かのこちゃんとマドレーヌ夫人(万城目学著 小説)

2020-11-16 00:00:10 | 書評
万城目学の小説は2冊読んでいて、勝手にイメージを作っていたので、この小説には驚いた。動物小説だ。広い意味ではシートン動物記のように、人間と動物にそれぞれのストーリーがあって、出会いや別れがあって、読んでいる人がウルウルしたりボロボロしたりする趣向だ。

もっとも、万城目氏がシートン動物記を読んだことがあるかどうかは知らない。シートンには山猫とかコヨーテとか登場するが、本書に登場するのはペットの猫と犬の話。現代的かつ日本的だ。



主人公は、人間側が「かのこちゃん」。友達が「すずちゃん」。「すずちゃん」は、後に外国に転校する。ペット側の主人公は猫のマドレーヌ夫人。なぜ「夫人」なのかというと夫が老犬の「玄三郎」。おっとりしてよい犬だ。猫友達は「和三盆」に「ミケランジェロ」に「キャンディ」。猫は人の言葉はわかるが、犬の言葉はわからないことになっているが、マドレーヌ夫人は夫が犬なので犬のことばがわかる。

そして、本作は「かのこちゃん」の視点で書かれていると言えるのだが、実は真の主人公は、「マドレーヌ夫人」。彼女は、どこからともなく現れてきて大雨の日に「玄三郎」の犬小屋で雨宿りをしてからずっと夫婦を続け、14歳で他界した「玄三郎」の葬儀が終わると、どこかに去っていくわけだ。去り際があざやかだ。


読者の心に緊張感や嫌悪感がまったく涌かないように書かれていて、心が休まること間違いなし。調べると直木賞候補作になったらしく、少し驚いている。「ペット小説大賞」受賞なら大いにわかるのだが、直木賞選考委員の中に、人間の姿に化身している猫又族や犬神族が混じっているに違いないだろう。