バビロン再訪(フィッツジェラルド著)

2017-03-16 00:00:04 | 書評
Francis Scott Key Fitzgerald という長い名前を持つフィッツジェラルドの代表作は言うまでもなく『偉大なギャッツビー(グレートギャッツビー)』であるだろう。映画でも観たし、1920年代という大戦の合間の米国にとって資本集積が進んだ繁栄の時代だった。その時代の寵児ともいうべきフィッツジェラルドは長編小説こそ自分の書くべき仕事と思っていたらしいが、それほど多くはない。『夜はやさし』は成功作なのだろうか。賛否両論。

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未完の長編『ラスト・タイクーン』は未完部分のプロットを読めば、書き切っていれば名作になったとも言われる。書き始めた時には、第二次大戦が勃発していて、もはや美しく強い国は泥まみれになりはじめていた。

どうも、夫妻(夫人はゼルダ)ともに浪費癖があり、もらったおカネはすぐに使う主義であったため、長編小説では印税が遅れてしまうため、短編小説を書きまくって金策を回していたようだ。そして、徐々にネタが切れてきて読者は離れていき、ついにどこの出版社も原稿を買ってくれなくなるのである。

本書「バビロン再訪」は表題作と「メイ・デー」、「富豪青年」の三作を収録している。いわゆる「古き良きアメリカ」。トランプ政権の目標とする世界だ。当時は米国民は3グループに分れていた。「成功者」「普通の白人」「貧乏な黒人」。本書には実は、黒人は登場しないといっていい。第一グループと第二グループのみ。

現代は、白人と黒人だけではなく、ヒスパニックAとB(不法入国)、ITの得意なインドや中東系、大統領になってしまうアフリカ系とか、相変わらず仲間内だけで閉鎖的に生きる日系、韓国系、中国系とか、入り混じってしまい、人種や国籍をテーマとして小説を書くことは困難を極めることになっている。

「メイ・デー」はいわゆるメーデーの日に左翼系新聞社が酔っぱらった帰還兵の襲撃を受けるが、逆に帰還兵1名が窓から落ちてなくなる事件を描いている。

残り二作は、白人青年たちの成功者と敗残者の悲哀がテーマで、まさに今日的とは言えるのだが、米国はこの小説が発表された少し後に大恐慌に襲われ、成功者の大半が敗残組に編成替えになった。

梅田スカイビルと「希望の壁」

2017-03-15 00:00:51 | たび
梅田スカイビルは日本を代表する「世界の名建造物」ということになっている。確かに建物のデザインや空中庭園、長いエスカレーターなど斬新の一言。もっとも日本を代表するかどうかはわからない。大阪を代表するといえば間違いない。といっても大阪市には北側の「梅田スカイ」と南側の「あべのハルカス」と名所が二本。東京は「都庁×六本木ヒルズ」「東京タワー×スカイツリー」ということか。大阪の方が魅力的だ。タワーと言えば通天閣もあるし。

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そして、内外の多くの観光客が、この梅田スカイビルを目指すのだが、かなりの者が途中で道を間違え、登頂断念ということになっているそうだ。大阪駅や梅田駅から徒歩8分とか書いてあるのに、あれだけの大きなビルにたどり着けないのはなぜか?

理由はいくつかある。

まず、ビルは大きいのだが、その他にもビルが多く、途中で見失うことになる。さらに奇抜なフォルムは南北方向からの視点で、大阪・梅田からは西向きに歩くため、ビルを横から見るので、ただの四角いビルにしか見えない。その上、途中に線路があり、歩道は地下道が一本なのだが、この入口にたどり着かないといけないのだが、これが目立たない。そして根源的な問題でもあるが、梅田の地下街は魔界なのだ。その魔界を抜けて、一か所しかない歩行者用の地下トンネルの入口を見つけなければならない。

