藤堂高虎家訓200箇条(17)

2006-08-07 07:07:15 | 藤堂高虎家訓200箇条

この160条台はどうも特殊戦術の要項が書かれている。私は、高虎が地元伊賀忍者から後年会得したものと推定する。



第161条 なまず尾の脇指ハはみ出しの鍔掛る程の寸ハ不苦


なまず尾の脇差は、はみ出している鍔を掛けるほどの長さがあればいい。


残念ながらよくわからない。なまず尾というのは、兜で使う用語で、脇差でなまずの尾のような形というのは、想像困難である。



第162条 取籠者の時戸細目にてもたてて有をも先明けさせ戸口の左右鑓の石突にても棒にても突破り左右に居所を能知り居る方江いかにも急に入へし切られさるもの也急にはいる時刀にても脇指にても抜持入り其なりに突と心得へし又向に居る時ハ左の手に何にても持はいる事也自然楯にもすへき心なり


とりこもり者の時、閉めている戸を細めでもよいから開けさせ、戸口の左右を槍の石突きででも棒ででも突き破り、左右に居所を探ってから居る方へ、いかにも急に押し入るべきだ。そうすれば斬られないものだ。急に飛び込む時、刀や脇差でも抜いて、それなりに突くことと心得るべきだ。また、向こうに敵がいる時には、左手に何でも持って入ることである。これは盾にすべきという考えからである。


天照大神の天岩戸神話のような話だ。突入術。果たして急に押し入ると斬られないものなのだろうか。斬られないなら左手に盾をもつ必要もない。斬られると死んでしまうから、生きて、のうのうと家訓を書いている(口述筆記)ということは、たまたま斬られなかったのに過ぎないのかもしれない。が、彼の用心深さから言えば、最初に突入することだけは避けたのだろうと想像できる。



第163条 人をうしろより抱く事心持有急に強く抱えへからす心得たる者ハ調子を請身を下へしつむ必先江余るものなり若いだく共やハらかに能程に抱へし身を下る共先へ余る事なかれ兼而より下へはづれて下るへしと心得へし両ひぢの通り可然


人を後ろから抱く時には心得がある。急に強く抱いてはいけない。心得のある者は体を下へ沈めるので、必ず先の方へつんのめるものである。もし、抱いても柔らかに程ほどに抱くべし。体を沈めても先につんのめることがないよう、あらかじめ下へはずして下るべきと心得るべきだ。両ひじの使い方もそのようである。


後ろから人を抱くというのはどういうことなのだろうか。まさか女性のことではないのだろうか?よくわからないが要するに生け捕りにする場合のコツだ、少し先につんのめるのを計算して捕まえよ、ということか。



第164条 先より幽によばハる時我両手をひろげ我両耳の後の方にあて前の方を明け聞けハあらましハ聞ゆるものなり又後より右のことく呼時ハ両手を耳の前に当て聞ハきこゆるものなリ


先の方から、かすかに呼ばれた時、自分の両手を広げ、両耳の後ろの方にあて、前の方をあけて聞けば、大体聞こえるものである。また後ろから同じ様に呼ぶ時は両手を耳の前にあてて聞けば聞こえるものである。


現代では、手を耳の後ろにあてがって、前向きに広げて聞き耳を立てるポーズは生きているが、後ろ向きにあてがうのはあまりみない。耳に手をあてがわなくても、大人数の宴会で、自分の悪口だけは数十メートル遠くから聞き取る達人がいる。



