ライターの脳みそ

最近のマイブームはダム巡りと橋のユニークな親柱探し。ダムは目的地に過ぎず、ドライヴしたいだけ…。

ベヒシュタインで《黒鍵》

2005-12-25 16:46:05 | 回想する脳みそ
上京した頃の夢を見た。当時は部屋にピアノがなかったので、どこかで練習させてもらうしかなかった。時間単位で練習させてもらえるのは楽器店か、もしくは「ピアノ練習所」。安いところだと1時間300円で練習させてもらえた。

とはいうものの、カネのない学生にとって1時間300円は大きい。ましてや練習が1時間で終わるわけがない。気づけば2時間から3時間なんて当たり前のように過ぎていた。

さすがに困ったなと思っていた時、ある人から有り難い話を聞く。なんでも、ある婦人が無償で自宅のピアノを弾かせてくれるというのだ。しかも時間無制限で。

今ならば、「そんなウマイ話なんてあるものか。きっとウラがあるに違いない」と疑うだろう。だが、当時のワシにしてみればこれほど嬉しいことはなかった。本当に申し訳ないとは思ったが、ご好意に甘んじることにした。

このお宅は婦人がピアノを教えておられるいわゆるピアノ教室である。しかしワシに提供して下さるのはレッスン用のグランドピアノではなかった。婦人が子供時代から使用していたというアップライトピアノである。ピアノが弾けるならそれで十分すぎるほど幸せ。それはお宅の2階の一室にあり、いつも気後れしながら練習させてもらっていた。

驚いたのは、そのピアノがベヒシュタイン製だったこと。ベヒシュタインのピアノの存在は知識として知っていたが、当時はまだ実際に弾いたことはなかった。よもやこんなところで弾くことができるとは思わなかったし、嬉しかった。

その響きは婦人の性格のごとく明るく温かかった。毎回弾かせていただくたびに感謝しつつ、時間を忘れて練習した。

このころはすでにピアニストになる夢は捨てていたが、なぜかショパンのエチュードを練習していた。記憶では27曲すべてそこで練習したはずなのだが、昨日の夢ではなぜか作品10-5である《黒鍵》を練習しているシーンのみ。何なのだろう。何か意味があったのだろうか。

無償で弾かせていただいたのは1年ほど。その後ワシは引っ越してしまい、自然に音信不通になってしまった。果たして今あの御婦人はどうされているのだろうか。当時婦人は50代後半ぐらいだったと記憶しているが、お元気なのだろうか。できるだけ早い機会に訪ねてみたいなと思うこのごろだ。最後にきちんとした形でお礼をしなかったし、何よりあの練習のおかげで今のワシがあるのだから…。
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