風林火山(井上靖著)

2015-06-11 00:00:02 | 書評
furinkazanこの小説、武田信玄の一生を描いたものという先入観を持っていたのだが、違った。信玄に仕えた軍師である山本勘助の活躍を描いたものだった。ところが、本書が書かれたころには、山本勘助という人物が実在していたのかどうかは明らかになっていなかった。

つまり、作家は歴史を写そうとしたのではなく、歴史の中に主人公を置いて、その人物を戦国時代という歴史の中で描きたかったのだろう。

そして、最近の研究では、「山本菅助」という人物が実在していたことが明らかになったそうだ。といっても伝えられる、各種の彼の行為とされる伝承がすべて実話なのかどうかはわからない。実話であるとすれば、大変な型破りだったということだ。

その型破りな彼を描くことによって、現代人が想像することもできない戦国時代の非常や不条理、戦国武将の弱さなどが我々に伝わってくるということが、作家の腕なのだろう。

本書は、川中島の戦いで、信玄・勘助組の組み立てた策が、謙信に読み切られ、陣型総崩れとなり、勘助が討死するところで終わる。

その時、勘助はその後の武田家の滅亡を確信したのだろうか。誰か、作者に聞いてくれるとうれしい。