる、それは一通り絡む中でペッティングは確かにあらうにせよ、ペッティングにヒューチャーして何がどうなるのかはサッパリ判らない掴み処に欠けるタイトルはこの際さて措き、全体的な体裁としては各々職業の異なる女々に新田栄が適当にインタビューした上で、一濡れ場こなしてハイ次の女。らしからうとらしからぬと物語が全く存在しない構成のみの一篇は、手を抜くにも度が過ぎたのか、グルッと一周して逆に斬新なのかは―もしも仮に存在するとして―議論の分かれようところとはいへ、謎の小林ひとみといふ飛び道具込みで、五人中オッパイの大きな女を四人揃へた厚みのある強みと、寄つたり引いたり狙つてみたり、それなり以上に意欲的に動くカメラにも支へられ、案外退屈な時間に苦痛を覚えるでもなく普通に見てゐられる。とりわけ、ビニールシートを敷きオナニーする鈴木美子を、少し離れて捉へる覗き風の視点が、グルーッと大きく回り込む画はオープンの特性を活かしたダイナミックな名カット。一方、あるいは反面、殊に杉田風相手の心許ないことこの上ない遣り取りを聞くにつけ、物語のみならず一体脚本は何処まで存在してゐるのかといふ疑問は、最終的に残らぬでもない。


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 「悦楽交差点 オンナの裏に出会ふとき」(2015/製作:Production Lenny/提供:オーピー映画/監督・脚本:城定秀夫/プロデューサー:久保獅子/撮影・照明:田宮健彦/録音:小林徹哉/助監督:伊藤一平/ヘアメイク:megumi/スチール:本田あきら/撮影助手:宮川かおり・白川祐介/演出部応援:島崎真人・寺田瑛/制作応援:名田仙夫/脚本協力:城定由有子/編集:城定秀夫/音楽:林魏堂/仕上げ:東映ラボ・テック/出演:古川いおり・麻木貴仁・福咲れん・田中靖教・森羅万象・久保奮迅・沢村純・杉浦友哉・岩男匡哲・飛田敦史・渋谷将・橋本雄大・伊藤三平・名田靖・佐倉萌)。出演者中岩男匡哲が、ポスターには岩尾匡哲。
 スクランブルな交差点、種々様々な人間の行き交ふ文字通りの雑踏と、ブツクサしがてらカウンターを刻み続ける男。B系の交通量調査員(伊藤三平=伊藤一平)からの男女の担当を交代する申し出にも耳を貸さず、小松春生(麻木)は「千人目は俺の嫁、千人目は俺の嫁」と呟きながらひたすらに通り過ぎる女にカウンターを弾く。古川いおりが楚々とフレーム・イン、ハッと胸を打たれた小松がカウンターに目を落とすと、数字は千を示してゐた。「俺の嫁・・・・」、洩らした言葉にタイトル・イン、アバンは圧巻。
 五年後、森羅万象がボスの工場―“こうぢやう”といふよりも“こうば”―で働く小松が、買ふ時は部屋にも入れる仲の立ちんぼ・ミチコ(佐倉)を振り切り帰宅した安アパートは、小松いはく“俺の嫁”こと川島真琴(古川)の盗撮写真で埋め尽くされてゐた。挙句に窓からは川島家の様子も窺へ、小松は読唇術をマスター。当然真琴が出すゴミも回収する小松は、男子一生の仕事といひかねない勢ひの出来る限りを尽し、真琴の夫婦含め全生活を把握してゐた。
 妙に潤沢な配役残り、a.k.a.久保和明の久保奮迅と沢村純は、ウェーイなまゝ大人になつた小松の同僚・山田と中島。恐らく名田仙夫と同一人物か、名田靖は初登場時にミチコが捕獲し損なふリーマン、ゐれば国沢実の役。そして田中靖教が、真琴の夫で若くして部長職に就く幹也。杉浦友哉と岩男匡哲は、買物に出かけた真琴を尾行する、小松のある意味充実した休日。杉浦友哉が真琴に声をかけるも、左手薬指の指輪を見せられるとおとなしく身を引くキャッチで、岩男匡哲は衝動的に殴りかゝつたキャッチから、半殺しに返り討たれた小松に『目覚めなさい!神は死んだのか?』なるパンフレットを手渡す宗教男子、手当てしてやれよ。福咲れんは意外と狭い世間、新しい担当を森羅親方に紹介する幹也が小松の職場に連れて来る、部下兼実は不倫相手・池上麻衣、見事に着痩せする爆乳が堪らん。渋谷将は、ミチコのバンドマンのヒモ・タックン。正直、どれだけの齢の差なのか。真琴にダイヤの指輪を贈らうと、幹也と麻衣の関係をスネークする過程で―七日も無断欠勤し―工場を馘になつた小松は、如何にもヤバげな治験に手を染める。橋本雄大は、後遺症は自己責任だなどと恐ろしい事前説明を行ふ白衣。娑婆に戻つた小松が片目に眼帯をしてゐるのも怖い、百万本のバラどころぢや済まないぞ。治験のモルモット、ほか二名は殆ど満足に抜かれもせず不明、演出部?飛田敦史は、オーラス小松を上手い具合、もしくは決して捕まへはしない程度に追ひ駆ける警官。この中で田中靖教と橋本雄大と飛田敦史は、中村英児・稲葉凌一・浅野潤一郎・藤田浩らと同じ芸能事務所「アリエス」所属。
