金谷上人行状記(自伝 藤森成吉現代語訳)

2019-05-22 00:00:53 | 書評
東洋文庫である。箱入りで、時に難解な内容で手も足も出ないような書物もある。時間をかけて読むことになるだろうと覚悟していたのだが、実は原文ではなく現代語訳である。

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といっても、著者の横井金谷(きんこく)は江戸後期の僧であり、現代語に訳され、同時に注釈も充実して初版が1965年である。50年以上前ではあるが、現代語訳は十分に通じる。読み始めると一気に読めるのは、この自伝は荒唐無稽の金谷の半生というものが、主に旅(というか逃亡)と遊芸に関係するもので、読者の刺激を満たす内容だからだ。

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例えば東海道中膝栗毛とかドンキホーテとか同種の書物は数多くあるのだが、本書の特徴は、内容がほぼ事実であることと、自分で書いたということ。多芸多才の金谷だからこそ、全国各地で歓迎されて歩き回れたのだろう。思えば江戸の後期でも、まだ封建制度は厳密に残っていて彼のような優秀な頭脳は使い道もなく、博打や色事といった悪所通いにのめりこんだりしたのだろうか。

本書の最大の謎は、人生70余の金谷が本書を書いたのが40代中ごろと推測されているのだが、残りの人生のことはよくわかっていない。ある日を境に急に大人しくなるということもないと思うのだが、「その後の金谷」がないのが、少し残念である。