セブン・シスターズ(アンソニー・サンプソン著)

2008-09-19 00:00:21 | 書評
ad89f9ed.jpg1975年にイギリスの出版社から原書が発売され、翌1976年に和訳されたのだから33年前の書である。副題は「不死身の国際石油資本」。セブンシスターズというのは、当時の石油メジャーだった7社のことである。EXXON(ESSO)、MOBIL、SHELL、TEXACO、CHEVRON、GULF、BP。以前、その業界の傍らにいた時に読んだ名著である。ある理由で再読してみる。

まず、この本は大著である。ハードカバー二段組で376ページ。1ページに1050字である。なぜ、読み直したという理由はいくつかあるが、最大の理由は、新潮社からある一冊の本をいただいたことからである。しかも月刊誌フォーサイト編集長の堤さんからの手紙つき。本の名前は「ロックフェラー回想録」。

その本が読み終わったら何か事情について書くつもりだが、簡単に言うと堤レターの主旨は、「とても長いけど、頑張ってね」ということ。定価2600円、652ページ、1ページ966文字の巨著を、「そのままBOOK-OFFに持って行ってはいけない」ということだろう。ロックフェラー家といえば、実はスタンダード・オイルの創業者である。現在もエクソンモービルの大株主で、その受取配当金は巨額と思われる。ロックフェラーを読む前に、スタンダードオイルつまりエクソンの初期の歴史を再度復習しようということ。

まず、読み直すとよくわかるのが、セブンシスターズといっても、実際にはそのうちの三社、EXXON、SHELL、BPが実質的なメジャーパワーを持っていて、残りの4社は力が小さい。カルテルなんかもこの3社が決めれば、追随している。そして、30年たって、結局、肥大化したのはその3社で、残る4社は消滅したり、吸収されたり、そのままの状態だ。3社のうち2社が英国系ということは、北海油田の大当たりと関連があるのだろうか。

そして、実は、この本はあまりに名著で、業界を裏側から描いているのだが、読み直してみると、「EXXON社の内側」からの情報が多いように感じる。EXXONの考え方が強く感じられる部分が多い。カルテル破りのインディペンダントの会社には、冷たい評価を感じる。

また、多くの現代のエネルギー本の石油産業史の中で引用されたり孫引きされたりする、悪名高い「アクナキャリー協定」そして「赤線協定」。この二つはともに1928年に設定されている。

アクナキャリー協定は、メジャー全社がイギリスのアクナキャリー城に集まり、狩を装い、世界シェアの現状維持を秘密協定したもの。協定の存在が世間に知られるのは第二次大戦のあと1952年のことである。思えば、日本が南方で石油をめぐっての戦争を行い、そして敗戦したのに、裏でこういうことが行なわれていた。

赤線条約は企業のカルテルではなく、国家のカルテル。オスマントルコの旧領である中東で石油が発見され、開発が始まったので、英国と米国が権益をシェアするために、赤鉛筆で地図に囲いをつけたことに由来する。日本の赤線と同じような話だ。

そして、1975年と言えば、オイルショックの後である。結局、メジャーというカルテルの他に、OPECという産油国のカルテルが力を持つようになって、主役がメジャーからOPECに力が移った時期である。

その後、パワーバランスは右転、左転して、結局は、やはりメジャーとOPECというスーパーパワーがしのぎを削っている。

本書で感心したのは、OPECの中のサウジアラビアの行動様式について。

今でも、サウジはあまり高い原油価格は希望せず、比較的米国寄りの主張をしている(とはいえ、OPECの結束を弱めるようなこともない)。本著では、サウジの野望について、OPECとメジャーが共同のカルテルに入ることを望んでいる、と推定している。そうなれば、世界経済を強烈に支配することができるからだ。(しかし、最近はロシア勢という第三勢力が秩序の撹乱要因になっているようだ)


サンプソンは、この他、ネルソン・マンデラのことや英国の解剖、情報戦争などに著書を持つ。

そして、デイヴィッド・ロックフェラーの回顧録を新たに机に横向きに載せてみるのだが。