樹樹日記

じゅじゅにっき。樹木と野鳥に関する面白い話をご紹介します。

平安時代のツリー&バードウォッチャー

2008年02月06日 | 木と言葉
今年は『源氏物語』が完成して千年に当たるところから、宇治市や京都市、大津市など物語や紫式部に縁のある街では「源氏物語千年紀」と題した観光キャンペーンが繰り広げられています。
その紫式部は清少納言をライバル視していたらしく、日記に「清少納言は偉そうにしているけど、書いていることは間違いだらけ」と記しています。間違いだらけかどうか、清少納言は『枕草子』の中でいろんな樹木に言及していて、アスナロについてもおもしろいコメントを残しています。
アスナロはヒノキによく似た木で、「明日はヒノキになろう」からアスナロという名前になったと言われています。教科書で井上靖の『あすなろ物語』を読んだ方も多いのではないでしょうか。

 (左がヒノキの樹皮、右がアスナロの樹皮)

清少納言はその由来について、「どういうつもりで明日はヒノキになるというような名前をつけたのだろう。無責任な約束で、ヒノキになることを誰が保証してくれるの?と聞きたくなるようなおもしろい名前だ」と書いています。こういう理屈っぽいところが紫式部のカンに触ったのかも知れません。

       
       
            (上がヒノキの葉、下がアスナロの葉)

清少納言は私と同じくツリーウォッチャーであると同時にバードウォッチャーでもあったようで、鳥に関する記述も残しています。
「鳥は こと所(外国)の物なれど 鸚鵡(オウム)いと哀れなり 人の言うらん事を真似ぶらんよ」。この後、ホトトギス、クイナ、シギ、ミヤコドリ、ヒワ、ヒタキ、ヤマドリなどたくさんの鳥について記述しています。
また、ホトトギスの鳴き声を聴くために、牛車に乗ってわざわざ田舎に出かける様子も描いています。鳥を見るために車で遠出する今の私たちと同じです。
それにしても、平安時代すでに外国からオウムが輸入されていたことには驚きますね。
コメント (4)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

宇治市民は木に感謝しなさい

2008年02月04日 | 木と飲食
宇治はお茶で有名ですが、生産量では1位の静岡県と2位の鹿児島県がダントツ。でも、玉露の生産量では宇治を含めた京都府が第1位です。宇治茶は玉露などの高級品でブランド力を保っているのです。
玉露は普通のお茶と違って、直射日光を遮って栽培します。昔はヨシズやワラで茶畑を覆いましたが、現在は黒い遮光カーテンを使っています。
この「日光を遮る」という栽培方法を生み出したのは、実は木です。昔、ある人が木陰の畑で収穫した茶葉が他の畑の茶葉に比べて柔らかく、渋みが少なく、うま味のあるお茶になることを発見。それ以来、わざわざ日光を遮って栽培し、玉露として売り出したのです。

       
           (茶畑の遮光カーテン。冬は開けてあります)

で、木にこだわる私としては、それが何の木陰であったかを知りたい。いろいろ考えて、それは松であることを突き止めました。
まず、新芽が出る頃すでに陰を作っているということは常緑樹、つまり針葉樹か常緑広葉樹です。
そして、私が以前、贈答用によくお茶を買っていた老舗のお茶屋さんが「松北園」という屋号でした。松の北にある茶園…。南から照りつける日光を松が遮っていたのです。松北園さんに確認したわけじゃないですが、それが店名の由来でしょう。
また、宇治茶の昔の資料には「松蔭園」という茶園があったことも記されています。
日陰と言っても全く光が差さないようでは茶葉も育たないでしょうが、松の細い葉なら紗がかかったような半日陰になりますから、茶の栽培に最適だったのではないでしょうか。

            
  (玉露の由来と関係あるのか、茶祭の起点・茶筅塚には松が植えてあります)

宇治がこうやってお茶の名産地として大きな顔をしていられるのも、松のおかげです。私たち宇治市民は松に感謝しなければ…。ありがと~、松!
コメント (9)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

クスノキの図書館

2008年02月01日 | 木と香り
京都には熊野と名がつく大きな神社が二つあります。どちらも、紀州の熊野神社に縁がありますが、その一つ新熊野(いまくまの)神社はクスノキの巨木で知られています。
840年前、後白河上皇が創建した際に紀州の熊野から移植したとか。事実なら、移植までの樹齢も加えて約900年。さもありなんと思える巨大さです。
大通りに面していて排ガスも多い場所なのに樹勢は衰えることなく、京都市の天然記念物に指定されています。

       
           (大きさが分かるように引いて撮影しました)

クスノキからは虫除けに使う樟脳が取れますが、京都の名木を紹介した本には、新熊野神社周辺の家では昔から衣類に虫がつかないと書いてあります。
九州では、落葉で堆肥を作るとき、クスノキの葉が混じると腐朽菌の繁殖が抑えられて熟成しないので、取り除くそうです。虫にも菌にも嫌われるんですね、クスノキは。
中国には、その防虫効果を生かした図書館があります。浙江省の寧波(ニンポウ)という町にある「天一閣」がそれ。貴重な図書を虫の食害から守るために、書庫にはすべてクスノキ材が使われているそうです。この天一閣は明代に造られたもので、中国及びアジアで最古の図書館だそうです。

       
           (クスノキの花。去年の春に撮影)

クスノキの葉をちぎって匂いをかぐと、確かに樟脳の薬品臭があります。ところが、花は意外にも柑橘系の爽やかな香りです。春に開花するので、一度葉と花の匂いを比べてみてくいださい。
コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする