アルハンブラ<光の迷宮 風の回廊>佐伯泰英著

2012-10-30 00:00:14 | 書評
saeki佐伯泰英氏と言えば、時代小説家として大家の椅子に座っているが、なぜ彼がスペインの観光地のアルハンブラ宮殿のことを書いたのかというと、わけがあって、30歳頃に芸術家になることを志し、3年間スペインに在住したことがあるそうだ。

そして、芸術家にはならず、小説家をめざし、1980年代には、スペインや闘牛を中心に冒険小説をいくつか書いていた。本著も1983年が初稿ということで、その一環の作品の中に属するのだが、実際には世間に馴染みのないスペイン冒険小説は売れず、編集者から、「廃業」か「官能小説」か「時代小説」かの三択を迫られたそうだ。

そして鉛筆を転がして決めたのかどうかは不明だが、「時代小説家」として再出発することになった。

実は、どうしてこの本が書棚に存在するのか、よくわからない。1983年に集英社から単行本で出版され、その後、1989年に徳間文庫となり、その初版である。もしかしたら、その頃スペインブームだったのかもしれない。アルハンブラ宮殿からイスラム教徒が追い出され、スペイン全土がキリスト教徒のものになったのが1492年である。500年祭とかあったのだろうか。

palace


で、私自身がアルハンブラを訪れたのは2001年の年末。ユーロのスタート直前だった。当時からスペイン自身が自国通貨の弱さに疑念をもっていたことが10年経って顕在化した。そして、アルハンブラの遠景の写真があった。

本著を読んだ感想と自分の過去の回想を交ぜながら思うと、アルハンブラにはいくつかの歴史があるのだが、それは13世紀から15世紀までのイスラム時代に築かれたアラブ様式のモスク。そして、ピンポイントとして、1492年のキリスト教徒の勝利による宮殿の明け渡し。そしてコロンブスの突然の登場である。その後、城郭都市としての宮殿の歴史。第二次大戦後の観光地化ということだろう。

実は本書には詳しく書かれていないのだが、コロンブスは渡米資金(本人は、ジパングに行くつもりだったのだが)のスポンサー集めのため、欧州各地を行脚中にこの宮殿に行ったのだが、まずは断られる。そして、フランスに向かってトボトボと歩いているうちに、イザベル女王のきまぐれから、宮殿に呼び戻され、投資資金としておカネがつぎこまれた。

その二人が会見した小さな部屋が現存するのだが、その場所には出入り自由である。観光ガイドは、「面会の時にコロンブスが立っていた場所には、今、おおたさんが立っています」と紹介してくれたのである。


もちろん誰かが投資資金を貸してくれれば、何かを探しに世界旅行にいくことは、やぶさかでもないのだが。