ということで、通常8分のところを15分かけて最短ルートを発見。たしかに近づくと迫力あるビルだ。エスカレーターとエレベーターのどちらも使って空中庭園にたどり着く。

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あいにく、雨と曇り。空中庭園は外気に直接触れる場所なので、出ると濡れることになったり、濡れなかったり。外と中を出入りする。

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そして、夜に近づき、一階に降りて庭園を歩くと、妙な壁が建つ。「希望の壁」と言われるそうだが、希望と壁はどう両立するのかといえば、壁に穴が開いている。つまり穴の開いた壁は密入国するメキシコ人のための「希望の壁」と言えるわけだ。安藤忠雄氏設計。

大阪天満宮と大塩の乱と東芝

2017-03-14 00:00:09 | 歴史
南森町駅から大阪造幣局に向かう道は、国道一号線である。東海道なのだろう。大阪天満宮があり、大塩の乱槐跡がある。

まず、大阪天満宮だが右大臣だった菅原道真が藤原氏の謀略により太宰府に左遷された際、道中無事をこの地で祈ったとされる。大将軍社という社があったそうだ。京都を出て、大阪で早くも祈らなければならなかったのだろうか

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そして太宰府で道真公はあっけなく2年で亡くなってしまう。京都よりも福岡の方が健康的で住みやすいはずなのだが、なにか怪しい感じもある。そして、道真公が亡くなった後、雷をはじめとする天災が多発し、疫病が蔓延し、藤原家の多くが感染して亡くなる。

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そして、50年近く経ってから、この大将軍社の前に松の木が生えてきたそうで、天皇家では菅原道真の悪霊を慰めるためにここを天満宮として定めたそうだ。当時は学問の神様ではなく、復讐に燃える悪霊だった。

そして、さらに東に向かうと造幣局の塀の前に石碑が建っている。

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大塩の乱 槐(えんじゅ)跡となっている。1837年2月19日に発生した大塩平八郎の乱では大阪の町の20%が灰燼になる。大阪天満宮も全焼。ばちあたりだ。そして、この造幣局の前にあった樹齢200年の槐(えんじゅ)の木に大塩軍の砲弾が命中し、樹木が倒れたそうだ。相当の威力があったのだろう。

そして、この大塩平八郎の乱と東芝にはわずかな関係がある。

東芝の創業者である田中久重は幕末ドラマの中で最も長老だ。1799年生まれ。幕末には60代後半になっている。実は大塩平八郎も1793年生まれなので、6歳違いに過ぎない。

実は、田中の実家は久留米のべっ甲細工であり、若い時から大阪に出ていて大塩の乱の時は37歳。すぐれた細工師だったが、焼け出されてしまう。というか大樹が二つに折れるというような砲弾の威力をまざまざと見たのだろう。その後、佐賀に戻り、鍋島家とともに武器の製造を始める。大塩の乱がなければ、田中は単なるべっ甲細工師で平和な人生を終えただろう。

この田中が海外の武器をマネして作ったと言われるのがアームストロング砲。鉄砲伝来の時と同様に日本人が模造品を作り始める。そして討幕運動の際に活躍。上野の山を吹き飛ばすほど強力攻撃で彰義隊を破る。田中はきっと大塩の使った大砲よりも射程距離が長く正確な大砲を目指したのだろう。

そして、上野の山で木っ端みじんにされた江戸幕府方の数々の怨念がついに東芝を粉砕することになりそうだ。

忖度(そんたく)の意味が・・

2017-03-13 00:00:56 | 市民A
『忖度(そんたく)』という言葉が登場した。

首相夫人が校長である小学校の開設認可を遅らせたり認めなかったら、自分が痛い目に合うのだろうと、多くの役人が忖度したので、どんどん話が進んでいったのではないか。

というように使われる。

そして、「忖度した」とか「忖度していない」とか、すっかり「忖度」という言葉が悪いコトバになってしまった。

まあ、難しいコトバの意味が変わったところでどうということもないのだが、本来「忖度」は「相手の心の中を推測すること」で、それ以上でも以下でもない。

本来、「忖度した結果、断ると自分が痛い目にあいそうなので、たいして問題も起こらないだろうから、相手の言うとおりにした」ということなら、後段の、「断ると自分が痛い目にあいそうなので、たいして問題も起こらないだろうから、相手の言うとおりにした」という部分が問題なんだろう。

