私だけの勲章(後藤正治著)

2014-02-13 00:00:49 | 書評
ノンフィクション作家、後藤正治氏の『私だけの勲章』。

kunsho


1946年生まれの氏の取り上げる題材は、スポーツと医療関係が多いそうだが、本著で描いた人物は、

演歌:大阪飛田の流しの演歌師である福田二郎

幻の党派:破綻した都市科学研究所所長だった米田豊昭

御巣鷹山:フジテレビ新入社員だった山口真

選挙参謀:大阪の有名選挙参謀、片岡馨

最後のひと振り:阪神タイガース代打男、川藤幸三

「最後のひと振り」は、書きなれたスポーツジャンルということで、周辺エピソードを集めて快調に筆は進むのだが、ある意味、スポーツという社会の一部を抽象化したような世界での「お決まり」のようなルールの中で描く世界なのかもしれない。

「演歌」、「幻の党派」「選挙参謀」の三作は、まだ終戦の匂いの漂う大阪を舞台に生き抜いていたオジサンたちの20世紀の挽歌のような、燃えるように苦しい情念を描いた世界で、現代に読むと、かなり息苦しい。苦しいが、もはやそういう世界はバブル崩壊とともにカスミのように過去という時間の彼方に吸い込まれていったのだろうと思いながら読み進むしかない。

そして「御巣鷹山」。不覚にも新幹線内で読んでいて、涙がにじみだしてきた。幸いA席に座っていて、B席は不在だったので、問題はなかったのだが、1985年8月に御巣鷹山付近に墜落した日航機の情報を受け、急遽編成されたフジテレビの何班かの現地取材班のうち、新人記者だった主人公の班だけが、偶然の積み重ねの結果、生存者発見の現場に到着することができ、彼のうわずった声がリアルタイムで日本中に届いたわけだ。

事故そのものの報道は、その後ずっと続いているのだが、大学卒業後数か月でその場に立ち会った彼のことを描いた視点が素晴らしいと思ったわけだ。


それから28年半。主人公は、51歳だろうか。フジテレビの編成制作局の担当局長に同姓同名の方がいらっしゃるようだから、ご当人なのだろうか。社長になってほしいな。