天災と日本人(寺田寅彦随筆選)

2011-11-17 00:00:40 | 書評
tensai東日本大震災の後、科学者兼エッセイストである寺田寅彦博士の、天災関係のエッセイを集めて、角川書店が文庫にまとめた一冊である。

大正の終わりから昭和の初頭に書かれたものが多く、自らが関東大震災の時、喫茶店で紅茶を飲んでいる時に、この大震災に見舞われ、その時、近くの席の中年の夫婦が食べかけのステーキを途中まで食べたものの、結局建物から逃げ出した話や、博士自身も逃げ出そうとしたものの、既に店員もいなくなって、紅茶代をどうやって払おうかとウロウロしたとか、結構笑う。実際に、東京の中で、火事から逃げ回っていたようで、台東区の方の惨状のことを知ったのは、ずっと後だったようだ。

今回の地震で、掘り返された日本史に「貞観時代」というのがあったが、その災害続きだった20年間のことを寺田博士は本書で書かれていて、その時には、地震だけではなく、超巨大台風が京都を襲ったことがあったそうだ。

そして、いかに災害が不定期であろうが、地震でも津波でも、「次に起きることは確実」であるのだが、人間の記憶というのは、一人の人生の期間だけで考えることが多く、したがって、災害の記憶は、忘れ去られていく運命にあるとされている。

しかし、古来から日本人は、災害の記録を書物に残したり、津波到達点を石碑にしたり、災害のつど、後の時代の人のために記録を残しているのだから、そういうものを再評価するべき、というようなことを言われている。

さらに、日本には八百万の神様がおられるとのことになっているが、それは、山だったり、川だったり、海だったりするわけだ。その一つずつには、遠い昔からの自然災害に対する畏怖の念が含まれているはず、ということだそうだ。

つまり、日本では、八百万回の災害が起きていることになる。