やけっぱちのアリス(島田雅彦著)

2020-05-18 00:00:02 | 書評
この小説だが、もともとは『流刑地より愛をこめて』という題名だったのが、文庫化したときに『やけっぱちのアリス』と改題したそうだ。二冊買った人もいるだろう。

題名から言うと、元の方は、007の『ロシアから愛をこめて(From Russia with Love)』のマネっぽい上、イアン・フレミングの持つ、なんとなくどんよりした倦怠感とは違う方向の小説だからだろうか。とはいっても『やけっぱちのアリス』とはなんとなく安っぽい感じがある。作者がやけっぱちだったのだろうか。そんなに悪い小説ではないともいえるし、最高作の方だと思う。



舞台は、般若学園という自由奔放な高校。帰国子女の砂山アリスを取り巻く同級生たちの生態が楽し気に書かれている。本人たちは楽しくないことも多いので、あくまで作家が楽しそうに書いているということ。

アリス、蔦麻呂、小夜吉、押切花代。この4人が物語の中心人物で、それぞれ倒錯した関係が入り混じる。その他の登場人物も空也、雪姫、なぞの中国女性など準レギュラーとしての立場をわきまえて、ポイントごとに登場する。映画だと、脇役なのに張り切って目立ってしまう若手俳優とかいるのだが、小説の場合は、登場人物はすべて作家の手の中にある(手からこぼれそうになると編集者が修正する、ともいえる)。

最後は、アリスと蔦麻呂は、学園を脱走してどこかに行ってしまう。行った先はどこでも流刑地と彼らは表現するのだが、この小説の10年後の続編を読んでみたい、と思って計算してみると、既に25年が経っている。