 仁義を通し心中も辞さない覚悟らしい、主戦場たるVシネ戦線については手が回らない以上臆面もなくさて措いてのけるとして、必殺のデビュー作「味見したい人妻たち」(2003/主演:Kaori)。松浦祐也の助監督残酷物語「妖女伝説セイレーンX 魔性の誘惑」(2008/脚本:高木裕治・城定秀夫/主演:麻美ゆま)と、十年ぶりの衝撃「人妻セカンドバージン 私を襲つて下さい」(2013/主演:七海なな・吉岡睦雄)。ともに漫然とした出来映えの、城定夫名義による「桃木屋旅館騒動記」(2014/主演:西野翔)、「わるいをんな」(2015/主演:めぐり)を経た上での、城定秀夫大蔵上陸作!特段も何も全く新規参戦なり電撃移籍、あるいは大復活の報は聞こえて来ない2016夏現在、城定秀夫の最後の切り札感は依然比類ない。明けた今年も七海なな主演の新作を―既に一本―発表し、OP PICTURES+にも食ひ込んだ城定秀夫がオーピーに常駐して呉れさうな気配は一旦喜ばしい限り、とはいへ。問題といふほどの問題でもなければ残念といふには言葉が過ぎるにせよ、極大なる期待を呼び、現に公開後の世評も頗る高い一作ではあれ、そこまでギャースカワースカ騒ぐに値する、大傑作といふ訳では必ずしもない。妙な贔屓筋を従へる、山内大輔より余程面白いとは思ふけれど。
 中盤火を噴く、劇中世界が裏返る大転換には一旦度肝を抜かれ、かけつつ。そこから先、とりわけ最終盤は案外一本調子。大人しく栃木行くんだ、それどうせ“本物の旦那”も追つ駆けて来るだけだろ、どうせ根無し草だし。昼間の淑女の相と夜の娼婦ぶりまでは申し分ないものの、本性を現し決然と牙を剥いてみせるには、主演女優にソリッドさかエッジが些か不足気味。個人的には時任歩の顔を想起したものだが、近年でも上回るタレントはほかに見当たるのではなからうか。超絶の完成度に震へる小松宅の美術には感嘆させられる反面、「セカンドバージン」に於ける高低差を活かした画や背景に巨大なコンビナートを背負つた土手のロングといつた、大スクリーンでなほさら映える、決定力を撃ち抜くショットにも特段お目にかゝれはしなかつた。高嶺の花が葱を背負つて手元に飛び込んで来る据膳よりも、寧ろ小松を定点観測するミチコの存在こそが最大のファンタジーであるやうにも思へる。確かに捨てられた者同士が、タダ同然の対価で情を交す件はかなり危なかつたけれど、それでも滂沱と決壊させられるには至らず。ミチコが小松に投げたクソみたいな自己啓発応援歌が、結局虚空に放たれ終ひなのは冷笑的な悪い冗談のつもりなのか、それともギリッギリのリアリズムか。何れにせよ、そこでダサさを被弾してなほ、エモーションの首根つこを掴む。ナベは概ね常備する肉を切らせて骨を断つ覚悟が、今回今作には見受けられなかつた。裸映画的には闇雲に改名を繰り返す、ex.大塚れんこと福咲れんの濡れ場が一度きりなのが当サイト的には激越に惜しいのだが、その点に関しては、城定秀夫がそもそもピンクの女優部三本柱フォーマットを窮屈と首を縦に振つてはゐないゆゑ、潔く諦めるのが吉といつたところか。要するに何がいひたいのかといふと、だからさ、いゝ加減名前の脊髄反射で映画を観るのはやめにせんか。思考停止だか同調圧力だか知らんが、云十年一日で同じ悪弊に明け暮れるのがそんな楽しいか、この期にさういふ段でもねえだろがよ。


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 「未亡人診察室 潤み放し」(1995『会員制クリニック 女医は未亡人』の2002年旧作改題版/製作:旦々舎/提供:Xces Film/監督:浜野佐知/脚本:山崎邦紀/撮影:稲吉雅志・村川聡/照明:秋山和夫・渡部和成/音楽:藪中博章/編集:㈲フィルム・クラフト/助監督:西海謙一郎・今泉裕美子/制作:鈴木静夫・津田修一/スチール:岡崎一隆/効果:時田滋/録音:ニューメグロスタジオ/現像:東映化学/出演:中山美緒・リョウ・小川真実・久須美欽一・甲斐太郎・青木こずえ)。
 時雨が亡くなつてもう三年云々と、ビリング頭二人の睦事の音声にタイトル・イン。スマイル財団の援助を受け会員制不妊クリニック「スマイル・クリニック」を開業する寡婦・時雨祐子(中山)に、祐子・時雨共々勤務医で、時雨の親友であつた江田コーサク(リョウ)はそろそろ再婚をと口説くも、祐子はクリニックに生き甲斐とやんはりと断り、中出しも拒絶する。当然当時旦々舎のスマイル・クリニックに、久須美欽一・小川真実夫妻が来院。人工授精を促された小川真実は、どうせならと精子バンクを利用しての、ノーベル賞受賞者やオリンピック選手の種で身ごもらうと勝手に盛り上がる。
 配役残り甲斐太郎は、配偶者には無断でスマイル・クリニックの検査を受けた、会社社長・木戸雄三。若過ぎて首から上が未完成な青木こずえは、どうしても自分の子供に事業を継がせたい木戸が、そのためだけに再婚した若い後妻・ナツミ、前妻には慰謝料を幾ら積んだのか。
 在りし日の夫婦生活回想の形での濡れ場はおろか、亡夫が遺影すら見切れないのがある意味清々しい、浜野佐知1995年薔薇族込みで全十三作中第十作、ピンク限定だと第九作。DMMの中に残る未見の旧作が―全てエクセスで―三本しか残されてゐないのは、地味に切実な問題ではある。無論、新作ならばなほのこと絶対大歓迎。ラストピンク・スタンディングを本気で目指して欲しい浜野佐知には後生だからデジエクを再起動させるか、あるいは大蔵とヨリを戻して頂きたい。ある意味の清々しさに話を戻すと、そもそも、これで中山美穂とのソックリさん路線で売つてゐたのか否かが今となつては判別に甚だ難い、中山美緒自体―なり祐子の造形―に未亡人らしさがまるで見当たらなかつたりもする。さうはいへ、どんな女が、もしくはどうすれば未亡人らしいのからしくなるのかと問はれるならば、元々後家属性を持ち合はせぬ無粋な輩につきよく判らないけれど。
