『シオンの娘に告げよ』(典厩五郎著)

2012-10-22 00:00:47 | 書評
典厩五郎氏のミステリーを二冊読んだのだが、本格的な構造なのが「シオンの娘に告げよ」。

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舞台は戦後わずかな時間の日本。登場するのがGHQやGⅡやGSといった米国機関。さらにKGB。そこに現れるのが赤字映画会社や、ロマノフ王朝から伝わる本物の巨大なダイヤ。

そのダイヤとM資金を持ち歩くのが、甘粕正彦。そう、戦前戦中の日本史には欠かせない悪玉である。満映本社で死亡したことになっている彼が、ダイヤをポケットにメッサーシュミットで日本海の海岸に不時着するところから、事件が始まる。

満州帰国組や復興資金に群がる米国軍人。そのまわりで甘い蜜を吸う日本人ギャング。

本当に醜い世界がドーット展開する。死体がゴロゴロ。

このストーリーをどうやって終結させるのかが途中からの興味だったのだが、結局、「甘粕大尉はニセモノだった」ということと「M資金には色々な種類がある」ということと、「マッカーサー解任」ということで、歴史に背くことなくつじつまがあった。


思うに、米国がさっさと日本を独立させて、多くの米国軍人を引き揚げたのは、米国人自らが復興資金に群がる亡者になっていくのを、見るに見かねたからではないかと、思い始めたのである。

思えば、震災復興資金というのも、なかなか危ういものもあるのかもしれない。