杳子・妻隠(古井由吉著・小説)

2020-11-18 00:00:21 | 書評
大作家である古井由吉氏が未完の遺作となった『われもまたて天に』を残して亡くなったのが今年の2月のこと。その代表作の一つであり、文壇デビュー作であり、芥川賞受賞作の『杳子(ようこ)』と、同時期に発表になった『妻隠(つまごみ)』。どちらが受賞作でもおかしくないと言われたはず。



以前、読んだ時、難解さと何か構造的な文体で読み進むのに難渋した記憶が残っていたのだが、今回は、読み始めるまでに時間がかかったが、10ページほど読んだ後は、作者の心の流れに乗ることができてつかえることもなく進んだ。杳子は心の不調を抱える女性とその心についてゆけない主人公Sの風変わりな恋愛小説とおおまかなカテゴリーを決めて読めばいいのだろう(一応、メンタルヘルスマネジメント1種の資格を持っているので、病名の推理なんかしてみたが、そういう観点で読む人はいないだろうが。)

そう、難しいことはたくさんあって、例えば作品の題名。『杳子』だが、洋子だって陽子だっていいはずだ。普通の「ようこ」では精神不調者らしくないといっても「杳」の意味は靴だ。「杳として」とは痕跡もなく消えたことを表現する言葉だが、杳子は消えるわけでもない。

『妻隠』だって、「つまごみ」と読むのだが、妻が押し入れの中に隠れるようなこともない。

とはいえ、代表作のいくつかを少し読んでみようかなと思案中。