 久須りんにせよ木戸にせよ、個別で呼んだ旦那を祐子はわざわざチャイナドレスでお出迎へ。対久須りん戦の事前には珍しいマイルーラ装着シーンも噛ませての、華麗に女医が患者を喰ふセックス療法の底の抜け具合は、如何にもな量産型娯楽映画感がこちらはストレートに清々しい。旦々舎的には滅法尻の軽さと同義で積極的とはいふものの、土台中山美緒が前に出る圧力を感じさせない祐子は何処までも借りて来られたエクセスライクもとい猫に止(とど)まり、ナツミに至つては折角乗つた玉の輿に汲々とする単なる在り来たりな女。エリートの精子での人工授精をガツガツ目指す小川真実が、僅かに自身の性を主体的に追及する旦々舎ヒロイン像にそぐつてゐなくもない、随分俗つぽくはあれ。といふか、余程硬質の演出で捻じ伏せでもしない限り、俗つぽさが小川真実最大の持ち味であるやうな気もする。
 薄味の旦々舎テイストに加へて、地味に驚いたのが要は嫁に虚仮にされた格好の久須りんに跨つた祐子は、「貴方の遺伝子はこの世に残すだけの価値があるのよ」、「子孫を残すことは生存競争なの」、「貴方が貴方だけでお終ひになつてはいけない」と久須りんを励ますだか慰撫する。素朴な肯定、ないしは根拠のない承認がシニックな思想人の相を自身からも窺はせる山﨑邦紀方面から、チンコの甘やかしぶりが浜野佐知方面から、双方何気に激しく意外な展開。その後も女達がバカタレの男供を袖に自由に羽ばたいて行くでなく、気紛れなスマイル財団に梯子を外された祐子はスマクリを畳んだ後、江田と矢張り不妊治療専門の「時雨+江田クリニック」を新規開業。久須りん夫妻と木戸夫妻はどちらも目出度く授かつた子宝の誕生を待つだなどと、捻りも何もないラストには一見棒弾かとバットを出しかけて、私は度肝を抜かれた。妻を男女を問はないどころか霊長類以外にさへ寝取られ、眉根に頭蓋まで到達する勢ひの深い皺を刻み込み、暗い部屋―か旦々舎の縁側―にて「どうしてかうなつた」と徒に難渋に苦悩する十八番で御馴染のリョウ(=栗原良=ジョージ川崎=相原涼二≠栗原一良)の、恋路が普通に成就してる!改めて探してみれば別に珍しくはないのかも知れないが、一見他愛なくすらなさげにみせての、まさかよもや驚天動地のリョウ・ハッピー・エンドには如何とも形容し難い感興を覚えた。


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 「特務課の罠 いたぶり牝囚人」(2015/製作:関根プロダクション/提供:オーピー映画/脚本・監督:関根和美/撮影:下元哲/照明:代田橋男/助監督:吉行良介/スチール:小櫃亘弘/編集:有馬潜/録音:シネキャビン/演出助手:植田浩行/撮影助手:大友徳三/照明助手:榎本靖・堀内蔵人/選曲:山田案山子/効果:東京スクリーンサービス/仕上げ:東映ラボ・テック/出演:きみと歩実・原美織・舞島環・なかみつせいじ・泉正太郎・山本宗介・綾見ひなの・美波あみな・牧村耕次)。
 警視庁開巻、廊下を左に曲がつてきみと歩実(ex.きみの歩美/微妙な改名は事務所移籍の由)がフレーム・インすると、四作連続出演した2012年第二作「若未亡人 うるむ肉壺」(主演:東尾真子)以来久々となる泉正太郎のモノローグ起動。テロ等重大犯罪の捜査のために新設された特務課、話者・前野孝則(泉)の後輩刑事・小嶋彩乃(きみと)の職務は、多忙を極める特務課統括部長・山崎和豊(牧村)のスケジュール管理。・・・・は?何が刑事か、秘書ぢやねえかといふ早速流石のツッコミ処に関しては、後々現に山崎の口から秘書と語られる。ともあれ、周囲には内緒で同棲生活に突入した彩乃と前野の濡れ場初戦。どうにも泉正太郎のメソッドには微妙な仰々しさが鼻につきこそすれ、然様な正しく正真正銘の些末は等閑視の遥か彼方へとさて措き、適度に引き締まつた、きみと歩実のプリップリの肢体が全く以て眼福眼福。十全に完遂した翌日、彩乃と前野が早朝の来訪者に文字通り叩き起こされたかと思ふと、家に来たどころか上がり込んで来たのは通称麻取こと厚生労働省地方厚生局麻薬取締部の捜査官二名(演出部動員か)。わざと不自然なカットで多分吉行良介が彩乃のバッグの中から粉包みを発見、二人ともお縄を頂戴してのタイトル・イン。明けて何処まで足を延ばしたのか、スコーンと山の中、姥見女子刑務所。即日釈放された前野に対し、綾乃は不自然極まりなくも五年の実刑。同房の、オレオレ詐欺の尻尾切り―三度目―で七年喰らつた西山亜実(原)は所長の平田洋介(なかみつ)と関係を持ち、平田が調達した嗜好品その他の劇中用語ママで禁制品を高値で売り捌く、獄中闇市を中締めてゐた。臭い飯を食つた経験がないゆゑよく判らないのだが、菓子一箱に数千円支払ふ、自由になる金を囚人が持てるものなのか?
 配役残りデブギャル―実も蓋もない―の舞島環は、亜実に闇市の実権を奪はれた武藤由紀、この人が仕出かしたのは保険金目当てでの七人毒殺、死刑囚?綾見ひなのと美波あみなはちんたらしたリンチで亜実からシノギを奪ひ返す、由紀の腰巾着・沢田理沙と佐野みゆう。理沙が―あるいは理沙も―太い方でみゆうが長い方に一見見えつつ、恐らく美波あみなは三人以外の人間と並べてみると普通の背丈。特に誰と何する訳でもないものの、二人とも一応脱ぐ有難味は薄い豪華布陣。デウス・エクス・マキナ臭を爆裂させる山本宗介は、結局自力では大したも何も仕事らしい仕事をしちやゐない前野が頼る、学生時代からの付き合ひの特務課ギーク・三橋公平。牧村耕次共々、絡みの恩恵には与れず。
 いきなり藪の中に突入する第一作「性犯罪捜査 暴姦の魔手」(2008)、持ち直した第二作「性犯罪捜査II 淫欲のゑじき」(2009)、改めて爆散する第三作「性犯罪捜査Ⅲ 秘芯を濡らす牙」(2011)からなる「性犯罪捜査」シリーズ(主演は全て倖田李梨)と類似した企画なのかと思ひきや、単なるといふと語弊もあらうが純然たる女囚映画であつた関根和美2015年第四作。公開題に同じ“特務課”を冠するとはいへ、国沢☆実の逆説的にリアルな革命映画「特務課の女豹 からみつく陰謀」(2014/主演:伊藤りな)とも無論掠りもしない。
 お話の中身としては無実の罪でブチ込まれた女刑事が、不屈の闘志で自由と正義を目指す。十分増えた尺を持て余すでなければ、かといつて有効活用するでもなく。とりたてて特筆すべき点も見当たらない展開は、水の如く流れ過ぎて行くに過ぎなくもない。寧ろ、何時か何処かで観たやうな期待は別にしないにせよ観客の予想を一切裏切らぬある意味堅実な類型性を、それはそれとして量産型娯楽映画の然るべき姿とこの際受け止めるべきでさへあるのであらうか。囚人服が揃ひのスエットの上下でしかない安普請に関しては、いつそチャームポイントと微笑ましくスルーする方向で。一方裸映画的には、三番手以降が三人足しても二番手に遠く及ばない藪蛇な頭数ではありながら、逆からいへばきみと歩実と、正調美少女の原美織の2トップの盤石ぶりは一層際立つ。平田に凌辱された彩乃が何だかんだで二連戦を戦ふ、きみと歩実と原美織が咲かせる大輪の百合は今作最大最強の見せ場。ただ娑婆に戻つた彩乃が自宅に帰還したところで尺が満ち、アバンと全く変り映えがしないにしても締めの濡れ場が設けられなかつたのは、七十分も擁しておいて明確なペース配分のミスなのではあるまいかとも思へる。


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 「痴漢電車 とれたて純白汁」(1995『痴漢電車 開き上手の女』の1999年旧作改題版/製作・配給:大蔵映画/監督:小林悟/脚本:如月吹雪/撮影:柳田友貴/照明:永井日出雄/編集:㈲フィルム・クラフト/助監督:国沢実/スチール:佐藤初太郎/タイトル:ハセガワ プロ/録音:シネ・キャビン/フィルム:AGFA/現像:東映化学/協力:上野スターミュージック/出演:井上みか・仁科愛美・樹かず・山本清彦・太田始・港雄一・貴奈子・杉原みさお・吉行由実)。聞き上手ならぬ開き上手の女とは、地味に洒落た旧題をつけたものだ。それに引き換へ、新題の取つてつけた藪蛇感。
 主演女優、といふか要は当時現役の踊り子を乗せ回転するストリップ小屋「上野スターミュージック」の舞台にタイトル・イン。因みに上野スターミュージックは移転兼シアター上野に改称、現存してゐる。
 クレジット時からサクサク痴漢電車、ジェームズ・ディーンTのケンジ(樹)が吉行由実に接触する。軽く攻め込んだ上での決め台詞が、「僕のジュニアはビッグだよ、試してみる?」。吉行由実に自慢のジュニアを捩りあげられ、ケンジは轟沈、何て馬鹿馬鹿しいシークエンスなんだ。「これでいいのだ」そんな伊集院光のシャウトが、何となく胸の奥に響いた。通過駅のホームを車内から抜いた適当な画を挿んで、改めて“ヌード劇場 上野スター 会場11時30分”の看板。真奈美(井上)のステージに、守男(太田)が食ひ入る。ここから暫し、守男が自宅の窓から真奈美の部屋を双眼鏡で覗き、覗かれてゐるのを知る真奈美が見せつけるかのやうにといふか現に見せつけて戯れに踊る様と、進行中の真奈美のステージとがランダムに、あるいはグッチャグチャに、要は出鱈目に連ねられ序盤にして早くも、映画の底は完全に抜ける。グルッと一周したへべれけさがフリーダムに到達する瞬間に、思はず感動してしまひさうになる。一方再び痴漢電車、ケンジが懲りずに杉原みさおと開戦。杉原みさおはケンジの決め台詞に二つ返事、ヒモ志望の痴漢師―この清々しいまでのクズ造形!―のケンジはホテルでオトした杉原みさおが美容師であるのを知ると、「これで俺も髪結ひの亭主だ」とほくそ笑む。小林悟の映画を見てゐて、よもやさういふシネフィル臭のする小ネタが飛び込んで来ようなどとは思はなんだ。