使用例:「国民の大声を忖度し、大統領を罷免した」


ところで、日本会議だが、主義に本質的に賛同するメンバーもいるが、単に補助金のために主義に賛同するふりをする人もいるということなのだろう。

4・4・4の造幣局

2017-03-12 00:00:54 | 美術館・博物館・工芸品
大阪の造幣局を見学に行くことにした。事前に申し込む必要がある。造幣局はコインを作る場所で、最大でも500円玉なのだが、それでも現金であるため、怪しい人間は見学することができないのだろう。

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まず誤解のないように書くと、お札(日銀券)を作っているのは財務省印刷局で東京が本局。コインを作るのが造幣局で大阪が本局。

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大阪造幣局が開所したのは明治4年4月4日。「444」と揃っている。造幣局がなぜ大阪にあったのかは現在でははっきりしないのだが、当時、首都は東京(江戸)ではなく大阪になるとも言われていたそうで、造幣局の工場は建設に時間がかかるため、首都大阪説にしたがって作り始めてしまったのかもしれない。圧印機は当時香港で休眠していたフランス製を中古で購入したそうだ。

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薄い金属板を作り、円形にくり抜き、洗浄、乾燥したあと、圧印するそうだ。そして検品し、数を数えて袋詰めして出荷となる。従業員は仕事の前と後に金属探知機で検査するようだ。プレミアムフライデーだからといって未完成の仕事を家に持ち帰ったりすることは許されない。

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合わせて、造幣局の敷地内にある造幣博物館も見学。日銀(東京)や旧東海銀行(名古屋)の貨幣博物館よりも良品が置かれている。大判小判が並ぶ展示は圧巻だ。また前の東京五輪や長野、札幌の金メダルもここで作ったそうだ。次の東京五輪の金メダルは携帯電話の中の微量な金を集めて作ろうとはしゃいでいる人がいるのだが、そもそも今までの五輪の金メダルは、銀メダルに金メッキしたものなのだが、知らないのだろうか。

3月11日

2017-03-11 00:00:30 | しょうぎ
きょうは3月11日、6年前のきょう、午後2時46分に東日本大震災が発生している。昨年末に仙台に親戚の法事で行った際、ご僧正様より、来年(つまり今年)は七回忌にあたるのであるが、僧侶の数が足りない、という切実な問題を教えていただいたのだが、ニュースにはなっていないようで、なんとかなっているのだろうか。

きょうが何をやるべきなのか考えてもなかなか答えは見つからないのだが、今、担当している将棋教室の今年度の最終回がきょうなので、年度の終わりの将棋大会を開くことにしている。駒落ちハンディ付のランダム対局で、勝点は、勝ち5、負け2、引分け3、なので、負けそうになるとすぐに投了して次の対局が始まる。大会の終了時刻が2時45分なので、震災の1分前である。来年の小学1年生は震災を知らないこどもだ。



表彰式の後、こどもたちに何かを話そうにも、自分の心の中で、何もまとまっていないことに、いたく気付いてしまう。何年たっても「今できることを精いっぱいやろう」というところから一歩も進めない。


さて、2月25日出題作の解答。

長いので、途中図を入れてみたが棋譜と図面をどのように配置すべきかよくわからないので我慢してほしい。
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途中図1

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途中図2

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途中図3

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途中図4

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詰上図

初手の紛れを乗り越えると龍追いになる。途中で盤上の銀を動かして回転方向を確定する。一回目の角移動で打開した後、左上に王を追い詰めると、持駒の一歩が登場し、角が戻ってくる。この8二に打つ歩を最初から持ち駒にするか、途中で入手するかだが、最初から持駒になっていると、いつでも歩を打つ変化が幻影のようにちらついてしまうという嫌な問題になっている。

