遠い日本で、見つけた好物

2008-09-23 00:00:18 | 美術館・博物館・工芸品
b5b22480.jpg猫の好物は「アジの干物」とは、多くの猫マニアは知ってのとおりだが、よく考えれば、猫の原産地であるエジプトでは、アジの干物は食べないはずだ。だいいち、猫の存在理由の大半は「ねずみ捕り」。1年に一回か二回しか収穫できない稲作の地方では、米を倉庫などで保存する必要がある。そうすると、現れるのがネズミである。ネズミはあっという間に繁殖し、さらにペストのような疫病をもたらす。そのため、ネズミ捕り用の主役として、猫はエジプトから東へ東へとアジア大陸に拡がったといわれている。しかし、途中、どこへ行ってもアジの干物に遭遇することはなかったはずだ。そう思えば、日本まで遠路1万キロを歩いた(一部海路か)和猫一族には、その長旅のご褒美が与えられたのかもしれない。

さて、最近、日本で好物にありついたのは猫ではなく、アリクイ。といっても南米大陸に住んでいた「ミナミコアリクイ」。漢字で書くと「南小蟻喰」となるのだろうか。こちらは、陸路でも海路でもなくパラグアイから4年前に空路来日。池袋の動物園に在住中に脱走。遠くに逃げる気がなかったのは確かで、「アボガド」につられて捕獲されてしまう。


行方不明になっていたミナミコアリクイの「タエ」 東京都豊島区のサンシャイン国際水族館で19日から行方が分からなくなっていたミナミコアリクイの「タエ」は22日午前2時20分ごろ、館内で見つかり保護された。けがはなく衰弱もしていないという。

水族館は救助犬を出すなどして捜索していたが、見つからなかったため、21日夜に好物であるアボカドを飼育場所近くの床下に設置。ビデオカメラで撮影したところタエの姿を確認し、その後、飼育員が捕獲した。

タエは約3年前にも脱出した「前科」があり、同水族館は「鍵を変えたり扉の形状を変えたりすることも検討している」と話している。(SANKEI)

まず、保護時間が午前2時20分。深夜である。関係者ともご苦労さまということ。そして、脱走は引き戸式の檻に鍵を掛け忘れたことのようだ。尖った爪を使って、扉を開けたわけだ。何しろ3年前に脱走歴があるのだから、じっと隙を狙っていたのか、あるいは単に、檻の外も自分のテリトリーと思っていたのかもしれない。

しかし、アリクイがなぜアボガドが好物なのか。やや妙な感じがあり、3年前の脱走の記事を調べてみると。


「タエ、どこにいるんだ!」。昨年6月1日。豊島区東池袋のサンシャイン国際水族館がちょっとしたパニックになった。館内にある放し飼い展示施設「Zoo―Zooハウス」から突如、ミナミコアリクイの「タエ」が姿をくらませたのだ。

中南米に生息するアリクイの中でも、ミナミコアリクイはやや小型。タエは当時、推定年齢1歳余り、体長約50センチ。白地に黒い背をした特徴ある体が施設のどこにも見当たらない。

引き戸は閉まっているのに、なぜ……。同施設はサンシャインシティのビルにある。失跡が発覚した正午前から夜中まで、スタッフ約70人が付近を走り回った。「自分の子が迷子になったのと同じ。泣きながら名前を呼ぶ女性スタッフもいた」。飼育員の○○さんが振り返る。

その日のうちに巣鴨署に遺失物届を出した。翌朝一番に再捜索にやってきた○○さんは、施設の前にあるペンギンビーチの岩の上から、ひょっこり顔を出したタエを見つけた。「こんな近くに……。おてんば娘だな、お前は」。しからずに優しくタエを抱き上げた。

水族館内に同ハウスがオープンしたのは、2004年7月。リスザル、アルマジロ、ワラビーなどに加え、「アリクイはどう? かわいいし、珍しいよ」と提案したのは○○さんだった。採用されたが、すぐ大変なことになったと気付く。ミナミコアリクイは長期飼育が難しく、当時、国内の動物園や水族館で飼育中の個体はなかった。

パラグアイから3回に分けて5頭がやってきた。食事や習性を一から勉強したものの、実際に飼育してみると、「とても頑固。餌が少しでも気に入らないと、どんなに空腹でも食べてくれない。しかも、一頭一頭好みが違う」。5頭のうち1頭は、餌を食べずに間もなく死んでしまった。

唯一の雌がタエ。体重は現在5キロだが、来日当初は1・2キロしかなかった。アボカド、グレープフルーツ、ヨーグルトに、何十種類ものドッグフード。毎日スーパーに通い、彼女好みの食事作りに腐心した。冷凍アリも用意した。やっと食べてくれた餌に、アリに多く含まれるビタミンKの栄養剤を入れると、また食事拒否。「娘に嫌いな野菜を食べさせるように、毎日0・1グラムずつ混ぜていった」と○○さんは苦労を語る。

普段はおとなしいが、時にその大きく鋭いツメで、飼育スタッフを病院送りにすることも。そのツメで、同ハウスのアルミサッシの引き戸2枚を器用に開けて逃走したのだった。

失跡騒ぎから数週間後、タエの妊娠が発覚。ストレスを与えないよう普段通りに接したが、タエの方は臨月近くになっても遊び回り、高い所から落ちるなど、周囲をはらはらさせた。

昨年11月27日。○○さんが出勤すると、「ベー、ベー」という鳴き声が聞こえた。体長約10センチ、250グラムの赤ちゃんをタエが優しくなめていた。国内の水族館・動物園では初となるミナミコアリクイの出産成功。「娘が無事に孫を産んだ父親の気分ですかね」。○○さんはほおを緩める。(YOMIURI)

3年前の記事と比べてみると、いくつかの点が見える。

1.毎日、アボガドを食べていた。さらにグレープフルーツやヨーグルトにドッグフーズにビタミン剤。

2.今回、「危険のない動物」といわれていたが、飼育スタッフが爪の餌食で、病院送りになっていた。

3.当時は「鍵を掛けていた」ことになっていたが、今回も前回も「鍵のかけ忘れ」であるようだ。

4.前回の脱走時は、妊娠中だった。

しかし、それにしてもアリクイなのになぜ樹上のアボガドが好物なのだろうか(アボガドの木は見たことがないのだが)。もう一歩、調べてみると、このミナミコアリクイの主食は蟻といっても、地上の木に寄生する蟻類やシロアリ類だそうである。さらに木の実や果樹や、ようするに樹木生活で口にできる栄養分が大好きになったわけだ。そして北米メキシコに住むキタコアリクイとは、同じ種なのではないか、と考えられているようだ。つまり、北米と南米に同じような樹上生活者であるコアリクイが分かれている。

そうなると、アボガドの産地が気になるが、これがほとんどがメキシコ産なのである。つまり、キタコアリクイにとっては常食であると思われるアボガドをほぼ同類であるミナミコアリクイは口にできない。何らかの事情でパナマのあたりの種族が絶滅してしまい、棲息地が南北に分断されてしまったのだろうか。

ところで、今回も妊娠しているのだろうか。人間界と同じようにお産の場所探しとか。

あるいは、サンシャインビルのどこかに、シロアリでも繁殖しているのだろうか。