原稿零枚日記(小川洋子著)

2015-12-02 00:00:47 | 書評
これ、エッセイなのかなと思うと、もしかしたら小説ではないのか、という気になってくる。どうも長編小説ということになっているらしいのだが、普通に短編小説集というのがおさまりがいいように感じる。

genkozero


スーパーカミオカンデと思しき施設を見学した後、近くの温泉に立て籠もって小説を書こうとして筆が進まない、とか遅筆の小説家がモデルではあるが、エッセイか小説かわからないということは虚実混沌といったところだ。

なんというか、小川さんの特徴である中性的で理性的な主人公が現実と狂気の間を行ったりきたりしているようだ。

秀逸なのが、盗作をテーマとしたミニ小説。最近は、特にそういうのが多いが、小説の中で盗作する小説家が登場。

海外の一都市で、世界的に有名な作家が近くにあらわれ、その何度も読んだことのある作家の名前が度忘れで出てこない。そして、声をかけようか思案中に作家を見失ってしまうのだが、日本に帰国後、その一字一句まで愛読していた書籍が本棚にみつからない。

知人や編集者に聞いても要領を得ない。

それでは、ということで、一字一句まで覚えているその有名作家の小説をそのまま自作のように書き直してみる。

もし、盗作騒ぎになれば、その海外の一都市で見失った作家の名前が報道され、記憶の森に彷徨わなくてもよくなる。ただし、小説家としては盗作小説家ということになり、どこかの偽作曲家と同じ運命となる。

しかし、それでも元の作家があらわれる気配はないし、作家(つまり私=小川洋子?)はたぶん作家があらわれないだろうということを予感しているわけだ。

2015年の100冊目である。