藤原道長(北山茂夫著)

2013-07-15 00:00:28 | 書評
道長の生きた時代から、ほぼ1000年が経つ。1000年というのは、そう長い時間ではないのだが、1000年の歴史を持たない国は多数ある。つまり、国がなくなった場合や、まだ国になっていなかった場合。東アジアでも沿海州の付近や、琉球王国だってそう言えるかもしれない。

アメリカの場合は、まだ住んでいなかったというべきか、先住民の歴史がFINISHしてしまったというべきか。

そういう意味だと、日本の1000年というのは、統一国家のまま、政権が大きく変わるという稀なタイプの歴史なのだろう。その悠長さが近くの気短な国との温度差の原因かもしれない。

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ところで、その1000年前に道長が書いた「御堂関白記」が世界記憶遺産に指定された。本当に喜ぶべきなのかどうかはわからないが、外国人の感覚でいうと、政治の中心(つまり大統領みたいな)人物が、毎日の公務を中心としたお勤めについて、私情を書き連ねるというツイッター感覚が信じられないというか現代感覚過ぎるのがウケたのだろう。

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で、それはもちろん道長の感想であって、なんら客観性のある意見ではなく、同時代の「小右記」のように他者が道長を書いたものと突き合わせていくと作業の中で、ある学者は正確な歴史を求めていき、ある小説家は道長の性格を描いてみたり、中には紫式部と関係したことがあるのかないのか、論じたりする。

ただ、前後の時代の公家の中では、かなり異性関係は大人しかったようにも思えるし、結構マジメ男のだったのかな、というのが本書を読んだ感想である。

政権欲は強かったのだろうが、どちらかというと、ナンバーワンの座は、兄たちが失脚したり、疫病で亡くなったりしたことによるわけで、むしろナンバーワンになったあとの政権運営が長けていたのだろう。政権を取るのはうまくても、すぐに破たんする小沢某とはまったく異なるタイプなのだろう。

そして、生涯に何度も大病に見舞われ、そのつど復活していたが、ついに62歳の人生を終える。平安時代は、「貴族支配国家」と捉えていいのだろうが、その貴族の中の貴族である藤原道長の築いた栄華のレベルが高かったがため、その後、延々と続いた軍事政権との区切りが、はっきりと浮き出してくるのである。