動く将棋盤はこちら

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なお、さわやか風太郎様よりアイディアを頂き、左辺で一枚減らすことができたので、改作図としたい(手順は同じ)。


今週の問題。
(迂回手順があったので、1一飛を追加。)

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いたってシンプル。物足りなかったら、近くの豚骨ラーメン店にでもいって、チャーシュー麺(大)でも食べてくだされ。

わかったと思われた方は、コメント欄に最終手と総手数とご意見をいただければ正誤判定します。

黒門市場も外国人街に

2017-03-10 00:00:27 | あじ
大阪の中心にある黒門市場だが、外国人が多いと聞いていたのだが、築地の観光客だって8割が外国人なのだから・・と甘い気持ちで地下鉄の日本橋(大阪の)で降りる。築地市場の外国人比率より少ないように感じたのだが、そうはいかなかった。

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やはり中国人観光客が札びらを切っていた。フグや神戸牛などの数千円の料理を食べまくっている。全国どこでもこういう光景が広がっている。

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私も、乏しい財源で食い散らしへ参戦。まず、ミニマグロ丼。これは絶品。そして、焼鳥を何本か食べながら次の店をさがす。そしてバーベキュー店で神戸でも山形でもない牛肉の串焼きを注文。

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肉を焼いたり、テーブルで焼き上がりを待つ手順について、お店のスタッフが説明してくれるのだが、話しかけられたのが最初は中国語なのだが、聞いていてよくわからない。中国語はまったく知らない。そして、・・・。次に話しかけられるのが日本語ではなく英語。


そう見えるのだろうか。

たぶんスタッフの方は、英語と中国語しか話せないのだろう。

事実は小説より奇なり。

教授たちからのサウンドメッセージ

2017-03-09 00:00:59 | 音楽(クラシック音楽他)
十日ほど前に、洗足学園音楽大学の前田ホールで教授の演奏会があった。場所は溝の口。地元では「ノクチ」と言っている。(*東急では『溝の口』と表記し、JRでは『武蔵溝ノ口』と『の』と『ノ』の違いがある)

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初めて洗足学園に近づくと、かなり斬新な建物が現れる。ドームと赤い箱ビル。あまり音楽大学には見えない。美術大学的だ。

大学構内の奥の方に創始者の名前を冠した前田ホールがある。こちらは重厚な感じがある。いわゆるシューボックス型といわれる直方体型のコンサートホールだ。

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内装は白を基調とし、大型のパイプオルガン付き。なんとなくオペラシティに似ているというか、オペラシティの方が似ているというべきなのだろう。

本日の演奏家は、ヴァイオリンでは「世界のミズノ」と呼ばれる水野佐知香教授と、電子オルガンでは「世界のアカツカ」と呼ばれる赤塚博美教授、マリンバでは「世界のカミヤ」と呼ばれる神谷百子教授。3人とも洗足の女性教授。そして作曲では「世界のワタナベ」と呼ばれる渡辺俊幸教授。

電子オルガンとかマリンバとか、普段あまり登場しない楽器のスゴ技が炸裂する。

しかし、普通に3つの楽器で協奏曲を演じようかと思っても、マリンバとヴァイオリンと電子オルガンの3種を選ぶとは、まったく予想外だ。電子ピアノの達人が、フィルハーモニー楽団一個師団分の働きをするわけだ。

そして、毎年3月11日が近づくと、どうしてもその日を意識した曲が演奏されるようだ。愛とか祈りとか希望とか。プログラムは、『シャコンヌ』に始まり、初演曲 『Prayer to the future world』 で終わる。

