英語で味わうシェイクスピアの世界

2018-03-08 00:00:32 | 書評
昨年暮れから読み始めていた本。シェイクスピアを全部英語で読もう、というような元気はまったくないのだが、シェイクスピア戯曲にはさまざまな要素があってなかなか魅力的である。有名作品の「あらすじ」と「ハイライトシーン」が英語になっていて、難しい言い回しには日本語の訳が付く。

shakespeare


ただ、シェイクスピアの原本は、古典英語なのだ。たとえば「私の」ということばの英語が「my」であるのと同じように、「あなたの」は「thy」。もちろん現代では「your」。多くの作品は西暦1600年前後に書かれている。芭蕉や西鶴よりも古いわけだ。

とはいっても、この本にも収録された「As You Like It(お気に召すまま)」は高校の時に原文にチャレンジしたことがある。

収録作は、「ロミオとジュリエット」、「ハムレット」、「ヴェニスの商人」、「お気に召すまま」。

欧米の評論家は、「シェイクスピアには悲劇も喜劇もない。人生そのものだ。」というのだが、確かに四代悲劇という「ハムレット」「リア王」「マクベス」「オセロー」のいずれも全編を通して悲劇的な感じは漂うのだが、「人間の不条理」という方が強いような気がする。そしてこの四作ともフィナーレにおいては少なくとも犠牲者の名誉は回復する。

そういう意味で、救いがないのが「ロミオとジュリエット」だろうか。(なぜ日本語ではロメオではなくロミオなのかは不明)観客は救いのない涙を流すしかない。

「ハムレット」。復讐劇である。言い方は変だが忠臣蔵みたいなストーリーだ。有名な”To be or not to be” 生きるべきか死ぬべきかと訳が付いているが、そう解釈してもいいのか自問するわけだ。まさに浅野内匠頭。吉良を斬ろうかやめようか。

「ヴェニスの商人」。前から思っていたのだが、シャイロックってそんなに性悪商人なのだろうか。ユダヤ人であることで迫害されて、カネを借りるのは当然という態度のキリスト教徒が返せなくなった時に、「カネは返さなくてもいい。傲慢なお前たちの心臓のまわりの筋肉を差し出せ。」と証文通り迫って、何が悪いのだろう。それなのに、証文は無効で、逆に殺人未遂罪でキリスト教に改宗の上全財産没収または死刑などと人種差別される。結婚詐欺の未亡人に400万円超を貢いだあげく、関係がなかったことにされ、王室やマスコミに叩かれているような図式だ。

「お気に召すまま」。題名からして暗示的だ。王室を追われた人たちが森に逃げ込んで楽しい生活を送るわけだ。ボヘミアンである。他の戯曲のように悪が滅び善が勝って再び宮殿に戻ったりはしないわけだ。

ところで、英国人が戯曲を書き、英国人が演じるにもかかわらず、シェイクスピア劇の舞台は英国ではない。イタリアだったりデンマークだったり、キプロスだったり。なぜなのだろうと考えても答えはどこにもない。やはり革命前の英国では、体制の取りしまりが厳しく、日本でも時代を変えて演じていたように、別の国の話として書かなければならなかったのだろうか。ちょっと英国以外は二流三流国家であるような驕り(あるいは真実)も感じられる。

ところで、この本の表紙には女性が川の中で着衣のまま背泳ぎをしている画が使われているが、この絵は19世紀の画家であるジョン・エヴァレット・ミレイの「オフィーリア」という作品で、ハムレットの恋人のオフィーリアが溺死した絵である。日本では無数の本が出版されているが、表紙にご遺体の絵を使うものは、他にはほとんどないだろうか。