4.0島マイナスχで(下)

2010-02-18 00:00:02 | 市民A
さてここで、ロシアにとっての領土、特に北方四島の意味を考えてみる。

領土というのは様々な意味があるので、便宜的に「経済、財政的意味」「政治的意味」「軍事的意味」というように分類してみる。もちろん、それらは関連しているわけで分離できないのだが、一応分野別にしないと整理もできない。

1.経済・財政的意味

国家にとって領土の持つ、経済的価値は何かというと、一つは徴税権である。領土の中で行われる経済活動や、そこに住む住民から、好きなように税金収入を取ることができる。とはいえ、いまやロシアも資本主義国なので、日本と大きくシステムが異なるわけでもない。所得税、法人税、消費税、そして土地・建物の資産税といったところだろう。

あきらかに漁業や商業そして鉱物資源などがあり、経済活動が行われているのだから、そこからの税金収入はロシアの国家財源になっている。資産税については詳しくないが、島の多くは国有地ではないかと思われるので、私有地部分だけが財源になっているのだろうか。

択捉の火山の噴煙の中には「レニウム」という希少金属が含まれているらしいが、この金属の価値はいまだに不明である。


2.政治的意味

ロシアは大陸国家であり、数えきれないほどの国と国境を接していて、実際、戦後多くの衝突を起こしている。ソ連邦の時代には、表面化していなかった旧連邦内の国境線問題を抱えている。中国とは「半々」というような手法で国境問題を解決したが、その二国は古くから領土問題を解決してきた歴史があるが、日露間の交渉は、前に書いたように、どうもぐちゃぐちゃしている。

また、日本は島国であり、他国と国境線を共有するというのに慣れていない。同じようなのがイギリスで、アイルランド島の北部に小さな領有地があるが、いつももめごとを抱えている。あの大国がである。

仮に3.5島論とかいって、択捉島のどこかに線を引いて、国境警備隊を対峙させようというのは、ほとんどの日本人にとって自信がないだろう。「最初の銃弾はどちらだったか」という盧溝橋事件を思い出す。


次に、住民の問題である。戦前には千島列島には日本人(一部朝鮮半島出身者)が住んでいた。戦後、日本人は本土に強制的に送還された。朝鮮出身者の多くは樺太に移り、これは別の問題となっている。果たして、千島が戻った場合、現在住んでいるロシア人住民の居住権、私有財産権はどうなるのか。元々私が住んでいた場所だから出て行ってくれとか言うのだろうか。常識的には難しいだろう。


3.軍事的意味

いまやロシアにとっての「軍」の意味って何だろうという根源的な問題はあるのだが、「米軍の核の傘」のようなもので、極東から太平洋西部での活動というのはロシア全体の国防上、ある程度の規模が必要と考えられている。特に、原子力潜水艦による核兵器の自由展開である。さらに、対米戦略を考えれば、日本に返還後、千島列島に米軍が沖縄のような巨大基地を作ろうということになれば、ちょっとヤバい。

また、通常時はともかく核搭載の原潜というのは、秘密裏に展開しなければならない。潜水したまま移動する必要がある。ここに、ロシアの北方領土問題に関する大きなトゲがあるわけだ。

現在、潜水艦がウラジオストック方面から北太平洋へ通過するためには、国後島と択捉島の間の「国後水道」という細い海峡を通っているそうだ。しかも、直進して通過できるわけではなく、水深を見ながら左右に蛇行して走るそうである。では、択捉の北側、ウルップ島との間の「択捉水道」はと言えば、さらに航行が難しいということだそうだ。

仮に、4島、あるいは3.5島の返還のようなプランを書いた場合、国後水道は日本領海内ということになる。あるいは3島だけというこになれば、両国の領海は中間線となり、国後水道の中に引かれることになる。そんなところを核兵器搭載の潜水艦がきちんと航行できるとは、とうてい思えないし、非核三原則の一つである「領海内に持ち込ませない」というのは、現実的に困難である。

さらに、現在、択捉島には小規模のロシア軍基地があり、軍用機が配置されている。



4.0島マイナスχ案とは

上に書いたように、ロシアにとっての四島完全返還というのは、イデオロギー的な問題よりも、四島がなくなった場合、いくつかの具体的な大問題が伴うわけだ。

そういうように考えると、上に書いた諸問題に対する、解決策というよりも個別譲歩案をパッケージにして交渉にあたった方が現実的なのではないだろうか。

1.領土の範囲は四島である。

2.島内のロシア人住民には日本国籍を与えるが、二重国籍を認める。

3.同じく、ロシア人住民の所有する財産は完全に保証する。

4.旧住民で居住を希望する者には、現在の島内のロシア国有地を代替地とする。

5.ロシアの失う税収については、今後の島内の観光開発、資源開発に「ロシア企業あるいはロシア政府」の参入枠をつくることで利益還元をはかる。

6.漁業については、共同出資会社を設立。

7.ロシア軍基地については、平和条約締結後、現状の規模の範囲で日本が貸与する。ただし、米軍に対するような費用負担は行わない。

8.核兵器の領海内通過については、黙認するか、「密約」を結んでおく。アメリカとも密約を結んだのだから、ロシアと密約を結んで悪いわけでもないだろう。

”国後水道、択捉水道、あるいは津軽海峡の通過については、特にその船舶の搭載物体については詮索しないことにする。”とか書いて、二通作成の上、交換し、そのうち一通を鳩山会館の金庫にしまっておけばいい。

kunashiriここまでが私案なのだが、これじゃ譲り過ぎというのであれば、その他ロシア領のどこかに、日本側の観光資源開発枠を設定するというような、非領土型手法によるバランスを求めればいいのではないだろうか。