トランプ大統領分析講演

2017-03-08 00:00:10 | 市民A
出張で岡山に行く日程とちょうど無駄なく繋がる時刻にエコノミスト岡田晃氏の講演があった。この講演に出席する正規メンバーなのだが、どうも地方都市だと参加率が悪かったようで、同友会や商工会議所に出席者を求めたうえ、さらに新聞広告まで出したらしい。

講演の題名は、まさに旬の話題なのだが、わたしも3年間仕事をしていたので感じているのだが、県民性なのだろうが、外に拡がる視点を持つ人が少なく、逆に事業が上手くいかないと他人のせいにする人が多いような気がする。

そして、演題は、「トランプ大統領の衝撃」から「日本への影響」となり「日本の底力に自信を持とう!」という方向に進んでいく。

冷静に考えて、トランプ政権が選択する政策は、支持層である白人労働者のための政策になるだろうが、すべてがうまくはいかないだろう、ということ。(よく言われている通り)

特に、失業率の問題で言えば、米国も日本も失業率は極めて低いのに大統領が「雇用!雇用!」というのは、白人労働者が現在の雇用の中心であるサービス業を差別意識で見ているからだそうだ。チップに頼るサービス業なんてやってられるか、自動車の組み立ての方が正しい仕事だ、という考え方。(とはいえ、今やNYのレストランのチップは18~20%だそうだし、サービス業の人が減って工場労働者になると、さらにサービス業の給料があがるのだろう)

一方、日本経済は緩やかに上り坂を這い上がっていく流れが続いていて、経済的環境は変わらないだろうということだそうだ。

最後に、岡山県を含む中国地方には訪れる外国人観光客がきわめて少ないという事実をあげて、外国人観光客の付帯効果は極めて大きいので努力してほしい、ということであったのだが、私見ではあるが、英語の看板を増やすことの前に国内観光客に対しても同様なのだが「おもてなしの心」の教育が先なのではないだろうか。「一見客から巻き上げる」という態度ではね。

そして、「日本経済への自信を持とう」という激励を受けた後のQ&Aの時間になると「メキシコへの自動車部品の輸出は・・・」とゴチョゴチョ言い始める人がいたので、途中退席して、仕事先(宴会場)へ向かう。

愛と誠(2012年版 映画)

2017-03-07 00:00:47 | 映画・演劇・Video
『愛と誠』は梶原一騎原作、ながやす巧作画の劇画をもとに、原作とほぼ同時進行で1974年に映画化されている。

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W主演は大場誠(西城英樹)、早乙女愛(早乙女愛)。愛と誠は一般名詞ではなく固有名詞だ。早乙女愛役は一般公募で初出演となり、役の名前が芸名になった。もちろん、出演作品によっていつも芸名が変わったりはしない。第一作のせいか美貌にもかかわらずアクション映画に多数出演することになる。渡米してからかなり経ち、2010年に訃報が届く。享年51歳。

そして、その直後に2012年に再度映画化。今回はミュージカル風でもある。音楽は昭和歌謡である。1974年の頃からアナクロ感が漂っていたが、2012年になると、昭和臭さが目立つようになる。今回は誠(妻夫木聡)、愛(武井咲)。本来原作に漂う「人間の宿命」とか「運命に逆らえない諦念観」などの真剣なテーマが、コミックに転じ過ぎてしまっているのではないかと懸念を覚えることもある。

ところで、全編を通じて血と暴力で塗り固められたような場面が続くが、不思議に殺される者が出てこないので、今夜は悪夢を見ないで済むな、と思っていたのに、一名が殺られた。人前で恥をかかされた執念深い体育会系教師による計画的殺人だ。浅野内匠頭の「殿ご乱心事件」と同様だ。

失われた鉄道を求めて(宮脇俊三著)

2017-03-06 00:00:44 | 書評
1985年から89年の間に鉄道マニアの宮脇俊三氏が主に戦前に存在して、その後なくなった鉄道(主に私鉄)の痕跡をさがす旅に出る。同行は文春の編集部の加藤保栄氏。加藤氏は後に中村彰彦とペンネームで時代小説を書き始め、会津藩ご用達作家となる。

