ライロニア国物語(レシェク・コワコフスキ-著 寓話集)

2019-08-26 00:00:00 | 書評
コワコフスキという怖そうな名前の作家を知らなかったのだが国書刊行会から出版されている『ライロニア国物語』という寓話集を読んでみた。



ポーランド出身の作家・哲学者ということで、スーザン・ソンタグや村上春樹やアーサー・ミラー、ジョイス・キャロル・オーツといったもう少しでノーベル文学賞を取りそうだった人の多くが受賞している「エルサレム賞」という文学賞を受賞している。ちなみに「セールスマンの死」で有名なアーサー・ミラーは2003年に同賞を受賞し2年後に亡くなっている。コワコフスキも2007年に受賞し、2年後に亡くなった。村上春樹は2009年に受賞し、10年経っても健在だ。スーザン・ソンタグは2001年に受賞し3年後に亡くなった。ジョイス・キャロル・オーツは2019年に受賞し、まだ81歳だ。

コワコフスキはポーランドという第二次大戦で痛い目にあった国の出身で、18歳で終戦を迎える。戦後のポーランドという微妙な国で、独裁政治と戦う市民の側の政治的論理付けを行うことで、東欧の民主化の推進力となっていた。実は、日本語に翻訳されているのは、この1995年に上梓された寓話集と1967年の「責任と歴史-知識人とマルクス主義」の二冊だけ。二冊目を出版したあと、ワルシャワ大学を辞職してオックスフォード大学で教えることになる。マルキシズム批判でも書いて追放されたのかもしれない。

本書は、「お伽話」を装っているが、あきらかに独裁国への皮肉に満ちている。簡単にいうと、ライロニアというどこか近くにあるはずながらはっきりとした場所がわからない独裁国の話で、大きくいうと有名なアンデルセンの「裸の王様」のような社会風刺的な話が13話並ぶのだが。どうも、これらの作品の背後に隠れる思想的バックボーンは、「市民主義」と「反独裁主義」だけではなく、ギリシア神話の時代から欧州の底流を流れる「道化主義」をうっすらと感じるわけだ。

ところで、国書刊行会、見かけのよいしっかりした本を作ることで有名だ。いつかお世話になりたいと思っているのだが・・