ライターの脳みそ

最近のマイブームはダム巡りと橋のユニークな親柱探し。ダムは目的地に過ぎず、ドライヴしたいだけ…。

頑張れ!兄ちゃん!(その2)

2005-10-01 08:55:24 | 脳みその日常
(前項より)

3時間ほど後に、その兄ちゃんは再びやってきた。ドアを開けると、兄ちゃん、もう泣きそうな顔をしてやがる。

「頑張って回ってみたんですけど、ダメでした…」
「オマエ、奨学金カットされちまうんだろ?それでもいいのか?」
「いや、マジでそれは困るんですってば!」

そう言うなり、いきなりコイツ、ワシの前で土下座し始めたではないか!

「お兄さん! 一生のお願いです。契約してください!」そして、
「絶対にお兄さんに迷惑はかけませんし、責任をもちますから!」

コイツ、まだ社会の厳しさがわかってない様子。だいたい初対面の人間を信じる奴がどこにいるんだよ。やっぱりまだ子供である。ただ、ワシが見る限り、コイツ、嘘はついてないようだし、一所懸命やろうという気持ちもありそうだと判断。だからといって直ちに「じゃ、契約してやるよ」とは言わない。実際問題として、コイツはまだ自分の力で契約が取れていないのだから。そこで、本人にヤル気を起こさせようと次のような提案をした。

「明日まで『1日ひとつの契約』のノルマがあるんだよな?」
「ハィ…」
「じゃあさ、明日必ず契約を取ってこいよ」
「えっ?」
「ほかで契約が取れたらワシも購読を考えてやってもいいぞ」
「ほ、ほんとですか?!」
「そのかわり、自分の力で契約を取ってくるんだぞ! 約束できるか?」
「わかりました! 自分、絶対、明日取ってきます!」
「オマエの奨学金がかかってるんだからな。しっかり頑張れよ!」
「ハイ! ありがとうございます!」

泣きそうな顔が、いつの間にか嬉し泣きの顔に変わっていた。でも、翌日になってみなければどうなるかわからないので静観することにした。

そして次の日の午後、約束した時間に兄ちゃんがやってきた。満面の笑みである。

「とれましたよ、とれました! ほら見てくださいよ!」

確かに購読申込書には1件、契約のサインがあった。筆跡も兄ちゃんが偽造したものではなさそう。たぶん本当に契約が取れたのだろう。ならばワシだって、今さら「とるわけねーじゃん」などとは言えない。兄ちゃんはワシの出した提案を信じて、その日頑張ったのだろうし。信用されたのなら、こちらも信用してやろう。それが健全な社会のルールだから。

「おぉっ、よく頑張ったな! 一所懸命やったから取れたんだぞ」
「そうですね。ホント、自分、嬉しいっす!」
「じゃあ、昨日言った通り、ワシも購読することにしたるわ」
「マ、マジっすか? 本当に?」
「おうよ、兄ちゃんの奨学金がカットされたら可哀想だもんな」

当初は本当に購読するつもりはなかった。でも、不遇ななかで懸命に頑張る若い兄ちゃんを見ていたら、忘れていた何かを思い出した気がする。購読を決めたのは情からではなく、その何かを思い出させてくれたお礼のようなものだ。

ぬくぬくと親のスネをかじっている奴がいる一方で、この兄ちゃんのように苦労しながら頑張っている奴もいる。どちらがどうということではない。兄ちゃんには学校を終えるまで挫けずに頑張って欲しい。ただ、それだけだ。

(了)
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頑張れ!兄ちゃん!(その1)

2005-10-01 08:46:13 | 脳みその日常
一昨日の夕方、ドアをノックする音がした。ふだんなら応対しないのだが、なぜかこの時には出る気になった。

ドアを開けてみると、そこには若い兄ちゃんがいた。長年の勘ですぐ「あぁ、新聞の勧誘だな」とわかる。でも兄ちゃん、自分が新聞屋だということを言わず「あのぉー、廃品回収で回ってるんですけど、不要なものはないですか? あ、もちろん無料で何でも引き取りますよ」と抜かした。

「ほぉー、本当に何でも無料で引き取ってくれるんかい?」
「ええ、いいっすよ」
「本当だな?」
「またまたー、本当ですってば」
「よし! じゃあ、この洗濯機を回収してくれよ」
「いいんですか? これ、もってっちゃっても?」
「おう、どーせ、もう動かんし」
「わかりました。じゃあ、回収させてもらいます」

こんな会話をしたあと、おもむろに「で、兄ちゃん、新聞屋だよな?」と尋ねる。

「えっ、なんでわかったんすか?」
「ふふふ、そんなの、長年の勘よ」
「ひえーっ、す、すごいっすね」

話を聞いてみると、彼はまだ18歳なのだとか。おいおい、高校生かい! でも家庭の事情で夜学に通っているらしい。親父さんが亡くなったので新聞奨学生にならざるを得なかったのだとか。

でもそんな身分であっても新規顧客を獲得するノルマがあるそうな。で、今週は一日にひとつの購読契約をとらないと奨学金がカットされるという。「それやられると自分、困るんすよ。だから何とかお願いできないですか?」と泣き言を始める始末。しかしワシはそれで同情したりはしない。ウソかもしれんし。そこで人生の先輩として説教してやる。

「事情はどうであれ、その程度のことでヒト様はカネを出してはくれんよ」
「ハィ…」
「泣き言で契約が取れるんなら、世の中の営業マンは全員泣いとるて」
「そ、そうですよね」
「世の中っちうのはな、そんな甘いもんじゃないんだぞ」
「ハィ…。本当に契約って取れないです。確かに甘くないです…」
「だろ?営業マンは、みんな苦労してやっとの思いで契約を取るんだよ」

とにかく、もうひと回り営業に行ってこい!奨学金がカットされたくなかったら自分の力で何とかしてみろ! なんなら、あとで報告に来てもいいぞ。いくらでも相談には乗ってやるからな。

そう言って、初対面の兄ちゃんを励まし、とりあえずその場は帰らせた。

(つづく)
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