女たちが変えたピカソ(木島俊介著)

2012-10-11 00:00:39 | 書評
picaso本書によれば、1973年にピカソが亡くなった後、残された約40,000点の作品と所有していた三つの城館、二つの別荘、その他の土地や住居、銀行預金等に対し、6人の相続者がいて、いかなる相続税を支払うかについてフランス政府は頭を痛めることになった。

その結果、ピカソ法とも言われる特別措置として、7400億円と見積もられた遺産相続の中で、3,658点の作品だけを国家が所有するということになったそうだ。

私の記憶では、ピカソの生涯作品数は約70,000点だったので、その5%がフランス国家の財産となったわけだ。(もちろん大統領になっても、退職金代わりに1枚頂戴ということじゃないだろうけど)

そして、それらの国家収集品(これには付随して、日記や書簡もあるそうだ)の中には、他人の目に触れたことのないような生涯隠し持っていた作品群が含まれていて、彼の人生のごくプライベートな秘密が明らかになってきたわけだ。

特に、女性関係。

どうも、若い時から老いにむしばまれる時まで、感情のおもむくまま、女性(特に若いモデル)を押し倒していたようだ。それから絵を描くという順番だったようだ。

もう一つの感情のほとばしりが、闘牛。今は誰も言わないが、20世紀初頭にスペインで行われていた闘牛では、闘牛士が乗る馬には防御帯が付けられていず、牛は殺される前に大暴れをして、多くの場合、馬の腹を角で引き裂き、闘牛場の砂は雄牛の血だけではなく、飛び出した馬の内臓で真っ赤に染まるということになっていたようだ。

ピカソの絵で、牛が馬の腹に角を突き立てるというテーマがあったが、あれはたまたまの事故を描いたものと思っていたのだが、どうもそうではなく、毎回、牛+馬の血まみれ解体ショーが行われていたようだ。

私の個人的体験だが、闘牛のシーズンオフの冬季にスペイン旅行をした際、闘牛場の中を歩くことができた。意外にも、九十九里浜の海岸みたいに、サクサクした砂地であって、走ることはかなり難しい感じだった。血迷った雄牛に追いかけられて逃げを打つ局面になったら、かなり惨めな気分で突き殺されるのだろうと、傍観者的に納得したことがある。

pc本書では深く論じられていないが。総じて、ピカソの絵画の裏側にはギリシア神話の影を感じるし、彼の女性たちとの関係なんかゼウスそのものだ。超大量の資料を残したピカソの研究をすることが果たして何を残すのか想像もできないが「ピカソ研究」というのもなかなか楽しいことなのかもしれない。


本書は、元々は、『ミステリアス、ピカソ 画家とそのモデルたち』という原題を文庫化する時に、『女たちが変えたピカソ』としたのだが、内容から言うと原題の方が正しい。ピカソは女たちに変えられた事実はなく、老いて体力的に押し倒せなくなるまで、本書の記載によれば、何も変わっていないようだ。商業的理由で改題したのだろうが、どうだろう。

渡辺淳一氏風に題名を考えればこんなものだろうか。

『ピカソ 愛の方程式』 。