樹樹日記

じゅじゅにっき。樹木と野鳥に関する面白い話をご紹介します。

蒲谷鶴彦さんがモデルの小説

2018年05月17日 | 野鳥
野鳥録音のパイオニアであり、CDブック『日本野鳥大鑑』の著者でもある蒲谷鶴彦さんがモデルとして登場する小説があります。


CDブック『日本野鳥大鑑』上下2巻(私も持っています)

タイトルは『海峡』。作者は、『あすなろ物語』のほか『風林火山』『天平の甍』などの歴史小説で知られる井上靖。
物語は、出版社の社員数人がナイター観戦に出かけた後楽園球場に数羽の鳥が迷い込むところから始まります。その知らせを受けた蒲谷さん(作中名は庄司)が駆けつけてアカエリヒレアシシギと同定。その時に鳥に興味を持った若い社員が、蒲谷さんの野鳥録音に同行するという展開です。彼は「機関銃型の集音器」や「菅笠様のもの(パラボラ)」の運び役を買ってでます。
庄司の本業は外科医院の院長ですが、それをほったらかして野鳥録音に現を抜かしているために、夫人や若い医師、友人の編集者の間に愛憎劇が生まれます。それにからむ2人の男が、北帰するアカエリヒレアシシギの声を下北半島で録音するという庄司に同行します。
(下の動画は、私が近くの干拓地で撮ったアカエリヒレアシシギ)



「アカエリヒレアシシギの集団は海峡の闇の中に、その鳴き声と一緒に吸い込まれて行った。小さい生命が四、五十ひとかたまりになって、一定の間隔を置いて、次から次へと海峡の闇の中へ突入している感じだ。三人は寒さも忘れて、一言も発しないで耳を澄ませていた。ひどく高い感じの天の一角だけに、幾つかの小さい星が出ていた」というのがラストシーン。シギの渡りと3人の男それぞれの新しい人生が二重写しになっています。
井上靖は実際に蒲谷さんと一緒に下北半島へ取材旅行に出かけ、その模様を『雪の下北半島紀行』という一文に書き残しています。残念ながらアカエリヒレアシシギは見られなかったのですが、蒲谷さんは「シギは渡っていすよ。必ずこの雪の中を」と言ったそうです。

ちなみに、昨年の8月30日に仙台で行われた楽天‐西武の試合中にアカエリヒレアシシギの群れが迷い込んで試合が中断されるというハプニングが起きました。



さらに、1958年の巨人‐大洋戦(後楽園)でも鳥の群れが迷行したために試合が中断されています。この『海峡』が執筆されたのはその前年の1957年ですから、井上靖が後楽園のハプニングを予言したかたちになっていますが、多分、蒲谷さんから類似の事例を聞いて小説の題材にしたのでしょう。
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2 コメント

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Unknown (kazuyoo60)
2018-05-17 10:30:50
場違いな球場へも渡りの途中の鳥たちだったのですね。
アカエリヒレアシシギですか。シギの特徴、長いクチバシでしょうか。知識はほぼゼロです。
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kazuyo様 (fagus06)
2018-05-18 08:31:32
そうです。シギの特徴は長いクチバシと長い脚です。
渡りの時期に球場に迷い込むことは時々あるようで、記事に紹介した以外にも何度か事例があります。
多分、球場の照明に誘われて迷い込むのだと思います。
そちらの一昨日のブログのえんどう豆、おいしそうでした。以前、種豆をいただいて、わが家の庭でも作ったことを思い出しました。
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