「明代陶磁の魅力」

2011-09-18 00:00:25 | 美術館・博物館・工芸品
白金台の畠山記念館で開催中(~9月19日)の『明代陶磁の魅力』展へ行く。なにしろこの美術館は人目に付かない。白金台の住宅地の中に静かにたたずむ大きな庭園付きの記念館である。

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畠山記念館の「畠山」は畠山一清氏を指す。荏原製作所の創始者である。ただ、その後先祖は七尾城を本拠とする大名だったそうだ。室町時代の大名である畠山家である。もともと大名家というのは明治以降没落の一途をたどった場合が多いが、こちらは、大会社を創設した。

とはいえ、この土地が江戸時代の下屋敷ということではなく、もともと島津家が幕府より頂戴した土地を、明治になってから五代友厚が払い下げてもらった。そのうち畠山家の土地となるわけだ。敷地内に入ると樹齢百年を超えた鬱蒼とした木立が並び、蜂のように肥満した藪蚊が襲来する。やっとの思いで記念館の入り口に到達。

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それで、展示作品は、コレクションの景徳鎮である。主に明代初期の景徳鎮で製作された作品群である。もちろん、日本の唐津は、この景徳鎮の延長上にある。日本でも、100年遅れで同種の陶磁が完成されていくのだが、造型のちょっとした差や、文様の差など、違いを考えるのもなかなか楽しい時間になる。

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今でもそうなのだが、大陸人と島国人の差だろうか、景徳鎮はいたっておおまかなところもある。元より壺や皿といっても各種作品は実用に使うためではなく観賞に用いられるものであるから、本来の壺や皿の用途としては不向きな造型であるかもしれない。実際、景徳鎮作では壺の肉厚にムラが見られるが、日本製の場合、設計図通りで肉厚も均一であってそのまま実用に用いられることも考えられている。

私自身、完璧病に侵されているのだろうが、作品の細かなあら探しにすぐ目がいってしまう。ただ、全47点の出品というのが、なかなかのボリュームであり、600年前の名もなき中国人陶芸士のことを思い浮かべて、ちょっと心が動いてしまう。その後の中国は、文化的素養がイマイチの北方民族系の大清国となり、さらには国共戦争が勃発し、赤絵どころではなかったわけだ。

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「染付龍濤文天球瓶」「古赤絵人物文壺」「万歴赤絵輪花共蓋水指」。いずれも、美しく、また風格があり、その形や図案は、それぞれの作品が一つずつの芸術空間を創り出していると言えそうである。


ところで、この記念館の創立者である畠山一清氏だが、今年が生誕130周年であると同時に没後40周年だそうである。意味することは「長寿」ということだろうか。

記念館を出ると、さきほど襲撃から逃げ切った巨大藪蚊が再び群がってきて、今度こそは逃げられなかった。体中掻きむしりながら表通りに出ると、どこかで見かけた風景と思い、ふと、3.11に自宅まで30キロ歩いた途中の交差点であることに気付く。