「近親義母 息子でおもらし」(2004『欲情義母 息子を喰ふ』の2015年旧作改題版/製作:サカエ企画/提供:Xces Film/監督:新田栄/脚本:岡輝男/企画:稲山悌二《Xces Film》/撮影:千葉幸男/照明:高原賢一/編集:酒井正次/スチール:佐藤初太郎/助監督:加藤義一/音楽:レインボーサウンド/監督助手:茂木孝幸/撮影助手:池宮直弘/選曲効果:梅沢身知子/録音:シネキャビン/製作進行:阿佐ヶ谷兄弟舎/現像:東映ラボ・テック/出演:香取じゅん・山口玲子・中村英児・松田正信・丘尚輝・酒井あずさ)。
荒れる東野家の夜、浮気の発覚した和也(中村)が、寝室から締め出される。悪びれるでもなく居間のソファーで不貞寝する、和也のモノローグ「その夜、俺は夢を見た」に続いてタイトル・イン。開巻をシャープに駆け抜ける、新田栄の神速がシレッと発揮される。
「それは、見知らぬ女《ひと》だつた」。夢の中、和也は河川敷で面識のない和服女と出会ふ。そのまゝ女と一戦交へ、目覚めた和也は度肝を抜かれる。居間に、当の和服の女(香取)がゐたからだ。夢に出て来ようと出て来まいと、朝起きると家に知らない人が入つて来てたらそれは仰天するよな。当然和也が目を丸くする中、居間に現れた妻・こずえ(山口)曰く、和服女は和也には死んだとすら偽つてゐた、音信不通の母・筒井ゆかりであつた。豪快なキャスティングは、ゆかりが十六の時にこずえを産んだとする方便もとい設定の一点突破で押し通す。ともあれ、教職に就くこずえと和也が一緒に出勤し、ゆかりが家に残る正体不明の新生活がスタートする。
配役一部残り、酒井あずさは和也の浮気相手・小池洋子。別れ際和也の背広のポケットに自身のイヤリングを忍び込ませる、性質の悪い女。水商売の女手ひとつで娘を育てるゆかりに男の影は常に絶えず、こずえはそんな母を嫌悪してゐた。丘尚輝は、こずえ高校時代の担任・杉村順一。家庭訪問当日、部活で遅れて帰宅したところ、ダイナミックな体位で杉村先生に跨る母の姿を目撃してしまつた瞬間、こずえは卒業後家を出る決意を固める。ゆかりが娘夫婦の住所探しを依頼する、背中しか見せない興信所職員は新田栄、ではなく加藤義一。
未見の新田栄2004年第三作と、リアルタイム新版の形で駅前にて邂逅。別にDMMでも見られるにせよ、小屋で観るに越したことはない。時折重病フラグを立てつつ、娘夫婦の不仲を解消するために、フットワークが抜群過ぎる母親が文字通り一肌脱ぐ。確かに“欲情義母”が“息子を喰”つてしまふのは―寧ろ、欠片たりとて当該シークエンスが見当たらない“おもらし”要素は一体何処から湧いて来たのか―ここはさて措くとして、何はどうあれヨリを戻したこずえと和也の夫婦生活がそれなりにエモーショナルなものであつただけに、案外いい映画を観た、と首を縦に振りかけたのも束の間。男優部二番手―実質三番手―が締めの濡れ場のためだけに飛び込んで来る、おまけにこずえが産気づいた顛末も放り投げる豪快なラストには腰が抜けた。心が込められてゐるのか込められてゐないのだかよく判らない辺りが、逆に量産型娯楽映画的には清々しくなくもない一作である。
備忘録< 松田正信はゆかりが子宮の良性腫瘍摘出手術の際に捕まへた、若手医師・安田克夫
| Trackback ( 0 )
|