もう8月というのに、6月号の話で失礼。時の政府がSociety 5.0に躍起になっているようで、月刊『経団連』もそういう記事ばかりだが、何かIT企業、ベンチャー企業、ネット通販会社の人たちがそれぞれの立場でSociety 5.0 に期待しているようなことを書いているのだが、いかにもバラバラ感があって、なんとも未来は覚束ない。
ということで、まったく経団連とは関係のない絵画の二つの記事が面白い。
まず、表紙になっている葛飾北斎72歳の時の作である冨岳三十六景第二十一番『神奈川沖浪裏』。実は、新千円札の裏側に採用されるそうだ。決め手はこの波頭のあやしい悪魔の指のような表現だろうか。ニセ札防止用だろう。この表現法についてだが、北斎は40代後半の時から巨大な波と船を主題としてたびたび取り組んでいる。集大成がこの作品なのだ。想像だけで描いたのではなく、緻密な観察力の成果とみるべきだろう。
付帯情報だが、『冨岳』と当時書かれているが、印刷のためか略字であり、現在では『富嶽』と書くことが多い。三十六景には、実は裏があり売れ行き好調につき十景が追加された。なぜ追加されたのが十二景でなく十景なのか。浮世絵は十二枚ずつ箱に入れて保管するのが一般的で、たとえば春画にしても四十八手というのは箱4個ということなのだが。これについては全く不明だ。逆に12枚増やしたら春画と同じになるから避けたのだろうか。といっても北斎自身も春画の天才だし、そもそも全浮世絵の40%が春画だったのだから気にすることもないだろう。
なお、本作で用いられる藍色だが、少し前にドイツ(プロシア)で化合された貴重な絵の具で、長崎経由で江戸に入っていた。ベルリン・ブルーの略で「ベロ藍」と呼ばれる。新千円札でうまく発色できるだろうか。特注インクで1000円以上かかったりするかも。
次は、銀座テーラーグループ社長の鰐淵女史の投稿記事。著作権もあるのでサマリーして書くとパリのポンピドゥー・センターでめぐりあったパウル・クレー作『フィオルディリ-ジに扮した歌姫L』について、「事情があって、手放した娘がそこにいるような衝撃」を受けたそうだ。
表現が生々しいのには理由がある。バブルの頃、初代社長は、藤田嗣治を中心にルノアール、セザンヌ、アンリ・ルソー、ユトリオ、シャガール、梅原龍三郎はじめてする国内の巨匠たちのプロ好みの絵画を収集。そのまま美術館になりそうな規模だったそうだ。
ところが、二代目社長は、それらの父のコレクションを全部売却し、自分好みの現代美術と入れ替えてしまう。ウォーホル、リキテンシュタイン、ポロック、ミロ、ピカソ等々。
そしてバブル崩壊とともに、それらのコレクションを全部売却することになる。最後まで残した一枚が『フィオルディリ-ジ』だったそうだ。これが、手放した娘という表現の理由だ。
さて、そういえばブリジストン美術館も改築工事中にいつの間に石橋財団『ア―ティゾン美術館』と名称が変わり、今年9月に再オープンとなるそうだ。館長の名前が明らかになっていないが、もしかしたら元首相ではないかと疑っている。
ということで、まったく経団連とは関係のない絵画の二つの記事が面白い。
まず、表紙になっている葛飾北斎72歳の時の作である冨岳三十六景第二十一番『神奈川沖浪裏』。実は、新千円札の裏側に採用されるそうだ。決め手はこの波頭のあやしい悪魔の指のような表現だろうか。ニセ札防止用だろう。この表現法についてだが、北斎は40代後半の時から巨大な波と船を主題としてたびたび取り組んでいる。集大成がこの作品なのだ。想像だけで描いたのではなく、緻密な観察力の成果とみるべきだろう。
付帯情報だが、『冨岳』と当時書かれているが、印刷のためか略字であり、現在では『富嶽』と書くことが多い。三十六景には、実は裏があり売れ行き好調につき十景が追加された。なぜ追加されたのが十二景でなく十景なのか。浮世絵は十二枚ずつ箱に入れて保管するのが一般的で、たとえば春画にしても四十八手というのは箱4個ということなのだが。これについては全く不明だ。逆に12枚増やしたら春画と同じになるから避けたのだろうか。といっても北斎自身も春画の天才だし、そもそも全浮世絵の40%が春画だったのだから気にすることもないだろう。
なお、本作で用いられる藍色だが、少し前にドイツ(プロシア)で化合された貴重な絵の具で、長崎経由で江戸に入っていた。ベルリン・ブルーの略で「ベロ藍」と呼ばれる。新千円札でうまく発色できるだろうか。特注インクで1000円以上かかったりするかも。
次は、銀座テーラーグループ社長の鰐淵女史の投稿記事。著作権もあるのでサマリーして書くとパリのポンピドゥー・センターでめぐりあったパウル・クレー作『フィオルディリ-ジに扮した歌姫L』について、「事情があって、手放した娘がそこにいるような衝撃」を受けたそうだ。
表現が生々しいのには理由がある。バブルの頃、初代社長は、藤田嗣治を中心にルノアール、セザンヌ、アンリ・ルソー、ユトリオ、シャガール、梅原龍三郎はじめてする国内の巨匠たちのプロ好みの絵画を収集。そのまま美術館になりそうな規模だったそうだ。
ところが、二代目社長は、それらの父のコレクションを全部売却し、自分好みの現代美術と入れ替えてしまう。ウォーホル、リキテンシュタイン、ポロック、ミロ、ピカソ等々。
そしてバブル崩壊とともに、それらのコレクションを全部売却することになる。最後まで残した一枚が『フィオルディリ-ジ』だったそうだ。これが、手放した娘という表現の理由だ。
さて、そういえばブリジストン美術館も改築工事中にいつの間に石橋財団『ア―ティゾン美術館』と名称が変わり、今年9月に再オープンとなるそうだ。館長の名前が明らかになっていないが、もしかしたら元首相ではないかと疑っている。