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では失われた鉄道とはどこかといえば、

沖縄県営鉄道、耶馬渓鉄道、歌登村営鉄道、草軽鉄道、出雲鉄道、サイパン・ティニアンの砂糖鉄道、日本硫黄沼尻鉄道

戦争で木っ端みじんになった沖縄鉄道であるが、橋台とか犬釘とかなんとか探し出すことができる。戦後の物かそれ以前の物かを見分けるには銃弾跡をみればいいらしい。隠れる場所もない平らな島を縦断して沖縄戦が行われた。

同様にサイパンでも日本の信託統治の間に砂糖産業がはじまり、完成した砂糖を船積みするための港ができ、産地から港までトロッコのようなミニ鉄道が走っていた。

その他の地区は、経済的合理性から再三立ち行かず、事業継続が困難だった。

何かエッセイストであったはずだった著者が、自らの意見や感情を封じながら第三者的に筆を走らせるのだが、その常識的な視点が少し面白くなく感じさせるのだろうか。

「漂流ものがたり」は本当に悲しい

2017-03-05 00:00:00 | 美術館・博物館・工芸品
国立公文書館で開催中(~3/11)の『漂流ものがたり』を観に行く。公文書館だから、数多くの江戸時代の漂流事案について、幕府や各藩に残る記録を集めて、少しだけ解説がつけられている。ある程度の知識があれば、ああ、あの事件はこういうことだったのかとさらに面白くなるのだが、漂流した人たちからすれば、命がけの苦労を楽しむな!といいたいところだろう。

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ただ、歴史上の記録に残るということは、ある意味幸福なことではあるし、何しろ大部分の漂流者はネバーリターンになっているわけだ。何しろ大部分は太平洋側の沿岸を航海中に嵐になり、転覆しないように荷物を捨て、帆柱を切り倒してしまうしかなく、そうなると、潮に流されるだけで、運よく島に着くか北太平洋永久巡回の旅になるかだ。もちろん島に行き当たる可能性はきわめて少ない。

実際に、多くが助かった例で小説にもなったものは、ジョン万次郎とかアメリカ彦蔵、そしてモスクワまで旅をした大黒屋光太夫が有名だが、その大黒屋の漂流の11年後にやはり若宮丸という船がアリューシャンに漂着。彼らは大黒屋と同じように大陸を陸路モスクワに向かうが、やはりイルクーツクで現地に住み着いた漂流民が通訳に当たる。つまりさらにもう一隻も漂着していたわけだ。生き残った津田夫他はマゼラン海峡経由でハワイ、カムチャッカ経由で長崎にたどり着く。

また、おぞましいのが鳥島。ここは無人島だった。運よくたどり着いたとしても何もない。雨水を貯め、アホウドリを捕まえて食べるしかない。そして数十年に1隻のパターンで漂着すると、前の漂流組の生存者が一人残っていたりする。そして、全員で船を再建し、脱出を図り、かなり成功したわけだが、失敗した人の記録は残らないから成功率は計算できない。

そして、本展で明らかになったある種の漂流者が悲惨だ。日本に漂着した漂流者、それも女性が二人だ。


うつろ舟の女 第一号

1698年、浅野内匠頭の殿中ご乱心の3年前、今の豊橋(三河)の海岸に「ウツホ舟」が漂着。へさきに男の首がさらされていて、舟の中には女が一人。言葉も通じず、長崎へ送還した。幕府の記録に残っているが、本展ではそれ以上の資料がないため、よくわからない。

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うつろ舟の女 第二号

1803年茨城県神栖(常陸)に香合のような船が漂着。上がガラス障子で、底は鉄板だそうだ。図も残っていて、これではUFOの円盤というか川から流れてきた桃の実といった形で、中には水と食糧と女性が一人、そして四角い箱が一つ。