 配役残りこの人も上野スター動員の仁科愛美は、真奈美の踊り子仲間・サツキ。本業はストリッパーだけにお芝居の方はお察しの井上みかに対し、まだしも普通に見てゐられる、肉は随分余つてるけど。山本清彦は真剣交際してゐるつもりのサツキを、院長の娘との結婚を決め遊び捨てる鬼畜医師・ショウタロウ。そして港雄一が、今作最大の謎。遅い退勤、同僚(国沢実)の呑みの誘ひを断り、吉行由実はくたびれて電車帰宅。港雄一は車内にて大股開いて寝こける吉行由実を、眉をピクピクさせロック・オン。降車後尾行した吉行由実を追ひ詰め、さあてここから港雄一が吉行由実を手酷く凌辱する、品性下劣な琴線を激弾きする濡れ場の火蓋が切られるのかと思ひきや、白パンティを売つて呉れと懇願するオチは幾ら小林悟の仕事とはいへあまりにも正体不明。トメに座つておいて結局吉行由実が脱ぎもしない上に、港雄一と内トラの鬼・国沢実まで動員しておきながら、何の意味があるのか全く判らないにもほどがある。気を取り直して貴奈子が、サツキが捕獲したケンジに籠絡させる、ショウタロウ婚約者。
 誰しもが誰かしらに怯えてゐるかのやうなせゝこましいばかりの昨今、世界が小林悟の映画みたいにフランクであればいいのにとさへ偶さか思へる、大御大・小林悟1995年全十二作中第七作、ピンク限定だと十作中第五作。太田始のビリングは甚だ中途半端にせよ、井上みかとの絡みで主人公は真奈美と守男の二人の筈なのに、二人の物語は混線してゐるのか寧ろ断線してゐるのやら判別出来ない木端微塵な繋ぎの中何時しか埋没、するどころかそもそも満足に起動すらしてゐない。対して電車痴漢で夢のヒモ生活を目指すケンジは勝手に独走、わざわざ飛び込んで来た港雄一が木に竹さへ接ぎ損なふある意味壮大なミステリーを経て、明後日だか一昨日なハイライトはケンジV.S.貴奈子の攻防戦。最中互ひのモノローグで清貧な暮らしに憧れる貴奈子と、お嬢様をゲットしてこれでリッチだとほくそ笑むケンジとが華麗に擦れ違ふのは、凡そ大御大映画らしからぬ気の利いた一幕。実は依然ヒロイン?が痴漢はおろか電車自体に乗りもしないまゝ、水が低きに流れるが如く幕を閉ぢる一作であつたとて、だから「これでいいのだ」と達観したのか諦観しかけた終盤正にギリギリのタイミング。超絶の高速スライダーよろしく鋭く捻じ込んだ急展開で、純然たるストーカーにしか見えない守男の恋路がまさかの成就。どつか行かうかと大雑把な導入で残り尺正味一分漸く電車に揺られた二人が、憐れケンジは終に噛ませ犬に、固く手を握り寄り添ふオーラスは思ひのほか綺麗に決まる。外れきつた箍をそれはそれとして吟味しようかとしたところ、予想外に一篇をスマートに締め括つてみせる辺り、小林悟といふ大御仁、何処までも観るなり見る者を裏切るか鼻を明かさないと気が済まないのか。


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 「スケベ研究室 絶倫強化計画」(2015/製作:フリーク・アウト/提供:オーピー映画/監督:国沢実/脚本:高橋祐太/撮影・照明:飯岡聖英/撮影助手:矢澤直子・竹川泰斗/編集:酒井編集室/録音:小林徹哉/助監督:菊島稔章/監督助手:馬場慎司/スチール:本田あきら/音楽:與語一平/整音:シネキャビン/仕上げ:東映ラボ・テック/タイミング:安斎公一・石井良太/協力:海津真也・《有》アシスト/出演:竹内真琴・美咲結衣・西村ニーナ・橘秀樹・市川裕隆・村田頼俊・知恵蔵・兼田利明・荒木太郎)。出演者中、兼田利明は本篇クレジットのみ。それと久々の何も挟まない無印国沢実は、2010年第一作「THEレイパー<闇サイト編> 美姉妹・肌の叫び」(脚本:新耕堅辰=樫原辰郎/主演:成田愛)以来。
 鮮血飛び散る、フリーク・アウト新ロゴ開巻。食パンこそ咥へてゐないものの、主演女優が「遅れちやふ!」的に道を急ぐ。ドリル大学もとい法慶大学付属病院に飛び込んだ看護婦の二宮茜(竹内)は手始めに白衣の国沢実を突き飛ばし、清掃婦の福原敏江(知恵蔵/野タレ死二から連れて来たのか玉の湯から連れて来たのか判らない扇まや似のオバハン)に注意された上で、研究開発室所属の研究医で、この期に及んでいはゆる牛乳瓶メガネの草野安雄(橘)と正面衝突する。茜と草野は胸を触つたそつちがぶつかつて来たで一悶着、その場を離れた茜に、草野が視線を送つてタイトル・イン。単にその内慣れて来たに過ぎないのかも知れないが少なくともここでは、橘秀樹の発声に舞台と勘違ひしてゐるのではあるまいかと耳を傾げさせられる。
 タイトル明けは深夜の巡回、翌日に手術を控へた森浩二(荒木)は最後の夜と勝手に悲観し、茜に出張風俗を呼んで呉れるやう求める。「私でよければ」とザクザク白衣を脱いだ茜は森に跨り、跨られた森は茜を天使と喜悦する。後日、「又やつちやつた」と脊髄反射の自己嫌悪に暮れる茜は、バイオハザードマークが物々しい研究開発室に配属される。一応セキュリティはそれなりの研究開発室に恐る恐る足を踏み入れてみた茜が二部屋目に入ると、そこには大体ゾンビ化した状態で拘束された村田信之(村田頼俊)が。村田は自力で拘束をパージ、茜に飛びかゝつたところに草野と、女王様造形の研究開発室主任・相沢麗子(美咲)が現れ、麗子は鞭で村田を制圧する。少子化の原因が精子の劣化にあると突き止めた研究開発室は、精子を増強する新薬その名も「スペルマックス」の開発に着手。村田はその被験者で、ゾンビ化は副作用とのことだが、精子増強の効能の有無以前に、そこクリアしないととてもそんな代物ロールアウト出来んぢやろ。新田栄が長く沈黙する今、斯くも鮮やかなツッコミ処を無造作あるいは無防備に放り込んで来るのもアッパー時の国沢実くらゐしか残されてゐないのではなからうかと思ひかけて、関根和美も清水大敬も、ナベも依然全然絶好調に現役である点に思ひ直した。閑話休題、スペルマックスは、要は中出ししないと効果を発揮しないロマン仕様。この半年で十三人の入院患者を喰つた茜が、臨床試験に適任と白羽の矢を立てられたものだつた。茜は一旦当然当惑しつつ、世界を救ふだ何だと言ひ包められるやコロコロその気になる。尻が軽ければ頭も軽い、ピンク映画にうつてつけのヒロイン像を竹内真琴がキュートに快演する。因みに妊娠しね?といふ疑問に関しては、草野から茜に渡される絶対避妊薬「キルピル」で回避。因みにキルピルは単なる小ネタに止(とど)まらず、敏江が仕出かした粗相が時限式に火を噴く、後半巻き起こる大騒動の発端として機能する。のは何気に秀逸にしても、よくよく考へてみると、極秘プロジェクトを預り、暗証番号式電子錠で施錠された研究開発室に、そもそも敏江が普通に入れたのは謎。
 配役残り市川裕隆は、研究開発室開発部長・池井圭太郎、麗子とは結婚の空手形を切る仲にもある。西村ニーナは法慶附属医院長令嬢・相沢麗子、屋内でも日傘を手放さないゴスロリ。事前には鎌田一利の変名かと思ひきや、この人も舞台畑の兼田利明は、菊島稔章と多分馬場慎司とともに失意の茜に天使の羽と笑顔を贈る入院患者A。皆で茜を囲み「笑顔、笑顔」と励ます件、荒木太郎のお株を奪つたが如きプリミティブなエモーションが地味に出色。一撃必殺のシークエンスは、如何に藪から棒なものであつたとて心に残る。
 Vシネ界ではそこそこ戦績もあるらしき、高橋祐太を新たに脚本家に迎へた国沢実2015年第二作。夢の新薬といふよりは悪い冗談の珍薬―更に直截には“チン薬”か―の臨床試験に、股の緩い白衣の天使が大ハッスルする。底の抜けた物語は括つた高を覆す革新的な展開が唸りを上げる、でもなく。他愛ないの一言で片付けて済ますのはいとも容易い始終ながら、近作ここに来て勢ひを感じさせる国沢実は堅調を維持。木に接いだ竹かと思ひきや、起爆する伏線の地味な鮮やかさ込みで、悪魔とマッドエンジェルとが激突するクライマックスは、国沢実の渾身に撮影部も感応、超絶美麗なショットを撃ち抜く名場面。「笑顔、笑顔」の件とクライマックス大激突の二点突破で残りの類型的な顛末はチャラにしてなほ釣りが残る、スッカスカの紙一重でスカッとさせる一作である。裸映画的にはアイドル顔のビリング頭と煽情的な爆乳を誇る三番手を事実上両脇に従へた、二年四作に亘り二番手レギュラーを張つた美咲結衣が場数不足も想像に難くはない男優部を捻じ伏せ、ウッスラ貫禄すら漂はせる重量級の濡れ場を披露。ただ惜しむらくは、国沢組だけでなく、以降の新作に名前が見当たらない点はそれだけに重ね重ね残念無念。


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 「小説家の情事 不貞の快楽」(2003/製作・配給:新東宝映画/脚本・監督:深町章/企画:福俵満/撮影:長谷川卓也/編集:酒井正次/助監督:佐藤吏/録音:シネキャビン/スチール:津田一郎/現像:東映ラボ・テック/出演:里見瑤子・若宮弥咲・池谷紗恵・なかみつせいじ・高橋剛)。
 白壁の宿の外観カット、庭では里見瑤子が優雅にお茶を愉しみチャッチャとクレジット起動。なかみつ先生が和室で執筆中、人形を抱いて徘徊する若宮弥咲を階段の下からチラ見せ。原稿が上がつたらしき様子と、家内を窺ふ里見瑤子、若宮弥咲がフラーッとベランダに姿を見せてタイトル・イン。
 作家の柿沢孝二(なかみつ)は原稿を渡した担当編集の三船美佐(里見)に、妻を見たかと問ふ。交通事故に遭ひ第一子となる筈であつた胎児も流産した柿沢の妻・明子(若宮)は、外傷は癒えたものの、未だ記憶は戻らずにゐた。一方、美佐から感想を求められてゐた、美佐の同棲相手で作家志望の倉田順(高橋)の原稿を、柿沢は無言で返す。明子を抱へる柿沢同様、美佐も美佐で事実上のヒモの倉田との生活はすつかり煮詰まるのも通り過ぎてゐた。酔ひちくれ、金を無心し、気紛れに体を求める倉田に半ば匙を投げた美佐は、友人宅を渡り歩いた末に仕事で出向いた柿沢家にて、泊る当てがないと遠回しなのか最短距離なのかよく判らない膳を据ゑる。過去に一度柿沢と美佐は関係を持ち、柿沢いはく明子は実はそのことを知つてゐた。柿沢は明子が不貞を働いた夫を苦しめるために、正気を失したふりをしてゐるのではないかと疑心暗鬼を募らせる。
 配役残り、綺麗な三番手ぶりを披露する池谷紗恵(ex.池谷早苗)は、家主がゐぬ間に倉田が連れ込む女・市原美香。前貼りを使用してゐなかつたのか、絡みの最中で画面全体にボカしがかゝり、暫しそのまゝで突つ走つてのけるのはあまりに豪快な疑問手。美香に話を戻すと、事後倉田が金を払ふまで、日が暮れても三船家に長居するよく判らない業態の嬢。
