始祖鳥記(飯嶋和一著)

2014-02-25 00:00:25 | 書評
岡山県にしばらく仮寓を構えているので、地元の偉人を捜索して、調べてみようと思った人物が二人いる。

一人は、日本人女性初の五輪メダリストの人見絹江さん。1907年に生まれ、100M、200M、走り幅跳びの世界記録を打ち立て、1928年のアムステルダム五輪800M走で銀メダル。しかし、そのちょうど3年後1931年8月2日、24歳で他界。

もう一人は、浮田幸吉。1780年代に岡山の中心部を流れる旭川の橋の欄干から大凧を背負って滑空したとされる。これが池田藩の威信を傷つけたとして、捕縛され岡山から所払いされる。そして25年後、幸吉と思しき人物が駿河、安部川の河原で再び滑空したとされる。

鳥人間である。

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職業は表具屋。紙と竹の加工ではこれ以上ない職業だ。しかし、歴史の中には、岡山から静岡に移住した彼の失われた25年についての手がかりは見当たらない。実は数人の研究家が挑んだものの、なかなか真実が見えてこない。著者の飯嶋和一氏も長く研究していたのだが、ついにフィクション小説として仕立てることになったようだ。

したがって、本書に書かれていることは、史実とは言えない。あくまでも登場人物の行動は飯嶋氏の創作で、当時の時代の閉塞感とそれを突き破ろうとする民衆や先進的な人たちの苦悩をテーマとしている。

第一部は、空を飛ぶことに憧れた青年幸吉が、ひたすら空の滑空を追及し、夜な夜な飛び回ったため、「池田藩に対する民衆の不満を煽っている」とされ、捕縛され追放されるまでである。

第二部は、第一部とは全く別の線で、千葉県の行徳の塩販売業者が、専売化された江戸幕府の塩業に抵抗し、高級塩を開発し、原料塩を西国から直接運ぶため海運業者と契約する話が中心になる。その貨物船の船員の一人が幸吉だった。そして船員としての未来に不安を感じ、ついに静岡で陸に上がる。

第三部は、幸吉の周りに集まる人たちが抱えた時代への不満を感じ、ついに再び空に舞うまでが描かれる。実際にはその前も後ろも幸吉の第二の人生の実像は不明である。

飯嶋氏の小説は、文字がビシッと埋まっていて、ページ数以上に読み進むのに時間が必要だ。読み終えるのに、かなり疲れたが、読み切った時の爽快感がある。