元寇(旗田巍著 中公新書)

2015-11-10 00:00:33 | 歴史
本誌は、元寇についての歴史書であるが、前書きの部分では、日本が元に征服されなかったのは、元帝国に抵抗するアジア各国の民衆の力によるというようなことが書かれている。そういう観点で論じられているのは初めて見たので、ちょっと驚いたのだが、実際には、そういうことは本文の中には、末尾の方でちょっとでてくるだけである。内容はむしろ逆のような感じだ。出版にあたって昭和40年の風潮を反映したのかもしれない。

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本書の大部分は、元と高麗の関係の抗争の結果、元に対する抵抗勢力だった高麗政権が、圧迫されるにつれ、政権維持のため、王が心を敵に売渡し、元の世界制覇の走狗になり自国民を締め上げて、日本攻撃の先駆になったことが書かれている。今の状況にそっくりだ。

元も、第一次日本攻撃の時は、主に高麗と蒙古の連合軍を組み、軍艦は高麗に作らせていた。さらに元は、高麗に駐留する自軍のために、高麗王に慰安婦調達を命じ、さらに後に調達した若い女性をそのまま連れ帰ってしまった。慰安婦問題に拉致問題、強制連行全部高麗政府が実行したり黙認した。

で、日本攻略の方は、戦いの1日目の後、兵士が船に戻ったところを暴風雨が襲って、大失敗に終わる。

その後、元は南宋軍と最終戦争を行い、中国全土を制覇。日本は宋とは国交も貿易も行っていて、宋からの実質的な亡命者も受入れている。

そして、中国全土を制覇した元は、第一次対日戦で疲弊した高麗をもう一回絞り上げるのと同時に配下に組み入れた南宋軍を日本攻撃に使うことにする。高麗、宋、蒙古連合軍が十数万人日本に押し掛けることになる。もっとも1回戦でこれだけ攻めてくれば攻略できただろうが、ようするにパワーの出し惜しみである。米軍の中東戦略みたいだ。

ところが、高麗製の戦艦ではなく中国製の戦艦は手抜き工事だったようで、またしても到来した暴風雨によって、全体の半数以上だった中国製の戦艦が横転転覆してしまい、失敗に終わる。

問題は、その後で、元側は何度も日本攻略の作戦を立てるが、国内問題もあってうまくいかない。さらに日本側は防衛網を築くだけではなく、先制攻撃を計画していたようだ。

その情報は元側には伝わっていたらしく、朝鮮半島南部や上海、寧波あたりにも対日防衛隊を配備していた。お互いに守備を固めると同時に攻撃も考えていたようだ。日本が先制攻撃をかけていたら、やはり幼稚な造船技術のため、台風の犠牲になったような気がする。そもそも、日本にしろ元にしろ、海の向こうの相手と戦うには補給が重要だし、結局、部分的占領なんかしても追い出されるに決まっているわけだ。20世紀がそれを証明している。

しかし、元の世祖フビライは、なぜ80歳になるまで日本制服を夢見たのだろうか。黄金の国にこだわったのだろう。マルコポーロのせいかもしれない。となると元寇の発端(つまり原因)は、マルコポーロのニセ情報かもしれない。元寇被害の復讐と宣言した豊臣秀吉の朝鮮征伐もマルコポーロの責任ということになる。黄金の国をめざした紅毛碧眼の人たちが持ち込んだ鉄砲や邪教もマルコポーロのせい、ということになる。