自分の運命に楯を突け(岡本太郎)

2015-06-17 00:00:37 | 書評
岡本太郎記念館に行った時に、この元気なタイトルの本を買う。

岡本太郎について、よくわからないこともあったのだが、一冊読むと、彼のことが少しわかったような気がする。

taro


結局、スジが通るということを大切にする人なのだが、どうしてスジが大切なのに、グラスの底に顔があったり、テレビに出て、おかしなことをしゃべったり、ピアノ演奏するのかということだって、一つは「好きなことをする」という主義なのだろうが、もう一つの理由があることを知らなかった。

つまり、絵を売らない、という主義だ。何枚かの絵は色々な都合で売ったそうだが、その後どこにいったか行方不明。個人に売ると、その絵を観る人がいなくなってしまうので、絵は売らずに美術館に寄付したり、パブリックスペースに置いたりということだそうだ。

その極みが、太陽の塔ということなのだろう。大阪万博は、人類の未来への挑戦だったのだが、先進技術をほこったすべての展示物や建物はなくなり、現在は太陽の塔が永久保存されている。しかも、行方不明になっている地底の顔まで復元され、近々大公開される。

そして、ものすごく先進的なわけだ。彼が気に入った縄文造形は、ほんの最近になって多くの陶芸家が輩出されている。また、30年前に飛行船に絵を描いた時、未来には飛行機に絵を描く時代がくると予言されたが、事実、そういうのも実現した。

そして、人まねはとんでもない。字なんか下手な方がいいそうだ。文字を切ると血がでるようなのがいいらしい。椅子だって、坐りやすい椅子じゃなく、「坐ることを拒否する椅子」がいいそうだ。坐りやすい椅子なんて、不健全な人のための物で、丈夫で元気な人が、いつまでも椅子なんかに坐っているはずないから。ちょっと坐ってみようかと思う程度の座り心地の悪い椅子がいいらしい。

彼は、職業のことを聞かれた時に、画家とか文筆家とか芸術家とかそういうことはいわずに、「職業は人間」といっていたそうだ。

なんとなく本書で知性を感じるところだが、終戦ですべての価値観が逆になったのに、美術界だけは戦前のままで古い権威が生きていたということ。そこで、権威に反対するため、原色で絵を描いたそうだ。そうしたら、すごく差別され、結果として絵を描くよりも、本を書いたり、講演をしたら、そちらの方が型破りのことを話すので有名になってしまったそうだ。

その結果、彼は作品を売らずにすみ、残された我々は、東京と川崎にある美術館に行けば、大量の作品群を目にすることができるわけだ。(バルセロナのピカソ美術館にちょっと失望した理由は、まさにこの逆パターンだったからだろう)