たぶんねこ(畠中恵著)

2020-08-13 00:00:10 | 書評
しゃばけシリーズ第12巻が『たぶんねこ』。このシリーズ、一冊が長編の時もあるが、多くは短編5編の連作になっている。次々に江戸の長崎屋の跡継ぎ一太郎の回りに5つの事件が起きて、一太郎が回りの妖(あやかし)と協力して事件を解決するという筋立て。



本作も同様だ。そして1年に一作という感じだ。著者は別のシリーズの執筆を掛け持ちしている。赤川次郎みたいな感じだ。

このシリーズが毎年自動更新されていく秘訣の一つが「新規登場者」だ。何かの縁で人間ではない何かが登場して、一太郎グループに加わってまた次作に登場したりする。前作「ひなこまち」では、落語家に扮する獏が登場。人の夢を食べるとされる動物で、他人の悪夢を食っているうちに、つい口外したくなり、狐狸に教わった変身術を使い落語家に扮して、悪夢の原因を創作落語にしてしまう。

この獏も、動物のはずが、すっかり人間らしくなって『たぶんねこ』に再登場する。そして、本作で登場するのは、気の弱い月丸という幽霊。江戸に生まれて、何か一流になろうと職を転々と変えたが、どれも大成できずに、病に倒れ、なくなってしまう。何のための人生だったのかと成仏できずに彷徨っていて、神の庭というところにいたのだが、幽霊としての体力も落ち、影が徐々に薄くなるにつれ、もう一度江戸の街に戻りたいということで、一太郎の前に現れる。

『たぶんねこ』という表題は、月丸幽霊は一流ではないので、何につけ上手くできない。猫に化けようとして、虎のようになってしまうわけだ。このシリーズ、主人公の一太郎も病弱だし、怠け者の貧乏神や金欠の妖怪僧や菓子の作れない菓子屋の跡継ぎとか、弱みだらけの人間が多数出演する。

長くファンが離れないのは、そういうところが愛されているからだろう。