目黒のトンカツ

2019-08-09 00:00:05 | あじ
目黒といえば「サンマ」というのが有名で、徳川将軍が鷹狩りに行ったときに昼食弁当を忘れてしまい、しかたなくたまたま入った目黒の茶屋で食べ物を求めたところサンマの塩焼きが出てきて、「ウマイウマイ」と食したところから話が始まるのだが、この落語がいつ完成したのかは、まったくわからないらしい。実際にその茶屋がどこにあるのかは、いくつか推論があって、目黒にある鷹番という一見高級住宅地の近く、あるいは目黒駅のそばの権之助坂付近ともいわれる。

しかし、御狩場を使えるのは将軍であり、田舎大名ではないわけだ。将軍が昼飯を忘れることなどないだろう。自分で腰に握り飯の籠を縛っておくこともないだろう。となると、話の根底が崩れる。おそらく、将軍は弁当だけでは足りなかったのだろうか。あるいは庶民の味が好きだったのか。となると吉宗公?いや、将軍メシには毒見役がいたはずだ・・・

ということで、サンマ論考は打ち切って目黒の名物というと「とんかつ」。目黒には、とんかつ御三家という名店がある。「とんき」「かつ壱」「とんかつ大宝」というらしい。

特に有名なのは「とんき」で数十年前(戦前)から営業していて、確か以前は、油で揚げたとんかつをそのまま指で油から取り出す技を使う店主がいたはずだが、当然、今はその話は聞かない。保健所から指導を受けるだろう。



そして、今回は「かつ壱」に行く。何しろ外気は35度超。駅から100mというのがいい。駅前の久米美術館の地下一階の奥まった場所にある。席数は多くない。

ところが、事前に軽くネット上の評判を見ると、あまりよく書かれていない。衣が粗いとか、肉質に脂肪が多いとか。ただ、御三家の中で価格帯が一番安いことからなんらかの中傷ではないかとも読めるし、どうもロースかつの悪口のような気もする。ロースかつは脂っぽいのが普通なのだし・・そもそもヒレカツを頼むわけだ。



そして、ヒレカツは予想よりも量が多い。カウンターの隣の客はロースを頼んでいたのだが、同じ値段でロースとヒレは肉の量を変えているようで、ロースかつはさらにジャンボである。それが脂っぽいという感想につながるのかもしれない。

形状的には、肉が厚いのが特徴で3センチぐらいもあるのに、均一に揚がっている。低温長時間ということなのだろうか。そして十分に揚がっているのにかかわらず、肉を噛むと肉汁を感じる。密度の濃い肉といえる。今まで食べたトンカツの中では、鹿児島の天文館地区にある黒豚トンカツ店と双璧と言える。誰にも教えたくない店ということだ。

ところで、かつ壱の入っているビルは久米ビルといって8階が久米美術館である。歴史家の久米邦武とその子である洋画家久米桂一郎を記念している。久米桂一郎は画家なので展示物には事欠かないが、久米邦武というのは、幕末の佐賀藩の武士である。維新後の日本の設計図を作るための岩倉使節団に同行。その時の報告書『米欧回覧実記・全5編』を書き上げている。近代日本の基礎がドイツ、フランス、イギリスを少しずつ取り入れたのは、なぜか。ということを考える人には読まねばならないバイブルだが、その本物の原稿が展示されている。

そして、ある本によれば、久米邦武はこの5冊を書き上げた賞金として明治11年に金500円と、権之助坂上の土地5000坪を手に入れたことになっている。金500円で土地5000坪を買ったという説もあるが、いずれにしても本一冊が目黒駅前の1000坪の土地ということになる。村上春樹どころではないわけだ。

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