地元の古老の話により「蛮国の王の娘で、嫁ぎ先で密通の罪を犯し、流されたのだろう。昔も同様の例があり、箱の中には男の首が入っているのだろう」とのことになる。

そして、幕府に届け出ると、長崎まで送れ!ということになり藩の費用がかかるため、再び女を舟に乗せ、沖へ引き出したということだそうだ。舟に書かれた文字から、この蛮女はイギリスかオランダかアメリカの王の娘ではないかと推測していたようだ。

地元の古老の耳に、前述の105年前の豊橋の話が届いていたのか、あるいはその前にもUFOが流れてきたことがあったのだろうか。

一回目も二回目も事実の全貌はわからないままなのだが、特に二回目の方のお姫様の漂流旅行がアリューシャン列島のどこかの島で終わっていたことを祈りたいものだ。

理事解任、そして前会長に新たな追い打ち

2017-03-04 00:00:02 | しょうぎ
2月27日の臨時棋士総会で5人の理事の解任が審議され、3人が解任になった。すでに会長含め二人が辞任し、二人が新任され、今回3人が解任になった。

順番に計算すると、
 7-2+2-3=4、ということになる。

思うに、7人全員がいったん辞任し、続けたい人は新たに立候補すればよかっただけの話ではなかったのだろうか。普通はそうやるものだろう。

将棋棋士のすべてが世間から遊離していると見るべきか、世間から遊離している人の方が実力が上で、結果として理事を務めていると見るべきかよくわからない。

また、わたしも以前、支部の支部長をしていたことがあって県連にも出ていたが、そういう場所も世間から遊離している人が多いなあと感じていたことが多く、観戦記者というのもそういうのが多く、どうしてもこんなことになりやすいのだろうか。


ところで、前会長の谷川浩司氏だが、またや新たな厄介に巻き込まれそうである。

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例の森友騒動の中で、首相夫人の昭恵さんが、学園で講演した際、講演料や報酬を「受け取っていないと聞いている」と首相が国会で答弁したようだが、一方で平成27年度のPTAの収支決算書の中に、社会教育費400,000円とあり、姫路城、京都御所への遠足費の他、教育講座として「7/11谷川浩司先生、9/5首相夫人安部昭恵先生」と記載されている。いずれにしても、姫路城+京都御所+谷川前会長+首相夫人=ジャスト40万円となっているわけで、これでは誰しも谷川前会長に「受け取ったかどうか」を確認したくなるのではないだろうか。またもハムレットか。

もっとも、出向いてしゃべった以上、無報酬という方が肩入れしているようにも見えるわけで、交通費と合わせていくら受け取ったかを公開してもいいような気がするのだが、あまり安いと今後の講演の時に不利になるという判断が必要かもしれない。(もちろん、確定申告をしていればの話だが)

さて、2月18日出題作の解答。

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なお、6手目に△3六玉と逃げると、▲3七金で変化同手数詰のように見えるが、△3六玉には▲6六飛で歩余りで詰むので6手目を△5五玉に限定している。つまり都詰ということになる。なぜ、中央で詰むと都詰というかだが、首都は国の中央の方になければならないということだろうか。アメリカも英国もロシアもそうはなっていない。

動く将棋盤は、こちら


今週の問題。

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糸口をどこに求めるかが問題。

わかったと思われた方は、コメント欄に最終手と総手数とご意見をいただければ正誤判定します。

安藤忠雄氏のコロッケ

2017-03-03 00:00:41 | あじ
タイトルを短くし過ぎたかもしれない。正確に書くと、『世界的な建築家の安藤忠雄氏が今までに設計した最も小さな建物であるCROQUETTE店で食べた黒毛和牛のビーフコロッケと青森県産帆立とエビのカツの味は?』ということになる。

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場所は神戸元町通2丁目である。事前にプリントした地図を持って、目的地に近づくとそこは、神戸南京街だった。で、店の前を何回か行ったり来たりして発見する。周りが全部中華料理店の中に、コロッケ(Croquette)店がある。全国展開しているコロッケ店で本社は神戸だ。