第165条 闇の夜に先より人の来ると不来とを知事ハ我耳を地につけ聞ハ足音聞ゆる物なり用心のためなり


闇夜に人が来るのか来ないのか知るためには、自分の耳を地につけて聞けば、足音が聞こえるものである。用心のためである。


私の推測なのだが、これらの方法だが伊賀忍者から教わったのではないかと思う。なにしろ自分の領国は、伊賀と伊勢である。



第166条 大小の鞘黒ぬりにする事急の時又大事の便の時口上覚かたき時小刀の先にて鞘に書記すべきため也又夏の強暑に逢てしむる事なし


刀の大小の鞘を黒塗りにするのは、急な時や大事な使いの時、口上が覚えにくい時、小刀の先で鞘に書き記するべきためである。また夏の暑さにあっても、湿ることがない。


カンニングペーパーである。実は、高虎は何度も諸大名の前で、大見得を切っている。「藤堂殿、なにやら鞘に傷が見えるのではあるが、一体・・・」



第167条 陣刀脇指の上Y切刃下地をして厚く金をきすべしむくにする事あしし子細ある事なり


陣刀脇差のはばき切刃は、下地をして厚く金置きすべし。むくにするのはよくない。理由があることだ。


これもよくわからない。むくがいけないのには理由があるとするなら理由を書いてほしいものだ。



第168条 鑓長刀にて人を突時ハ其儘突込と一度に鑓にても長刀にても捨候へハ突れたる者倒るる物なり倒れたる時石突を足にてふまへ候へは起上り兼る物なりうかと突込たる鑓長刀持て居れハたぐり寄事あり鎌鑓十文字ハ格別なリ


槍や長刀で、人を突いたときは、そのまま突っ込んで、一度に槍にても長刀にても捨てれば、突れた者を倒れるものである。倒れた時、石突きの部分を足で踏んでしまえば、起き上がることができないものである。突っ込んだ槍や長刀を持ってうかうかとしていると、たぐり寄せられることがある。鎌槍十文字の場合は別である。


槍で相手を突き刺したあと、手を離して、さらにやりの根元を足で踏んでしまえ、ということだ。鎌槍十文字というのは、たぶん、槍の先が十字になっているのだろうが、考えただけでも、恐ろしい凶器だ。



第169条 喧嘩の時取さゆるとも我贔負成者に取付へからす子細有之事なり


喧嘩の時、取り持つとしてもひいきの者に取り付いてはいけない。理由があることだ。


けんかの仲裁は公平にということだろうが、あまり公平すぎると、「ところで、貴殿、いずれの味方なのじゃ」、と喧嘩中の両者から殴られることがあるから要注意だ。



第170条 急ぐ事有て走るとも能比にはしるへし少し急事遅くとも先にて役に可立息を切はやく走り付共先にていき切レ役に不可立心得肝要なり但道の近きハ格別也


急ぐことがあって走ることがあっても、程よく走るべきだ。急ぐことが少し遅くても、行き先で役に立つ。息を切って早く走っても、行き先で息が切れて役に立たない。心得が肝心だ。ただし、道の近い場合は別だ。


遅刻ギリギリに会社に駆け込む時に応用できる。一生懸命に走らないこと。会社に駆け込む10秒前から、走れば十分だ。もちろん家がすぐそばの場合は、逆効果になる。手口を見抜かれるだけだ。


つづく



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2 コメント

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第161条のなまず尾について (K)
2016-11-02 00:48:57
記事をおもしろく拝見させて頂いてます。

161条の「なまず尾」についてですが、
刀の「ふくら」の部分をふっくらとしてるからを指してるのかもしれません。ネットからの情報なので間違いかもしれませんがご参考になりましたら幸いです。

http://meitou.info/index.php/%E9%AF%B0%E5%B0%BE%E8%97%A4%E5%9B%9B%E9%83%8E

http://www7b.biglobe.ne.jp/~osaru/kakubumeisyouhtm.htm
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Unknown (おおた葉一郎)
2016-11-02 21:46:44
Kさま
ご愛読いただきありがとうございます。
なまず尾は鞘の形じゃないかなと思っています。鯰尾のかぶとというのは、頭の上に鯰が逆さに立った状態なので、そういう妙な形の脇差は、長いのは邪魔だから短いのにしなさい、とか。接近戦の切りあいや建物の中のように狭いところで振り回すには長刀より短刀だったのかな。
とか
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