空蝉のことなど(2/2)

2020-08-27 00:00:37 | 市民A
そもそもセミの研究が難しいのは想像の通りだ。ほとんど土の中にいて、突然地上に現れるのだから観察も難しい。

とはいえ、わかっていることも多く、「むなしい一生」のイメージとは少し事情が違っている。

まず、蝉の寿命だが、平均的には10年ぐらい(種により3~17年)。そもそもセミは土の中に産卵するわけじゃない。それでは海亀みたいだ。樹木の凹みとか樹皮の裏とかそういうところに産卵する。つまり地上だ。そして卵が孵化すると小さな白い幼虫になり、大急ぎで地面の中に自力で潜る。つまり地上で生まれ、地下で育つわけだ。



さらに多くの人が誤解していると思うが、10年も動かないで熊のように冬眠しているわけではない。植物じゃないので根がついて徐々に大きくなったりはしない。地中で動いて餌を見つけて食べなければならない。つまりずっと眠っているわけじゃない。土の中で餌を食べて成長するのがセミの日常なのだ。

とはいえ、平和の時代はいつか終わるわけで、段々、体が硬くなり、殻が小さくなってきて、嫌々ながらまぶしい地上の光の中に登場して、枝にしがみ付いて脱皮するしかない。ぐずぐずしていると鳥の餌食になるから空を飛び回ってパートナーを見つけて、交尾して産卵。地上には7日しか生きていられないというのは、誇張が過ぎて、1ヶ月ぐらいは生きている。

そして、地上の生活はまったく忙しいにもかかわらず、自然の摂理により、産卵後はオスもメスも足の力がなくなり樹木などにつかることができず、地上に落下する。だいたいは腹を上にして地上でバタバタしてそのまま動かなくなる。以前は命を失う寸前のセミを見つけると腹を下に戻してやっていたのだが、今思えば、力尽きた時のセミの複眼に最後に残る映像が空のほうがいいのか地面の方がいいのか、蝉の立場になって、もっと考えた方が良かったと思う。

セミの気持ちになるなら、一生を土の中で過ごしたかったと思うのだろうが、それでは子孫を残すことができないわけだ。

人間でいえば、母体内にいる10ヶ月が、蝉でいえば地中生活期間の10年。セミは生殖が終わるまでが1ヶ月でそのあと力尽きるが、人間は長く生殖活動期間があり、そのあと力尽きそうになってからも、ばたっとはいかない。欲の塊か肉の塊になるのが通例だ。