藤堂高虎家訓200箇条(18)

2006-08-13 00:00:21 | 藤堂高虎家訓200箇条

200箇条の終盤になり、突如、血なまぐさい話が続く。終わりを意識し、またも戦場の思い出がムラムラと蘇ってきたのだろうか。救いのない話が連続する。


手討ちにされた家来や、安物の槍を持たされなぎ倒された足軽、包囲された農家から脱出に成功したと思った瞬間に横から突き殺された者、運よく生き残っても首を刎ねられる者、そして高虎に組み伏せられ早業のように首をスリ落とされた者・・



第171条 もし無是非事にて家来手討にするとも一刀打付たらハ二つも三つも続けて討へし一刀にて不可見手廻る歟不切時は必手負事数度多し能可心得


もし、やむをえず家来を手討ちにする場合には、一刀打ち付けたら二刀目三刀目と続けて討つべきだ。一刀だけでは、斬れてなく手負いになることが多いと心得るべきだ。


手討ちにしてくれる!といって一太刀に斬っても駄目だ、二太刀、三太刀と打ち下ろせ、というのだが、確かに、めったに使わない筋肉を動かすのだから失敗が多いとも言える。その他、綺麗に切る方法としては、「素振りを三回してから、手討ちをはじめる」・「腕がなまらないように定期的に手討ちにする」とか、考えられる。



第172条 なまず尾の刀脇指大切先刃切大刃切すみ寵りの有刀脇指ひたつらの大焼の刀脇差さすへからす


なまず尾の刀脇差、大切、先刃切、大刃切、隅篭りのある刀脇差、ひたつらの大焼きの刀脇差は差してはいけない。


「なまず尾の兜」というのは鯰の尾のような形をした兜のことなのだが、なまず尾の刀というのは、あまり想像できない。短くて太いのだろうか。穴子の尾ならば、良いような気がする。



第173条 樋刀は曲るとも折るる事なし子細ハきたいのうすき刀脇指に必樋をかくなり


樋のある刀は曲がっても折れることがない。理由としては、鍛えの少ない刀脇差には樋が欠けている。


樋とは、溝であり、刀の背に近い部分に浅い溝がついている物が樋刀であり、ほとんどの刀には樋は付いている。本来、血糊が分散するためではないかと思う。



第174条 一戦の砌馬を乗入候共鑓先揃たる所へ乗込へし必番鑓持たる下人也鑓先揃はさる所ハ面々得道具持侍共也


戦いのとき、馬を乗り入れる場合は槍先を揃えている所へ突っ込むべきだ。そこは、粗末な槍を持った下人の場所である。槍先が揃わない場所はそれぞれの侍の面々が、いい武具を持っている。


なかなか、観察が鋭い。力のない人間は、集まって、口を揃えてつまらないことを言い立てるということにも繋がる。



第175条 敵川を越し来ルか不来かを知るハ足元を可見目はしをきく事肝要なり


敵が川を越えてくるか来ないかを知るためには、状況判断をするべし。目端を利かせることが重要だ。


なかなか、簡単そうで難しい話だ。原文では、敵が川を越えて来るか来ないかは、「足元を見るべし」なのだが。本当に自分の足元を見ても、わからないと思う。川を超えてこなくても山を越えてきたりするからさらに想定は難しい。



第176条 取籠者の時内より切出るといふ節ハ其家の門にても戸口にても我左の方にして身を塀に添鑓ならハ内より出る共少しやり過し突へし刀にても此心にて可切鑓付ても切付ても早ク言葉を掛へし取籠たる門にても戸口にても向に居へからす心得有へし


取り篭り者が中から打って出るという時には、その家にしても門にしても自分の体を左の方に寄せ、塀に沿い、槍ならば内から出るところを少しやり過ごしてから突くべきだ。刀の場合でもこの心持で斬るべし。槍で突いても刀で斬っても、早く言葉を掛けるべきだ。取り篭めた門でも戸口でも正面に立っていてはいけないと心得るべきだ。


要するに、中から逃亡を図ろうとするものは、中央突破を狙ってくるものだから、また逃げ込まれないように少し逃がしてから横から襲えということだ。なんと陰険な・・



第177条 馬上にて刀を抜共下緒前に書記ことく結ふへし鞘落へからす馬上にてハ刀鞘に指にくき物なり逆手に取直し我むねに刀のむねを当て指へし左の手には手綱持故也


馬上で刀を抜くとき、下緒を前にして、結ぶべし。鞘を落とすべからず。馬上では鞘に差しにくいものである。逆手に取り直し、自分の胸に刀の胸を当て、差すべきだ。左の手では手綱を持つからだ。


実際の戦場では鞘を落として困ってしまった武士も多いだろうとは思うが、刀の方を落としてしまい、鞘だけ腰に付け逃げ回ることになる者もいただろうと推測する。もっとも戦場には刀がゴロゴロ落ちていただろうから、それで間尺を合わせるのだろうが、うまく鞘に収まるとも限らない。「おおた殿、貴殿の刀は鞘に余っているように見えるのじゃが・・」「おう。鞘が壊れてしまい、拾った鞘で間に合わせているだけじゃが・・(大汗ダラッ)」



第178条 介錯の時も又首落す時も打付ル所ハ大形にして刀の打留る所に目を可付


介錯する時も、あるいは首を打ち下ろす時もだが、打ち下ろすところは適当に見て、刀の打ち留める場所の方に目を付けるべきだ。


首を見ずに刀の方を見ろ、とは・・野球でもゴルフでもあまり聞かない話だ。誤って別人を斬ったりしないのだろうか。



第179条 閙ケ敷時足袋をはくへからす雪踏ハ不申及厚着すへからす胴服ハ可着自然着共どうぶくの上に三尺手拭帯にすへし心持あり


忙しい時、足袋を履いてはいけない。雪駄は言うまでもない。厚着してはいけない。胴服は着るべし。その時、胴服の上に三尺手ぬぐいを帯にするべき心得がある。


忙しい時には、靴下を履いてはいけない。サンダルもいけない。素足で革靴を履くべし。上着は着なくていいが、パジャマや浴衣ではいけない。服を着てから腰にタオルを巻いてみること。(服を着ないで、腰をバスタオルで隠すのではないことに注意が必要)



第180条 組伏て首落す時ハ切へからす刀にても脇指にても切先を左の手に取りすり落すへし早業に能なり


組み伏せて、首を落とす時には、斬ってはいけない。刀でも脇差でも、切り先を左手で押さえすり落とすべし。早業によい。


別の場所では、「敵に留めを刺す前の言葉は、手短にかけろ」というのがあった。「言い残すことがあれば10秒以内にしゃべること」、と早口で言ってから、首にあてがった刀で上から両手でゴシゴシと擦り落としてしまえ、ということだ。参考までに、高虎は1メートル85センチもの長身の大男だ。


つづく



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