そして、五輪スタジアムではケチをつけられたものの、安藤忠雄氏の右に立つ建築家は日本にはいないだろう。特に神戸には多数の建築物があるのだが、2010年に竣工した、このコロッケ店の建物は、彼の最も小さな作品だそうだ。

敷地面積7坪。

これ以上小さなものを今後建てるとしたら、何らかの不始末で建築士免状を没収された場合に、新たな展開として犬小屋の設計を始めるときだろう。

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そして、やはりそれ位の小ささだと、腕を発揮できないのではないだろうか。店頭でコロッケを食べながら観察しても、ピンとこない。エビと帆立のフライを食べても安藤忠雄風のものは発見できなかった。

コロッケは、素朴な味で、逆に甘味はなくホクホク感がある。

エビホタテカツとコロッケとはコロモの色が異なるので、別の油で揚げているのだろうか。かなり濃厚な味だ。

3つ食べると夕食は要らなくなるだろう。が、二つ食べる。

朝日生命体操クラブで金メダリストの話を聞く

2017-03-02 00:00:48 | 市民A
メセナという概念で企業が活動をすることが多かった時代がある。しかし、企業の収益が下がったり、様々な理由で企業合併が行われたりした結果、純粋な形でのメセナではなく、企業イメージの向上、つまり売上を増やすためのPR活動に限りなく近づいている。マラソンや駅伝で所属会社のゼッケンをつけて、後のことは考えずにテレビに映る先頭集団の中で何回カメラに映るかを勝負したりする。

そういうことからいえば、先週、内部公開していただいた朝日生命の体操クラブはほぼ純粋な形でのメセナ活動だろう。サッカーや野球と異なり、きわめて社会露出が少ない。たとえば内村航平選手は今まではコナミ所属(今回、プロとして独立)だが学生の頃は朝日体操クラブに所属していたのだが、知る人は少ないだろう。

そういった活動の実態を説明していただいたのが、総監督の塚原光男氏。ミュンヘン五輪の金メダリスト。跳馬の「ツカハラ跳び」とか鉄棒の「月面宙返り(ムーンサルト)」の実演者だ。発表後、特許を取らなかったせいで、今では高校女子が塚原氏の目の前で軽々と成功させていた。

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体育館は、体操用としては日本最大ということで、いかに朝日生命が力を入れているかがわかる。こども用の体操教室も併設されているが、体操は好きな子と嫌いな子がはっきりわかれ、要するにいかにも危険に見える体操が好きな子だけが、一流選手になるまでの10年間続けることができるそうだ。

リオ五輪女子チームの一員だった杉原愛子さんが段違い平行棒の練習中だったが、重力のある地球上ではできるとは思えない技を練習中だった。女子が大変だったのはリオで団体4位だったため、東京ではどうしてもメダルが目標になるということらしい。米国、ロシア、韓国、中国は国家ぐるみの強化体制だが、日本では企業が行うため、限界があるそうだ。ゼロ金利政策で最も苦境に陥っているのは生保業界ではないかとの声もあるが、朝日生命にはなんとか支援をお願いしたい。

最近、知った謎で、1964年の東京五輪の時には東京体育館で体操競技が行われたのに、なぜ今回はそこではなく有明の仮設体育館なのかということを聞いたのだが、塚原総監督は質問に対して、

1. 東京には体育館が少なすぎて、東京体育館は卓球で使うことになっている。
2. 五輪のルールの中で、あえて仮設競技場を作って、とりこわして緑地にする数値目標があり、それが体操競技になってしまった。
3. ただし、仮設といっても10年は壊さなくていいらしく、金メダルがとれれば、レガシーという話が出てくるのではないかと関係者は存続に期待している。

とのことだそうだ。

ところで、高校女子が跳馬を跳ぶため近くを走っていたのだが、距離25mを全力で走るときの足音は、馬のようにしか聞こえなかった。