 深町章2003年第二作は、2004年第一作「小説家の情事2 不倫旅行」(脚本:河本晃/主演:久保新二)に六作遡る「小説家の情事」無印第一作。無印第一作とはいつてみたけれど、久保チンがチャンカチャンカ牽引する艶笑譚の「不倫旅行」と、シリアスなメロドラマである今作とは特にも何も全く以て無関係。偶々小説家の主人公が配偶者以外の人間と情事に及ぶ二作を、新東宝が戯れだかいい加減にナンバリングしてみたに過ぎない。「やりたがる女4人」(2007/脚本:かわさきひろゆき)が小説家の情事3であつても構はないし、「作家と妻とその愛人」(2002/脚本:岡輝男)が「小説家の情事0」であつても罰は当たらないそれだけの話感が、実に量産型娯楽映画的ではある。
 映画の中身的には各々の袋小路の底で互ひに救ひを求めた、初老の男と妙齢の女。さして展開の手数に富むでもない割に、小一時間とはいへ長く感じる時は途方もない無間地獄と化さなくもない尺は案外サクサク進行。ウッスラと気配のする出来合ひの悲劇に、脇目を振れることなく一直線。誰一人幸せにはならない暗い話も熟達の妙技で一息に観させる、精緻な工芸品にも似た一作である。

 地味に歴史的に重要なのが、m@stervision大哥の定点観測が正確であつた場合、今をときめく伊豆映画の聖地こと「白壁の宿 花宴」の、今作が―柿沢邸として―初登場作となる。


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 「妻たちの性体験 夫の眼の前で、今・・・」(昭和55/製作・配給:株式会社にっかつ/監督:小沼勝/脚本:小水一男/プロデューサー:細越省吾/撮影:森勝/照明:加藤松作/録音:橋本文雄/美術:菊川芳江/編集:川島章正/音楽:甲斐八郎/挿入曲:佐藤三樹夫『オン・ザ・コーナー』《ビクターレコード》/助監督:中原俊弘/色彩計測:青柳勝義/現像:東洋現像所/製作進行:三浦増博/出演:風祭ゆき・高原リカ・佐々木美子・宇南山宏・錆堂連・草薙良一・佐藤秀美・川島祐介・萩原徹也・池田光隆・並木修一・吉崎敏雄・喜多村通・柳井智寿・山本祐二・野末直裕・遠田利章/協力:ダイナマイトプロダクション)。配給に関しては事実上“提供:Xces Film”。出演者中、並木修一以降は本篇クレジットのみ。各種資料に見られる企画の進藤貴美男が、本篇クレジットには見当たらない。
 ミャアミャア鴎の鳴き声開巻、実業家の坂本修三郎(宇南山)が一人で朝食を摘んでゐると、妻の沙織(風祭)が遅れて起きて来る。遅くなる的に坂本は出勤、見送つた沙織が窓のカーテンを開けるとダサい挿入曲起動、風祭ゆきの端正な横顔までカメラが回り込んでタイトル・イン。クレジットがてら外出した沙織は推定大学運動部の下卑た若者の集団(川島祐介以下)は無視して遣り過ごし、使用人のヨシ(佐藤)に管理させるヨットで海に出る。甲板で日に当たる自身の水着姿にヨシがマスをかいてゐるのに気づいた沙織は、適当にヨシを揶揄ふ。一方、坂本はといふと愛人として囲ふ、ヌードスタジオとかいふよく判らん業態の風俗嬢・由香(高原)と情事の真最中。由香の妙な片言は、一体何処訛のつもりの造形なのか。菊の蕾を満喫した坂本が、風呂に浸かりながら由香との出会ひを想起してゐると、黒尽くめの男二人組(錆堂連と草薙良一)に由香が殺害、挙句に坂本が殺害犯に仕立て上げられてしまふ。一千万を要求され窮した坂本は、半額への減額の条件として沙織を差し出すことに同意。一人家でマッタリしてゐた沙織は、二人組に犯される。
 配役残り改めて錆堂連は沙織と江ノ島マリンランドで接触する、沙織が坂本と由香を別れさせるために雇つた男・吉田。二番手共々オッパイ要員の佐々木美子は、由香を忘れられず彷徨ふ坂本を捕獲する、もう一人のヌードスタジオ嬢・ひかり。並木修一以降の中に、ヌードスタジオ支配人が含まれてゐるのかも知れない。
 風祭ゆきがエマニエルなポーズでメンチを切るポスターの図柄が馬鹿でも知つてゐるレベルで有名な、小沼勝昭和55年最終第三作。凌辱された人妻が、お誂へ向きに壊れる。姦計が十字に火花を散らす辺りの外堀たるサスペンスがこの期に初見の目には結構粗く、ゾンビ映画に踝まで埋まりかけたクライマックスの集団輪姦も、改めて度肝を抜かれるほどには、残念ながら当方既に初心ではない。寧ろレイプされたのは沙織なのに傲然と被害者面してのけてみたり、明々白々な使用人に対する蔑視を隠さうともしない、坂本のいつか時代“とき”の流れに押し流されたキナ臭さの方に、別の意味でハラハラさせられるものを感じた。裸映画的には絶対美人ぶりを燦々と爆裂させる風祭ゆきを扇の要に、正しく玉の瑕といつていへなくもないオッパイ要素を、二三番手で補完する布陣は地味に盤石。個人的にはヨシの不純な純情が成就した暁には滂沱と決壊する自信もあつたところなのだが、さういふ惰弱なセンチメンタリズムなんぞ、恐らく端から一瞥だに呉れられるでもなく。ウェーイなグルーブに弾き出されるやうな形でヨシが文字通り手も足も出せなかつた点には一抹の物足りなさも残しつつ、ラストに至つて小椋佳の劣化レプリカの如き間抜けな挿入曲が再起動するにつけ、その頓挫なり未達感が、それはそれとして、あるいはこれはこれで完成してゐるやうにも思へて来たのには、貧相な音楽の富を奪取したかの如く、複雑な、もしくは絶妙な興を覚えた。


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 「恋愛図鑑 フつてフラれて、でも濡れて」(2015/制作:Blue Forest Film/提供:オーピー映画/監督:竹洞哲也/脚本:当方ボーカル/撮影監督:創優和/録音:山口勉/編集:有馬潜/音楽:與語一平/整音:高島良太/助監督:小関裕次郎/監督助手:植田浩行/撮影助手:酒村多緒・福島沙織/スチール:阿部真也/協力:嬬恋村フィルムコミッション/仕上げ:東映ラボ・テック/出演:友田彩也香・横山みれい・加藤ツバキ・樹花凜・倖田李梨・ダーリン石川・イワヤケンジ・津田篤)。この期に及んで久々にやらかしたのが、ポスターには名前のある山本宗介が、多分前篇となる今作には影も形も出て来ない。
 タイトル開巻、ピンク映画の夫婦役で多数共演しもする原聡美(友田)と三沢琢磨(ダーリン)の、正直腐れ縁臭は否めないラブホでの逢瀬。事後、二人は馴染の助監督・小野寺良(津田篤/ここでは声のみ)がインタビュー役を務める、処女女子大生・三輪理佳(横山)のAVデビュー作を横目で見る。処女は兎も角横山みれいが女子大生!?腰を抜かすのはちよつと待つて。聡美が望む結婚を三沢は終始適当にはぐらかし、最終的には出番待ちのライトバン車内で爆発する痴話喧嘩の末に、一旦は男としての責任感を役者としてのそれにすり替へ、その場を上手く切り抜けたかに過信した三沢は何故かその一件を機に俳優業を干され、実家の嬬恋に戻り普通の背広仕事に就く。そこで地元の農協に就職した理佳と出会つた三沢は、朝は農家で両親が空けるのが早い三輪家にて、夜は居酒屋「すなっく 美蔵」で一杯やつた後自宅でセフレ扱ひの理佳を抱く、都合のいい日々を送る。
 配役残り倖田李梨は三沢と理佳の関係に尾ひれを咲かせる、他人にしか興味がない田舎者要員・刀根公佳。樹花凜は奔放な暮らしを経て嬬恋に戻つて来た、理佳の同級生・佐々木凜。三沢に事実上捨てられ塞ぐ理佳に、恋愛は場数だとハッパをかける。横山みれいと樹花凜が同級生!?だから顎を外すのはもうちよつと待つて。イワヤケンジは凜が里佳を宛がはうとする、農家の長男・高山義男、後がないのに跡取りと自嘲する小ネタは気が利いてゐる。そして満を持す加藤ツバキは理佳に匙を投げた高山と縁談する羽目になる、凜の姉・房子。横山みれいが加藤ツバキよりも年下かよと草を生やしかけて、実際に公称は一つ下である驚愕の事実に直面、主に加藤ツバキ方面に軽く度肝を抜かれた。因みにこの御三方の公称は、クレジット順に32・33・27。
 何とこの後後述するもう一作控へる、竹洞哲也2015年第五作。一年を通した全公開作の六分の一強を竹洞哲也が一人で賄ふ格好となり、単に回つて来たチャンスに必ず手を上げてゐるだけのことなのかも知れないが、何でまた斯くも優遇されてゐるのやらピンと来ないところではある。当方ボーカルこと小松公典が得意とするのかよく好む、各々のモノローグで繋ぐ群像劇。少なくともビリング頭二人の裸の分量は潤沢に、ソリッドな不機嫌さを撃ち抜く加藤ツバキは短い出番ながら強い印象を残す輝きを残し、樹花凜も持ち味を活かして勝手気儘に飛び回る。尤も、百歩譲つて共に身勝手な三沢と凜に関しては自業自得気味ともいへ、比較的フラットな立ち位置に留まる小野寺―と等閑視して差し支へない公佳―以外の登場人物の皆が皆、綺麗に袋小路にはまつたまゝ終つてのける作劇には、大いに首を傾げぬでもない。ここで問題となるのが今作「恋愛図鑑」と、三週間後に封切られる「恋人百景 フラれてフつて、また濡れて」が二部作を構成してゐる点。もしも仮に万が一、「恋人百景」で「恋愛図鑑」で拡げた風呂敷を全て畳むとしても、ピンクを観るのに一々事前に予習なんてしなかつたり、プラッとその時々のテンションで小屋の敷居を跨いだ観客が、風呂敷を拡げるだけ散らかしておいて万事を投げ放した一篇に触れた際の、心境や果たして如何にと問ふならば些かならず疑問を残すものである。旗艦館たる上野オークラを除く津々浦々では、「恋愛図鑑」と「恋人百景」が時間差で上映されるにせよ二部作を成してゐる事実が、十全にアナウンスされては恐らくゐまい。となるとオーラスに「恋人百景」の特報を盛り込む程度の一手間が、望まれて然るべきではなかつたらうか。さうでないならば、そもそも全く話の造りが異なるともいへ、たとへば池島ゆたかの「淫乱なる一族」第一章・第二章(2004)の如く、各々別個にバラ観したとて全く不足なく成立する体裁を採つてゐた方が、量産型娯楽映画的にはより相応しいやうに思へる。


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