耳鼻科で自殺を口にした患者

2017-03-29 00:00:11 | 市民A
毎年2月から3月にかけて二回、都内オランダ大使館の近くの耳鼻咽喉科に行くことにしている。いわゆる花粉症。花粉症とは二十歳頃からの付き合いで、ここの先生とは15年ほどの付き合いのような気がする。といっても年に二回、数分間の世間話だけなので、先生の方に記憶が残っているかはきわめてあやしいが。

今年は2月の最初に一回行った時には患者待ち人数は一人だけだったが、3月中旬に二回目に行った時は8人待ちだった。どうも花粉症により、慢性蓄膿症などの難病を持病を持っている人が相乗効果で悪化しているようだ。先生の声が甲高いので診察室の話が大部分聞こえてしまう。

世間には、人知れず根治できない病気を抱えている人が多いことなど知る場でもある。

そして8人の患者が待っている中で、50歳程度に見える中年で中背で小太りのサラリーマン風男性が、椅子から滑り落ちそうな体制で、意識朦朧で何かぶつぶつと唸っているわけだ。

何か、危機的な状況を感じてしまう。不整脈とか腸捻転とかで苦しんでいるようにも見え、医師の専門を間違えているのではないかと心配になる。少なくてもすぐに診察が必要ではないか。

そのうち耳が慣れてくると、患者の唸っている内容が聴きとれるようになる。

「病気を苦にして自殺する人の気持ちがわかるようになった・・」

とか、おそろしいことを口走っている。お願いだから、ここでやらないでほしい。中年オヤジの人工呼吸なんかしてくれる人はいないよ。

医者だって、腹を切るならドアの外でやってほしいだろう。

書きながら思い出したのだが、忠臣蔵の原因人物の浅野内匠頭が、犯行当日に切腹を命じられ、腹を切ったのはこの耳鼻科からそう遠くもない場所にある陸奥一ノ関藩の田村家(綱吉の友達)なのだが、切腹場所は建屋の中ではなく、庭に畳を敷いて白幕を張った中で行われたそうだ。まあ、応接間を血まみれにはしたくなかったのだろうが、武士の作法にあらずと赤穂藩士は激高したらしいが、こちらは討入の対象にまではならなかったそうだ。

で、その人物が診察室に入ると、待っている人たちは一斉に耳を澄ますのだが、どうも会話を聞いていると、「一日前から体がだるくなり、くしゃみ、鼻水が止まらず、目がかゆい」ということのようだ。

単なる花粉症。今年、人生で初めて発症したらしい。

「明日から、さらに大量に花粉が飛ぶそうです」と医師から告知されてしまった。

本人がどれほどブルーな気持ちになったか、想像できない。が、私見ではあるが、むしろ50歳まで発症しなかったことをラッキーであったと喜ぶべきなのではないだろうか。もちろん、気が弱いので、そんな言葉を口に出したりはしないのだが。