行きずりの街(志水辰夫著)

2012-10-24 00:00:55 | 書評
ikizuri1990年の日本ミステリー大賞の1位受賞作。最近、ミステリーを何冊か読んでいる。一言でミステリーといっても、謎解き物もあれば、冒険小説風もある。一応のルールとしては、作中に現れた謎は、その小説の中で完結することになっている。だから、村上春樹のように、謎だらけの小説を書いても、その謎の理由を書いてくれない場合は、ミステリーとは言わない。

この『行きずりの街』は、あきらかに冒険小説の匂いが強い。主人公が人質解放のため敵の本拠地へ乗り組むと、ピストルを持ってボスが待ちかまえている。ベストセラーになったらしいが、本当のところは、どこが評価されたのかよくわからない。

で、舞台は六本木。ここは、時代が過去、現在、未来とつながるのではなく現在、現在、現在だそうだ。1990年といえば、まさにバブル。東京の遊び場として、六本木には欲望が渦巻いていた。銀行や商社や不動産、それからニセ文化人や芸能人、そしてテレビ朝日。そこにある某学園が、政治家を巻き込んで肥大化し、付属高校を売却して東京都下に新学部を作ろうという話の裏側に起きた醜い殺人事件を学園の元教師が追う。さらに古典的なラブロマンスが重なる。

で、六本木の学園といえば、東洋英和ということになるのだが、実は作中で、東洋英和ではないというようなことが書かれているのだが、あまり他には思いつかない。

事実、東洋英和は横浜町田ICの近くに大学をつくった。その上、・・・

数年前に、麻布、六本木界隈の歴史的勉強をしている時に、東洋英和関係の土地やロアビルを取り壊して、第二の六本木ヒルズにしようという計画があって、東洋英和の学長が一番の推進派ということを聞いた。教えてくれたのが松本洋さんという方で、国際文化会館の理事長の方だった。この方の祖父は父方が松本重四郎氏といって大阪の銀行王(後に安田財閥となる)で東洋紡とかアサヒビールをベンチャー投資したそうだ。そして母方の祖父が松方正義氏。薩摩出身の元総理大臣だ。下級武士だった松方が抜擢したきっかけが、150年前に発生した生麦事件。多くの藩士が英国人を斬った現場に向かったのだが、臆病な松方は足がすくんで島津久光の近くを離れることができず、「いざという時には落ち着いて主君を護衛する」行為と誤認され、出世街道が始まった。

まあ、はなしがそれたが、終了。